NanotechJapan Bulletin

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Vol. 8, No. 2, 2015年4月30日発行/Collaboナノテクノロジー(座談会)

「Collaboナノテクノロジー」企画特集
<座談会>
ナノテクノロジープラットフォームを活用した地域産業とのコラボによるイノベーションの創出
~産学官連携により広がる可能性と未来への挑戦~

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 文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム(NPJ)」事業は2012年に発足し,ナノテクノロジーに関する最先端研究設備の整備・共用・利用支援によって,産学官連携,異分野融合を促進し,イノベーション創出に貢献することを目指している.設備の共用体制としては,ナノテクノロジーの基本技術領域に対応して,微細構造解析,微細加工,分子・物質合成の3つのプラットフォーム(PF)を設け,最先端の計測,評価,加工,合成設備の利用機会を,高度な技術支援とともに提供して来た.そして,その利用機会拡大のために,研究設備の“試行的利用”事業(FS)を行っている.一方,異分野融合,産学官連携,共用設備の利用促進のため,NPJセンター機関の物質・材料研究機構(NIMS)は分野融合連携推進マネージャーを置いて,分野を超えた連携の推進を図る.また,地域産業とのコラボレーションのため,科学技術振興機構(JST)は全国5地域(北海道,東北・関東甲信越,東海・北陸,関西・四国,中国・九州)に産学官連携推進マネージャーを配置している.連携(コラボレーション)を主題とするNanotechJapan Bulletinの新シリーズのスタートを前に,ナノテクノロジープラットフォームを活用した地域産業とのコラボレーションによるイノベーションの創出に向け,連携推進の現状を把握し,将来を展望する座談会がJST東京本部別館で開かれた.


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【出席者】
科学技術振興機構 イノベーション拠点推進部
ナノテクノロジープラットフォーム事業担当 産学官連携推進マネージャー
 東 陽介 (北海道担当,ひがし ようすけ)
 戸田 秀夫 (東北・関東甲信越担当,とだ ひでお)
 松山 豊 (東海・北陸担当,まつやま ゆたか)
 吉川 昭男 (関西・四国担当,よしかわ あきお)
 坂本 哲雄 (中国・九州担当,さかもと てつお)
物質・材料研究機構 ナノテクノロジープラットフォームセンター 分野融合連携推進マネージャー
 吉原 邦夫 (よしはら くにお)
【司会】
物質・材料研究機構 ナノテクノロジープラットフォームセンター 副センター長
 古屋 一夫 (ふるや かずお)

(座談会開催日:2015年3月17日)


座談会開催の趣旨

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【古屋】 ナノテクノロジープラットフォーム事業の中で発行しているWebマガジン "NanotechJapan Bulletin"は,事業で得られた成果の発信と,内外の優れたナノテクノロジーの最新成果の紹介,という2つの企画シリーズを連載して来ました.前者は,「ナノテクノロジーEXPRESS」と名付け,37の実施機関の成果を各機関に紹介してもらいました.2014年度末までに各機関が一巡し,好評のうちに終えることができました.2015年度からは連携推進マネージャーの活躍による,プラットフォームにおけるコラボレーションの成果を「Collaboナノテクノロジー」企画特集として連載して行きたいと考えています.この新シリーズに先立って,日本全国5つの地域で地元の産業界と密接にコンタクトされている連携推進マネージャーの方々にお集まりいただき,日頃のご苦労されている内容など,あまり表にでないことを含めてお話しを伺いたいと思います.座談会は3部構成を考えています.第1部では,共用施設を活用した地域産業の新たな研究展開についての全般的な現状分析を行い,第2部では,地域産業での産学官連携の具体例を紹介して頂きます.最後の第3部では,装置共用の必要性,将来の展望や提言を伺いたいと思います.


1.共用施設を活用した地域産業の新たな研究展開の現状

【古屋】 ナノテクノロジープラットフォーム(NPJ)では大学などが公的資金で購入した最先端の設備を共用とし,外部のユーザーにも使ってもらっています.設備の共用,利用はどんな受け止め方をされているのでしょうか,利用したい方はどんな状況にあるのでしょうか,微細加工,微細構造解析,分子・物質合成という,3つのPFの形は受け入れられ易いのでしょうか,先ずこういった全般的なことから伺いたいと思います.


1.1 ナノテクノロジープラットフォームはどのように受け止められているか

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【東 (北海道担当)】 現場で直接お話しを聞いて感じるのは,ナノテクに馴染みのある一部の大企業にはNPJが理解され易い印象があります.一方,地域の中小企業や異分野の方々に話を聴くと,ナノテクは半導体微細加工等狭い技術分野のイメージを持っている人が多く,合成でも構造解析でも色々なことができるのに自分には関係ないと感じる人が多い印象を受けます.まずその誤解を解く必要があり,それが,連携推進マネージャーの重要な仕事と感じています.

【古屋】 ナノテクというとアカデミックなものと思われているのかも知れませんね.

【戸田 (東北・関東甲信越担当)】 2年前,産学官連携推進マネージャーとして着任時,交流のある産学官連携の関係者にナノテクノロジープラットフォーム事業(NPJ)について聞いたところ,利用歴がないだけでなく,その存在さえ知らない人が殆どでした.そこで第一にNPJの広報,次にシーズ・ニーズの適切なマッチング,更に利用者の希望に応じ成果展開のお手伝いをすることを心掛けてきました.

【古屋】 NPJの共用設備 はNPJの中にいる人が相互に利用するものと誤解している人がいるようです.多くの国のプロジェクトは,メンバーを限定していることが多いため,NPJも同じと思われているような気がしていますが,いかがですか.

