NanotechJapan Bulletin

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開催報告: nanotech 2020

NanotechJapan Bulletin Vol.14, No.2, 2020年4月24日発行

第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2020)開催報告

  第19回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2020)は,2020年1月29日から31日までの3日間例年通り東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催された.なお,開催ホールが従来は東4~6であったが,東京オリンピックプレスセンターに改装中のため,今回は西1及び2ホールに変更された.主催はnano tech実行委員会であり,後援には内閣府,総務省,文部科学省,経済産業省,8外国大使館,6国立研究開発法人などを含む21機関が名を連ねており,11学・協会の協賛を得ている.事務局は(株)JTBコミュニケーションデザインである.

 本展示会は,“ナノテクノロジー”をテーマとする世界最大級の展示会である.ナノテクノロジー開拓の機運の醸成がグローバルに始まった21世紀初頭から毎年開催され,今年は19回目となる.世界の358企業・団体(国内224,海外134)が出展した.

 今年のnano tech展のメインテーマは昨年に続き「超スマート社会を実現するナノテクノロジー」である.超スマート社会は,第5期科学技術基本計画でその実現を目標に掲げられており,狩猟,農耕,工業,情報の次に訪れるSociety 5.0として,サイバー空間と現実空間の融合により人びとに豊かさをもたらすことが期待される.

 このnano tech 2020と同時に表1に示す12の展示会が同じ東京ビッグサイトで開催された.開催ホールが昨年まで全展示会が東館であったが,今年は西館及び南館のホールを使って開催された.同時開催展示会の昨年からの変化としては,Convertech Japanと先進印刷技術展が抜けて,All about Photonics 2020とMEMS SENSING & NETWORK SYSTEM 2020が加わった.All about Photonics 2020はInterOpto 2020,LED Japan 2020およびImaging Japan 2020が合体したものである.表に2019年と2020年の出展者数を示す(nano tech 2020 Webサイトの出展者検索頁のデータに基づく).

 

表1 nano tech 2020と同時開催の展示会

 

 この同時開催展示会を含め出展者数は1384社・団体であり,昨年の1292社・団体よりやや増加した.その要因として,昨年から消えた展示会と,今年追加された展示会の出展者数の差もあるが,新機能性材料展2020の大きな増加とTCT Japanの増加が効いており,nano techの減少を補っている.

 ナノテクノロジーのアプリケーションとの結びつきや技術の広がりとともに,出展者もnano techから,同時開催展示会に移行する企業も多数あり,各会場とも盛会であった.ナノテクノロジーを新時代創出に結びつけるためにも,nano techと関連展示会を含めた技術展開の動向を注視する必要性を感じさせる.

 来場者数については,同時開催展合計の来場者は3日間で47,625名と報告されている.図1に参来場者数の推移を示す.今年は昨年に比べて増加した.

 

図1 全展示会への3日間の全展示場総来場者数

 

会場受付風景

 

1.nano tech 2020の概要

1.1 出展状況

 出展状況を,nano tech 2020のWebサイトの「出展者一覧・検索」での検索結果のデータに基づいて概観する.

 nano techの国内および,海外からの出展者数のここ3年の変遷を図2に示す.全般的に減少の傾向があるが,国内より海外からの出展者の方が減り方はやや多い.なお,海外からの出展はnano tech以外は少なく,全体の3.3%である.図3はnano tech 2020における分野別の出展者数で,国内と海外の出展者数を色分けして表している.棒グラフ内部の数字は海外からの出展者の数の割合を%で表している.割合で見ると海外の出展者はナノバイオが多く,計測・加工,自動車が比較的少ない.

 

図2 国内/海外出展者数の経年推移

 

図3 国内/海外からの分野別出展者数

 

 図4~図6に分野別の出展者数の年度推移を示す.なお,以下の棒グラフでは分野あるいは項目毎にまとめた年度データは右から左に年度推移している.図4は国内と海外の出展者数を合わせたもの,図5は国内出展者のみ,図6は海外からの出展者のみである.なお,このデータは同じ出展者が複数の分野に製品を出展している場合を重複して数えている.図4~図6からも海外の出展者数が2019年以降大きく減少している傾向がうかがえる.

 

図4 分野別出展者数の年度推移(2017~2020年)

 

図5 分野別国内からの出展者数の年度推移(2017~2020年)

 

図6 分野別海外からの出展者数の年度推移(2017~2020年)

 

 各分野における詳細な技術項目別出展者数については,この記事の最後の付録の付図1~付図8に纏めて記す.

