画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第5号 : 2003年 2月11日
  ナノネットインタビュー
 
柳田 敏雄 (やなぎだ としお) 氏
柳田 敏雄(やなぎだ としお)氏
1946年兵庫県生まれ
1971年大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了
1976年工学博士
1988年大阪大学基礎工学部生物工学科教授
1996年大阪大学医学部第一生理学教授
2002年大阪大学大学院生命機能研究科教授(研究科長)
1998年日本学士院恩賜賞
日本生物物理学会会長

図1
図1 拡大
1分子計測技術
図2
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医学と物理工学の融合
図3
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生物機械のやわらかさ
図4
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素子の比較
図5
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力学反応とATP分解反応の1分子同時測定
アクチンフィラメントの両端にラテックスビーズをつけ、このビーズを近赤外レーザ(YAG)をつかった光ピンセットで操作する。アクチンフィラメントをガラス表面に固定してミオシン1分子と相互作用させると、固定されたミオシンはアクチンを引っ張り込もうとする。その結果、光トラップしたビーズが変位する。ミオシンが引き起こす変位は、ビーズの変位を4分割光センサーでナノメータの精度で検出することで測定する。そのとき発生する力は、変位に光トラップのバネ定数をかけることで求まる。ATPの分解反応は、ATPに蛍光色素Cy3をつけたものを、1分子イメージング技術を使って観察した。Cy3ATPは水溶液中では、非常に速くブラウン運動しているので、カメラには映らず、背景光は少しあがるだけである。しかし、ミオシンに結合して運動が止まると、カメラに輝点として映る。そして、ADPと燐酸に分解されてミオシンから解離すると、再び輝点は消える。それ故、輝点の点滅は、ATPの分解反応のサイクルを示めすことになる。

大阪大学大学院生命機能研究科長
柳田 敏雄 氏

生体システムが選んだ「曖昧」という戦略
〜Seeing is believing〜

 タンパク質一分子に蛍光マーカーをつけ、光学顕微鏡でその動きを直接観察する一分子イメージング。暗闇の中でうごめく光の一つ一つが、生命のダイナミクスそのものだ。今から30年程前、半導体の世界から生物の世界へと移ってきた柳田氏が切り開いてきた道だ。

 柳田氏が修士課程に在籍していた頃、半導体研究は正にこれから花開こうとしているところだった。「1990年代には脳型コンピューターの時代になっていると教わったのです。それはひとえに素子の開発がうまく行けばできると言われていた。でも僕は素子レベルで基本的に違うものを作らないとだめだろうと思っていたのです」。シリコンとは異なる素材で、全く違うアルゴリズムでコンピューターを実現しているのは生体。それならばと、博士課程では生物の世界に転向する。しかし、そこで支配的だったのは、生体はゼロかイチかで動くという、人工機械のメカニズムと同じ考え方だった。「生物と人工機械は違うから研究しているはずで、物理をやっていた人間なら、データを見れば生体がゼロイチで動くというのはちょっと変だなと思うのです。でも、それを証明しなければいけなかった」。そのために生み出されたのが、一分子イメージングだったのだ。「見れば、なるほどと思うでしょ。Seeing is believing」生物出身ではない柳田氏ならではの発想だった。

