斉藤 美佳子 氏
単一細胞操作支援ロボットを用いたES細胞へのナノインジェクション
遺伝子を改変する技術は改変された遺伝子の機能を評価するために行われるもので、人の様々な疾患に関連すると思われる原因遺伝子の解明に役立つ。人およびマウスの全ゲノム配列が明らかにされたことで、ある遺伝子を改変してその表現型からその遺伝子機能を評価するという考え方が可能となった。それゆえ疾患を遺伝子レベルで理解し、それに基づく治療法の検討や新規薬剤の開発が試みられるようになってきている。疾患関連遺伝子それぞれについての遺伝子改変細胞をライブラリーとして得ることができれば、動物個体の代替として、薬剤の評価や治療法の開発などに利用できると期待される。
扱う細胞としてES細胞は非常に魅力的である。ES細胞を遺伝子改変してES細胞チップを作ることが可能となり、そこから分化させた細胞を用いて疾患関連機能の解析が可能となる。ES細胞を遺伝子改変する方法として、細胞内へ複数の物質を直接導入することができるインジェクション法は極めて有用である。しかし、インジェクションを行うには、顕微鏡を覗きながら細胞の選択、保持、細胞へのキャピラリーの刺入などの一連の操作が必要なため煩雑で多くの時間を費やす。そこで、これらの作業を高効率で行えるように、駆動部の集中制御、細胞位置登録機能などを有する、単一細胞操作支援ロボットを開発した。このロボットを用いて接着性の細胞へ遺伝子のインジェクションを行ったところ、従来に比べて10倍以上高速に処理できるようになった。さらに、これまでES細胞のインジェクションに成功したという論文報告例はなかったが、この単一細胞操作支援ロボットを用いてES細胞への遺伝子導入に見事な成功を収めた。
今後、ES細胞内の細胞質に導入しなくてはならない場合が生ずるであろうことは、容易に想像できる。ES細胞の細胞質は非常に少ないため、これまでのマイクロインジェクションでは非常に狭い空間領域内のみに導入することは極めて難しい。ナノインジェクション法は、それを可能にするものと期待される。
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| 図1. 拡大 |
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| 左右一対の3次元(XYZ)マニピュレーターを一対のジョイスティックで操作する。左側のマニピュレータには細胞保持用マイクロピペットを取り付ける。右側マニピュレーターには細胞刺入用マイクロピペットを取り付ける。 |
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| 図2. 拡大 |
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| ES細胞で恒常的に発現している遺伝子のプロモーターにレポーター遺伝子を挿入したプラスミド(pCMV-EGFP)をインジェクションしたところ、24時間培養後にGFPの蛍光が観察された。 |
関連論文:
- Matsuoka, H., Komazaki,T., Mukai,Y., Shibusawa,M., Akane,H., Chaki,A., Uetake,N. and Saito,M.
High throughput easy microinjection with a single-cell manipulation supporting robot.
J. Biotechnol. in press. - Saito,M., Saga,A. and Matsuoka,H.
Production of a cloned mouse by nuclear transfer from a fetal fibroblast cell of a mouse closed colony strain.
Exp. Anim. 53 (5), 467-469 (2004). - Saito,M., Mukai,Y., Komazaki,T., Oh, Ki-Bong, Nishizawa,Y., Tomiyama,M., Shibuya, N. and Matsuoka,H.
Expression of rice chitinase gene triggered by the direct injection of Ca2+.
J. Biotechnol. 105, (1/2), 41-49 (2003).



