画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第37号 : 2003年10月14日

ナノネットインタビュー

遠藤 守信 氏
遠藤 守信(えんどうもりのぶ)氏
1969年3月 信州大学工学部電気工学科卒業
1971年3月 信州大学大学院工学研究科修士課程修了
1972年 (株)日立製作所を経て信州大学助手
1977年 信州大学工学部講師
1978年 信州大学工学部助教授
1990年 信州大学工学部教授
1993年4月
〜1995年3月
地域共同研究センター長
この間、フランスCNRS客員研究員、MIT招聘研究員など歴任
 
学位 名古屋大学,工学博士
オルレアン大学 博士
受賞
1995年 炭素材料学会賞受賞
2001年 American Carbon Society,The Charles E.Pettinos賞受賞(米国・カーボン学会 、チャールス・E・ぺティーノス賞)
2002年 LEE HSUN Lecture Series 賞受賞(Institute of Metal Research, The Chinese Academy of Science,中国)
2003年 信毎賞受賞(財団法人信毎文化事業団)
図1
図1.拡大
VGCFs(MWCTs) obtained by Floating Reagent Method
(VGCFs:Vapor Grown Carbon Fibers)
(MWCTs:Multi-Walled Cabon Tubes)
図2
図2. 拡大
触媒金属微粒子とカーボンナノチューブ(模式図)
図3
図3.拡大
SEM pictures of the carbon anode sheet containing s-VGCFs in a commercial cell
(s-VGCFs:submicron VGCFs)
信州大学工学部 電気電子工学科
機能デバイス講座 教授
遠藤 守信 氏

量産化が拓くカーボンナノチューブの時代
〜An old but new material〜

鉛筆は記述を容易にし、エジソンの炭素フィラメントは夜を昼に変え、炭素繊維は人類を宇宙に送り出した。「つまり、炭素というのは歴史の節目で人類にものすごく貢献した、ブレイクスルーを与えた材料なんです。 An old but new material とカーボンは形容される。この材料の研究は常に新しいんです」。化学的気相成長法によってカーボンナノチューブの量産化を実現した遠藤氏は、新たな炭素の時代を拓くべく、さらなる実用化をめざし研究を続けている。

化学的気相成長法の発見は偶然のいたずらだった。当時、遠藤氏が研究対象としていたのは炭素繊維。電気炉の中に水素ガスとベンゼンを送り込んで作る。実験で使ったススで汚れた基板は取り出して水洗いし、空焼きして再び使う。その工程に2日半。時間を惜しんで、ある時、基板を木工用のサンドペーパーでこすってみた。「一応ススが取れてきれいになるんですよ。それをしらばっくれて入れたら、電気炉の中が詰まるくらい出来たわけ」。傷をつければ良いのかと他の物でも試したが、それでは上手くできない。おまじないのつもりでサンドペーパーを使い続け、良い成果が上がっていたところでストックが切れてしまった。「それで大学の会計に頼んで買ってもらったら、真っ黒いサンドペーパーが来たんです」。だが、それを境に炭素繊維はぴたりと出来なくなった。古い水素ボンベを持ち出したり、ベンゼンを入れ替えたり、実験の条件をすべて最初の状態に戻しても出来なかった。「よくよく考えたら、こすっている紙が昔は茶色かったんじゃないかと気がついた。それで机の中から切れっ端を捜してこすったら、きれいに出来た」。茶色のサンドペーパーの成分は酸化鉄、黒いサンドペーパーの成分はシリコンカーバイド。酸化鉄が触媒の役割を果たしていたことが明らかになるのは、1974年に遠藤氏がフランス留学で炭素繊維中心部にチューブを発見し、その先端に鉄の微粒子を見つけた後のことだ。この炭素繊維の中心部に見出されたチューブこそ、後のカーボンナノチューブであった。

