画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第27号 : 2003年 7月22日

ナノネットインタビュー

澤岡 昭 氏
澤岡 昭(さわおか あきら) 氏
大同工業大学 学長
宇宙開発事業団 研究統括リーダー
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ナノテクノロジー・材料委員会 主査
1965年 北海道大学理学研究科 修士課程物理学専攻 修了
1965年 大阪大学基礎工学部 助手
1968年 理学博士
1969年 東京工業大学工業材料研究所 助手
1974年 同 助教授
1981年 同 教授
1988年 同 セラミックス研究センター長
1994年 同 工業材料研究所長
1996年 同 応用セラミックス研究所所長
1998年 文部省 宇宙科学研究所教授(併任)
1979年
〜1989年
宇宙開発事業団嘱託(下記期間を除く)
1984年8月
〜1985年7月
米国ニューメキシコ工科大学 客員教授
1999年 大同工業大学 学長(現在に至る)
1999年 学校法人大同学園理事(現在に至る)
 
受賞
1983年 フルラス賞
1991年 日本セラミックス協会学術賞
1993年 国際バリスティックアワード(国際弾道賞)
1994年 科学技術庁長官賞(功労賞)
1995年 ラインハルト賞
 
公職
文部科学省 科学技術学術審議会委員
文部科学省 科学技術学術審議会 研究計画・評価分科会会長
文部科学省 科学技術学術審議会 研究計画・評価分科会ナノテクノロジー・材料委員会主査
文部科学省 宇宙開発委員会特別委員
宇宙開発事業団 研究統括リーダー (1999年4月〜)
図1
図1. 拡大
黒鉛の衝撃圧縮によって得られたダイヤモンド集合体の走査型電子顕微鏡写真。左は米粒が集まってできたおにぎり状の集合体で、幅約200μm。右はその拡大図で、米粒に相当する長さ5μm程度のダイヤ粒子の集合体であることが分かる。この小さな粒子は、さらに小さな50〜100nmの微細結晶がモザイク状に集まった多結晶体であることが分かった。
図2
図2. 拡大
衝撃圧縮によって多結晶ダイヤモンド製石油掘削用ドリルビットを製造する研究を10年以上行った。ゴルフボール大の合金製ビット上に多結晶ダイヤ層がしっかりと接着している(イメージ図)
図3
図3. 拡大
左は爆発前、右は爆薬中の爆轟波によって外側の金属製円筒(driver tube)が内側に吹き飛ばされて、内側円筒に衝突して超高圧衝撃波が発生する様子。超合金(WC-Co)製ビット上に原料粉末ダイヤが層状に挿入されている。衝撃波通過時にダイヤ粉末が固化すると同時にビットに密着する。
大同工業大学 学長
宇宙開発事業団 研究統括リーダー
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ナノテクノロジー・材料委員会 主査
澤岡 昭 氏

ひらめきは宇宙からもたらされた
〜衝撃圧力によるダイヤモンドの合成〜

太古の昔から、人は星空を眺めて、未知なる世界へと想像をふくらませていた。観測技術が発展するにつれ、宇宙は空想の世界から科学の対象となり、新たな発見や発想の源泉となった。

衝撃圧力による物質合成を研究していた澤岡氏がダイヤモンドに惹かれたきっかけも、宇宙からもたらされた。隕石孔から、それまで自然界には見られなかった六方晶のダイヤモンドが見つかったのだ。六方晶ダイヤは、落下地点の黒鉛が、隕石の衝突による高圧力によって変化したものだ。0.1mmを超える大きさの単結晶は存在しないため、その物性の多くは謎のままだ。澤岡氏が宇宙から受けたインスピレーションは、もう1つある。水素とヘリウムのガスからなる巨大な惑星・木星だ。その中心部では、数千万気圧という途方もない圧力がかかっているため、原子間隔を押し縮められた水素はもはや電子を固定しておくことができず、金属の状態になっていると理論物理学では計算されている。水素だけではない。超高圧下では、ダイヤモンドを含め、あらゆる物質は金属化できる計算になる。さまざまな物質を人工的に金属化できれば、従来の金属にない優れた特性を発見できるかもしれない。

澤岡氏が東京工業大学に着任した1969年当時、『誰が最初にダイヤモンドの金属化に成功するか』が衝撃圧力の研究者の間で話題にのぼっていた。「『金属ダイヤを作ったら間違いなくノーベル賞』というので、『よし、やったるで』と思いました」。目標は、衝撃圧力を用いた金属ダイヤの合成だ。アメリカやロシアでは、衝撃圧力は軍事技術の一環として研究されているが、当時の日本では、そうした技術の基礎環境が十分に整っていなかった。困難を押しての実験であったが、ダイヤの金属化には至らなかった。

