NanotechJapan Bulletin

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Vol. 1, No. 4, 2008年4月28日発行/第4回ナノテクノロジー国際会議(INC4)報告

NanotechJapan Bulletin Vol.1, No.4, 2008 発行

第4回ナノテクノロジー国際会議(INC4)報告 --- (1)背景と概要


 日・米・欧の3極がナノテクノロジーのグローバルな研究開発状況を俯瞰し,今後の連携を探る国際ナノテクノロジー会議(INC)が,4月14日(月)~17日に東京(一ツ橋講堂)で開かれた.組織委員会もグローバルで,日本からは物質・材料研究機構,電子技術産業協会,ナノテクノロジービジネス推進協議会,米国からは全米科学財団(NSF),半導体工業協会(SIA),半導体研究コーポレーション(SRC),国立標準技術局(NIST),欧州からはENIAC(EU),フラウンホーファー・グループ・マイクロエレクトロニクス(VµE,ドイツ),IMEC(ベルギー),LETI(仏)がオーガナイザーとして名を連ねた.さらに,内閣府,文部科学省,経済産業省がオブザーバーとして参加した.参加者総数は335名,内訳は米国30名,欧州26名,日本269名,その他10名であった.

 初日14日は,日本のナノテク研究開発の粋を集めたワークショップNanotech in Japanとして,15日からの本会議とはほぼ独立に行われた.Nanotech in Japanについては次号で紹介することにして,本稿では15日に始まったINC4本会議に的を絞ってレポートする.

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地域のナノテク政策動向について講演する大江田(内閣府)、Roco(NSF/NNI)、Beernaert(EC-DG INFSO)の各氏(左から右へ)


INCとその背景

 正式には「コミュニケーションと連携のための国際ナノテクノロジー会議」という名称のINCは,米国のNSF(M. Roco氏)と半導体業界(インテルP. Gargini氏)のイニシアチブによって始まった.ナノテクノロジーの国際対話と連携を進めたいNSFと,微細化の限界(ムーアの法則の破綻)を前にして危機感を強め,グローバルに知恵を出し合ってこれを乗り越えたい半導体業界,この両者が欧州・日本に声をかけて第1回会議が開かれたのが2005年,場所は米国のサンフランシスコであった.以後アーリントン(米国),ブリュッセル(ベルギー)を経て,今回が初めての日本開催である.上のような成立の背景から,INCはナノテクの中でもナノエレクトロニクスにフォーカスし,さらにその中でもBeyond CMOS(シリコンCMOSとは別の原理,コンセプトに基づく技術)の探索にウエイトが置かれている.参加者は,ナノテクの俯瞰的視野を広げたいシニア研究者,企業の研究企画担当者,政策担当者などである.

会議の概要

 INC4は岸 輝雄氏(物質・材料研究機構),C. Lau氏(IDA),D. Thomas氏(STMicroelectronics)の開会の挨拶で幕を開け,ナノテク政策の俯瞰,ナノテク産業の俯瞰,技術的発表,ナノテクの社会的側面という順番で発表がおこなわれた.口頭発表はすべて招待講演であった.(ポスター発表と展示も若干行われたが,その多くは口頭発表を補完する内容のものであった.)時間的に大部分を占めた技術発表は,More Moore,Beyond CMOS,Bridge to Bio,Bridge to MEMS/NEMS,Bridge to Photonics, Nanotechnology for Energyの各セッションに分けて行われた.エネルギーのセッションが新たに設けられた以外は,基本的に前回会議(INC3)のスタイルを踏襲している.ここでBridge to XXというのはXXにつながるナノエレクトロニクスといったような意味である.いずれのセッションも講演は3件(日・米・欧各1件)であった.会議では、次のようなポイントが聴衆の注目を集めた.

米国のBeyond-CMOS研究イニシアチブ NRI

 ここ数年,微細化に伴うCMOSの消費パワーの増大に危機感を抱いた米国半導体産業,大学とNSFは,デバイス物理に立ち戻って対策を検討してきた.その結果,電子電荷の散逸的スイッチングを利用する従来の計算スキームは10~20年以内にスケーリング限界に達すると結論し,代替技術の開発という観点から重要な13の先鋭的研究テーマを発表した.こうしたBeyond CMOS技術の研究開発のため,産業界と国が大学に資金を提供して目標志向の基礎研究を行うコンソーシアムとして2005年に立ち上げたのがNRI(Nanoelectronics Research Initiative)だ.NRIは,前記の13テーマ(研究ベクトルと呼ばれる)のうち5項目:

 A) 電荷以外の計算状態変数(によるスケーリング限界の打破)
 B) 非平衡システム(によるパワー消費と発熱の抑止)
 C) 新規データ転送メカニズム(によるRC限界の打破)
 D) ナノスケールにおける熱の管理(による発熱とパワー密度の低減)
 E) ナノ構造の方向づけられた(directed)セルフアセンブリー

の研究にフォーカスする.