【東】 私が回っている現場では,NPJはこのネットワークに参加している人だけが利用できるものと言う誤解は少ないように感じます.これはナノネット時代から続くこれまでの実施機関の皆様のご努力のおかげでしょう.その一方,近隣大学だけしか使えないという誤解は意外に多く,全国ネットワークである利点が十分伝わっていない印象がありました.マネージャーとしては,そういった点を強調してお伝えするようにしています.

【戸田】 3つのプラットフォームの名が体を表していない面があり,相手によって読み替えて説明しています.微細構造解析はそのままでも解りますが,分子・物質合成PFは合成に関する設備よりも機能評価設備が多い感じがあります.企業ユーザーを増やすために,「ものづくりのための3つのプラットフォーム」とし,構造解析,機能評価,デバイス化が出来る設備があります.そういった機能を一つにまとめているのがNPJです.だから「NPJには何を持ち込んでも良いのですよ!!」と言っています.

【松山 (東海・北陸担当)】 NPJという事業はよく説明すると,こんな良いものがあったのか,と分ってもらえます.NPJというだけでは分り難いし,展示会のパネルに書いてあることも学術的な書き方であり,中小企業さんにとっては難しい内容に見えます.そこで,名古屋大学のPFでは,「名古屋大学の装置を使ってみませんか」といった書き方をします.NPJは,特長をきちんと理解してもらえれば,これからニーズはどんどん増えてくるでしょう.ナノテクというと,機械や自動車関連の企業が多い東海・北陸地区の人に,半導体デバイスのための支援システムではないかという偏ったイメージを持たれてしまいがちですが,いろいろ話して認識が変わって来ています.ものづくりには4つの要素,4Mがあります.材料(Material),機械(Machine),プロセス(Method),携わる人(Man)ですが,例えば,材料なら,既存の材料にNPJの合成PFで作った新材料が加わり,微細加工PFで今までにない加工ができる,といった風に,NPJがどのように自社のものづくりを変える可能性があるのか,読み替えて説明します.いろいろなNPJ活用展開の方向があり得るのですが,ナノテクというだけでは,応用展開が思い浮かびません.ヒントを与え,プラットフォームの先生方のサポートもあるというと,それが大きな魅力になって,一度利用してみようかとなります.

【古屋】 分り易くするために3つのプラットフォームに分けたのですが,ものづくりの人に合ったものになっていなかったということのようです.別の分け方があるのかも知れません.

【松山】 ナノテクというと,製造業分類の中では,電子部品・デバイス・電子回路製造業,電気機械器具製造業辺りを考えてしまいがちです.建設業も関係するのですが,そうは思われていません.段々と適用例が出て来るようになり,理解は進みつつあるようです.

【吉川 (関西・四国担当)】 関西・四国地区でNPJを何となく知っている人は多いようですが,NPJで何ができるか分っていないようで,展示会など機会を捉えて説明するようにしています.説明するとNPJの良さを分ってもらえます.よくある誤解には大学の先生だけが使うものというのがあります.企業は使えないといった誤解があります.NPJの前の事業(ナノテクノロジー・ネットワーク,ナノテクノロジー総合支援プロジェクト)も含めて正確には伝わっていません.うまく使ってもらえるように説明しています.
 中小企業は大きい設備を持たないので,必要になるとすぐ使おうとしますが,ハイエンドの使い方でなく,汎用的な使い方で,一般的な検証などに使っています.しかし,ベンチャーなどで面白い発想をして積極的に使い,FS(研究設備の試行的利用事業,若手や新規利用者等を対象に,費用も支援する)の後も使っているところがあります.
 大企業は暫く不景気だったので大きな設備が買えなかったため使いたいという場合がありますが,利用するための社内手続の手間や,利用後の報告書による技術流出の恐れなどが,利用する上での抵抗になることがあるようです.
 そうはいっても,全体的には歓迎され,利用が進む方向にあります.大学などの若手研究者は積極的に利用して,ステップアップに役立てています.

【坂本 (中国・九州担当)】 ユーザーを大学などのアカデミアと企業とに分けると,それぞれのベクトルが違います.大学は先端指向ですが,企業は自社の利益に役立つことを重視します.
 企業に絞って話すと,福岡県内105社に面談の声をかけました.このうち6割は無回答,9社はナノテクに関係ありませんと答えて来ました.訪問できたのは32社でした.結局10社が興味を持ち,5~6社が実際に使いました.
 2~3年前はリーマンショック後で,企業経営が厳しい状況にありました.不景気のために新しいテーマを考える必要に迫られていましたが,今は景気が良くなって忙しくなり,新テーマの検討に割くマンパワーも時間も余裕がなくなってきているようです.ベンチャー企業やスピンアウトした専門性の高い企業は,アイデアを試行するところを求めています.しかし,利用したいが人が足りない状況です.半導体におけるファンドリーのようなアイデアを形にしてくれるところがあると有難いという感じです.
 大企業は丸投げするのではなく,研究の一部を試してみる場合が多いようです.安く使えて,大学とコンタクトできるのがメリットです.NPJの狙いはNPJ利用の後に展開できるようなシーズを見つけることですが,なかなかブレークスルーに繋がるようなものは出て来ません,それには信頼関係の構築により,本当に何を必要としているのかの理解が要りますから,時間がかかりそうです.
 説明の時に,トップダウン加工は微細加工PF,ボトムアップは分子・物質合成PF,共通する最先端の計測,解析技術を担当するのが微細構造解析PFというと理解され易いようです.ホームページなどで公開になっている事例を示すとよく分ってもらえます.こんなことができるという具体例があると分り易いということでしょう.