実験室で作製したダイヤモンドの粒径はわずか50〜100nm。「こんな細かいダイヤモンドは使い道がない。ゴミだと思っていたわけですよ」。そこで澤岡氏は発想を転換。この細かい粉を固めて工業材料として使おうと考えた。ダイヤモンドは硬いが、一定の方向に力を加えると、へき開により割れやすいという性質をもつ。しかし、ブラジルなどで天然に産出するカーボナードは、微小なダイヤモンド粒が凝結したものであり、丈夫で割れないため、工具として利用価値が高い。カーボナードの難点は非常に高価なことだ。それなら、とダイヤの粉末を、衝撃圧力で固めようと発案。目標はゴルフボールぐらいのダイヤの塊を作製し、石油井戸やトンネルを掘る削岩機の刃として利用すること。といっても、ダイヤ粉末は簡単にはくっつかない。温度を上げるとグラファイトに戻ってしまう。圧力をかけて温度を上げる、衝撃波を使うといった方法を模索したが、チップの寸法を大きくするとひびが入り、実用化には至らなかった。「おもしろくてやる研究と商売でやる産業化は、次元が違うんです。99%うまくいっているように見えても、1%の欠点があったら製品として使ってもらえない」。研究開発とは異なる産業化の難しさを語る。

衝撃圧力を使ったダイヤ合成の研究は、黒鉛を原料にしたダイヤの微粉末「SCMダイヤモンド」の製造で実を結ぶ。従来の手法では、製造に1〜2tもの大量の爆薬を必要としていたものを、爆発の衝撃波を反射させて圧力の持続時間を長くすることで、30〜50kgの爆薬で製造することに成功したのだ。2000年には、世界の衝撃合成ダイヤモンドの50%が、澤岡氏の手法を用いて生産された。量にして年に1000万カラット。これらはフロッピーディスク・ドライブのヘッド部分などの研磨に使われた。「世界が必要としている研磨用の粉末ダイヤモンドの50%が、私の技術で製造されていることに喜びを感じました」。

澤岡氏は、1979年から、宇宙開発事業団の宇宙実験計画に協力している。材料実験の専門家の募集に、澤岡氏が手を挙げたのだ。「宇宙という摩訶不思議な世界に興味があったんです」。24年後の現在も、国際宇宙ステーションを利用する「先導的応用化研究」プロジェクトの責任者を務める。現在、準備段階のナノテク研究は2つ。1つは、レーザー用の三次元規則配列光学素子を作ろうという研究だ。コロイダルシリカ(SiO2)分散溶液から、シリカ粒子が規則正しく配列したコロイド結晶ができれば、光学素子として幅広い用途が考えられる。しかし地上では、重力によって粒子間距離が結晶の上部と下部で違ってくる。そこで微小重力の宇宙で均一な結晶を作る実験を行おうというものだ。もう1つは、保護材でコーティングし、均一分散させたナノサイズの金属の粒子を分子間力で配列させ、新しい電子素子を作る実験だ。微弱な分子間力により粒子を配列させるには、重力の影響を受けない宇宙環境が理想的なのだ。

澤岡氏は、宇宙環境利用事業の「番頭さん」をもって任ずる。「宇宙開発というのは、失敗と遅れの歴史です。計画通りにはいかない。スペースシャトルの打ち上げが3年延びたとか、今度はコロンビアの事故で、ステーション計画も1〜2年延びるかもしれない。計画が遅れると人も変わる。だから、何年もドンと座って、すべてを知っている番頭が必要なわけです」。現在、澤岡氏は「宇宙飛行士になる」と公言している。「これだけ裏方やってきたんだから、最後にはご褒美が欲しいよ。夢じゃないよ。本当になるんだから」。日本最高齢の宇宙飛行士が誕生する日は遠くない。

(聞き手:コスモピア 龍川 優)



キーワード
六方晶ダイヤモンド
通常のダイヤモンド中の炭素原子配列はさいころ状の立方晶である。六角板を並べた配列の黒鉛をダイヤと同じ密度にまで圧縮したものが六方晶ダイヤである。準安定物質のため、大きな結晶は得られていない。
衝撃圧縮
衝突や爆薬の爆発によって、音速を超える速さで縦波が伝搬する。これが衝撃波である。100万分の1秒程度の瞬間的短時間の超高圧力と高温が発生する。その後、断熱膨張によって常圧に戻る時にひび割れが発生しやすい。