NanotechJapan Bulletin

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Vol. 5, No. 1, 2012年1月31日発行/「ナノネット」と「ナノテクノロジー」座談会2「ナノテクノロジー・ネットワーク」

NanotechJapan Bulletin Vol.5, No.1, 2012 発行

「ナノネット」と「ナノテクノロジー」企画特集
座談会②「ナノテクノロジー・ネットワークとイノベーションの創出」
〜施設共用による研究加速と今後への期待〜

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 我が国が世界トップレベルの研究開発能力を維持・発展させるには新しい科学技術を創出する研究環境の整備・充実が不可欠です.そのためには大学,公的機関,企業の研究者が全国規模で研究分野や機関を越えて研究ネットワークを構築する必要があります.この考えを基に,2007年度(平成19年度)から開始した「ナノテクノロジー・ネットワーク」プロジェクトは,その前身である「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」における支援実績を継承し,施設・設備を共用化してナノテクノロジーに携わる研究者に利用機会を提供して来ました.共用化に際しては,施設・設備の運用・技術支援を行い,人材育成とともに,イノベーションに繋がる研究成果の創出を目指しました.5年間のプロジェクトの最終年度にあたり,先に海外調査結果を中心に研究開発・共用施設の重要性について話合う座談会を行いました.その内容は2011年12月7日発行のNanotechJapan Bulletin Vol. 4, No. 6に掲載しております.これに続き,今回はプロジェクトの内側から見た,共用施設の現状,今後の展望について語り合いました.


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【出席者(五十音順)】
 秋永広幸  産業技術総合研究所 ナノデバイスセンター長
 清水 禎  物質・材料研究機構 強磁場NMRグループ長
 水木純一郎 日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 副部門長
 山本剛久  名古屋大学大学院工学研究科量子工学専攻 教授
 横山利彦  自然科学研究機構 分子科学研究所 教授
【司会】
 古屋一夫  物質・材料研究機構 国際ナノテクノロジーネットワーク拠点 副拠点長

 (座談会開催日:2011年11月14日)

はじめに:ナノネットの5年間を振り返り,次の展開を図る

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【古屋】 物質・材料研究機構(NIMS)の古屋です.本日の座談会の司会を務めさせて頂きます.
 ナノテクノロジー・ネットワーク(以下ナノネット)の最終年度に当り,NanotechJapan Bulletinに2つの座談会記事掲載を企画しました.1つは「ナノテクノロジーにおける研究開発・共用施設の重要性」と題して,9月26日に海外調査結果を中心に議論しました.今回はナノネットの根幹に関わる共用のあり方そのものについて話合いたいと思います.ナノネットは13拠点26機関から成り,各機関は「ナノ計測・分析」,「超微細加工」,「分子・物質合成」,「極限環境」の4分野(放射光を独立させると5分野)のいずれかの研究領域に属した技術を持っています.それぞれの研究領域ごとの会合も持たれているので,今回は5領域から各1名の方に出席をお願いしました.
 座談会の進め方は,第1部として,「ナノネットの5年間を振り返って」のお話を伺いたいと思います.後半の第2部は「装置共用の必要性と将来の展望」を施設共用の実施者の立場でお話し頂きたいと思います.いずれも問題の規模の大小は問いません.
 第1部の参考資料ですが,最終年度にあたり,ナノネットでは研究課題追跡調査を行って,平成23年6月に報告書を纏めました.この中には課題や,貢献した事例,ユーザの意識などが記されています.この報告を参考にしてこの座談会でナノネットのナノテクのイノベーションへの寄与が明らかになることを期待しています.また,ナノネット事業Webマガジン(NanotechJapan Bulletin)でフォーカス26企画特集を組み,ナノネットの各拠点や参加機関の活動を35編の記事にして掲載しました.本日そのPDF版をお配りしました.
 第2部の参考資料ですが,ナノネットの今後のあり方を検討する「共用基盤ネットワーク検討タスクフォース」を組織し,「ナノテクノロジープラットフォームについて」の報告書を纏めています.この中には今後の課題も指摘されています.以上3つの資料を,この座談会のお手元資料として用意しましたので適宜参考にして下さい.

ナノネットの5年間を振り返る

“ナノネットは新らたな連携,新しいユーザを生み出した”

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【古屋】 それでは,「ナノネットの5年間を振り返って」のお話を伺いたいと思います.平成19年度に発足したナノネットの前には,平成14年度から18年度までのナノテクノロジー総合支援プロジェクト(以下ナノ支援)がありました.この頃からのことを含めてお話し下さい.

