画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第6号 : 2003年 2月18日
  ナノネットインタビュー
 
株式会社富士通研究所
ナノテクノロジー研究センター長
横山直樹氏

『融合』が新産業を生む
〜ナノテク3大分野に特化〜

 横山氏は化合物半導体の実用化における開拓者である。1998年に「ガリウムヒ素の集積回路技術」でIEEE(電気電子学会)のモーリス・N・リーブマン記念賞を受賞。日本人として江崎玲於奈氏らに続く8人目、民間企業研究者では富士通で共に化合物半導体開発を進めてきた三村高志氏(HEMT:高移動度トランジスタの開発)に続く2人目の快挙である。横山氏の開発した技術が当時危ぶまれていた化合物半導体IC実用化のブレークスルー(決め手)となった。この化合物半導体を用いたICは世界最高の演算性能を誇るスーパーコンピューターの心臓部に真っ先に採用され、今では衛星通信、また携帯電話など身近な製品にも使われるまでになった。

 その後、将来の半導体デバイスに量子効果を使うことの重要性に確信を得て、既に1980年代半ばにはナノテク研究をスタートさせている。化合物半導体の原子をコントロールして新材料を作製し、そこに現れる共鳴トンネル効果という電子の波の性質を使った新トランジスタを開発したり、斬新な量子ドット作製技術の開発とデバイス応用など数々の成果で世界をリードしてきた。同社のフェローになった2000年6月に「もっと幅広い研究を」という社命を受けて、富士通グループをナノテクで横断的に串刺しする研究センター構想を打ち出し、同じ年の12月、設立と同時にセンター長に就く。

 既存の組織からは全く独立した研究組織に様々な分野の専門家を集めて狙ったのは、ポストカッパー(銅)、ポストシリコンの新材料創出分野、ナノとバイオの融合領域、そして量子情報分野だ。その切り口が次の3本柱。(1)「ナノマテリアル」(カーボンナノチューブなどのナノ構造体研究)、(2)「ナノバイオ」(半導体ナノテクとバイオの融合技術であるプロテインチップ研究)、(3)「ナノデバイス/システム」(量子通信、量子コンピューターの実現に向けた量子ビット研究)で、強みを持つエレクトロニクス技術を生かして強力に研究を推進している。

 ナノマテリアルでは日本で発見されたカーボンナノチューブが最有力候補。「これをLSIに適用することに全力を挙げている」。最先端のLSIの配線材料には銅が用いられているが、細くすると電流が集中して断線などのトラブルにつながる可能性がある。そこで、銅配線の代わりにカーボンナノチューブをCVD(化学的気相成長法)で成長させる手法でトライしている。何層にもなっているLSIの配線間の配線部分に利用することを狙っている。

 昨年、IBMがカーボンナノチューブを使ったトランジスタを開発したというニュースが世界を駆け巡った。ポストシリコン、ポスト銅の新材料になり得るとの期待感を一層高めたが、実はカーボンナノチューブはグラファイトのシートを筒状に丸めたような構造をしており、このシートがどのようにねじって巻かれているかで金属の性質や半導体の性質が現れる。しかし、この構造を精密制御して作り分ける技術はまだ確立していない。「決め手は触媒にある」と横山氏はみている。「触媒を制御できれば、カーボンナノチューブを制御できる」というほど根幹にあたるものだけに、どういう触媒を使い、どのような条件でカーボンナノチューブを作るかが実用化のカギの1つになってきた。

 ナノバイオで目指すのはプロテイン(タンパク質)チップ。がんに冒されると、ある種のタンパク質が出るという。これを検知すれば、がんの早期発見につながる。極微量のタンパク質を検知する高感度のチップを、人工抗体を使って作り、がんやその他の疾患マーカー、健康マーカーをキャッチすることで、疾患診断、さらには健康状態の把握にも使えることになる。

 「バイオグループからみると、こんなのできないと思っていることが、半導体からみると普通のこと。半導体グループには難しいと思えるDNAの合成も、バイオ部隊は簡単にこなす」。この両方をナノテクで『融合』することによってナノバイオの分野を開拓できる。これが横山氏のシナリオでもある。

 3つ目が今の情報技術を抜本的に変革する可能性を秘めた量子情報技術の研究。中でもポイントは量子コンピューターの基本素子となる量子ビット作製技術。同社は半導体ナノテクを用いて非常に小さな微粒子(量子ドット)の中に電子を閉じ込め、電子のスピンを情報の基本単位として利用することが可能な量子ビットを所望の位置に所望の大きさで作製し、必要な量子ドット配列を形成することに成功している。

 「量子情報技術は現在の1か0かの体系ではなく、1と0が混じりあったまったく新しい体系。開発した量子ビット技術は量子コンピューターへの道をつけるもの」という。量子コンピューターは今のコンピューターなら数億年もかかる計算をわずか数日で解いてしまう。その実用化時期はまだ20年以上も将来のことだが、インターネットの安全かつ高速利用などを可能にする量子暗号通信は、銀行のセキュリティーなど特定用途なら2007年には実現するとの予想だ。量子情報技術は、量子暗号通信などの分野において、ようやく実用化への道筋がみえてきた。

