NanotechJapan Bulletin

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開催報告: JAPANNANO2012

NanotechJapan Bulletin Vol.5, No.2, 2012 発行

第10回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2012)開催報告


 多くの展示会,国際会議の開催されたNanotech Week,2012年2月15日から17日まで東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催された国際ナノテクノロジー総合展・技術会議を締め括る2012年2月17日に第10回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2012)が東京ビッグサイト会議棟1階レセプションホールで開催された.文部科学省先端研究施設共用イノベーション創出事業「ナノテクノロジー・ネットワークプロジェクト」の一環として企画されたものである.独立行政法人 物質・材料研究機構が主催し,文部科学省先端研究施設共用イノベーション創出事業ナノテクノロジー・ネットワーク参加26機関,文部科学省低炭素社会構築に向けた研究基盤ネットワークの整備事業参加18機関の共催であった.さらに,IEEE東京支部,社団法人応用物理学会など19の学協会が協賛した.

 昨年は第9回シンポジウム後1ヶ月を待たずに,東日本大震災に見舞われた.この大震災ではエネルギーの持続的な供給と分散化,新しいエネルギー源の発掘,地震・津波に耐える土木建築用構造体の開発などの課題が顕在化した.これらは,災害に強い社会を構築する上で,環境と調和しつつ総合的に取り組むべき緊急の課題である.そこで,組織委員会およびプログラム委員会のメンバーにより,第10回のテーマは「災害に強い社会構築に向けたナノテクの貢献」とし,多様なエネルギー源や耐震構造材料開発へのナノテクノロジーの貢献と研究動向を知る場となるようプログラムが組まれた.


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 以下,講演順に,シンポジウム講演の内容を紹介する.シンポジウムでは講演と平行してナノテクノロジー・ネットワーク参加26機関,低炭素社会に向けた研究基盤ネットワーク参加18機関からのポスター発表が講演会場入口ロビーで行われた.

 シンポジウムの講演に先立ち,主催者の物質・材料研究機構 理事長 潮田資勝氏と文部科学大臣政務官 神本美恵子氏から,開会挨拶があった.


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開会挨拶

潮田資勝氏の挨拶

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 始めに挨拶された潮田資勝氏は開催の趣旨,今回のシンポジウムのテーマや構成について,次のように語られた.

 文部科学省先端研究施設共用事業として,平成14年度より,異分野融合・活性化によるイノベーション創出を目的に「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」が行われ,平成19年度からは「ナノテクノロジーネットワークプロジェクト」を推進して来た.本シンポジウムはその一環として開催するものである.多分野の基盤となり,科学技術に貢献するナノテクノロジーの今後の方向性について議論していただく場である.

 昨年は東日本大震災があり,まず被災した方々にお見舞い申し上げるとともに,速やかな復興を祈念する.震災による破壊に加えて,電力供給分散化や持続的供給の問題も浮上した.津波などに強い材料の開発は喫緊の課題であり,また,エネルギー,環境,資源の面での飛躍が必要になる.これからはナノテクの活用の中心がエネルギー供給や構造材になろう.そこで,今回のシンポジウムのテーマは「災害に強い社会構築に向けたナノテクの貢献」とした.

 今回も昨年に引き続き,グリーンナノの知見を結集して環境技術に関する研究を加速する目的で推進中の,課題解決型研究ネットワークの低炭素研究ネットワークとの共催である.

 本シンポジウムに合わせて,両事業の概要及び利用成果を46件のポスターで紹介することにした.

 シンポジウムでは,災害に強い技術を求めて,科学技術振興機構の吉川様に,産業競争力をつける上でのナノテクノロジーの貢献について三菱電機の久間様に基調講演をお願いした.また,耐震構造材料の開発状況,再生可能分散型エネルギー源などに関して国内外の講師に9件の講演をお願いしている.本シンポジウムで環境に調和した災害に強いネルギー,材料の方向性を見出し,新しい融合研究の道の開けることを期待する.

 

神本美恵子氏の挨拶

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 神本美恵子氏は,第10回を迎えたナノテクノロジー総合シンポジウムに対して次のような期待を述べられた.

 文部科学省は平成14年度から先端研究共用施設の構築を推進して来ており,平成24年度からは新しいプラットフォームとして推進しようと準備している.ナノテクノロジーは新たな科学技術領域を切り拓くと共に,その成果によって新しい材料を生み出し,我が国の資源やエネルギーからの制約を克服し,とりわけ震災からの復興に重要な役割を果たすものと期待している.

 震災から復興に向かう時期に開催される本シンポジウムのプログラム内容は大変意義深く,また時宜を得たものになっていると思う.文部科学省としても,先端的ナノテクノジーの研究を推進し,革新的材料技術を生み出すと共に,次世代の研究開発をリードする優れた人材を育成することに努めて行きたいと考えている.本シンポジウムが皆様にとってナノテクノロジーの将来を展望し,新たなパートナーとの協力関係を構築する契機となって,ナノテクノロジーが一層進展することを期待する.

 

基調講演I 復興と科学技術
吉川弘之 科学技術振興機構,元東京大学総長

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(吉川氏は東京大学総長,日本学術会議会長,産業技術総合研究所 理事長など歴任,現在は科学技術振興機構 研究開発戦略センター センター長)

 エネルギーや災害に強い材料が今回のシンポジウムのテーマだが,もっと広い立場で,災害や原発事故の教訓を基に,科学技術や科学者に何ができるか考えてみたい.

 次のような社会モデルを考えた.中心に社会がありその外に医師,科学者などの専門家がいて,専門家の行動はその外にある医学や工学,経済学などの学問に裏付けられている.この専門家達は社会を支え,動かしている.政治も政治学があり,社会を動かしている.社会を中心に,専門家,学問が順に囲む構造は,通常,安定構造として動いているが,災害があると構造が壊れ,社会と専門家の結びつきが崩れてしまう.今回の震災の例で考えると,官邸,現場,自衛隊等,大変苦労しているが,科学者へは情報が報道を通してしか入ってこないので,協力が出来ない.原子力の経験豊かな米国アカデミーから事故状況の問い合わせが来ても返事が出来ない状況が続いた.充分な情報がないから,外国人国外退去の処置がとられてしまい,一般の不安も解消されなかった.こういったことをなくすように仕組みを変えなければならない.

 今,科学技術振興機構の研究開発戦略センターでは何をするか課題を作っているが,先のことだけでなく近くの課題も採り上げなければならなくなっている.科学者が社会から孤立していては駄目で,社会に入って行く必要がある.その必要性は災害発生時に特にシャープに現れる.社会に密接して事故防止の科学や復興への寄与を考える必要があり,そのためには科学的知識を生み出す人とそれを社会に使う人の仕組みを変える必要がある.