1.2 どんなきっかけで,何に惹かれてNPJを利用するようになるか

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【古屋】 ナノテクノロジー総合支援プロジェクト,ナノテクノロジー・ネットワークと10年間経ち,NPJも3年になりましたが,皆さんのお蔭でやっと認知度が高まったようです.
 視点を変えて,お話し頂こうと思いますが,ユーザーが利用する時には何が魅力になるでしょうか.また,知財の関係では,大学の場合はオープンですが,企業が使う時はConfidentialにします.それでも,企業が共用装置を使っている傍に学生もいますから完全に機密を守るということにはならない場合もあります.このため,企業はやってみたいことがあっても,ためらってしまう.また,利用料はどう捉えられているでしょうか.試行的利用(FS)はどう受け入れられているでしょうか.

【戸田】 ユーザーが利用するかしないかを決める要因は,対象とすべき課題があって時間的な制約が少ないことを前提とすると,大学だと利用料・旅費の費用だけだが,企業だと分析・解析部門とものづくり部門で分かれます.分析・解析は社内でできなかったことを頼んで来ますから,利用するのに問題はありません.ものづくりの場合が問題となります.事業部門では研究も自分のところでやれるし,機密の観点からもNPJを利用しにくい環境にあると思います.一方,将来研究部門の研究所は2~3年程度で結果を求められるので極めて忙しく,また社内の関連部門との調整が難しいこともあって利用に踏み切れないことも少なくありません.中小企業は余裕の有無と費用面が大きいと思います.知財の問題はこれまでのところありませんでしたが,利用対象が知財対象以前の研究初期段階のもの,または開始時の実施機関との契約でカバーできているのかも知れません.FSは研究開発に役立っています.有望な課題なら,新しい着想でなくても利用できるようになると良いと考えています.

【古屋】 使い始めるのにバリアがあるのでしょうか.

【東】 人的サポートの重要性を強く感じます.先端機器は使いこなせるようになるまでに時間がかかると感じる方が多いです.スピードを要求される研究環境で使いたいが使い方を習得するだけの余裕がないのです.異分野研究者ならなおさらでしょう.NPJの特徴である人的なサポートを十分受けながら利用できる点を強調してご紹介すると反応が変わってくる事が多いです.
 また,北海道のような地域でFSは重要です.例えば,北海道から愛知にある分子研のNMRを使えばさらに良いデータが出るはずですと勧めても,取れるかどうかわからないデータを遠方の全く知らない先生のところにとりに行くのに二の足を踏むのは当然です.しかし,FSのおかげで道外に行っていただいて良いデータを取る事例が増えてきています.そういった意味で,FSは利用する際の障壁を下げる効果があります.また,ご利用いただいた方々に感想を聞くと,初期段階でJSTの人間が実施機関との間に入って調整を行う事で心理的負担が低減されるとおっしゃる方も多いです.やはり地域の企業にとって大学はまだまだ敷居が高く感じるようです.

【松山】 FSがないとたいへん困ります.商談会でサポートがあると言うと,中堅中小企業は,目を開いてくれます.FSでなくても,利用価格が安いのが良い.知財の面では,北陸に多い医薬品関係の企業は,利用に慎重です.大手製造業で外部資源の活用に慣れたところは,問題のないところを切り分けて選んで依頼して来ます.社内でそういった切り分けや調整のできる人のいるところはうまくNPJを利用しています.

【古屋】 医薬品関係は物質特許に関係するものがあるので難しいのではないかという気がしていました.

【坂本】 多くの製造業では多くの特許で一つの製品ができています.医薬品は1特許,1製品と言われるように特許の価値が高く,ガードが固くなると聞いています.

【松山】 医薬品の開発関連企業でNPJ実施機関のNMRを使うと良いと勧め,研究者も非常に利用したがっていたのに,3年かけても使うようになっていないような例もあります.

【吉原】 NPJを薬学の展示に出したときに,業界の特質を把握してアプローチすることが必要と感じました.BIO tech展示会などでコンタクトして見ると,化学薬品関係は今のところクローズですが,自前だけではやれないと思っていて,オープンイノベーションの気運はあります.BIO techではNPJを知らない人がほとんどでしたが,説明しているうちに,使ってみようかとなりました.業界の特質,動向に合わせたアプローチが必要です.

【坂本】 産学連携が進み,複数の企業の参加によるコンソーシアムなどを想定したとき,そのコンソーシアムができてからの特許は使えるが,コンソーシアム前の特許を使う必要が起って問題になることがあります.マネージャーが参加企業の問題を整理して,取り纏めて世話をするには専門知識が必要で,知財の専門家の助けを借りる必要があります.

【松山】 利用申し込みに,知財や守秘の扱い等,利用者が不利にならない旨を記載した約款方式を採用したところ,大企業でも安心してスムーズに使ってもらえるようになりました.

【吉川】 知財は難しい.実施機関に行ったら,自分の特許の持分を渡さねばならなくなると誤解されていることもあります.特に複数機関が特許を所有している時の扱いは難しい.微細加工PFでは自分で作業し,他人が触れることはないが,その設備の周りには他社の利用者もいて,他社の人に見えてしまいます.これに対する保護の方策があるとよいでしょう.ユーザーが利用するかどうかは,必要性とタイミングで決まります.初めて着手する時に試行から入るのはやり易いのでFSは有用と思います.