 しかし、「カーボンナノチューブ、プロテインチップ、量子情報技術のいずれもヤマはこれから」。これらはいろいろな選択肢があり、どれが主役になるか、まだわからないために先行の利を求めて挑戦中。こうした先行チャレンジ型研究は「天才の頭脳から生まれる可能性が高い」ことから、横山氏は国内にとどまらず、広く欧米にもアンテナを張り巡らせ、連携を強化している。同時に「産業界の先行的研究に国の補助金などをもっと手厚く」と期待を込める。「ボトムアップのナノテクは特に新材料の創出と応用が狙いで、これはアイデア勝負の世界。しかも、新しいアイデアがビジネスに結びつきやすい。若い研究者には魅力的な分野ではないか」と示唆を与える。

(聞き手:筑紫 新)
横山 直樹(よこやま なおき)氏
横山 直樹(よこやま なおき)氏
1973年 大阪大学大学院基礎工学研究科物性物理学専攻、修士課程修了。
同年、富士通研究所入社。
セルフアライメント形GaAs MESFET集積回路、HBT、量子効果デバイス等、化合部物半導体デバイスの研究開発に従事。
2000年 6月富士通研究所フェローに就任。
同年12月に、ナノテクノロジー研究センターが創設され、センター長を兼務。
 
1984年 工学博士(大阪大学)。
1987年 GaAs国際シンポジウムYoung Scientist Award受賞。
1998年 IEEE Morris N. Liebmann Memorial Award受賞。
2000年 IEEE Fellowに選出。
 
IEEE EDS Japan Chapter委員長、応用物理学会評議員等、学会の各種委員。経団連ナノテク専門部会、等各種ナノテク関連委員にも就任中。

図1
図1.カーボンナノチューブの特徴
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カーボンナノチューブは大きく分類すると、多層ナノチューブと単層ナノチューブに分かれる。多層ナノチューブは通常金属的性質を示し、銅よりも電流密度がとれ熱伝導も良いことから、LSIの配線応用が考えられる。単層ナノチューブは、カイラリティ(結晶構造の向き)が 制御できれば半導体として利用でき、トランジスタ応用が考えられる。これらの応用のためには、いずれも、カーボンナノチューブの直径を2nm程度以下にコントロールする必要がある。
図2
図2.カーボンナノチューブの選択成長
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配線応用やトランジスタ応用を考えると、半導体製造工程の一工程として、カーボンナノチューブを選択的に所定の位置に成長する技術が必要となる。現在までに、ビア配線(配線間の縦配線)を想定し、カーボンナノチューブのCVD(化学気相成長)装置を開発、水素とメタンの混合ガスを利用し、SiN絶縁膜に設けた穴(ビア)にカーボンナノチューブを成長することに成功している。
図3
図3. 近未来の医療健康ネットワーク社会 拡大
近未来の医療健康ネットワーク社会では、個人の健康や疾患、遺伝に関する情報等が電子化され、プライバシーが厳重に守られた上で、必要なときに個人や、医者、薬剤師、そして健康管理アドバイザーなどが、利用することができる。これにより、個人に合った健康管理や、無駄がなくリスクの少ない医療が可能となる。高齢化・少子化社会には必須の社会で、高齢者健康寿命の増加とともに、医療の高度化、医療費の削減をはかることができる。同時に、新しい健康産業が生まれる可能性もある。
図4
図4.ナノバイオ研究の狙い
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ゲノム情報の解読がほぼ完了し、今後、生命現象に直接作用するタンパク質の機能や振る舞いに関する研究が重要となってきている。タンパク質の振る舞いを検知し、理解するためには、高速に、そして高感度に特定のタンパクが検知できるタンパクチップが必要となる。このタンパクチップの開発には、バイオとナノテクを融合したバイオナノテクノロジーが必要となる。現在、CNTやヌクレオチドからなるナノ構造体に人工抗体を結合させたタンパクチップの開発を進めている。

図5
図5.量子情報技術の研究の狙い
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半導体の高性能化(高速化と高集積化)は、半世紀にわたり、トランジスタの微細化によりなされてきた。その微細化の限界がいよいよ現実のものとなって来ている。一方、インターネット情報社会では、セキュリティが最重要項目であるが、たとえば暗号通信に関しては、原理的に不完全性が残る。これらの問題を、抜本的に解決するためには、半導体素子、通信技術、それぞれの原理自身を変えなければならない。その最有力候補が、量子コンピュータと量子暗号である。これらは、量子の重ね合わせの原理や量子もつれを利用したまったく新しい情報技術体系であり、幅広い基盤研究が必要な分野である。現在、量子コンピュータの要素素子でもあり量子暗号通信にも必要な量子ビットの研究を進めている。
図6
図6.AFMを利用した量子ドットの作成
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量子ビットの実現方法は、色々提案されているが、現在、量子コンピュータにも量子通信にも共通して使用できる可能性のある量子ビットとして、量子ドットに閉じ込められた電子のスピンを利用した量子ビットの研究を進めている。量子ビット実現のためには、サイズと位置が制御された量子ドットの形成が必須の技術となる。AFMを利用し、所定の位置、所定の大きさのGaAs酸化ドットを形成、その酸化ドットの除去後、InAsからなる量子ドットの作成に成功している。


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