NanotechJapan Bulletin

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Vol. 5, No. 1, 2012年1月31日発行/「ナノネット」と「ナノテクノロジー」次世代のキー技術【ナノ計測・分析研究領域】

NanotechJapan Bulletin Vol.5, No.1, 2012 発行

企画特集 ナノテクノロジー,次世代のキー技術
【ナノ計測・分析研究領域】
「機能創出,構造評価,産業技術化:カーボンナノチューブを中心に」
名城大学大学院理工学研究科教授 飯島澄男氏に聞く

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名城大学大学院教授 飯島 澄男氏

 1968年東北大学理学部物理学科博士課程修了,東北大学科学計測研究所助手,米国アリゾナ州立大学研究員,英国ケンブリッジ大学客員研究員,独立行政法人科学技術振興機構(当時新技術事業団)創造科学推進事業林超微粒子プロジェクト基礎物性グループリーダー,NEC入社を経て,1998年名城大学大学院理工学研究科教授.1987年よりNEC中央研究所特別主席研究員,2001年より独立行政法人産業技術総合研究所・ナノチューブ応用研究センターセンター長を併任.

1.はじめに

 カーボンはダイヤモンド,炭,活性炭,黒鉛などの形で我々の日常生活を豊かにするものとして深くかかわっている.近年これらに加え,フラーレン,カーボンナノチューブ,グラフェン等の新しい形態のカーボンが加わり,電気的,機械的,熱的をはじめとする諸性質に於いて優れた特性を持つことが明らかにされるにつれて,エレクトロニクスから構造材料に至るまで幅広く応用可能な素材として期待されている.

 今回,「ナノテクノロジーネットワーク」の運営するWebマガジンでは「次世代に活躍するキー技術」の特集を組み,研究領域ごとに識者のお話を伺うことにし,ナノ計測・分析領域では電子顕微鏡の性能追求とそれを駆使した物質物性の解析から発見された「カーボンナノチューブ」を取り上げることとした.

 本記事は,「カーボンナノテクノロジーの今後の展開」と題してカーボンナノチューブの発見者である飯島澄男氏(いいじま すみお,名城大学大学院教授 理工学研究科材料機能工学専攻,NEC中央研究所特別主席研究員,独立行政法人産業技術総合研究所・ナノチューブ応用研究センター長)を名古屋市の名城大学大学院飯島研究室に訪問し,お話しを伺ったものである.なお,この取材には,ナノテクノロジーネットワーク関係者として独立行政法人物質・材料研究機構国際ナノテクノロジーネットワーク副拠点長古屋一夫(ふるや かずお)氏にも同席頂いた.

 飯島氏は,高性能電子顕微鏡を開発・駆使して上記"カーボンナノチューブの発見"以外にも"孤立タングステン原子の撮影"や"カーボンナノホーンの発見"等々多くの世界初の研究成果[1][2][3][4][5][6][7][8][12]をあげ,また現在は電子顕微鏡を駆使した研究のみならず併行してカーボンナノチューブの応用技術開発および産業化を推進しておられる[9][10][11].

 はじめにカーボンの一般的事柄を,次いで飯島氏の研究成果を交えてカーボンとその魅力およびカーボンナノチューブを中心にカーボンナノテクノロジーの今後の展開についてお聞きした.

2.カーボンの多様性とその魅力

 鉄に少量のカーボンを混入すると鉄を削ることのできる鉄(鋼)にすることができるように,カーボンも他の元素との組合せや,構造を変化させることによって面白い魅力ある性質を発現する.カーボンには多くの同素体が存在し,それぞれが有用な材料として実用に供され,また魅力ある今後の素材として期待されている.

 我々が日常目にしているカーボンは,①ダイヤモンド,②黒鉛,③アモルファスカーボン(炭,活性炭)でありこれ等の構造や性質はよく知られている.さらに近年になってナノカーボンとして④フラーレン,⑤カーボンナノチューブ,⑥グラフェンが加わり,またカーボンナノチューブの変形物として⑦カーボンナノホーンの存在が明らかになっている(図1,図2).