 NRIの研究センターとしてはすでにWIN(UCLAを中心とするカリフォルニアの大学がメンバー),INDEX(ニューヨーク州立大学アルバニー校を中心とする東部の大学がメンバー),SWAN(テキサス大学オースティン校を中心とする中部の大学がメンバー)が立ち上がり,2008年3月にはノートルダム大学を中心とするMANAがオープンした.全体として,21州・35大学を包含するスケールの大きなものである.センターごとにある程度特色があり,WINはインテルの意向を強く受けてスピントロニクスと磁気デバイスに重点をおくのに対して,SWANは理論とプラズモニクスのウエイトが高い.INDEXは量子ドットデバイス,分子/グラフェン細線スイッチ,酸化物を使ったスイッチ等を研究する.MANAではエネルギー消費の低減にフォーカスする予定.

 NRIではスイッチングデバイスの研究から始めて,徐々にロジックゲートに対象を広げていく.現在立ち上がっているプロジェクトはベクトルAに関するものが45件と大半を占め,C(8件)とE(6件)がこれに次ぎ,Bは1件,Dはゼロである.ただし,間もなくDのうちフォノン・エンジニアリングのプロジェクトがMANAで開始される.

INCのワーキングループが日・米・欧の比較とギャップ領域の調査を開始

 INCのワーキンググループであるIPWGNにおいて,日・米・欧が協力して各極のナノエレクトロニクス研究の比較を行うとともに研究開発のギャップ(空白)領域を調査する活動が開始され,予備的な結果がINC4で示された.「ナノエレクトロニクスの世界でこうした調査が行われるのは今回が初めて.結果は政策担当者に伝えたい.新たな施策やプロジェクトにつながることを期待している」(P. Gargini氏,Intel).

熱を帯びてきたグラフェン研究

 グラファイトの単原子層(グラフェン)は,2004年に実現して以来,その特異な物性とFET等への応用可能性から注目を集めている.今年3月の米国物理学会では,発表のうち実に7%がグラフェンについてだったという.今回のINC4を通じて,グラフェンのエレクトロニクス応用を目指す研究が世界中で活発に行われ,プロジェクトも始まっている様子が明らかになった. 基調講演を行った安藤恒也氏(東工大)は,MOS構造中の2次元電子系やカーボンナノチューブの理論で世界的に有名だが,グラフェンにも早くから注目し,エレガントなアプローチでその物性を解明してきた.今回の講演は,グラフェン物理のほぼ全体像を提示したといえるものだった.グラフェンはそのままではバンドギャップが0なので,幅の狭いリボンにするなどしてギャップを有限にしないとFETに使えないのが弱みだが,銅をしのぐ電流密度に耐え,室温で高い移動度をもち,さらに一層のグラフェン中にFETと配線を一緒に作り込める可能性があることから応用上も注目されている.これについてはG. Baccarani氏(ボローニャ大)およびT. Theis氏(IBM)が講演で触れた.Theis氏は2層グラフェンの電流ノイズが非常に小さいという最近の実験結果も紹介した.プロジェクトについては,欧州でグラフェンFETのCMOS応用可能性を探索するGRAND(Graphene-based Nanoelectronic Devices)プロジェクト(FP7)が最近立ち上がり,米国ではNRIの各センターでグラフェンがらみの研究が数多く行われていることが報告された.グラフェンの実験と応用研究では若干遅れをとった日本でも,CRESTや富士通などで研究が始まっていることを渡辺久恒氏(SELETE)が明らかにした.

 次回の会議(INC5)は,米国ロサンゼルスで2009年5月18日~21日に開かれる予定である.

参加者のコメント

M. Roco氏(NSF/NNI)

I see the series of INC conferences and related R&D collaborations as a part of the global governance process of nanotechnology, with a focus on nanoelectronics. Governance, as opposed to top-down governing typical at national level, means active participation and distributed responsibility of all those interested and affected. We have at INC conferences three main contributors and user regions (Europe, Japan, U.S.), each involving three sectors (industry, academia, government), addressing topics at the confluence of nanotechnology, information technology and many areas of application. In those INC conferences we aim to make nanotechnology more transformative, more responsible and more visionary, and encourage partnerships and voluntary measures in an open international system.