 新しい科学が生まれると,えてして分野ごとに孤立してしまうので,科学者は孤立していると指摘された.これに対して言語というものを考えてみると,言語は社会の中で皆が共有し,人々は孤立せず意思疎通できる.科学も言語のようになるべきではないか.科学と言語の違いを考えると,言語は誰かが作ったものではない.全員が作ってゆっくりと進んで来た.開放されたコミュニティで進化して来た.科学も開放されて誰でも参画できるようにならないだろうか.発せられた言語が社会に受け入れられ,繰り返し使われる中で選別され,進化する.即ち,社会的選択によって人の記憶体系に入る.

 経験的知識でも言語と同様のことが行われている.どんな植物が食べられるかと言った土着知識(Regional Knowledge)は社会の中で局所的な知識を実行し,その結果が普遍的な知識になるというループを繰り返しているうちに,うまく機能することが分ると社会に定着する.

 製品でも同じ流れがある.観察→構成→行動→対象→観察…とループを描く.観察・構成は科学者,行動は専門家,対象は社会である.行動によって科学的知識は修正される.それによって科学が社会に埋込まれる.ところが,このループに誰でも入れるとは限らない.科学の分野でも電気と機械は分野が異なる.更にナノテクノロジーとかバイオとか専門分野が先端化していく.勿論,科学者や専門家になるためにはそれなりの教育や経験が必要である.しかし,少なくともそこに入っていける入口は開いている必要があるが,現状は閉じられている.

 このような立場からもう一度今回の災害時を振り返って見ると,報道を通じてしか情報が流れなかったわけで,先に述べたループが回っていないことが分かる.事故時におけるループが形成されなかったことは,平時でも対話がうまくできていなかったことの反映ではないかと思う.科学と社会,あるいは科学と政治の対話,協力が上手く行われていなかった.即ち,社会の中の科学として捕えたときのループが機能していないということである.科学者は現状を見ないでその背後の原理だけを求める.その科学者を社会の中のループに組込むには,社会に組込む上の阻害要因を除かねばならない.阻害要因には閉鎖性,社会的期待発見の研究不足,持続性・イノベーションへの無関心,政府の意志決定への無関心がある.

 「閉鎖性」の一例としてポスドクの例を挙げる.Ph Dは年に12,000人生まれる.しかしこれを受け入れるポストが少なく,望むポストに就けないポスドクが増加している.このためよい学生が博士課程に入って来ないことにもなる.ポスドクは研究者として論理的思考の訓練を受けているから,企業などにどんどん入ったらよい.欧米ではポスドクが初等教育に就いているが,日本ではその道も閉ざされている.このように日本の社会には歪みがあって高等教育を受けた人の活用が十分でない.

 次に,「社会的期待の発見研究不足」の問題は,社会が何を求めているか研究する科学者が少ないことによる.社会的期待発見の研究を勧めたい.それは社会に関する一種の予測研究であり,設計である.分析ではなく構成である.社会科学の工学的展開である.地球気候変動への対応は社会科学者と理学者が共同で作ってきて国際的行動になっている.エネルギー対応もこういう仕組みで国際的体制を作るべきだと思っている.

 「持続性・イノベーションへの無関心」を是正するには基礎研究と目的研究が別れているリニアモデルでは駄目で,分析と構成が一つになる,即ち,理学と工学が一体となることでイノベーションに結び付くことになる.

 最後に「政府の意志決定への無関心」については日本の科学技術政策に強い関係がある.現在の問題点は総合科学技術会議と政権とのコミュニケーションが出来ていないことである.それを解決するには科学者と政策立案者とが同じ立場で,同じ目的観を持って議論するような凝集的組織が必要である.今提案しているのは,そうした組織として,戦略本部を置き,そこにいる顧問が各大臣と常時話合って,政治的意思に変えるというものである.政治的意思は社会の期待を反映したものであり,これが正しく科学者に流れれば科学者は社会に役立つ仕事ができる.こうした構造ができれば科学が社会の中に入っていくことになる.この仕組みは現在閣議決定まで行っている.福島の災害の経験に基づいて,その教訓を受けてこのような改革が進んでいることをお伝えする.

 

セッション1 耐震性構造材料

1.1 高分子ナノテクノロジーと免震用積層ゴム材料 西 敏夫 東北大学

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(西氏はブリヂストンタイヤ,東京大学,東京工業大学等を経て東北大学原子分子材料科学高等研究機構教授,日本ゴム協会会長も務めた)

 最初に3つの結論を申し上げる.第1に耐震材料は硬いと思われるが,実は柔らかい材料が使われる.これからはソフトマテリアルの時代である.第2にそれにはナノテクノロジーをメガテクノロジーに結びつける必要がある.第3にイノベーションは研究室の中から創りだしていくのが普通だが,そうでなくて世界標準にしてからイノベーションをおこすことで本当に大きなイノベーションができる.

 さて,私達の研究室では,高分子の分野において複合材の単一分子延伸操作,電子線トモグラフィによる3次元画像などナノテクノロジーを用いて,高分子や複合材の物性を調べている.ゴムについてもその物性を調べ,これに多層カーボンナノチューブを混ぜるとその弾性率はゴムの300倍になることを確認した.これでオイルシールを作ると1,000mまで石油が掘れるようになり,採掘可能埋蔵量は40%増えることになる.ナノ力学物性マッピングによりゴムとカーボンナノチューブの物性を調べ,カーボンナノチューブの混合量を調整し,ヤング率が30%向上している.ナノテクノロジーとメガテクノロジーの結びついた成果である.

 地球温暖化対策として,タイヤの転がり摩擦低減による車の低燃費化の提案がIEC(International Electrotechnical Commission)からあった.これに対し,タイヤ表面構造の部分的発熱部について3次元電子顕微鏡で応力分布を調べ,材料中のカーボンやシリカのナノ粒子の分散を制御することで著しい摩擦低減効果を上げることが可能であることが分かった.

 次に本題の免震用積層ゴム材料について述べる.ゴムはヒステレシス特性を持ち,免震材に適する.さらに,ゴムの間に鉄板を入れて梗塞することによりゴムの強い体積弾性率を活用すると,荷重に耐える軟らかい免震材料(seismic-protection elastomeric isolator)ができる.この考えは1987年に発表し,1995年の神戸の震災後からビルの下に入れるようになった.こういった,今までと違ったことをするには,先に世界標準を作る.しかし,世界標準を作るには5年間に8回の会議で議論し,1,000のコメントに答える必要があった.これまでの各国の決まりに矛盾しないものを作るのだからやむを得ない.中国,米国,英国から特に厳しいコメントが寄せられたが,この免震材料は2010年にISO標準となり,これに基づくJISは2011年8月に制定された.

 土木関係は実物試験が求められる.その場合は圧縮・剪断応力で壊れるまで試験する.高層ビルだと引張り応力がかかるから,200%までの伸長試験を行った.こういった試験では1個200万円する試験材を何十個も使う.実用時に加わる圧縮力が50トンでも試験では1,000トンまでの圧縮力を加える.壊れるときはまず鉄板が壊れ,次にゴムが破壊される.ビルの耐用年数60年に対応する耐久性が要求され,建物をジャッキアップして10年後の特性を確かめた.橋の場合は橋桁を数mmジャッキアップして,同様のことを行った.

