NanotechJapan Bulletin

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開催報告: nanotech 2015

NanotechJapan Bulletin Vol.8, No.2, 2015 発行

第14回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2015)開催報告

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 第14回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2015)は,2015年1月28日から30日までの3日間例年通り東京国際展示場(東京ビッグサイト)東4~6ホールで開催された.主催はnano tech実行委員会,後援は内閣府,総務省,文部科学省,農林水産省,経済産業省,イタリアを始めとする19カ国の大使館および政府機関,8独立行政法人,および,2社団法人である.また,協賛は(公社)応用物理学会,(公社)高分子学会,(公社)日本化学会,(公社)日本分析化学会,ナノ学会,フラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会である.事務局は(株)ICSコンベンションデザインが担当した.

 本展示会は,ライフサイエンスからIT・エレクトロニクス,インフラ・エネルギー,オートモーティブ,ウェアラブルまで,多様なキーインダストリーに技術革新をもたらしている基盤技術“ナノテクノロジー”をテーマとした世界最大の総合展示会であり,ナノテクノロジー開拓の機運の醸成がグローバルに始まった21世紀初頭から,毎年開催されてきた.本展示会の歴史は,ナノテクノロジーの研究開発から実用化そして産業化と展開する研究機関や企業の活動の流れを反映している.また,その時々における研究・実用化・産業化の展開を促進する機能を担って開催されており,今年は14回目を迎えた.

 nano tech 2015と同時開催展示会も表1に示すように昨年の7展示会から過去最多の14展示会に増加した.ナノテクノロジーの展開が関連分野の活性化に貢献していることを示している.併催展示会のうち,ASTEC 2015,SURTECH 2015および,新規に加わった3D Printing 2015の展示がnano tech 2015と同じ東4~6ホールで行われ,自然に技術分野の融合が行われる体制にあった.会期の3日間,各展示会場とも賑わいを見せ,来場登録者数は同時開催展示会合計で47,649名と発表されている.


表1 nano tech 2015と同時に開催された展示会

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 また,この3日間はnano week 2015として,東ホールの各展示会場内の特設セミナー会場や会議棟の会議室で各種会議が開催された.その一つである,第13回ナノテクノロジー総合シンポジウムJAPAN NANO 2015については,別取材記事で報告がある.

 本展示会の大きな役割の一つである,シーズとニーズのマッチングを効果的に行わせるために,第12回 nano techから実施している商談促進ツール「ICSビジネスマッチングシステム」が今回も運用され,その実を上げているものと思われる.

1.nano tech 2015の概要

1.1 総合展出展状況

 nano tech 2015に出展した企業・公的機関等の数をWebサイトから抽出したものを,過去のデータと比較して表2に示す.総数は平年並みであるが,海外からの出展数が,昨年の大きな減少から,再び戻っている.特にコロンビアなど新規参入の国もあり,参加国数で見ると,これまでの最高の30であった.ナノテクノロジーのアプリケーションとの結びつきによる重要性の認識がグローバルに広がっていることの現れと考えられる.


表2 nano techの出展者(企業・公的機関等)数の変遷

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 出展者(企業・公的機関)数を,ナノ材料・素材分野,評価・計測・分析技術/装置分野,および加工技術/装置分野の3製品カテゴリーに分類して,各カテゴリーで技術項目別に表示したものを図1~図3に示す.各図では,2012年,2013年,2015年を比較評価している.2014年は技術項目の分類が異なったので,2014年のデータはこのグラフから抜けている.


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図1 ナノ材料・素材分野における技術項目別の出展者数


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図2 評価・計測・分析技術/装置分野における技術項目別の出展者数


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図3 加工技術/装置分野における技術項目別の出展者数


 図4は,3製品カテゴリーごとに,各技術項目の出展者数(図1,図2,図3ごとに)を累計したもので,各製品カテゴリーの出展者数の2014年を含めた年毎の変遷傾向を見ることができる.なお,1出展者が複数の技術項目に出展している場合があるので,図4の数値は出展者を重複して数えていることになる.従って,厳密には1出展者が複数の技術項目に展示した場合を複数の出展をしたとみなして,図4の数値は,製品カテゴリーごとの総出展数の変遷と云うことになる.図から見える傾向としては「評価・計測・分析技術/装置」特に「加工技術/装置」では2014年1月の総合展の展示が減少している.それは2013年度のこの分野の活動状況を反映しているとも考えられる.


