NanotechJapan Bulletin

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開催報告: nanotech 2019

NanotechJapan Bulletin Vol.12, No.2, 2019年4月26日発行

第18回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)開催報告

 第18回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)は,2019年1月30日から2月1日までの3日間例年通り東京国際展示場(東京ビッグサイト)東4~6ホールで開催された.主催はnano tech実行委員会であり,後援には内閣府,総務省,文部科学省,農林水産省,経済産業省,8外国大使館,6国立研究開発法人などを含む22機関が名を連ねており,11学・協会の協賛を得ている.事務局は(株)JTBコミュニケーションデザインである.

 本展示会は,“ナノテクノロジー”をテーマとする世界最大級の展示会である.ナノテクノロジー開拓の機運の醸成がグローバルに始まった21世紀初頭から毎年開催され,今年は18回目となる.23の国・地域より481企業・団体(国内319,海外162)が出展して開催された.

 今年のnano tech展のメインテーマは「超スマート社会を実現するナノテクノロジー」である.超スマート社会は,第5期科学技術基本計画でその実現を目標に掲げられており,狩猟,農耕,工業,情報の次に訪れるSociety 5.0として,サイバー空間と現実空間の融合により人びとに豊かさをもたらすことが期待される.二つの空間を結びつけるのに必要なセンサーとアクチュエータはナノテクノロジーの注目課題である.

 このnano tech 2019と同時に表1に示す12の展示会が同じ東京ビッグサイト東棟1~6ホールで開催された.今回はtct JAPAN 2019とJFlex2019という新しい展示会名が入っている.tct(Time Compression Technology)は,25年以上にわたり世界5ヵ国(アメリカ・イギリス.韓国・中国・ドイツ)で3Dプリンティング・AM技術に関する展示会・カンファレンスを展開してきたグローバルブランドであり,昨年までの3D Printing展はこれと合体してtct JAPAN 2019となり,関連技術を含む産業展開を視野に入れた形態となった.JFlexは,昨年まで継続してきたPrintable Electronics展を5G時代とウエルネス社会に貢献するフレキシブルデバイス技術展として発展させたものである.ナノテクノロジーのアプリケーションとの結びつきや技術の広がりとともに,出展者もnano techから,同時開催展示会に移行する企業もあり,各会場とも盛会であった.ナノテクノロジーを新時代創出に結びつけるためにもnano techと関連展示会を含めた技術展開の動向を注視することの必要性を感じさせる.

 

表1 nano tech 2019と同時に開催された展示会

 

 会場は連日来場者で賑わい,全展示場の3日間の総来場者数は43,622名と発表されている.図1はこの10年間の来場者の変化で,今年の来場者数は昨年とほぼ同じで,例年に比べてやや少なくなっている.

 

図1 3日間の全展示場総来場者数

 

 また,開催の3日間はnano weekとして,会議棟において,「第17回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2019)(本Webマガジン当月号に開催報告あり)」など各種シンポジウムやセミナーが開催された.

 nano tech総合展は,異分野融合や,シーズとニーズの結びつきの場を提供することが目的のひとつであり,第12回nano tech総合展から毎回商談促進ツール「ビジネスマッチングシステム」を運用してきている.総合展開催の2ヶ月前からWeb登録してシステムに参加し,マッチングメンバーを検索して展示会場での商談のアポイント申し込みを行うもので,商談には会場に設けられたビジネスマッチング会場も利用できる.毎年積極的に活用されており,最終日に行われるnano tech大賞表彰式では最も多く商談を実現した展示に対してビジネスマッチング賞が授与されている.

 

1.nano tech 2019の概要

1.1 出展状況

 nano tech総合展の出展者数の年次推移を図2に示す.nano tech 2018に比べてnano tech 2019の出展者数(事務局公表値)はやや減少している.図3に示す分野別の出展者数の推移でみると,全分野とも減少している.なお,図3以降は,出展者数をnano techのWebサイトの「出展者一覧・検索」での検索結果から求めているので,収集データの違い(nano tech 2018ではマッチング登録のみでブースへの出展をしない者も含まれる)により,nano tech 2019の減少は追加拡大している.また,これを国内と海外に分けて見たのが図4の左と右のグラフである.ここでは,国内の減少は計測・加工分野を除いては比較的少なく,IT・エレクトロニクスではわずかに増加しているのに対して,海外からの出展者数は軒並み大きく減少しており,図3における減少の多くを占めている.nano tech 2019の分野ごとの海外からの出展者数の総計は海外からの出展者数と近い値であり,各出展者の出展分野が一つに絞られていることを示している,それが図3,図4における大きな減少の要因のひとつと推測される.

