画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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「我が国の中長期的なナノテクノロジー・材料分野の研究開発の方向性」
に関する報告書

科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ナノテクノロジー・材料委員会
平成17年1月

「ナノテクノロジー・材料分野」は、第2期科学技術基本計画において重点4分野の1つに位置付けられ、優先的に研究開発資源を配分すべき分野とされた。総合科学技術会議は、「ナノテクノロジー・材料分野の推進戦略」を策定、ナノテクノロジー・材料分野において重点領域並びに当該領域における研究開発の目標及び推進方策の基本的事項を定めた。これを受けた文部科学省科学技術・学術審議会の「ナノテクノロジー・材料に関する研究開発の推進方策について」では、今後10年程度を見通した上で当面の5年程度について重点的に推進すべき研究開発課題及び推進方策等を示し、これに沿って文部科学省では基礎的・先導的な研究開発から実用化を展望した研究開発を戦略的に推進し、また、人材育成への取組や機関・分野を越えた総合的な支援を実施している。

一方、米国、欧州及び東アジア諸国においても、ナノテクノロジーを次なる産業革命をリードするための科学技術分野と位置づけ、ナノテクノロジーに関する戦略的な取組が行われている。とりわけ、米国では、「国家ナノテクノロジー戦略(National Nanotechnology Initiative:NNI)」、「21世紀ナノテクノロジー研究開発法」、「NNI戦略計画」などを成立、策定させ、ナノテクノロジーに関する研究・教育等の取組の一層の強化を図っている。

このような状況の中で、我が国の優位性を確保し、広範な科学技術の発展を図り、産業の技術革新を先導していくためには、戦略的かつ的確な対応が必要である。そのため、今後中長期的に文部科学省がナノテクノロジー・材料分野において強化すべき研究開発関係施策の方向性等について検討するため、ナノテクノロジー・材料分野戦略検討チームが設置され、本チームの検討結果をさらに科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会ナノテクノロジー・材料委員会が審議し、取りまとめたものが本報告書である。

本報告書は、今後の中長期的に推進すべきナノテクノロジー・材料分野の研究開発の方向性を提言したものであり、平成18年度から始まる第3期科学技術基本計画の策定に向けた検討に資することが期待される。


「我が国の中長期的なナノテクノロジー・材料分野の研究開発の方向性」に関する報告書
− 要約 −

この報告書は、最近のナノテクノロジーを巡る国内外の動向等を踏まえ、今後中長期的に文部科学省がナノテクノロジー・材料分野において強化すべき研究開発関係施策の方向性等について検討するため、ナノテクノロジー・材料分野戦略検討チームを設置し、本チームの検討結果をさらに科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会ナノテクノロジー材料委員会において審議し、取りまとめたものである。

1.ナノテクノロジー・材料科学技術分野の現状認識

ナノテクノロジー・材料分野は、広範な科学技術分野の飛躍的な発展の基礎を支える重要分野であるとともに、特にナノテクノロジーは、21世紀においてあらゆる科学技術の基幹をなすものである。

我が国の研究成果は主要産業の基盤となる大学の研究成果が多いこと、基礎研究が強く、新たな産業を支える研究成果が出始めているという研究開発水準の認識が示されている。 この分野は領域が幅広いため、重点領域の設定が重要であり、また、研究推進のために研究戦略拠点の構築、ユーザーファシリティの充足、研究者間ネットワークの形成などのシステム構築が重要である。

諸外国においては、ナノテクノロジー・材料分野の研究開発競争が激化しており、特に米国のNNIでは、ナノテクノロジー・材料分野について重点領域の設定、研究開発システムの構築、人材の育成などを戦略的に実施している。

2.今後推進すべき施策

我が国が今後推進すべき施策として、重点領域の設定、研究開発体制の充実、責任ある研究開発の考え方が示されている。

  1. 重点領域の設定では、基本的に、基盤技術として、ナノ領域の特質を最大限に引き出すための計測、分析、造形、シミュレーション、モデリングなど、日本の技術力が高い領域のより一層の推進が重要である。また、ナノ領域の知見の拡大により、幅広い応用可能性を有した分野とナノ技術・知見の融合が革新的な研究成果を生み出す可能性が増大している。これを踏まえて融合領域における新しい学問領域の構築や研究開発の推進が重要である。また、ナノ領域の研究に基づき得られた知見や技術をもとにすることで、革新的な機能を有する材料研究の展開の可能性が拓けており、材料研究の推進がこれまで以上に重要となっている。この基礎的な認識を踏まえ、以下の4つの重点領域を設定した。
    • 情報通信分野:
      超高速化、超大容量化を可能とする量子による情報通信原理(量子情報通信、量子計算、量子メモリ・中継)、全く新しい材料・機能を利用する分子・バイオ・スピンエレクトロニクス(単分子集積デバイス、単一スピンメモリ、五感情報デバイス)、高速、大容量の情報処理を支える高度次世代エレクトロニクス(テラビットメモリ、超高速・超高集積LSI、量子ドット光デバイス、パワーデバイス)
    • ライフサイエンス分野:
      オーダーメイドの診断・治療などを実現するバイオナノテクノロジー(セルセラピー、バイオナノマテリアル、バイオナノマシン、バイオインスパイアドナノデバイス・システム)分子・バイオ・スピンエレクトロニクス
    • 環境・エネルギー分野:
      一層の高効率化や新しい機能のための環境・エネルギーナノ材料(燃料電池用ナノ構造制御材料、ナノエコエネルギー変換材料、ナノ触媒)
    • 基盤技術:
      材料の諸物性の飛躍的向上や新機能を実現するナノ構造制御・新規物質材料の創製技術(サブナノテーラードマテリアル、ナノソフトマシン、プログラム自己組織化)、ナノ計測・分析・造形技術(極微細構造・物性3次元可視化技術、NEMS、単分子マニピュレータ)、ナノ材料モデリング・シミュレー ション、第一原理計算分子動力学計算)