 免震ゴムを使うと建物の揺れの周期が伸び,加速度は150cm/s2から50cm/s2に減る.東北大地震では免震ゴムを入れておいた建物は±20~30cmずれた後に,元に戻ったと言う.東北大学には免震建家があったので,その効果が確認できた.

 免震材料は海外でも多く使われている.中国では昆明の新しい空港に適用し,1,292台使って50万m2を免震にする.マレーシアでは道路と橋桁の間に免震ゴムを挟み,24kmの橋に1,400台の免震材料を入れる.地震の多いイランではテヘラン郊外に免震タウンを作る計画を立てている.中国でも100棟の家に入れる計画がある.フランスは原子力発電所の免震を行う.中国も80の原子力発電所の免震を行う計画であり,しかも,油圧と組み合わせた3次元免震を行うという.しかし,日本では免震ゴムを東北に入れると言う話にはまだなっていない.日本も確りしないと諸外国に遅れてしまうことになる.

 講演後には次のような質疑(Q)応答(A)があった.

Q:原子力発電所の免震は格納容器に施すのか,全体か.

A:格納容器と建家に施す.数10トンの設備なので多数の免震ゴムを入れることになる.中国は1km×2kmの免震地盤を作ると言っている.

Q:免震性能は何十年も維持できるか.

A:免震ゴムの厚さは1.6mあり,60年で3~4cmの劣化に止まる.劣化は環境に依存するが,何十台も入っているので劣化したところをジャッキアップして入れ直すことができる.海水にも耐えるから,タンカーを横付けする防舷材にも使える.

 

1.2 ナノ組織化による耐震性構造材料の創製 津崎兼彰 物質・材料研究機構

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(津崎氏はMIT,京大を経て1997年より物質・材料研究機構に勤務,筑波大教授併任)

 鉄鋼は,世界で年間10億トンが構造材などに使われている.構造的機能材にもなり,磁石材料でもある.鉄鋼は,New Steel Eraに入ったと言われ,生産量と論文数が急上昇している.社会の変化している状況が鉄にも現れている.構造材にはToughさ,機能材にはSmartさが求められ,制震材では両者が必要になる.鉄の強度には転位の移動が重要な役割を果たす.転位の移動は原子レベルの構造変化だから,強度を高めるには欠陥制御が重要になる.制震ダンパーにはゴム,油,鉄が用いられ,耐震技術は剛から柔に変わる傾向にある.

 転位は空孔,粒界と並ぶ格子欠陥の一種である.力が加わると,材料内の転位がずり応力によって移動し,結晶格子が変形して破壊に至るから,転位は材料強度の上で重要な役割を果たす.逆に転位を制御して耐震を行うことができる.転位の協調的動きが相転移を引き起し,形状記憶効果が生まれる.形状記憶合金ではメガネのフレームなどに使うNi-Ti合金が有名だが,鉄(Fe)ベースの記憶合金もある.Feベースの形状記憶合金は日本で集中的に開発され,重要な研究の8件中5件は日本のものである.Fe-Pd合金に始まり,1980年代には希少金属を含まないFe-Mn-Siで形状記憶効果が発現された.Shape Memory Alloy, SMAと呼ばれ,引張りでオーステナイト構造からマルテンサイトになり,圧縮するとオーステナイトを経由して圧縮型マルテンサイトになる.この転移過程はヒステレシスを持ち,エネルギーの吸収が起るから,制震効果が生じる.

 鉄自体ダンパーになるが,FeベースのSMAは,(1)繰り返しにおける応力変化小,(2)耐久性大で長寿命の特徴がある.AFM(原子間力顕微鏡)で表面を観察すると,剪断力によってずれを起こしていることが観察される.応力を下げるとずれは逆に動く.1µm以下の領域で可逆的変化が起っている.ずれによって生じる凹凸は20~50nmで,原子数にしたら200~500個に過ぎない.この小さな凹凸が形状記憶効果を生じ,マクロなヒステリシスを生み出してエネルギーを吸収する.原子レベルでの内部の凹凸の制御による形状記憶,制震効果である.

 雪や蜂の巣は簡単な構造を基に多種多様で複雑な構造を形成する.その多様性は結晶中の欠陥模様にも現れる.金属に存在する転位は岩石にも存在する.そのナノサイズの欠陥の動きが地震に係っている.鉄を用いたダンパーを機能させるのに転位を用いるが,岩石中の転位に似ており,金属の研究も地球物理の研究と繋がることを実感する.結晶内のナノレベルの欠陥である転位の性質や移動がマクロな強度や耐震性を支配している.マクロな特性の制御はナノレベルの欠陥制御によって行うことになる.

 質疑

Q:鉄系記憶合金の普及率はどの程度か.大型化での問題点は何か.

A:1980年に記憶特性が見出されたが,免震にはまだ使われていない.大型化における問題点は多い.



 ここで午前のセッションを終わり,昼食休憩とポスター展示に入った.

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 昼食休憩後に午後のセッション前半(基調講演IIとセッション2)が再開された.

基調講演II ナノテクノロジー ~技術そして産業における革命~
久間和生 三菱電機

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(久間氏は三菱電機中央研究所から,常務執行役開発本部長等を経て,現在は執行役副社長,半導体・デバイス事業本部長)

 日本の製造業の課題,研究開発の進め方を考えてみたい.1980年代半ば以来多くの日本製品は世界市場で高いシェアを得たが,その後急速にシェアを下げている.DRAMは80%から10%,カーナビは100%から20%に下がってしまった.出始めはよいが,その後は激減してしまう.1980年代はよいものを大量に作ることで日本は成功した.その後,中国,台湾,韓国が台頭し,安かろう悪かろうから,品質・価格が同等になり,事業としては日本を凌駕するに至った.これらの国はコモディティ製品に強い.日本は擦り合わせを得意として来たが,韓国などは同様な手法により,市場において日本と競合するようになった.一方,日本が強かった時に欧米は知財,標準,水平分業のビジネスモデルで,新しいルールを作った.現在の日本は円高などで苦労しているが,日本の強みを活かして再生を図りたい.その道はものづくりの再生,水平分業にとらわれぬ新しいビジネスモデル,環境先進性の活用,科学技術イノベーション,ナノテクノロジーの産業応用,知財,標準,人材育成などであろう.

 第4期科学技術基本計画では,研究開発に科学技術の深掘りと産業化の一体的展開を求める.持続的成長,復興,グリーンテクノロジー,規制緩和等のシステム改革が求められる.分野別研究開発から,ナノテク成果活用による課題解決に向かうには,基礎研究と応用開発の間にある死の谷を埋めることが重要となる.研究と産業のつなぎを活性化させねばならない.そのためには,研究開発,知財・標準化,事業の三位一体経営が必要になる.

