NanotechJapan Bulletin

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開催報告: nanotech 2008

NanotechJapan Bulletin Vol.1, No.3, 2008 発行

nano tech 2008 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議 報告

 本年2月13日から15日まで,東京ビッグサイトでnano tech 2008 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議が開かれた.第7回目となる今回は,国内企業・団体324機関および海外23ヶ国の企業・団体198機関,合計522の出展者が参加,小間数884,来場者数49,365名(いずれも主催者発表)と史上最大規模のナノテク展示会となった.海外からの出展も急増して出展者全体のおよそ4割を占め,ロシア,スペイン,イタリア,イランの4ヶ国が初めて出展した.

 主催は,川合 知二氏(大阪大学)を委員長に産学官のナノテク専門家20名により構成されたnano tech 実行委員会である.後援には総務省,文部科学省,農林水産省,経済産業省などの政府機関と米国,英国,ドイツ,フランス,ロシア,大韓民国を含む15ヶ国の大使館が名を連ね,これに物質・材料研究機構,産業技術総合研究所,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など10団体が加わった.


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展示会場風景


出展・来場者数の推移

 今回の出展者数および来場者数を第1回のnanotech 2002と比較すると,2002では出展者数91で今年はその約5.7倍,来場者数(2002年は10,258名)についても約4.9倍となり,この7年間に爆発的に増加している.ただ出展者数を前年度と比較すると,昨年までは2桁以上の増加率であったが,今年は8%増で,初めて1桁の増加率に留まった.参加者数でも前年の48,565名に比べ49,365名と微増で,数字的にはナノテクへの関心が一時のブーム的様相から冷静に技術そのものの可能性を吟味する方向へと変化したと考えられる.

出展者への期待と注目点

 ナノテクがどの産業分野に取り込まれていくかは,ナノテクの将来を占う意味で重要である.ほとんどの出展者は,材料・素材,IT,バイオ,微細加工,計測,環境・エネルギー,その他,の7分野のいずれかを中心に,独自の狙いで出展していた.これに対し,ドイツ,UK,フィンランド,韓国などは,ほとんど全分野に満遍なく出展し,きわめて積極的に自国の研究開発動向を展示することで,商談,ビジネスと共同研究のパートナー発掘を狙っていた.

 企業,大学と公的研究機関の展示目的も同様と見られるが,大学や都道府県の研究機関の展示は数も分野も多岐にわたり,総じて学会におけるポスター展示的であった.もっとも同じ公的研究機関とはいえ産業技術総合研究所やNEDOの展示は,企業も絡んだ技術開発の成果が中心であり,展示スペースの広さ,内容ともに,今回最も来場者の目をひきつけたドイツやUKのパビリオンと双璧をなし,国がらみの研究開発活動を誇示するに十分であった.一方,企業の出展は将来の市場を見据えて比較的早く実用化が狙える分野を対象にしたもの,現在すでに開発した技術の顧客を探すもの,技術力を誇示するものなど様々であった.

エレクトロニクス系企業の展示

 東芝,日立,NEC,富士通などの半導体関連メーカーや富士フィルム,東レなどの大企業は明確な意図を持った出展を行った.例えば,東芝は環境活動を加速させるナノテクとして「エネルギー・次世代半導体・バイオセンサー」の3分野をとりあげ,NAND型フラッシュメモリの大容量化のための新型3次元メモリセルアレイ技術,高濃度燃料の使用,反応効率の向上を実現した小型ダイレクトメタノール燃料電池などを出展した.日立のブースでは,希少資源の有効活用に向けたナノコンポジット磁石粉末SPRAX,生態系保全のための無鉛バナジウム低融点ガラス,クリーンエネルギー実現のための直接メタノール型燃料電池などを出展した.東芝,日立いずれも燃料電池を取り上げた点は興味深い.市場性を意識した時,燃料電池へのナノテク応用が最も有効と考えてのことと思われる.

 一方,NECは,高機能,低環境負荷のデバイス・材料の創出を目標に,プリンタブルエレクトロニクス技術によるカーボンナノチューブ使用トランジスタ回路形成,シリコン基板上に小型,低消費電力,高機能な光集積回路を形成するシリコンフォトニクス技術,光インターコネクションなどを紹介した.これに対し富士通は,ソリューションビジネス推進の立場からナノテク研究開発の加速を目指してシミュレーション技術を紹介しており,東芝,日立,NECとはやや趣が異なっていた.

その他の分野の展示

 その他の企業は概ね自社の得意技術分野の開発成果を展示しており,たとえば富士フィルムは,光と色を制御する材料,機能性コーティング材料,機能性フィルム(たとえばハニカムフィルム)などを展示,東レもナノフィルムなどを展示していた.

 ナノフィルムとともに目に付いたのはナノインプリント技術,ナノパターニング技術およびナノペーストであった.ナノインプリント技術はキャノン,NIL Tech(デンマーク),NTT-AT,SCIVAX,住友重機,東京応化(材料),東洋合成(樹脂)などのブースで展示された.このナノインプリント技術に対抗して日本製鋼所が,独自の技術である溶融微細転写プロセスを展示していたが,これもナノ関連新技術として注目される.

