画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第73号 : 2004年 9月29日

ナノネットインタビュー

山形大学工学部機能高分子工学科 教授
城戸 淳ニ 氏

有機ELフレキシブルディスプレイ実現に向けて
〜高効率化と長寿命化のカギ〜

試作品とはいえ、40インチのフラットパネルディスプレイを実現した有機EL(Electro Luminescence)。その基本的な構造は、電極の間に蛍光性有機材料を挟むだけと単純だ。注入された電子とホールの再結合により有機分子が励起され、緩和の際に放出されるエネルギーが光となって現れる。「今、有機ELの分野では、色は結構出ているんです。あとは高効率化と長寿命化ですね」と城戸氏は語る。

有機分子を電気で励起すると、電子状態はエネルギーの高い一重項と、低い三重項の2つの準位を取る。一重項からの緩和で発する光を蛍光と言い、三重項からの光をリン光と言う。従来の材料では、三重項から放出されるエネルギーは、光ではなく熱となって失われるため、常温でリン光が観察されることはない。有機EL素子において、一重項と三重項は、1:3の割合で発生することが理論的に明らかにされているため、電子が光子に変換される内部量子効率は25%が限界とされてきた。だが、ここ数年で、常温でリン光を取り出せる材料の開発が進んだ。イリジウムやプラチナの金属錯体だ。「金属イオンの影響が配位子に及んで、金属がない場合とは全く違う電子状態になっているんです」。このリン光材料の発光スペクトルを極低温で測定すると、通常見られる一重項と三重項のエネルギー差が全く観察されない。一重項と三重項のエネルギー差がほとんどなくなって、2つの状態の間を電子が行き来しながら発光している可能性がある。リン光と蛍光を同時に取り出すことで、理論的には内部効率100%が達成できる。

このリン光材料をホスト材料と呼ばれる媒体中に分散させると、効率はさらに上がる。「発光する分子の濃度を上げすぎると、分子同士の相互作用が強くなって、ぴょんぴょん分子間を跳び回るみたいにエネルギーのやり取りが起きるんですよ。そのうちに光らない物質や欠陥に捕まって失活してしまう。だから、媒体中に低濃度で分子が分散している状態が、実は一番発光効率が良いんです」。発光材料の励起を妨げぬよう、ホスト材料の励起エネルギー準位は発光材料より高い必要がある。城戸氏が最近開発した材料の一つが、青色リン光材料向けのホスト材料。「従来の青色蛍光材料では、一重項からの発光だけなので、ホスト材料の発光スペクトルは青色の450nmよりも、ちょっとだけ短波長よりにピークがあれば良かったんです」。だが、リン光材料では三重項からの発光もある。そのため、ホスト材料の三重項の準位も青色の450nmよりも高くなければならず、ホスト材料の発光スペクトルのピークは350nmになる。最近開発された新しいホスト材料は、複数のフェニレンが結合した分子だが、従来の材料と比べて分子の中心部により多くのフェニレンが配位されている。「非常に混雑した状態で、フェニレン同士がぶつかり合う感じになるんです。そうすると、そこがプロペラみたいにちょっとねじれてくるんです」。このねじれによってπ共役が切れ、エネルギーギャップが大きくなる。加えて、分子量が増すことで成膜性も高まった。

リン光材料やワイドギャップのホスト材料のような自然界に存在しない材料を、有機化学の過去の蓄積を元に創出して使うことができるのが有機ELの強みだ。「有機ELの効率や寿命は、基本的には使う材料で決まってくるんです。有機ELは半導体デバイスなんですが、一番重要な材料のところは化学者が握っているという、非常に面白い分野だと思います」。

液晶と同程度の輝度、100カンデラで駆動した場合の素子の寿命は、黄色の発光素子で100万時間。だが、フルカラー化に必要な赤・青・緑の素子の寿命はこれに劣る。有機EL素子では、高い輝度を求めて大きな電流を流すと、有機材料の結晶化や劣化が進行するため、その寿命はさらに短くなる。そこで城戸氏が提唱するのが、複数の発光層の間に電荷発生層を挟み込んだマルチフォトン構造だ。「低い電流でぼんやり光らせていれば長時間もつんですよ。マルチフォトン構造は、素子を直列に接続しているのと一緒なんです。二段重ねの場合、同じ電流で二倍の光が出ますから、一定の輝度を達成しようとすると、電流は従来の素子の二分の一で良いわけで、それだけ長寿命化できる」。リン光材料で内部量子効率を高めると同時に、マルチフォトン構造を採用すれば、発光効率は大幅に高まる。また、赤・青・緑の発光層を重ねることで、高輝度の白色有機EL素子を作ることもできる。現在、有機ELディスプレイのフルカラー化では、基板上に赤・青・緑の素子を真空蒸着で塗り分けて配置する試みがあるが、高精細な塗り分けが実現できていない。白色の素子にカラーフィルターを組み合わせてフルカラー化する方法が、より現実的なアプローチとして注目されている。