 

図2 出展者数の年次推移(国内,国外)

 

図3 各分野出展者数の4年間の推移

 

図4 分野別出展者数の国内(図左)と海外(図右)それぞれの昨年との比較

 

 図5~図11に7つの分野それぞれについて,ここ3年間の技術・製品分類項目別の出展者数を比較して示す.

 

図5 材料・素材分野の項目別出展者数

 

図6 計測・加工分野の項目別出展者数

 

図7 IT&エレクトロニクス分野の項目別出展者数

 

図8 ナノバイオ分野の項目別出展者数

 

図9 自動車分野の項目別出展者数

 

図10 環境・エネルギー分野の項目別出展者数

 

図11 ライフ分野の項目別出展者数

 

1.2 nano tech 2019の展示会場の状況

1.2.1 メインシアターおよびセミナー会場から

 メインシアターにおいては,主催者企画の特別シンポジウム「超スマート社会に貢献するナノテクノロジー」が3日間にわたって開催され,社会の進化に大きく貢献することが予見される重要課題を取り上げ,それぞれの分野の権威者の講演が行われた.

 

メインシアターでの特別シンポジウム

 

 初日の午前「超スマート社会におけるオープン&クローズ 戦略・知財マネージメント」のテーマで次の2件の講演が行われた.

・“産業パラダイムの大変容を俯瞰する ~技術・制度・文化の相互関係が激変させるビジネスモデル~” 妹尾 堅一郎氏(産学連携推進機構)
・“オープン&クローズの戦略思想を必要とするIoT経済環境の到来”小川 紘一氏(東京大学)

 IoTやAIが狙うネットワーク化された超スマート社会の進展に,ナノテクノロジーのような基盤技術を結び付け産業化するための戦略的発想,産業パラダイムの変革をもたらすビジネスモデルの必要性が説かれた.

 2日目の特別シンポジウムでは,「超スマート社会を実現する全固体電池最前線」のテーマで,「全固体電池に関わるナノテクノロジー」的場 英紀氏(トヨタ自動車)他3件の講演があり,聴講者が通路に溢れる盛況であった.電気自動車の時代への切り札となる次世代電池への関心の高さが示された.

 これに続く特別シンポジウムとして,昨年に続いて「Graphene Special」が開設された.3名の海外の権威者の講演があり,その一人はノーベル賞受賞者Prof. Kostya Novoselov(Manchester University)で,演題は”Physics and applications of 2D materials”であった.後述のように国内でのグラフェン関連の研究開発も広がりを見せており,今後の展開に期待したい.

 3日目の特別シンポジウムでは,近年注目を集めている,「マテリアル・インフォマティックス:データ駆動型高分子科学の新展開」と「バイオエコノミー」をテーマとして,前者は4件,後者は2件の講演があった.

 なお,メインシアターでは,上記特別シンポジウムの他にも各種セミナーが行われている.また,展示場内にはシーズ&ニーズセミナーA会場,B会場,C会場が設けられ,出展者の技術・製品紹介の他,シンポジウムも行われた.C会場は主としてTCT Japan関連のセミナーであり,盛況であった.

 

1.2.2 注目分野の状況

(1)ナノカーボン

(1-1)カーボンナノチューブ(CNT)

 CNTは素材発見以来28年が過ぎ,CNTの持つ物理的,化学的,電気的,機械的な優れた特性が明らかにされるのと並行してその製法,分散法,各種の多様な応用開発が進められてきた.多くの企業が取り上げるようになりビジネス体制が徐々に本格的になりつつある様子も見受けられるが,期待された爆発的応用には至っていない.

