産業技術総合研究所 エレクトロニクス研究部門 主任研究員
科学技術振興機構さきがけ21「ナノと物性」 研究員
湯浅 新治 氏
科学技術振興機構さきがけ21「ナノと物性」 研究員
湯浅 新治 氏
単結晶電極を持つ磁気トンネル接合の開発とコヒーレントなスピン偏極トンネル伝導の実現
TMR効果は電極のフェルミ準位における状態密度がスピン偏極していることに起因するが、電極の電子状態とTMR効果の定量的な関係は未解明であった。また、スピン偏極した系では共鳴トンネルのようなコヒーレントな効果はこれまで全く観測されていなかった。我々の研究グループでは、従来多結晶体を用いていた磁気トンネル接合の電極層を単結晶化することによって電子スピンの散乱を画期的に減らすことに成功し、TMR効果のメカニズムに関して以下のような点を明らかにした。
- TMR効果の結晶方位依存性 [1]
種々の結晶面方位の単結晶Fe電極を用いて磁気トンネル接合を作製し、TMR効果が電極の結晶方位に大きく依存することを明らかにした。これは電極の電子状態(スピン分極率)の結晶異方性を反映したものと考えられる。 - スピン偏極共鳴トンネル効果によるTMR効果の振動現象 [2,3]
強磁性Co(001)電極とAl-Oトンネル障壁層の間に厚さ0〜3nmの非磁性Cu(001)層を挿入し(図1(a))、Cu層中に生成するスピン偏極した量子井戸準位(図1(b))を介した共鳴トンネル効果の実現を試みた。その結果、スピン偏極共鳴トンネル効果により、TMR効果がCu層厚の関数として大きな振動を示すことが観測された(図2)。この結果は、TMR効果が電極/障壁界面の状態密度だけでは記述できないコヒーレントなトンネル現象であることを示す。このように、磁性体を用いたスピン偏極した系では初めて共鳴トンネル効果を実証した。この効果を利用して、不揮発性記憶機能とスイッチング機能を併せ持つ共鳴トンネル型スピントロニクス素子の実現が期待される。
現在は、トンネル障壁層を含めた全単結晶トンネル接合素子の作製とそれを用いた巨大なTMR効果の実現を目指している。
|
| 図1. 拡大 |
|---|
| (a) Co(001)/Cu(001)/Al-O/NiFeトンネル接合の断面の透過電子顕微鏡(TEM)写真。 (b) トンネル過程の概念図。Minority-spin電子は非磁性金属層内に部分的に閉じこめられ、スピン偏極した量子井戸準位を形成する。 |
|
| 図2. 拡大 |
|---|
| Co(001)/Cu(001)/Al-O/NiFeトンネル接合の種々の印可電圧における磁気抵抗比(MR)のCu層厚(tCu)依存性。 |
関連論文:
- Yuasa, S., Sato, T., Tamura, E., Suzuki, Y., Yamamori, H., Ando, K. & Katayama, T.
Magnetic tunnel junctions with single-crystal electrodes: A crystal anisotropy of tunnel magneto-resistance.
Europhys. Lett. 52,344-350 (2000). - Yuasa, S., Nagahama, T. & Suzuki, Y.
Spin-Polarized Resonant Tunneling in Magnetic Tunnel Junctions.
Science 297, 234-237 (2002). - Yuasa, S., Nagahama, T., Kawakami, T., Ando, K. & Katayama, T.
A large quantum-well oscillation of the TMR effect.
J. Phys. D: Appl. Phys. 35, 2427-2431 (2002).


