NanotechJapan Bulletin

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Vol. 1, No. 5, 2008年6月28日発行/“Japan’s Nanotechnology”シンポジウム(INC4初日)報告

NanotechJapan Bulletin Vol.1, No.5, 2008 発行

“Japan’s Nanotechnology”シンポジウム(INC4初日)報告 --- 元NANONET 小澤 英一

 第4回ナノテクノロジー国際会議(4月15日~17日)の本会議の模様はすでに前号のBulletinで紹介した.本稿では,本会議に先立って14日に開かれた“Japan's Nanotechnology”(通称“Japan Day”)の模様を報告する.このイベントは,日本のナノテクの精華を紹介するもので,豪華な講演者が顔をそろえた.また,ポスター発表も50件が行われ,そのうち6件が優秀発表として表彰された.この日は参加費が無料ということもあって,約250名の参加者が集まった.
 会議では,ナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI)の佐々木 元氏(日本電気)の挨拶に続いて,奥村 直樹氏(総合科学技術会議)が日本の科学技術政策とナノテク政策をレビューした.わが国のナノテク予算の推移,重要ナノテク分野・プログラム件数と選択理由,さらに研究開発の達成状況の尺度として日米欧から出願された特許数の比較を示すとともに,製品化された事例などを詳細に報告した.ついで飯島 澄男氏(名城大)および平尾 一之氏(京大)が基調講演を行い,午後には独立研究法人から3名,大学から2名,企業から6名,合計11名の第一線研究者による講演が行われた.

基調講演

 飯島氏は,「カーボンナノチューブとナノテクノロジー」のタイトルで,カーボンナノチューブ(CNT)の発見と高分解能電子顕微鏡(HRTEM)による観察結果,単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の合成,さらに産業応用について順次発表した.講演の冒頭,飯島氏は,ナノチューブの観察が実は1952年のロシアの文献に記載されていること,単に観察したことが重要なのではなく,生成のメカニズムや電子線回折などの構造解析を通じてサイエンスとして取り組むことが重要であることを強調した.次いで,ナノチューブの欠陥を利用したナノチューブ同士の接合や触媒の作用,ピーポッド(異原子内包ナノチューブ)中の金属原子の位置の解析結果などについて示した.またSWCNTの大量生産,連続CVD法によるナノチューブシートの製造,そのMEMSへの応用,半導体デバイスにおけるレイヤー間接合や燃料電池への応用など産業化の例を報告し,それが如何に難しいかを強調した.

 平尾氏は,「フェムト秒レーザによるナノアーキテクチャ」と題した講演で,フェムト秒レーザが極めてエネルギー密度の高いレーザであり,これを用いるとガラス中に3次元構造を実現したり,10nmまでの加工を行うことができると述べた.またボトムアップ加工とトップダウン加工を併用したナノ構造作成の可能性にも言及した.さらに,光ファイバー構造の作成,希土類金属を用いた光メモリーの作成,ホログラムを利用した光回路の短時間・低コスト描画,マイクロレンズ作成,フォトニックガラス作成などのフェムト秒レーザの応用例を次々と示した.レーザによる微細加工は回折のため加工寸法に限界があるが,レーザ光とプラズモンの干渉を利用すればこの限界を超えることが可能であることも示した.

一般講演

 一般講演としては,産官学の研究開発成果が3つのセッションにわたって発表された.

「応用研究開発(1)」

 物質・材料研究機構(NIMS)の知京 豊裕氏と産業技術総合研究所(AIST)の横山 浩氏による2件の講演があった.
知京氏は,NIMSの概要とその研究開発戦略,研究活動の実際を紹介した.特に研究開発ではナノテク,IT,バイオ,光触媒,環境・エネルギーの5分野に重点を置いているとし,high-k材料の実現やシリコン上の導波回路の形成,DNAシーケンサーの作製など多くの成果を取り上げた.

 一方横山氏は,「ナノデバイスとナノ製造のためのソフトマター,自己組織化,オンデマンドプロセス」と題して,ナノ物質からスタートして自己組織化を利用しながら多くの機能を付与しつつ,大きなシステムを構築していくアプローチが豊かな可能性を秘めていると語った.

「応用研究開発(2)」

 3件の講演があった.宝野 和博氏(NIMS)は,「ナノ構造金属材料」と題して,電界イオン顕微鏡(FIM)を用いた3次元原子プローブによる金属ナノ構造の立体的可視化について発表した.この方法によって,従来の透過型電子顕微鏡(TEM)による2次元観察では限界があった,物質内部の構造変化に起因する特性の変化を詳細に知ることが可能になったとし,その例としてNEDOのハイブリットプロジェクトにおける磁性体研究などを紹介した.

