NanotechJapan Bulletin

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Vol. 1, No. 7, 2008年10月31日発行/米国学部学生,NIMSでの研究体験を語る

NanotechJapan Bulletin Vol.1, No.7, 2008 発行

レポート「米国学部学生,NIMSでの研究体験を語る」 

 米国国立科学財団(National Science Foundation, NSF)傘下のナノテクノロジー支援ネットワーク(U.S. National Nanotechnolgy Infrastructure Network, NNIN)から資金提供されたNNIN-NIMS研修計画に今夏米国の5人の学部学生が参加した.
 この計画は,学部学生のための研究体験(Research Experience for Undergraduates, REU)と名付けられ,学部学生が各研究所で優れた科学者の助言を受けながら,最新の装置に触れ,10週間の体験を積むという機会を与えるために12年前に開始されたものである.
 今回初めてREUにより米国外に学生が送られることになり,その受け入れに関し,NIMSはNNINとの事前合意に基づき中心的な役割を果たしている.この計画への参加のための競争率は高く,毎年400人の応募者からおおよそ70人が選ばれ,米国の主要な研究所に送り出されてきた.昨年までは,受け入れ研究所は米国内に限られていた.今年,NSFはREU経験学生のための継続計画を新たに立ち上げ,翌年度計画に参加した15人の学生の内,5人がNIMS各研究室で研修を行った.
j1-7-28.jpg  From left to right: Alex Luce, Courtney Bergstein, Brian Lambson, Brian McSkimming and Ryan Harrison.

 今回初めてREUにより米国外に学生が送られることになり,その受け入れに関し,NIMSはNNINとの事前合意に基づき中心的な役割を果たしている.この計画への参加のための競争率は高く,毎年400人の応募者からおおよそ70人が選ばれ,米国の主要な研究所に送り出されてきた.昨年までは,受け入れ研究所は米国内に限られていた.今年,NSFはREU経験学生のための継続計画を新たに立ち上げ,翌年度計画に参加した15人の学生の内,5人がNIMS各研究室で研修を行った.

彼らの滞在期間終了4日前の8月6日,NIMS滞在の感想をお話しいただいた.

5人の研修テーマ

Courtney Bergstein, a student at Carlow University, in Pittsburgh, Pennsylvania.
 ZnOのLEDへの応用を期待した研究に学び,ZnOの合成,ZnOへのMgOの固溶限界を見いだす実験等の試みた.
Alex Luce, from the University of Arizona.
 物理学科の最終学年生.走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて半導体表面上の原子を操作することを体験した.
Ryan Harrison, a senior at Johns Hopkins University in biomedical engineering.
 超分子(macromolecule)グループでポリチオフェン分子ワイヤーの合成と評価を体験した.
Brian Lambson, a recent graduate of Columbia University and incoming graduate student at the University of California at Berkeley.
 太陽電池への応用を期待されている量子ドットダイオードおよび超格子における電子輸送現象を学んだ.
Brian McSkimming, a student at the University of Buffalo majoring in electrical engineering and mathematics.
 彼は,量子絡み合い状態にある光子(entangled photon)の放射を最適にする量子ドットの作成を目的として,各種基板上に量子ドットを成長させる技術を学んだ.

「まず,最初にお尋ねしますが,あなた達がこの計画に応募された動機はなんでしょう,また,どのようなことを期待していましたか?」

AL: 最初この計画を見たとき,私はNIMSのことをほとんど知りませんでした.でも,前に日本に来ていまして,たった5日間でしたけれどあちこち見て回り,また来たいと思っていました.けれどNIMSのことはほとんど知らず,それで,少し調べてみました.で,NIMSが物質科学の分野で世界の最先端研究所になろうとしていることを知り,俄然興味が沸き,応募することにしました.