【秋永】 超微細加工領域を担当し,ナノ支援から10年間にわたり,事業に参加して来ました.ナノ支援とは違って,ナノネットのはじめ2年間は拠点の地域ネットワークを作り上げることが中心になり,機能別会議がありませんでした.途中から研究領域別の会議ができ,そこでの技術をコアにしたユーザとのお付き合いは貴重な経験になりました.また,課題解決に関する問題意識や技術に関する共通の認識を持つ支援実施者のソサエティができたのはよかったと思います.

【横山】 分子・物質合成の領域を担当しました.ナノ支援の始まった年に分子研(分子科学研究所)に移り,ナノ支援の後半3年にはそのお手伝いをしまして,ナノ支援からナノネットにかけて8年間関係したことになります.秋永さんが分野別の話をされましたので私は地域拠点を作ったことの評価の観点から話します.分野別の方はナノ支援から継続したものでしたが,ナノネットが無ければ近くにどんな装置があって,どんな支援ができるか分りませんでした.ナノネットができて,名古屋大学,名古屋工業大学,豊田工業大学と分子研の4機関で一つの拠点を作りましたが,このように近くでどんな支援ができるかよく分るようになったことは重要なことだと思います.
 特に愛知県は「知の拠点」ナノテクイノベーション戦略推進プロジェクトとして拠点を愛知万博跡地に建設中です.このような県のサポートがあるので,分子研にとって地域拠点を大切にする必要がありました.県が支援しているので産業 界には地域拠点が役に立ちます.しかし,ナノネットも5年間では宣伝不足でした.もっと地域貢献ができるはずですから,何らかの地域連携活動を今後に残したいと思っています.

【山本】 名古屋大学に勤務していますが,併任の東京大学でナノ計測・分析の領域を担当していますのでその立場でお話しします.施設共用の事業に参加したのはナノネットからでナノ支援には参加していません.東大大学院工学系研究科総合研究機構ナノ工学センターが所有する超高圧電子顕微鏡を中心とした電子顕微鏡群と武田先端知ビルにあるリソグラフィー設備を中心に支援しています.支援体制がうまく稼働し始めて波に乗ってきたことを考えると,ナノネット事業の5年間という期間は短いなと感じています.ユーザから施設利用には障壁があると言われることもありますのでさらに利便性を高め,その壁を低くしていくことを目指しています.利用体制整備には時間がかかりましたが,出来上がったものはユーザに好評で,利用希望に応えられないくらいに申込が増えてしまいました.
 一方,装置は設置してから使っているうちに新しいものが出てきます.施設が陳腐化しないように新しい装置への更新システムが欲しいところです.我々にとってのナノネットの大きなメリットは横の繋がりができたことで,そのおかげでどこに何があるか分って来たことです.

【水木】 日本原子力研究開発機構(JAEA)でナノ支援の時から10年間放射光の領域を担当しています.他の領域とは違い,放射光施設は元々共用の性格の強い設備で,ナノ支援の時から設備共用はやっていました.ナノネットに限って云えば,二つのメリットがありました.一つは秋永さんが話されたのと同じで,機能別会議によるもので,その中から2つの共同研究が生まれ,色々な繋がりのできたことは大きな成果です.
 もう一つは,人が雇えて技術者として育ったことです.しかし技術者の立場が不安定です.キャリアパスになり憎い仕事にしか資源をさけないのが心配です.人材育成,人の使い方の反省をナノテクノロジープラットフォームに活かせるとよいと思っています.

【清水】 極限環境領域の中で強磁場NMRを担当しています.強磁場は世界的に共用が当たり前になっています.NIMSの強磁場も20年前から共用設備として提供してきました.しかし,ナノネットに適用したのはこれではなくて,丁度,強磁場NMR装置の開発が終わったときでしたので,この世界的にも例のない新しい分析技術を多くの人に使ってもらおうと考え,ナノネットの共用設備としました.強磁場のユーザはほぼ大学に限られますが,強磁場NMRになると,産業界の構造解析のニーズに応えられます.60年間にわたり,NMRで観測する元素は水素と炭素に限られていたのを,強磁場の特徴を活かして,多くの元素に対応できるようにできたからです.このため,強磁場NMRは,時代とナノテクのニーズにマッチして,多くのユーザに受け入れられました.特にこれまではNMRとは全く縁のなかった産業からの施設利用申込も来るようになったのはナノネットのお蔭と思っています.

