NanotechJapan Bulletin

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Vol. 1, No. 1, 2007年10月30日発行/産学協同のいま

NanotechJapan Bulletin Vol.1, No.1, 2007 発行

産学協同のいま

 ナノテクノロジーの世界でも「産学協同」という言葉を聞くようになって久しいが,現況は具体的にどうなっているのかわかりにくいという声も多い.そこで今回,産官学をそれぞれ代表して,『NanotechJapan Bulletin』外部編集委員でもある産総研の秋永主任研究員,東工大の宮本准教授,富士通研究所の粟野主管研究員に,「産学協同」の現状と思いを語っていただいた.秋永氏,宮本氏は先端研究施設共用のナノテクノロジー・ネットワークプロジェクトでも活躍中である.

秋永 広幸(あきなが ひろゆき)

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  • 独立行政法人産業技術総合研究所 ナノテクノロジー研究部門
  • 先進ナノ構造グループ 研究グループ長 主任研究員

企業は産総研にもっと多くを期待してもらっていい.
マンパワー,マシンパワーは十分に用意している.

 「産業技術総合研究所(以下,産総研)ナノプロセシング施設では年間で約120件の技術支援を行っており,また人材育成スクールに100名ほど受け入れています.社内にある設備ではどうにもならないから,といらっしゃるお客様もいますし,大企業でも新規事業をスタートさせる際など,クリーンルームが隣の部署にあっても使えないことがよくあるそうです.そんなときにウチのようなフットワークの軽い施設があるとお役に立てるわけですね.また,企業内の配置替えで新たなスキルが必要になった際,こちらのスクールへ来て腕を磨いてお戻りになるとか,さまざまな目的でご利用いただいております.」

- 提供するサービスは問題解決を支援する側面もあるため,単なる技術の習得にとどまらないカリキュラムが用意されている.

 「もちろん要素技術をマスターしようといらっしゃる方もいますが,実はこういうことに困っているから解決するための技術を身に付けたいというケースもあります.こういった要望にこたえるため,人材育成スクールでは企業の抱える問題の解決に対応するカリキュラムも用意しています.」

- “産官学”の“官”である産総研ナノプロセシング施設の基本方針は企業や大学の支援であり,価値は追求するが,単なる利潤を追求することはしない.

 「支援事業は持っているノウハウや知財を使ってもらってナンボというところがあります.だからこそ,産総研ナノプロセシング施設では,知財の運用で製品化・事業化は行わないかわりに,知恵やノウハウに対する求心力を生み出せるような支援事業を展開しているんですね.」

- 企業が産総研と連携することで,知的ネットワークという副産物が生まれる.今後は人材面でも産総研を活用してほしい,と秋永氏.

 「産総研ナノプロセシング施設で働いている人間なら,いろいろな実務を経験している.サイエンスがわかるマネージングリーダーのようなポジションなら,十分使える人材が育っていると思います.また,ある企業から人材を送ってもらい,2~3年の間,私たちのアクティビティを経験することでスキルを身に付けて帰ってもらうということも始めています.これからは人材育成という意味からも,産総研を大いに活用していただきたいですね.」

宮本 恭幸(みやもと やすゆき)

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  • 東京工業大学大学院 理工学研究科電子物理工学専攻 准教授

大学と企業の違いはベーシックな研究に対する姿勢.
産学連携による新しい発想に期待します.

 「東京工業大学(以下,東工大)では,ナノテクノロジー・ネットワークにおいて“電子ビームによるナノ構造造形・観察支援”を行っています.年間40~50件の実績がありますね.」

- 東工大の宮本氏のところには微細構造に特化した1台数億円の電子露光ビーム装置が2台ある.この装置は大企業でもそう持っていないし,例え持っていても気軽に使えるものではない.ノウハウを持っている東工大に来た方がずっと使いやすいのだ.

 「支援を始めるにあたり,文部科学省からくれぐれも民業を圧迫しないようにとクギをさされましたので,分野を特化し電子ビーム露光で非常に小さなものを直描で描くことに絞りました.国内外でそういう作業を請け負えるようなところは他になかったからです.」

- 他の学術機関の中には企業との共同研究にこだわるところもあるが,東工大の支援の主力は技術代行だ.これは知財管理についての煩雑さを減らすメリットがある.

