科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業
さきがけタイプ 「組織化と機能」研究者
深澤 倫子 氏
さきがけタイプ 「組織化と機能」研究者
深澤 倫子 氏
南極氷床内部で起こる空気分子の拡散
南極大陸に存在する巨大な氷の塊(氷床)は、数十万年の間に雪と共に堆積した様々な物質を保存しているため、過去の気候と環境の変動についての貴重な情報源である。最近我々はラマン分光法を用いて、過去の大気成分の情報をそのまま保存しているはずの氷床内で、空気分子が実際には拡散していることを明らかにした。
本研究では、氷結晶中における水分子と気体分子のダイナミクスをナノスケールレベルで理解することにより、南極氷床において数万年のタイムスケールで起きている空気分子の拡散のメカニズムの解明を目指している。
これまでに我々は、大規模な分子動力学計算機実験により、空気分子(例えば、酸素、窒素、二酸化炭素等)が氷結晶格子中の安定なサイトから隣接した安定サイトへ連続してジャンプする過程をナノスケールで観測することに初めて成功している。この結果、氷結晶中の二酸化炭素分子の拡散が、ヘリウム等の拡散機構である格子間分子型とは異なり、氷の結晶格子を形作っている水素結合を切断することによって結晶内を移動する新しい機構であることを発見した。また、この計算機シミュレーションの結果から、氷結晶中の空気分子の拡散が従来の予測よりも数桁早いことが明らかになった。
これらの成果を基に、現在は、氷床における空気分子の分布の時系列変化の数理モデル化に取り組んでいる。このモデルの完成により、氷床解析データーを用いた精密な過去の大気組成復元法を確立できると期待している。