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図1 カーボンの多様性(その1)(提供:飯島氏)


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図2 カーボンの多様性(その2)(提供:飯島氏)


 ①ダイヤモンドは宝石や工具として,②黒鉛は鉛筆の芯やリチウムイオン電池の負極材料として,また③アモルファスカーボンは活性炭や触媒として我々の日常生活に深く入り込み,人類の生活を豊かにしている.一方,最近その存在が明らかになったナノカーボン類の内④フラーレンは超伝導性を,⑤カーボンナノチューブはその形態によって半導体的性質から金属的性質を示す多様性を制御してエレクトロニクス応用機能材としての研究開発が積極的に進められている.最後に見出された⑥グラフェンも電子やホールの大きい移動度が注目されカーボンナノチューブ同様エレクトロニクス分野や電池の電極材として活用する研究が進められている.

3.カーボンナノチューブの発見:飯島氏の果たした役割[14][15]

 1980年代になって物質を小さくナノスケールにしていくと磁性をはじめとする物性が変わることが理論的に示されて以来,小さいもの,特にナノスケールの構造体を作ることが一つの流れになった.例えば1970〜80年代に,原子1000個位の集まりをあつかうクラスターサイエンスが盛んになり,モルフォロジーと物性との関係が盛んに追求された.一方,エレクトロニクス分野で,微細加工,量子細線技術が開発され,上記理論と相まって基本物性の解明が進みさらに新物質の発見へと進展した.このような研究の流れの中で,フラーレンやカーボンナノチューブが出てきた.

 飯島氏は東北大学大学院の故日比忠俊先生の研究室に入って以来,ナノサイエンスとして種々の材料を造る・計測する・評価する研究を続けてきた.当時も現在もナノの世界を見ることができるのは,電子顕微鏡のみであり,電子顕微鏡を持ち使いこなせる人にしかそれはできない.NEC在籍中の飯島氏のカーボンナノチューブの発見は,東北大学大学院時代に続いてアリゾナ大学で本格的に始めた「電子顕微鏡を使った物質のナノメートルレベルの構造や物理現象の探求」をスタートポイントにして,それ以降「人のやったことはやらない]との信念のもとにコツコツ続けた表1に示す研究の流れの中の一つである.


表1 カーボンナノチューブ発見に至るまでの研究の流れ

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 表の①②③⑥⑧⑨はいずれも世界で初めて実現したものである.④の着想は電子顕微鏡の進歩が停まり,高分解能の追求から物質に着目する仕事に中心が移ったことによって生まれた."玉ねぎのような球状グラファイトを説明するには,炭素六員環の他に五員環が12個必要"の指摘は1985年,クロト−,スモーリー,カールによって発見されたC60フラーレンに繋がる.この指摘を論文にしたのはNECに移ってからのことになる.その後,1991年にMWCNT,1993年にSWCNTを発見する.

 このカーボンナノチューブの発見は"偶然の発見・産物"といわれるが,飯島氏は必然であったと思っている.博士論文が「銀の針状結晶」,また同じ研究室の助教授が研究していたアスベストがチューブ状であったこと,そしてこれ等に関する知見が背景に備わっていたため,初めてカ−ボンナノチューブの電子顕微鏡像を見たとき,そのものの構造がピーンときたとのことである.よって偶然ではなく"セレンディピティの力"であったと氏は言われる.

*)serendipity:"うまくものを偶然に発見する能力","幸運を招き寄せる力"といった意味.お伽話「セレンディプ(セイロン)の三王子」をもとに英国のHorace Walpoleが1754年に友人に宛てた手紙に,思わぬ掘り出し物を指す言葉として用いた造語といわれている.「長年培ってきた電子顕微鏡の技術や炭素物質を見続けてきた経験,米国で鉱物学に関わったこと,そして何より"まだ構造が明らかになっていない未知の材料について追求したい"という強い想いからこの能力が身に着いたのだと思う.カーボンナノチューブは一連の真理追求の課程で見つけた一つである」と飯島氏は述懐している.

 以上がCNT発見に至るまでの経緯であるが,飯島氏が"ニャッとするほどの充足感を味わった"ものは,前記①⑥⑧だそうであり,以下のように回顧しておられる.

