画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)

ナノネット調査研究紹介

ナノテクノロジー技術動向調査

2001年に科学技術基本計画において重点4分野の一つに位置付けられたナノテクノロジーは、その後、様々な研究成果が生まれ、予期されなかった現象や新しい技術が見出され、そしてその方途が見え始めている。その結果、ナノテクノロジーの基盤要素技術、ナノバイオテクノロジー、ナノ材料技術及びITの4分野全てについて、この1〜2年著しく研究開発の発表件数が増加している。本調査は、ナノテクノロジーに関する最近の国内の研究活動について網羅的に情報収集し、研究状況を整理解析することにより、日本の得意技術とその先にある「産業技術」を浮かび上がらせ、今後を展望するとともに次期科学技術基本計画など政策立案及びナノテクノロジーに係る研究支援活動に資することを目的として実施された。

1.基盤要素技術

1.1 ナノ計測

ナノメートルの空間分解能で物質の構造や物性を評価できる計測手法として、走査トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡、近接場光学顕微鏡、透過電子顕微鏡、多探針ナノプローブによるナノ計測、TEM-SPM複合ナノプローブを対象として取り上げた。近接場光学顕微鏡では、その技術の詳細を述べ、将来の展開として、特定の条件下での最高性能の向上だけでなく、広範囲に渡って再現性の高い測定を実現することが重要な課題であり、分光技術との融合により、複雑な系における電子状態の解明、量子状態の制御波動関数エンジニアリング、量子デバイス創成などへの応用が期待されている。多探針ナノプローブによるナノ計測では4探針を用いることにより、電子相関に関する情報が得られると期待されている。

1.2 ナノ加工

トップダウンとボトムアップのそれぞれのナノ加工技術の現状を述べ、将来の展開として、半導体微細加工に関する限り、トップダウン型ナノ加工による実用レベルのナノデバイス創成プロセスが今後も主流となるとしている。しかし、そのためには技術的な見通しが立っていない課題について相当な進歩が必要であるという条件が付いている。各論においては、超薄膜による半導体製造技術、フェムト秒レーザ加工、STMナノ創成加工、AFMナノ加工、原子ビームによるナノ加工、TEMによるナノ加工、電子ビームナノ加工を取り上げた。

1.3 ナノシミュレーション

第一原理計算と分子動力学計算を適用して表面超構造と吸着分子の解析、半導体ナノ構造中の電子波動関数の分布、高分子液体の物性など数多くの成果が上げられた。なお、励起電子のダイナミックス、高温超伝導の起源、STMの理論解析、巨大蛋白質のフォールディング構造とその変化、触媒反応場でのダイナミクスなどまだ容易に取り扱えない物理化学現象が数多く残っている。基底状態としての解析から、励起状態の解析へ、また、静的構造からダイナミックスへ、が現在の大きな流れである。

2.ライフサイエンス・医療

2.1 生体親和材料

絹フィブロインのような生物由来素材はもともと生体との親和性が高いものが多く、新しい機能追加の研究が進んでいる。生物由来素材は自己組織化的に厳密に決定された構造を持っている。この構造形成の特質を生かせば、ボトムアップによるナノ構造の構築が期待される。基本的に分子マニピュレーションの必要がなく産業化に向いている方法である。有機高分子では、その自己組織化を利用し、標的性を持ったドラッグデリバリーシステム用担体や非ウイルス型遺伝子導入ベクターが報告されている。蛋白質分離材は表面或いは分子構造による蛋白の特異的吸着の向上などの研究が進められている。生体親和性材料の研究は再生医療分野の基盤技術として重要になり、インプラント材料としてだけでなく生体外で組織を構築し移植するための足場材料として、さらには組織再建能を持ち生体内劣化に対応できるような材料の発展が期待される。機能性高分子ゲルではMEMSやμ-TASのために、リソグラフィーを駆使したゲルの微細加工が試みられているほか、分子設計により、新しい機能を付加する研究も盛んである。この他各論として、ケモメカニカルゲル、人工骨用金属、生体用接着剤、無機高分子自己組織化複合体、細胞膜類似ポリマー高集積化について調査解析した。

