NanotechJapan Bulletin

 メニュー
      


<第1回>
ナノファイバーの創出とその織りなす世界
nano tech大賞 2013 受賞

帝人株式会社 高機能繊維事業本部 神山 三枝氏と滋野 治雄氏に聞く

LifeAndGreen.jpg

 第12回国際ナノテクノロジー総合展nano tech 2013は2013年1月30日から2月1日の3日間,東京国際展示場で開催された.展示会は「10-9 Innovation(ナノイノベーション)”Life & Green”」をメインテーマに掲げている.21世紀に入ってナノテクノロジーは次世代の基盤技術としてグローバルに認知され研究が盛んになったが,近年では社会のニーズに応える応用展開のフェーズに入ってきた.これを受けて展示会もシーズとニーズの結びつきにより新しい価値の創出に向けた活動の活性化を目指している.展示会の最終日にナノテク大賞表彰式があり,帝人株式会社が大賞を受賞した.「ナノファイバーの技術的ポテンシャルの高さと,アプリケーションの裾野の広さ」を賞したもので,571企業・機関の出展があった本展示会の狙いに適合し,展示会を代表する展示であったと云える.

 今回,この展示に示された技術とそのアプリケーション展開そして価値の創出の機微を伺いたく,茨木市にある帝人大阪研究センターを訪ね,高機能繊維事業本部 生産・研究開発部門 ポリエステル繊維技術生産部 技術主幹 神山 三枝氏と同部門 次世代ソリューション開発課長 滋野 治雄氏にお話を聞いた.

portrait.jpg

写真(左) ナノテク大賞表彰会場にて
(左:nano tech実行委員会副委員長 馬場 嘉信氏, 右:帝人(株)高機能繊維事業本部長 帝人グループ常務執行役員 遠藤 雅也氏)
写真(右) 帝人大阪研究センターにて(左:神山 三枝氏, 右:滋野 治雄氏)

1.会社の特徴

 研究センターの門を入ると小高い丘の上の白い瀟洒な建物が目に飛び込む.展示品の並ぶロビーから案内された会議室でお話を伺った。

 先ず,滋野氏から帝人の事業分野の説明を受けた.帝人はもともと繊維事業会社としてスタートし,その後医薬・医療事業等の事業が拡大しており,現在の事業体制は,本日お話を伺う高機能繊維・複合材料事業グループの他に,電子材料・化成品事業グループ,新事業開発推進グループ,ヘルスケア事業グループ,IT事業グループ,製品事業グループで構成されている.この中で繊維や化成品等の素材関係の売上げ高は,全体の約半分を占めている.従業員数は約17,000名でその半数弱は外国人であるという.欧米,アジア(タイ,中国,シンガポール等)の生産拠点,販社を含めて,世界20カ国以上に約150社を擁する企業グループである.

2.研究の経緯とビジョン

 ナノテク大賞受賞の対象となったナノフロントやアラミド不織布などのナノファイバー製品を開発しているのは高機能繊維・複合材料事業グループである.最初にナノフロントに至るまでのポリエステル素材開発の変遷(図1)の説明を受けた.


Fig01.jpg

図1 ポリエステル素材開発の経緯(提供:帝人株式会社)


 帝人におけるポリエステルの開発は,1960年代半ばに東レ株式会社と共に英国のICI(Imperial Chemical Industries)社からの技術導入から始まった.もともとポリエステルは絹の代替品として出てきており,最初の頃の開発コンセプトは絹の光沢を出すことにあり,ファイバー断面を三角にし,寸法も数十µmであった.その後,質感や吸水性を出すために無機物を混ぜて溶かし出す等の方法で表面に凹凸を付けることも行なわれた.ファイバー径も数µmまでのダウンサイジングが実現している.オイルショックの時には,石油価格の高騰で,ポリエステル素材事業も苦しんだが,この後新しい道を求めて開発コンセプトを絹の模倣から離れて高分子の特徴を発揮する方向に向かい,"新合繊"といわれる新質感を求めるような製品開発が行われた.2000年頃にはナノオーダー領域に入りかけていたが,クリントン政権のナノテクノロジー政策が出てから,世の中全般にもナノテクノロジーを概念として捉えて研究開発が行われるようになった.帝人でも2003年から今に繋がるナノファイバーの研究をスタートした.

 こうした素材の開発コンセプトの変遷はこれを適用する衣服関係のファッションとも関係があり,図1の波状カーブに示すように優雅なドレスなどのフェミニン系とカジュアル系が交互に約6年周期で繰り返す流行の変化が見られた.しかし,最近では,その傾向は薄れ,ユ−ザーも衣服に機能や特徴を求めるようになり,より機能重視の方向に向かっている.