“ナノネットによるイノベーション創出は緒についたが,まだ時間が足りない”

【古屋】 ネットワーク,地域拠点,研究分野の話を聴かせて頂きましたが,イノベーションにどう繋がったかに話を移したいと思います.元々,ナノネットの狙いはイノベーション創出への貢献でした.お手元資料の研究課題追跡調査の結果を5つのイノベーションの要件に分類すると,高い学術成果が得られたもの10件,実用化に向かって研究が進展し,社会経済にインパクトの大きいもの13件,異分野融合により研究が発展したもの8件,ハイリスクチャレンジングな研究が行われたもの12件,研究の効率化・スピードアップに貢献したもの14件となりました.5つの分類が適当であったかどうかと云うことはありますが、ナノネットではイノベーション創出に加えて,人材育成,異分野融合,地域活性化もその使命とされていました.このような観点で捉えてノベーション創出に不可欠な事業をやって来たかをお伺いしたいと思います.

【秋永】 イノベーションの定義は省略しますが,違った立場の人が集まれば,違った見方が交わるので,必ず新しいものが生まれます.ナノネットにはユーザと支援者という違った立場の人が常にいるのでイノベーションの生まれる素地はありました.システムとしてはよかったと思います.しかし,立場の違った人の間にはものの考え方,習慣などのバリアがありますから,それを越えてイノベーションを生み出すのに,もしかしたら5年では足りなかったかも知れません.システムとしては大変良く機能したと思います.

【水木】 放射光を使わなかった人が使うようになったのもイノベーションだと思います.新しい手段を使い新しいデータが出てきています.支援側の我々にとっても新しい知見を得ることが加速されました.

【古屋】 強磁場NMRの場合も同様で,強磁場に縁のなかった産業界からの利用が進んだとの紹介がありました.他の領域もユーザと支援者の間でWin-Winの関係になりましたか.

【水木】 Winは共同研究もその一つでしょう.そこから新しい技術が生まれます.我々の側も放射光の新しい技術が開発できれば嬉しいが,そのためには資金が必要です.1期目のナノ支援の時にはその要素があったのですが,2期目ではそれが無いのでWin-Winの関係作りは少し減速された感じです.

【横山】 汎用装置の場合は支援する側の人は業務として対応するだけのこととなります.先端装置の場合は一般の人が使って仕事ができればそれだけでも成果です.汎用装置でも使って成果を挙げてもらえれば,運用している側としてもハッピーに感じます.支援に問題を感じてはいません.

【清水】 NMRは7年かけて作った装置でした.新薬開発の際に,病院が症例や治療例を増やそうとするのと同じ状況の時に登場した訳です.何を測ったらどうなるかも分らない状態でしたから,使ってデータを出すのが先決でした.使ってもらうことが有難かったのです.

【古屋】 微細加工の分野は如何ですか.

【秋永】 中型か,中型プラスアルファくらいの規模の装置を中心に共用装置として提供しているので,大型計測機器を提供しているところとは違います.しかしながら同様に,使ってもらうことによって当方にノウハウがたまり,支援側の技術が上がりました.施設利用者をナノテクのメンバーと名付けることによってナノテク施設利用に求心力がつき,施設の位置付けも向上しました.しかし共用施設で働いている人が感謝されることは充分でありませんでした.人とノウハウがあって初めて役に立つものになりますから,支援者への感謝が表に出ることが必要でしょう.

【古屋】 メンバーとして位置づけ,Acknowledgeすることが権威付けになると,そこに仲間ができる.しかし,新しい利用者にとって,利用の敷居が高くなることはありませんか.

【山本】 ノウハウを蓄積して来た人(支援を行っている方)への何らかのリターンは必要です.それには5年では短過ぎます.成果が社会に浸透する前に次の体制になってしまいます.システムがうまく稼働して,成果が世の中に出る際には,ノウハウは出せないにしても支援者の貢献を表現できるような仕組みが必要でしょう.そうなれば,支援者はさらにノウハウをためて支援しようと言う気になります.

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“共用施設は萌芽研究などに不可欠,支援者の貢献を顕在化”

【古屋】 共用施設の考えは大学にも国研にもありましたが,ナノ支援,ナノネットではそれとはかなり異質なものとして始めてきた経緯があります.ここで翻って考えてみて,装置共用は本当に必要でしょうか,もっと展開すべきでしょうか.また,ナノテクノロジープラットフォームの計画は正しい方向に進んでいるでしょうか.装置や分野によって違いはあるでしょうが,根源的質問をさせてもらいます.