 「①の電子顕微鏡で原子を最初に見たのは,電子顕微鏡発明以来営々として続けられてきた丁度良い時に居合せた幸運もあった.⑥の金微粒子の「構造の揺らぎ」発見と動画観察は,電子顕微鏡の進歩が停滞した1980年代に原子レベルで動画を観察する手法をあみだした成果であり,ナノクラスターの面白い挙動の一つである.⑧のカーボンナノチューブの発見は,電子顕微鏡をしっかりマスターしている研究者でなければ発見できなかったものである.ラッキーであったが当然見つかるべきものであった」「このように電子顕微鏡で差別化できる世界で初めてのものを見つけるには,装置に関してたゆまぬ工夫と改造,自分の技能を常に磨いておくこと,そして何を対象にするか,人がやったことはやらないという意識をしっかり持っておくこと,が必須である」.カーボンナノチューブ発見の想い出については次のように語っている.「当時アーク放電によるフラーレンC60の大量合成法が報告され(1990年),またC60の超伝導性が見つかるなどの研究が続いていた.たまたま名城大学の安藤義則教授がC60をアーク放電で造っていたので、その「燃えさし」をもらってきて,C60の生成過程を解明すべく調べた.1991年のことである.C60は陽極上や煤の中にあると言われていて,陰極はあまり注目されていなかったが、何処でも見てやろうということで陰極も詳細に調べた.目的の"たまねぎ"構造が見つかり,さらにそれに加えて,細長い構造物が見つかった.カーボンの一次元構造物,カーボンナノチューブの発見であった」

 1991年のカーボンナノチューブの発見以来,その基本的性質の解明および応用研究が盛んに行われた.飯島氏も引き続き表2に示すように精力的に研究を続けてきたし,また今も続けている.


表2 カーボンナノチューブ発見後の応用研究

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 又,飯島氏は独立行政法人産業技術総合研究所・ナノチューブ応用研究センターセンター長として,「スーパーグロース法を開発し[9],カーボンナノチューブの量産への道を拓き幅広い産業への応用展開を推進している(これについては後述).

4.カーボンナノチューブの産業への展開

4.1 カーボンナノチューブ(CNT)の産業化の課題

 「CNTの課題に2面があり,一つは科学的解明,もう一つは産業応用への展開である.前者についてはかなり達成されたが,後者は進展が遅々としている」と飯島氏は語る.後者,すなわち産業応用ではエレクトロニクスとケミカル分野があるが,エレクトロニクスの場合の課題の一つはCNTの製造時に金属の属性を持ったものと半導体の属性を持ったものが混在することである.区別して製造する制御法が検討されているが,出来たものを後で分離する方法も現実的で進んでいる.構造的な配置の制御については例えば基板上に触媒のパターンを作ってそのパターンに従ってCNTを成長させる方法を採ることが出来るようになっている.

 一方,ケミカル分野での課題は量産性に問題がありコストが安くならないことである.例えば,世の中で沢山使われている活性炭に比較して考えてみると,CNTは性能は優れているが量産性が3桁足りない.現在,次に紹介するように独立行政法人産業技術総合研究所である程度良質のCNTの量産を目指すパイロットプラントが動き出しており,従来に比べて飛躍的に高いレベルに来ている(600g/日)が,いろいろなアプリケーションに対応するためには今一つ更なる量産化への工夫がいるかも知れないと飯島氏は語った.

4.2 日本の状況

 日本の公立研究機関では,独立行政法人産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センター(センター長飯島澄男氏)および技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(Technology Research Association for Single Wall Carbon Nanotubes, TASC,2010年5月設立,理事長古河直純氏,スーパバイザー飯島澄男氏)が日本電気株式会社,東レ株式会社,帝人株式会社,日本ゼオン株式会社,住友精密工業株式会社等の企業と連携して,日本で発見されたカーボンナノチューブから,日本発のナノテク産業を立ち上げるのを目標に研究開発を推進している[10][11].

4.2.1 カーボンナノチューブの製造:スーパーグロース法

 ナノチューブ応用研究センター(当時ナノカーボン研究センター)は2004年に開発したカーボンナノチューブ製造法"スーパーグロース法"[9]をキー技術の一つにしている.スーパーグロース法は,水分が触媒の活性時間と活性度を飛躍的に向上させることを発見し,従来のCVD法の合成雰囲気にごく微量(ppm程度)の水分を添加することで,2.5mm程度の超長尺(従来世界記録の500倍),時間効率3000倍に達する超高効率成長を実現したものである(図3).