CB: 私にとってナノテクノロジーとか物質科学というのは初めてでした,というのは私の大学は小さくて,化学と生物という分野しかありません.ですからこの分野をもっと学んでみたいと思いました.それに旅行してみたかったんです.単に訪問するだけより,そこに滞在し,生活すれば学ぶことはずっと多いですよね.

RH: 私として一つだけ付け加えておきたいのは,研究だけではなく,世界中の科学者と交流し,相互認識を深めるということだと思います.

BL: 学部学生の期間中に外国で学ぶことのできる人は多くないですよね.だから,私は日本に来て,海外の科学者と交流できる最高のチャンスだと思いました.

「期待どおりでしたか?」

AL: 最初応募した時,何を期待するかというのはあまり考えていなかったですね.ただ,今まで体験してきたこことは全く違う何かをしようとしているのだということは分かっていました.それが私の期待と言えるでしょう,100%そうです.生活を変えてしまう体験をするのだと.実際に言葉の壁は大変ですし,文化も違うし,アメリカの大学にいて日々周りの人達と一緒に過ごしているのとは本当に違った環境です.私にとって,“予想もできなかったこと”を期待していたということですね.

BM: ここにやってきて,今までよりずっと高いレベルで研究することを期待されるというのはとても良かったですね.このプログラムに来る前の私の持っていた期待は多分低すぎたのだと思います.

「あなたのキャリヤーとして“国際的”でありたいですか?」

CB: そうありたいと思っています.旅行して,違った場所に行き,異なる文化に接するのは好きです.学部学生の間に2回海外に行ったことがあるんです.夏と学期中,ちょうどこの直前です.私,異なる文化に接し,異なる国の人々と話し,働くことが好きです,だっていろんなことに夢中になったり,学んだりできるでしょう.

BL: 私も国際的な科学者のコミュニティーのメンバーでありたいと思っています.もし,トップレベルの研究所にいれば,文化の違いを越えて,皆,科学という言葉でものごとを同じように考えるのだから,どこにいるかというのは関係ないと思います.共同研究とか研究結果を検討するとか,装置を共用するとかではどこにいても否応無く自分自身を科学者として認識することになると思います.

CB: 科学者として認め合うということに加えて,ネットワークができるということもあります.もし,問題に行きあたった時,日本でも,米国内でも,さらに自身の国際的ネットワークを通じて研究仲間を呼び出し,知恵を貰えるでしょう.

CB: ボストンのコンサルタントグループがこういったことを“世界化”と言っていて,それは,一つの巨大な共用プールの中で何時でも,どこでも,なんでも,そして誰とでも競争している,という意味なんだけれど,今や “世界化”を望むかどうか,ということを問題にするのは適当ではなく,ともかく皆そちらに向かっているということだと思います.

「研究室での仕事はいかがでした.内容は気に入りましたか?」

BL: 学部学生としてもし楽して過ごそうというのは良くないと思うんです.今,科学者になろうとしているのだから,この“楽”を乗り越えるべきでしょう.この年と教育レベルを考えたら,私たちの知識で何か重要な成果を挙げることができる,というわけにはいかないでしょう,だからその境界を広げることが重要だと思うんです.彼らも言っているけど“苦無くして成果無し”ですよね.

CB: レベルは適当だと私は思います.というのは私たちはアドバンストコースに来たわけで,わたしたちより上のレベルに設定されているのでしょう.ただ個人的にはきつかったですね.技術は文句無しに新しいし,私には全てが新しかったので.オプトエレクトロニクスグループで働いたけれど,指導役の大橋さんが実験室に私を連れて行って,何をどうやって,どうデータ解析をするかをそれこそ一歩ずつ教えてくれました.一緒に行って,説明を聞くまでは何が起こっているのか全く分からない研究内容がありました.ちょっときつかったですね,でもうまくいったと思います.