 こうした中で,今回は新しい動きが始まった.世界トップクラスのCNT生産量を誇るOCSiALの日本総代理店となった楠本化成株式会社が,本年より,日本国内においてCNT“ TUBALLTM”を扱うことになったことである.OCSiAL(本社:ルクセンブルグ,工場:ロシア,韓国にも関連企業がある)は,単層CNT“TUBALLTM” (純度80%,径1.2~2.0nm,長さ>5μm,比表面積500~1000m2/g)を製品として,量産による低価格化を図っている.2017年のOCSiAL社の生産能力は,世界の90%を占めていたと云われている.日本国内にCNTの生産工場を建設して顧客の多様なサンプル要求に素早く対応できる体制を整えている(https://www.nanotechexpo.jp/main/nano_insight_japan/181228_kusumoto-chemicals.html).

 一方,国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)が中心となって進めているCNTアライアンスコンソーシアム(産総研のCNT関連技術を最大限民間に活用してもらうことを目的とする)の第1号としてTACC(CNT複合材料研究拠点:2017年スタート,日本ゼオン株式会社,サンアロー株式会社,産総研で構成)が立ち上がり,日本発のCNT産業の創出を目指している.その初めての製品「SGOINT®(CNTの入った低価格な230℃の高温での強度,耐久性に優れた耐熱性Oリング)」ができ2018年10月発売開始している.

 

(1-2)グラフェン

 グラフェンについては昨年に続いてメインシアターでの特別シンポジウム「Graphene Special」で海外講師による海外動向が伝えられているが,国内のグラフェンの研究開発活動も徐々に立ち上がってきた.産総研では,プラズマCVDにより大面積グラフェンを作製しており,超薄膜フレキシブル電極,タッチパネル,フィルムヒータ,高感度センサー,配線材料,複合材料への応用が可能であることをアピールしている.東レ株式会社は超薄膜グラフェン被覆技術を開発し,リチウムイオン電池の正極材の表面を被覆することにより,導電性の向上に伴い電池の出力密度が向上し,長寿命化も図れるとしている.

 また,nano techから新機能性材料展に移行した帝人株式会社は,PET(ポリエチレンテレフタレート)上に単層グラフェンを合成したグラフェン合成透明フィルム(グラフェンon PET)を出展した.これは,韓国企業との共同開発品である.同じく新機能材料展において,日本触媒株式会社は,酸化グラフェン(有機溶媒にも分散可能)を量産試作し,水分散型酸化グラフェン,還元型酸化グラフェン,修飾型酸化グラフェンを取り揃え,放熱,電池,その他コンポジット等への用途開発を来場者に呼び掛けていた.

 

(2)電池

 電池は超スマート社会実現の鍵技術の一つであり,1.1節の図9に示す自動車分野でも,図10の環境・エネルギー分野でも出展者数がかけ離れて多い.前述のnano tech実行委員会企画の特別シンポジウムでも次世代電池である全固体電池がシンポジウムテーマとして取り上げられた.後述のnano tech大賞2019で大賞に選ばれたリコー株式会社の展示の目玉も,印刷技術でつくる電池であった.

 ニーズ&シーズセミナーB会場でも電池に関して大変興味深い講演があった.文部科学省元素戦略プロジェクトの中で「濃厚電解液の総合力と将来性―サイエンスに根差した材料開発の一例として―」と題して,「火を消してくれる安全な二次電池電解液」の研究成果が,山田 敦夫教授(東京大学)から紹介された.現在主流のリチウム電池の弱点である発火性を抜本的に解消できるとすれば,極めて重要な技術と云える.

 

(3)量子アニーリング

 配送経路,金融ポートフォリオ,電力・通信リソース制御の最適化など,多数のソリューションに内在する組み合わせ最適化問題を瞬時に解決する量子アニーリング技術が注目されている.2015年カナダのD-Wave Systems社が量子アニーリングマシンを製品化しており,国内では,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新規事業「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」に,量子アニーリングマシンに使用できる「共通ソフトウエア基板の研究」(事業代表者:早稲田大学)ならびに「超電導パラメトロン素子を用いた量子アニーリング技術の研究」(事業代表者:日本電気株式会社(NEC))が採択された(2018年年~2023年).