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図3 スーパーグロース法で生成したカーボンナノチューブ
(世界記録高密度高純度配列制御成長)[13]


 この方法で合成されるカーボンナノチューブは,不純物が従来の2000分の1と高純度(99.9%,従来品95%以下)で,配向性の極めて高い単層カーボンナノチューブである(表3).また,成長基板上の触媒パターンを制御することで,容易にマクロ構造体(図4)を作成できる上,合成後,容易に基板とナノチューブを分離することができる.さらに,短時間で大量にカーボンナノチューブを合成でき(600g/日程度)かつ触媒効率が従来法の約100倍(CNT/触媒量:50,000%)であり触媒使用量および製造コストの大幅な削減ができる(図5).これ等は産業化上最も重要なことである.また,研究成果を社会に還元すべく,これ等のカーボンナノチューブを大学・公立研究所および企業に提供している.


表3 スーパーグロースCNTと他の合成法によるナノチューブ(従来品)との比較[10]

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図4 マクロ構造体の作製[13]


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図5 量産のコア技術[10]
(安価な基板上に合成し,さらに基板を再利用する)


4.2.2 デバイス,機能材料への展開

 スーパーグロース法で造られたカーボンナノチューブには,当然のことであるがカーボンナノチューブの一般的な特性(①軽量で,引っ張り強度が高く,柔軟性がある,②耐食性,耐熱性がある,③熱伝導性がよい,④高電流密度の良導体である,⑤高移動度の半導体である,⑥比表面積が大きい,⑦高い電界放出特性を示す)があり,これ等の特徴を活かし図6に示すようなデバイス,機能材料開発が進められている.


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(a)カーボンナノチューブ機能と用途

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(b)カーボンナノチューブによる新産業創生

図6 カーボンナノチューブのデバイス,機能材料への展開[10][11]

4.3 海外の動向

 以上のような国内の研究開発状況をふまえて,次に海外の研究開発状況についてお伺いした.

米国:
 基礎研究的には,1995年スモーリー(Richard Errett Smalley:フラーレンの発見で1996年ノーベル化学賞受賞)が大々的にカーボンナノチューブの研究を開始した.アメリカは基礎とアプリケーションの両方をうまく展開しているようである.IBMが先頭に立ってナノカーボンテクノロジーの研究をやっており、最近ではIBMのフェードン・アブリース(Phaedon Avouris)氏(Siの表面のパッシベーションをやった人)のチームがグラフェンの集積回路の試作に成功したことが発表されている.彼は大学へ出ていかずIBMに残って開発を推進している.このようにアメリカの場合,ユニークな人が企業にいて,企業の中に多様さがあると同時に大学と企業の研究者が良いライバル関係にある(大学と民間との競争・連携等多様な環境がアメリカにはある.ワンサイドではない).最近CNTと競うように研究開発が活発化してきたグラフェンについて見ると、基礎分野とアプリケーションを睨んだ開発とが同時に進行している.その成果は韓国にも跳んで30インチのグラフェンウェーハが試作されたことが報告されている.翻って日本に目を向けると、学問的には優秀な先生が基礎的なところで力を持っているが、アプリケーションに向けた動きがないことが危惧される.

 アメリカの物理学会に行くと良くわかることだが,アメリカの物理学会は日本の物理学会,応用物理学会を合わせたもの以上のことをやっている.名刺を交換すると生物の先生もいる.

中国:
 中国では,CNTの糸を造ることが出来るようになっている.8インチのSiウエハーの上にカーボンナノチューブをびっしり生やし,それを先端からまゆ玉から生糸を紡ぐように巻きとっていく.何百メートルも紡ぎそして編んでいる.

 また,6インチサイズのスダレにし,その上にさらに90度直角になるようにスダレを重ねて,タッチパネルにする.透過率は約80%.これを用いたスマートフォーンがすでに開発されているとのことである.中国は,ナノテクサイエンスに人,物,金を注ぎ込んでいる.日本は置いて行かれそうな雰囲気であり危惧している.