【水木】 共同研究施設はケアしないと汚くなり,性能・機能も低下してしまうと言います.ナノネットはナノテクノロジーという目的意識を持たせており,Win-Winの関係で人を入れ,装置も導入しました.人を呼んで来てでもやろうという意識が出てきました.イノベーション創出への意欲が生まれています.

【古屋】 分子研は元々共同研究施設でした.それとナノネットはどのように違っていますか.

【横山】 私としては分子研の本来業務としての共同施設支援も疎かにできないので,ナノネットとしての共用施設支援との両方を同じようにしっかりやっている心算です.ナノネットになってから,企業へのサービスが増えました.以前は大学の人だけが使いに来ていたのに,今は愛知県の十数社が継続的に分子研を使っています.支援をしていてよかった,楽しかったと思うこともたびたびあります.
 共用施設の必要性について云えば,汎用機でも5千万円から1億円しますから,スタートアップ企業は買えません.必ず共用施設を使うことになります.無料か安く使えることは不可欠です.

【古屋】 共用施設の円滑な運用には敷居を低くすることと,成果の「見える化」が必要でしょう.施設を使って成果を挙げた人がその成果を発表するとき,成果はすべてユーザに行き,支援者はどんな発表がされたかも分らないことがあると聞きました.ナノネットとの繋がりを明らかにするルールがなかったというご指摘もいただきます.

【秋永】 微細加工の施設では,民間企業の方にご利用いただく頻度が比較的高いのですが,その仕事が論文にならないこともあります.どこにナノネットの人の仕事が役立っているか見えにくくなっています.また,100の工程の中の1つのプロセスへの貢献という場合もあり,その成果をどのように見せるかが課題でした.しかし,少しずつ,支援者の貢献を認めようという雰囲気が出てきています.産業界でも社会の中でもこうした基盤となる仕事やネットワークの必要性がオ−ソライズされるようになれば,たとえ見えなくてもその貢献は認められるようになるのではないかと,オプティミスティックですが考えます.

【山本】 ユーザに支援者を謝辞に入れて下さいというと,ユーザはデータの一部が自分のものと扱われなくなると思いがちです.ナノネットのメンバーとして支援している人には*印をつけるなどして,寄与を明らかにできないでしょうか.

【古屋】 アメリカだと「DOEの施設を使った」などと書かせています.ナノネットもそれと同じことをお願いして,最近は実施されるようになってきました.これからはそのような記載をナノネットの事務局で集計すべきかとも思います.

【水木】 ナノネットのユーザであることを明らかにするのですか.

【山本】 そうですね.例えば,TEM(透過型電子顕微鏡)の写真の中にナノネットのコードを入れ込むのはどうでしょうか.日付と一緒に写真の片隅に印を捺すのです.しかし,そうすると写真を自由に使えなくなるのではないかと勘違いされることもありますが,それでも使っているのが分れば,ナノネットの認知度が上がって来るでしょう.

【横山】 公開できないものにまで強制することはないでしょう.

【山本】 ひとつひとつバリアを消して行ったらよいでしょう.一旦バリアを越えた人は良い関係で仕事をしています.

“共用設備の課金は自立目的でなく,利用者の自覚のため”

【古屋】 話を変えましょう.ナノネットは課金を求められました.課金の意味付けをどのようにお考えでしょうか.施設を使うのだから負担してもらうという考えの一方,ユーザは課金しても安くしてほしいと言います.課金がないと不必要なものまで頼まれ,それを支援することになるという意見が支援側にあります.

【山本】 課金は絶対に必要だと思います.課金がないと意味のないものまで依頼されてしまいます.高くなくてもよい,例えば1万円くらいでよいから課金はすべきです.

【水木】 私は課金に反対です.放射光施設は外部審査機関を設け,そこで利用申請を受け入れるかどうか決めています.不適切な依頼はそこではじかれます.放射光施設は国の資金で運営していますから,ユーザが獲得した国の資金の中から使用料を払うと金が国に戻る,即ち金を回していることになり無駄も生じます.それよりも始めから共用設備には必要な資金を渡し,利用は無料にした方がよいと思います.放射光のような大きな装置だけかも知れませんが.