 NECは,会場ブースにおいて量子アニーリング技術を紹介するとともに,メインシアターにおける二日目午後の出展者セミナーで,NECの中村 祐一氏が「ナノテクが実現する量子アニーリング」と題する講演を行った.

 

1.2.3 企業における技術分野の展開

 ナノテクノロジーの研究開発が,基礎分野から応用分野へ向くようになり,nano tech 2019の展示会場にも変化が見られた.例を挙げる.

(1)日本ゼオンは,従来から展開してきたCNTの生産,利用技術等のブースとは別に,日本ゼオンが新たに始めている「プロジェクト ルネス」の活動を紹介するブースを設けた.このオープンイノベーションプロジェクトは,未来の環境・エネルギーの在り方の創造を目指してプラスチックソーラーを用いた用途の可能性を探求しており,ブースではソーラーカード コンセプトによる新しいライフスタイルを提案した.また,写真に示すような,移動可能な車の中で,生産過程を説明するなど,ユニークな展示を行なった.

 

日本ゼオンのプロジェクト ルネスのブース

 

(2)3Dプリンティングへの事業拡大

 日本電子株式会社(JEOL),東レ株式会社はそれぞれnano tech 2019において大きなブースで積極的出展を行いつつも,隣合わせのTCT Japan 2019(旧3Dプリンティング)にブースを構えて展示を行った.JEOLは,国家プロジェクトである技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)に参加して開発した電子ビームを用いた3D金属積層造形装置,さらに,微粉の球状化やナノ粒子合成を行える高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置,マイクロCTによる造形物の非破壊観察事例などを紹介した.東レは,東レ・プレシジョン,東レ・エンジニアリング,東レ・リサーチセンタの東レグループで,3Dプリンティング用素材だけでなく,材料分析から加工までをカバーして3D造形に関する問題解決を提供している.

 

(3)異分野からナノテクへの進出

①住友金属鉱山株式会社(初出展):近赤外領域に優れた光吸収能力を持つ材料CWO®(セシウム酸化タングステン)を開発し,近赤外遮光窓ガラスを事業展開している.今後期待される応用として,CCDやCMOSイメージセンサー等においてフレアやゴーストを除去する近赤外フィルターや,更に光熱変換特性活用の多くの展開(CWO®を織り込んだ発熱繊維,プラズモン加熱を利用したデジタル印刷,冷凍・冷蔵食品シュリンクフィルムなど)を挙げている(https://www.nanotechexpo.jp/main/nano_insight_japan/190108_sumitomo_metal_mining.html).

②住友重機械プロセス機器株式会社(初出展):独自の攪拌技術で,粒子微細化における凝集問題に挑戦してきており,超高粘度液へのナノレベル分散可能な装置も開発した(https://www.nanotechexpo.jp/main/nano_insight_japan/181130_SHI.html).

③株式会社アルバック:真空装置のスペシャリストのアルバックは2015年設立した未来技術研究所が,超スマート社会へ向けて3つの成果を展示した.いずれも得意の真空技術に立脚している.一つは,ナノ粒子分散技術によるインクジェットプリント用「ナノメタルインク」で,Agグリッド透明電極フィルムを用いた分散型EL発光素子は,繰り返し折り曲げ試験(折り曲げ半径1.5 mm,折り曲げ回数2万回)後も輝度変化なしとのこと.もう一つは,CVD(化学気相成長)法により金属基板上に成長させたCNT群をそのままリチウムイオンキャパシタに使用して,そのエネルギー密度を向上させた.自動車用を視野に入れている.三つ目は全固体リチウムイオン2次電池の電解質膜のMOCVD(有機金属気相成長法)製膜技術の開発を行い電池の電極界面性能の大幅改善を可能としている(https://www.nanotechexpo.jp/main/nano_insight_japan/190117_ulvac.html).

④三菱鉛筆株式会社:ボールペンインクで開発した超微粒子分散技術をコアコンピータンスとして,ナノ微粒子分散分野に参入した.後述の通り日刊工業新聞社賞を受賞した(https://www.nanotechexpo.jp/main/nano_insight_japan/181211_mitsubishi_pencil.html).

