画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第67号 : 2004年 7月 7日

研究者通信

名古屋大学大学院工学研究科 マテリアル理工学専攻応用物理学分野 助教授
科学技術振興機 構戦略的創造研究推進事業
さきがけタイプ 「相互作用と賢さ」研究者
石島 秋彦 氏

生体分子の1分子計測

(Issued in English: January 5, 2006)

生体内において、タンパク質などの生体分子は自己集合して分子機械を構成し、運動、信号処理、遺伝情報の読みとりといった生命活動に必要な様々な機能を担っている。この分子機械は、たかだか数十ナノメートルの小さな機械であるが実に巧妙にできており、そこには人工機械とは異なった動作メカニズムが存在することを期待される。これら生体分子の機能解明のために膨大な数の研究が行われてきたが、完全な理解にはまだ至っていない。これらの生体分子を調べるにはそれを直接見て、触れることである。我々は最近開発された1分子イメージング、1分子ナノマニピュレーション技術を用いて、生体分子を1分子レベルで直接観察、操作することにより、生体分子の運動、信号処理、遺伝情報などの機能のメカニズムに迫っている。

生体分子1分子レベルでの運動を計測するためには、生体分子を生きたまま、水溶液中で、ナノメートル、ピコニュートンオーダーの分解能を持つ計測システムが必要である。しかしながら、そのような計測装置は市販されていないので、我々は、装置の開発から実際の計測までを行っている。具体的には、非常に細くのばしたガラスニードルを用いて、溶液中を漂っている生体分子に直接触れ、操作する。この手法を用いて生体分子の運動の様子を数ピコニュートンの力、数ナノメートルの変位まで直接測定できるようになった。また、ガラスニードルの代わりにレーザートラップシステムを用いることによって時間分解能を上げることができ、生体分子の運動をさらに詳細に測定できるようになった。

我々が対象としている生体分子モーターはリニアモーター、回転モーターという二種類に大別できる。リニアモーターは筋収縮などに代表されるようにレールタンパクの上を分子モーターが運動するものであり、生物界ではほとんどの運動がこのリニアモーターである。回転モーターはバクテリアモーターやATP合成酵素などに見られるものであり、イオンの流れなどを用いて回転するモーターである。我々はこれら2種類のモーターの1分子レベルでの運動の計測を行っている。

その結果、リニアモーター(車軸藻ミオシン)において、1分子での運動を直接計測することに成功し、変位の大きさ、化学反応とのカップリング、負荷依存性などを明らかにできた。また、回転モーター(バクテリアべん毛モーター)においては、回転の様子、イオン濃度依存性、発生トルクと回転数との関係などを明らかにすることができた。ミオシン分子は約20nm程度の変位をおこし、こうした運動は1個のATP分子が加水分解してエネルギーを供給している間に何回も化学反応が起きて、力学的な動きが出来ることを示唆している。

今後は、さらに計測システムの分解能の向上を目指し、生体分子のエネルギー変換メカニズムの解明を目指していきたい。

図1
図2. 拡大
車軸藻ミオシンの1分子計測
石島 秋彦 氏
石島 秋彦(いしじま あきひこ) 氏
名古屋大学大学院工学研究科 マテリアル理工学専攻 応用物理学分野 助教授
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけタイプ 「相互作用と賢さ」研究者
 
1984年早稲田大学 理工学部物理学科 卒業
1986年早稲田大学大学院理工学研究科 物理学及び応用物理学専攻 修了
株式会社 本田技術研究所 入社
1987年
〜1988年
早稲田大学 理工学研究科 委託研修者
1989年
〜1992年
大阪大学 基礎工学部生物工学科 受託研究員
1992年大阪大学 工学博士 取得
1993年
〜1997年
新技術事業団 柳田生体運動子プロジェクト 研究員
1997年株式会社 本田技術研究所 退社
名古屋大学大学院工学研究科 応用物理学専攻 助教授就任
2004年名古屋大学大学院工学研究科 マテリアル理工学専攻 応用物理学分野 助教授 (改組に伴う所属名変更)
現在に至る
 
1998年第二回丸文学術賞(財団法人丸文研究交流財団)「光トラップを含む1分子レベルレーザー計測法の開発と生体分子モーターへの適用」
第六回日産科学賞(財団法人日産科学振興財団)「生体分子モーターの動作原理の解明」
2000年応用物理論文賞((社)応用物理学会)「ナノ領域の光の生物への応用 −生体分子1個の化学反応と力学反応の同時計測−」
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図1
図1.
バクテリアべん毛モーターの回転計測

関連論文:
  1. Ishijima, A., Kojima, H., Funatsu, T., Tokunaga, M., Higuchi, H., Tanaka, H. & Yanagida, T.
    Simultaneous Observation of Individual ATPase and Mechanical Events by a Single Myosin Molecule during Interaction with Actin.
    Cell 92, 161-171 (1998)
  2. Sowa, Y., Hotta, H., Homma, M. & Ishijima, A.
    Torque-speed Relationship of the Na+-driven Flagellar Motor of Vibrio alginolyticus.
    J. Mol. Biol. 327, 1043-1051 (2003).
  3. Kimura Y, Toyoshima N, Hirakawa N, Okamoto K. & Ishijima A.
    A Kinetic Mechanism for the Fast Movement of Chara Myosin.
    J. Mol. Biol. 328, 939-950 (2003).