NanotechJapan Bulletin

 メニュー

Vol. 1, No. 7, 2008年10月31日発行/ナノメカニックおよび関連する計測・評価技術に関する日米若手科学者シンポジウム

NanotechJapan Bulletin Vol.1, No.7, 2008 発行

レポート
「ナノメカニックおよび関連する計測・評価技術に関する日米若手科学者シンポジウム」

 日米ナノテクノロジー合同会議が2008年10月8日独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)で開催された.この1日の会議は米国チームが東京大学(10月6日),AIST(つくば,10月7日),NIMS(10月8日),京都大学(10月10日),大阪大学(10月11日)を含む日本の数研究機関への1週間にわたる視察の一環として開かれた.文部科学省(MEXT)および米国国立科学財団(NSF)が主催したものであり,日米交換プログラムの一部である.本プログラムの一部として2008年3月2日から16日まで堀池靖浩氏(NIMS)を団長とする日本チームが先に米国の7大学を視察している.視察時にノースウェスタン大学で会議が1日開かれ,4分科会,すなわちナノスケール素子,ハイブリッドナノ材料,ナノ生物医学材料・装置,ナノツール分科会で16の発表が行われた.

会議概要

j1-7-29.jpg

Yutaka Shimooka, Kazuko Shinohara, Yasuhiro Horiike, Teri Odom


 会議は下岡 豊氏(文部省ナノテクノロジー・材料開発推進室副室長)並びに篠原 加寿子氏(NSF東京事務所科学アシスタント)の開会の挨拶で開始された.次に,日米各チームのリーダーである堀池 靖浩氏(NIMSフェロー)とTeri Odom氏(ノースウェスタン大学)によるチームメンバ-の紹介が行われた.

 紹介に続いて11件各20分の発表が3分科会に分けて行われた.注目すべきことに,参加者の若い年齢にもかかわらず(ほとんどの参加者は2000年から2007年の間にPhDを取得),彼らのほとんどが教授ないし準教授職にあり,自身の研究グループを率いている.ほとんどの発表で,過去数年間にグループが得た成果のまとめが報告され,各分科会の後には円卓形式の討論が行われた.更に,休憩時間,昼食・夕食時に大いに情報交換が進んだ.発表は全てナノサイエンスをテーマとしており,過半数(11件中6件)はバイオロジー応用に中心を置いた内容であった.バイオロジー関連の発表では技術的成果の報告はほとんど無く,むしろ以前開発されたナノ(超微細構造)技術からの借用だった.しかし,主要疾患(AIDS,癌,肥満等)の治療など生命への技術応用の取り組みは注目に値するものであった.発表のレベルはかなり高度であり,主要国際会議に相当した.7件の発表は米国が,4件は日本が行った.日本側演者は重要な技術的進歩について報告するとともに自らの発表経験から多くを学ぶことが出来た.

 堀池 靖浩氏が発表の総括を行った.氏は,会議は米国側参加者より経験が浅く会議から大いに学ぶことができる日本チームに特に有益であると述べ,実施された合同会議の重要性を強調し,この交換プログラムの継続を主催者に要請した.

発表要約

第一分科会-新画像技術 座長 Teri Odom氏

 Lincoln Lauhon氏(ノースウェスタン大学)による最初の発表はプログラムのタイムリミット寸前での差し替えであったが,二つの画像技術を紹介した.即ち,局所電極原子プローブトモグラフィ(LEAP)および走査型光電流顕微鏡(SPCM)である.両技術はよく知られており,月並みであると見なされている.しかし,Lauhon氏はどのような技術でも巧みな研究戦略と組み合わせた場合,重要なデータが得られること実証した.特に,半導体ナノワイヤーのLEAP画像は3次元単一原子分解能をもたらした.しかし,この手法は破壊的観察手法であるために画像から得られる情報は比較的小さい.一方,ナノワイヤーのSPCM画像は~0.5ミクロンの分解能しかなかったが,ワイヤーのエッチング前後に得た画像を比較することで,対象としたナノワイヤーのナノメータ薄層表面は高濃度に不純物によってドープされており,しかもドーピングはワイヤーの基部から先端まで濃度傾斜があることを実証した.

 隅谷 和嗣氏(佐賀県北九州シンクロトロン光研究センター,日本)による次の発表はX線源としてシンクロトロンを用いた新規の先端X線画像技術を紹介した.特に,X線ホログラフィは空間分解能0.1Åに達し,シリコン上のゲルマニウム単原子の3次元画像化を可能にした.

 3番目の発表はVinothan Manoharan氏(ハーバード大学)によるもので,優れてはいるが古典的とされる画像技術も巧みに用いさえすれば手のこんだ新型の顕微観察法より優れた性能を示すことができることを再度示した.氏のグループは入射および回折レーザー光間の干渉により散乱物体の3次形状再構成が可能になる標準レーザー回析スキームを活用している.一般にこの手法の空間分解能はレーザー光波長によって制限され,数百ナノメータ程度と考えられている.しかし,氏は,回析パターンを超高速CCD(~500fs)で撮像し強力コンピューターで解析すれば,容易に10ナノメータ解像度が達成可能であることを明らかにした.ただし,この分解能は研究対象の粒子の絶対位置に対するものではなく,粒子の相対位置の変化に対して得られる.粒子位置の変化はレーザー光回析変動として検出でき,生体細胞内の粒子の迷動(migration)やブラウン運動などの重要な生体現象の時間分解研究が可能になる.この技術には下記の利点がある.