【坂本】 利用するかどうかには時間軸があります.ラインが止まっている等緊急を要するときには,すぐにやらねばなりません.機能性を高める,付加価値を付けるなど2~3年先のもの,先端的であるため初期のリスクが大きく自社ではやれないものがNPJに適しています.
 NPJの先行プロジェクトでは敷居が高かったという反省がありました.先端装置は入っているが,管理している先生が忙しい,マニュアルだけでは使えない,メンテナンスが良くないから使いたい時に使えない,という印象がありました.NPJは人やメンテナンスも手当てしてあるというと使う気になってもらえます.

【吉原】 試行的利用に限らず,利用するかどうかについては,大企業でNPJを否定する人は全くいないが,ユーザーになることは少なく,試行の数も増えていません.これには,知財や社内決裁の問題があるようです.若手が使いたいと思っても周りからは止めておけといわれ,無言の圧力もありそうです.やる気と無言の圧力とのバランスを崩す前向きな力が必要でしょう.FSは多くの障害の幾つかを除く役をしますが,無言の圧力の抵抗は強い.そうした中で,企業への出前説明会は有効です.大学の先生が行くと上司も挨拶に出て来ます.上司が理解すると無言の圧力が解消され,若手が使い易くなります.電子デバイスには"Not invented here"の歴史がありました.業界全体がオープンイノベーションに向かうのが望ましいと思います.NPJをオープンイノベーションの一環としてPRしたらどうでしょう.


1.3 公設試や研究受託会社とNPJの関係

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【古屋】 民間には分析を中心に,研究受託会社があります.また,各地方には公設試験研究機関(公設試)があって,その地方の中小企業と連携して問題解決に当って来ました.NPJはそこに割って入る形になります.民業圧迫といわれかねないということはありませんか.

【戸田】 公設試で実施することが相応しい課題もあれば,NPJで実施することが相応しい課題もありますので,公設試とは補完関係を構築しつつあります.また,NPJは民間受託会社と本質的に異なった利用のされ方をしています.

【吉川】 公設試のやれないことをNPJでやるようにしています.構造解析PFの持っている機能などで公設試にないものがありますから,公設試のできないところをNPJがサポートします.公設試の人がここから先はNPJに行くようにと勧めていることもあります.公設試とNPJは補完関係になっています.

【古屋】 公設試は常設機関なのに,NPJは時限プロジェクトだからいつまでも頼っていられるかと不安だと考える人もいるでしょう.NPJと組む計画を立てても崩れてしまうことはないか,どこまで頼れるかと心配されることはありませんか.

【戸田】 地元企業は先ず公設試を考えます.公設試でできないものをNPJでやるのですから,時限であってもNPJの役割は十分あります.地元企業はこれまでも公設試と大学と組んで来ていますから,そこにNPJが加わってより強化されます.

【松山】 公設試は,工業標準などの試験や評価をきちんとやります.このため,大学ではできない,評価や試験の成績結果が欲しいという時に紹介しています.

【東】 JSTは長年,地域公設試研究機関と協力関係を築いてきました.北海道地区では,この関係を活かし発展させる形で活動しています.啓発活動に公設試のメーリングリストに記事を掲載いただいたり,地域企業が集まる公設試の発表会でNPJに関する展示をさせていただいたり,後援をいただいて公設試でセミナーを企画するなど,大学だけではアプローチしづらい地元企業を中心とした潜在ユーザー群にアプローチしています.同時に実施機関の一つである北海道大学は公設試と共同研究等で関係を深めてきた歴史もあり,公設試でできないものをNPJで,NPJに来た課題でも公設試で実施した方が良いものは逆に公設試に相談する協力関係ができています.一つの課題をNPJだけの機器だけで解決できない事も多々ありますので,こういった連携関係を深化するお手伝いができればと考えています.


1.4 人材育成とNPJの支援のあり方

【古屋】 技術養成や人材育成プログラムはどの程度必要か,人材育成について伺いたいと思います.どこまでサポートするか,社会人教育に当ることはこのプロジェクトに馴染むか,サポート人材を育成するかなどです.

【戸田】 共用装置の利用はユーザーに直接やってもらうのが一番良いのですが,何年も続けてやる人ではないから,教育・育成には限度があるでしょう.教育や支援に問題があって,一つの実施機関でうまく行かなかったら,ネットワークの中の別の機関で実施するなど,ネットワークでカバーしても良いと思います.

【松山】 実施機関の大学では,トレーニングプログラムを持っていて,トレーニングを終了しないと利用させないようにしていることもあります.

【戸田】 どこまで実施機関がやるか決めるのは難しい.利用者には代行的考えの人もいますから.ネットワーク全体で要求に応えられたら良いのではありませんか.

【松山】 利用者側の問題として,丸投げでも全部やってもらえると思っているユーザーもあります.

【戸田】 TBS『生き物にサンキュー』のスタッフから「くらげの刺胞を電子顕微鏡で見たい」という相談がありました.クラゲの毒針はすごい機能を持っているという生態紹介を考えており,クラゲの刺胞の様子を細部まで撮影したい,刺胞が発射されコイル状に伸びる様子を動画で撮影できないかというものでした.設備手当など実施機関に多大な協力をして頂きましたが,NPJ側にはクラゲという生き物を扱える人がいないだけでなく,クラゲの触手から刺胞を取り出せる先生を探すことも困難でした.

【松山】 産業界や地域との関係の発展については,中部地区では名古屋市の産業振興公社,金融機関などとも連携し,NPJの活用を広げています.