 そうして見えてきたのは、生体は極めて曖昧でいい加減なものだということ。例えば、柳田氏の研究によって、筋肉細胞はブラウン運動をエネルギーとして使っていることがわかった。これまで、細胞を動かすのに使われるとされていたATPのエネルギーは、ランダムなブラウン運動の中から正しい方向の動きを選択するために利用されていると言う。「生体がつぎ込んでいるエネルギーは熱ノイズと大差ないものだから、ノイズとかけ離れた動きはできないのです。それをうまく処理しないと機能しない。分子の動きを詳細に調べた結果、ノイズは利用できるのだということがわかるのです」。コンピュータなどの人工機械は、熱エネルギーの数百倍のエネルギーをつぎ込んで正確かつナノ秒の高速で動作する。一方、生体はブラウン運動(マイクロ秒のオーダー)を利用しているため、ミリ秒単位でしか動かない。その上、数十回に一度という高い確率で間違える。しかし、このいい加減な素子が集まった時、それは今の人工機械では不可能な高次機能を発揮する。「タンパク質である分子機械は、生体内で単独で動いているわけではない。間違えないということは、他に合わせることができない、フレキシビリティがないということです。外の状態が揺らぐから間違うわけで、外部の影響を受けても、システムとして対応できるフレキシビリティがあるからこそ、柔軟性やアダプティビティが出てくるのでしょう。ダイナミックなシステムを作るための性質は、分子機械にあるのです。その分子機械の性質をきちんと調べることで、生体特有のダイナミックなシステムがどうしてできているのか、わかりそうなところまできた」。そう語る柳田氏が目指すのは、生体システムのメカニズムを使った人工機械だ。バイオの力を借りた量子コンピューターを手始めに、最終的には生体アルゴリズムを使った脳型コンピューターを作る。そして、もう一つの目標はアクチュエーター、人工筋肉の開発だ。

 柳田氏の話にはロボット工学から高分子化学まで、様々な分野の研究者が登場する。「生体システムというのは究極のナノテクノロジーを使って作ったようなものだけど、それをそのまま人工のテクノロジーにすることはないと思うのです。でも、ヒントにすることはできる。だから人工的なテクノロジーをやっている先生方と、僕らが話をすることによって新しいナノテクノロジーが生まれてくると思います。普通は工学系の人が医学系の人と話をしても話にならないのです。言語が違う。でも、僕らは工学がベースですから、彼らが何を求めているのかがわかるし、どういう単語を使えばいいのかもわかる。ナノテクノロジーを本当に有効に働かせるためには、そういうヘテロな人材を育てないと。様々な分野の第一線の研究者を一同に集めて、ヘテロな集団で学生を教育すれば、ヘテロなドクターが出来上がるのですよ。5年待てばいいんだから。」今の若い世代は選択肢が多すぎて何をすれば良いのかわからないように見える。そんな彼らにとってナノテクノロジーは一つの指針となると柳田氏は言う。「ナノテクノロジーを目標に入ってみると、実はその中に色々な分野がある。そこから本当に自分のしたいことが見つかっていくのではないかな。」実際、柳田氏が新たに立ち上げた生命機能研究科には、全国から応募が殺到し、企業からの寄付講座もわずか半年で3つも決まっている。ナノテクノロジーに注目が集まる今、学生も企業もヘテロな研究機関を求めているのを痛感している。

(聞き手:コスモピア 石黒邦子)
 
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エバネッセント光
  レーザー光を斜めから(ガラス面の法線に対して65〜75°位)入射させてガラスと水溶液の界面で全反射させると、界面のごく近傍の水溶液中にだけに光がしみ出す。これをエバネッセント光と言う。このエバネッセント光は回折限界の制約を受けないので、光の局在、しみ出しの深さを波長の数分の1にすることが出来る(100〜150nm)。そこでガラス表面にある蛍光色素とそのごく近傍のみを照射することになるので水分子からのラマン散乱、ゴミや散乱による背景光を大きく押さえることが出来る。通常の蛍光顕微鏡の2000の1程度にすることが可能である。
光ピンセット
  開口数の大きなレンズ対物レンズで集光したレーザー光により、水より大きな屈折率を持つ透明な物体は水中で非接触的に補足できる。この手法は1970年にAshkinにより先ず理論的に導き出され、その翌年、本人によりガラス球の捕獲とその浮揚で実験的に確かめられた。原理は以下の通りである。レーザー光が粒子にあたると粒子はレンズのように働き、粒子を通った光の進行方向が屈折によって変化する。光は運動量を持っているので粒子には屈折、反射により常に焦点方向に力がかかる。また、粒子がレーザー光の焦点位置から左右、上下方向にずれると屈折の角度が変わり、どちらにずれても粒子を焦点に引き戻す合力が働くので粒子が安定に補足出来る。つまり、光でビーズなどの粒子を捕まえ、自由に操ることができると言うわけである。


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