 

1.2 展示レイアウトの新企画

 nano tech 2020では各種分野ごとに展示をまとめ,参加者にとって情報を見つけやすく,また動向を把握しやすくする工夫がなされた.西1と西2ホールに次の5ゾーンを設けて展示が行われた.

  • ナノマテリアルゾーン:ナノ材料が一堂に集結し,出展者数も多い注目のゾーン
  • ナノアナリティクスゾーン:分析・測定・評価用装置技術,受託分析・設計技術など
  • ナノファブリケーションゾーン:分散・攪拌・混合-粉砕などナノ材料加工処理,超微細加工・描画技術・リソグラフィー技術など
  • ナノイノベーションゾーン:先進的な技術研究開発企業,新鋭ベンチャー企業
  • 独法・公的機関/学校各研究室/海外パビリオンエリア:国内外の産学官連携やオープンイノベーションなどを含む

また,西1・西2へのエントランスホールとなるアトリウムに,同様の主旨で,次の集約的展示が行われた.

  • ナノカーボン・オープンソリューションフェア:素材,中間部材,成型体・部材最終製品
  • セルロースナノファイバー特別展示:ナノセルロースフォーラム,Green Scienceアライアンス,各社の商品化の成果
  • NEDOプロジェクト:バイオエコノミー,センシング,モビリティ,ナノカーボン,革新分野のプロジェクト成果を展示

 図7にこれらゾーンおよび集約的展示の配置と出展者数を示す.独法・公的機関/学校各研究室/海外パビリオンエリアについては,海外パビリオン,公的機関と大学関係に分類している.なお,参考までに,4章記載のnano tech大賞・部門賞受賞者数をグラフの棒データの先に記してある.

 

アトリウムの展示風景

 

図7 各ホールに設けられたゾーンとゾーン毎の出展者数
(データの先端の数字はnano tech 2020大賞・部門賞の受賞者数)

 

1.3 nano tech 2020展示会場の状況

1.3.1 メインシアターおよびセミナー会場から

(1)メインシアター

 メインシアターにおいては,例年通り主催者企画の特別シンポジウムが3日間にわたって開催され,社会の進化に大きく貢献することが予見される重要課題を取り上げ,それぞれの分野の権威者の講演が行われた.初日の午前の皮切りは,「超スマート社会を実現する環境回復技術」として「ナノマテリアルの法規制の動向」「“半導体の熱活性”技術とポリマー複合化合物のリサイクル」の2件の講演があった.前者はナノ粒子の安全性に関わる問題であり,後者は最近大きな課題として浮上しているプラスチック廃棄物による海洋汚染対処策に関わる新技術の提案であった.

 二日目の午前には昨年と同じ「マテリアルズ・インフォーマティクス」が超スマート社会を実現するAI技術としてとりあげられた.今年は「“できる”から“できた”へ」と題して,機械学習を用いた例など4件の成果が紹介された.

 三日目の午前は,IoT技術分野で最近注目され研究開発がグローバルに展開されている第5世代移動通信システム「5G」に関連する講演が2件あった.「5Gに対応するFPC(Flexible printed circuits)市場/技術動向」と「積層セラミックコンデンサーの技術動向」である.こうした時宜を得たテーマには毎回会場が聴衆で溢れる.nano tech 2018では「ナノセルロースの技術開発最前線」が,nano tech 2019では「全固体電池最前線」が,そして今回のnano tech 2020では「5G対応材料技術最前線」が話題を集めた.

 

聴衆で溢れるメインシアター

 

 三日目の昼時間帯に「nanoレベルでの生命現象を意識した創薬・医療」のテーマの下でクライオ電顕の活用に関する講演が2件,三日目の午後後半には昨年,一昨年同様に「グラフェンスペシャル」が開催され,中国とスペインからの講師による講演があった.

 

(2)セミナー会場

 セミナー会場は西1と西2ホールにそれぞれシーズ&ニーズセミナーA会場とB会場があり,出展者のプレゼンテーションが行われた.その中に,「セルロースナノファイバー特別講演」,「ナノカーボンオープンソリューションフェア特別講演」もあった.