 細野 秀雄氏(東工大)は,「組み込みナノ構造と酸化物の電気活性機能」のタイトルで,酸化物が他の物質に比べて極めて安定で,しかも多様な構造と特性を示すと述べ,新機能が期待できる物質の例として,ナノポーラスかつ層状構造を持った低次元結晶を取り上げて,その研究成果を熱く語った.ナノポーラスなセメントである12CaO・7Al2O3結晶については,それが透明導電体から金属,超伝導体へと変化しうる様子を詳しく紹介した.細野氏の研究スタイルの特徴は,様々な構造のもつ本来的な機能を探り出し,その中から有用な性質をもった構造を選び出すことによって新たな材料を創出することである.これは,周期律表の深い理解があって初めて可能なことであろう.

 川崎 雅司氏(東北大)は,「酸化物の量子界面」のタイトルで,パルスレーザ堆積法で作製した各種の酸化膜-酸化膜界面の研究について紹介した.ZnO/MgZn界面における量子ホール効果の観測に続いて,SrTiO3基板上にPtゲート電極を配した構造では,電場によるイオンの移動によって,絶縁体から金属,さらに超伝導への変化が生じることを報告した.またセラミック基板上にポリマーをスピンコートした構造でも,ポリマーをもちいた電界効果デバイスを実現する可能性を示した.

「応用研究開発(3)」

 産業界から6名の研究者が登壇し,ナノテクの事業化について報告した.
 笹本 太氏(東レ)は,「東レのナノテク先端材料の研究開発」と題した講演で,東レの研究開発の歴史と東レにおけるナノテクの位置づけを述べた後,繊維,フィルム,樹脂におけるナノテクの役割について製法,効果,製品を念頭におきつつ紹介した.たとえばナノファイバーについては,ふき取り性や洗浄液の分散性の向上,スポーツ衣料に適していることなどを解説した.フィルムではPETの表面ラフネスの制御によって磁気テープの走行性の向上が期待できること,多層膜では金属色の発生,低電磁波透過特性などの有用な性質が現れることを紹介した.さらに,有望素材分野を挙げた.
 佐伯 義光氏(TOTO)は「光触媒の研究開発と事業展開」について講演した.光触媒の原理,実用技術,製品開発について述べたのち,光触媒工業会の活動について報告した.光触媒の実用化では,微弱な光信号に対する有効性,評価法の確立と生産技術,特に装置の開発が重要であると述べ,具体的には原料の選択,コーティング法の開発,熱処理条件の最適化などが急務であるとした.実用技術の例としては,建物の外装,車のサイドミラー,さらにドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用等について,原料から,応用,施工までを論じた.

 田中 裕久氏(ダイハツ工業),は「ナノ粒子の自己形成とインテリジェント触媒」というタイトルで,自動車用触媒とその問題点を発表した.具体的には,インテリジェント触媒の設計,自己再生機能の解明,Pdの移動のその場観察,Rh-Ptインテリジェント触媒などについて紹介した.自動車では触媒がエンジン付近にあり,そのため加熱されやすいので耐久性が問題だが,ペロブスカイト構造にPdを均一分散した構造を使えばPd粒子の凝集による機能劣化を回避できるということであった.

 韓 礼元氏(シャープ)は,「色素増感型太陽電池」について発表した.シャープにおける長い開発の歴史に言及したのち,シャープの現在の世界シェアを示し,太陽電池の種類と色素増感型のメリット(低コスト,機械的柔軟性,色彩の美しさ等)について解説した.さらに,電流の増加や損失などを単一セルの問題点として挙げ,それらはモジュール化を通じた高効率化で解決できる,という見通しを語った.

 菅原 充氏(QDレーザ)は,「量子ドットレーザ」の演題で,自らが率いるベンチャー企業(富士通と東大との連携から生まれたスピンオフ)における量子ドットレーザの開発状況について発表した.自己形成量子ドットをレーザや光増幅器として用いる際にドットサイズ・形状を制御することが重要であると語り,積層ドット構造により光増幅器の偏波依存性を大幅に低減した成果などの例を紹介した.QDレーザ社の事業が軌道に乗るまでにはまだ時間がかかりそうだが,かつてHEMTの提案,基礎研究から事業化までを自社でやり遂げた富士通から生まれたナノテクビジネスとして注目される.

 大場 竜二氏(東芝)は,「NAND型ラッシュメモリ」について講演した.東芝のフラッシュメモリに関するロードマップを示したのち,その達成にはメモリー構造の改善とメモリーのさらなるスケーリング(微細化)が重要であると語った.そのためには量子ドット(Siナノ粒子)をトンネル絶縁膜(SiO2)に埋め込むことが有効であるとして,具体的な構造を説明した.ゲート長15nmのデバイスについて,TEMによるデバイス近傍の成膜状態などの観察結果を論じた後,15nmメモリーの特性について紹介し,デバイスを微細化していくとオン-オフ特性が劣化していくが,15nmレベルまでは実用上特に問題がない,と語った.

 全体として,日本のナノテクの代表的成果というのにふさわしい充実した会議であったが,さらにナノ計測の話も聞きたかったというのが筆者の感想である.また,ナノテクを肯定的にとらえた発表が大半であったのは“Japan Day”の趣旨からいって当然であろうが,その中で飯島氏が実用化の難しさに触れていたことが印象的だった.