【坂本】 装置を安く利用できるので民業圧迫ではないかといわれるが,大学の先生は研究を通じて知識を積み上げています.この知識を引き出して使うのがNPJの目的ではないでしょうか.ただ,これをやる仕掛けが少し弱いように感じます.

【戸田】 企業研究者にとっては,先端設備を使って専門スタッフのノウハウを受けながら現在の課題を解決するだけでなく,むしろ将来の研究開発テーマ発掘の手助けになるような場としても期待しているので,そういった観点からの発信が今後更に必要だと思います.

【古屋】 利用件数などでNPJを評価しがちだが,大学の持っている知見やノウハウが社会に還元されるという点に注目すべきだと理解しました.大学や国研の持っている知見を活用できることにNPJの意味があり,民間の受託会社とは違うし,公設試よりレベルの高い仕事ができることになるでしょう.


2.個別のケーススタディー ~地域連携での産学官連携の具体例~

【古屋】 数ある地域連携の中から,興味深いと思われる具体例を紹介してください.

2.1 地域に密着したテーマで基礎研究も生まれる

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【坂本】 企業にNPJを紹介して何かできないか探っている中で,2~3,今後伸びそうなものが出て来ました.九州には大企業の研究機関がほとんどありませんので,中小企業の利用が中心になります.中小だと,やりたいことがあっても,人と金と時間がないのでやれません.ファンドの取得が先になります.そこで,ファンドを既に貰っているところにアプローチしています.
 その一つに,JSTの先端計測分析技術受託企業があります.大学の先生に頼まれて装置を作ったのが始まりでした.これを商品にしようということになり,大学は自分のところのシーズが商品になるのでバックアップしています.また,同じ企業ですが薄膜表面センサのキャラクタリゼーションにNPJを利用していただいています.燃料電池の水素の漏れを検知し,水素が空間に広がるのを検出するセンサで水素検出システムとして商品化されています.
 地域に刃物の会社がありますが,これまでの経験を元に,切る材料によって刃物の角度条件を変えています.対象が金属などに限られていたので経験を積み上げて,その経験を活かすことができていました.最近は,ガラスに近い性質を持つ有機フィルムや積層フィルムなどが持ち込まれ,月に数十万枚も打ち抜きで切ることが求められるようになりました.フィルムなどの化学材料は種類も多く,さらには,経験を積み上げる間もなくどんどん対象が変わっているそうです.そこで,切るとは何かという基礎からの技術の底上げが必要になりました.ものを切るというプロセスも要素技術に分けて深めれば,アカデミックなものになります.大学の先生も研究対象としてサポートするようになります.残念なことに,全体を把握して纏めて行く,人材が見当たらず,苦労しているところです.
 連携推進マネージャーの仕事の一つは,将来のプロジェクトの種を見つけることと思っています.
 北九州は金型が発達しています.金型加工は,表面粗さが10~20nmの平坦度が必要ですが,金属を一層ずつ剥がして行くような作業です.寸法としてはナノより大きく,メソスコピックの領域にあります.このような中間的な領域をどう取り上げるかという課題があります.地域に特色のある産業がありますが,NPJは全国を平準化した組織になっています.このため,地域に合った課題に対して産学連携をしようとしたとき,ミスマッチングになることがあります.


2.2 大学の知を繋いで新技術の特徴を解明

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【吉川】 株式会社P.D.C.Aとシグマテクノロジー有限会社が共同でNPJを利用した事例があります.前任者から引き継いだ案件です.前任者がNPJの実施機関が開催する地域セミナーの中でNPJの事業内容を紹介しました.その後しばらく経った平成25年度末にナノバブルのサイズや密度が判らないので解明したいという相談に来られました.液体中のバブルなのでそのまま電顕で見るわけにいきません.そこで,NPJから実施機関の大学の先生方に相談したところ,ちょうど阪大の先生のところでクライオTEMを導入し立ち上げ始めていたところだったので,ナノバブルの入った液体を凍らせて見てはどうかということになりました.凍らせて観察すると,バブルの直径が7nm,密度が81京(1016)個/ccという高密度で直径の小さいナノバブルが観察できました.これらのバブルは,液中で同じ場所にずっと留まっていることができるなど,通常のマイクロバブルとは液体中での振る舞いが異なります.この性質によって,例えば酸素のバブルでは,シリコンの酸化効率が高く,使用条件によってはエッチング作用が強いので半導体製造装置に適用されたりしています.このようにNPJの装置を利用することにより,特殊なプロセス作用を発揮するナノバブルの大きさを観察し,ナノバブルが発生している密度を定量的に把握していくことができます.その結果,このような作用を科学的に,かつ,定量的に理解することができ商品開発に役立てることができます.
 株式会社P.D.C.Aとシグマテクノロジー有限会社は,このナノバブルを上記以外の様々な分野に応用する目的で,実施機関の阪大の先生から紹介された先生と,さらに詳細にナノバブルの作用を解明し,商品開発の適用分野を広げようとしています.この共同研究の過程で公表すべき内容については論文発表をすることができますし,このような研究シーズをベースにJSTのA-STEP(研究成果最適展開支援プログラム)などのファンディング制度に応募して資金を獲得し開発をスピードアップすることもできます.NPJを利用することにより,自社の製品のコア技術をよく知り,大学の先生と知り合うことでさらに研究開発が進む好事例だと思います.