【山本】 はじめから共用施設として作ったか,自分達の装置を共用に出すかでも違うのではありませんか.

【横山】 国の資金の無駄な回しを避けるというなら,民間からは利用料をとることになるのでしょうか.

【水木】 放射光施設の場合は民間の利用でも成果をオープンにすれば,利用料は取りません.成果が国の知財になるからです.


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【秋永】 共用の対象範囲をどこに置くかで対応を考える必要があります.国内を対象とする場合は,国の金は税金ですから,民間企業による利用でも無料でよいかも知れません.一方,海外まで対象を広げる場合は,競争相手にもなるので,海外の利用者には課金すべきでしょう.逆に,利用者の範囲を狭め,例えば大学等公的研究機関などとする場合,課金するとすれば,良い装置に資金を投じて皆で効果的に使ってほしいという施策の一つと考えるべきではないでしょうか.共用施設運営施策の一つとして支援対象範囲を定める必要があるように思われます.そうしないと,コストセンター的考えが出てくる恐れがあります.

【清水】 強磁場NMR装置はどこにもない新しいもので完成度は高くありません.有効性を実証するデータ取りの共同作業をしていますから,お金はとれません.汎用の装置なら課金に抵抗感はありません.しかし,強磁場装置は世界中どこも課金していません.同業者しか使いに来ていなかったので,課金の文化がありませんでした.産業界が使うようになったら話は別かも知れません.

【山本】 課金はお互いにビジネスライクになり自覚を促すようになると思いますが,どうでしょうか.

【横山】 分子研では研究計画書を読んで利用申請を受けるかどうか決めています.外部からの分子研利用は原則無料ですが,世の中の流れとしては課金する方向でしょう.

【古屋】 日本の共用施設のシステムは自立できるでしょうか.アメリカは1/3が国,1/3を課金,1/3は自己努力という例が多いようです.予め研究費に施設利用クーポンのようなものを付けるチケット制をとっている国もあります.

【水木】 アメリカのDOEで中性子や放射光の施設は課金をしません.消耗品の費用などは徴収しますが,自立という意識ではないし,自立できるとは思っていません.

【秋永】 自立の単位をどう取るかによるでしょう.例えば,大学では,学内にある装置を共用装置として使っていた間は自立できていたはずです.一方で,自立はコストの問題でなく,ビジネスとしての自立でしょうから,経営能力が求められます.国は,国の行うサービスを独立行政法人に委ねています.自立したらビジネスモデルが必要になります.頑張って儲けが出たら給与が上がるというようなシステムです.そうなると儲からない研究はやらないとなって,効率優先に陥ります.しかし,国民はそれを望んでいないのではないでしょうか.国民は,国の研究機関が民間ではやれない研究をやっていることが有難いと思っているでしょう.自立化はそう簡単に出来るものではないし,安易にその言葉を使うべきではないでしょうが,予算の関係で効率化を図る観点からであれば,ある程度は仕方ないと云うことでしょう.

“共用施設は人を育てたが,その後の働き場所の確保が必要”

【古屋】 共用施設には新たなユーザ,異分野のユーザ,あるいは若い人が使いに来ていますが,それは若手の人材育成になっているでしょうか.

【横山】 詳細追跡課題の中で,高い学術成果が得られたとされた分子研の「920MHz超高磁場NMRによるアミロイドβペプチドの重合開始機構解明」の利用者は国立長寿医療センター研究所です.この課題ではNMRを知らなかった医学の人が使うようになり成果を挙げています.元々分子研には若手で装置をもたない人が利用しに来ています.

【水木】 放射光施設には新しいユーザが来ています.学生を含めて,大学から初めての人も来ていました.ナノネットで人を雇って育成になったかというと,ナノネットは100%支援ということでの雇用でしたから,研究者としてのステップアップになりませんでした.JAEAのポスドクとは性質が違い,学会発表が難しかったから,人の育成になったか心配です.

【横山】 5割は研究という雇い方ができなかったのですか.

【水木】 JAEAは支援100%で雇うという決まりでした.他の機関で一部研究が許されていたとしたら,放射光で人の育成に懸念が生じたのはJAEAの制度の問題と思います.

【山本】 大学ですから,当然学生やポスドクの育成はしています.企業から来て勉強して行った方がありましたが,その後どうなったかは把握していません.