 

1.2.4 産学官連携

(1)内閣府革新的研究開発プログラム(ImPACT)

 内閣府が推進するプログラムImPACTは実現すれば産業や社会のあり方に大きな変革をもたらす革新的な科学技術イノベーションの創出を目指し,ハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を推進するものである.5年計画の最終年度末を迎えつつあり,二か所のブースで成果の展示が行われた.

 一か所では注目課題のセンサーを追求する宮田プロフラム「超微量物質の超迅速多項目センシングシステムの研究開発」の成果が展示された.なお,この内容に関しては,最終日のメインシアターの最終シンポジウムで,大阪大学特任教授 川合 知二氏(nano tech実効委員会委員長)による「スマートナノポアによる細菌・ウイルスの高感度・迅速検出」,名古屋大学教授 馬場 嘉信氏(同委員会副委員長)による「elnSECTによるバイオエアロゾルの超高感度・迅速センシング」など5件の講演があった.

 もう一か所のブースでは,ImPACTの16プログラムの中から分子や細胞の機能・構造の解析や創造,制御等に関わる次の3プログラムを展示した.合田プログラム「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」,鈴木プログラム「超高機能構造タンパク質による素材産業革命」,野地プログラム「豊かで安全な社会と新しいバイオものづくりを実現する人工細胞リアクタ」である.

 

(2)内閣府のSIPにおける革新的設計生産技術

 内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムSIP(Cross-ministral Strategic innovation Promotion Program)は,総合科学技術・イノベーション会議(各省より高い立場から,総合的・基本的な科学技術政策の企画立案および総合調整を行う場,内閣府に設置)が府省・分野の枠を超えて自ら予算配分して,基礎研究から実用化・事業化までを見据えた取り組みを推進するものである.第1期(2014年度~2018年度)の終了年度でもあるnano tech 2019の会場では,その11課題の中で,課題「革新的設計生産技術」の成果が出展された.3Dプリンティング関連を中心とする15の研究テーマの活動と成果が広いブースに展示されていた.

 

(3)ナノテクノロジープラットフォーム

 文部科学省が推進しているナノテクノロジープラットフォーム事業は,最先端の研究設備を有する全国26の大学・研究機関の設備の共用体制を構築し,大学や企業がこれを活用することにより,ナノテクノロジーの研究開発,応用展開,産業化を促進することを目的とするもので,これまで既に数多くの成果が蓄積されている.ナノテクノロジープラットフォームでは毎年その年度の「秀でた利用成果」を6件程選んで表彰しており,その表彰式が,今年度はnano tech 2019の初日の午後にニーズ&シーズセミナーB会場で行われた.同時に,本事業の共用設備利用者を支援する技術スタッフの中で活動の優れた人の表彰式も行われた.表彰された「秀でた利用成果」および「技術スタッフ表彰」の内容はNanotechJapanのホームページで,過去に遡って見ることが出来る.

 

2.海外からの参加

 1.1節で述べたように,今回海外からの出展者数が減少している.その状況を国別に見た結果を図12に示す.このデータはnano tech 2019のWebサイトの「出展者一覧・検索」での検索結果のデータで,横軸は出展者数の多い順である.昨年から出展者が大きく減少して順位が大きく後退した国は,台湾,中国,タイ,イタリア,スイスである.韓国は数値は下がっているが首位を保っている.そうした中で例年とほぼ同じ出展者数を保って上位にいる国は,カナダ,ドイツ,オランダ,スペイン,チェコである.イギリスは数が少ないながら増加して順位を上げた.図13に各国の出展者数の比率を示す.

 

図12 海外からの出展者数の推移

 

図13 nano tech 2019における各国の出展者数の比率

 

 各国の出展者数には,自国のパビリオンでなく独自に出展している者や,日欧産業協力センターのパビリオンで出展しているものを含んでいる.日欧産業協力センターは1987年に日・EU間の産業協力を担う組織として経済産業省と欧州委員会によって設立された.欧州委員会はEEN(エンタープライズ・ヨーロッパ・ネットワーク:EUの中小企業や研究機関・大学におけるビジネス・技術提携・研究開発でのマッチングを支援する)を運営している.この度,2012年より実施している欧州と日本のビジネス・科学技術パートナーシップ支援プログラムの中で,特定産業におけるクラスターや企業を対象とした短期ミッションの一環としてnano tech 2019への出展とビジネスマッチングへの参加を行っている.同パビリオンでは19社が出展している.その中には,スペイン4,イギリス2,ドイツ3,フランス3等が含まれている.