 イノベーションはグローバル化し,新製品,製法,市場開拓の各分野に及び,持続的なイノベーションとともに破壊的イノベーションが求められる.破壊的イノベーションの例はブラウン管テレビから液晶テレビへの転換である.産学官で2つのイノベーションをバランスよく進める.これとともに重要なのがオープンイノベーションである.皆で考えることが求められる.TIAnano(つくばイノベーションアリーナ)のように産学官で行うオープンインベーションに止まらず,社内でもオープンイノベーションを進めることが重要である.三菱電機では,パワーデバイスを社内で利用し合うオープンイノベーションにより,部門を跨いで一緒に育て,スマートグリッド実証システムにも適用するに至った.

 産学連携もメリハリをつけ,短,中,長期を区別する."次"を考えるのは事業部,"次の次"は社内研究所,"次の次の次"は産学連携になろう.三菱電機が京大と一緒に進めたセルフ生産ロボットはその例である.センサ,知識処理,アクチェータと開発を進め,それぞれの得意とするところを分担した.

 人材育成ではスペシャリストを育成する.技術,人事,知財,標準化にスペシャリスト育成を広げる.グローバル人材は英語より,センスが大切だ.その国に興味を持ち,その国の文化を理解することからグローバル化は始まる.

 ここでパワーデバイス開発の例を紹介する.三菱電機は,スマートグリッド,電鉄車両,ファクトリーオートメーションなどのエネルギー,環境,社会インフラに関係したデバイス,装置,システムの事業を推進している.このような事業の多くにおいて,パワーデバイスがキーコンポーネントとなるので,1990年代から,Siに比べ,各種応用で電気損失を著しく削減する可能性を持ったSiCパワーデバイスの研究開発を進めて来た.Siパワーデバイスには600V以上に使うIGBT(Insulated-Gate Bipolar Transistor)と,パソコンなどに使う低電圧のSi MOSFETがある.前者の応用は鉄鋼業,モータ,自動車などである.SiCデバイスはIGBTに代わり,将来のパワーデバイス材料の一つであるGaNは低電圧領域をカバーする.Siでの性能向上は持続的イノベーション,SiCに替えるのは破壊的イノベーションである.Si IGBTで80の損失が,SiCデバイスでは60になり,熱を出さないから小型にできる.エネルギーギャップが大きいため降伏電圧が高い.SiCに替えることで100万kWの原子力発電所相当の省エネルギーが実現できる.SiC-SBD(Schottky Barrier Diode)とMOSFETで構成するインバータは2006年に初めて3相モータを駆動し,2009年にはSiを用いたインバータに比べ,90%の電気損失削減を達成した.そこで,2010年にはエアコンに適用し,2011年には,鉄道車両用インバータを開発して地下鉄車両で30%の省エネを実現している.

 SiCパワーデバイスの開発では京大松波研究室における結晶欠陥低減が貢献した.ステップ制御エピタキシを開発した結果,結晶欠陥が低減し,滑らかな表面が得られるようになった.さらに窒化プロセス開発により,絶縁膜-SiC界面の界面準位密度を低減でき,信頼性が向上した.また,窒素添加の高温アニールにおいて窒素と酸素の比率を高温で制御し,移動度が変化することを見出した.SiCデバイスの実用化はこれらのナノテクノロジーの前進によって可能となったものである.

 その他の大学との連携では東大の荒川先生と共同で3次元閉じ込めにより超格子量子井戸半導体レーザーを発振させた.効率が高く,100℃まで動作させられる.

 今後の産業界の研究開発は,新たなビジネスモデルが必要である.パワーデバイスの応用ではモータ,インバータ,電池の3点が必要で,各コンポーネントを安く作るとともに3つの制御が大切になるから,そこに付加価値を持たせる.性能,品質,コストの三位一体にソリューションを付加する.ハードにソリューションを加えたビジネスになる.パワーデバイスなら,Intelligent Power Moduleにして,保護,診断,修復などの機能を盛り込む.インタフェースは国際標準にする.イノベーションを高収益ビジネスに導くには,世界的な人的資源の開発,知的財産と国際標準の戦略が不可欠である.

 一方,TIAnanoは6つの領域(ナノエレクトロニクス,パワーエレクトロニクス,N-MEMS,ナノグリーン,カーボンナノチューブ,ナノ材料安全評価)の開発を進めている.日本はここに資金,人材を集約して研究開発を進めるのがよい.併せて人材を育成する.効果的な研究開発には適切な政策が必要である.

質疑

Q:知財,標準化をどのように取入れるか,

A:周辺の付加価値を高める回路の付加などの流れがある.

Q:日本が凋落しないようにするには市場との融合が必要ではないか.

A:深掘りは少数で行い,目的を持ったR&Dに多数が当る.バイオはアメリカで進んでいる.バイオと言うだけでなく,その中のどこに投資するか考える.トップとボトムの両面の管理が必要になる.

 

セッション2 再生可能エネルギー

2.1 ナノ材料によるエネルギー変換効率の向上とスタンフォードエネルギーフロンティアセンターの概要 "Improving Energy Conversion with Nanoscale Materials and CNEEC EFRC Program", Prof. Stacey F. Bent, Stanford University, USA

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(Bent教授はAT&T Bell Laboratories, New York Universityを経て,現在はStanford UniversityのProfessor of Chemical EngineeringでCNEECのCo-Directorを務める)

 太陽電池は将来の持続可能エネルギーの一つである.その基礎となる現象は電子と正孔の生成である.電気的中性状態から電荷が生成・分離・移動してエネルギーを生み出す.太陽電池は光によって電子・正孔対が生成し,二つが分離・移動するが,燃料電池や二次電池も同様に電荷の分離・移動によってエネルギーを生み出す.小さくすると電荷の移動距離が短くなり,ナノスケールの利点が現れる.光吸収が増え,量子閉じ込めが起って効率が上がる.表面活性化も有効である.このようにナノスケールの利点は太陽電池,二次電池,燃料電池に共通し,ナノテクノロジーは既に実用の世界に入っている.

 Stanford大学のCNEEC(Center on Nanostructuring for Efficient Energy Conversion)は米国エネルギー省(Department of Energy, DOE)が全米46ヶ所に設置したEFRC(Department of Energy Frontier Research Center)の一つである.ナノメートルスケールで材料を制御することによって,エネルギー変換効率を究極のところまで高め,その科学的基礎を固めることを目的としている.ナノテクノロジーの活用で効率が上がり,ナノ構造によって問題が解決される.ナノにすることによって何が起りどこで改良が行われているか理解することによって材料開発は進む.

 このセンターには外部のパートナーが参加している.シンクロトロンは外部に依存し,デンマークの大学とは計算機シミュレーションで協力関係を結んだ.GMとBoeingがスポンサーになっている研究機関のHRLも参加し,Carnegie財団も協力している.エンドユーザが加わり,そのニーズを知ることは重要である.動力へのナノテクノロジーの活用,ナノテクノロジーによる光吸収の実現,触媒作用なども研究の課題としている.