【秋永】 元々の産総研には人材育成の役割が与えられていませんでしたが,平成17年度にはミッションになりました.ナノ支援事業においては,例えば,企業における配置換えのときの教育に利用していただくなど,特に産業界から評価されました.さらに,ナノネットではその役割が明確にされたので,人材育成を積極的に行うことができました.
 人材育成は共用施設の人材に対しても刺激になります.しかし,その結果が,共用施設の人材のキャリアパス設計に役立っているかとなると心配です.第1期ナノ支援事業では共用施設の人材が民間からヘッドハンティングされました.第2期ナノネット事業になってからは,次のステップがアカデミック領域に絞られる傾向にあり,移行が大変厳しくなってきました.私は共用施設の人材が次のステップへ応募する時に,運営委員の推薦があるとよいのではないかと考えています.ナノネットでその人をサポートすることができます.しばしば,次のキャリパスを考える必要のない支援員を雇えと言われますが,支援には若手と年配の経験者の両方が必要です.何かを始める時に若手の馬力が欠かせません.

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【清水】 共用のNMRは特殊な仕様の装置です.ポスドクが5人いましたが,ポスドク任期終了後にどうなるか心配でした.しかし,幸いなことに900MHz NMRの実績が出るようになったら,この装置を使いたいという会社が出て来たので,ポスドクが皆会社に採用されました.彼等は違った分野に移ることなく,外部ユーザとして共用設備を使いに来ています.この結果ユーザの輪が広がることになりました.
 課金については,民間ユーザの人からは,競合他社が使いに来たら,他社が使い始める前にマシンタイムを全部買い取れないかと言われました.独立採算で利益中心の運営だとそんなことになる恐れも感じます.




装置共用の必要性と将来の展望を語る

“震災等有事の際を始め,ネットワークは研究開発に不可欠”

【古屋】 これまではナノネットの5年間における現場の課題や,どのようにイノベーションを生んで来たかなど話し合ってきました.これからは今後のあり方,将来展望に話を移しましょう.
 先ず,ネットワークを組んでいることの意味をお聞きしたいと思います.文科省は大型装置を共用法によって設置,運用し,小さい装置は促進事業として産業利用の促進を図っています.大型,小型の2つの事業では各機関がそれぞれにユーザに対応していますが,ナノネットはその中間にあり,5つの分野に分けてネットワークを組みました.この形が良いのでしょうか.


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【秋永】 ネットワークについては2つの見方があると思います.東日本大震災では産総研も被災して,電子メールも停まりました.しかし,電子メールが復活したら,早速,装置利用できないかとの問合せがユーザから持ち込まれました.そのような場合でもネットワークがあったお蔭で利用希望を東京の支援機関に流すことができました.ネットワークの底力を示した例と考えています.ネットワークは研究開発のツールとして不可欠です.
 もう一つの観点としては,イノベーションがナノネットとして充分に位置づけられていなかったようにも思います.自己反省すると,イノベーションを考えたら他にもっと良い支援者がいたかも知れないのに,頼まれると自分のところで引き受けてしまっていました.ナノネット内で他の機関に仕事を回すことを強引に行った方がよかったのかも知れません.違った機関の装置を使うことによってイノベーションが加速できた可能性もあります.ツールとしての強制力を持たせ,ネットワーク機能を強化すべきでしょう.

【横山】 分子研は地域の中心だから,中部地域のユーザは先ず分子研に相談に来ます.そこで,分子研以外の利用を勧めることができます.地域内のネットワークがないと断ってしまうこともあるでしょう.震災でNIMSのNMRにトラブルがあった時に,分子研が代りに受け入れることもできました.ネットワークがなかったらこのような支援はできません.ネットワークは必要です.大型装置の場合がそうであるように,よく分かった人がいて受け入れ側が評価の仕方を示唆するなど,能動的にイノベーションをけしかけることができるとよいでしょう.

【秋永】 研究課題追跡報告書のイノベーション可能性が研究実施期間に対してほとんどすべて右肩上がりになっています.唯一の例外は産総研が支援した微量イオン分析ですが,11年目に可能性が下がったところで研究方針を転換してイノベーションの可能性が急上昇しています.このように全体としてイノベーションの可能性が上がるというのはネットワークの効果ではないのでしょうか.違った見方はその組織内だけではできません.ネットワークのお蔭で違った見方でやってみようと言うことになって,イノベーションの可能性の落ちるはずのものが上昇に転じたと考えられます.

【山本】 ネットワークとして他の機関の持っている技法の流用もできました.ネットワークへの帰属意識があると,他の機関の技法流用も進みます.

