NEC研究所 特別主席研究員
独立行政法人 産業技術総合研究所 新炭素系材料開発研究センター長
科学技術振興事業団 基礎的研究発展推進事業 “CNTプロジェクト” 研究代表者
飯島 澄男 氏
ナノチューブとナノホーン
〜ナノテクノロジーの真の担い手を目指して〜
「カーボンナノチューブは一般的に騒ぎすぎ。もう少しそっとしておいてください、というのが本音ですね」。そう語るのは、他ならぬカーボンナノチューブの生みの親、飯島澄男氏だ。飯島氏本人が最も実用化に近いと考えるのは、むしろカーボンナノホーンだと言う。
カーボンナノチューブと異なり、カーボンナノホーンの製造には触媒が不要。室温で炭素にレーザー光を照射するだけで、収率90%以上で大量に作り出すことができる。生成されるカーボンナノホーンの凝集体は、先端が5員環で閉じられた角状の短い単層チューブが、四方八方に伸びるウニのような形状。その特長は1gに対して400平方メートルという表面積がもたらす高い吸着性だ。「ただ、ナノホーン表面のグラファイト構造は非常に完全であるために、吸着原子が滑ってすぐに取れてしまう。それで色々な化学修飾をしたり、部分的に壊したりするんですね。そうするとつきやすくなる。壊し方によって色々と特性の使い分けができるんです」。
とりわけ期待が大きいのは、水素社会に不可欠な燃料電池への応用だ。カーボンナノホーンを電極材料として使うと、触媒の白金粒子がウニ状のホーンの根元に挟まって凝集を免れ、発電出力が上がり電池の寿命も伸びると予想される。その高い吸着性からガス吸蔵材料としても期待される。ナノチューブ同様、カーボンナノホーンの水素吸蔵率はそれほど高くはないが、それに続く燃料であるメタンについては、米国エネルギー省が実用化の目安とするターゲット値を、世界で初めてクリアしている。表面を壊して穴を開ければ、ガス分子は内部にも入り込んで吸着される。引力の弱い物理吸着だが、ホーンの隙間にあるガス分子が、内部のガス分子が外へ逃げるのを防いでくれる。物理吸着であればこそ、減圧で簡単にガスを取り出すこともできる。さらに、カーボンナノホーンはDNA断片をも選択的に吸着することがわかった。現在、DNA断片の選別には無機材料が使われているが、生体適合性の高いカーボンの方が有利と、バイオ分野へ研究を展開することが科学技術振興事業団の基礎的研究発展推進事業発展研究として採択され、この1月からスタートした。その一方で、選択吸着の起源や低い水素の吸蔵率など、カーボンナノホーンにおける吸着の詳細なメカニズムは未だ明らかになっていない。新しい発展研究プログラムでは、この吸着のメカニズムを解くとともに、吸着の選択性を制御できる表面改質の方法も探る。
もちろん飯島氏はカーボンナノチューブを忘れたわけではない。成長のメカニズムを解く研究は続けられている。そんな中、飯島氏が興味を引かれているのが、自然界に存在するナノチューブだ。火山灰中に、イモゴライトというチューブ状のアルミノケイ酸塩が存在することは、30年程前から知られている。ボーキサイトの主成分である水酸化アルミナもまた、チューブ状になるらしいという。「普通、結晶というのは塊になっているのに、どうして異方性のあるフィラメント状に成長をするのか。カーボンだけを研究していても良いんですが、少し周辺を見ると同じようなものがある。そこら辺が面白そうだなと」。普遍性の探求は、科学者としての興味はもちろん、大量生産を見据えてのこと。カーボンナノチューブも大量生産なくして実用化はあり得ない。「今はナノ材料を作るのがナノテクのように思われているけれど、それでは本当の意味でのナノテクの発展はありません。やっぱり燃料電池とかFETとか、ナノ材料で世の中に役立つものが出てこないと」。それが実現しない今はまだ、「ナノチューブをおだて過ぎ。それほどの実力はないと思います」と控えめに語る飯島氏だが、「ただ、基礎科学に対しては非常に貢献したと、胸を張って言える」。量子効果を検証するための道具として、カーボンナノチューブの果たす役割は大きい。今の飯島氏にとって、カーボンナノチューブの価値はそこにある。
『飯島氏すなわちカーボンナノチューブ』と言われるのは好まない。「私はナノチューブが始まる前に、30年電子顕微鏡をやってきたんです。ですから、突然出てきたんじゃなくて、ずっとやってきた結果として、そこに至った」。博士論文のテーマはフィラメント状の臭化銀。当時の構造解析の経験がナノチューブ発見にも役立った。1993年に単層のカーボンナノチューブを発見したのは、7年前に作った試料の中からだった。「何から手をつけたら良いかわからないような時には、結局自分に頼るしかない。感覚的に見るというのは科学的な表現ではないんですが、自分で手を染めた経験は本当に困った時に役に立つ」。学部生時代はクラブ活動に明け暮れ、本気で研究に取り組んだのは大学院に入ってから。「自分が本当は何に向いているかなんてわからないですよね。限られた一生だから、自分が一番得意なところをやらなくちゃ悔いが残る。だめだと思ったら次にいく、修正する勇気を持たなければ」。実験科学においては、初志貫徹がベストな選択とは限らない。「修正はいつまで可能?」との問いに「私は今でも直すつもりですよ。もっと面白いものがあったらそっちにしたいね」と笑顔を見せた。




