NanotechJapan Bulletin

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Vol. 1, No. 3, 2008年2月28日発行/光科学の新潮流 メタマテリアル

NanotechJapan Bulletin Vol.1, No.3, 2008 発行

光科学の新潮流 メタマテリアル --- 東京大学 五神 真教授

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 金属の光沢やガラスの透明性など,物質には特有の見え方があるが,それらは物質に固有な光学応答の結果だ.だが,もしこの光学応答を自在に変えることができたら.そんな願いをかなえてくれるかもしれないのが,波長以下の微小な構造体を集積した人工物質「メタマテリアル」だ.メタマテリアルの最新動向について五神 真氏(東京大学工学部教授)に聞いた.

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五神 真氏

メタマテリアルと負の屈折率

 物質の光学応答は,物質中の原子や分子に光の電磁場がどう作用するかで決まる.サブミクロンオーダーの光の波長に対して原子・分子はサブナノオーダーと十分に小さいため,物質を均質な媒質と見なすことができる.それを特長づけるパラメータが屈折率や吸収係数といった物質固有の光学定数である.ならば,波長に対して十分に小さい構造を人工的に作ればその構造を工夫することで物質の光学応答を自在に制御できるのではないかというのが,メタマテリアルの発想だ.中でも興味深いのは,自然界には存在しない負の屈折率を持つ物質[1,2](図1,2).

 自然界に存在する通常の誘電体は,誘電率・透磁率ともに正の値をとり,屈折率も正になる.一方,誘電率・透磁率ともに負であれば,その積は正になり光が伝播できる.このとき屈折率は負となる.こうした物質は左手系物質と呼ばれ,材料中を流れるエネルギーの向きと波面の進む向きが逆になり,特異な光学応答を示す[3].すでにマイクロ波領域では,微小な金属ワイヤーと金属コイルからなる構造で,負の屈折率を実現している(図1左上).


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 一方,可視光領域では,800nm~700nmで負の屈折率が作れるようになったところだ.電磁場を制御するための,より簡素で効果的な構造を求めて研究が続けられている.負の屈折率を持つ物質を用いると,回折限界の制限を受けないスーパーレンズが可能になる[4].また,内包した物質をあたかも透明であるかのように見せる透明マントといった提案もあり[5],光科学へのインパクトは大きい(図3).


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メタマテリアルによる偏光面制御

 メタマテリアルの機能は負の屈折率だけではない.光の利用において,光の電場の振動面すなわち偏光の制御は重要である.例えば液晶テレビは画素ごとにバックライトからの偏光をスイッチして映像を表示している.2003年,サザンプトン大学のグループは,卍型のパターンを二次元に並べた金属薄膜を作り,その回折光を観測したところ,卍の向きに応じて偏光面が回転することを見いだした.

 通常,旋光は鏡像関係にある三次元分子の右型,左型どちらか一方からなる媒質で発現し,透過光を反射させて媒質中を戻すと,偏光方向が元に戻る相反性を持つ.だが2次元のパターンの場合,右型卍を裏から見ると左型卍になるので,右型卍パターンを透過した光を逆行させて元の位置に戻すと,帰りは逆方向に回転するので偏光の向きは元に戻らないはずだ.これでは電磁気学の基本原理である相反性が成り立たなくなってしまう.

 このジレンマを解くために,五神氏は,ガラス基板上に500nm四方の卍型のパターンを二次元に並べた厚さ100nmの金属薄膜を作製し,回折光ではなく,透過光の偏光を測定した.薄膜はパターンが右型卍であれば右に,左型卍であれば左に104 deg/mmという強い旋光性を示した(図4).


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 しかし,光の入射方向を逆にしたところ,回転方向は同じであった.すなわち相反性も保たれていることを確認した[6](図5,6).


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 膜厚をさらに薄く20nmにしても結果は同様だった.「つまり,光にとっては20nmでも十分に三次元に見えたということです.でも,加工技術から見ると100nmは印刷のインク程度の厚さしかなく,描いた構造は二次元です.すなわち表面にこういうパターンを塗るだけで強い旋光が得られるということです.微小空間で光を操作する光回路や,ナノと光をつなぐといった応用で,今までとは違った発想の技法が使えるということを示唆しているのです」.ちなみに五神氏は,テラヘルツ波に関しても薄膜を用いた旋光を実現している[7].

今後に向けて

 波長以下の金属薄膜で旋光が見られたのは,金属と空気の界面および金属とガラス基板の界面で見られる電場のねじれに起因している[8].電場のねじれの効果は,両界面における表面プラズモンの共鳴によって増大する.こうした表面プラズモンなどの共鳴現象の活用は,メタマテリアル設計の1つの指針となる.

 「もう一つの重要なポイントは,メタマテリアルの登場は,光の波長が十分長いことを前提とする従来の光学を超えるものを求めているということです.光学は何世紀にも及ぶ伝統ある学問ですが,これをきっかけとして新しい光学が生まれつつあるのです.20世紀に大きく発展した物質の科学と21世紀のこの新しい光学が出会うとさらに面白いアイディアが出てくると思います.そこにどのような新しい科学や技術が出てくるのか楽しみです」と五神氏は期待する.

参考文献

[1] V. G. Veselago, Sov. Phys. Usp. 10 (1968) 509.
[2] D. R. Smith and N. Knoll, Phys. Rev. Lett. 85 (2000) 2933.
[3] V. M. Shalaev, Nature Photonics 1 (2007) 41.
[4] J. B. Pendry, Phys. Rev. Lett. 85 (2000) 3966.
[5] J. B. Pendry, D. Schurig, and D. R. Smith, Science 312 (2006) 1780.
[6] M. Kuwata-Gonokami, N. Saito, Y. Ino, M. Kauranen, K. Jefimovs, T. Vallius, J. Turunen, and Y. Svirko, Phys. Rev. Lett. 95 (2005) 227401.
[7] N. Kanda, K. Konishi, and M. Kuwata-Gonokami, Optics Express 15 (2007) 11117.
[8] K. Konishi, T. Sugimoto, B. Bai, Y. Svirko, and M. Kuwata-Gonokami, Optics Express 15 (2007) 9575.