NanotechJapan Bulletin

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Vol. 1, No. 4, 2008年4月28日発行/進展著しい二層カーボンナノチューブ

NanotechJapan Bulletin Vol.1, No.4, 2008 発行

進展著しい二層カーボンナノチューブ --- 名古屋大学大学院 篠原 久典教授に聞く

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 ナノテクノロジーの代表的な物質・材料であるカーボンナノチューブ.中でも,今注目を集めているのが二層カーボンナノチューブだ.大量合成が可能になったことで応用が進むと同時に,基礎研究でも興味深い成果が報告されている.二層カーボンナノチューブ研究の現状について,名古屋大学大学院の篠原 久典教授に聞いた.

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篠原 久典教授

二層カーボンナノチューブの大量合成に成功

 6~7年前まで,カーボンナノチューブ研究の中心は単層カーボンナノチューブ(SWCNT)だった.単層であれば伝導特性が理論的に予測でき,実験結果とのすりあわせが可能になるからだ.「ところが実際のSWCNTにはずいぶん欠陥があって,理論的に予想される性質が出ない場合が多い」と篠原氏.これに対し,二層カーボンナノチューブ(DWCNT)の内層は成長の過程で外層に守られているため,ほぼ完璧な構造を保っていると考えられ,近年,研究が盛んになっている. 2002年,篠原氏は東レと共同研究で,多孔質物質ゼオライトに触媒微粒子を担持して行う触媒化学気相成長法(CCVD)によりDWCNTの大量合成に成功した.多種多様なゼオライトの中でも,チタノシリケートやボロシリケートを用いると,高品質なDWCNTが高純度で合成できる.材料に分散させて使うならすでに実用レベルの品質に達しており,東レでは量産化を見据えた体制作りが進められている.


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左図: 高品質の2層カーボンナノチューブの模式図.右図: ボロシリケートCCVDで合成した高品質2層カーボンナノチューブ.


DWCNTの多様な応用展開

 大量合成が可能になったDWCNTの応用には,幾つかの方向がある.その1つが,ドラッグデリバリー等のバイオ関連だ.SWCNTでは水溶化のための化学修飾で表面構造が壊れ,ナノチューブとしての特性を失うことが難点だったが,DWCNTでは外層を修飾しても内層のCNT構造が保たれるため,バイオ関係者らの注目を集めている. フィールドエミッションディスプレイの開発でも,SWCNTの低い閾値電圧と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の耐久性を兼ね備えた材料として,DWCNTに期待がかかっている.高品質のDWCNTの電界電子放出の閾値電圧は100V以下,寿命はMWCNTの70%程度と実用化の域に入っている.ただし,DWCNTの径がばらつくと寿命にも幅が出るため,径の制御と更なるコストダウンが今後の課題だ. また,DWCNTの登場で,ナノチューブを用いた水素吸蔵への関心が再び高まっている.SWCNTの貯蔵率2%程度に対し,DWCNTでは4%前後の報告があり,実用化レベル.現在利用されているランタン系金属に比べ7分の1という軽さは魅力で,自動車メーカー各社でも研究が継続されている.

 一方,期待は大きいものの,実用化はしばらく先と考えられているのが,ナノエレクトロニクスへの展開だ.DWCNTを用いたトランジスタの増幅率と電流制御能力はシリコントランジスタの10倍.だが,DWCNTでは内層と外層,2つのチューブの伝導特性を独立かつ自在に制御することまではできていない.伝導特性を決めるカイラリティは,理論的には径で一意に決まるが,DWCNT合成時に触媒微粒子の径で制御できるのは外層の径のみだ.内層の径は外層の径に依存するため,「将来的には,外層の径を制御することによって所望の伝導特性をもった内層を作り出すことは可能だと思います」.現時点では富士通研究所が,電極に複数のチャネルを繋いだマルチブリッジチャネルにすることで,DWCNTを伝導特性で選別することなくトランジスタを開発することに成功している.


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上図: 2層カーボンナノチューブ・ピーポッドのFETの模式図.
下図: Gd金属内包フラーレン・ピーポッドの高温アニーリングにより,Gdナノワイヤー内包の2層カーボンナノチューブが創製される.