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図4 3製品カテゴリーにおける技術項目毎の出展者数の累計値の4年間の推移


 図5は,nano tech 2015における各製品カテゴリーの国内からの出展者数と国外からの出展者数の比較である.ナノ材料・素材分野は,ほかの2つの技術/装置に関する製品カテゴリーより,出展者数が多い.この傾向は外国からの出展ではより顕著になっている.


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図5 3製品カテゴリーについて,国内と国外の出展者数


 図6は,nano tech 2015のWebサイトの出展者検索システムから抽出した応用分野ごとの出展者数である.ナノテクノロジーが広い応用分野に亘っていることが分かる.有機材料,無機材料,半導体・電子部品や電子・電気機器など以前からの応用分野の出展者数に,医療・医薬品,医療機器,化粧品・トイレタリー,食品・飲料などのライフ関連の応用分野の出展者数が迫っていることが見て取れる.


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図6 応用分野で分類した出展者数


1.2 シーズ&ニーズマッチングの活動状況

 nano techでは前々回からオープンイノベーションの活発化を狙って,「ICSビジネスマッチングシステム」を導入している.総合展開催の2ヶ月前からWebでプロフィールを登録してビジネスマッチングシステムに参加し,マッチングメンバーを検索して直接アポイント申し込みを行い,承諾されれば,開催期間内の日時を調整して商談が行われる仕組みである.総合展会場内には個別に仕切られたビジネスマッチングエリア(図7)も設けられた.


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図7 ビジネスマッチング・エリア


 図8に3製品カテゴリーにおける出展者数とそのなかのビジネスマッチング参加出展者数を示す(nano tech 2015 Webサイトの出展者検索システムより).出展者の約50%が参加している.図9は外国からの出展者についてのデータであり,3カテゴリーのなかで加工・処理技術/装置が特にビジネスマッチングシステムへの参加が多くなっている.


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図8 3製品カテゴリーにおける出展者数とそのなかのビジネスマッチング参加者数


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図9 3製品カテゴリーにおける外国からの出展者数とそのなかのビジネスマッチング参加者数


 会場内にはAからDまでの4つのシーズ&ニーズセミナー会場が設けられており,出展者が展示技術や製品に関する紹介を行い,質疑応答が行われた.このなかのD会場は3D Printing 2015の出展者によるセミナー会場であった.


1.3 会場で見るnano tech 2015の特徴

 nano tech 2015開催の初日の午前,展示会場中央のメインシアターでは,nano tech実行委員会主催のLife Nanotechnology特別シンポジウム“医療・医薬イノベーションに貢献するナノテクノロジー”が開催された.医療・医薬はナノテクノロジーが人類社会に直接貢献できる分野であり,新しい産業が創出される分野でもある.本シンポジウムはその重要性をクローズアップしている.また,同日午後には,内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACTプログラム)の「進化を超える極微量物質の超迅速多項目センシングシステム」のキックオフシンポジウムが開催され,4件の講演が行われ,これから拓ける新しい研究が披露された.ImPACTは内閣府がこれまで推進してきた最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)に続いて平成26年から始まった新しいプログラムである.


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メインシアターでのシンポジウム


 展示会場では,例年通り独立行政法人(以下(独))新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が最大の展示面積で会場の入り口近くの一画を占め,会場中央部メインシアターの近くには(独)科学技術振興機構(JST),(独)産業技術総合研究所(AIST,産総研),(独)物質・材料研究機構(NIMS),の公的機関の展示ブースが立ち並び,その活発な活動状況を披露していた.一方,民間企業では電気関係の大手,日立,東芝,三菱電機,NECは姿を消してしまった.相変わらず元気のよいのは化学関係で,東レ,帝人,富士フイルム,日本触媒,信越化学,日立化成,トーヨーカラー,日本ゼオン等多くの企業が開発品を展示し,ユーザーとのマッチングを求める活発な動きをしていた.また,前回まで参加していた(独)中小企業基盤整備機構の中小機構ゾーンはなくなって,代わってNanotech Venture Pavilionが展示会場の2箇所に設定され,合計15社が出展していた.