 こうした中で,出展にたいする積極性が特に目立ったのはオランダである.出展者数は昨年をやや上回り,オランダ王室コンスタンティン王子が出席した.また,メインシアターで初日の午後オランダハイテクセミナーを開催した.その中のパネルセッション(座談会)にはパネルメンバーとして王子が参加した.このパネルセッションには川合知二nano tech実行委員会委員長も参加している.ブースに出展したHolst Centreはnanotech大賞の特別賞を受賞した(後述).日本への輸出が少ないので,関係作りに務めているという.

 

(左)日欧産業協力センター パビリオン,(右)オランダ パビリオン

 

3.nano tech大賞2019

 

 最終日の午後,メインシアターにおいてナノテク大賞2019の表彰式が行われた.表彰式の冒頭,nano tech実行委員会の川合知二委員長より,ナノテク大賞2019の選考経緯について次のような説明があった.

 

実行委員会委員長による選考経緯の説明

 

 表彰者の選考は,国内外の全ての出展者を対象とし,評価基準としては,技術や取り組み方について,先進性,独創性,更には将来の商品性,市場性,経済性を考慮した.一昨日,昨日の午前に審査委員会メンバーが会場内を調査した結果に基づいて,昨日昼に審査委員会で議論し,大賞および各部門賞受賞者を決定した.

 以下に各賞の受賞者と受賞理由および展示内容を紹介する.

 

◆nano tech大賞 株式会社リコー

受賞理由:インクジェット技術を用いて,ロール・ツー・ロールでリチウムイオン二次電池を自由な形状で製造する技術を開発し,電池のデジタル印刷製造を大きく前進させたことを賞す.

展示内容:数多い展示品からピックアップして以下に示す.

①受賞理由となったインクジェット電池印刷技術は,IoTデバイスや,ウエアラブルデバイスなどの多様なデザインに応じた電池製造を可能とするもので,リチムイオン二次電池の負極,セパレータ,正極印刷用のインクをインクジェットに適合する形で開発した.
②同じくインクジェットを活用したバイオ3Dプリンターでは,得意の光学技術も活用して,細胞の生存率を維持したまま,細胞の種類や個数を制御きる技術を開示した.
③これらインクジェトプリンターヘッドのアクチュエータにはピエゾ方式を採用しているが,このインクジェットプリンティング法により従来のスピン工法では1µmであったピエゾ膜厚を10µm以上に厚くし,固体ピエゾ同様の高出力デバイスを,オンデマンドで必要な場所にピエゾ材料を変えて印刷形成可能な技術を展示した.
④圧力・振動で発電する独自開発の発電ゴムと,電力管理回路により,安定的に電気回路を駆動可能なシステムを展示した.応用例として発電インソールで歩きながら発電する例が挙げられていた.
⑤小型レーザ3Dスキャナを実現した.リコーが独自開発したMEMSによるレーザスキャナ技術とVCSELレーザを採用することで,スキャナ装置の小型化とレーザ計測で問題となるスペックルノイズをなくした高精度計測を実現している.超スマート社会で活躍するロボットの3Dセンサとしての活躍を期待している.

 

(株)リコーのブース

 

◆ライフナノテクノロジー賞 日本ケミコン株式会社

受賞理由:香りをCMOSイメージセンサーで検出するかおりセンサーや,尿を電解質として用いることで電池レスのセンシングが可能なおむつセンサシステムを出展.生活に密着した着眼点で実用的なデバイスを開発した点を賞す.

展示内容:かおりカメラと称する香りセンサーは,アレイ状に配置した香り検出膜で異なるガス種を検出できるので,ガス種の組み合わせを認識し,パターンとして表示できる.おむつセンサーではおむつ発電の発電量によっておむつの取り換え時期を判断できるという.その他に,NH(ナノハイブリッド)カーボンTM(活性炭)をリチウムイオン電池の正極導電助剤として使用することによる特性向上,熱電対付きウェハー(半導体プロセス装置内のウェハーの温度管理用),シリコンウエハ,再生ウェハーなどを展示した.