2.3 金融機関との連携がNPJ利用の道を拓くこともある

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【松山】 中小企業のNPJ利用として,(株)ヤマグチマイカと夢木香(株)(ユメキコウ)の例があります.
 愛知県は雲母の産地で,(株)ヤマグチマイカは昔からスメクタイト(粘土鉱物の一種)等を自動車の塗料や化粧品の材料向けに生産して来ましたが,天然資源は今後の枯渇や品質のばらつきが見込まれるので,粘土系材料を人工的に合成しました.ところが,人工的に合成されたものに,成分元素であるナトリウム(Na)がきちんと配位されているかどうかが分らない.取引先の化粧品会社はそこが確認されていないと使えないといいます.放射光を使って分析しても分らなかった.そこで,NIMS微細構造解析PFのNMRで支援をいただき,温度変化させながらNMRのピークの変化を見ると二種類の状態があり,結論として,Naが狙い通りの結晶間に配位されていることが分りました.設計通りの配位ができていること,またそれがNPJを活用して明確にできたことから,化粧品メーカーは,この開発した材料を利用し,2016年に商品化することになりました.品質上も合成の方が安定しているといいます.
 夢木香(株)は名古屋でログハウスを製造販売している会社です.木や森林に対する想いが強く,伊勢神宮の遷宮の際に利用される木曽ヒノキ産地との交流事業なども展開されています.この木曽ヒノキの間伐材からとったヒノキの精油が混じった水,ヒノキ水(檜水)を作りました.これにはアンモニア等の消臭効果があります.その化学成分と分子レベルでの消臭メカニズムを知りたいという相談がありました.そこで名古屋大学分子・物質合成PFに相談しました.NMRで調べようということになり,NPJを利用した試行的利用でアンモニアはヒノキ水の水で吸収されることが分りました.他の臭い成分を調べて行く中で,ヒノキ精油の消臭効果が分ってきました.夢木香(株)はNPJのお蔭で,会社にない知見が得られたと喜んでいます.利用のきっかけは,三菱東京UFJ銀行からNPJを紹介されたことであり,金融機関との連携によるものでした.金融機関との連携は,NPJの敷居を低くする事例になるでしょう.


2.4 地域の課題では公設試と連携,企業・大学・公設試の産学公連携も支援

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【戸田】 様々な広報活動の結果,多くの課題相談が寄せられました.その中で,FS応募からNPJ活用の例,他機関紹介の例,公設試との補完関係の例について一部紹介します.
 まずFS応募からNPJ活用の例として,最初は,田中貴金属工業株式会社の「ナノめっき技術を応用した硬質貴金属電機接点の実用化に関する研究」です.担当者は工学博士ですが,配属された生産技術部の研究環境が不充分で,自分の考えたことをNPJで実験して確かめたものです.早稲田大学微細加工PFのナノめっき技術を応用しました.尚,担当者は社内の部署異動で研究継続が出来なくなりましたが,その後も丁寧に継続してもらい,田中貴金属工業の助成事業にも採択されナノ接点開発に貢献していただいている実施機関に感謝しています.
 次に,山梨県工業技術センターの「急速加熱による高強度マグネシウム合金組織の挙動解析」で,マグネシウム(Mg)合金メーカー,地域のプレス加工企業,公設試,山梨大学との産学公の地域連携の例です.Mg合金は成形における組織制御に課題があり,公設試では解決出来なかったのでNPJにきました.日本原子力研究開発機構のSPring-8の機器を利用して高速加熱時のMg組織のその場解析をおこないました.関係者で議論することにより,グループ全体のレベルアップになったと言います.
 最後に,株式会社日産アークの「走査型プローブ顕微鏡(SPM)と周辺技術を用いた工業標準化に向けた実用分析の利用」で,産業技術総合研究所微細構造解析PFの装置を活用し,工業標準化のための実用分析を行いました.担当者は外国人ですが,会社では出来ない基礎検討実験ができたと喜んでいただけました.
 他機関の紹介例として,株式会社DNPファインケミカルの「超微細顔料分散液の顔料界面領域解析」が挙げられます.高機能インクの分散液中の顔料が凝集しないようにするには粒子と溶液の界面領域のコントロールが必要になります.界面領域解析のためSPring-8の小角X線,次にJ-PARCの小角中性子を紹介し,様々な手法が繋がって,界面領域の解析が進んでいます.
 一緒にセミナーを開催した公設試とは,NPJとの補完例が見られはじめてきました.例えば,群馬大学の企業懇親会で名刺交換した地元の中小企業からポリウレタン樹脂のNMR分析のできる実施機関を教えて欲しいと相談され,まず群馬県立産業技術センターを紹介しました.解析が困難な場合はNPJで検討することになります.新潟県工業技術総合研究所が地元企業との共同研究で,石英の微細加工形状の形成に苦労しているので,上手くいかなかったケースはNPJでやることで公設試と実施機関との間を調整し,実施機関で実施の可能性が高まりました.また,福島県ハイテクプラザと東北大微細加工PFとの連携も順調です.

【古屋】 地域を跨いで,ユーザーや実施機関が増えて行くのは難しいでしょうか.ネットワークで橋渡しして,問題を大きく捉え,皆で解決するようなことにはなりませんか.

【戸田】 各実施機関,各プラットフォーム単位で様々なセミナーが開催されていますが,新たにプラットフォーム・地域横断型のセミナーを企画し,仙台(東北大3PF),つくば(NIMS,AIST,筑波大),群馬(NIMS,AIST,筑波大,信州大),東京(東大,東工大,早大,信州大)で開催したところ,新たなユーザーが発掘できただけでなく,PFをまたがる実施機関の担当者同士で話がまとまり,内輪の連携例も生まれました.