 次に,今回特に新たな技術展開の始まりとして注目した分野を紹介する.

(1)バイオマスプラスチック

 石油枯渇に備え,草や木材チップ等の非可食性バイオマス原料からプラスチチックなどの化学製品を作る技術である.NEDOのブースでは,広い展示スペースの中央に「みどころ」として,3つの技術を展示した.ナノカーボン,プリンテッドエレクトロニクス,そしてこのバイオマスプラスチックである.バイオマスプラスチックでは4件のテーマの展示「再生可能木質資源から化学品を一貫製造」「植物由来機能性材料」「フルフラール法は実証実験段階」「リグノセルロースナノファイバー」があった.また,ナノセルロースの研究開発,事業化,標準化を加速するためにオールジャパン体制のナノセルロースフォーラムを設立したことが紹介された.


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NEDOブースにおける3つの「みどころ」


 一般展示では,中越パルプ工業株式会社が注目された.同社は,木材や竹を原料としてパルプや紙を製造販売することを事業にしているが,そのパルプから,九州大学の協力を得て水中対向衝突法(ACC法)によりナノセルロースを製造していることが紹介された.2013年3月からナノセルロースのサンプル出荷を始め,シートや成形体など用途開拓も行っている.この展示はnano tech大賞2015の産学連携賞を受賞した(後述).

(2)柔らかいエレクトロニクス

 上記NEDOのブースで「みどころ」としてプリンテッドエレクトロニクスが展示されている.この研究開発はnano tech 大賞2013でプロジェクト部門賞を受賞したNEDOプロジェクト「次世代プリンテッドエレクトロニクス材料・プロセス基盤技術開発」(プロジェクトリーダ東大 染谷隆夫氏)を基にした展開である.ところで,今回,次のステップとして,JSTのブースでJST ERATO(創造科学技術推進事業)の一つ「染谷生体調和エレクトロニクス プロジェクト」が紹介された.ウェアラブルやインプランタブルへの応用を目指すもので,超薄型有機デバイスに高信頼性インタフェースを実装する技術と,超薄型有機デバイスと生体が接触する最表面の生体適合性を向上させる技術に注力するとしている.2014年11月に「体に直接貼る生体情報センサーの開発に成功」を発表している.この技術はインプランタブル用途にも適用が期待されている.


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科学技術振興を目指して各種事業を推進するJST


 一般展示では,東レ(株)が,ウェアラブル電極を組み込んだインナーを出展し,nano tech 大賞2015でライフナノテクノロジー賞を受賞した(後述).

(3)3Dプリンティング

 3Dプリンターは一時玩具用等の安価なものが流行った時期があったが,ここにきて産業用の本格的技術の開発が始まっている.今回,3D Printing 2015がnano tech2015と同じ会場で同時開催され,技術研究組合 次世代3D積層造形技術総合開発機構(平成26年4月1日設立)が出展した.この機構では電子ビームとレーザービームにより金属粉末を溶融凝固させることで複雑な形状を造形する金属用3Dプリンターの開発を目指いている.

 一方,nano tech 2015のブースでは,(株)マイクロジェットがインクジェットを活用し,粉末をバインダーで固める等の方式の3Dプリンティングを開発し,インクジェト方式の指導,支援の提供を提案していた.(株)マイクロジェットの展示はnano tech 大賞2015で日刊工業新聞社賞を受賞した(後述).インクジェット技術を活用して立体物を印刷によって作製する時代となり,製造業から医療,我々のライフスタイルにまで影響するとしている.

 なお,インクジェット技術に関しては,産総研技術移転ベンチャーの(株)SIJテクノロジがスーパーインクジェット・ヘッドと称する独自技術により,世界最小吐出量(0.1フェムトリットル)を実現している.導電インク,高粘度インクなども活用でき,2次元ではあるが,プリンテッドエレクトロニクスへの適用を含めて,極めて広い応用領域の可能性を訴求している.高粘度インクを使って立体構造体(ピラー)の形成も行っている.