 センターの活動を3つの例で紹介する.色素増感太陽電池,量子ドット太陽電池,水分離触媒である.

 色素増感太陽電池は酸化チタンTiO2を用いるが,TiO2の光吸収帯は紫外線領域にある.このため色素を加え,色素で可視光を吸収させ,発生した電荷をTiO2に転送する.ナノ構造にすると多孔質結晶TiO2中の電荷移動距離が小さくなり,効率は12%に達した.カリフォルニア工科大学ではSiナノワイヤの配列も利用している.多くの色素増感太陽電池では電解液を用いるが,固体電解質を用いた色素増感太陽電池で6%の効率が得られた.しかし,電解液を用いた時に比べて効率が低い.これに対し,原因は固体表面における電荷の再結合と考えた.色素で発生した電荷がTiO2表面で消滅する.そこで,コーティングによってバリアを設けることを考えた.TiO2-Al2O3-色素の構造にする.バリアによって電子の消滅をブロックするが,電子のTiO2への注入を妨げてはならない.計算機解析を行って厚さの効果を調べ,最適化を図った.バリア層形成には原子層被着(Atomic Layer Deposition, ALD)を用いた.この結果,バリア層を設けることによって再結合ライフタイムが向上し,開放電圧,短絡電流,変換効率などの評価が可能になっている.

 この色素増感太陽電池の光スペクトル特性から,色素を量子ドットに替えることを思いつき,ALDを用いてCdS量子ドットをTiO2に載せた.ALDの膜数によって吸収スペクトルが変えられる.しかし今のところ高効率を得るには至っていない.

 ALDは触媒にも適用できる.ALDによって表面構造を変え,太陽光で水を電気分解して働く燃料電池を作る.触媒にはTiO2を用いているが,これを2成分にする.内部は半導体にし,外部に触媒をおく.触媒材料としてはIr,Ptなどが知られているが高価である.安い材料としてMnOを用い,SiO2にALDでMnOコーティングを行った.SiO2とMnOが反応し,Mn2O3となって触媒として作用する.Irと同等でPtより優れた性能が得られたので,次にはこの触媒を半導体と組み合せる.

 これまでに話した例のように複数のデバイスやプロセスを組み合せると,ナノ構造によってそれぞれの特性を改良して全体の性能を上げられる.バルクだけでなくALDなどを利用して表面や界面を活用する.ナノテクノロジー活用によるエネルギー問題への挑戦は続く.

質疑

Q:材料の均一性は問題にならないか.

A:状況次第である.

Q:電気変換と熱としての利用のどちらが良いか.

A:Competitiveで双方有効と考える.

 

2.2 有機薄膜太陽電池-印刷によって新聞のように大量安価に作れ,屋根,壁,窓に貼り,自動車に塗って使う,ニュータイプの太陽電池 平本昌宏 分子科学研究所

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(平本氏は大阪大学を経て,分子科学研究所で有機薄膜太陽電池開発を推進)

 有機薄膜太陽電池は軽く,フレキシブルで,印刷,塗布可能,着色でき,安価な新しい太陽電池である.有機物の電子デバイスとしては有機ELが商品化されている.携帯機器に搭載され,天井に張れる照明にもなった.ELの次には太陽電池が実用化されると見ている.

 一つの技術の成熟には20年掛かると言う.有機ELは1986に米国Kodakが始め,日本では1990年から研究が行われている.当初は秒の単位だった寿命は現在10万時間になった.製品化は韓国のサムスンが先行し,55インチの有機ELテレビができている.日本は2年以上遅れてしまった.

 有機薄膜太陽電池のエネルギーペイバックタイムは,Si太陽電池の2年に対し,2ヶ月である.コストペイバックタイムだとSiの8年に対し,有機は6ヶ月である.有機薄膜太陽電池には高分子型と低分子型があるが,高分子型は塗布で作って効率8.3%が得られ,低分子だと三菱化学が塗布で10.1%と商用化レベルの10%を越え,蒸着ではタンデムにして9.3%が得られている.一方,有機太陽電池において欧米は侮れない.ベンチャーのコナルカ社は既に効率8.3%のものを商品化している.サンフランシスコのバス停の屋根に張っている.ヨーロッパではインクジェットで回路を作り,ロール・ツー・ロールの製造装置も用意している.

 低分子蒸着系ではフラーレン,フタロシアニン,ペリレン顔料を使う.染料系は褪色するので顔料系が良い.組合せは他にもあるが,全てフラーレンを用いる.ITOガラスに有機薄膜を蒸着して作る.ところが,有機物で太陽電池を作ろうとすると原理的な問題が浮かび上がる.電荷の間に働くクーロン力は誘電率に反比例することである.有機物の誘電率は半導体に比べて小さいから,電荷の間の引力が大きく,光によって発生した電子・正孔対の励起子を分離しにくい.有機物は解離することが少なく解離しても失活する.そこでHOMO(最高エネルギー占有分子軌道)とLUMO(最低エネルギー非占有分子軌道)のように伝導帯と価電子帯のずれたものを接合する.そうすると電荷移動型励起子になって電子と正孔が分離する.光合成でも同じことになっている.共蒸着か混ぜて2つの材料を接合させると内部で電荷ができて移動する.

 1991年に2種類の有機半導体から成り,i領域を共蒸着で組込んだpin接合(バルクヘテロ接合と呼ぶ)を提案し,有機薄膜太陽電池で不可欠な技術となった.フラーレンを用いると輸送効率が良いので変換効率が上がる.ナノ構造,バルクへテロ構造,共蒸着により製膜し,温度を上げて相分離させる.光で生じた正負の電荷が移動するルートができ,相分離した微結晶とアモルファスフラーレンを正と負の電荷がそれぞれに伝わり外部に取り出される.ドーピングによるpn制御,高純度化によって短絡電流20mA/cm2,効率5.3%が得られた.問題は外気に影響され易いことで,酸素がトラップを作る.このため,真空装置内で作製し,そのままの状態で測定まで行う.p型にはMoO3,n型にはCaを添加してpn接合が作れる.一度には添加できず,それぞれに添加して共蒸着する.ナノ構造にすることにより,移動度を向上させている.

 低分子の時には適当な溶媒がないが,第3分子を入れると結晶化が促進され,カラム構造にできる.フラーレンをアクセプタのLUMOとしたとき,開放電圧はドナーとなるHOMOのエネルギーギャップによって変る.バンドギャップをコントロールすると短絡電流が増加する.バンド・チューニングの操作に当り,デバイスオリエントの有機化学によって有機薄膜太陽電池の開発を推進する.