 西2ホールには,また,nano techの会場と境がなくAll about PhotonicsとMEMS SENSING & NETWORK SYSTEM展示会が展開されており,その中に設けられたプレゼンテーション会場AとBでは,出展者セミナーと共に,「テラヘルツビジネスセミナー」,「最先端イメージングセミナー」,「先端レーザセミナー」「注目される光技術セミナー」等が開催された.ナノテックに繋がる応用領域が議論され,盛会であった.

 

1.3.2 注目分野の状況

(1)ナノカーボン

(1-1)ナノカーボンオープンソリューションフェア

 一般社団法人ナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI)のナノカーボン実用化WGがnano tech 2020ナノカーボンオープンソリューションフェアを開催し,西館のアトリウムに26企業・研究機関がカーボンナノチューブ(CNT),グラフェン等の素材・中間部材・応用製品等の展示を行うと共にセミナー会場で出展者のプレゼンテーションが行われた.

 

ナノカーボンオープンソリューションフェア会場

 

 出展者には,CNTの先駆者日本電気株式会社(NEC)があり,CNTに続いて発明したカーボンナノホーン集合体(CNHs),カーボンナノブラッシ(CNB)を含めて量産技術や用途開発を基礎的な面から行っていた.

 CNTの高品質化,量産化,樹脂への分散複合化を先頭に立って進めてきた国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)日本ゼオン株式会社は,市販塩素系漂白剤によってCNTが容易に化学分解し無害物に変化することを発表した.

 日信工業株式会社は独特の複合化技術により,複合化素材とCNTとの界面構造を改善して複合材の機械的強度を向上させ,世界最高水準のゴム材料を開発している.高深度石油井戸掘削用プラントのOリングに使用実績がある.

 こうしたCNTを複合化する応用に対して,100% CNTの応用技術を展開しているのは浜松カーボニクス株式会社である.静岡大学との共同研究で長く(数mm)高密度に一方向に配向成長したCNTの林からCNTが連続的につながって引き出される技術で,CNTシート,アレイ,フレーク,ヤーン等の製品を開発している.

 大陽日酸株式会社も同様に高配向CNTから,CNTのみの糸やシート,長尺CNT粉末を製品化している.次世代電池の電極向け応用を指向している.

 花王株式会社は,生成されたCNTの中から,半導体型単層CNTのみを分離する技術を開発し,CNT混合インクを製品化している.これを用いたトランジスタの試作例を紹介した.

 

(1-2)分野ゾーンで展示のCNT

 ナノマテリアルゾーン:楠本化成株式会社は,OCSiAL社製の単層CNT “TUBALLTM”の商品をラインナップしており,大量生産による低価格化品を用いた次のような応用例を展示した.帯電防止エポキシ床材,フレキソ印刷用ロール,オートバイタイヤ,ガラス繊維強化樹脂製鉄筋代替品,リチウムイオン電池のシリコン負極.

 独法・公的機関/学校各研究室/海外パビリオンエリア:TIA(旧名:つくばイノベーションアリーナナノテクノロジー拠点TIA-nano)では,産総研が開発したスーパーグロース法という単層カーボンナノチューブ(SWCNT)製造技術による商業規模の製造工場が完成しており,これをオープンプラットフォームとして「CNTアライアンスコンソーシアム」が設立されている.そのコンソシアムでのオープンプラットフォーム共同研究の第1号として,CNT複合材料研究拠点が2017年に開設されている.

 

(1-3)グラフェン

 産総研は独自開発のプラズマCVD法で単原子層グラフェンを高スループットで合成する技術を開発しており,A4サイズの透明導電性フィルム,グラフェン電極による透明な静電型スピーカ等を開発している.同時開催の新機能性材料展ではあるが,日本触媒株式会社はグラフェン類を有機溶剤に分散する技術を開発し,導電性インク,透明導電膜,電池用材料(導電助剤)へ展開しようとしている.

 

(2)セルロースナノファイバー(CNF)

(2-1)セルロースナノファイバー特別講演(シーズ&ニーズセミナーB会場(西2))

 初日午前にシーズ&ニーズセミナーB会場で2件の特別講演とパネル討論が行われた.一件は「ナノセルロース,その多様性と世界で進むアプリケーション開発」で,講師は産総研が進めるナノセルロースフォーラムの事務局長 平田氏であった.セルロースナノファイバーは,メーカによって特性も多様であり,多様な分野に応用されており,食品・紙おむつ・化粧品・靴底・自動車用タイヤなど,海外ではバイオメディカル向けも検討されている.研究開発は世界中で活発化している.