AL: 全くそのとおりだと思うんですけれど,“楽”の外に出れば,否応無く成長させられます.今夏の私の研究も私の経験からすれば最もきつかったと思います.でも,同時に信じられないぐらい充足感があるし,報いられたという思いもあります.実験室で今日,大きなブレークスルーを達成し,とても興奮しているんです.後,4日残していますが,最後にビッグなことができました.

「こちらでは何が一番大変でした?」

AL: 一番大変だったのは大した知識も無くやってきて,初めてSTMを使わねばならず,途方もなく色々学ばねばならなかったことです.

RH: 全部.学部学生にとって,実験室の仕事の経験は僅かだし,研究能力だってまだ微々たるものでしょう.皆,STMとか他の装置だって,本での知識は持っているけれど,読んで知っているのと使って結果を出すというのでは大違い.だからまだまだ技術的にも理論的にももっともっと学ばねばならないと思いました.

CB: 文化的には米国と日本では相当違いますね.米国では9時から5時まで働くでしょう,研究者は違うかもしれないけれど.でも,ここでは全然違っていて,ベースボールと野球の差みたいなものかな.NIMSでは皆夜まで働いていて,10時までいるのは普通ですね.

「問題解決のアプローチで日米に違いがありますか?」

AL: それぞれ経験したことは違うと思いますね,所属するグループ,一緒に働いている人に依存しますから.一点,私の気付いたのは日本では個人よりもグループが優先され,それが研究にも反映されているということです.米国では,個人ないしは選ばれた少数の都合がしばしば優先されると思います.いつもというわけではないけれど,しばしば,ですね.

CB: 人に依ると思います.大橋さんはいつも,“じゃ,こういう風にアプローチしてみましょう,とか,こういう別のアプローチも,とか”と言った具合に方向が見いだせるまで示唆してくれます.こういったやり方は米国とそう違わないと思います,ただ,こちらの方がずっと早いですけどね.もしも,私が装置に付いて問題を抱えると,彼は自身の仕事をやりかけにしたまま,実験室に駆けつけてきてくれます.たとえ忙しく,また会議があったりしても,装置がもう一度うまく動き出すまで,2時間でも3時間でも側にいてくれます.

「研究者仲間とのコミュニケーションはうまくできました?深刻な問題はありませんでした?」

AL: いいえ,全然.皆さんきちんとした英語を話しましたので助かりました.グループ外の方とも十分意思の疎通は図れました.もし,助けが必要なら,グループ内の誰かに頼むことができました.

CB: 私の指導担当の方,秘書の方,それと多くの方がきちんと英語を話してくれました.でも,研究グループで働いていた学生の方達はほとんど英語を話しません.彼らは私に何か示しながら話すことはできましたし,実験室に一緒に行って,何が問題になっているかを示すこともしました.彼らは熱心に説明しようと試みてくれましたが,技術的な質問に関しては指導担当の方に尋ねるしかありませんでした.

RH: 海外研究経験の有無と関係しているみたいで,外国で研究したことのある方はきちんとした英語を話します.それで,意思疎通は問題無くできました.実は,竹内さんが声をかけてくれた時,私がここを選んだファクターの一つがこの問題だったんです.最初に竹内さんの経歴を見て,かれがMITの結構有名な研究室で3年働いていることに気付きました.で,これはOKだと.

「実験室の他に何か楽しみました?」

CB: あちこち旅して色々見ました.富士山にも行きました,大旅行.

BL: ほとんど毎週末どこかへ行ってました,京都,大阪.

CB: 奈良,名古屋.

AL: 琵琶湖,鎌倉.

BM: 日光,筑波山.

AL: ほんとこのプログラムは大特典なんですね.多くのポスドク研究者がNIMSに来ているけど,たいてい家族と一緒で,私たちほど自由に日本中を廻り歩くということはできないみたい.

BL:  このプログラムの可能性を見る意味もあって私たちのプログラムはちょっと特別だったと思います.たくさんの試みがあって,私たちが良いフィードバックをNNINに持ち帰るとか,NIMSがNNINは良い学生を選んでくれたと思うとか.実際なんどか岸理事長に会ったし,自分一人でやってきた研究者とは私たちはちょっと違っていますよね.

