多々良 源 氏
ナノ磁性体のスピントロニクスの理論と応用
ナノスケールの磁石を電気が流れる際に起きる現象について理論的に研究している。スピントロニクスという、ナノスケールでのスピンと電荷の輸送の問題である。問題は大きく分けて [1]. 磁石の向きによって電流がどう変化するか(磁気抵抗効果)、[2].逆に電流により磁石の性質をコントロールできるか(電流による磁化反転。磁気抵抗の一種の反作用)、の2つである。
[1]の磁気抵抗効果は古くはカセットテープなどの磁気記録デバイスに用いられているが、最近では100倍程度の性能を持つ多層膜構造でのGMR効果が発見され、ほとんどのハードディスクにGMRヘッドが用いられている。しかし人間の欲は深いもので、磁気記録デバイスについては今現在もさらに高密度化が著しい速さで進んでいる。このままいくと2005年以降には現状のGMRヘッドの限界にまで達すると思われる。そのためトンネル型磁気抵抗素子など新たな素子の開発に向けた基礎研究が世界中で進められている。私自身は、ナノスケール接合の場合の磁気抵抗現象について、応用に向けた基礎研究の立場から研究している。ナノ接合では時にはGMR効果を何桁も上回る大きな磁気抵抗効果が最近報告されているが、人類はまだナノ構造を完全に制御できるにいたっていないため実験の再現性や理解はほとんど未知の大きな課題となっており、本物なのか幻なのか定かではない。本物なら間違いなく次世代もしくは次々世代の磁気記録の中心となる現象で、非常にエキサイティングな研究テーマである。
従来は磁気記録は電流による磁場を用いているが、この方法では高密度化に明らかな限界があるため、[2]の電流による磁化反転が、応用上は将来の超高密度記録素子の書き込みを高速で行うための必須の技術となろう。現象としては磁石のナノ構造の中を電子が通る際に電子のスピン角運動量及び運動量がどのように磁石を構成する磁化や磁壁に受け渡され、その結果どのように磁化や磁壁の運動に変換されていくかという問題である。この問題に対して多体量子系を記述するグリーン関数法を用いた厳密なアプローチで解析を行っている。特に、[1]でも重要なナノ接合の場合における、磁壁の運動による書き込みに必要な電流の見積もり、またどうすればそれを小さくすることができるか、どうすれば高速動作ができるかなどの応用上重要な予測を行っている。
また、ナノスケールで期待される量子効果による特異なスピンや電荷の輸送現象の解析と量子スピントロニクスへの応用の研究も行っている。最近では伝導性のリングに3つの磁石を載せるだけで電流が流れ始めるというスピンJosephson効果などの予言を行った。この現象は、3つの磁石によって電子に位相差が生じることによって引き起こされるもので、残念ながらナノの世界で低温でしか見ることができない。



