NanotechJapan Bulletin

 メニュー

JNB,No.122,2006年9月27日発行/シリサイド半導体に関するアジア太平洋国際会議の報告

JNB,No.122, 2006年9月27日発行

ナノインフォ
シリサイド半導体に関するアジア太平洋国際会議の報告

 シリサイド半導体に関するアジア太平洋国際会議(Asia-Pacific Conference on Semiconducting Silicides : Science and Technology Towards Sustainable Optoelectronics(APAC-SILICIDE 2006))はシリサイド半導体及び関連物質に関する基礎物性からデバイス応用までの全てを網羅する国際会議で,2006年7月29日から31日に京都大学吉田キャンパス 百周年時計台記念館において開催された.応用物理学会「シリサイド系半導体と関連物質研究会」が主催する国際会議・シンポジウムとしては過去日本にて2回開催されており,現在ではシリサイド半導体に関する最先端の成果が報告される場を提供している.これまでの参加者は主として日本,欧米の研究者を中心としていたが,今回のAPAC-SILICIDE 2006では主として極東ロシアを含む,アジア-太平洋地域の研究者の集う国際会議となった.

 APAC-SILICIDE 2006の参加者数は84名であり,アジアを中心とした海外からの参加者は14名であった.学術講演としては,キーノートレクチャーを含む招待講演が9件,口頭発表が24件,ポスター発表が37件であった.

 本会議での主な発表内容を以下に紹介する.

1.シリサイド一般及びデバイス応用

 オープニングセッションでは名古屋大学財満教授によるULSI応用材料としてのシリサイドと関連物質に関するキーノートレクチャーに続き,ナノスケールCMOSデバイスにおけるシリサイド材料及び集積化に関する問題点,半導体β-FeSi2の光電子工学・フォトニクスへの展開に関する発表があった.シリサイドのマイクロデバイスへの応用から,フォトニッククリスタルへの新しい展開まで系統的に示していただける事となった.

2. 半導体β-FeSi2薄膜, 発光特性と界面制御

 ナノスケールβ-FeSi2の成長と評価に関する最近の進展についての講演の他,PL測定によるβ-FeSi2/Si界面の非破壊評価,PL強度の増強メカニズム,β-FeSi2/SiダブルヘテロLEDにおける電流注入に関する研究等の鉄シリサイドの光物性に関しての報告が相次いだ.β-FeSi2の非発光センターの同定,発光メカニズムの解明など光物性の解明に関する重要な進展がみられた.

 界面制御に関しては,フラット及びパターンSi基板上に生成したβ-FeSi2のエピタキシャル方位とモルフォロジー,Cu添加によるβ-FeSi2/Si界面構造の制御,Fe-Si成長初期過程の解明,β-FeSi2のキャリアコントロールについての講演があった.熱反応堆積法(RDE),固相反応法(SPE)を始め分子線エピタキシー(MBE),レーザーアブレーション(PLD),イオンビーム堆積法(IBS)および有機金属気相成長法(MOCVD)など成長法の多様化,テンプレート法等による薄膜の高品質化に大きな進展がみられたとともに,異種基板上への成長,物性評価法の多彩化など研究手法の幅の広がりが見られた.

3. エキゾチックシリサイド

 埋め込み半導体シリサイドナノ結晶を有するシリコン-シリサイドヘテロ構造の成長と特性評価の試み,ナノエレクトロニクスへの応用を目的としたTaSi2金属ナノワイヤーに関する講演の他,Si表面でのMgシリサイド化のカイネティクス,Ba1-xSrxSi2薄膜の結晶品質と光吸収のSr添加効果,Ca及びSr添加したBaSi2合金のバンドギャップ制御の電子構造の理論的考察,Ca5Si3, Sr5Si3の成長と電気特性など,多種多様な半導体シリサイドに関する成長と評価に関する発表があった.その他,アモルファスFeSi2, Si/SiGe, Mg2SiGe, SrSi2, MnSi1.7, CrSi2, Ni-Si, SiOx, TiO2, Cu/Si, Co/Si等,将来半導体シリサイド研究の重要な要素と期待される材料や,シリサイド研究をサイドより支えるバラエティーに富んだ材料群が取り上げられた.

4. バルク結晶

 シリサイド半導体の熱電特性についての講演の他,ソース材料組成比の最適化による板状β-FeSi2単結晶の成長,高純度β-FeSi2ソースを用いて成長した単結晶β-FeSi2,包析反応によるβ-FeSi2の成長,溶融塩法によるβ-FeSi2基板の作製,β-FeSi2単結晶のメスバウアー分光,Mg2Si単結晶の作製と特性評価などの発表があった.ミリサイズの単結晶基板が実現し伝導制御が広範囲にわたり可能となるとともに,光物性をはじめ半導体シリサイドの基礎物性の解明が大きく進展した.成長法についてもCVT,溶媒法の他,ドロップレット成長,溶融塩法による成長など目的応用に応じた結晶成長方法が開発されている.

5. 強磁性シリサイド

Fe3Siはフェルミ面でスピン偏極したバンド構造をとる事及びFe3SiはSiGe上でエピタキシャル成長可能である事から,スピンエレクトロニクスへの応用が期待されている.Si基板上へ強磁性シリサイドFe3Siの低温エピタキシャル成長における基板方位の影響,MBEによるCaF2/Si(111)上へのFe3Si /CaF2/Fe3Si強磁性トンネル結合構造の作製,強磁性Fe3Si/半導体ナノ結晶β-FeSi2超格子の磁気特性等の発表があり,シリサイドの応用としてのスピンエレクトロニクスデバイス実現に期待が寄せられている.

6. フォトニッククリスタル

 β-FeSi2は透明領域で屈折率が5.0以上と他の半導体に比べて非常に大きく,フォトニッククリスタルへの展開が提案され,β-FeSi2のサブミクロン微細加工技術が開発されるとともに2次元フォトニック結晶としての機能が検証された.関連の発表としてβ-FeSi2フォトニック結晶におけるフォトニックバンド構造と光伝搬の計算,フォトニック結晶の作製を目指したβ-FeSi2薄膜のサブミクロンドライエッチングの振る舞い,誘導型結合プラズマ中でのβ-FeSi2薄膜の反応性エッチング等の発表があった.本分野は半導体シリサイドの応用において今後ますます重要な分野となると期待される.

最後に

 半導体シリサイドが次世代の光エレクトロニクス材料のひとつとして提案されてから10年となる.この日本発祥のパラダイムは世界へ発信され,今回の国際会議を期に日本を中心としたアジア地域に根付いた発展が期待されている.なお,本会議のプロシーディングはThin Solid Filmsの特別号として出版予定である.詳しい内容はこのプロシーディングを参照されたい.最後に本国際会議を支援頂いた諸団体にこの場を借りお礼申し上げます.

静岡大学工学部 教授 立岡 浩一
大阪大学大学院工学研究科 助手 寺井 慶和



122c-1.jpg

写真1. APAC-SILICIDE 2006 会議風景



122c-2.jpg

写真2. APAC-SILICIDE 2006 参加者一同