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株式会社富士通研究所 ナノテクノロジー研究センター長 横山直樹氏
『融合』が新産業を生む
〜ナノテク3大分野に特化〜
横山氏は化合物半導体の実用化における開拓者である。1998年に「ガリウムヒ素の集積回路技術」でIEEE(電気電子学会)のモーリス・N・リーブマン記念賞を受賞。日本人として江崎玲於奈氏らに続く8人目、民間企業研究者では富士通で共に化合物半導体開発を進めてきた三村高志氏(HEMT:高移動度トランジスタの開発)に続く2人目の快挙である。横山氏の開発した技術が当時危ぶまれていた化合物半導体IC実用化のブレークスルー(決め手)となった。この化合物半導体を用いたICは世界最高の演算性能を誇るスーパーコンピューターの心臓部に真っ先に採用され、今では衛星通信、また携帯電話など身近な製品にも使われるまでになった。
その後、将来の半導体デバイスに量子効果を使うことの重要性に確信を得て、既に1980年代半ばにはナノテク研究をスタートさせている。化合物半導体の原子をコントロールして新材料を作製し、そこに現れる共鳴トンネル効果という電子の波の性質を使った新トランジスタを開発したり、斬新な量子ドット作製技術の開発とデバイス応用など数々の成果で世界をリードしてきた。同社のフェローになった2000年6月に「もっと幅広い研究を」という社命を受けて、富士通グループをナノテクで横断的に串刺しする研究センター構想を打ち出し、同じ年の12月、設立と同時にセンター長に就く。
既存の組織からは全く独立した研究組織に様々な分野の専門家を集めて狙ったのは、ポストカッパー(銅)、ポストシリコンの新材料創出分野、ナノとバイオの融合領域、そして量子情報分野だ。その切り口が次の3本柱。(1)「ナノマテリアル」(カーボンナノチューブなどのナノ構造体研究)、(2)「ナノバイオ」(半導体ナノテクとバイオの融合技術であるプロテインチップ研究)、(3)「ナノデバイス/システム」(量子通信、量子コンピューターの実現に向けた量子ビット研究)で、強みを持つエレクトロニクス技術を生かして強力に研究を推進している。
ナノマテリアルでは日本で発見されたカーボンナノチューブが最有力候補。「これをLSIに適用することに全力を挙げている」。最先端のLSIの配線材料には銅が用いられているが、細くすると電流が集中して断線などのトラブルにつながる可能性がある。そこで、銅配線の代わりにカーボンナノチューブをCVD(化学的気相成長法)で成長させる手法でトライしている。何層にもなっているLSIの配線間の配線部分に利用することを狙っている。
昨年、IBMがカーボンナノチューブを使ったトランジスタを開発したというニュースが世界を駆け巡った。ポストシリコン、ポスト銅の新材料になり得るとの期待感を一層高めたが、実はカーボンナノチューブはグラファイトのシートを筒状に丸めたような構造をしており、このシートがどのようにねじって巻かれているかで金属の性質や半導体の性質が現れる。しかし、この構造を精密制御して作り分ける技術はまだ確立していない。「決め手は触媒にある」と横山氏はみている。「触媒を制御できれば、カーボンナノチューブを制御できる」というほど根幹にあたるものだけに、どういう触媒を使い、どのような条件でカーボンナノチューブを作るかが実用化のカギの1つになってきた。
ナノバイオで目指すのはプロテイン(タンパク質)チップ。がんに冒されると、ある種のタンパク質が出るという。これを検知すれば、がんの早期発見につながる。極微量のタンパク質を検知する高感度のチップを、人工抗体を使って作り、がんやその他の疾患マーカー、健康マーカーをキャッチすることで、疾患診断、さらには健康状態の把握にも使えることになる。
「バイオグループからみると、こんなのできないと思っていることが、半導体からみると普通のこと。半導体グループには難しいと思えるDNAの合成も、バイオ部隊は簡単にこなす」。この両方をナノテクで『融合』することによってナノバイオの分野を開拓できる。これが横山氏のシナリオでもある。
3つ目が今の情報技術を抜本的に変革する可能性を秘めた量子情報技術の研究。中でもポイントは量子コンピューターの基本素子となる量子ビット作製技術。同社は半導体ナノテクを用いて非常に小さな微粒子(量子ドット)の中に電子を閉じ込め、電子のスピンを情報の基本単位として利用することが可能な量子ビットを所望の位置に所望の大きさで作製し、必要な量子ドット配列を形成することに成功している。
「量子情報技術は現在の1か0かの体系ではなく、1と0が混じりあったまったく新しい体系。開発した量子ビット技術は量子コンピューターへの道をつけるもの」という。量子コンピューターは今のコンピューターなら数億年もかかる計算をわずか数日で解いてしまう。その実用化時期はまだ20年以上も将来のことだが、インターネットの安全かつ高速利用などを可能にする量子暗号通信は、銀行のセキュリティーなど特定用途なら2007年には実現するとの予想だ。量子情報技術は、量子暗号通信などの分野において、ようやく実用化への道筋がみえてきた。
しかし、「カーボンナノチューブ、プロテインチップ、量子情報技術のいずれもヤマはこれから」。これらはいろいろな選択肢があり、どれが主役になるか、まだわからないために先行の利を求めて挑戦中。こうした先行チャレンジ型研究は「天才の頭脳から生まれる可能性が高い」ことから、横山氏は国内にとどまらず、広く欧米にもアンテナを張り巡らせ、連携を強化している。同時に「産業界の先行的研究に国の補助金などをもっと手厚く」と期待を込める。「ボトムアップのナノテクは特に新材料の創出と応用が狙いで、これはアイデア勝負の世界。しかも、新しいアイデアがビジネスに結びつきやすい。若い研究者には魅力的な分野ではないか」と示唆を与える。
(聞き手:筑紫 新)
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