2.2 組織再生技術概論

従来の、生分解性高分子を足場として組織構造を再生させる方法では、不十分であるため、足場を一切用いることなく組織構造を再建する技術が提案されている。温度により、水との親和性を大きく変化させる温度応答性高分子をナノメートルの厚みで培養皿表面に共有結合的に固定したものを用いて、培養細胞を細胞間接着や細胞外マトリックスを維持したままシート状に全細胞を回収でき、例えば、大きい拍動能を持つ心筋細胞シートを回収できる。ナノメートルレベルでグラフト層の厚みを制御しながら、移植に必要な大面積を均一に表面修飾するナノテクノロジー、表面に種々の細胞成長因子などを分子の位置関係や配向を制御しながら固定化した培養皿の開発など、根幹でナノテクノロジーが重要な役割を果たすことが期待されている。組織工学、人工角膜、、人工膵臓、人工皮膚・人工口腔粘膜、人工心筋、生体外再生軟骨を各論として検討した。

2.3 ナノ粒子とDDS概論

DDSは必要最小限の薬物を、必要な場所に、必要な時に供給し、薬物の副作用を抑制し効果的に薬物投与を行う技術であり、現在の最大のターゲットは癌治療である。固形癌組織の特性(EPR効果)を利用した受動的ターゲッティングと標的組織への能動的ターゲティングがあり、後者では、抗体や糖などを導入した高分子ミセルやリポソームも検討されている。また、標的組織だけに加えた物理的な外部刺激(光、熱など)や生体内での化学的な内部刺激(pH)によって、薬効を示させる手法が研究されている。DDS技術は、臨床試験からも有用性が明らかになりつつあるが、今後、従来の薬物に加え、核酸医薬(アンチセンスDNA及びsiRNA)や遺伝子を薬に用いたDDSが考えられる。
高分子DDSによるガン治療、DDSのための超分子材料設計、ダブルターゲティングシステム、ハイドロゲル生分解性ナノキャリア、水溶性フラーレンの生体関連機能、メソポーラスシリカのナノ材料特性、ナノ粒子による診断の各論を加えた。

2.4 生体分子検出技術

バイオセンサが生化学と物理化学・電気化学の融合技術として発展してきた。そのなかで生体分子検出のための水晶発振子マイクロバランス、層流界面現象の解明、酵素センサ、免疫センサ、抗体センサ、天然酵素・抗体の改変、分子モジュレーション技術など基盤技術が確立されつつある。さらに、外部刺激による生体影響を見積もるなど、細胞が発信する分子信号を検知する細胞バイオセンサ研究として発展が見込まれている。各論として、人工酵素設計とその生体分子測定への応用、在宅健康診断チップ、DNAチップ、電気泳動チップ、免疫チップ、細胞チップ、一分子計測を調査検討した。

2.5 DNAとナノテクノロジー

DNAをテンプレートとして微粒子のナノ単位での2次元配列制御、ヨウ素ドーピングによる電気抵抗の制御、DNA分子に金や銅などを無電解めっきで被覆することによる極微細線配線等が研究されている。今後、固体レベルでの遺伝子解析に対して、一分子レベルでのDNAの高速シークエンシング、遺伝子マッピングなどの技術が必要とされるであろう。また、DNAは規則的な構造と、塩基の対合により自己組織化する性質は高精度でnmオーダーの分子配列を実現する可能性があり、分子エレクトロニクス素子や分子機械の基盤技術となる可能性がある。。
DNA各論として、DNA電子回路の構築技術、DNAの可視化技術、DNA操作技術について検討を加えた。

3.情報通信技術

ナノ電子デバイス

光リソグラフィー及び電子リソグラフィーでは100nm以下及び10nm以下の線幅で描画することが可能になっている。しかし、微細化に伴う様々な問題が露見している。一方で、新しい概念のナノ電子デバイスが提案されている。それらには、単一電子デバイス原子スイッチ、分子デバイス、メモリ応用のスピントロニクスデバイス、トンネル磁気抵抗効果デバイスなどがある。今後、トップダウンの半導体集積回路は代わりとなる高性能な新規デバイスが実現されない限り、主役であり続けるが、一方で、ナノ電子デバイスの開発競争は熾烈となる。トップダウン型ナノテクノロジーの典型として捉えられがちなULSI技術の今後について、微細加工だけでLSIが製造可能な時代は終わりを告げた。ナノスケールの材料物性制御無しではULSIのスケーリングは考えられないこと。同時に、ナノ評価技術やナノシミュレーション技術も欠かせず、総合力が必要となると解析した。
各論では、大規模集積回路(ULSI,MOSFET)、単電子デバイス(単電子トランジスタ、重結合量子ドット、単電子デバイス、スピン量子ビットの可能性)、分子デバイス、原子スイッチ、スピントロニクス・デバイス、プローブメモリ、量子コンピュータ、ナノ光デバイス、半導体発光素子、(量子ドット、量子細線、量子井戸)、カーボンナノチューブ発光素子、ナノフォトニックデバイス、マイクロナノシステム(MEMS,NEMS)を調査解析した。

