野田 進 氏
フォトニック結晶で光を自在にコントロール
〜ナノ構造でフォトニックバンドギャップを
実現〜
光デバイスを現在の10万分の1以下にまで小型化する。これを実現し得るのがフォトニック結晶だ。フォトニック結晶とは、光に対するバンドギャップ(フォトニックバンドギャップ)によって、特定の波長の光を完全に遮断する光の絶縁体。屈折率の異なる二種類の物質を、光の半波長程度の周期で交互に並べると、その波長の光の存在が許されないフォトニックバンドギャップが作り出される。1990年代初め、フォトニックバンドギャップを作り出す三次元構造として、ダイヤモンド構造が予言され、マイクロ波の波長域で研究が進められた。「でも、フォトニック結晶の研究はそこで一旦、下火になってしまったんです。そんな構造を光の波長オーダーでは作れなかったから」。だが、それでも野田氏は立ち止まらなかった。
野田氏が創り出した世界初のフォトニック結晶は、ガリウムヒ素(GaAs)の角材を格子状に組み上げた構造。隙間に存在する空気の部分がダイヤモンド構造の格子点に位置し、GaAsと空気の屈折率差によって光が反射される。この構造を利用して、光通信に使われる1.4〜1.6ミクロンの波長の光を遮断するには、太さ200nmの角材を700nmの周期で積み上げなければならない。求められる位置合わせの精度は30nm。野田氏は、GaAsを積み上げる際にレーザー光を入射し、回折パターンを観察しながら精密な位置合わせを行う方法の開発に成功。加熱して界面を接着するウェーハボンディングの温度を500℃程度に抑えることで、角材のエッジがシャープに保たれたフォトニック結晶を実現した。フォトニックバンドギャップに相当する波長の光は内部を通過しないが、周期構造を乱して欠陥を導入すると、光はそこに集中する。直交した角材を一組抜けば90°折れ曲がった導波路となり、光を直角に曲げることもできる。また、点状の欠陥は共振器として働き、光を欠陥内に捉えることが出来る。利得を与えれば光の増幅・発振も可能だ。捉えられる光の波長は点欠陥の大きさに依存する。野田氏は角材の間隔や欠陥の大きさを変えることで、望む波長の光を自在に操れることを示した。
三次元結晶に比べ、製造が容易な二次元フォトニック結晶。厚さ250nmのシリコンの薄板に半波長程度の間隔で三角格子状に穴を穿つと、面内方向では周期構造よってフォトニックバンドギャップが作り出され、対応する波長の光は通れない。また、周期構造の無い垂直方向においても、シリコンと空気の界面での全反射により光閉じ込めが可能となる。穴を列状に埋めて線状に欠陥を導入すると導波路となり、穴の径を大きくして点状の欠陥を導入すると、その径に応じた特定の波長の光のみを欠陥内に捕らえ、垂直方向に光を取り出すことが可能だ。導波路を伝搬する光を、波長毎に取り出す光分波器を作ることができる。
長時間にわたり光を閉じ込められるのが、良い共振器の条件。その指標であるQ値は、二次元結晶の点欠陥の場合、横方向と縦方向の光を閉じ込める強さで決まる。横方向の閉じ込め強さは点欠陥と導波路の位置が離れるほど強く、縦方向の閉じ込め強さは垂直方向の屈折率差が大きいほど強い。垂直方向に屈折率差の大きな点欠陥を作るには、穴の径を拡げる方法ではなく、線欠陥と同様に穴を埋めて点欠陥を作り、シリコンと空気の界面を作り出すのが良い。だが、この方法では点欠陥に閉じ込められる光の波長は穴のピッチによって決まり、欠陥サイズでは波長を選択できない。Q値を上昇させ、しかも波長の選択性を持たせるにはどうすれば良いか。「これは単純なアイディアなんですが、結構良いとこに繋がっていくんです」。野田氏は、異なるピッチを持つ二次元結晶を並べて繋げた面内へテロ構造を考案した。穴のピッチは1.25nmずつ大きくなり、欠陥に閉じ込められる光の波長は5nmずつ大きくなる。異なるピッチを貫く導波路に光を入射すると、適した波長の光だけが捉えられる。「ピッチの異なるそれぞれの二次元結晶の構造は、比例的になっています。導波路から欠陥までの距離は、対応する光の波長を基準に考えたら、どれも一定の値になるんです。だからどの波長でもQ値を一定にできる」。穴を埋めた欠陥に変えたことで、Q値は450から3800と一桁上がった。だがそれは、その後に続くQ値上昇の始まりに過ぎなかった。
Q値をさらに上げるためには、できるだけ垂直方向の光の漏れを防がなければならない。「どこで光が漏れているかを考えると、やっぱり反射される欠陥の端面の辺りが怪しい。波が岸壁に当たってしぶきが高く上がるように、強い反射で光が上下に漏れているようなイメージです。つまり何か緩衝材を置けば良いんです」。埋めて作った欠陥の隣の穴を外側にずらすと、周期の乱れによって位相のずれが生じ、最初の反射が弱くなる。60nmずらしただけでQ値は45000にまで上がった。極微小の光共振器のQ値としては、これまでより2桁高い。「ちょっと動かしただけなのに、ほんまかなという感じ」。今やQ値は10万にまで上がり、理論的には限界なく上げられる可能性があると言う。「最初は、こんなんで光を制御できたら世話ないなと思ってた。それがこんなところまで来るとは。いやいや、恐ろしいです」。野田氏がフォトニック結晶の作製に着手した当初は、「こんなの誰ができるかって言われましたよ。でも、色々なことを考えたら、怖じけるだけだと思うんです。だから、まず歩み出した方が良い。最初は荒削りかもしれないけど、世間から批判を受けて軌道修正して、どんどん良いものになっていく。でも、やらなかったら、何も言ってもらえないんです。やっぱり最初の一歩を踏み出さないと」。