「何が面白かったですか?」

CB: 旅行,あちこち見て,それから富士山頂で日の出を見るために夜通し登って,あれは面白かったですね.

BM: もう食べ物は最高.

AL: NIMSの食堂だって悪くない.

BL: どうしてもって時にはマクドナルドもすぐ側にあるし.

AL: 仕事も最高だった.毎日実験室に行って,トップクラスの研究室で,トップクラスの研究者と働けるなんて,びっくり!だね.

「何がつまらなかった?」

CB: データ解析.研究の一部とは分かっているけど,だけどあれは最悪.私は実験室にいる方がまだまし.

AL: わたしのやっている研究のせいだとは思うけれどやたら時間がかかってしまう.長い一日というのは疲れてしまう.毎日じゃないけれど,でも私のやっていた仕事は面白くてついやってしまう.

「このプログラムに参加した人は皆同じ場所にいた方が良い?」

CB: 同じサポートを受けられるよう同じ場所にいるのは良いと思います.ここに来た時はお互いを知らなかったし,あまり一緒にいることは多くないし,研究室は別々だし,あまりお互いを見ないし.

AL: プログラムでどれくらいやるかってことに依ると思うけど.それぞれのさいとには3〜4人いて,もし,私が自分一人でここにいたらあまり楽しくない.もっと違った挑戦と言うか,アジャストするのにもっと長い時間がいると思います.

BL: もう一度言うけど,ここは友好的雰囲気.日本に一人で来た人を知っているけど,皆完璧にハッピーだし,よく働いて,良い友達もいるし.

「別のプログラムではもっとオリエンテーション,文化とか日本語クラスとか,日本人学生とのディスカッションとかまであるんだけれど,何かもっとやっておいて方が良かったかも,というのはある?」

CB: 実際私たちにとって大変だったけれど,Dr. Rathbun(この研修計画のプログラムマネジャー)もそうで,彼も私たちに何を用意したら良いか分からなくて.彼は私たちとニューヨークで会って,数日をオリエンテーションに使いたいと思っていたようだけれど,出発まで私たちは一緒になれませんでした.あれば役に立つと思うけれど,用意無しで放り込まれるのも面白くはありますね.

AL: 現地学生と会うというのは面白そうだし,もっと詳しい日本文化講座も面白そう.

BL: つくばというのは日本の中では最も国際化された都市で,だからカルチャーショックというのは多分京都とか地方都市とかで感じるのよりは大したことはなかったでしょう.つくばというのは日本の他のところとはちょっと違っていて,ここには多くの外国研究者がいるし,外国人人口も大きいし.二宮ハウスのように私たちのつくば生活を助けてくれる施設も揃っているし.今年は最初の年で,これからまた改善してゆけば良いと思います.

CB: ここにいる間とても良くしてもらったと思います.色々学んだし,実験室でクールな仕事もしたし,贅沢な住居に住めたし.

Al: もっと日本人学生と交換できたら面白いでしょうね.私,アメリカで研修している何人かの日本人学生を知っています,だから同じ背景を持ったもの同士で意見を交換するとか,ディスカッションするとか,ここか筑波大学かでシンポジウムを持つとか,といったプログラムがあっても良いでしょう.ここと筑波大学は連携しているんでしょう?そういったタイプの可能性は色々あると思います.

「アメリカに帰った後,もしだれかがこれに応募しようと思っていると言った時,どう言ってあげますか?」

BL: 絶対,やるべきよ!

AL: 良いカメラを持って写真を一杯撮ること.(笑い)多くの人にとって貴重な経験になるでしょう.

CB: 私も皆に勧めますね.だけど長時間労働とチャレンジすることの覚悟をしなさい,と言います.

(インタビュアー 物質・材料研究機構 井下猛)