遠藤氏は、基板上に触媒となる金属微粒子を撒いて炭素繊維を作る種まき法に続いて、炭化水素ガスと触媒を同時に電気炉に流入させる流動床法を生み出す。これによって連続生産が可能になり、1988年、遠藤ファイバーと呼ばれる直径10nm〜100nmの多層カーボンナノチューブの商業化が始まった。時を同じくして普及し始めたリチウムイオン電池が、実用化の追い風となった。「リチウムイオン電池は充電している間に負極のカーボンの体積が30%くらい増えて、すごく電極がいたむんです。ところが遠藤ファイバーを10%くらい入れておくとそれが伸び縮みを上手く吸収してくれる。リチウムイオン電池は日本で5億個作っているんですが、その半分以上にこれが入っています」。リチウム電池だけではない。鉛電池でも遠藤ファイバーは活用されている。遠藤ファイバーすなわち多層カーボンナノチューブの入った鉛電池の寿命は、入っていないものの倍。車なら次の買い換えまでバッテリー交換の必要はなくなりそうだ。「鉛電池は市場に出て120年経つんですが、その間性能が5割しか改善されていない。ナノ材料には全く新しいものを作り出すということもあるんだけど、皆が限界を感じている分野に使うことによって、ハイテク化できるんですね」。

カーボンナノチューブを電子デバイスに利用するには、単層・多層やカイラリティの作りわけが重要になる。遠藤氏の方法は触媒の微粒子をゼオライトの孔に入れてその径を揃え、単層、多層を作り分ける方法に発展している(CCVD法)。作り分けの鍵となる鉄触媒の種類や大きさなどもすでに特定されつつある。また、遠藤氏は今年に入り世界最小径の単層カーボンナノチューブの生成にも成功した。その直径0.43nm。高分子とほぼ同じサイズなため、分子間を繋ぎ、分子レベルで複合材料をつくることができる。また、これだけ小さな径では、径とカイラリティが1対1で対応し、径が決まれば電気特性も決まる。遠藤氏が作り出した0.43 nmのものは半導体。他に0.4nm台で存在し得るのは、金属の0.41nmと半導体の0.42nmだけ。「だから大きさを作り分けることで半導体か金属かという作りわけができる」。

「私は『幸運の女神は準備を整えたものに微笑みかける』という言葉がすごく好きで。一生懸命努力していると、一生に二度や三度は、皆等しくチャンスが巡ってくると思うんです」。遠藤氏に最初に女神が微笑んだのは、カーボンナノチューブを初めて見た時。二度目はチューブ先端に鉄微粒子を見つけた時。「見るまでは、自分なりのイメージを持っていたんだけど、それは間違っていたわけ」。見えたのは予想外のものだったが、その重要性は瞬時に理解できた。フランス留学時に教えを受けたオルレアン大学のAgnes Oberlin教授から、徹底してたたき込まれたことがある。「『そこに何を見たいかではなく、そこに何があるかを見なさい』と。研究者はどうしても自分の見たいものを捜している。もっとオープンな気持ちで対象に寄っていくと、自分が予想していた以上のすばらしい宝がその中にあるんですね」。

(聞き手:コスモピア 石黒 邦子)

図4
図4. 拡大
Superelasticity of carbon nanotube; Effect of nanosize



図5
図5. 拡大
High-resolution TEM image of a small SWNT.
Inserted images are the model of (5,1)tube and the TEM simulated image, which is in good agreement with the observation.
(SWNTs:Single-Walled Nano Tubes)

キーワード
Endoファイバー
多層カーボンナノチューブで数nmの超微細な鉄等の金属粒子で成長し、直径も約100nm以下の範囲で調節できる。VGCFとして1988年から市販され、リチウムイオン電池を中心に実用され、鉛電池等や新複合材料にも応用が広がっている。
CCVD(触媒化学気相堆積法)
鉄等の金属触媒を用い、べンゼンやメタンなどの炭化水素ガス、一酸化炭素を原料に単層、2層、多層のカーボンナノチューブを生成する方法。VGCFの生成法が基本になっており、反応温度は700-1100℃で、各種チューブの大量生産法、特定の部位に制限して成長させたり、またチューブの螺旋ベクトルを制御できる方法としても期待されている。