|
|
国武 豊喜(くにたけ とよき)氏
|
| 1936年 2月 | 福岡県生まれ |
| 1958年 3月 | 九州大学工学部応用化学科卒業 |
| 1962年 8月 | ペンシルベニア大学大学院博士課程終了(Ph.D.) |
| 1962年 9月 | カルフォルニア工科大学博士研究員 |
| 1963年 2月 | 九州大学工学部助教授 |
| 1974年 2月 | 九州大学工学部教授 |
| 1992年 4月 | 九州大学工学部 学部長(1994年3月まで) |
| 1999年 4月 | 北九州市立大学教授 |
| 1999年 | 紫綬褒章 |
| 2001年 | 日本学士院賞 |
現在
北九州市立大学 副学長
科学技術振興財団「組織化と機能」領域 研究総括
理化学研究所フロンティア研究システム
時空間機能材料研究グループ グループディレクター
|
北九州市立大学副学長 理化学研究所フロンティア研究システムグループディレクター 国武豊喜氏
生体材料に学ぶ
〜時空間機能をナノテクで実現〜
「ナノメートルの厚さの超薄膜」―これを精密に作る技術は生体物質、有機・無機化合物、金属、ナノ粒子などすべてに求められる手法になってきた。国武氏はこの超薄膜作製技術を駆使して、まったく新しいナノ材料「時空間機能材料」の開発を目指している。
これは、わかりやすく喩えれば「生体らしさを持つ材料を人工的に作り上げること」。ヒトの体を構成する細胞や皮膚、骨などは常に生まれ変わり、再生したものは機能も性質もまったく変わらない。同じ材料であっても、時間とともに変わり、しかも再生している。生体材料が持つユニークな性質、「空間的な構造」と「時間的な要素」を兼ね備えた人工材料が時空間機能材料なのだ。
生体材料は複雑かつ精密に組み立てられている。「時空間機能材料」も同じだ。それを実現するために、原子・分子の世界から攻めるナノテクを使って挑戦中。理化学研究所が次代を見据えて展開するフロンティア研究の一環として、局所時空間機能、散逸階層構造、励起子工学、トポケミカルデザインといった4つのテーマを立ち上げた。国武氏はこれら4つの研究チームを統括するグループディレクターである。
国武氏は時空間機能材料開発のコンセプトをまとめた後、各チームリーダーを公募してグループを組織した。科学技術振興事業団で「分子組織」や「超分子」などのプロジェクトを成功させた実績を持つだけに、プロジェクトの統括、運営はお手のもの。
各チームの目標とするところは何か。自己組織化した単分子膜やタンパク質などを操作し、分子間力などを解析する≪局所時空間機能研究≫。半導体プロセスではシリコン表面にエッチングで穴を掘って別の材料を埋め込んだり、酸化膜を乗せたりするが、こういう処理をしなくても自動的に構造を作り込む≪散逸階層構造研究≫。原子や分子が光などを吸収して活性化したエネルギー状態を励起子というが、これはとても不安定。この不安定な励起子を制御する≪励起子工学研究≫。金属酸化物やセラミックス薄膜などを1ナノメートルレベルまで薄くすると、従来のものとはまったく異なった性質が出てくる。ここを攻める≪トポケミカルデザイン研究≫。
簡単にそのエキスを紹介したが、4分野とも時空間機能材料を開発する要(かなめ)の技術で、内容は極めて奥が深い。「4つのテーマに絞ったのは、時空間という分野が非常に幅広く、将来の柱になると期待されるものを絞って選んだため。現在は各チームが自由な方向で研究している。それはどういうタネが出てくるか予測できないから」。
国武氏はトポケミカルデザイン研究のチームリーダーも兼務。薄膜開発の具体的なアプローチを聞くと、「1つは分子の形を利用したナノ材料を作ること」。分子を他の物質で囲んで固め、これを化学処理して分子だけを除去すると、分子がもともと存在していた形(穴=鋳型)ができる。この穴を使うと複雑な形の分子を選択的に捕まえたり、取り出したりできる。
トポとは「形」のことで、実際に複雑形状のナノ中空構造を作製する技術を手に入れている。固体表面上に集積したナノ粒子を鋳型にしたナノカプセルを開発、鋳型を除去したナノカプセルを化学処理して観察したところ、中空構造ができていることを確認済みだ。ナノメートルレベルの中空構造を設計できるところまできている。「こうした形をもっと精密に設計するのが大きな目標。その応用がナノの厚みの超薄膜研究で最もおもしろいところ」と強調する。
時空間機能材料研究は今年、8年計画の中間期を迎える。第2期は研究チームの成果をまとめ、時空間機能材料という究極の目標に焦点を絞ることになるが、それがどういう姿になるのかは、数年後に答えが出る。「ナノ構造がどういう動きをし、他の材料と融合してどう機能するか、ナノ構造のダイナミクスをとらえることは、材料開発の将来像。それはまさに時空間機能材料」というだけに意欲的だ。
国武氏は九州大学の出身。20歳代後半の1960年代から生体の酵素モデルを高分子でできないかを追究する。酵素の特徴は優れた高活性と高選択性。特定の決められた相手としか反応しない特異性がある。「体の中で溶けている酵素は丸い球状になっていて、表面は水とよくなじむが、内部は水には溶けない性質を持つ」そうだ。
問題は球の中の分子の配置を決まった形にしておかないと、特定の相手とだけ結びついたり反応したりしない。これを人工の高分子で実現するのは難しかった。そこで、1970年代後半から薄膜に目を向け、水中に溶かすだけで自然に膜の形に並ぶ自己組織化の性質を持つ合成二分子膜の開発に成功した。この材料は医薬品や遺伝子、DNAなどを目的の場所に運ぶ「運び屋」として使われている。自己組織化膜は薄膜作製の有力な技術と位置づけられているが、国武氏の合成二分子膜はその端緒を開いた成果で、最近の学士院賞受賞にも結びついた。これらの基礎技術が時空間機能材料開発の核になっている。
(聞き手:筑紫 新)
|