2.地域密着型産学連携研究開発の広がり

 nano tech 2015では,全国各地で大学や地域企業等が連携して研究開発・技術開発を行う活動も数多く展示された.そのなかの幾つかの例を紹介する.

 文部科学省のナノテクノロジープラットフォーム事業は,全国の大学や公的研究機関25拠点の先端装置を共用するためのネットワーク体制上に微細構造解析,微細加工,分子・物質合成の3領域のプラットフォームを形成して,各地の大学や企業の共用により研究開発や産業化の促進を図るものである.展示会の大学等のブースでは,このシステムの活用例が見られた.一方,ナノテクノロジープラットフォームのセンターのブースでは,各プラットフォームの紹介と共に,平成25年度にナノテクノロジープラットフォームを使用して挙げた成果のなかから選ばれ表彰された「秀でた利用6大成果」をパネル展示していた.そのなかの最優秀賞は名古屋工業大学の「フッ化物薄膜を用いた真空紫外光源」であった.プラットフォームの活動が軌道に乗っていることが窺えた.


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ナノテクノロジープラットフォーム 平成25年度の秀でた利用6大成果発表


 JSTのスーパークラスタープログラムの活動状況も目を惹くものであった.このプログラムは平成25年度に設立され,地域を超えた産学連携,即ち広域クラスターを謳っている.パワーエレクトロニクスをテーマとしてSiCおよびGaNパワーデバイスと関連技術を対象として研究開発を行っている.京都地区コアクラスターと愛知地区コアクラスターが設けられ,前者には長野地区,福井地区,山口地区のサテライトがあり,名古屋大学,名古屋工業大学,2公設試験研究機関,トヨタ自動車等7企業等が参加している.後者には滋賀地区,長野地区,福井地区のサテライトがあり,京都大学等8大学,2公設試験研究機関,ローム等11企業が参加している.このように,サテライトの地域は両コアクラスターでオーバーラップしている.

 佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターの出展があった.開所は2006年で,全国では20か所近くのシンクロトロン光施設があるが,自治体主導で一般企業や大学に開放する形の施設は初めてとのことである.特にシンクロトロン光施設のなかった九州・山口地区で貴重な存在となっている.地域の課題解決や,電子デバイス分野,環境エネルギー分野,計測技術の高度化,電池・触媒分野,ストレージ分野,新材料分野,微細加工などに於ける多くの利用成果が報告されていた.

 川崎市における産学官連携研究施設の紹介があった.川崎市は,産学連携による新しい科学・技術や産業を創造する研究開発拠点として「新川崎・創造のもり」の段階的整備を進めているが,平成24年にナノ・マイクロ産学官共同研究施設「NANOBIC」を開設した.この施設には750m2の大型クリーンルーム(一部クラス100)などを備え,「加工~試作~計測~評価」が可能である.4大学(慶応・早稲田・東工大・東大)ナノ・マイクロファブリケーションコンソーシアムが保有する最先端の研究機器を導入し,企業等へ開放している.本施設には,4大学コンソーシアム,日本IBM等の研究機関やナノテクベンチャー企業等が集まっている.


3.海外からの参加

 海外からの参加国の増加はnano tech 2015の大きな特徴である.Webサイトの出展者データから抽出した2015年と2014年の海外参加国とその出展者数を下図に示す.参加者数が1者の国はグラフの紙面の関係で,グラフ内に別記した.昨年に比べて参加国の増加は主として出展者数1の参加国である.また,参加者数の増減傾向は国によって異なるが,平均すれば増加している.なお,参加者数は外国パビリオン以外の出展も含めている.


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海外からの出展者数


 このような海外からの出展の活性化の傾向はnano tech大賞2015の表彰にも反映しているように思われる.功績賞を韓国パビリオンが,ビジネスマッチング賞をスペインのSpanish National Research Council(CSIC)が,そして,特別賞を初参加国コロンビアのI2Dナノが受賞した.各々については次の章で紹介する.

 以下,目についた展示状況を紹介する.

 まず,ドイツは例年通り最大の出展者数であり,また,メインシアターを2日目(29日)終日独占して“Nanotechnology-Made in Germany”と題してセミナーが行われた.特に午後の12件の講演中6件はフラウンホファー研究所からの報告であり,出展しているセラミックテクノロジー・システム研究所,エレクトロニックナノシステム研究所,マテリアル・ビームテクノロジー研究所からの技術講演が行われた.

