画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第96号 : 2005年9月7日

研究者通信

東京工業大学 資源化学研究所分光化学部門 助手
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」研究者
石内 俊一

超臨界流体ジェット法の開発と生体関連分子の気相ジェットレーザー分光への応用

(Issued in English: February 22, 2007)

超音速ジェットレーザー分光法は、断熱膨張冷却(ジェット冷却)による分子の内部状態の単色化と高輝度波長可変レーザーを組み合わせることにより、単一分子と同等の情報を得る事ができる分子分光学の理想的な研究手段である。近年、この方法は次世代の新分析技術として極微量分析への応用の期待が高まっている。図1に溶液や通常気相での分光法と超音速ジェット法との比較を示す。図に示すように超音速ジェット法では非常にシャープなスペクトルが観測され、分子の電子・振動・回転状態に関する詳細な情報が得られる。さらに、極端パルスレーザーを用いる事により、化学反応や分子会合体形成に伴う構造変化を実時間で追跡する事も可能である[1]。

しかし、生体関連分子や人工機能性分子(ナノテク分子)に超音速ジェット法を適用するのは困難であった。超音速ジェットを発生させるには試料分子を気化する必要があるため、不揮発性・熱分解性の固体試料への適用が難しいからである。この問題を克服するために、本プロジェクトでは、固体試料の超臨界流体溶液をそのまま真空中にジェット噴射する事で、固体試料の気化及びジェット冷却を同時に行うという新しい方法の開発を進めている(図2)。技術的に難しいのは、100気圧を超える高圧流体をジェット噴射しても10-5Torr 程の高真空を保持しなければならない点である。真空槽の大排気速度化とともに、ガス導入量を極力少なくする目的で口径数μmの微小ピンホールノズルまたは高圧パルスノズルを用いている。

一般的によく用いられる超臨界CO2は無極性溶媒であるため極性分子の溶解力は乏しいが、これに微量の極性有機溶媒(エントレーナー)を添加すると極性分子に対する溶解力が著しく改善される事が知られており、超臨界CO2ジェットにおいてもエントレーナーの添加により50℃程度の低温で不揮発性分子の超音速ジェットが得られる事が実証された。通常のガスを用いた超音速ジェットの場合、このような微量の有機溶媒が共存すると、ジェット噴射の際に試料分子に多量の有機溶媒分子が付着したクラスターが生成し、質量分析や分光測定に大きな支障を来すが、超臨界流体ジェットではそのような問題は起こらず、ジェット冷却された非常に鋭いスペクトルが観測される。超臨界溶媒やエントレーナーを適切に選択する事により様々な分子への適用が可能であり、今後、生体関連分子やナノテク分子のレーザー分光への応用が期待される。

関連論文:
  1. Ishiuchi, S., Sakai, M., Tsuchida, Y., Takeda, A., Kawashima, Y., Fujii, M., Dopfer, O. & Muller-Dethlefs, K.
    Angew. Chem., Int. Ed. in press.
石内 俊一
石内 俊一 (いしうち しゅんいち)
東京工業大学 資源化学研究所 分光化学部門 助手
科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業さきがけ「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」研究者
 
1998年4月
〜2001年3月 
日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2001年4月
〜2003年3月 
慶応義塾大学理工学部 助手
2002年11月〜 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」 研究者
2003年4月
〜2004年3月
東京工業大学資源化学研究所 特別研究員
2004年4月〜 東京工業大学資源化学研究所 助手
2004年9月〜 科学技術振興機構 先端計測分析技術・機器開発事業 研究者
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図1
図1. 溶液或は通常気相と超音速ジェットでの分光測定の模式図(左)及びアニリンのガスセル(通常気相)と超音速ジェットでの蛍光励起スペクトルの比較 拡大
超音速ジェットでは分子の内部状態が最低エネルギー状態に単色化されるため、スペクトルが先鋭化・単純化される。超音速ジェットでの蛍光励起スペクトル(波長可変紫外レーザーを照射し、電子励起状態からの蛍光をモニターする事により、電子励起状態の零振動準位・振動励起準位を観測する)の最も長波長側のピークが第1励起状態S1の零振動準位、それより短波長側のピークはS1の振動励起準位に帰属される。
図2
図2. 超臨界流体ジェット・レーザーイオン化質量分析装置 拡大
超臨界CO2発生装置で固体試料の超臨界CO2溶液を調製し、超臨界流体ジェット発生チャンバー(真空槽)内でジェット噴射する。これに目的試料の吸収波長に同調した波長可変紫外レーザーを照射し、目的試料を選択イオン化する。飛行時間型質量分析器で質量分析した後、Dalyイオン検出器(ダイノード・コンバーター)で検出する。