 

2.3 エネルギーコモンズとしての小水力発電 駒宮博男 地域再生機構

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(駒宮氏はNPO法人地球の未来,地域再生機構理事長等を務め,持続可能な社会デザインを模索している)

 震災と原発事故の後,代替エネルギーへの期待が高まっている.小規模水力発電は日本に適する.雨が多く,国土面積の70%が山である.しかし,日本の水力発電はダム式が多く,ダム式の大型発電所が1,400ある.ドイツの北部は雨が少なく,水力発電所は少ないが,南部には小さい発電所が多数あって5,500を数える.これに相当したものは日本だと百数十ヶ所しかない.日本の川の傾斜は急で,外国人に滝のようだと言われる.傾斜の急な川の洪水は田が防いで来た.富山県の川は急勾配で小水力発電に向いている.それなのに,中山間地の分散型エネルギー資源が利用されていないことが問題と考えた.一方,ものが社会に出るかどうかは工学的要素と人的・社会的要素の積で決まる.日本の水力発電に関する法律はダム式に合わせて作られている.そこでJST-RISTEXプロジェクト(科学技術振興機構 社会技術研究開発センター「小水力を核とした脱温暖化の地域社会形成」2008/9~2013/9)で小水力発電普及阻害要因を追求し,岐阜と富山で実証実験を行った.

 水力発電では大きい落差が有利と思われるが,小さい落差の地点は数多い.農業用水など,どこにでも水のあるところに導入するには小落差の発電機が望ましい.戦前から脱穀などに使う水車を利用する小水力発電は存在したが山間地にあったので目立たなかった.そこでプロジェクトでは地域の人たちに小水力が見えるようにした.開発した小水力発電機はピコピカと名付け,若者が興味を持つような組立てキットにした.落差0.5mの仕様で,発電機の出力は5Wである.実証実験では,発電機が停まったのが木の枝や狸が引っかかったときだけだった.設備稼働率は半導体製造の世界だと5~10%というが,小水力発電は100%だった.落差なしでも発電できる.課題は水の粘性抵抗だが,羽根のかたちで改善できないか考えている.1台150万円でできるから一家に一台の水力発電を狙う.しかし,農業用水は公共物のため利用上の制約が生じることもある.

 昨年の7月までにピコピカは100台以上普及し,小水力の見える化にも成功した.獣害防止柵の通電に使える.ただし,草がかかったりするとメンテナンスが必要になる.発電機だけでなく,小水力発電の用途開発を目的に,10人乗りのE-コミバスを開発した.小水力発電の電力で充電して20km/hの速度で走り,50km走行できる.桐生,宇奈月で運行している.

 かつての国内電力は別子銅山などが独立の発電所を持っていた.その後,地域の電気や熱は外部に頼って来たが,震災後,地域で使うものは地域で供給する機運が生じている.豊かな急傾斜の川と森がある山間地はエネルギーの自己供給に向いている.自然エネルギーの村おこし計画があってよいのではないか.適正技術によって地域分散を図り,雇用を創出できよう.ピコピカにはなお,キット量産の問題があるが,小水力発電や,エネルギーコモンズの概念が国中に広まることを期待する.

質疑

Q:水力では流量変動が問題になることはないか.

A:梅雨と乾期とでは流量が異なるが,最低水量で設計している.


 ここで休憩に入り,出席者の多くはポスター展示に向かった.

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 休憩後,午後の後半,セッション3が開始した.

セッション3 分散型エネルギー源

3.1 ナノ構造制御に立脚した高出力固体酸化物電解質燃料電池の開発 石原辰巳 九州大学

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(石原氏は大分大学を経て九州大学教授,酸化物伝導体と燃料電池応用の研究を推進)

 燃料電池は温暖化ガスを削減する代替エネルギーの一つである.産業部門からの炭酸ガス排出は減少し,日本全体でも下がっている.これに対し,家庭からの排出は増加しているから,今後は家庭と運輸関係からの炭酸ガス排出削減が必要になる.燃料電池は家庭からの炭酸ガス排出削減や,スマートグリッドに有効である.災害時にはマイクログリッドが大切だが,市町村規模の再生エネルギーネットワークはまだ不安定なので燃料電池が期待されることになる.

 燃料電池の中で,固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell, SOFC)において日本は先端を走っている.SOFCでは酸素イオンが動くのに対し,高分子燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell, PEFC)では水素イオンが移動する.SOFCはセラミックのため安定で,10年の寿命がある.水素イオンを使うPEFCより安全だし,燃料の自由度があるから,システムとしても安定している.動作温度が高いので,貴金属を使わなくて済む.PEFCが小型なのに,SOFCは大型だが,タービンと組み合せると70%の効率になる.最近はセラミック薄膜によって界面抵抗が減少し,小型でも効率の高いものができるようになった.

 SOFCは高いエネルギー変換効率の特徴から注目されている.SrとMgを添加したLaGaO3は高いイオン伝導度を示し,LaGaO3ベースの膜は中程度の温度でのSOFC電解質として期待されている.これまでにも,Ni-Fe金属負極,LaGaO3電解質を用いたSOFCが中程度の温度で優れた電力生成能力を持つことが示されていた.

 その一方,SOFCは出力が小さく割れるのが問題になっている.NiFe-SDC(Sm添加セリア)を用いたサーメット基板は3次元的で反応面積が大きいため,高出力特性を示す.しかし,サーメット基板は機械的に弱く,金属基板SOFCはセラミック基板SOFCに比べ,機械強度と耐熱性の問題が重要になる.水素の分離で出る炭素がNiと反応して割れる.そこで,作動温度を下げようとパルスレーザデポジション(PLD)によって薄膜を作った.析出条件によって密にも多孔質にもできる.さらに金属に担持する.金属担持は海外では多く行われているが,ステンレス基板を使って孔を空けるとCrが出て孔を塞いでしまうのが問題だった.そこでNi系ポーラス金属基板を還元して孔を空けるようにした.

 具体的には,10%Fe2O3添加のNiO粉末を用いて含浸法により高密度NiO-Fe2O3複合酸化物基板を用意する.この基板を還元すると,Niに続き,Feが還元されて小さなナノメートルサイズの孔が空いた多孔体ができる.この基板に,高密度LaGaO3電解質をPLDで被着する.次に,Sm添加セリア(Ce0.8Sm0.2O2,SDC)膜をNiとLaGaO3の反応抑止中間膜として挿入する.正極の活性度を高めるため,SSC(Sm0.5Sr0.5CoO3)正極とLaGaO3電解質の間にSSC-SDC二重カラム構造をPLDにより被着する.二重カラムにすると,100nmの斜めのピラーができ,CoとCeが2層になって出力の向上が期待される.