P. Gargini氏(Intel)

I think the problem we are trying to solve is much more difficult than the problem we faced in the late 1940s when Shockley, Bardeen and Brattain discovered the transistor, because already in the 1920s there were many publications pointing in that direction. And our economies depend critically on the basic capabilities provided by integrated circuits. It’s important to produce more functionality, at lower cost, to be able to make the next invention. But people, for the last 40 years, have benefited from the commercialization of an invention that is decades old. All the people that came to work in the industry, in the last twenty years, knew only about these devices.

In the last several years, it was important to gather together many people of different disciplines -- physics, chemistry, computer science and so on -- to have enough critical mass to deal with the next problem. In the next approach, we will have to come very close to utilizing a material's properties as the basic components of new integrated circuits, which will be essentially “integrated material properties.” I think we already have enough ideas. We will be busy the next five years trying to make new devices. The last decade was like going back to school -- refresh our memories and study items that we have not really studied in the previous 20 years. But we have done that. Now we are ready to go to the lab and try what we have learned. I feel the goal for the next five years is to do experiments aimed at applying all the basic principles we have learned or learned again. I hope to have two or three promising devices within five years.

At IPWGN (INC4 working group), we did a gap analysis of nanotechnology, which I believe is the first time ever such an analysis was done in this area. One of the accomplishments of INC4 was that people discovered that there are big gaps. So what I hope to see happen in the next two years is that these gaps become filled. Only when we have filled these gaps, can we hope to accomplish our goal.

田中 一宜氏(産業技術総合研究所,科学技術振興機構)

 2000年以降,日米ともに半導体の売上高のシェアが下降を続けるなか台湾や韓国等のアジア勢が一人勝ちしています.しかし,この退潮傾向をどうするかについての対策が日,米,欧で全く違っており,そのことはBeyond CMOS研究にはっきり現れています.米国は,全土にわたる2020年を目指した大きなプロジェクト(NRI)を展開してそれをナノテクファシリティーにつなぎ,この分野に大学の若い人材を大量に引き込もうという戦略です.欧州は国が多く多様ななかで,EUREKA,MEDIA,CATRENE,ENIACなどの複雑に入り組んだ地域コンソーシアムや国際プロジェクトに力を注ぎ,どちらかというとMore Mooreにフォーカスしています.日本はというと,危機感は欧米と共有しているし,個々の研究にも強いものがたくさんあるのに肝心の戦略がない.2011年以降どうするのかという見通しがほとんどなく,非常に心配です.幸い今回のINC4には政策担当者も参加していたので,今後もそういう方たちに参加していただき,産官学で危機意識を共有して貰うことが重要でしょう.

(NIMS 井下 猛)

第4回ナノテクノロジー国際会議(INC4)報告 --- (2)発表内容

地域動向 -- 政府

 日本からは,大江田 憲司氏(内閣府)が,科学技術基本計画とその実施状況を説明したのち,光触媒,カーボンナノチューブキャパシタなどの成果を紹介した.環境問題に取り組む日本の姿勢を強調する内容であった.米国からは,M.C. Roco氏(NSF/NNI)がNNIの最新動向について詳しく解説したのち,2008年以降,研究開発は要素デバイスからシステムに移行し,国際連携ではオープンアクセス,多様なセクター間の対話,グローバルなガバナンス等が重要になると述べた.「ナノテク・ガバナンス」という表現が講演中に度々繰り返され,今後のNNIの方向を示すキーワードとなりそうだ.欧州からはD. Beernaert氏(EC-DG INFSO)がFP7を中心にEUのナノテク政策を概観した.特にナノエレクトロニクス分野の最近の重要な動きとしてAENEAS,ENIAC JTI,CATRENEクラスター等のプロジェクトを紹介した.

地域動向 -- 産業

 日本からは渡辺久恒氏(SELETE)が,MIRAI,CRESTを始めとする政府系ナノエレクトロニクス・プロジェクトの動向と成果,さらに企業の注目すべき研究成果を多数紹介した.グラフェン研究では若干遅れをとった日本だが,グラフェン・オン・シリコン(CREST)などの研究が始まっているという.ナノエレクトロニクス市場の拡大のためにはヘルスケア,グリーンITなどの新しい応用の開拓が重要,と語った.米国からはP. Gargini氏(Intel)が米国産業のナノテクイニシアチブをテーマに講演し,SEMATECH(45-32nm),GRC(32-22nm),Focus Centers(22-16nm),NRI(11-6nm)というピラミッド型の研究システムと,各イニシアチブの特徴を説明した.欧州からは,L. Bosson氏(STMicroelectronics)が1980年代のEUREKAから始まってMEDEA,MEDEAS+,ENIACを経て2007年設立のENIAC JTI,CATRENE,AENEASに至る産官連携プロジェクトを紹介し,こうした地域連携やアナログシステムに強いことを欧州の特徴として挙げた.