【秋永】 顔がつながっていると,帰属意識が強まり,支援機関とユーザのバリアが無くなり,ユーザも支援者を頼り,成果における謝辞も書かれるようになるでしょう.

【古屋】 放射光施設は限られた場所にしかありません.他の領域の施設が全国に散らばっているのとは違っています.ネットワークをどうお考えですか.

【水木】 震災の時に量子ビームプラットフォームではJ-PARCなど被災した装置のユーザをすぐに受け入れることができました.ナノネットとは別のネットワークも機能しました.イノベーションに関して言えば,次の10年を考える縦のネットワークがものすごく大切です.違った研究フェーズのバックグラウンドを持つ人が一緒になって考えることが必要です.自覚意識を持つことも必要です.オーバーオールの考え方が次の10年のための思想となることを期待しています.

【清水】 ネットワークは研究者にとって必要なものです.しかし,ネットワークを維持するには予算も設備費も要ります.共用法,強化法といった法律化したものに比べると,ナノネットの連携は現場の心にしかないソフトウェアに頼っている気がします.もう一歩踏み込むことが必要でしょう.そうでないと横の連携が明確にならない気がします.研究の現場にとってネットワークは必要ですが,現場だけでは継続困難です.

【山本】 大学も共用のあり方を心配しています.

【秋永】 コストセンターになったらだめです.共用施設だった民間の分析センターは,コストセンターになったため会社の外に出てしまいました.

【古屋】 大学の共用施設も同じことで,廃れる傾向にあります.大学の共用センターとナノネットとは違うもので,大学の共用センターに代るものではないと考えています.

【秋永】 アメリカはイニシアティブを作り,国家戦略としてのデザインができています.研究開発の最終目的は防衛です.

【古屋】 アメリカではナノテクノロジーイニシャチブ(NNI)が出た後にナノテク法が作られ,国としての方向付けができています.この点は韓国も同じです.日本でもしっかりした国の方針の裏付けが必要です.

“支援者から働きかける分野融合によってイノベーションを図る”

【古屋】 分野を越えたネットワーク,分野融合はどのように考えますか.なぜなら,一つには分野内では発展がないでしょう.外を向かねばなりません.第二には電子顕微鏡と放射光はどちらもエネルギースペクトルを観測するといった例のように学問的に見たら同じものを扱っていることがあります.放射光を用いた光電子分光はエネルギー分解能に優れ,電子顕微鏡は空間分解能に優れています.こういった特徴の違うものをつなぐのは科学者の役割だと思うからです.次のナノテクノロジープラットフォームではコーディネータをおくことも考えています.分野を越えた融合は各分野にあり得ます.分野を越えた共同研究はどのようにお考えでしょうか.


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【水木】 分野を越えることが目的ではないでしょう.例えば元素戦略だったら,何が要るかを考えることになります.出口指向で問題設定の仕方を変えることによって分野融合が起るのではないでしょうか.

【秋永】 CO2削減を目的とした研究課題の中で,農作物を放射光分析にかけようようとしたら,断面を見るために試料を切ることが必要になりました.農作物試料は軟らかいために切るのが難しかったのですが,FIB(Focused Ion Beam,集束イオンビーム)を使って何とか切ることができました.目的を達成しようと問題解決の努力をすることがトリガーとなって,分野を越えた研究になります.

【山本】 広がるかどうかはその人自身のモチベーションによります.ユーザから持ち込まれた問題をどれだけ面白いと思うかです.面白かったら方法を探します.私の担当で考えると左から右に流すのが8割あります.作業で終わらせず,融合研究に発展させることがシステムでオーソライズされれば情熱が湧くでしょう.

【秋永】 一緒にやりたいと思うようなテーマだったため,はじめからやり直したことがあります.論文を差し戻してSPring-8のデータを取り直しました.一緒にやり直そうと思えるようなテーマだったから,やり直しまでできたのです.

【水木】 頼まれ仕事だと思ったり,個人の趣味だとそこで停まってしまいます.それをやることによってプレゼンスが上がるようなシステムになっていればやれるでしょう.

【横山】 支援者は先ず融合をするのだという意識を持つことが必要です.合成のアイデアが持ち込まれたとき,試料を作って,NMRをとったらそれで終わりです.支援者が,デバイスまで持って行くなら加工も必要だと働きかけたら融合に進みます.支援者が意識を持っていれば働きかけて先に進むでしょう.融合の想定できるものは支援や,働きかけもできるし,コーディネータにも入ってもらえれば更に進むでしょう.