 二件目は「CNFを活かしたクルマづくり」で講師は京都大学 臼杵氏である.環境省の「NVC(ナノセルロース自動車)プロジェクト」で作製したコンセプトカーが昨年11月の東京モーターショーで展示された.樹脂にCNFを10%添加した複合材料で強度を維持しつつ軽量化を図っている.今後の課題としては量産性・コスト・長期耐久性等が挙げられた.

 

(2-2)セルロースナノファイバー特別展示

 同特別展示は,西館にアトリウムのナノカーボンオープンソリューションフェアと並んで設営された.産総研ナノセルロースフォーラムを筆頭に,第一工業製薬,大昭和紙工産業,王子ホールディングス,ANPOLY(韓国),GS(Green Science)アライアンスがブースを連ねた.それぞれ製法の開拓や応用製品の展示を行っていた.GSアライアンスは,生分解性樹脂をCNF添加で強度と耐熱性を向上させている.

 

セルロースナノファイバー特別展示

 

(3)電池関係

 株式会社リコーは,インクジェット印刷によるリチウムイオン二次電池作製技術を展示した.電池の正極活物質および負極活物質をインク化するところにナノテク技術が活かされている.ウエアラブルデバイスや多様な形状に応じた電池が実現できる.この技術はnano tech大賞2019で大賞を受賞しているが,今年は多くの応用が展示に加わった.

 国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)は,ハイスループット電解液探索システムを開発した.従来,試行錯誤的アプローチによる網羅的実験が行われていたものを,マテリアルズ・インフォーマティクスにより,多成分系複雑組成の中からでも有用な電解液を見つけだすものである.

 産総研は,小型モビリティ向け固体酸化物型燃料電池を開発した.大きさ5×5cm□,出力は1V,10~20Wで,ドローンを駆動する実証実験を行っている.固体電解質の作動温度が650~750℃で,起動時のみ外部からエネルギーを注入して加熱する必要がある.

 

(4)マテリアルズ・インフォーマティックス

 マテリアルズ・インフォーマティックス(MI)は昨年に続いてメインシアターの特別シンポジウムで取り上げられ,今年は具体的成果が報じられた.また,会場の展示においても,マテリアル・インフォーマティックスによる開発支援を行うサービスが展示されるようになった.

 特別シンポジウムでは,次の4件の成果が報告された.

  • NIMSの高野氏による「圧力誘起超伝導材料のMIによる開発」では高圧下での高温超伝導物質を探索し,1570種の元素から抽出した元素で合成した2種類の材料を測定評価して超伝導特性を確認した.
  • 名古屋大学の宇治原氏による「機械学習を用いた高品質半導体結晶成長プロセスの開発」では,SiCについて溶液からの結晶成長プロセスを短期間で開発した.今後,気相成長のモデル化やイオン注入プロセスのモデル化に取り組むとのことである.
  • 新潟大学の桜井氏による「機械学習を用いた超狭帯域熱放射多層膜の開発」では,特定波長の赤外線を選択的に取り出して熱光起電力発電することによる排熱の利用,中赤外光エネルギーを大気に放熱することによる放射冷却の利用を考えて,狭帯域熱輻射する多層膜メタマテリアル構造を機械学習AIで設計した.
  • 横浜ゴム株式会社 小石氏による「機械学習によるタイヤ用ゴム材料の開発」では,タイヤのゴムにシリカやカーボンブラックなどの硬い粒子(フィラー)を充填し,性能向上を図る際の充填方法の最適解を,AIを用いて求めた.

 業界における動向としては,上記講演を行ったNIMSは,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)」を2015年7月に受託し,MI研究のハブ拠点として活動してきた.2020年度でMI2Iは終了し,今後はMI2Iの成果を基に,NIMSやその他の拠点での活動を展開する.

 NECは材料開発における膨大な作業の効率化を図るため,自動測定でデータを集める実験プラットフォームの構築と共に,IT企業として得意のAI技術によりデータを自動処理する仕組みを開発し,作業時間の低減と開発コストの圧縮を実現している.