基調講演

 基調講演では,安藤恒也氏(東工大)が,単層および多層グラフェン中の電子の特異な電子構造およびそれに由来する興味深い物性と応用(半整数量子ホール効果,電子の後方散乱の欠如,電子に対する負の屈折率を利用した完全レンズなど)を解説した.日本は,数十年以前からこうした2次元カーボンの研究に強く,グラファイトやグラファイト層間化合物の研究で世界をリードしてきた.安藤氏の仕事もこの流れにつながるものである.

More Moore

 高木信一氏(東大)は,ナノCMOSを実現するためには,キャリアの輸送特性をさらに高めることが必要と述べ,その実現を目指す研究の例として,歪みSi/SiGe CMOS,Ge/Ge-on-insulatorデバイス/基板技術,III-VチャネルMOSFETを紹介した.米国のT. Theis氏(IBM)はFETの将来について講演し,挑戦的な研究を行うことによりFETロジックをさらに十年延命させられると語った.究極のFETとして極短チャネルデバイス(ナノワイヤーMOSFETなど)と極低電圧デバイス(CNT FETなど)を挙げた.グラフェンの可能性にも言及して,2層グラフェンでは電流ノイズが大幅に抑制されるという注目すべき結果を示した.欧州からはG. Baccarini氏が,ロジック応用を目指したグラフェンナノリボン(GNR)FETについて発表した.グラフェンの特長が銅を凌ぐ電流密度と大きな室温易動度にあるとし,GNR FETの製作例とその特性を議論した.さらに,グラフェン研究プロジェクトGRAND(FP7)を紹介した.なおこのセッションには,韓国のJ-W Lee氏(国家テラレベルナノデバイスプログラム)と台湾のM-K. Wu氏(中央研究院)が招待され,それぞれの国のナノテクの現状について報告した.

Beyond CMOS

 日本からは,酸化物系強相関物理の第一人者である十倉好紀氏(東大)が,こうした系を用いたエレクトロニクスでは,状態変数として電荷のほか,スピン,軌道,トロイダルモーメント,電荷-スピン-軌道結合変数などの多彩な可能性があることを指摘し,交差相関現象を発現させることにより高密度,高速,低消費電力のデバイスが期待できると述べた.例として,磁気抵抗や電場誘起抵抗を利用したメモリー/ロジックデバイスを紹介した.米国からは,J. Welser氏(SRC)がBeyond CMOS研究にフォーカスしたイニシアチブNRIの詳細を発表した(内容は(1)で紹介済み).NRIは,企業から中央研究所が消えた今日,どうやって目的基礎研究を進めればよいか,という問いに対するひとつの答でもあり,今後の行方が注目される.欧州からは,M.S. Brandt氏(ミュンヘン工大)が,シリコン中のドナーの核スピンを量子ビットとする量子計算について,現状を紹介した.シナリオとしてはKaneの1998年の提案をいかに実現するかという話だが,界面状態を利用してスピン-電荷相互変換を行うなどの新しいアイディアと最近のホットな実験結果が盛り込まれていた.

Bridge to Bio

 日本からは石田誠氏(豊橋技科大)が,センサーとICを備えたシリコンマイクロチップについて講演した.パターン基板上にシリコンのマイクロプローブ・アレーを成長してニューロンの応答を調べた研究,CMOS技術を使ったリアルタイムpHイメージング用スマートマイクロチップなどを紹介し,3次元プローブにも触れた.米国からはJ. Kasianowicz氏(NIST)が,ヘルスケア応用のためのナノバイオ技術,特にナノ空孔をもちいた生体分子検出法について発表した.DNA,RNA等の分子がナノ空孔に入るとコンダクタンスが変化することを利用した分子センサーとその作成法について詳述し,将来的には先端にナノ空孔を備えたピペットを細胞中に挿入して中で起きていることを観察したい,という夢を語った.欧州からはP. Andreucci 氏(CEA-LETI)が,NEMSを用いた高感度質量測定法とバイオ応用のための大規模集積化について発表し,カンチレバーによる分子検出・認識がバクテリア等のセンシングに有望な技術であると語った.