4.ナノ素材

4.1 金属ナノ素材

金属材料の特性はその微細組織によって、敏感に変化する。微細組織がナノスケールにまで制御されたナノ組織材料において、従来の金属材料では実現できなかった優れた特性が発現することが見出され、金属ナノ組織制御及びナノ構造複合材料が注目されている。
現在、これらの変形メカニズムが研究対象になっている。今後は、工業的に使って行くための開発が必要である。この他金属ナノ粒子、ナノクラスタを調査解析した。

4.2 セラミックスナノ素材

セラミックスナノ素材はレーザ光の照射によるアブレーションの利用による精密加工、、ガラス中への誘起構造の生成による超高密度光記録媒体、フォトニクス結晶、非線型応答ガラスなどの開発が進められている。また、コロイドゾル液を用いる方法は不定形セラミックスナノ素材コーティング膜形成に利用されている。分相現象の応用では二酸化チタン多孔体や微粒子分散体の作成、陽極酸化技術の応用ではアルミニウム膜から3次元ナノ構造体薄膜を作成する研究が進められている。
各論では、ナノガラスの作成法として、気相合成法、レーザ誘起構造法、エッチング法、陽極酸化法、結晶化法・分相法を詳述し、ナノセラミックスチューブについてはこれまでに合成された15種類の金属酸化物ナノチューブ及びMCM41の形成、さらに1本のナノチューブの形成、及びより小さな孔径のセラミックスナノチューブの形成について詳述した。

4.3 カーボンナノ素材

カーボンナノチューブはナノを代表する物質と捉えられており、電界放出型電子源、走査型プローブ顕微鏡の探針、導電性複合材料として実用化レベルに近づいている。フラーレンについては、種々の官能基を取り付ける化学修飾や骨格そのものを改築する技術が進歩し、人工光合成、光電変換、ガス吸着、燃料電池遺伝子導入などの応用を視野に入れた研究が展開されている。また、フラーレン分子がナノチューブに取り込まれた空豆状のピーポッドも発見され、さらにフラーレン分子が作る細いひげ結晶フラーレンナノウイスカも見出されている。各論では、CNTを応用したSPMプローブ、CNT複合材料、フラーレン、フラーレンナノウイスカ、が取り上げた。

4.4 自己修復材料

高分子材料の分子鎖の再結合、セラミックスの表面クラックの自己修復や耐熱鋼のクリープボイドの自己修復、耐蝕皮膜の自己修復、ピエゾ素子の疲労回復処理について紹介した。

5.ナノ素材応用

5.1 エネルギー・環境技術用素材

超伝導材料、高温超伝導体を利用した永久磁石、超強力新型モーター、錯体水素化合物を用いた高密度水素貯蔵技術、ナノ化水素吸蔵合金の水素吸着特性、固体高分子燃料電池、イオン穿孔膜、ナノ多孔質材料を用いた環境ガスセンサ、有機/無機ハイブリッド材料のVOCセンサ応用について述べた。

5.2 安心・安全技術用素材

自己調温機能をもつヒーター、電子線照射による医療用殺菌防曇処理、相変態制御による能動材料。異なる物質を内包するクローズドセル構造化による多機能化を各論として調査解析した。

5.3 日常生活用素材

大気圧プラズマ生成クラスタイオンによる空気清浄、ナノテクノロジーを用いた化粧品、超多層成形と繊維への応用、汗におい消臭織り編み物、抗酸化作用のあるビタミンE誘導体を含む油分層と水分層をナノサンドイッチでサンドイッチ構造に重ねた繊維、吸湿性を向上させたナイロン、貴金属が自己再生する排ガス浄化装置、フラーレンを用いた新規化粧品成分の開発について調査解析した。

最後に、ナノマテリアル研究のマクロな流れを概観している。


(nanonet 北村 孝雄)