 このようにして作ったSSC-SDC膜のSTEM(走査透過型電子顕微鏡)写真とXRD(X線回折)から,被着した膜はSSCとSDCの2相から成る複合材であることが確かめられる.二重カラム層を正極界面に用いて電力密度特性を測定したところ,最大出力密度は973Kにおいて,2.2W/cm2,673Kにおいて0.15W/cm2であった.二重カラムSSC-SDCの利用はSOFCの電力密度を高めるのに有効である.Ni電極は再酸化すると壊れるが,今回開発した電極は多孔質にしているので酸化還元を繰返しても壊れない.Feの析出物ができて組成が可逆的に変るため,燃料電池動作における水素イオンから空気中の酸素イオンへの変化に対応できる.ナノ構造制御がSOFCに有効に働き,動作温度を700℃から500℃に下げることに成功したものである.

質疑

Q:何年で実用化できるか

A:今年中の実用化は可能と思う.

 

3.2 全固体リチウム電池をめざして—最高のリチウムイオン伝導率を示す超イオン伝導体の開発 菅野了次 東京工業大学

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(菅野氏は東京工業大学において,Li電池と固体酸化物燃料電池中心に電気化学エネルギー変換デバイスを研究)

 電池は現代社会の基幹技術である.ハイブリッド車をはじめとする高出力・高エネルギー密度の電池の需要はLiイオン電池,Li空気電池の進歩を求める.一方,電池には高容量,高出力,安全性が要求される.高容量化には新しい材料,新しい反応を探し,材料を組み合せる.高出力にはナノ粒子にして表面積を大きくし,電荷の拡散距離を短くするが,界面における電気化学反応が十分には分っていない.安全性に関しては有機溶媒だと燃え易いから,無機材料への展開を試みることになる.固体電解質は有機液体電解質の置換え可能性を持ち,次世代高エネルギー電池の安全性を高めると期待される.燃えない固体電解質の利点は認められているが,低いイオン伝導度,化学的及び電気化学的安定性の低さが実用化を妨げていた.主たる課題は固体電解質として,融点より充分低い温度でもイオンがサブ格子中を高い拡散速度で移動するLi超イオン伝導体の探索となる.

 最初の材料探索は1970年から1990年にかけて行われた.多数の結晶性,ガラス質材料,複合材,高分子材料が見出され,固体中のイオン移動の基礎科学が育った.第2段階は1990年からの20年間である.Li3PO4-Li2S-SiS2系が高い解離性を持つことが分り,全固体電池開発研究を加速したが,固体電解質の室温における電気伝導度は液体系における電気伝導度10-2S/cmに比べて一桁以上低かった.

 そこで周期律表から元素を拾っては試すことを繰返した.その中で分極率の大きいSが候補になり,価数の違うものと組み合せて,イオンを捕える欠陥ができ易くなるようにした.その結果,Li-Ge-P-S系で導電率10-3S/cmのものが出てきた.Li4GeS4-Li3PS4の相図において試料の合成を行い,Li10GeP2S12(LGPS)の組成の単相の材料が見つかった.27℃における導電率は1.2×10-2S/cmと,有機液体より高く,低温で安定であった.放射光データを用いて構造解析を行い,Liの格子位置を中性子線回折で調べた.その結果,Li10GeP2S12を構成する原子が8面体を構成し,この8面体がチェーンとなって,その中にLiS4の4面体の入っていることが分った.正極から負極に向かって一次元伝導が起る新しい結晶構造が高い電気伝導度の基であることが分った.

 LiCoO2を正極,LGPSを電解質,In負極を用いて全固体電池を試作し,120mAhg-1以上の放電容量を得た.充放電を2サイクル行った後の充電効率はほぼ100%だった.LGPSは全固体電池の実用的電解質になり得ることが分確かめられたことになる.今後はLi固体電池の応用開発が必要になる.

質疑

Q:航続距離を伸ばすには電池重量を軽くする必要があるのではないか.

A:今回の研究は安全性を狙ったもので容量の改善は狙っていない.全固体電池は密にパッキングできる効果があるから,電極容量の大きいものができたら,固体電解質しか使われなくなるだろう.

 

3.3 自己発電型システム:エネルギーハーベスティングの基礎から応用まで "Energy-Autonomous Embedded Systems: From Energy harvesting Principles to Practical Applications", Prof. Ing. Peter Woias, University of Freiburg, Germany

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 パソコンなど多くの機器やシステムは電池を内蔵するか,交流電源からアダプタで必要な電力を得ている.マイコンなどをシステムに搭載したEmbedded Systemが増加し,医療,宇宙,高周波無線送信機など,分散したものへの電力供給が求められるので,エネルギーの自立に向けて,エネルギーハーベスティング(Energy Harvesting)の必要性が高まっている.スマートグリッドになると,メンテナンスのためにもエネルギー自立が必要となる.

 自動車内のケーブル長は3km,エアバス内のケーブルだと530kmにもなる.自動車のケーブルの重さは全重量の6%を占める.しかもケーブル作りに要するエネルギーも大きい.300µWの電力消費で動作する温度センサに1mのケーブルで電力を供給すると,このケーブル製作に要する電力は温度センサを約30年間,動作させる電力に相当する.環境に存在する熱,光,振動からエネルギーを採って,自立的に供給すれば,コード不要,電源不要,内蔵不要になる.しかし,環境エネルギー(Ambient Energy),システム消費エネルギーには変動などの問題があるから,適応,貯蔵,効率よい制御によって問題解決を図る必要がある.

 エネルギーを発生する方法には様々なものがある.熱であれば,熱電効果によって熱エンジンを駆動する.圧電効果なら,環境からの振動によって結晶の格子変形が起り,電荷が移動するので電力が発生する.エネルギーハーベスティングではこの圧電(ピエゾ)効果が重要である.ストレスパターンをピエゾ素子に与えると,入力周波数によって出力電力は変り,共鳴周波数に合えば100µWの出力が得られる.高分子基板にピエゾ層を設けるが,入力周波数が共鳴周波数に合わないと大きな出力にならないから,ピエゾジェネレータには周波数適応が必要になる.周波数適応は楽器の調律と同じで機械ストレスによって行う.ピエゾ素子に設けたサイドアームで印加された力を検出し,システム全体の共鳴周波数の同調をとる.同調には圧電効果による応力を用いる.

 ピエゾ効果によって発生したエネルギーはコンデンサに蓄えて使う.蓄えた電圧をアクチュエータに印加して同調をとる.このようなシステムではエネルギー効率が重要である.ピエゾ素子が電気容量を持ち,アクチュエータの長さが変る.力がシステム内に止まる必要があるが,リークがあると効率は下がる.マイコンで同調をとり,共鳴周波数は12Hzから42Hzに変えられる.給電に用いるときは無線で電力を送る.

 温度をエネルギー源にするときはゼーベック効果を用いた熱電発電を用いることになる.出力電圧は温度差で決まり,発生エネルギーは温度差の2乗に比例する.設計上の問題は熱回路と電子回路を組み合せてモデル化することである.電子回路にはDC-DCコンバータを入れて電圧を合せる.家の壁から熱をとるときはヒートシンクを使うからその時定数を考慮する必要がある.人体をエネルギー源にすると,足の力から67W,体温から数Wとれる.指の動きも使える.人体からの電力は転倒モニタリングの電源になる.Biomedical embedded systemの例では,pHセンサのついた発電素子内蔵デバイスを体内に飲み込むと,1.5V,15µWの電力を発生し,この電力によって,体外に無線でpHの情報信号を送る.競歩用のシステムはシューズの中に入れて,80µWのエネルギーが取り出せるので万歩計を動かせる.靴の中の送信器をiPodと接続し,データを送信できる.

