画像:内部空間に有機分子が挿入されたカーボンナノチューブの構造模式図 (東北大学岩佐義宏教授らのカーボンナノチューブと有機分子の複合材料の研究から、岩佐教授の許可を得て掲載)
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Japan Nanonet Bulletin 第120号 : 2006年8月30日

研究者通信

京都大学 低温物質科学研究センター 分子性材料開拓・解析研究分野 教授
矢持 秀起

機能性有機導電体の開拓と解析

(Issued in English: March 22, 2007)

本研究センターは、学内の研究支援(寒剤供給)と同時に独自の研究活動を行う事を目的として、2002年に発足した。研究支援部門の整備が徐々に進む一方、自身の研究施設の整備は立ち遅れている。現在、各研究グループは、学内他部局から施設面での支援を受けながらも、独自性豊かな課題に取り組んでいる。

我々は、主に導電性電荷移動錯体を対象とし、機能性物質の開拓、構造・物性の解析を行っている。ここで得られた結果に基づき、低分子量有機物を用いた新規物質の設計も試みている。この様な研究は直接的に実用材料を与えることは希であるが、新規機能性物質の創出のみならず、新しい概念の導出を行うことも可能である。最近の代表的成果として、EDO-TTF (Ethylenedioxytetrathiafulvalene) 錯体について紹介する。

従来よりBEDO-TTF(Bis(ethylenedioxy)tetrathiafulvalene,BO)を研究し、この分子が自己凝集能を持ち、ほぼ排他的に安定な金属状態を持つ錯体を与える導電性成分分子である事を明らかにしてきた。分子設計の立場から、一方のエチレンジオキシ基を除く事により、自己凝集能を部分的に抑制し、相転移を誘発する事を試みた。

EDO-TTFは、BOに見られた自己凝集能を失っていた。一方で、その錯体のひとつ、(EDO-TTF)2PF6が、室温直下(280K)で奇妙な金属-絶縁体(MI)転移を起こすことが判った(図1)。この転移は、導電性成分であるEDO-TTFの際だった分子変形を伴い、電荷秩序化をはじめとする3種類の機構が協同して引き起こされている事が判った。この様な転移機構の協同は、従来、ほとんど考えて来られなかった概念である。この多重不安定性に着目し、学外共同研究者と共に、光照射による相転移の誘起を試みた。絶縁(低温)相に微弱なレーザーパルス光を照射すると、約1.5ピコ秒の内に1光子あたり約500分子が高導電性準安定状態に移る、超高速・高効率光誘起相転移が見出された(図2)。この現象は、テラヘルツ領域の応答速度を持つ光電素子の基本となる可能性があると同時に、基礎科学的にも興味が持たれる。我々の報告に誘発された様に、他研究グループからも、導電性電荷移動錯体の光誘起相転移が報告された。

現在、我々は、本光誘起相転移の動的過程の解明のための共同研究を進めている。また、際だった分子変形が可能な強相関π-電子系が同様の多重不安定性を持つ金属的錯体を与えると考え、新規物質の開拓を行っている。

矢持 秀起
矢持 秀起 (やもち ひでき)氏
京都大学 低温物質科学研究センター 分子性材料開拓・解析研究分野 教授
 
1979年 神戸大学理学部化学科 卒業
1984年 大阪大学大学院理学研究科 博士課程後期課程単位修得退学後、学位取得(理博)
1984年
〜1990年
東京大学物性研究所助手
(この間、1988-1989年の1年間は、米国で博士研究員)
1990年
〜1995年
京都大学理学部化学科助手(途中、理学研究科化学専攻に配置換え)
1995年
〜2004年
同助教
2004年〜 低温物質科学研究センター教授(現職)
 
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図1
図1. 拡大
(EDO-TTF)2PF6の絶縁相(左)と金属相(右)の結晶構造。低温相では湾曲した形状(B)を取り、残り半数は平面構造(F)となっている。各々、ほぼ0価と+1価に帯電している。
図2
図2. 拡大
(EDO-TTF)2PF6の絶縁相に120 fsレーザーパルス(波長 800 nm)を照射した時の、721 nmでの反射率の時間変化。挿入図は、EDO-TTFの分子変形の模式図。

関連論文:
  1. Ota, A., Yamochi, H., Saito, G.
    A novel metal-insulator phase transition observed in (EDO-TTF)2PF6.
    J. Mater. Chem. 12, 2600-2602 (2002).
  2. Chollet, M.; Guerin, L.; Uchida, N.; Fukaya, S.; Shimoda, H.; Ishikawa, T.; Matsuda, K.;
    Hasegawa, T.; Ota, A.; Yamochi, H.; Saito, G.; Tazaki, R.; Adachi, S.; Koshihara, S.
    Gigantic Photoresponse in 1/4-Filled-Band Organic Salt, (EDO-TTF)2PF6.
    Science 307, 86-89 (2005).
  3. 矢持 秀起, 斎藤 軍治
    超高速・高効率光誘起相転移系 (EDO-TTF)2PF6の発見 — 思わぬ展開の研究成果 —
    固体物理 41, 178-186 (2006)