 「大学と企業間で起きるトラブルの主な原因は知財です.だから我々は新しいことはやりませんし,すでにオープンになっているノウハウだけを渡します.これを技術代行と呼んでいますが,この形なら特許は関係ありません.加えて特許は申請しないという契約書も交わします.最初にきっちりと契約を結ぶことで,企業には喜ばれています.」

- 最近は国などの後押しもあり,各分野で“産学協同”が進んでいることは間違いない.企業と大学の研究に違いはあるのだろうか.

 「企業ですと普通3~5年のロードマップで研究の製品化が求められます.逆に大学では3年でかたちにならないもの,5年先,10年先のものじゃないとやれないですね.投資効率を考えると,そういったスパンの長い研究を企業が敬遠するのは当然です.だから企業からは,理屈を示して流れを作って欲しいとよくいわれます.」

- では,宮本氏が今後の“産学協同”に期待することは?

 「民間企業と大学,立場の違う人たちが連携することで新しい発想が生まれることですね.大学の施設や設備を民間に開放することで,互いに目に見える利益だけでなく,もっと深い人的ネットワークが構築できたらいいと思います.」

粟野 祐二(あわの ゆうじ)

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  • 株式会社富士通研究所 ナノテクノロジー研究センター 主管研究員
  • 富士通株式会社 電子デバイス事業本部 デバイス開発統括部 統括部長付


一企業だけの研究には限界がある.
枠を越えたさまざまな連携が必要です.

- ナノエレクトロニクスを専門とし,「半導体MIRAIプロジェクト」ではカーボンナノチューブの研究を行っている富士通研究所の粟野氏.いわば産学協同のまっただ中で仕事をしているといっていい.

 「LSIの技術は一企業が単独でやっていても恐らくモノにはなりません.頑張って技術を作っても装置を作る会社や設計をするためのソフトウェアが必要ですし,ある程度,皆さんが興味を持って使ってくれるベースの部分がなければいけません.そこでMIRAIプロジェクトでは,さまざまな企業や組織から研究者が集まり,次世代半導体についての開発を進めているんです.」

- ナノテクノロジーは基盤技術であり,今のところ競争以前のプレコンペティティブな技術である.産官学,あるいは企業と企業の枠を超えた幅広い連携が可能であり,また必要だ.

 「本来は産側できちんとニーズを提示し,それに大学の先生たちの研究をすり寄せていただく必要があるんです.欧米ではすでにそういった動きがあって,国のファンドを持って,テーマ選定をその方向で行っている団体もあります.残念ながらその意味では我が国は遅れているといわざるをえません.」

- 大学や団体との共同研究の妙味はなんだろうか.

 「大学の場合,企業にはない視点で研究を進めていることがあります.特にナノテクノロジーは半導体,バイオ,メカニカル等,さまざまな分野の集合ですから,それらが融合したとき,新しいビジネスや研究テーマが生まれる可能性があるんですね.ですから,そういった新しい芽が出つつある土壌をいかに見出し,育み,自らの研究へ活かしていくか,企業のセンスが問われるところでしょう.」

- また,“学” “官” が所有している施設や設備面も企業にとって大きな魅力だ.

 「電子顕微鏡などでも,民間ではとても持てないような種類の設備を持っている大学や団体があります.我々富士通研究所も,高輝度光科学研究センターのSPring-8でカーボンナノチューブの根元を調べるということをやっています.」

- このような人材や施設・設備をどうやって組み合わせ“産学協同”に活用していくのか.ナノテクノロジー・ネットワークが取り組まなければいけない課題はまだまだありそうだ.

 「企業が大学や団体へアクセスできるようになった今の状況は非常にありがたいと思っております.ただ,我々が本当にやりたいことと,提供されている技術・設備には常に微妙にズレがあるのが当然ですから,これから細かいチューニングが必要になるでしょうね.」