画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第44号 : 2003年12月2日

ナノネットインタビュー

藤嶋 昭 氏
藤嶋 昭(ふじしま あきら)氏
神奈川科学技術アカデミー理事長
 
1966年3月 横浜国立大学工学部卒業
1971年3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
4月   神奈川大学工学部講師
1975年11月 東京大学工学部講師
1978年4月 東京大学工学部助教授
1986年7月 東京大学工学部教授
1995年4月 東京大学大学院工学系研究科教授
1997年10月 (財)神奈川科学技術アカデミー光科学重点研究準備室長
1998年6月 (財)神奈川科学技術アカデミー光科学重点研究室長
10月   (財)神奈川科学技術アカデミー地域結集型共同研究事業研究総括
2003年1月 (財)神奈川科学技術アカデミー理事
3月   東京大学大学院工学系研究科教授を退官
4月   (財)神奈川科学技術アカデミー理事長(現在に至る)
6月   東京大学名誉教授
   
1989年3月 日本化学会理事
1998年1月 光化学協会会長
1999年1月 Photochem. Photobio. C(Photochemistry Review)編集委員長
2001年3月 日本化学会副会長
10月   文部科学省科学研究費 特定領域「光機能界面」領域代表
2002年6月 科学技術振興事業団 戦略創造プロジェクト(ナノ・エネルギー分野)研究総括
2002年8月 第14回太陽エネルギーの化学的変換国際会議実行委員長
2003年2月 電気化学会会長
 
受賞等
1983年1月 朝日賞
1998年6月 井上春成賞
2000年3月 日本化学会賞
2003年4月 第1回The Gerischer Award
11月   紫綬褒章受章
図1
図1.拡大
植物の光合成反応と酸化チタンの光触媒反応は基本が似ている
図2
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酸化チタン光触媒の2大特徴を利用するセルフクリーニング効果
図3
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光触媒の基本分野
図4
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光触媒の主な応用例
神奈川科学技術アカデミー理事長
藤嶋 昭 氏

光触媒反応の発見と応用
〜光エネルギーで快適な未来をつくる〜

1967年春、大学院生だった藤嶋氏は実験で予想外の現象を発見する。水溶液中の酸化チタン(TiO2)電極に強い光を当てたところ、表面から泡が出てきたのだ。光を消すと泡の発生も止まる。調べてみると、泡の正体は酸素であった。一方、対極の白金からは水素の発生が確認された。水が酸素と水素に分解されたのだ。このとき酸化チタン表面で起こった反応が『光触媒反応』であり、後に『ホンダ・フジシマ効果』と呼ばれる現象だ。

当時、藤嶋氏は写真化学の研究室に所属し、助教授の本多健一氏(現在:東京工芸大学学長)のもと、感光材料の光応答について研究していた。酸化亜鉛やゲルマニウムの代わりになる新しい材料を探す中、藤嶋氏は酸化チタンに目をつける。「偶然となりの研究室で、先輩の飯田武揚さん(現在:埼玉大学教授)が酸化チタンの単結晶を使っていらっしゃったんです」。飯田氏から酸化チタンの製造元を聞き出し、社長に直談判して、結晶を入手した。藤嶋氏の手にした酸化チタンは無色半透明のルチル単結晶。化学的に安定で、酸にもアルカリにも溶けない。

「植物は光合成の過程で水を分解して酸素を発生する。光によって酸素を発生するという点で、光触媒反応は光合成と同じです。私は『光合成の一番簡単なモデルができた』って、感動したんです」。しかし、この現象は電気化学の研究者から受け入れられなかった。光をエネルギーと考える習慣がまだ定着していなかったためだ。「水の電気分解は普通1.5〜2V以上の電圧をかけないと起こりません。『そんな低い電位で酸素が発生するわけない』と批判されました」。状況が変わったのは1972年、nature誌に論文が掲載された後。間もなく起こった第1次オイルショックという時代背景もあり「太陽光で水からクリーンエネルギーの水素を取り出す方法を日本人が発見した」と欧米の研究者から注目された。うわさを聞きつけ、新聞記者が取材に訪れた。1974年元旦、ホンダ・フジシマ効果が朝日新聞のトップを飾り、国内でも一気に光触媒への関心が高まった。

このとき世界の人々が注目したのは、光触媒反応で水から水素を作り出せることだ。「私が感動したのは酸素の発生だったのに、いつのまにか水素博士にされちゃった」。藤嶋氏は安価に大量の水素を製造することが可能な技術への期待を一身に引き受ける。チタン板をバーナーであぶって酸化チタンの皮膜を作り、大学の屋上に敷き詰めて、水素を採取する実験を行った。しかし、盛夏の1日で、酸化チタン1平方メートルあたりの水素発生量はたった7リットル。照射された太陽光エネルギーの0.3%に過ぎず、これではエネルギー変換効率が低すぎる。光触媒の実用化へ向けた研究は、いったん頓挫した。

光触媒が実用化に向けて大きく前進したのは、1989年、岡崎国立共同研究機構で光触媒の研究を行っていた橋本和仁氏(現在:東京大学教授)を助教授として迎えてからだ。橋本氏と話し合い、「エネルギー変換は量を要求されるから難しいが、太陽光だけでこんなに強い酸化力を出せるものは他にない。微量でも存在すると困るものを分解するのに使おう」と光触媒研究を再開した。微量でも存在が問題になるものには、タバコのにおいや油汚れ、そして大腸菌などの細菌がある。ちょうどそのとき除菌や消臭に関心を持っていた東陶機器基礎研究所の渡部俊也氏(現在:東京大学教授)が研究室を訪れ、共同研究が始まった。渡部氏が酸化チタンをコーティングしたタイルを製造し、病院の手術室で効果を調べたところ、タイルを貼った床や壁はもとより空気中の菌も激減していた。現在では抗菌タイルのほか、空気清浄機などに広く利用されている。

そして1995年、東陶機器基礎研究所で発見された新たな現象が、光触媒の応用範囲をさらに拡げた。酸化チタンでコーティングしたガラスに光を照射したところ、表面についた水滴が全面に広がる『超親水性』が発現したのだ。全面が均一に濡れるので、水蒸気をあててもガラスは曇らない。藤嶋氏らは当初、酸化チタンの強い酸化力によって表面の油分が分解されたために、ガラスに水がなじみやすくなったと考えた。しかし、表面の状態を原子間力顕微鏡で調べたところ、紫外線によってTiO2のOが部分的に抜け、結晶表面の構造が変化していると分かった。Oが抜けた箇所は親水性を、その他の箇所は疎水性をもち、30nm×50nm程度の大きさで親水性と疎水性の部分が交互に存在する。水は親水性の部分を通って広がるため、丸い水滴にならず、表面を覆い尽くすのだ。この超親水性を利用して、水を蓄えやすいシリカを酸化チタンに加えて作ったコーティング材は、水がかかるだけで油汚れを浮かして流すセルフクリーニング効果をもち、外装建材や車のサイドミラーに使用されている。

藤嶋氏は、科学技術の恩恵には全ての人が浴すべきと言う。「科学技術の一番の目的は、皆が快適に暮らし、天寿をまっとうできる社会をつくること。まず新しい概念を作ることがもっとも大事で、それが応用されて、いつしか皆が幸福になっていくんです。光触媒は、それにぴったりの技術だと思っています」。藤嶋氏は、自ら発見した光触媒で、だれもが快適で安全に暮らせる社会づくりを目指している。

(聞き手:コスモピア 龍川 優)