科学技術振興機 構戦略的創造研究推進事業
さきがけタイプ 「相互作用と賢さ」研究者
石島 秋彦 氏
生体分子の1分子計測
生体内において、タンパク質などの生体分子は自己集合して分子機械を構成し、運動、信号処理、遺伝情報の読みとりといった生命活動に必要な様々な機能を担っている。この分子機械は、たかだか数十ナノメートルの小さな機械であるが実に巧妙にできており、そこには人工機械とは異なった動作メカニズムが存在することを期待される。これら生体分子の機能解明のために膨大な数の研究が行われてきたが、完全な理解にはまだ至っていない。これらの生体分子を調べるにはそれを直接見て、触れることである。我々は最近開発された1分子イメージング、1分子ナノマニピュレーション技術を用いて、生体分子を1分子レベルで直接観察、操作することにより、生体分子の運動、信号処理、遺伝情報などの機能のメカニズムに迫っている。
生体分子1分子レベルでの運動を計測するためには、生体分子を生きたまま、水溶液中で、ナノメートル、ピコニュートンオーダーの分解能を持つ計測システムが必要である。しかしながら、そのような計測装置は市販されていないので、我々は、装置の開発から実際の計測までを行っている。具体的には、非常に細くのばしたガラスニードルを用いて、溶液中を漂っている生体分子に直接触れ、操作する。この手法を用いて生体分子の運動の様子を数ピコニュートンの力、数ナノメートルの変位まで直接測定できるようになった。また、ガラスニードルの代わりにレーザートラップシステムを用いることによって時間分解能を上げることができ、生体分子の運動をさらに詳細に測定できるようになった。
我々が対象としている生体分子モーターはリニアモーター、回転モーターという二種類に大別できる。リニアモーターは筋収縮などに代表されるようにレールタンパクの上を分子モーターが運動するものであり、生物界ではほとんどの運動がこのリニアモーターである。回転モーターはバクテリアモーターやATP合成酵素などに見られるものであり、イオンの流れなどを用いて回転するモーターである。我々はこれら2種類のモーターの1分子レベルでの運動の計測を行っている。
その結果、リニアモーター(車軸藻ミオシン)において、1分子での運動を直接計測することに成功し、変位の大きさ、化学反応とのカップリング、負荷依存性などを明らかにできた。また、回転モーター(バクテリアべん毛モーター)においては、回転の様子、イオン濃度依存性、発生トルクと回転数との関係などを明らかにすることができた。ミオシン分子は約20nm程度の変位をおこし、こうした運動は1個のATP分子が加水分解してエネルギーを供給している間に何回も化学反応が起きて、力学的な動きが出来ることを示唆している。
今後は、さらに計測システムの分解能の向上を目指し、生体分子のエネルギー変換メカニズムの解明を目指していきたい。
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| 図2. 拡大 |
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| 車軸藻ミオシンの1分子計測 |