 China Nano(西安大学から出た会社)はCNTで先行していた日本の昭和電工に比較して価格が1/3のものを世に出してきている.これに対し先行組の昭和電工,ドイツ・バイエルンは苦戦している.

韓国:
 サムソンがCNTによる32インチカラーフィールドエミッションディスプレイを実現した.これは有機ELにコストで負けたが,次にLCDのバックライトに適用しシャープな画像を得ることも試みた.しかし,これも有機ELに移行するとの社の方針で今年の4月に中止となった.サムソンは元気で,何でもトップにやる.言葉が悪いが,サムソンには今のところ基礎研究的なものが無いので,何にでも飛びつく.アメリカをはじめ世界から人を呼び集めてやる.しかしうまくいかないとすぐ止める.このような文化が,今は功を奏している.

ドイツ:
 日本には徒弟制度があったようにドイツにはマイスター制度があった.日本同様バック,伝統があり研究に基礎があった.このシステムは日本・ドイツ共に大切にすべきものである.これに反し中国は今ゼロベースである.これからこのようなものを築いて行くであろう.

5.日本の計測・評価技術研究の今後の進め方:日本の現状と心配事,日本の強みを活かして

 物造り同様"計測・評価・解析技術"はナノテクノロジーのキー技術である.今注意しなければならないのは,物造りと評価技術,これが車の両輪のごとく並行して進まなければならないことである.日本はこれを併行してやってきた.中国,韓国には今のところ評価技術はまだ無い.日本は今まで金をつぎ込んでやってきたが,不況になるとそれが切られる.切られると,日本は中国,韓国と同じになってしまう.目先だけでなく総合的・長期的にやっていく必要がある.中国,韓国は自分たちに評価技術が無いのを認識しているので,日本がボヤっとしている内に追い抜かれることになろう.彼らには金もパワーもある.日本は目先だけではなく総合的に長期的にやっていく必要がある.幸いにして,日本には師匠・弟子・孫弟子に例えられるような研究室文化がある.これを活かし,日本のこれまでの地位・状況を守りかつより高めなければならない.

 電子顕微鏡についてみれば,かつて日立と日本電子がトップを走ってきた.ところが最近,球面収差補正技術をドイツのベンチャー"セオス"が開発し,第3世代の超高性能電子顕微鏡を物にし,世に出してきた.日本はビハインドになった.

 技術は,何故か(Why)が解っていないと本物ではない.評価技術から物の性質を明らかにし,そして応用を考えていく.Whyが解るような評価技術はいかなる時代にも大切にしなければならない.そのWhyを解き明かすのは科学技術であり,それを後押しするのが科学技術予算であるが,お金の使い方が日本は上手ではない.補正予算で物を買う.次の年にはどうなるか解らない.このような次の年のことが解らないところにいい人材は集まらない.10年位のロングレンジの投資をしなければ人は育たない.COEも同じで,期間が終わったら大変である.導入した高価で有用な諸設備をどうやって維持・メンテしていくかにつき皆苦労している.

 飯島氏は関与した日本で第一号のERATOで,高性能な電子顕微鏡を開発・製造し,5年の期間内に成果を出した.成果物の一つである研究開発者の魂のはいった電子顕微鏡は5年間の期間終了後倉庫へ行く羽目になった.幸い,次のERATOの先生が活用してくれることになり,飯島氏はそこに通って自分の魂の入った顕微鏡を使わせてもらったとのことである.魂の入った苦労して開発した装置を,期間が過ぎたからということで倉庫に持っていくようなことは改めねばならない.全般に,国は金の使い方をもっと工夫すべきである.

 シンガポールには300億円かけてグラフェン研究所が出来ている.韓国もほぼ同じような状況.日本は30億円弱である.日本もこのように世界の動きを気にしなければならなくなった.長期計画を作って,研究費を戦略的に交付することが大切である.

6.若手研究者への期待と助言

 若者への期待と助言についてお伺いし,以下の所見をもらった.

