画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第64号 : 2004年 5月26日

研究者通信

科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 PRESTO
「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」領域 研究員
冨田 知志 氏

強磁性金属ナノコンポジット膜を用いたLeft-Handed Materialsの実現と応用

(Issued in English: November 10, 2005)

光など電磁波に対する物質の応答は、その物質の誘電率(ε)と透磁率(μ)という二つのパラメータを用いて記述される。[εμ]1/2 = nは屈折率と呼ばれ、電磁波はnが実数となる物質中を伝播でき、一方、虚数となる物質中は伝播できない。例えばガラスなど、身の回りに存在する透明な物質は、可視光領域でのεとμが共に正の値でありnは実数となる。よって可視光を伝播・透過し、その結果、我々の眼には“透明”に見える。

「では、εとμが同時に負の値をとる時、一体何が起こるのか?」、これが私の研究テーマの根本にある興味である。理論的にはεとμが共に負となっても nは実数となり、電磁波は伝播することが許されるはずである。ただ、ガラス等とは異なり、伝播する電磁波の電場、磁場、波数ベクトルが左手の関係を持つため、このような物質はLeft-Handed Materials (LHMs、左手系物質) と呼ばれる。 LHMsは、負の群速度や負の屈折率をもつとされており、大変興味深い。にもかかわらず、自然界には負のμが存在しないため、これまでLHMsは存在しないとされてきた。現在、mmサイズの金属リング共振器と金属ワイヤのアレイが、マイクロ波領域での Left-Handed Meta-Materialsとして報告されているのみである。そこで本研究では、強磁性金属ナノ粒子が埋め込まれた膜(強磁性金属ナノコンポジット膜)を用いて、より物質らしいLHMsを創製することを目指している。

LHMs実現のためには、如何にして負のμを実現させるかが一つのポイントとなる。この問題に対して我々は、強磁性金属ナノコンポジット膜での強磁性共鳴 (FMR) を用いることで、マイクロ波に対する負のμの実現を試みている。そこでこれまで、1. Niナノ粒子のサイズと体積充填率を制御したナノコンポジット膜を作製し、2. FMR特性を調べる、という二つの課題について研究を進めてきた。その結果、コンポジット膜内の構造を制御することで、膜の FMR条件を制御することに成功している。今後は、FMR近傍での膜のマイクロ波に対する応答を更に詳細に調べ、強磁性金属ナノコンポジット膜がLHMsとして機能するかどうかを明らかにする予定である。本研究の成果は、物質の電磁気応答における従来の既成概念を打ち破るブレイクスルーとなり得、新しい電磁気学のパラダイムの扉を開くことができると期待される。

冨田 知志 氏
冨田 知志(とみた さとし) 氏
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 PRESTO
「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」領域 研究員
 
1997年3月神戸大学工学部 卒業
1999年3月神戸大学大学院自然科学研究科 博士前期課程 修了
1999年4月日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2002年3月神戸大学大学院自然科学研究科 博士後期課程修了、博士(理学)取得
2002年4月理化学研究所ナノ物質工学研究室 協力研究員
2002年10月理化学研究所 基礎科学特別研究員
2002年12月科学技術振興事業団 戦略的創造研究推進事業 PRESTO研究員
 現在に至る
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図1 図1.
Right-Handed Materials (RHMs)とLeft-Handed Materials(LHMs)
図2 図2.
(a)Ni-ポリイミドナノコンポジット膜の断面透過型電子顕微鏡(TEM)像、(b)Ni-ポリイミドナノコンポジット膜の強磁性共鳴スペクトル。(甲南大学・赤松講師、理研・萩原副主任研究員との共同研究。)

関連論文:
  1. Tomita, S. et al.,
    J. Appl. Phys. 95, 8194 (2004).