 

(5)産学官連携

(5-1)ナノテクノロジープラットフォーム

 文部科学省が推進しているナノテクノロジープラットフォーム(PF)事業は,最先端の研究設備を有する全国26の大学・研究機関の設備の共用体制を構築し,大学や企業がこれを活用することにより,ナノテクノロジーの研究開発,応用展開,産業化を促進することを目的とするもので,平成24年度に開始し令和元年度は8年目になる.毎年その年度のプラットフォームの「秀でた利用成果」を表彰しており,令和元年度も,nano tech 2020の初日の午後,シーズ&ニーズセミナーB会場でその表彰式と受賞者による受賞成果の講演が行われた.今年度の受賞は4件で,その中の最優秀賞は,実施機関:名古屋大学(微細構造解析PF),ユーザー:トヨタ自動車株式会社,日本電子株式会社,名古屋大学で課題は「ガス環境下における自動車触媒ナノ粒子のオペランドTEM観察」である.

 PF利用成果の表彰と同時に,PFの共用設備利用者を支援する技術スタッフの中で活動の優れた人の表彰式も行われた.今年は,技術支援貢献賞が5件,若手技術奨励賞が1件であった.

 秀でた利用成果および技術スタッフ表彰の成果内容のパネルは,文部科学省ナノテクノロジープラットフォームのブースに展示された.また,NanotechJapanのホームページで,過去に遡って見ることが出来る.

 

(5-2)TIA(つくばイノベーションアリーナ)

 TIAはつくば地区にある,産総研,NIMS,筑波大学,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の4機関が中心となって2009年に結成されたつくばイノベーションアリーナナノテクノロジー拠点(TIA-nano)を前身とする.2016年に東京大学が加わって研究開発領域をナノテクノロジー以外にバイオ,医療,計算科学,に広げ,名称をTIAに変更してオープンイノベーション拠点として活動してきた.2019年に10周年を迎え,ナノエレクトロニクス,パワーエレクトロニクス,MEMS,カーボンナノチューブ,バイオ・医療の各分野における拠点活用の成果,共用研究施設の提供や人材育成などの活動をPRした.nano tech 大賞2020において産学連携賞を受賞している(4章参照).

 

2.海外からの出展

 図8は,海外からの国別出展者数を多い順に並べたものである.全般的に昨年に比べて出展者が減る傾向にあるなかで,台湾は国が力を入れており,例年通り数を揃えている.初日には台湾の駐日大使が訪れ,自国の出展状況を入念に視察していた.台湾パビリオンは,毎年テーマを決めてパビリオンをデザインしている.今年は,文化の象徴として,台湾の鳥・動物をあしらった修飾画をモチーフとした.出展数2位のカナダもNanoCanadaがまとめ役になってコンスタントに出展している.ナノセルロースなど,ナノマテリアルが中心であるが,後述のnano tech大賞表彰式でナノアナリティクス賞を受賞した超小型NMRの展示などもあった.ドイツは国としてのパビリオンの終結後もザクセン州が独自のパビリオンを継続しており,マイクロエレクトロイクス/ICTの拠点としての活動,有機エレクトロニクスおよびフレキシブルエレクトロニクス分野の活動をアピールした.その他にドイツでは,Nanoinitiative Bayern(バイエルン州)のブースにCluster Nanotechnologyとして4機関が共同出展していた.オランダは,メインシアターの初日午後の後半を使ってセミナーを開くなど,パビリオンの出展者数はやや減ったが,積極的参加姿勢が見受けられた.一方,これまで首位だった韓国は,出展者数が半数近くに減少し3位に後退した.減少の理由は,コロナウイルスの流行が原因との説明があった.また,タイはパビリオン内出展者の個別登録を行わず,The national Nanotechnology Center (NANOTEC Thailand)が代表してその技術や製品を紹介していた.

 

図8 海外からの国別出展者数.多い順に配列.

 

台湾の文化の象徴(鳥・動物の修飾画)をモチーフとした台湾パビリオン

 

3.nano tech大賞2020

 最終日の午後,メインシアターにおいてnano tech賞2020の表彰式が行われた.表彰式の冒頭,nano tech実行委員会の川合 知二委員長より,ナノテク大賞2020の選考経緯について次のような説明があった.

 

実行委員会委員長による選考経緯の説明

 

 表彰者の選考は,国内,海外からの全出展者を対象とし,評価基準としては,技術や取り組み方について先進性,独創性,更には将来の商品性,市場性,経済性を考慮した.一昨日,昨日の午前に20人を超える審査委員会メンバーが会場内の各ブースを廻り調査した結果に基づいて,昨日昼からの審査委員会で2時間半の議論を経て,大賞および各部門賞受賞者を決定した.

 以下に各賞の受賞者と受賞理由および展示内容を紹介する.