【清水】 皆が同じ船に乗れば,自分の持ち場でベストを尽くすという良い方向に向かいます.例えば,Li電池を作るという目的があれば,手法は違っても同じ方向に向かいます.横の繋がりは皆が共通の目的で動いていると,必然的に出来ます.それ以上のことはよく分かりませんが,個人の意欲とリーダーシップのどちらかが必要だし,両方あればなおよいでしょう.

【古屋】 ナノテクノロジープラットフォームで云っているコーディネータはそのような役割だと思います.アメリカのDOEはコロケーション(co-location)と呼んで,Argonne,Lawrence Berkley,Sandiaなどに5つのセンターを作りました.そこにナノテクノロジーオープンイノベーションの仕組みを作って融合を図ろうと言う政策をとりました.このやり方は拠点でないとできないことです.我々はそれをネットでやろうとしているのです.それでよいのでしょうか.

【山本】 使おうとした時にバリアがなければユーザが勝手にイノベーションを起こします.次々に違う分野の拠点や装置を使おうとします.人から融合が始まります.アメリカは先のなくなった機関を再生させようとしているのではありませんか.アメリカの真似をすると損をすることになります.ナノネットはネットの名が当たり前になるような,名前を浸透させる仕組みが必要です.例えば,所属として勤務先の名古屋大学の後にナノネットディビジョンと書くといったことです.


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【秋永】 DOEの研究機関は拠点ですが,ネットワークの機能も持ちます.日本の拠点は小さいですが,それぞれに独立性があります.ネットワークのノードとしては同等で,各ノードが根強い特徴を持っているとネットを組むことによって活性化されます.地域拠点を活用して,各支援機関,ユーザが常に顔合わせできる距離で連携をとり自治体とも連携すれば,相補的な関係ができてうまく行くのではないでしょうか.

【山本】 モチベーションを上げるには,単なるサービス機関になってしまってはだめでしょう.

【秋永】 モチベーションを高められるものが先の方に見えるとよいでしょう.例えば支援に徹しても儲けが出ればやれます.その形がない場合は,役に立っていることを示すバッジが要ることになります.法律で支えることも必要かも知れません.

【山本】 ところで,先程話のあった放射光の場合に申請書によってテーマを選択する時の基準はどうなっていますか.思い立った時にすぐ使えるのがネットワークの有難味のようにも思います.

【水木】 テーマ選択は社会貢献,科学的レベル,イノベーションに繋がるかなどの評価項目を設け,総合的に判断しています.
 サンプルさえ持って行けば測定からデータ解析までしてくれるというとバリアが下がります.支援体制が良ければ,たとえ第2世代の放射光施設であっても十分な成果が得られることが多々あります.ユーザは放射光に興味があるのではなく,ツールとして見ています.必ずしもユーザは高輝度光源の第3世代の装置を求めているわけではなく,多くは結果を求めているのです.ユーザが何を求めているのかを理解し,それを満足させるための支援体制が求められます.

【古屋】 その局面は分っていますが,それでよいか心配しています.実用化して商売をする場合はそれでよいかも知れませんが,科学的研究は手法を知らずに成立つでしょうか.

【水木】 イノベーションにはその人にとっての新しい手段を使ってもらうことが必要です.例えば,電子顕微鏡でこう言うことができると知らせることで興味を持ってもらうのが第一歩ではないでしょうか.

【秋永】 ユーザからすれば,共用施設における支援業務は当たり前,微細加工プロセスは流せて当たり前,そして支援員は居て当たり前の存在ですが,一方で,その支援員はサッカーの審判みたいなものでしょう.選手が試合をしているように見えますが,試合がスムーズに進行するようにサッカーをコントロールしているのは審判です.支援者はそのくらいの気持ちでいなければなりませんが,時に疲れることもあります.ユーザにナノテクをもっと理解してもらって,基盤整備やイノベーションの根源となるナノテクの機能を知ってもらったら,サッカーが盛り上がっているように,ナノテクも盛り上がるのではないかと思ったりします.

【古屋】 ナノネット5年間を振り返っての感想や評価から,今後の展望に至るまで、有意義な討論ができたと思います.お忙しい中,ご出席頂き,今後の発展につながる貴重なお考えを聞かせて頂き,有難うございました.


(古寺 博)