 韓国は,今年はドイツを上回る広さのパビリオンで積極的な展示を行ない,パビリオン関係者は,ナノテクノロジーの応用展開では,他所に負けないと自負していた.韓国パビリオンはnano tech大賞2015で功績賞を受賞した.展示内容については,次章に譲る.

 台湾は毎年積極的にパビリオンを運営している.今年も,①電子工学と光電子工学領域で4件,②バイオ医療領域で5件,③機器開発で3件,④材料と伝統産業で10件,⑤政府機関と非営利団体から3件の展示者を揃えた.①では,RiteDia Corporationが「リシウムイオン電池のアノードとしてのグラフェン/Siナノサンドイッチ構造による高比容量保持」,②では金ナノ粒子の応用が散見され,National Chung-Hsing Universityのバイオセンサーへの応用やNational Cheng Kung University/Institute of Oral Medicineの腫瘍診断治療と再生医療における鉄金コアシェルナノ粒子の応用などがあった.④ではグラフェンとその応用関連が多く見られた.N Kung Industrial Co., Ltd.では水素燃料電池の展示があった.

 米国は,国全体のパビリオンはなく,ノースカロライナ州商務省がブースを出していた.その他は個々の企業の出展であった.そのなかで,OCSiAL社が目に留まった.カーボンナノチューブ(CNT)の量産設備を持ち(能力10t/年),多種応用分野に向けてグローバルに事業展開しており,世界のCNT消費量の67%を供給している.品質としてはCNTの含有量75%であるが,安価を武器としている.


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左上:ドイツパビリオン,右上:台湾パビリオン,
左下:カナダパビリオン,右下:スペインパビリオン


4.nano tech大賞2015

 最終日の午後,メインシアターにおいてnano tech大賞2015の発表と表彰式が行われた.発表に先立ち,nano tech実行委員会の川合知二委員長より,nano tech大賞2015についての説明があった.


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ナノテク大賞表彰式で川合知二委員長の挨拶


 nano tech大賞2015は,参加した27ヶ国の550の企業・団体,ブースの数では770のなかから選出された.審査の観点は,①技術的に優れていること,②産業への発展が見通せること,および,③インパクトのある印象的展示であることの3点である.選考は,この展示期間中に審査委員全員が全展示を回って採点した結果を基に委員会で激しい議論を経て受賞者を決定したとのことである.

 続いてnano tech大賞,10部門賞,および日刊工業新聞社賞の発表と表彰が行われた.次に各賞の授賞者および公表された授賞理由と展示内容等を紹介する.

■nano tech大賞 株式会社キーエンス

受賞理由:分解能が深さ0.5nmの共焦点顕微鏡や,光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を兼備する新型装置などを出展.観察・計測機器分野での卓越した技術力によるナノテクの研究や産業への貢献を賞す.

展示内容:デジタルマイクロスコープの展示では「ライブ深度合成機能」を備え,深度の異なる凹凸のある表面も観察でき,また超深度マルチアングルレンズにより,SEMと同様の機能を持つことをアピールしていた.レーザ顕微鏡では,50~28000倍の大気中での世界最高倍率,16bitセンシング レーザ共焦点方式により表面の粗さ等形状解析ができることを特長としていた.その他,圧倒的なスピードで広範囲3D測定を可能にした新規形状測定機など,それぞれの分野で新機種を展示した.

 

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大賞受賞の(株)キーエンスのブース


■ライフナノテクノロジー賞 東レ株式会社

受賞理由:ウェアラブル電極を組み込んだインナーを出展.ナノファイバーと導電性高分子を組み合わせた新機能素材を使い,着るだけで心拍・心電などの生体情報を検出できる.本格的なウェアラブル時代の到来を示したことを賞す.

展示内容:2014年4月から「ライフイノベーション事業拡大プロジェクト」を推進しており,高分子化学・有機合成化学・バイオケミストリーとナノテクノロジーとの融合が可能にした多様なアプリケーションを健康・医療分野を中心に展示した.そのなかの一つにウェアラブル電極インナーがあった.生体情報を検出する生体電極とスマートホンに送信する小型専用端末と配線が生地に組み込まれているウエアーである.すでに発売している.