 

◆nano tech大賞:東レ株式会社

受賞理由:絹糸の断面を観察して開発した人工繊維,200%の伸縮率と高い復元性を両立した伸縮性フィルム,光を高精度に制御できるナノ積層フィルムなど,ナノテクノロジーを駆使した数多くの新素材を開発した点を賞す.

展示内容:上記の他に,コンタクトレンズに適用できる超親水化薄層コート技術,遺伝子解析に使う高感度DNAチップ,3Dプリンター用真球ポリアミド粒子,薄膜軽量・フレキシブル有機太陽電池,世界初の新製品 多孔質炭素繊維,カーボンナノチューブを用いた塗布型RFID(Radio Frequency Identification),独自開発のナノアロイ®応用技術としてプリプレグ(ゴルフシャフトやラケットに使用)と“しなやかタフポリマー”(革新的環動ポリマー構造にナノアロイ®技術を適用),など多くの分野に新製品・技術を展開している.

 

大賞受賞の東レ(株)のブース

 

◆ナノマテリアル賞:株式会社リコー

受賞理由:固体型色素増感太陽電池を搭載した環境センサー,発電ゴムを利用した振動発電など,ユニークかつ先進的な材料技術開発を賞す.

展示内容:(株)リコーは昨年の大賞に続いて部門賞の受賞である.新製品の固体型色素増感太陽電池は,環境センサー用,リモコン用,デスク天板組み込み用(天板から取り外し可能なモバイルバッテリを充電)などを販売しており,さらに固体型色素増感太陽電池を利用した環境センサーを開発中である.この他に太陽電池としてはフレキシブル環境発電素子を狙う有機薄膜太陽電池,宇宙線耐性を持つペロブスカイト太陽電池を開発中である.また,廃棄が環境問題になっているプラスチックに替わる環境新素材(発泡PLA(ポリ乳酸)シート)を開発している.バイオマス由来プラスチックでカーボンニュートラルの考えが適用でき,かつ生分解性である.

 

◆ナノアナリティクス賞:株式会社堀場製作所

受賞理由:画像解析ユニットを加えたレーザー回折粒子分布測定装置,吸光度も測定できる新しい蛍光分光測定装置などを紹介,最先端材料の研究開発から品質管理までカバーする分析評価装置のラインアップを賞す.

展示内容:堀場制作所は光学を駆使する評価装置を得意とし,ニッチの分野を広くカバーしている.特に半導体分野及び電池関係の研究開発から製造工程に至る分野の様々な評価分析装置類を揃えている.しかし,事業的に一番大きいのは,自動車の排気ガスの測定評価装置群であるとのこと.

 

ナノアナリティクス賞:Nanalysis(カナダ)

受賞理由:A3用紙サイズ,高さ数十センチの超小型NMRを開発し製品化した.永久磁石を用いたためメンテナンスは不要で,分子量500程度までの物質を検査できる.分析対象として水素に加えて5元素から1つ選べる.製薬での品質検査など幅広い分野に役立つ点を賞す.

展示内容:Nanalysis Corp.は2009年創立のカナダのアルバータ州カルガリーにある科学機器メーカで,コンパクトなNMR分光機器の製造を専門とする.60MHz NMRのNMReady-60PROと100MHz NMR(新開発)の製品で新市場の開拓をめざす.オールインワンの小型ベンチトップ型でポータブルであり,研究実験から生産現場まで場所を選ばず使用でき,使いやすさと機能性を重視したソフトウエアの整備と自動化を進めており,外部接続機能(イーサーネット,Wi-Fi,USB)を整えている.材料化学,農業化学,医薬などの分野における教育,研究開発,様々な品質保証や品質管理などでの活用を期待している.

 

◆ナノファブリケーション賞:株式会社エリオニクス

受賞理由:50kVという低加速電圧ながら,高スループットの微細加工を実現した電子ビーム加工装置を開発.8インチのウエハ加工をわずか1日以内でできる高い生産性を賞す.

展示内容:超高スループット電子ビーム加工装置ELF-10000,小型ECRイオンシャワー装置EIS-200ERPの新製品を出展した.エリオニクスは研究開発用の電子線描画装置で微細化の先端製品の長い歴史があるが,ELF-10000では,最大電流1µAの大電流電子光学系を搭載するとともに大面積ビーム偏向器搭載により1ステップでの描画面積を大きくし,スループットを大幅向上させた.これによりナノインプリントのモールドを作製し,ナノインプリントとの併用で量産から少量生産用途まで,レーザー加工分野領域を含む広い領域への適用を狙っている.

