画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第76号 : 2004年11月10日

ナノテク最前線

東京工業大学大学院総合理工学研究所科 教授
青柳 克信 氏

深紫外半導体発光素子の開発
〜表面現象を利用して高効率化を図る〜

(Issued in Japanese: September 28, 2006)

「僕が最終的に狙っているのは、水銀ランプを半導体発光素子に置き換えることとHe-Cdレーザーに置き換わる半導体レーザーを作ることなんです」。青柳氏が開発を目指す深紫外半導体発光素子の発光波長は350nm〜200nm。実現すれば、水銀ランプに代わって医療での殺菌処理はもちろん、PCBなどの安定な化学物質の分解や、青色レーザーによるものを上回る高集積記憶デバイスの実現など、様々な応用展開が考えられる。材料となる窒化アルミニウム・ガリウム(AlGaN)の組成比を変えれば、200nmから400nmまで発光波長を変えられるが、素子の実現にはいくつかの問題が存在する。これらの問題は現北大の田中悟助教授、理研の武内道一研究員、平山秀樹研究員との共同研究の中で解決されていった。

第一の問題が発光強度を支配するp型半導体のキャリア濃度だ。バンドギャップの大きな窒化物のp型半導体では、不純物によるアクセプタ準位が価電子帯よりも100meV以上高いところにあり、十分なホールが供給されない。その解決策として理論の側から提示されたのが、ドナーとアクセプタのコドーピングによってアクセプタ準位を下げることだった。しかし、p型半導体にマグネシウム(Mg)とシリコン(Si)を一緒に混入しただけではうまくいかない。「肝心なのはMg2個とSi1個の複合体を作ることなんだけど、GaN結晶成長時にMgとSiを混入して、あとで複合体にしようと思っても、GaN結晶は強い結合力を持っているから拡散して反応するのは無理なんですよ。一方で、僕が昔、原子層成長の技術開発をやった時によくわかったのは、結晶表面の上の原子はすごい勢いで走り回っているということなんです」。そこで、結晶成長を一旦休止した表面にMgとSiを供給し、再び結晶成長を繰り返す交互供給コドーピング法を開発することにより、Mg・Si複合体の合成に成功した。GaNでは、レーザー実現に十分なキャリア濃度1019cm-3を達成、アクセプタ準位がより高いAlGaNでも、 5×1018cm-3を実現している。「AlN濃度が15%くらいまではうまくいく。でも、水銀ランプの持つ254nmを実現するには、70%くらいまで持って行かないと」。Al濃度が高くなるほどアクセプタ準位も高くなるため、コドーピング法だけで十分に準位を下げられるかどうかは明らかではない。だが「その場合でも、実はまた別のアイディアがあるので」と自信を覗かせる。

次なる問題は、発光効率の向上に不可欠な、活性層における量子ドットの形成だ。深紫外半導体発光素子では、活性層とクラッド層の材料の組成にほとんど差がなく、格子歪みを利用した量子ドットの作製は困難だ。「でも、表面エネルギーさえコントロールしてやれば、できるということがわかったんです」。AlGaNの表面に、テトラエチルシリコンを撒くと、表面のダングリングボンドが終端されて表面エネルギーが低下する。その結果、次に積層されるGaNは、面状に広がるよりも量子ドットを形成する方がエネルギー的に低くなり、わずかな格子定数の差しかなくとも量子ドットを形成する。通常、結晶成長で三次元成長を抑制する表面改質剤をサーファクタントと呼ぶが、これとは逆に三次元成長を促すこの手法を、青柳氏はアンチサーファクタントと名付けた。実は、このアンチサーファクタント処理を研究する過程で、もう1つの問題、貫通転位の解決策も得られた。窒化物では、それと格子定数の大きく異なるサファイアを基板に用いるため、格子のずれから転位が生じ、結晶を貫通する。この貫通転位に電子がトラップされるため、発光効率が低下する。 だが、アンチサーファクタント処理をほどこすと基板から窒化物への転位の貫通を止めることができ、通常1010cm-2ある転位密度が二桁下がり、素子化に十分な質の結晶が得られた。ただし、これはGaNの場合で、高いAl濃度のAlGaNに関しては、量子ドットの形成、低転位化ともに実験の最中だ。

波長254nmの発光素子を目指す中、青柳氏はフォトニック結晶にも注目している。これは理研(元東工大)の井上振一郎研究員との共同研究の成果であるが、「フォトニック結晶の一番面白いところは非線形光学効果なんです。この結晶は光が中に閉じこもっている時間が長いので、非線形光学材料を使えば、材料と光との相互作用の時間が100倍、1000倍になっちゃうわけ」。それによって、今まで10cmの材料で得られていた非線形光学効果と同じものが、1mmの材料で得られることになる。当初は、高い非線形効果を持つ有機材料をPMMAに混ぜてフォトニック結晶に成形したが、光で劣化しやすい有機材料は寿命が短く、実用化のネックになる。一方、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)のような安定で高い非線形光学効果を持つ材料は加工性が悪く、それ自身でフォトニック結晶を作ることは難しい。そんな中、青柳氏が見出したのがフォトニックヘテロ構造だった。 LiNbO3の上にポリメタクリル酸メチル (PMMA)で作ったフォトニック結晶を重ねた構造で、これならば、安定な材料のみで非線形光学効果を持つフォトニック結晶が作れる。
「うまく設計してやると、フォトニックの性質を感じながら非線形の性質も同時に感じるような電界分布を作ることができるんですね。この中に光を通すと、二次高調波といって、508nmの波長のレーザから半分の254nmが出てくるとか、和周波といって800nmと700nmを通すと、そのエネルギー和に等しい370nmの光が出てくるという可能性がある」。もう一つの狙いである325nmのレーザーはこの方法で簡単に出せるかもしれない。