■グリーンナノテクノロジー賞 ニッタ株式会社

受賞理由:微量のカーボンナノチューブを添加した高機能の樹脂や炭素繊維の合成技術を開発した.航空機や自動車に使う強化プラスチックなどのさらなる軽量化や信頼性向上に貢献する成果を賞す.

展示内容:分散剤なしでナノ分散させたカーボンナノチューブを樹脂に微量添加し,短時間に複合材料にすることで,マトリックス樹脂特性を維持し,導電機能付与と強度向上,摩耗防止等の効果を実現したカーボン複合材料を展示した.また,CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic:炭素繊維強化樹脂)に用いられるCF(Carbon Fiber)の表面にCNTを複合化し,このCNT複合炭素繊維(CNT/CF)を用いたCFRP,即ちCNT/CFRPを開発している.マトリックス樹脂との接着性向上,炭素繊維―樹脂界面における応力集中の緩和,界面亀裂の伸展防止等が期待されている.

■独創賞 株式会社ゼタ

受賞理由:様々なプラスチック素材のナノファイバーを安価に大量生産できる独自の紡糸法を開発した.PM2.5対応マスクなどナノファイバーの幅広い応用に道を開いたことを賞す.

展示内容:2011年創業のベンチャー企業.独自のESD方式(Electro Spray Deposition電界紡糸の一方式)であるZetta Melt ESD法を開発し,溶剤に溶けないオレフィン系の(ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリエステル)など安価で耐薬品性の強い材料をナノファイバー化することができる量産技術を確立している.その後さらに技術を発展させ,Zetta-Spinning法(Zs法)という新たな紡糸法の開発に成功し,安価なナノファイバーを桁違いに大量生産できるようになった.nano tech 2015にはそのナノファイバーロボットが展示・実演された.

■新人賞 株式会社日本触媒

受賞理由:2次電池に利用できる金属でも突き破れない高強度イオン導電性フィルムや,振動減衰性が高い樹脂などを開発した.初出展ながら開発中の画期的な新素材を数多く展示し来場者の注目を集めた点を賞す.

展示内容:独自の技術で高分子材料,光学材料,電子材料,医療デバイスなどの分野に特徴ある材料を提供しているが,初参加の今回の展示では,ジルコニアナノ粒子,イオン導電性フィルム,新規振動減衰材用樹脂などが目玉となる.なかでも,イオン伝導性フィルムは高濃度アルカリ水溶液中で安定で,物理的強度に優れており,亜鉛二次電池のセパレータとして使用した場合,電池寿命を大幅に伸ばすことができる.

■功績賞 韓国パビリオン

受賞理由:第2回開催の2003年以降,規模を拡大しながら13回連続して出展した.韓国の高い技術力を紹介しナノテク産業の発展に貢献している点を賞す.

展示内容:昨年は韓国の旧正月と重なって出展が大幅に減ったが,今回は倍増して企業,研究機関等併せて26の出展数となった.特にナノテクノロジーの多彩な応用製品で技術力をアッピールしていた.例えば,CNTとその応用製品では,Hanwha ChemicalがCNTの量産設備を持ち,カスタム化CNT製品の提供やグラフェンとの相乗効果を開拓すると共に,垂直統合によるCNTの各種応用製品の開拓を行っている.Daewha AlloytechはCNT面状発熱体を紹介,その広範な応用分野(自動車,建築,産業用ヒータ,家電製品,アウトドアー/医療/健康)を訴求していた.

 

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韓国パビリオン


■産学連携賞 中越パルプ工業株式会社

受賞理由:九州大学と共同で竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術を開発した.処分に困った天然資源を包装材料や構造材料,光学部品など様々な工業製品に応用できる可能性を示したことを賞す.

展示内容:竹や間伐材からパルプを製造し,パルプから水中対向衝突法により数十nmのナノセルロースを製造する工程が紹介され,その応用分野として,ナノセルロース配向性シート,優れた強度と寸法安定性や熱安定性を持つ成形体や透明シート,有機-無機ナノ複合体,ナノセルロース複合樹脂,表面疎水化ナノセルロースなどが展示紹介された.