 一方,ナノパターニング技術についてはSigma-Aldrich JapanとUniJet(インクジェット印刷,韓国),グンゼ等が展示しており,ナノペーストについては,ナノ粒子開発の先駆者アルバックをはじめ,大阪市都市型産業振興センター,住友大阪セメント(ナノチューブペースト),InkTec(韓国)等が展示していた.これらの技術は半導体各社の展示技術とはやや異なり,いわばナノ材料を直接産業に結び付けようというものである.これ等の中から市場性に富んだ商品が創出されることが期待される.

ベンチャー企業

 今回の出展者の多くが開発やビジネスのパートナーを求めていることに関連して,ベンチャー企業2社を訪問した.2社ともに国研の特許使用権を得ており,一方はナノ粒子製造装置,他方はナノチューブ製造装置の販売会社である.ビジネスがどうかを尋ねたところ,いずれも装置の販売は不振とのことであった.そのため,ナノチューブ製造装置会社は,装置の販売から顧客の要求にもとづく共同研究へとビジネスのやり方をシフトさせることによって,将来は分からないが,現在はそれなりの利益を得ているということであった.これは,日本からシリコンバレーに移ってナノ粒子ビジネスを成功させたNanoGram社も採用しているビジネスモデルある.

ナノテクノロジー・ネットワークプロジェクト

 ナノテクノロジー・ネットワークのブースでは,13拠点がそれぞれのパネルを展示するとともに,説明員を配して支援活動のPRを行い,来場者から熱心な質問を浴びた.さらに,本ホームページの紹介や拠点責任者インタビューのビデオ放映も行った.ブースに隣接するメインシアターでは,各機関が支援の概要,特徴,成果事例を紹介する「ナノテクノロジー・ネットワークプロジェクト事業説明会」が開催された.全体として,昨年から新たに船出したナノテクノロジー・ネットワークプロジェクトが順調に進んでいることを印象づけるものであった.

ナノ材料と安全性

 ナノ材料関連で目に付いたのは,フラーレンを使用した化粧品やナノ銀関連技術を展示した三菱商事である.またナノ銀関連技術は,Umicore Japan(ベルギー),HeiQ Materials(スイス),日本イオン,それに今回新たに出展したイランのブースでも展示していた.これらナノ材料は,環境や人体に対する影響が懸念され,その安全性について多くの議論がある.そこで,フラーレン化粧品の三菱商事とナノ銀の日本イオン,さらにナノ材料のリスクについて展示したカナダパビリオンとドイツパビリオンで話を聞いた.

 カナダとドイツのパビリオンでは,ともに「我々の国ではOECD等の国際的機関との連携のもとでナノ材料の安全性の検討を行っている.この点,中西準子氏(産業技術総合研究所)等が重要な活動をしている日本と同様である」という話であり,日本の活動が高く評価されているとの印象を受けた.さらにドイツは,「国際機関の活動はまだ安全性の基準作りのレベルで,安全性に関するデータが不足している.このため企業は自らの商品に安全性テストを実施して,その結果をインターネット上で公開している」という説明で,その例としてBASFの活動を挙げた.同様なケースには,ほかにデュポンがあるという.

 これに関しては三菱商事も同様で,系列会社の三菱化学の研究所で安全テストを実施して安全を確認している.また日本イオンはナノ銀による殺菌技術の特許をもとに1954年から事業を展開しており,安全性については問題ないという話であった.

nano tech 各賞

 恒例となったnano tech大賞は,50社を超える巨大な展示によって存在感を示したドイツパビリオンに贈られた.他の各賞の受賞者と対象技術は次の通りである.

  • 材料・素材部門賞: 太陽化学(株) (メソポーラスシリカ)
  • IT・エレクトロニクス部門賞:(株)東芝 (3次元メモリセルアレイ)
  • 環境・エネルギー部門賞: ウベボード(株) (ナノ細孔を持つやさしい壁建材)
  • バイオテクノロジー部門賞: ベルギー国 ワロン地域政府貿易・外国投資振興庁 (ポリマー・メンブレン)
  • 微細加工技術部門賞:(株)日本製鋼所 (溶融微細転写プロセス)
  • 評価・計測部門賞: 米国 FEI Company  (収差補正付電子顕微鏡)
  • 特別賞:(独)産業技術総合研究所 (カーボンナノチューブインク)
  • 日刊工業新聞社賞: ファイブテックネット(クリスタル光学/スズキプレシオン/東成エレクトロビーム/中村超硬/ピーエムティー)(地域オンリーワン企業5社のネットワークサービス)

おわりに

 ナノテクはナノサイズを扱う技術であり,ナノテク固有の将来性ある産業分野を見出すにはそれなりの時間がかかる.その意味で目前の産業のどこにナノ技術が導入できるかを具体的に見ていくことが大切だ,というのが展示全体を見終わっての印象である.それがナノインプリントなのか,燃料電池なのか,はたまたナノペースト,フォトニクス回路形成,化粧品製造,DDS等々なのかはまだ定かでないが,そうした模索がしばらく続きそうである.

 外国からの出展が全体の4割に達した本イベントは,文字通り世界最大の国際ナノテク展示会である.外国系のブースでは日本語の通訳を用意するなどして日本の顧客に配慮していたが,日本側のブースでは説明が日本語のみのものが多い.外国からの来場者にとって不便なので英語表示に配慮してほしい,との要望が外国人参加者から多く聞かれた.もっともな指摘で,今後の出展者の対応を待ちたい.

(小澤英一)