 「チャレンジングな精神(未知のものに立ち向かう),小さく纏まらないこと,夢を持って果敢に挑戦.現実はどうするか? 私自身のことでいえば,電子顕微鏡をとことん追求し,そして人に無いものを見につけることが出来た.これが私のバックボーンになっている.若い人にも,バックボーンを持つよう努力することを望む」

 「人がやったことはやらない.これには強いモーチベーションが必要.研究というのは,興味があれば,どのような環境下でもできるもの」

 「日本の若い皆さんにお願いしたいことは,企業で研究しようと,大学等で研究しようと,そういう枠にこだわらず,日本に誇れる研究成果を生み出して欲しいということ.誇れるものがないことは,世界の中で伍していくとき,精神的ゆとりができない.日本の文化を創造するんだ,というぐらいの自負が必要である.例えば,私の専門である電子顕微鏡による研究や製造技術は,世界に誇れる技術だと思っている.ぜひ,皆さんも世界に誇れる科学・技術を創造して頂きたい」

 飯島氏は,故日比忠俊先生の「本なんか読むな! 実験しろ!」の言葉を紹介された.これが,氏の走りながら考える,人がやったことはやらない独創研究スタイルに結びついたのだと推察した.

7.終わりに

 カーボンナノチューブは日本で発見され,日本をはじめ世界中でその魅力ある特性が明らかにされ,現在それらを活用する応用開発が中国,韓国をはじめとする新興国を含め活発に進められている.日本では独立行政法人産業技術総合研究所,技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構をはじめ多くの企業が連携して産業化に挑戦している.これに日本が得意とするナノ計測・分析・解析等のナノテクノロジーの力を加え,我々の生活をグリーンでかつ豊かにする産業に育つことが待たれる.

 また,本インタビューの最後に「炭素以外の元素にも,まだまだ魅力的なナノの世界が広がっている.もう一つくらい大きな発見をしたいと願っている」とつぶやかれた飯島氏の言葉に, "わくわくする面白い新たな発見"に大きな期待を持った.

参考文献

[1] S. Iijima, "High-resolution electron microscopy of crystal lattice of titanium niobium oxide", Journal of Applied Physics, Vol. 42, No. 13, pp. 5891-5893 (1971).
[2] S. Iijima, S. Kimura, and M. Goto, "Direct observation of point defects in Nb12O29 by high-resolution electron microscopy", Acta Crystallographica, Section A: Foundations of Crystallography, Vol. 29, Part 6, pp. 632-636 (1973).
[3] S. Iijima, "Observation of single and clusters of atoms in bright field electron microscopy", Optik, 48, 193-214 (1977).
[4] S. Iijima and T. Ichihashi, "Motion of surface atoms on small gold particles revealed by HREM with real-time VTR system", Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 24, No. 2, pp. L125-L128 (1985).
[5] S. Iijima, "The 60-Carbon cluster has been revealed!", The Journal of Physical Chemistry, 91, 3466-3467 (1987).
[6] S. Iijima, "Helical microtubules of graphitic carbon", Nature, Vol. 354, No. 6348, pp. 56-58 (1991).
[7] S. Iijima and T. Ichihashi, "Single-shell carbon nanotubes of 1-nm diameter", Nature, Vol. 363, No. 6430, pp. 603-605 (1993).
[8] M. Sharon, K. Mukhopadhyay, K. Yase, S. Iijima, Y. Ando, and X. Zhao, "Spongy carbon nanobeads- A new material", Carbon, Vol. 36, No. 5/6, pp. 507-511 (1998).
[9] K. Hata, D. N. Futaba, K. Mizuno, T. Namai, M. Yumura, and S. Iijima, "Water-assisted highly efficient synthesis of impurity-free single-walled carbon nanotubes", Science, Vol. 306, No. 5700, pp. 1362-1364 (2004).
[10] 産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センタースーパーグロースCNTチーム
[11] 単層CNT融合新材料研究開発機構
[12] Sumio Iijima's Web - Nanotubelites
[13] 産総研プレスリリース「画期的な単層カーボンナノチューブ合成技術を開発」
[14] 「NEC,技術と人の紹介コラム,カーボンナノチューブ」
[15] 「ナノスケール構造の解明に人生を賭けた電子顕微鏡のスーパースペシャリスト」(財)武田計測先端知財団,2006/12/21


(真辺俊勝)