 

◆グリーンナノテクノロジー賞 東レ株式会社

受賞理由:しなやかタフポリマー,NANODESIGN技術,透明アラミドフィルムなど先進的な素材を出展.世界共通の課題となっているSDGs(国連の持続可能な開発目標)の実現に貢献すべく,真剣に素材開発に取り組む技術開発戦略を賞す.

展示内容:例年通り,民間企業としては最大級の小間数を使って多岐にわたる開発成果を展示している.時代の要請に応える最近の成果として,超薄層グラフェン被覆技術(リチウムイオン電池用導電助剤,フィルムの高耐久導電コート,フレキシブル導電繊維等に活用),有機薄膜太陽電池(低照度でも高効率に発電),水素高選択透過高分子分離膜(世界最高レベルの高分子系分離膜),高感度DNAチップ3D-Gene®(多数のDNA断片を樹脂基板上に高密度に配置した分析ツールで,高感度なマイクロRNAの検出,認知症マーカの開発などに適用),しなやかなタフポリマー(ImPACT伊藤プログラムの一環,安全・省エネ自動車用等を狙う)等が展示された.

 

◆スタートアップ賞(国内) アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社

受賞理由:環状高分子を化学修飾することで様々な工業用途に展開できる「セルム スーパーポリマー」を出展,ゴルフボールに採用されるなど着実に実績を上げている点を賞す.

展示内容:アドバンスト・ソフトマテリアルズ(株)は東京大学大学院教授伊藤耕三氏により2005年に設立されたベンチャー企業である.上述のImPACT伊藤プログラムに展開している超分子ポリロタキサン(SeRM)によるセルムスーパーポリマーの応用展開をしている.ポリロタキサンはひも状高分子が多数の環状分子を貫いた構造をしており,環状分子に架橋することにより架橋点が自由に動くネットワーク構造を有する世界初の高分子材料である.セルムスーパーポリマーには硬質系樹脂(靭性,可撓性,耐衝撃性等付与)と軟質系樹脂(伸び,密着性,耐摩性,応力緩和,耐擦り傷,復元性,振動吸収等付与)があり,広い応用が考えられる.展示ブースには,ふわふわな新感覚のクッション,スピンのかかりやすいゴルフボールなどが展示された.

 

◆スタートアップ賞(海外) Spectra Plasmonics(カナダ)

受賞理由:使い捨てが可能な表面増強ラマン散乱基板を出展.ppb単位のごく微量の化学物質を検出・分析でき,法医学や食品安全など多分野に応用できる点を賞す.

展示内容:微小チップの表面にごく微量サンプルを搭載し,迅速に分析できる使い捨て可能な表面増強ラマン散乱基板を開発した.食品安全や水分野,法医学や防衛部門組織との協働を望んでいる.

 

◆産学連携賞: ユシロ化学工業株式会社

受賞理由:大阪大学大学院理学研究科のシーズ技術を基に,切れても再生する自己修復性ポリマーゲルを開発した.高靱性,高伸縮性,耐乾燥性な「タフな材料」でもあり,産学連携で生み出したことを賞す.

展示内容:上記研究科原田グループが見出した(2015年)新規ポリマーをシーズとして,ユシロ化学工業と同研究グループとの共同研究で開発されたウイザードゲル(自己修復性ポリマーゲル)を紹介した.その抜群の修復機能と能力,高靭性・高伸縮性・耐乾燥性など,材料のタフさ,成型・着色・接着が可能等の特長を紹介する展示が行われた.なお,用途の一例として,医療研修用3次元臓器モデルを提案している.

 

◆プロジェクト賞 NEDOプロジェクト(実施者名:メディギア・インターナショナル)
「クスリを使わずにナノデバイスでがんをやっつける新低侵襲療法」

受賞理由:腫瘍組織にだけ作用する生体適合物質からなるナノデバイスを開発し,酸素と栄養を遮断し兵糧攻めにしてがん組織のみを死滅させる,患者に優しい新療法として期待される点を賞す.