  2. これらの重点分野について、分野を支えるサイエンスを強く意識した上で、サイエンスを起点に目標とする社会の実現に向けた技術発展のシナリオを描いている。
     
  3. 研究開発体制の充実
    ナノテクノロジー・材料分野の発展には、大学等を核とした産学・異分野連携を促進する研究開発体制の充実が重要であり、知的財産の活用による技術移転の促進を図るべきである。
    • ユーザファシリティの拡充:
      世界のトップレベルの研究開発力を達成し、維持して行くためには、最先端のユーザーファシリティを戦略的に拡充して行くことが必要で、その際蓄積された設備・経験を効果的に活用できるよう制度設計を早急に行う必要がある。また、ナノテクノロジー・材料分野を支える基盤となるナノ計測・分析技術のうち、重要であり、かつ大規模であるため国家レベルの取り組みが必要になる中性子線、X線レーザなどの整備運用について検討を開始する。また、ナノスケールで構造を制御した新機能を有する物質・材料の創製技術において、物質の性質を理解し設計する上で益々重要になるナノ材料モデリング・シミュレーションを飛躍的に向上させるため、スーパーコンピュータの整備などを行う必要がある。
    • 研究拠点の設置とネットワークの形成:
      国内外から先鋭的な研究者が会しシナジー効果を発揮する研究拠点の設置とネットワークの形成については、世界で戦略的に取り組まれ、社会的・政策的ニーズが強い。今後重点的に進めていくべき研究領域において、「ライフ・環境・情報通信分野に役立つバイオナノテクノロジー研究拠点」、「エネルギーとナノテクノロジー・材料の融合分野における革新的材料の研究拠点」など、世界に開かれた研究拠点の形成が必要である。また、ユーザーファシリティや当該研究拠点を核に、国内外の研究者を有機的にネットワークで結ぶことが必要であるとしている。
    • 大学などにおけるナノテクノロジー・材料分野の人材育成。
      ナノテクノロジー・材料分野は大きな飛躍が期待される分野であり、産学官のリーダーとなる若手研究者の育成を、我が国として開始することが求められている。このため、若手研究者の欧米諸国等との国際交流を推進するとともに、当該分野における人材育成には、幅広い学問分野を横断・包含する新しい教育システムを早急に構築することが必要である。その例として、いくつかの大学院において、先導的に、幅広い学問分野を横断・包含する新しい教育システム(教育カリキュラムの策定・実施、教育コースの運営体制の構築、産業界へのインターンシップの導入など多様なプログラムの実施)を構築し、21世紀の産学官のリーダーとなることを期待される大学院博士課程相当の研究者を戦略的・組織的に育成する。
    • 産学官連携の強化
      現時点では、この分野の研究成果は萌芽的な研究成果が多く、今後、産業化に向けて基礎研究と実用化をつなげて行く必要がある。今後は、実用化を見据えた明確なビジョンを有する産学官連携の研究体制を構築することが必要である。

  4. 責任ある研究開発の考え方
    科学技術の発展と社会の利益が相反しないよう、あらかじめ技術的側面とともに社会的側面としての利点や課題について検討することが重要である。ナノテクノロジーは、新しい学問、新しい産業につながる科学技術領域であり、社会経済の発展、人々の生活水準の向上等への貢献は非常に大きいものと期待されている。その一方で、工業的利用、医療応用などで、人、環境、社会に影響を及ぼす可能性も指摘されるとともに、産業利用における国際標準化などの動きにつながって行くと考えられ、以下について総合的、戦略的に推進して行く必要がある。
    • 社会的事項:
      ナノ粒子などの安全性に関する研究、リスクアセスメント、倫理面や環境面などの検討
    • 国際的枠組への参画:
      ナノテクノロジーの社会的影響に関する多くの情報の共有化、ナノ粒子などのリスクアセスメントの国際的標準化等の検討

(nanonet 北村 孝雄 )
報告書本文もナノテクウォッチの「政策」欄に掲載しています。