物質化学システム専攻 教授
奥山 喜久夫 氏
邪魔者だった微粒子を材料に
〜ナノ粒子の合成と計測〜
「ガス中に浮遊する微粒子はエアロゾル粒子と呼ばれますが、喘息やアレルギーの原因となる汚くて邪魔なもので、存在すると困るものでした」。工場から出る煤煙をはじめ、大気汚染が大きな社会問題となっていた1970年代、奥山氏の卒業研究テーマは、このエアロゾル粒子の繊維層フィルターによる捕集であった。この研究は、当時盛んになりつつあった半導体の製造に必要な、クリーンな空間を作り出す上で大きな役割を果たした。
エアロゾル粒子の挙動について基礎研究を続けていた奥山氏は、1980年に米国でのポスドクを終えて帰国すると、それまで悪玉だった微粒子を新しい材料としてとらえなおそうと考えた。物質はサイズがサブミクロンから、さらにナノメートルオーダになると、電気的性質、光学的性質などが変化する。すなわち、体積あたりの表面積が非常に大きくなるため表面の効果が顕著になり、バルク状態とは異なる機能が発現する。粒子がナノサイズになることで現れる新たな機能を利用して、新しい材料を開発することを奥山氏は目指し、それまで微粒子が持っていた暗いイメージを、明るいものにしようと考えた。奥山氏が作り出したナノ粒子は、現在、様々な分野で材料として活躍する。可視光には透明だが紫外線はカットするTiO2ナノ粒子とSiO2ナノ粒子の複合材料は、化粧品に用いられている。また、ナノ粒子を添加することで耐熱性を高めたLSI実装用ポリマー、ディスプレー材料としての蛍光体微粒子など電子材料への応用も進んでいる。
微粒子の合成法には、大きく分けて固相法、液相法、気相法の3つがある。このうち、粉砕をはじめとする固相法では微粒化に限界があるため、ナノ粒子の合成には液相法と気相法が適する。液相法の1つである噴霧熱分解法(CSP法)は、噴霧した液滴を加熱炉内に導入し、溶媒の蒸発および、化学反応により微粒子を核生成・成長させた後、焼結して組織と形状を整える方法だ。装置とプロセスが単純で、注目を集めている。しかし、CSP法では液滴のサイズに分布があり、しかも液滴のサイズを小さくすることが困難なために、大きさの揃ったナノメータサイズの粒子を合成するのは困難であった。そこで奥山氏は、粒径が揃ったナノ粒子を製造可能な方法として、塩添加噴霧熱分解法(SASP法)を開発した。噴霧液にNaNO3、KNO3、LiNO3、KClなどの塩をフラックスとして混合すると、塩が核生成を促進し、同時に、生成したナノ粒子の凝集を防ぐため、結晶性が高く大きさの揃ったナノ粒子が生成する。こうしてできたナノ粒子の大きさは数nmから数十nmの大きさである。通常のCSP法と比して1/30〜1/80のサイズダウンを実現している。
ナノ粒子材料を工業的に応用するためには、機能性の高いナノ粒子を高速かつ安価に製造する手法の開発が必要になる。このような産業化を視野に入れて研究しているのが減圧型噴霧熱分解法だ。二流体ノズルから噴霧された液滴は、ガラスフィルターの細孔を通り、真空ポンプで減圧した加熱炉に導入される。ガラスフィルターの細孔の1つ1つが二流体ノズルと同様の役割を果たすため、大量の液滴が炉内に飛散する。減圧場によって溶媒が高速で蒸発し、粒子の凝集が妨げられ、ナノサイズの粒子が生成する。液滴からナノ粒子ができるまでに要する時間は0.1秒、CSP法の100倍もの高速でナノ粒子を製造することが可能だ。
奥山氏はナノ粒子を用いたポーラス構造体の創製にも取り組む。ポリスチレンラテックス(PSL)粒子をテンプレートとして、ナノサイズの穴を持つSiO2のポーラス構造体の微粒子およびフィルムを製造する方法を考案した。SiO2ナノ粒子とPSL粒子を混合したコロイド溶液を噴霧し、低温下で乾燥すると、自己組織化したPSL粒子の周りにシリカ粒子が沈着して間隙を埋める。その後、温度を上昇させるとPSL粒子のみが燃焼して消失し、規則的に穴の配列したポーラスSiO2微粒子が製造できる。この研究は2001年のScience誌にハイライト研究として紹介された。薬剤のコントロールリリースを行うための材料など、幅広い応用が考えられている。また、コロイド溶液に基板を浸して一定の速度で引き上げることで、ポーラスSiO2フィルムを作ることもできる。フォトニック結晶、低誘電率膜、触媒膜などへの応用が期待されている。
奥山氏はナノテクノロジーにおける計測の重要性を強調する。「ナノ粒子の製造プロセスを評価するときにも、生成されるナノ粒子のサイズを粒子が浮遊している状態で正確に計測しないと、どういう操作条件でどのようにナノ粒子が発生・成長しているかわかりません」。粒子のサイズや結晶性が、装置の構造や炉内の温度分布などによって大きく影響されることを見逃してはならない。そこで奥山氏は、静電力を利用して粒子のサイズ分布を測定する微分型電気移動度分級装置(DMA)をナノ粒子の計測用に開発した。この方法を用いると、大きさが1nm から数百nmの領域の発生したナノ粒子やイオンを正確に計測することが可能だ。「ナノメーターサイズのナノ粒子を計測できる手法を開発すること自体がナノテクノロジーの研究につながるのです。しかしながら、日本のナノ粒子の計測に関する基礎研究は非常に弱い。現在、多くの人は外国製の装置をそのまま買ってきて使っているのが現状です」。市販の装置では不可能な計測を、自分たちで装置を開発して実現することが大変重要である。これが奥山氏と、奥山研究室メンバーの信条だ。
若手研究者に対して奥山氏は、「できるだけ若いうちに海外の優れた大学へ留学すること」、その際「同じ世代の若い先生のところへ行き、共同研究すること」を薦めている。「留学後の長い付き合いができるのは大きなメリットです。高齢で有名な教授のところに行くと、昔は自分で精力的に研究されていても、そのときは直接研究をされていない場合もあります」。奥山氏自身は、1978〜79年にヒューストン大学でポスドク、1985〜93年には毎年夏期休暇中にカリフォルニア工科大学で客員研究員として研究を行った。カリフォルニア工科大学のSeinfeld教授、Flagan教授らとは現在も交流を続けている。「今でも一緒に研究を行っていますが、Seinfeld教授およびFlagan教授は、大気エアロゾルの研究で大変有名になっています。さらに、彼らが当時指導した多くの学生が、現在大学の先生となって大いに活躍している」。また、研究成果を報告するときには「当然のことですが、必ずしも自分の専門分野の雑誌にこだわらず、権威ある雑誌へ投稿すること」を薦める。査読の際に予想外の質問を受けることによって刺激が得られ、掲載されれば大きな自信が得られる。研究者には、他からの刺激を受けるため、自ら積極的に動く姿勢が重要と考えている。