 

◆ナノアカデミア賞:早稲田大学

受賞理由:生体応用が期待できるロボット結晶,ダイヤモンド製のトランジスタを用いた海中無線通信など,ナノテクノロジーを駆使した先進的な研究成果を賞す.

展示内容:上記記載展示の他にも,高分子ナノシートを基材および封止材として印刷配線と電子素子を挟み込んで物理的密着させる室温実装による皮膚密着型電子デバイスの製法,CNT-PSS透明導電膜,10cm以上のCNTフォレスト,CNTの金属触媒を除く精製方法,などを含む合計13の出展を行った.

 

◆産学連携賞:TIA(つくばイノベーションアリーナ)

受賞理由:つくば周辺地域の公的研究機関や大学が連携し,企業の量産化支援や人材育成を推進し,さらに日本全国にまたがる広範な産学連携を牽引,ナノテクノロジーの発展に大きく貢献している点を賞す.

展示内容:TIAはオープンイノベーション拠点として開設され,10周年を迎えこの間の成果を展示した.例を挙げれば,低電力,不揮発性,耐放射線性の原子スイッチ素子によるNanoBridge-FPGAデバイスの実用化,光集積基盤技術による光トランシーバーである光I/Oコアの実用化,産総研が基礎開発し約150社が共同開発・実用化したミニマルファブ(装置群は商品販売),スーパーグロース法によるCNTの量産技術を実用化し高品質CNTの日本ゼオン量産工場を稼働,民活型共同研究体(つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション)メンバーの富士電機(株)はこの仕組みを活用してSiCパワーデバイス量産技術を確立し生産中,等の成果が紹介された.

 

TIAブースにおける10年間の活動の軌跡の展示

 

◆新規ピックアップ賞:株式会社ヤギ

受賞理由:信州大学繊維学部の研究開発を事業化した韓国Finetexと韓国以外での販売代理契約を結んだ.防水性と通気性を兼ね備えた素材を製品化し,曇らない車輛ヘッドライトなどへの展開を賞す.

展示内容:電界紡糸法による量産型ナノファイバー製品で,ナノファイバーメンブレンは極細ファイバーを均一に積層させたメッシュ状の高機能膜である.(株)ヤギは「NANOXERA」(ナノクセラ)のブランドネームで高付加価値をアピールしている.衣料・フィルター・衛材/美容・電子機器への応用展開を図っている.

 

◆プロジェクト賞:NEDOプロジェクト「太陽光と水と二酸化炭素から,プラスチック原料へ ―人工光合成プロジェクト―」

受賞理由:太陽光と水と二酸化炭素からプラスチック原料を合成する技術を研究しており,二酸化炭素削減と石油由来プラスチックの削減に向けて実現性が見えてきた点を賞す.

展示内容:人工光合成プロジェクトでは,先ず光触媒を使って太陽光による水の分解を行い,得られた水素・酸素混合ガスから,サブnmの微細孔を持つ分離膜により水素を取り出す.次に合成触媒で水素と二酸化炭素からプラスチック原料のオレフィンを合成する.酸硫化物系光触媒により変換効率5.5%を達成し(最終目標10%),光触媒単独で水を完全分解できることを実証した.2021年までに各要素プロセスの基本技術を確立する.

 

◆プロジェクト賞:物質・材料研究機構「PZT代替高性能非鉛圧電材料」

受賞理由:鉛を使わない,新しい圧電材料を開発した.PZTに匹敵する圧電特性と安定性を実現,PZT代替により圧電業界に変革をもたらす可能性を賞す.

展示内容:新非鉛圧電材料シリーズがキュリ温度―圧電定数グラフでPZTの製品領域をカバーしており,加熱―冷却サイクル実験では1,000回まで変化なく,アニーリング温度における圧電定数は120℃で10%の低下に留まっている.また,電歪効果はPZTと同等であることが実験データで示された.

 

◆ビジネスマッチング賞:株式会社S-Nanotech Co-Creation

受賞理由:ビジネスマッチングシステムを活用して,様々な出展者,来場者と最も多くの商談ポイントを獲得.精力的にオープンイノベーションに取り組んだ点を賞す.