製作に高温プロセスを用いない有機ELでは、基板にプラスチックを用いたフレキシブルなディスプレイを作ることが可能だ。そのカギとなる有機TFT(Thin Film Transistor)の研究も、城戸氏が率いるNEDO技術開発機構「高効率有機デバイスの開発プロジェクト」で進められている。この先、何をどうすればフレキシブルディスプレイに至るのか、その道筋は見えていると城戸氏は言い切る。「有機TFTで問題になっていた電子移動度も、アモルファスシリコン並みに高くなったんです。リン光材料やマルチフォトン構造で有機ELの発光効率も上がってきています。プロジェクトがあと5年延長になったら有機ELと有機TFTを合体させて、大型でペラペラのディスプレイを作ってみせます」。

(聞き手:コスモピア 石黒 邦子)
城戸 淳ニ 氏
城戸 淳二(きど じゅんじ)氏
山形大学工学部機能高分子工学科 教授
 
1984年3月早稲田大学理工学部応用化学科 卒業
1984年9月ニューヨークポリテクニック大学大学院
Polymer Chemistry専攻入学
1987年2月M.S.(工学修士号)取得
1989年2月Ph.D.(工学博士号)専攻終了
1989年3月山形大学助手 工学部高分子化学科
1995年5月山形大学助教授 工学部物質工学科
1996年4月山形大学助教授 大学院工学研究科 生体センシング機能工学専攻
2002年
11月〜
山形大学教授 工学部機能高分子工学科
1990年
〜1992年
アメリカ ブルックヘブン国立研究所 客員研究員
2002年〜経済産業省・NEDO 「高効率有機デバイスの開発」プロジェクト 研究総括責任者
2003年〜山形県企業振興公社 有機エレクトロニクス研究所 所長
 
受賞等
1990年高分子学会 若手奨励金受賞
2002年高分子学会 学会賞受賞
2002年米国情報ディスプレイ学会 特別功績賞受賞
2003年(財)光産業技術振興協会 櫻井健二郎氏記念賞受賞
図1
図1. 白色発光有機EL素子
山形大学研究室では、1993年に高分子中に赤、緑、青の蛍光色素を分散して発光させることにより、有機EL素子において世界で始めて白色発光を得た。95年には、赤、緑、青の蛍光色素を真空蒸着法により積層することにより、白色発光を得ることに成功した。その後、新規材料の開発や低電圧化技術、新規素子構造の開発を経て、実用化レベルの白色発光素子の開発にいたっている。
図2
図2. ソニーが開発した12.5インチのフルカラーディスプレイ
白色をカラーフィルターを組み合わせてカラー化しているのが特徴。低温ポリシリコンTFT基板上に、白色有機ELを成膜して基板と逆側に光りを取り出す「トップエミッション」構造を採用して、発光面積の割合が高く、高い輝度を実現している。また、有機膜厚や透明電極の厚みを調整することにより、望みの波長域を光りの干渉効果で強調して色の再現性が非常に高いのが特徴。

キーワード
白色カラーフィルター法
有機ELを用いたフルカラーディスプレイは、光りの三原色である赤(R)、緑(G)、青(B)の微細な発光素子(サブピクセル)を基板上に配置することにより作製できるが、その方法は大きく3種類にわけられる。1)RGBの発光素子を配置する、2)液晶ディスプレイで使用されているようなRGBカラーフィルターと白色有機ELを組み合わせてRGB化する、3)RGBの微細な蛍光性膜とそれらを励起するための青色有機ELを組み合わせる。
この中でも、シャドウマスクを用いることのできない大型基板や大型ディスプレイの製作には、RGBカラーフィルターを白色ELと組み合わせてRGB化する方法が最も現実的である。