矢持 秀起
機能性有機導電体の開拓と解析
本研究センターは、学内の研究支援(寒剤供給)と同時に独自の研究活動を行う事を目的として、2002年に発足した。研究支援部門の整備が徐々に進む一方、自身の研究施設の整備は立ち遅れている。現在、各研究グループは、学内他部局から施設面での支援を受けながらも、独自性豊かな課題に取り組んでいる。
我々は、主に導電性電荷移動錯体を対象とし、機能性物質の開拓、構造・物性の解析を行っている。ここで得られた結果に基づき、低分子量有機物を用いた新規物質の設計も試みている。この様な研究は直接的に実用材料を与えることは希であるが、新規機能性物質の創出のみならず、新しい概念の導出を行うことも可能である。最近の代表的成果として、EDO-TTF (Ethylenedioxytetrathiafulvalene) 錯体について紹介する。
従来よりBEDO-TTF(Bis(ethylenedioxy)tetrathiafulvalene,BO)を研究し、この分子が自己凝集能を持ち、ほぼ排他的に安定な金属状態を持つ錯体を与える導電性成分分子である事を明らかにしてきた。分子設計の立場から、一方のエチレンジオキシ基を除く事により、自己凝集能を部分的に抑制し、相転移を誘発する事を試みた。
EDO-TTFは、BOに見られた自己凝集能を失っていた。一方で、その錯体のひとつ、(EDO-TTF)2PF6が、室温直下(280K)で奇妙な金属-絶縁体(MI)転移を起こすことが判った(図1)。この転移は、導電性成分であるEDO-TTFの際だった分子変形を伴い、電荷秩序化をはじめとする3種類の機構が協同して引き起こされている事が判った。この様な転移機構の協同は、従来、ほとんど考えて来られなかった概念である。この多重不安定性に着目し、学外共同研究者と共に、光照射による相転移の誘起を試みた。絶縁(低温)相に微弱なレーザーパルス光を照射すると、約1.5ピコ秒の内に1光子あたり約500分子が高導電性準安定状態に移る、超高速・高効率光誘起相転移が見出された(図2)。この現象は、テラヘルツ領域の応答速度を持つ光電素子の基本となる可能性があると同時に、基礎科学的にも興味が持たれる。我々の報告に誘発された様に、他研究グループからも、導電性電荷移動錯体の光誘起相転移が報告された。
現在、我々は、本光誘起相転移の動的過程の解明のための共同研究を進めている。また、際だった分子変形が可能な強相関π-電子系が同様の多重不安定性を持つ金属的錯体を与えると考え、新規物質の開拓を行っている。