【松山】 北陸の例では,関西のバイオセンサの会社への支援の際に,関東のNIMSの試料作成技術スタッフと連携した例があります.電極の観察のため,クライオTEM用の試料を作成する際に,北陸までNIMSの技術スタッフが出向いて,北陸の技術スタッフと試料作成のノウハウを共有する取り組みをしました.


2.5 JSTの地域活動/連携蓄積がNPJの装置利用・展開に繋がる.

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【東】 案件の事情に応じて複数の機器に跨がってNPJを利用した例についてご紹介します.地域企業の関心が高いJST関連ファンドとNPJの合同説明会を札幌で企画した際,元々ファンドの説明を聞きにきたシンゲンメディカル(株)がNPJを知り相談がありました.北海道で取れるある種の海藻から抽出した脂溶性物質に抗がん作用を示唆するデータがでてきたが,その物質を構造決定する事ができず困っているとの相談でした.千歳科学技術大学分子・物質合成PFにNMRで生物系天然分子の構造決定を得意とする先生がいらっしゃったので,同大でできるようアレンジしました.分析過程で質量分析の必要も出てきたのですが,NPJのネットワークを活かして,別途,北陸先端大で実施いただく事にしました.プラスαの分析が必要となった際,他機関の装置を組み合わせて分析を加速する事がでるのもネットワークの強みですね.同社からは,特に得られたデータの解釈について実施機関が親身に相談に乗ってくれた事について感謝されました.得られたデータをもとにJSTファンドに応募する予定と聞いており,今後の進展が期待されます.
 また,JSTは地域の様々な機関やコーディネータ等と連携を醸成してきましたが,次の事例は,機器が不足しがちなベンチャー企業が入居する中小機構インキュベーション施設での事例です.同施設に入居しJSTファンドも取得している(株)機能性植物研究所を訪問しヒアリングを実施しました.同社は「高圧熱水処理による機能性シルクアミノ酸・ペプチド類の製造技術開発」という課題に取り組んでいました.シルクアミノ酸は繭を加水分解して製造し,美容関連を中心にニーズが急速に拡大していますが,従来の化学的処理は高価かつ有用ペプチドが分解されてしまうという問題がありました.そこで,同社は様々な物理的処理で機能性成分を壊すことなく分離できないかと試行錯誤されていました.分解工程の効果を知るために,処理物の状態を顕微鏡観察したいとのニーズをお持ちでしたが,化学分析が得意な同社は観察系の技術は全くもち合わせておらず困っていらっしゃいましたのでNPJで観察ができるようアレンジしました.当初,最寄りの実施機関でSEM/TEM観察を行っていましたが,試料作りの過程で本来の形態が崩れてしまっているのではとの懸念が抜けませんでした.どうしようか思案していた所,NIMSにあるHeイオン顕微鏡を使えば特別な試料処理せずに直接観察できる可能性がある事が分かりNIMS側に相談の上,試行的利用を使って同顕微鏡を利用する事になりました.このように,プラットフォーム内の性格の異なる機器を組み合わせて多面的な解析ができる点もNPJの大きな利点と感じています.同社からも「道外の他の施設の機器情報が容易に得られ,それを利用する事が可能であるのは非常にありがたい」との感想をいただきました.
 いずれにしても実施機関の方々の丁寧なご対応,微細加工専任CD(コーディネーター)やプラットフォームマネージャーの皆様のアドバイスがあって初めて実現できる事であり,日夜見えない所でご努力いただいている先生方,技術支援員の皆様,CD/マネージャーの皆様には感謝の言葉しかありません.


3. 装置共用の必要性,将来展望

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【古屋】 色々面白い事例をお話しいただきましたが,装置共用の必要性やNPJの将来展望を伺いたいと思います.
 NPJはネットワーク型の共用ですが,機能しているでしょうか.一ヶ所に纏めた方が良いという意見もあります.共用装置には,先端性と汎用性のどちらを優先するかの問題もあります.汎用のものを使いこなした方が良いという人もいます.共用になると自前の装置を持たなくてよいから,研究システムも変って来るはずです.このような研究システムの変革にNPJは役立っているでしょうか.

【戸田】 ネットワーク型は情報が共有でき,他の実施機関の研究設備も利用できるので,良いシステムだと思います.しかし,自分のところだけでなく,ネットワークになるとそれに見合う維持要員及び運営資金があることが前提となります.本事業が終了し,将来,自立化となると今のままでの運営は難しいと思います.例えば,全国2~3ヶ所程度に集約し,ブロック単位で運営した方が良いのではないでしょうか.

【古屋】 ヨーロッパはベルギーのIMECのように1ヶ所にしている国もありますが,アメリカは集中型とネットワーク型の両方を持っています.