 現在ナノテクに取り組んでいる帝人のビジョンを図2に示す.


Fig02.jpg

図2 ナノテクノロジーに取り組む帝人のビジョン(提供:帝人株式会社)


 図中1.の「より細く」・「より強く」はこれまで進めてきた繊維技術の開発に共通な命題であり,現在のナノファイバーもこのビジョンの下で実現され,今後も追求する.図中2.は機能ソリューションあるいは商材分野のターゲットとして,従来から追及してきた1次元としての繊維の持つ機能と2次元のフィルムや膜が持つ面としての機能の両者の特徴を融合させる機能素材を追求する.これは,ナノファイバー一本一本の機能ではなく,多数を組み合わせた面,即ち2次元にした時のナノサイズ効果を追求するものである.そこに生まれる広範な,新しい機能,新しい応用展開を狙っている.

 帝人は会社の中長期経営ビジョンとして,ビジネスモデルの変革を目指している.川上から川下へ素材を提供する従来のビジネスモデルから最適ソリューションを提供するビジネスモデルに変え,顧客と一体となって商品開発,用途開発を進めることで,新たな価値をもたらすユニークな商品・サービスを提供し続ける企業を目指すとのことである.

 大賞を授賞したnano tech 2013の展示は,まさに上記ナノテクに取り組む帝人のビジョンを反映している.続いて,展示された製品の中からポリエステル ナノファイバー(ブランド名:ナノフロント®)と,アラミド ナノファイバーについて新しい価値創出の展開を伺った.

3.ナノフロント®による新機能の展開

3.1 ナノフロントの誕生

 帝人は直径700nmの超ファイン ポリエステル ナノファイバーの生産技術を新海島複合紡糸法で確立し,「ナノフロント」のブランド名で2008年7月に世界で初めて商業生産を開始している.海島複合紡糸法とは,ポリマーを口金から吐出するに際して,「島」成分と「海」成分の2種類のポリマーにより図3の左に示すような複合体を形成し,後工程で「海」の部分を溶解除去し,図3の右のようなファイバーの束を形成する手法である.ミクロン以下の微細領域においては,経済性と強度を満足する超微細繊維を安定して量産するには多くの壁があるとされたが,「島」に対する「海」の組成比率を減らすための設計努力,紡糸口金装置の設計技術,複合体の高速延伸を可能とする技術等様々な技術を集積してナノフロントを完成させた.図4の左は複合体の断面写真を従来製品と比較して示している.図4の右は「海」の部分を溶解除去後の形状である.このナノファイバーの束で織られた織物の表面を図5の写真に示す.

 ちなみに,ナノフロントは「平成21年度高分子学会賞」を受賞している[1].その「ポリマー技術・精密加工/複合ポリマー製糸技術・構造体加工技術」が評価された.


Fig03.jpg

図3 海島複合繊維の構成と海を溶解除去したナノファイバー束の断面構造模式図(提供:帝人株式会社)


Fig04.jpg

図4 海島複合繊維の断面写真と海部分をアルカリ処理による除去後のナノファイバー束の断面写真
(提供:帝人株式会社)


Fig05.jpg

図5 ナノファイバーの束の織物表面写真(提供:帝人株式会社)

3.2 ナノフロントが生み出す付加価値[2]

 ナノフロントは一本のナノファイバーの直径が700nmであり,強度などの力学物性は,ポリエステルの本来の特性をそのまま保っている.編み物や織物など,ナノファイバーが多数・高密度に集まって2次元および3次元構造にすることで,種々の機能を発揮するようになる.ナノファイバーで形成される平面構造で効果を発揮する現象は表1のように纏められている.


表1 ナノファイバーで形成される平面構造で効果を発揮する現象

Table01.jpg


 この表に加えて,一本一本のナノファイバーとして,繊維の太さの4乗に反比例する「しなやかさ」を持っている.従って,ナノフロントを用いた生地はソフトな肌合いの肌着に適し,また上表の拡散浸透効果と表面積増大効果で汗が吸収,蒸散されるのでスポーツウェアに適している.図6は運動した場合の体温上昇を通常のポリエステルのスポーツウェアと,ナノフロントのスポーツウェアの場合を比較したテストの例で,ナノフロントの有効性を示している.


Fig06.jpg

図6 運動による体温上昇のテスト.通常のポリエステルとナノフロントとの比較.(提供:帝人株式会社)


 以下,ナノフロントで表1に示した各種現象を利用したアプリケーション例を実物に触れながら紹介された.