展示内容:東京工業大学発ベンチャー企業メディギア・インターナショナル株式会社と同大学によるNEDOプロジェクト(2016年度~2017年度)の研究成果である.開発したナノデバイスを腫瘍組織周囲の栄養を供給する血管の周りに集積させ水分吸収による膨潤で血管を閉鎖してしまうもので,マウス実験で即効性が確認されている.

 

◆ビジネスマッチング賞 CSIC(スペイン)

受賞理由:ビジネスマッチングシステムを活用して,様々な出展者,来場者と最も多くの商談ポイントを獲得.精力的にオープンイノベーションに取り組んだ点を賞す.

展示内容:CSIC(The Spanish National Research Council:スペイン高等科学研究院)はスペイン最大の公的研究機関で,ナノテク研究の関係でも17のセンターに50以上の研究グループがあり,先進材料,エネルギーの伝達・蓄積,健康と社会環境,情報通信技術の分野で研究開発を展開している.展示ではパネルで同機関の活動を紹介している.

 

◆特別賞 オランダ・ハイテク・パビリオン/Holst Centre(ホルストセンター)

受賞理由:プリンタブルエレクトロニクスを応用した圧力センサシステムや薄膜超音波モジュールなど,生体信号モニタリングの開発で,ヘルスケアとバイオメディカル・センシングの発展に貢献したことを賞す.

展示内容:ホルストセンターは,2005年設立された独立系R&Dセンターで,ワイヤレス自立センサーやフィルム基板上のフレキシブル&ストレッチャブル電子デバイス形成専門の研究活動を続けてきた.今回展示の,空間分離ALD(原子層製膜)技術は,大気圧環境でロールtoロール生産を可能とし,均一性や低欠陥性,高い生産性を実現する.フレキシブルOLED(有機発光ダイオード),フレキシブル太陽電池,次世代全固体電池等への適用が期待されている.また,ピエゾ・ポリマ素子アレイ,薄膜トランジスタ等をプラスチック薄膜上にモジュール化した超音波振動子や,健康パラメータの長期モニタリング健康パッチによる健康モニタリング技術等,ヘルスケアソリューションに向けた開発展開を展示した.

 

◆日刊工業新聞社賞 三菱鉛筆株式会社

受賞理由:長年のコア技術である鉛筆やシャープペン芯の製造技術をナノテクに応用,カーボン多孔体,カーボンセンサー材料など,先進的なナノ材料を見出した点を賞す.

展示内容:ボールペンインクのニーズから顔料を長期間安定して分散させる技術の開拓で,独自の超微粒子分散技術を開発しており,この技術を応用して,PTFE(ポリテトラフルオロエチレン:フッ化炭素樹脂,商品名テフロン)の分散体(低摩擦・撥水撥油・非吸着・低吸湿・耐熱・難燃・低誘電等の特長を製品へ付与),磁性粉体の微粒子分散(磁化特性大幅向上),炭化ケイ素の微粒子分散(Ni複合メッキ液に適用し,硬質クロムメッキ液代替や欧州連合が制定した人の健康・環境保護などを目的としたREACH規制への対応)を展示し,更にシャープ芯・鉛筆芯技術より開発した高強度・高剛性のカーボン素材(PFC:Plastic formed carbon),カーボン多孔体,低発塵カーボン等を展示した.

 

4.おわりに

 前回のnano tech 2018から展示会のテーマとして同時開催展示会を含めて「超スマート社会への貢献」が掲げられ,応用展開ターゲットとの繋がりがより身近で,具体的になったことが感じられた.また,ナノテクノロジーの発展段階が,基礎的研究の段階から応用に向けた研究開発の段階に移ってきたことが展示会にも反映しているように感じられた.その現れとして,出展者のnano techから他の展示会への移行や,日本ゼオンやJEOLのように展示企業が専門分野を広げて新しいブースを展開する例も見られた.また,別専門業種からナノテクノロジー技術活用による新分野を展開して,nano tech展に新規参入した企業もいくつか見られた.三菱鉛筆,アルバック,住友金属鉱山等である.

 新しい時代への社会変革の原動力としてのナノテクノロジー研究開発の展開が更に広く深くなることを期待したい.次回は,2020年1月29日~31日に東京ビックサイトの西・南ホール全館で開催が予定されている.

 

 

(向井 久和)