金属ナノワイヤーを内包するDWCNTを創出

 2007年1月,篠原氏のグループは,分子エレクトロニクス分野にも大きなインパクトを与えるであろう新たなDWCNTの合成に成功した.金属のナノワイヤーを内包したDWCNTだ.2001年,SWCNTの中にフラーレンが内包されたピーポッドを1000℃程度まで熱すると,フラーレンが融合して内層のナノチューブになることを坂東俊治氏(現名城大学教授)が発見している.「これはセンセーショナルでした.1000℃というのはバルク状態のフラーレンを反応させるには低すぎる温度なのに,それで触媒なしにお互いに反応してナノチューブができてしまう.つまりナノチューブの中は特別な空間で,色々な化学反応が起こせるだろうと予想されたのです」.

 金属内包フラーレンの研究でトップを走る篠原氏としては当然,金属内包フラーレンを入れたらどうなるかと考え,ガドリニウム(Gd)原子内包フラーレンを用いて実験を行った.「僕は,Gd原子は内層の表面にクラスター状に付くとイメージしていたんです.ところが,大学院生の今津君と助教の北浦君が実際に試したら,金属原子がすべて見事に整列していた」.金属ナノワイヤーの太さは,ピーポッドを形作るナノチューブの径によって変化する.Gd原子が1個ずつ数珠繋ぎに並ぶもの(1本鎖)から,複数列(複数鎖)で並ぶ直径3-4nm程度のものまでが確認されている.しかも,DWCNTに守られているため,金属ナノワイヤーは室温,大気中でも非常に安定だ. Gd原子を1つ内包したフラーレンを用いる場合,1本鎖の金属ナノワイヤーは,内層の内部空間の30%を占めるに留まる.現在,金属内包フラーレンは最大で3個の金属原子を内包する.これを用いれば,内層のほぼ端から端まで金属ナノワイヤーを通すことができると予想されるが,まだ実験的に確認されてはいない.一方で篠原氏は,別の方法でエルビウムの化合物を用いてナノチューブの端から端までナノワイヤーを入れることにも成功している.


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2層カーボンナノチューブ中に合成された4本鎖のGdナノワイヤーの(a)電子顕微鏡像と,(b)その模式図.

期待される特異な特性

 1本鎖のワイヤー中のGd原子間距離は0.43nmと,バルクの0.36nmよりも広い.更に電子顕微鏡像から,1本鎖および4本鎖の金属ナノワイヤーは,DWCNT内で螺旋を巻いていると予想される.金属内包フラーレンでは,金属原子・フラーレン間で電荷移動が起こるが,同様のことが金属ナノワイヤーとナノチューブ間でも起こり,帯電したGd原子同士のクーロン斥力が広い原子間距離を,Gd原子・ナノチューブ間のクーロン引力が螺旋構造をもたらしているのではないかと篠原氏は考えている. 金属ナノワイヤーの伝導特性・磁気特性は現在測定中で,その結果が待たれる.

 それに加え篠原氏は,高濃度に電子をドープしたDWCNTの伝導特性にも注目している.すでに,空であれば半導体であるSWCNTでピーポッドを作り,金属ナノワイヤー入りのDWCNTを合成したところ,室温で金属になることが明らかになった.「これを低温に持って行けば,超伝導などの面白い現象が出てくるのではないかと期待しています」.

 篠原氏の報告を受けて,世界の研究者が金属ナノワイヤーの実験にしのぎを削っている.「この1本鎖の金属ナノワイヤーは,人類が作った一番細い金属ワイヤーだと思います.現在,約30種類の金属をフラーレンに内包することができます.ということは,原理的には30種類のナノワイヤーを作ることができるわけです.これはナノサイエンス・ナノテクノロジーの最もチャレンジングな研究テーマになると思います」と篠原氏は期待を寄せる.

参考文献

[1] 篠原久典,『ナノカーボンの科学-セレンディピティーから始まった大発見の物語-』
  (講談社ブルーバックス 2007年)
[2] 篠原久典(編),『ナノカーボンの新展開-世界に挑む日本の先端技術-』
  (化学同人 2005年)
[3] 齋藤理一郎,篠原久典(共編),『カーボンナノチューブの基礎と応用』
   (培風館 2004年)
[4] 篠原久典(編),『ナノカーボン材料開発の新局面-加速する本格実用化-』
   (シーエムシー出版 2003年)
[5] 篠原久典,齋藤弥八(共著),『フラーレンの化学と物理』
   (名古屋大学出版会 1997年)