(1)編み物,織物などでの機能発現

■ 滑りにくい
 最初の例はゴルフ用グローブである.実物に触れるとグリップ面はしっとりと吸い付く感じでクラブを軽く握っても滑らないことがわかる.原理は「やもり」が垂直のガラス面に吸い付いて落ちないのと同じで,ナノファイバーが密集して対象物との接触点が多く,ファンデルワールスの力が働くことによるとのこと.ニットの製作上もナノファイバーが表面に出て接点が多くなるようにしている.また,ナノファイバーの強度,耐久性を引き出す製造プロセスを採用している.

 このグローブを使うことによる効果について,ゴルフクラブでボールを打つ際の手及び手を動かすための腕の筋肉の活動量の変化を電気的計測で評価した結果を図7に示す.図7の下の図に示す筋肉部位に対しての測定結果が図7の上の図である.ナノフロント グローブは従来グローブに比べて筋肉の活動量が少なくて済んでおり,ショットの際,より容易にクラブをコントロール出来ることを示している.

 更なる利点として,水に濡れても滑らないことがある.従来は,ウレタンコーティング品が多く,雨に濡れたりすると滑り易くなるが,ナノフロントでは水を吸収してしまうので滑らない.


Fig07.jpg

図7 ナノフロントと従来ゴルフグローブについて,ショット時の手および指を動かすための筋肉活動量の比較.
(提供:帝人株式会社)


 滑りにくい特長を活かす別の例として好評を得ているものにスポーツ用靴下がある.靴の中で足がずれないので,疲労を減らす効果があり,ランニング愛好者の間で人気を博しているとか.この滑りにくい靴下は一般家庭用にも広がりつつある.また,ほどけることを防ぐ靴ひもなど,今後この特性を活用する多くのアプリケーションの広がりが予想される.

■ 冷却効果のある日傘・帽子
 帝人のある営業マンが偶然にも発見した効果で,ナノフロントの日傘を差していると,開いた傘の下の部分では周囲に比べて5℃くらい気温が下がる.直径700nmのナノファイバーで織った傘の布が波長2µm付近の熱線を反射する効果があるとのこと.従来のアルミニウムをスパッタする形式の日傘より効果的であるという.帽子にも適用されている.

■ 拭き取り機能
 これまでの繊維では,通常の数ミクロンの厚さの油膜汚れをふき取ることは不可能であったが,高強度のプリエステルナノファイバーによる布では超比表面積と超微細空隙により,油膜や微細塵に対する優れた拭き取り効果を発揮する.図8はその効果を示す試験例である.ワイピングクロス,皮脂取りなどに最適とのこと.


Fig08.jpg

図8 拭き取り効果の比較 光学写真(2000倍)
(拭き取り条件:摩擦子直径:3cm,押圧荷重:5g/cm2,拭き取り動作:ジグザグ拭き5往復,
汚れ:ダイヤペースト(成分:カーボンブラック,牛脂極度硬化油,流動パラフィン))
(提供:帝人株式会社)


■ 顔パック用フェイスマスクの例も挙げられた.これは表面にナノフロントを配合したシートである.シートに吸着性があり,フィット性も高く動作をしても顔から剥がれないこと,また,シートに美容液を多く含ませることができ,細かい数多い接点が肌への美容液の浸透を促進するなどの利点がある.

(2)ポリエステル不織布を用いたアプリケーション

■ ナノファイバー高性能エアフィルター
 空気清浄機や自動車エンジンに用いられるエアフィルターは,シートをジャバラの様に折りたたんだ形状のものである.紹介された製品はナノフロントと直径15µmのポリエステルからなる不織布である.図9にその断面構造を示す.ナノファイバーと太い繊維との複合化により,空気の通過抵抗の低減と微細な異物を高捕集率で取り除くという互いに矛盾する特性を両立させた次世代用の高性能エアフィルターである.


Fig09.jpg

図9 エアフィルター用不織布の断面写真.拡大率を変えて示す.(提供:帝人株式会社)


 太い繊維は大きい空隙を作り,ナノファイバーは微小な空隙を作る.即ち,複合材料では図10に示すように,流体の流路の一部のみ狭い空隙がありここで異物を捕集する.従来技術のポーラスメンブレンのように細くて長い空隙に流体を流すのに比較すると,流体を通過させるための圧力が少なくて済む.また目詰まりも減るので,耐久性も高まる.


