科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」研究者
石内 俊一
超臨界流体ジェット法の開発と生体関連分子の気相ジェットレーザー分光への応用
超音速ジェットレーザー分光法は、断熱膨張冷却(ジェット冷却)による分子の内部状態の単色化と高輝度波長可変レーザーを組み合わせることにより、単一分子と同等の情報を得る事ができる分子分光学の理想的な研究手段である。近年、この方法は次世代の新分析技術として極微量分析への応用の期待が高まっている。図1に溶液や通常気相での分光法と超音速ジェット法との比較を示す。図に示すように超音速ジェット法では非常にシャープなスペクトルが観測され、分子の電子・振動・回転状態に関する詳細な情報が得られる。さらに、極端パルスレーザーを用いる事により、化学反応や分子会合体形成に伴う構造変化を実時間で追跡する事も可能である[1]。
しかし、生体関連分子や人工機能性分子(ナノテク分子)に超音速ジェット法を適用するのは困難であった。超音速ジェットを発生させるには試料分子を気化する必要があるため、不揮発性・熱分解性の固体試料への適用が難しいからである。この問題を克服するために、本プロジェクトでは、固体試料の超臨界流体溶液をそのまま真空中にジェット噴射する事で、固体試料の気化及びジェット冷却を同時に行うという新しい方法の開発を進めている(図2)。技術的に難しいのは、100気圧を超える高圧流体をジェット噴射しても10-5Torr 程の高真空を保持しなければならない点である。真空槽の大排気速度化とともに、ガス導入量を極力少なくする目的で口径数μmの微小ピンホールノズルまたは高圧パルスノズルを用いている。
一般的によく用いられる超臨界CO2は無極性溶媒であるため極性分子の溶解力は乏しいが、これに微量の極性有機溶媒(エントレーナー)を添加すると極性分子に対する溶解力が著しく改善される事が知られており、超臨界CO2ジェットにおいてもエントレーナーの添加により50℃程度の低温で不揮発性分子の超音速ジェットが得られる事が実証された。通常のガスを用いた超音速ジェットの場合、このような微量の有機溶媒が共存すると、ジェット噴射の際に試料分子に多量の有機溶媒分子が付着したクラスターが生成し、質量分析や分光測定に大きな支障を来すが、超臨界流体ジェットではそのような問題は起こらず、ジェット冷却された非常に鋭いスペクトルが観測される。超臨界溶媒やエントレーナーを適切に選択する事により様々な分子への適用が可能であり、今後、生体関連分子やナノテク分子のレーザー分光への応用が期待される。
関連論文:
- Ishiuchi, S., Sakai, M., Tsuchida, Y., Takeda, A., Kawashima, Y., Fujii, M., Dopfer, O. & Muller-Dethlefs, K.
Angew. Chem., Int. Ed. in press.