 エネルギーハーベスティングは建物やトンネルのモニタリングに使える.建物は構造安全性,トンネルでは温度や換気などのモニタが必要になる.トンネルでは温度勾配を利用し,温度分布の測定から,地熱,風力のデータも得られる.トンネルの熱は壁を伝わるが,短いトンネルだと温度差は1~2Kに過ぎない.最適化したヒートシンクを用いると20~60mVの出力が得られるので,DC-DCコンバータを用いて3Vに昇圧し,通信が可能になった.列車通過のモニタは線路の振動を用い,列車の通過を検知してその結果を無線電波で送ることができた.

 エネルギーハーベスティングはメンテナンス不要だから,アクセス困難なところで使える.インターネットのようにネットを構成することもできる.自己発電型システムとしての展開が期待される.

質疑

Q:同調はどこに使うか.実用化状況は?

A:同調はセットアップが変った時の補正に使える.車によって振動数が変ったりする.実用化は今後の進展を期待している.

 

3.4 環境振動を用いたエナジー・ハーベスティング 鈴木雄二 東京大学

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(鈴木教授は東大大学院機械工学専攻に所属し,エナジー・ハーベスティングに関し,学術振興会のNEXTプロジェクト(最先端・次世代研究開発支援プログラム)「超高性能ポリマーエレクトレットを用いた次世代環境振動・熱発電システムの開発」(平成23年2月10日~平成26年3月31日),及びナノテクノロジーネットワークの支援を受けている.)

 グリーンイノベーションには,再生可能エネルギー源を用いるとともに,エネルギーの利用効率を高め,環境に対するよりよい性能を求める必要がある.それにはもののインターネットを作る.ものとものをつないで通信させる.そうすれば,医療では生命センサ(Vital Sensor)によって在宅ケアができる.産業分野では工場内の状況を把握できる.東日本高速道路株式会社(NEXCO)では高速道路のモニタを始めた.車のタイヤにセンサと発電機を付け,路面状態をセンシングしてカーナビで送信する.その情報は後続車に送られる.タイヤの空気圧モニタに現在はボタン電池を使っているが,空気圧データを車載コンピュータに送るのに必要な電力は20µWで済む.分布型の自立センサを埋込めば,インターネットを構成できる.このような背景の下に,環境振動からエネルギーを取得するエナジー・ハーベスティングは電池を持たない無線センサネットワークノード応用などに高い関心を集めている.

 エナジー・ハーベスティングに振動を利用するが,配管の気流からもエネルギーを取り出せる.エナジー・ハーベスティングでエネルギーを供給できれば航空機のケーブル重量を減らせる.機材のクラックなどのセンシングにも使えるが,離陸時の低圧タービンの振動数は48Hzで,発電素子には広帯域対応が求められる.そこで,絶縁体に電荷を蓄えるエレクトレット(Electret)の利用が考えられた.1924年に江口元太郎氏が考え出し,1960年にはエレクトレットマイクロフォンが米国のベル研究所で作られた.1978年には発電機が作られている.振動によってコンデンサを構成する2枚の電極板がずれるのを利用する.出力は表面電荷密度の2乗,周波数,面積に比例する.エレクトレットには,無機材料で2酸化シリコン(SiO2),有機材料ではフッ素置換高分子(Fluorinated polymer)が使える.

 これまで旭硝子と共同研究を行い,非晶質全フッ素置換(perfluorinated)高分子CYTOP(旭硝子)を基に高性能高分子エレクトレットを開発した.CYTOPにアミノシラン誘導体を導入して,高分子エレクトレットの中に有機シロキサンを含むナノクラスタを作ることに成功した.フッ素終端では性能が上がらない.スピンコートしてベークすると相分離,縮合して内部に20nmのナノクラスタができる.ナノクラスタは電子との親和性が良く,電荷をトラップして表面電荷密度を高めるとともに,トラップされた電荷を安定化する.コロナ放電の最適条件下で表面電荷密度は2mC/cm2に達した.

 1cm角の振動板をSiウェーハのMEMSプロセスで作り,パリレン(parylene)高アスペクト比非線形スプリングで支えた.振動板の上のエレクトレット層,対電極面方向の振動に応じて,対電極に誘起される電荷が変化し,交流電流が外部回路に流れる.パリレンのスプリングは振幅が大きく,共鳴周波数が低くなるよう,アスペクト比を高くしてある.上下の電極のギャップや電極配置などを最適化して作った発電機を電磁撹拌器に取り付け,面方向の振動を与えて試験した.最適負荷条件では3µW以上の出力が26~40Hzの広い周波数帯域で得られ,1.4Gの加速度では6µWの出力が得られる.擬似環境振動条件でも動作した.

 次に,無線センサノードの試作品をエレクトレット発電機,電力制御回路,CPU,RFICで作った.発電機からの出力はダイオードブリッジで整流し,電荷をコンデンサに蓄える.コンデンサの電圧が4.9Vになると,電荷制御回路が放電を開始し,3Vの出力がPC,RFICに供給される.整合インピーダンスの条件で,5.1µWの交流出力が80.6sの間隔で間欠的に供給され,電池を持たないセンサネットワークノード応用の可能性を示すことができた.

 今後は新材料の開拓により10µWの電力発生をめざし,回路系などとの整合性を高めることが必要になる.


 以上で午前10時から午後5時40分に及ぶシンポジウム講演が終わり,シンポジウム組織委員長の閉会の挨拶で締め括られた.

 

閉会挨拶
野田哲二 JAPAN NANO 2012組織委員長,物質・材料研究機構国際ナノテクノロジーネットワーク拠点長

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 長時間のシンポジウム参加に感謝する.今回はエネルギーの持続的供給と分散化および地震津波に強い構造材料に焦点をあて,災害に強い社会構築に向けたナノテクノロジーの貢献をテーマにシンポジウムを開催した.冒頭,神本文部科学大臣政務官から暖かいご挨拶を頂き,吉川,久間の両先生には示唆に富んだ意義深い基調講演をして頂いた.さらに3つのセッションでは9件の講演で各講師の先生にそれぞれの分野でのシンポジウムの趣旨に沿った最先端のお話を頂いた.この中で平本様,菅野様,および鈴木様の講演にはナノテクロジーネットワーク事業の成果も含まれている.本日は616名の参加があったとの事務局からの報告を受けており,盛会であった.本シンポジウムは10回の節目を迎えたが,来年以降も継続して行きたいと考えている.引き続き,参加,協力をお願いしたい.

 

 

(古寺 博)