Fig10.jpg

図10 ナノファイバー複合材料の従来技術との特性差発現の原理を説明する模式図(提供:帝人株式会社)


 このように異なる機能の材料の複合化によって空隙が設計され特性を変化させることができる.製品としては,寿命は従来と同じであるが捕集率が5倍のものが出来ている.これは設計次第で逆に,捕集率を同じにして寿命を伸ばすという選択肢も可能である.

■ ナノファイバー液体フィルター
 エアフィルターと同様にナノファイバーと太い繊維とを複合化し,エアフィルター同様,低圧損,高捕集,耐久性の特徴を持つ次世代メンブレンフィルターである.生産現場での水質向上や下水処理等に使われる.顧客の評価を経て2013年4月からの採用が決まっている.

■ ナイロンナノファイバー精密研磨パッド
 LED用サファイヤやSiCなど硬くて脆い材料を研磨する精密研磨パッドの領域があり,ニーズが高くなっている.この分野へのナノファイバー技術の適用を狙って新規にナイロンナノファイバー精密研磨パッドを開発した.この用途では,研磨能率,表面粗さ,平坦性が課題となる.柔らかいナイロンナノファイバー不織布を用いて,これにウレタンを含浸させる.ナノファイバーは柔らかさと表面積の大きさの特徴を発揮するので,特に研磨効率と表面粗さについて従来製品を大きく凌駕している.

4.アラミド不織布での応用分野の展開

 「アラミド」とは,二つの芳香環(ベンゼン環)がアミド結合(-NHOC-)されたポリマーを分子骨格とする芳香族ポリアミド(aromatic polyamide)である.アラミド繊維はその分子骨格が直線状のパラ系とジグザク状のメタ系に大別され,前者は強い引張強度や引張弾性率を持ち,後者は長期耐熱性や難燃性に優れている.帝人ではパラ系は「トワロン®」「テクノーラ®」のブランド名でロープ,自動車のブレーキパッドなどの摩擦材やタイヤ,ホース,ベルト等のゴム補強材,光ファイバーケーブルの補強材用などに,また,メタ系は「コーネックス®」のブランド名で消防服などの防護衣料,耐熱フィルターなどに事業展開している.

 nano tech 2013には新開発のアラミドナノファイバーを用いた耐熱性ナノファイバー不織布が展示されていたが,特にリチウムイオン電池におけるセパレータとして極めて有望であり,開発中のアラミドナノファイバーセパレータの話を伺った.

■ アラミドナノファイバーセパレータ
 新開発の耐熱性ナノファイバー不織布はメタ系アラミド繊維「コーネックス®」をベースにした直径数百nmの均一なナノファイバーで,図11aの電子顕微鏡写真が示すような均一な細孔分布を持つシート(不織布)の形状で用途開拓を行っている.特に耐熱性と耐酸化性のある素材であり,リチウムイオン電池のセパレータとしての展開が期待され,目下顧客が評価中とのことである.図11bにセパレータサンプルを示す.


Fig11.jpg

図11 アラミド ナノファイバー不織布 (提供:帝人株式会社)


 開発したナノファイバー不織布は,構造上の特徴として空隙率を例えば約70%以上と高くすることが可能で,個々の細孔が小さい.これらによりリチウムイオン電池のセパレータ用としては次の利点が生まれる.

  • 不織布構造由来による利点
    → 高い空隙率−−−イオンの易動度が高く(図12),その結果急速充放電が可能,また低温における比較的優れた電池特性の発現が可能
    → 高い空隙率および薄膜化可能−−−内部抵抗の低減が可能,高エネルギー密度化が可能
    → 電解液の吸液速度が速い−−−電池製造工程の電解液注入時間,エージング時間の短縮が可能


 また,アラミドファイバーの本来の特性により,リチウムイオン電池に次の大きな長所をもたらす.

  • アラミド素材由来による利点
    → 耐熱性(図13)−−−異常高温時(約280℃程度まで)殆ど収縮せず,その結果,正極/負極の短絡を防ぎ,安全性を確保
    → 耐酸化性/耐薬品性−−−酸化による劣化を防ぎ,長寿命化を実現,高電圧化にも対応可能


 以上のような特長により,特に大容量化,高エネルギー密度化の要求の高い次世代自動車用や大型の蓄電用定置型リチウムイオン電池のセパレータをターゲットとしている.