Bridge to MEMS

 日本からは,オープンイノベーションと施設の共有化を通じて応用に密着したMEMS/NEMS研究を精力的に進める江刺 正喜氏(東北大)が,その多彩な成果を発表した.米国からはV. Rao氏(Intel)が,カンチレバーをもちいたMEMSの研究開発におけるスケーリングの有効性を説明した後,スケーラブルなデバイスとノンスケーラブルなデバイスの融合が新たな応用につながると語った.欧州からは,J. Brugger氏(EPFL)が,MEMSではシリコン以外の材料への要求が高まっていること,リソグラフィーがますます高価になっていることを述べた後,FP6のNaPaプログラムで行われたMEMSナノパターニング研究の中から,走査型のナノ液体ディスペンサーとステンシル・リソグラフィーを紹介した.

Bridge to Photonics

 日本からは,萩原 光彦氏(沖デジタルイメージング)が,エピフィルム・ボンディング法によるIII-V半導体とシリコンの融合と,これを用いたシリコンフォトニクスについて発表した.分子間引力だけによって薄膜を基板と結合させるこの技術は,基板表面に凹凸があっても有効だという.その応用として,ドライバーICとLEDアレーをGaAs基板上に高密度に3次元集積したプリントヘッドを紹介した.米国からはD. Deppe氏 (UCF/CREOL)が,III-V半導体を用いたマイクロキャビティーVCSELレーザーの集積化と,その高速光配線への応用について発表した.VCSELの微細化による量子ドット・マイクロキャビティー構造とそれによる単一光子発生が将来の量子情報処理に有効であると語った.欧州からは,C.M. Sotomayor Torres 氏(Catalan Inst. Nanotech.)が,EUのナノ/分子フォトニクス・コンソーシアムであるPhOREMOSTの活動を紹介した.成果例として,ナノインプリンティングで形成した種々のナノフォトニック構造を取り上げ,フォトニック結晶や表面プラズモンを利用した光取り出しの高効率化,フォトニック結晶レーザー,アモルファスシリコンのナノピラーアレーを使った偏光ビームスプリッターなどを紹介した.

Nanotechnology for Energy

 日本からは,宮田 清蔵氏(東京農工大)が高分子電解質形燃料電池を取り上げ,経産省などの研究開発プロジェクトを概観したのち,成果としてナノカプセル(逆ミセル)によってカーボン中に均一組成のPt-Mナノ粒子を単分散させた研究,水クラスターの形成を抑止して耐久性を改善した新しい炭化水素膜の開発などを紹介した.米国のH. Atwater氏(Caltech)はナノテクの太陽電池応用について報告した.太陽電池の大規模実用化の夜明けが近いこと,ただし従来型のシリコン太陽電池は効率とコストの面でまだ問題があると論じた.次に,有望な代替技術として,マルチジャンクション太陽電池(広範囲の光波長をカバーすることにより効率>50%が可能),ナノワイヤー太陽電池(スケーラブルで大面積化が期待される),プラズモニクス太陽電池(導波路構造により材料の使用を節約)を紹介した.欧州からの発表はキャンセルとなった.

社会的影響と教育

 日本からは,浅野 種正氏(九大)が九州のナノテククラスターを紹介した.古くから半導体と自動車産業が盛んで他のアジア諸国にも近いという九州の利点が,近年になって産業クラスターの隆盛につながったことを指摘し,クラスターが教育面でも成果を挙げていると語った.米国のM. Lundstrom氏(パデュー大)はナノテク教育の問題を取り上げ,バルクの固体物理をもとにしてナノエレクトロニクスを教えようとする「トップダウン」アプローチに疑問を投げかけた.これとは逆に分子スケールから出発する「ボトムアップ」アプローチの利点を強調し,このアプローチは教育的に妥当で、学生に新しい見方を与えるとともに想像力を刺激すると語った.氏らがこの考えに沿って制作した教育プログラムはホームページ(http://www.nanoHUB.org)上で公開され,世界中の教師,学生が利用しているという.こうしたオープンな姿勢は日本が大いに学ぶべきであろう.欧州からは,N. Deliyanakis氏(EU)が,FP7を中心にEUのナノテク政策を俯瞰し,マリーキュリープログラム,社会受容や規制,国際連携にも言及した.

 講演に続いてパネル討論に移り,柴田 直氏(東大)をファシリテーターとして,河村 誠一郎氏(SELETE),知京 豊裕氏(物質・材料研究機構),G. Baccarani氏,M. Roco氏,M. Lundstrom氏,N. Deliyanakis氏が,科学技術人材の育成についてそれぞれの立場から議論した.国際的流動性の確保,ナノテク教育の早期開始の是非,分野融合的人材の育成,教育と研究の融合などが問題になった.会場からは,「旧来の半導体技術に慣れ親しんだ大多数の技術者を,ナノテクの革新的な考え方に適応させるための教育こそ重要」などのコメントがあった.

(NIMS 井下 猛)