画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第54号 : 2004年2月17日

ナノネットインタビュー

東京大学大学院工学系研究科
化学生命工学専攻 教授
相田 卓三 氏

ナノ空間から広がる世界
〜デンドリマー、バッキープラスチック〜

3次元的な広がりを持つ球状の枝分かれ分子、デンドリマー。その名はギリシャ語で樹木を意味するデンドロンに由来する。1991年、それまでプラスチックの研究を行っていた相田氏は、自分の研究室を持つと同時に新しい研究テーマとしてデンドリマーを選んだ。当時、デンドリマーの外側に物質を付け機能を持たせる研究が主流であった中、相田氏はデンドリマーの内部に着目した。「研究者は脚本家でもあります。他人と同じストーリーを作ってもしょうがない。まだ誰もやっていない内部には、きっと面白いことがあると思いました」。

「デンドリマーの真ん中で勝負していくことを、どうやってアピールするか」。相田氏はデンドリマーの中の空間に入れたポルフィリンの鉄錯体、ヘムの挙動を調べることにした。ヘムは血液中で酸素や二酸化炭素を運ぶ役目を持つ。血液中では周りをタンパク質で囲まれているため、酸素と安定に結合することができる。相田氏はこのタンパク質の代わりにデンドリマーでヘムを取り囲んでも、同様に機能すると予想した。結果は予想に違わず、デンドリマー内部のヘムには酸素と結合し、また結合した酸素を離すという機能が備わっていた。この現象は、人工の血液実現につながる可能性がある。

デンドリマーの内部で何が起こるか研究する中、予想外の発見があった。デンドリマーの中にアゾベンゼンを入れ、低エネルギーの光を照射したところ、アゾベンゼンが異性化反応を起こしたのだ。低エネルギーの光では、通常ならこの反応は起こりえない。吸収した光エネルギーをデンドリマーが中央に集める“光捕集機能”の発見だった。相田氏は、類似のことが光合成でも起きていることに着目した。光合成では光捕集ユニットであるクロロフィルが環状に並び、その中心部で化学反応が起こる。そこで、クロロフィルに類似した光捕集ユニットからなる直径約15nmのデンドリマーを作製し、光を照射した。すると、照射した光エネルギーの70%が中央に集まった。現在、この原理を使って、水から水素を取り出す研究を進めている。デンドリマーの研究を通し、分子の内部に広がるナノ空間への関心を高めていった相田氏は、現在、科学技術振興機構創造科学技術推進事業(ERATO)『相田ナノ空間プロジェクト』のリーダーを務める。プロジェクトでは外部から遮蔽されたナノスケールの空間を舞台に、さまざまな分子の機能発現を目指す。コンセプトは“内部にナノの空間をもったモノ”、空間を構成する物質にはとらわれず、人工物も天然物も包含する。

ナノ空間プロジェクトで相田氏が最も注目する成果に、カーボンナノチューブのゲル化がある。ポリマーにカーボンナノチューブを分散させることができれば、強度の上昇、導電性の付与など、機能の向上が期待できる。しかし、これまで様々なメーカーがポリマー原料とカーボンナノチューブの混合を試みたが、上手く混ざらなかった。またカーボンナノチューブは粉体であるため素材として利用しにくい。ところが、イオン性液体にナノチューブの粉を入れると、ゲル化して、取り扱いの容易なペースト状になることがプロジェクトで見出された。「これは、プロジェクトに最初は無かったテーマ。面白いことって、筋書き以外のところで見つかるんです」。最初、プロジェクトのメンバー(福島孝典氏)がイオン性液体中での電子移動について提案した研究テーマに、相田氏はノーと言った。「このプロジェクトでは、もっとハチャメチャなことをやって欲しかった」。しかし、すでにイオン性液体を購入していたため、試しにカーボンナノチューブと混ぜ、超音波洗浄機の中に放置した。すると、1時間後に固まっていたのだ。この現象自体はなかなか再現しなかったが、イオン性液体にナノチューブを入れて乳鉢でかき混ぜることで再現できた。イオン性液体に重合部位を導入すれば、通常のポリマーと同様に成型することが可能だ。「誰にでもできる、チープケミストリー。ローテクなところが気に入っています」。こうしてできたカーボンナノチューブ入りのポリマーは“バッキープラスチック”と名付けられた。従来のプラスチックと比べて4〜10倍の強度を持ち、導電性を有する。

相田氏は他にも様々なナノ空間の研究に取り組み、成果をあげている。メソポーラスシリカでハニカム構造を作り、その穴の中に触媒を入れて、直径50nmのポリエチレンファイバーを作り出した。直径2nmの各穴から出てくる際にポリエチレン分子の向きがそろうため、非常に細くて強い繊維となる。また、相田氏は、シャペロンと呼ばれる筒状のたんぱく質集合体がその4.5 nmの穴に半導体である硫化カドミウムのナノ粒子を取り込み、安定に保存すること、さらにその後ATPによる刺激でナノ粒子をはき出すことを示した。ドラッグデリバリーシステムや、電子回路のスイッチへの応用につながる研究だ。デンドリマー、バッキープラスチック、ポリエチレンファイバー、シャペロン・・・。相田氏の研究対象は多方面に広がっている。「物理、化学、生物のなかで、化学屋は一番物質にこだわる。でも物質にこだわりすぎると、最後は重箱の隅をつつくことになって探求ができなくなる。そうではなくて、化学屋でありながら、現象に、コンセプトにこだわりたい」。“ナノ空間”をコンセプトにする相田氏にとって、“ナノテクノロジー”というキーワードは大きな意味を持つ。その最大の意義は「分野を超えた研究ができること」と考える。「我々も生物の人や、物理の人と共同研究をしています。分野を超えることで、今まで誰も気がつかなかったことを発見できる。初めてのことが見えてくる。それが、ナノというキーワードが分野を超えて研究者を引きつけているポイントだと思います」。

(聞き手:コスモピア 龍川 優)
相田 卓三 氏
相田 卓三(あいだ たくぞう)氏
東京大学 大学院工学系研究科
化学生命工学専攻 教授
 
1984年 3月  東京大学大学院工学系研究科 合成化学専攻博士課程修了
東京大学工学部助手、講師、助教授を経て、1996年より現職
2000年10月 
〜現在 
科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業「ナノ空間プロジェクト」総括責任者
 
1988年 日本化学会進歩賞
1993年 高分子学会賞
1999年 Wiley高分子科学賞
1999年 日本IBM科学賞
2000年 名古屋メダルセミナーシルバーメダル
2001年 東京テクノフォーラムゴールドメダル
図1
図1. 拡大
ヘムデンドリマー
図2
図2. 拡大
光捕集アンテナ機能を有するデンドリマー
図3
図3.拡大
バッキーゲルはイオン性液体とカーボンナノチューブ懸濁液を乳鉢中で撹拌するだけで得られる
図4
図4. 拡大
重合性のイオン性液体を用いることで得られる電気を通す高強度プラスチック:バッキープラスチック
図5
図5. 拡大
メソポーラスシリカのナノチャネルをフラスコとして用いる押し出し重合
図6
図6. 拡大
シャペロニンに取り込まれた半導体ナノ粒子は、ATPの働きではき出される