Fig12.jpg

図12 セパレータのLiイオン易動度の比較(磁場勾配NMR法によるLiイオンの拡散速度係数)
(提供:帝人株式会社)


Fig13.jpg

図13 耐熱性の比較:TMA(熱機械分析)測定による熱収縮特性
アラミドナノファイバーセパレータをポリエチレン膜と比較
開発品は280℃程度まで熱収縮率は1%未満
(提供:帝人株式会社)


■ 耐熱性極細繊維不織布
 上述のナノファイバーの直径を約一桁太くした1,000〜2,000nmの耐熱性ポリマーによる不織布も同時に開発している.耐熱性,難燃性,耐薬品性等の特長は同様である.目付,厚み,空隙率などの調整可能な多様性がある.用途は,耐熱フィルター,電池,キャパシター等の蓄電デバイス用のセパレータおよびその基材が挙げられている.

5.カーボンナノチューブ繊維[3]

 nano tech 2013開催の最中の2013年1月31日に帝人がプレスリリースしたカーボンナノチューブ(CNT)繊維について伺った.

 この開発は,帝人グループの一員であるテイジン・アラミドB.V.(本社:オランダ・アーネム市)がライス大学(米国テキサス州ヒューストン市)などと行ってきた共同研究成果である[3].帝人は1970年代からパラ系アラミド繊維「トワロン®」の紡糸法として湿式液晶紡糸法を展開してきており,2000年代前半からCNT繊維の開発も進めていた.湿式液晶紡糸法とは,原料を強酸に溶かし,高分子材料が液晶状態(液体のような流動性を持ちながら,分子がある規則性を持って配列している状態)にあることを利用して紡糸する方法であり,繊維の分子を規則正しく配列させる技術である.一方ライス大学は1990年代からCNTの研究を行い2000年からはCNTの湿式紡糸法の研究を始めていた.テイジン・アラミドB.V.はライス大学の研究内容に賛同して2010年から共同研究を行い,湿式液晶紡糸法によるCNT繊維の製造技術を開発した.開発されたCNT 100%の繊維は金属ワイヤーと同等の電気伝導性,および金属ワイヤーを凌駕しグラファイト繊維に匹敵する熱伝導性(いずれも同重量比)を持ち,かつ,高い強度としなやかさを有する.今後その特長を活かして,航空機や自動車のデーターケーブルや電気通信ケーブルの軽量化に向けた銅線代替として用途開拓をまずは進めるとのこと.その先,医療分野,ウエアラブル・エレクトロニクス分野等様々なアプリケーションを想定しているとのことである.

6.むすび

 今回の取材で,ナノファイバーという一本の繊維の微細化が,人々の生活の色々な場面で,電池などのエネルギー分野で,また,企業の現場や航空機・自動車・通信などのインフラで,夢をあたえる多くのアプリケーションの展開に結び付くことを学んだ.

 それは素材の専門分野で築き上げた高い技術レベルと共に,それを機能化してユーザーに対してソリューションを提供することに力をいれる帝人の開発戦略によるものであることを具体例で実感することができた.そのためには,例えばゴルフグローブの評価で,手や腕の筋肉活動量の測定を大学の研究室に依頼したり,電池のセパレータの開発で顧客企業の協力を得たり,またCNT繊維のように外国大学と共同研究で製品開発から製品の応用展開まで進めるなど,新しいものを生み出しニーズと結びつけるための社外との専門を越えた連携プレーが行われている.帝人の研究開発戦略のなかでも謳っているオープンイノベーションを垣間見ることが出来た.

 ナノファイバーが生み出すアプリケーションにおける価値創出はまだ始まったばかりであるが,今後,ナノテクノロジーが我々の生活・社会環境の進化に貢献する予想外の価値創出に胸ときめく想いを持った取材であった.

7.参考文献

[1] 神山三枝,"高強度ポリエステルナノファイバーの開発と実用化" 高分子 61(2), 62-64, 2012-02-01
[2] 堀川直幹,沼田みゆき,添田剛,神山三枝,"毎日を変えるナノテク素材「ナノフロント」"Fiber 65(9), 341, 2009-09-10
[3] Natnael Behabtu, Colin C. Young, Dmitri E. Tsentalovich, Olga Kleinerman, Xuan Wang, Anson W. K. Ma, E. Amram Bengio, Ron F. ter Waarbeek, Jorrit J. de Jong, Ron E. Hoogerwerf, Steven B. Fairchild, John B. Ferguson, Benji Maruyama, Junichiro Kono, Yeshayahu Talmon, Yachin Cohen, Marcin J. Otto, Matteo Pasquali, "Strong, Light, Multifunctional Fibers of Carbon Nanotubes with Ultrahigh Conductivity", Science 11 January 2013: Vol. 339 no. 6116 pp. 182-186 DOI: 10.1126/science.1228061.


(向井 久和)



「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です. nanotech2014_banner.jpg