【戸田】 ブロック単位にしたとしても,遠隔地の研究者にとっては負担が大きいのに変わりがありません.代行システムを充実させ,きめ細かいサービスが可能な分野毎のコーディネータをおく必要があります.最先端の研究設備を揃えることにより公設試と差別化・棲み分けを行い,補完関係を強固にしたいと思います.
 NPJはユーザーの異分野参入に貢献しているが,複数分野横断型のアンダーワンルーフになっているかは実感に乏しい.ユーザーにとって何がやれるのか解りづらいでしょう.
 ものづくりのための構造解析と機能評価及びそのデバイス化といった解りやすいプラットフォームにしたらどうでしょうか.化学やバイオ・医薬では動物試験が必要になることがあります.機能評価PFならその中に動物試験もそろえることができます.NPJに3Dプリンタはありません.東京都立産業技術研究センターには数十台入っているそうです.使う材料も樹脂から合金に広がっています.ものを作って評価するという機能を考えて,必要な研究設備を充実して欲しいと思います.NPJは企業,大学にとってリスク分散の手段になっており,企業では構造・解析で自社で解決できないもの,初期の研究の判断材料にNPJを利用しています.加工と合成は汎用,解析は先端設備が中心になるでしょう.多くの研究設備が揃っていますが,試作品レベルのものを作る設備がないというユーザーの声も多い.原理検証と実用化の間にある実用化検討段階の壁を乗り越えるための支援も必要と考えています.

【松山】 共用施設を利用した新しい研究システムの確立は社会・経済的に見ても必要なことです.産学官のシナジー効果によって成長戦略を支えて行く可能性があります.NPJの評価や実績が高まっても国の予算を増やすことはたやすくありません.社会基盤整備のプロジェクトファンディングの手法に,PFI(Private Finance Initiative)方式があります.学校等の公共施設の整備に民間が参加したり,事業の運営も,委託の形で公的なところが金を出すなどの形態で,民間の持っている資産やノウハウを活かして運営するものです.それだと行政が事業を拡大する際に受けるような縛りが少なく,ニーズに即した支援がやり易くなるでしょう.企業が抱えている課題へのソリューションの提供といった支援はNPJが終わった後の事業のあり方に関する参考になるかも知れません.


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【吉川】 東大の微細加工PFにある装置でデバイスの原理確認はできましたが,少量試作をやるところがありません.NPJには少量試作設備は要らないと割り切るなら,少量試作をやる仕掛けが別に必要になります.そうでないとベンチャーの研究開発が進みません.試作ファンドリーがあるとよいと思います.一度ものができて,良い評価が得られても試作評価を繰返し行う当てがないと,ユーザーが付きません.

【古屋】 アメリカには年1億ドルを投じて,製品化前の試作を行うファンドリーがあるようです.

【吉原】 NPJでも自主事業なら試作をやってよいという公式見解があります.当面はそれで凌ぐことになるでしょうから,本来ならば別の会社を作るべきでしょう.

【古屋】 大学は繰返し試作するだけの仕事には力が入りません.試作に力を入れられる仕組みが必要です.試作を通じてノウハウがたまるともいいます.

【東】 ネットワーク型が良いか拠点型が良いかの議論ですが,地域から見るとネットワーク型であるNPJの存在は非常にありがたいです.確実に地域潜在ユーザーの利用に対する敷居を下げています.同時にネットワークを通じて近隣の実施機関が代表機関等の支援を受けてパワーアップしている印象があり,技術員のレベル向上等がより良いサービスに繋がっていると感じます.資金の許す範囲である程度地域に分散して実施機関を配置いただいている現状は地域のユーザーにとって非常にありがたいです.
 先端機器か汎用機器かという議論ですが,現場では両方必要となるケースが多い印象です.NPJに共用として登録されていない汎用機器でも,テーマによってこの装置が必要となると,実施機関が持ち出しで使用させていただいている例もしばしばみうけられます.先端性を発揮するために汎用機器が必要になる事はよくおこるので単純に分けられないというのが現場の印象です.実施機関のご厚意で利用させていただく汎用機器に対するフォローをうまく行う方策があれば良いのですが.

【坂本】 共用がリスク分散になっているかという点に絞れば,装置や実験システムそのものではリスク分散になっています.一方で,企業の場合,始めるのは簡単だが,止めるのは難しいということがあります.新しいテーマで良い結果が出ても,生産技術やマーケッティングが伴わず,事業化が難しいとなると中止せざるを得ません.そのテーマに着手して良かったかとなります.使った装置は償却すれば良いので金で解決できますが,これに携わった人はそうはいきません.若い人を採用してもリスクのあるテーマに付けて良いか悩みます.こういったテーマの選択,着手におけるリスクの分散にはなっていません.新しいテーマへの着手のリスク分散の方策が必要かも知れません.
 装置共用が新しい研究システムになるかということですが,オープンイノベーションは大企業なら当たり前のことになっています.何もかも自分ではできないから,垂直統合型の研究開発から水平分業型に変るところが増えています.NPJの利用をきっかけに他のファンド等の支援を得て,基盤となる技術と生産技術,マーケッティングなどの連携ができると企業のリスクも低減されるのではないかと思っています.

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【吉原】 装置共用の必要性という設問は外部との関係で問いかけられているように思えます.自分達でNPJプロジェクトに残された期間で何をするか内部の議論が必要でしょう.PFのユーザー件数や,依頼件数は伸びて,処理能力は満杯状態です.すべては引き受けられないとなったら,どう支援先を選ぶかも問題になって来ます.連携マネージャーはどのようにサポートするか,良いユーザーを引っ張って来られるかなどが問われるでしょう.そういった時のことを今から考えていかなければならないと思います.
 企業が使い難いということに対しては,文部科学省のルールに成果公開があります.このルールは,もう少し緩やかにしても良いのではないでしょうか.民間企業の活力を削がない範囲に緩めるという考え方です.2年という公開猶予期限をもう少し伸ばすことも考えられるでしょう.色々なルールを見直し,企業の困ることをなくして行けばNPJの活用,産学連携が進むのではないかと思っています.

【古屋】 長時間にわたり,貴重な情報,ご意見を伺わせていただきありがとうございました.


(古寺 博)


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