青柳氏の研究歴は有機半導体からスタートしている。「だから僕自身の中で、有機物と無機物、半導体とが融合していて、組み合わさった発想が簡単に出てくる。だけどバイオだとすごく距離があって、もっと階層が上のところで境界領域をやらなければならない時代に今はなっている。それは共同研究では埋め尽くせないのね。それで、バイオの勉強を始めたんだけど、アメリカなんかだと学部の時にバイオの授業が必修で、彼らには一番頭の柔らかい時にベースが刻みこまれているんですよ。それが必要になった時に簡単に出てきて結合するわけ」。今の若い人は自分の専門にものすごく特化している。それは大切だが、別の分野のことをよく知るという基本姿勢を是非持ってもらいたいと青柳氏は言う。「例えば、遊び感覚でまわりの分野を楽しむというのがあると、すごく良いと思うんですよね」。

(聞き手:コスモピア 石黒 邦子)
青柳 克信  氏
青柳 克信(あおやぎ よしのぶ)氏
東京工業大学大学院総合理工学研究科 教授
理化学研究所ナノサイセンスプログラム技術開発・支援チームチームリーダー兼務
 
1970年大阪大学大学院基礎工学研究科 博士課程終了
1970年日本学術振興会奨励研究員
1972年理化学研究所研究員
1985年理化学研究所副主任研究員
1988年
〜2002年
理化学研究所主任研究員
2000年
〜2002年
東京工業大学大学院総合理工学研究科 教授
理化学研究所主任研究員兼務
2002年
〜現在
東京工業大学大学院総合理工学研究科教授
理化学研究所ナノサイセンスプログラム技術開発・支援チーム チームリーダー兼務
 
1989年
〜1992年
大阪大学 客員教授兼務
1999年
〜2002年
東京理科大 客員教授兼務
1996年
〜1997年
Lund大学(スエーデン)客員教授兼務
1999年
〜2000年
北海道大学客員教授兼務
 
役職等
1987年
〜1989年
日本科学技術会議航空・電子等技術審議会
インテリジェント材料分科会委員
1990年
〜2001年
International Editor of “Advanced materials”
1990年
〜2001年
International Editor of “Applied Physics”
1990年
〜1996年
日本学術振興会151委員会 原子オーダープロセッシング分科会 主査
1992年応用物理学会“応用物理”編集委員長
1996年
〜1998年
Editor-in-Chief of “Japanese Journal of Applied Physics”
1998年
〜2002年
Editor- in-Chief of “MicroElectronic Engineering”
1999年
〜2003年
CREST“電子相関機能のダイナミクス制御”プロジェクトリーダー
2001年
〜現在
日本学術振興会151委員会委員長
2002年
〜現在
Editor-in-Chief of “Materials Science and Technology B”
 
受賞等
1983年大河内記念技術賞
1991年市村科学特別賞
1993年全国発明表彰弁理士会長賞
1995年応用物理学会賞
1997年科学技術長官賞
1999年MRS最優秀ポスター賞
2002年MNC最優秀論文賞

図1
図1. 深紫外発光素子の応用分野  拡大
上記の様に種々の応用分野が期待される。
図2
図2. 交互供給コドーピング法の概念図  拡大
表面で2種類のドーパントを十分運動させることによりお互いに会合させ違ったドーパントの2両体を形成する確立をあげることができる。直接結晶の中にドーパントを入れるとドーパントはほとんど動くことができず、結晶の中に2両体を作ることができない。

図3
図3. 交互供給コドーピング法によるアクセプターレベルの活性化エネルギーの低減
GaNでおこなった交互供給コドーピング法によって形成されたアクセプターの活性化エネルギー。通常のアクセプターの供給法では100meV以上の活性化エネルギーがあるが、本方法で行った場合活性化エネルギーは約40meVまで下がりアクセプター濃度も大きく増大する。
図4
図4. 結晶成長の成長モードと格子歪み並びに表面自由エネルギーの関係  拡大
基板と形成しようとする量子ドットの格子定数がほとんど同じ場合はいわゆるlayer-by-layer結晶成長モードとなり量子ドットは形成されない。

図5
図5. アンチサーファクタントの量と量子ドットの形成の過程  拡大
基板表面にアンチサーファクタントを1原子層以下のわずかの量を散布することにより基板の表面エネルギーを大幅に下げることができ、それによって格子定数がほとんど同じ材料でも量子ドットが形成される。上図はアンチサーファクタントを増やしていくことによって量子ドットが形成されていくことが分かる。
図6
図6. アンチサーファクタントによる結晶転位の低減  拡大
アンチサーファクタントによって結晶の転位も大幅に低減する事ができる。上図でGaNバッファーでは多量の転位が見て取れるがアンチサーファクタントをその上にばらまいた後での結晶にはほとんど転位が見受けられない。



キーワード
アンチサーファクタント
通常サーファクタントは結晶の表面エネルギーを変調させ格子歪みによる量子ドットの形成を阻止する方向に働くが、我々が述べるアンチサーファクタントは役割がそれとは全く異なり、むしろ表面に量子ドットを形成しやすくする役割をもつ。
交互供給コドーピング法
本方法は原料となるドーパント(この場合はMgとSi)並びに結成組成を交互に供給し表面でのドーパントを動きを用意にすることによりMgとSiの会合体を形成しやすくする方法である。この方法を持ちないと結晶の中ではドーパントは動かず会合体は形成されない。従って活性化エネルギーのアクセプター準位は形成されない。