  • システム全体がレーザー,CCDカメラ,コンピューターのみから構成されるので,安価,簡便,小型であり,手製で実質上どのような実験にも組み込み可能である.さらに,パルスレーザーを用いれば,S/N比の改善,照射損傷の低減ができ,繊細な生体の研究が可能になる.
  • 計測速度が速い - 生物学で三次元画像化に日常的に使われている従来の共焦点顕微法より一千倍速い.
  • この技術の不利な点は計算量が大規模であることである - 最新のコンピューターでさえ単一画像フレームを処理するのに~100秒を要する.

第二分科会 - ハイブリッドナノ材料 座長 Linda Peteanu氏.

 分科会は東 康男氏(大阪大学)から開始された.東氏は2007年に東京工業大学でPhDを取得した若手科学者である.同氏の研究は,対象材料から走査トンネル顕微鏡(STM)探針への低温における単一電子トンネル現象(クーロンブロッケイド現象)をテーマとしている.氏はこの現象に伴う非常に困難な実験上の問題,即ち単一電子トンネル電流が弱いことによる低S/N比の問題,の解決に成功した.一定の固有振動数を有する水晶振動子の上に試料を作製し,それによってトンネル電流を増大させた.更に,新現象である振動数依存性電子トンネル現象の特性を明らかにした.

 二番目にAndrew Lyon氏(ジョージア工科大学)が発表を行い,人体内の特定細胞への選択的薬剤投与を目指したペプチドで修飾されたヒドロゲルの設計,という全く異なる分野の研究について述べた.Andrew氏は元化学者であるが,癌の中でそれほど知られていないにもかかわらず乳癌に続いて二番目に一般的な婦人科悪性腫瘍である卵巣癌の治療と関連した研究の重要性を認識した後,生物学に移った.卵巣癌は発見を逃れることが多いため治療が困難であることはよく知られており,さらに,卵巣癌細胞は一般的な薬剤にかなり耐性を示す.そのために,この疾患に対して選択的薬剤投与が特に重要である.

 三番目の発表は秋山 琴音氏(東北大学)が行った.氏はやはり2007年にPhDを取得した若手科学者である.発表は異なる3テーマに亘っていた.それらは(i) STM探針の制作,(ii) 放射光STM ,(iii) AFMリソグラフィーである. 最初に高品質タングステンSTM探針の制作手順が説明された.タングステンワイヤーを市販のSiカンチレバー上に接着し,切断したのち集束イオンビームを使って研削することにより良質のSTM探針が作成できる(先端角~22度,曲率~3nm,STMエネルギー分解能 <3meV(室温)).二番目にコンタクトモードSTM探針,放射光励起を用いた光伝導特性測定について簡略に取り上げ,最後は原子間力顕微鏡(AFM)を用いた金属ナノドットの堆積に焦点をあてた発表が行われた.}; &size(16){ 最後の発表はHeather Maynard氏(カリフォルニア大学)によるもので,標準的な電子線リソグラフィー装置を用い,物理を生物の分野に直接的に応用する成功例を示した.事前に設計したパターンで活性部位のマトリクスを作成し,次に単一タンパク分子をそれらの部位に付着させることにより整列したタンパク質の機能アレイが作成される.これはさまざまな生物学的課題に応用可能である.

第三分科会 - ナノ生体材料およびデバイス 司会 堂野主税氏.

 最初の演者はJongyoon(“Jay”)Han氏(マサチューセッツ工科大学)で,ナノテクノロジーによってその生物学的応用がどのような利益を受けるかを再度明らかにした.氏は特定の直径のナノチャネルを作成する効率的な手法を開発し,それを生体分子や体液輸送用のフィルターとして応用した.彼の手法の重要な点は,ナノチャネルに電界を印加し,電気二重層により流量制御を可能にしたことである.

 Christina Smolke氏(カリフォルニア工科大学)による発表は「バイオ・コンピューター」の設計が中心であった.特に生体分子を用いた論理演算(AND,OR 等)が適切なRNA断片を選択することで実施できることを示した.バイオ「コンピューター」は,スピードは従来の半導体プロセッサーよりはるかに遅いものの,生体細胞内のバイオ対象物を直接操作できることを示した.

 菅野 公二氏(京都大学)は,特定の直径(数十ナノメータ領域),相対的距離を有する金ナノドットの大型アレイを,リソグラフィーをベースにして,効率的に制作する手法を開発した.個々のナノドットはプラズモンデバイスとして利用可能であり,例えば,表面プラズモン共鳴により単一生体分子を検出できる.

 最後の演者であるChristopher Love氏(マサチューセッツ工科大学)はAIDS,糖尿病に伴う生体免疫問題に中心を置いて発表した.ここでもマイクロ流体システムや蛍光画像法のような標準的物理ツールが生体細胞内のさまざまなプロセスの時系列展開の研究に役立っている.

(本文および写真 物質・材料研究機構 Kostya Iakoubovskii)

参考文献

文部科学省(MEXT)
アメリカ国立科学財団
堀池 靖浩氏(物質・材料研究機構)
Teri Odom氏(ノースウェスタン大学)
Lincoln Lauhon氏(ノースウェスタン大学)
隅谷 和嗣(佐賀県北九州シンクロトロン光研究センター)
Vinothan Monoharan氏(ハーバード大学)
Linda Peteanu氏(カーネギーメロン大学)
東 康男氏(大阪大学)
Andrew Lyon氏(ジョージア工科大学)
Heather Maynard氏(カリフオルニア大学)
Jongyoon Han氏(マサチューセッツ工科大学)
Chiristina Smolke氏(カリフォルニア工科大学)
菅野 公二氏(京都大学)
Chiristopher Love氏(マサチューセッツ工科大学)