■ビジネスマッチング賞 Spanish National Research Council(CSIC)

受賞理由:ビジネスマッチングシステムを活用して,様々な出展者,来場者と最も多くの商談アポイントを獲得.精力的にオープンイノベーションに取り組んだ点を賞す.

展示内容:CSICはスペイン全国約130の研究所・技術開発に携わるセンターで構成される多専門分野の総合組織.本年は航空宇宙学,バイオ医療,ジュエリー・オーナメント,整形外科インプラント,コーティング,グラフェン製作などの開発を含む様々な新しい技術を紹介した.Webサイトの出展者検索システムのキーワードとして,ナノ材料・素材,ナノ評価・計測・分析技術/装置,ナノ加工・処理技術/装置,ナノ加工・処理技術/装置の3つのカテゴリーの多くの技術項目を登録し,ビジネスマッチングシステムに参加した.

■プロジェクト賞(グリーンナノテクノロジー部門)
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」

受賞理由:従来は使わなかった間伐材などの非可食成分を有機材料の原料として有効利用する技術を開発した.企業・大学・公共機関が連携して早期の事業化を目指した取り組みを賞す.

展示内容:本プロジェクトでは,植物から効率的で安価に有効成分を分離・抽出するプロセスと,各成分から化学品を製造するプロセスの確立を目的として,①高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発,②木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発,③植物イソプレノイド由来高機能バイオポリマーの開発,④非可食性バイオマス由来フルフラール法THF(テトラヒドロフラン)製造技術開発を進めている.

■プロジェクト賞(ライフナノテクノロジー部門)
独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)「携帯電話で呼気診断・血液検査を可能にする新センサー」

受賞理由:携帯電話などのモバイル機器を用いて呼気や血液で簡単に健康状態をチェックし,データ送信できるシステムを開発した.いつでも・どこでも・だれでも使える技術に道を開いたことを賞す.

展示内容:NIMSでは,超高感度ナノメカニカル膜型表面応力センサーを開発しており,血液中あるいは呼気の中の微量な標的分子を検出するこれまでにない高感度な分子検出センサー技術を実現している.これにより,血液あるいは呼気からの癌などの早期発見の簡易システムを開発している.

■特別賞 I2Dナノ(コロンビア)

受賞理由:病気診断などに利用できるナノ粒子を紹介した.南米からの初出展で,ナノテク研究の国際的な連係のさらなる広がりを示した点を賞す.

展示内容:''I2Dnanoの社名はInvention, Innovation & Developmentを意味している.金の多面体で各面に穴が設けられた籠状の微粒子を紹介していた.ドラッグデリバリーの輸送や制御の機能を研究している.

■日刊工業新聞社賞 株式会社マイクロジェット

受賞理由:3D印刷にも使える研究開発用インクジェットプリンターの製造・販売やインクジェット技術の産業応用支援を手掛ける.電子素子や人工骨製造など広範な分野での利用が始まった3D印刷技術の発展を率いる事業への取り組みを賞す.

展示内容:ピエゾ インクジェット吐出実験キット,インクジェット卓上パターニング装置,インクジェット着滴解析装置などを揃え,3D印刷を含むインクジェットの応用展開のための,インクやインクジェット装置開発の実験手段の提供や開発支援の事業を紹介した.また,ブース脇で,インクジェット3Dプリントにより始まる新しい時代について講演が行われ,多くの聴衆を集めていた.

 

4.むすび

 この国際ナノテクノロジー総合展(nano tech 2015)は,グローバルなナノテクノロジーに関与する人達の英知が生み出した技術や製品の集まりであり,圧倒されるような展示の数々を全て網羅することはできず,また,限られた時間ではその一部に触れることしかできなかったが,その中でも従来からの技術の進展にさらに加え,新たな展開を始めつつある技術領域が目に留まった.ナノ医療,柔らかいエレクトロニクス,ナノセルロース,3Dプリンティングなどである.いずれも,今後の研究開発により,人々の生活にそして産業界に計り知れないメリットを生み出すことが期待される.ナノテクノロジーのもたらす新しい時代がすぐそこにあるように思われる.


(向井 久和)