展示内容:島根大学発のベンチャー企業である同社は,島根大学のナノテクプロジェクトセンターが生み出す数々のシーズの実用化を促進し,産業界を含めた共創により地方大学から産業を活性化することを狙っている.製品紹介では,酸化亜鉛薄膜を用いた高速蛍光体は,浜松ホトニクス社の光電子増倍管の前段に用いられその高分解能化,高感度化に貢献している.生活習慣病の予防効果で注目のエゴマ油(島根県産)の粉末を製品化している.研究開発事業シーズでは,酸化亜鉛ナノ粒子塗布型紫外線発光ダイオードを紹介した.大気中塗布プロセスで製造できる超低コストLEDで,窒化ガリウム系の発光ダイオードに代わる様々な応用展開を期待している.

 

◆特別賞:ドイツ・ザクセン州パビリオン

受賞理由:ドイツ・ザクセン州のナノテクノロジー企業5社が出展,ICTや材料科学など多くの分野で最先端を走る同州の技術力を披露した点を賞す.

展示内容:ザクセン州には半導体の開発・生産の伝統的歴史があり,マイクロエレクトロニクス/ICT関係のヨーロッパにおける集積地として名を成しており,研究分野ではフラウンホーファー研究機構の多数の研究機関やドレスデン工科大学を中心に継続的にナノテクに挑戦している.有機・フレキシブルエレクトロニクス分野でもヨーロッパ最大のクラスターを形成し,基礎研究からハイエンド製品まで付加価値創造のバリューチェーンを網羅していることを強調している.

 

◆日刊工業新聞社賞:清川メッキ工業株式会社

受賞理由:金属やセラミック,樹脂などありとあらゆる素材の表面に厚さ最小数nmのめっきを施す最先端技術を開発した点を賞す.

展示内容:粉体めっきなど小さいものへのめっきが得意で,あらゆる形状の粉体めっきが可能(樹枝形状の突起のある特殊形状のNiめっき粉など)である.また,樹脂やシリカ等の粒子をめっき皮膜中に取り込んだ複合めっきも行っている.応用分野はこれまで電子部品や半導体ウエハが中心であるが,チタンなど様々な材料で医療・エネルギー分野などの新分野への進出も図っている.

 

4.おわりに

 nano tech 2020は,同時開催展示会を含めて会場が従来の東京ビッグサイトの東館から西及び南館に変更になり,ややコンパクトな展示となった.しかし,動線が短くなり,その分全体が見渡しやすくなるメリットも感じられた.今回展示レイアウトの新しい試みとして,ゾーンを別ける展示や,ナノカーボンオープンソリューションフェアやセルロースナノファイバー特別展示などが行われた.ナノテクノロジーの技術展開の歴史,現状,明日への可能性等を広い視野で理解でき,異分野の融合や,ビジネスマッチングがより効果的に行われ,また,ここでの議論や得られた情報が新たな技術の進展に繋がることが期待される.

 地球規模の厳しい環境問題への対応やスマート社会実現のために,ナノテクノロジーの進展に向けた國際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech)が果たす役割は大きい.この展示会の準備や開催に際しての実行委員会および事務局のご努力に敬意を表したい.

 次回nano tech 2021第20回ナノテクノロジー総合展・技術会議は令和3年1月27日から29日に東京ビッグサイトの東棟で開催予定となっている.

 

付録

 1.1節の図4に技術分野別出展者数を示したが,ここでその各技術分野における詳細な技術項目毎の出展者数を付図1~付図8に示す.出展者数の値は,nano techのWebサイトの出展者検索から求めたものである(2020年は1月19日の値).なお,図4においては「加工・計測」となっていた技術分野はnano tech 2020では「加工」と「計測・分析・シミュレーション」の2分野に分割されたので,付録では分割された技術分野で技術項目別出展者数を求めている.今回追加された項目(2020のみのもの)に,技術の変遷を見ることができる.

 

付図1 材料・素材分野の技術項目別出展者数

 

付図2 加工分野の技術項目別出展者数

 

付図3 計測・分析・シミュレーション分野の技術項目別出展者数

 

付図4 IT&エレクトロニクス分野の技術項目別出展者数

 

付図5 ナノバイオ分野の技術項目別出展者数

 

付図6 自動車分野の技術項目別出展者数

 

付図7 環境・エネルギー分野の技術項目別出展者数

 

付図8 ライフサイエンス分野の技術項目別出展者数

 

 

 

(向井 久和)