NanotechJapan Bulletin

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<第20回>
単層カーボンナノチューブの量産技術:スーパーグロースの実証プラント ~産学連携によるカーボンナノチューブの大量合成と応用展開~
日本ゼオン株式会社 特別経営技監 荒川 公平氏に聞く

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 単層カーボンナノチューブ(以下,単層CNT)は,多くの技術革新を可能にする21世紀の黒いダイヤと言われる夢の材料であるが,純度が低く且つ大量生産が困難だったことから価格が高く,用途開発が長い間進んでいなかった.日本ゼオン株式会社は,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトにおいて独立行政法人産業技術総合研究所(以下,産総研)との共同研究によって,スーパーグロース法により単層CNTの生産性を1000倍以上にする技術を開発した.また,技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)の中で,単層CNTを使った新素材の開発をおこなっている.これらの成果を,2014年の国際ナノテクノロジー展・総合技術会議のnano tech 2014に出展し,nano tech大賞2014 産学連携賞に選ばれた.受賞理由は「産業技術総合研究所で開発した単層CNTの量産技術「スーパーグロース」の量産実証プラントを紹介,大量生産を視野にサンプル出荷も開始し,カーボンナノチューブの普及を促進する活動を賞す」である.これ等の研究開発を責任者として推進しておられる,日本ゼオン株式会社 特別経営技監 荒川 公平(あらかわ こうへい)氏を東京丸の内の本社に訪問し,単層CNTの量産技術や新素材の開発状況についてお伺いした.

 

 

1.ニッチ・トップを目指す技術の日本ゼオン

1.1 創業―日本で始めて塩化ビニルと合成ゴムを製品化

 日本ゼオン株式会社(以下,日本ゼオン)は日本で始めて塩化ビニルと合成ゴムを製品化した企業である.1950年に創立し,1952年に米国B.F.グッドリッチ・ケミカル社から技術を導入して塩化ビニルを国産化,さらに1959年には合成ゴムを国産化した.設立から20年後の1970年に,グッドリッチ社保有株の総てを買い取り,資本関係解消を期に英文社名をGeonからZEON*1に変更した.

*1)B.F.グッドリッチ社の塩化ビニル樹脂の商標「ゼオン」(Geon)をとって社名としていた.「ゼオ」(Geo)はギリシャ語で大地,「エオン」(Eon)は永遠を意味し,その合成語である「ゼオン」には,「大地の永遠と人類の繁栄に貢献するゼオン(世界に誇り得る独創的技術により,地球環境と人類の繁栄に貢献する」という企業理念が込められている.

 

1.2 石油化学を元に高シェア製品を生み出す企業

 研究開発の基本理念は「ニッチでも,日本ゼオンらしい得意分野で,人の真似をしない,人が真似のできない,地球にやさしい,独創的技術にもとづく,世界一製品・事業を継続的に創出し,社会に貢献する」である.これに沿った独自の研究開発成果に基づき現在,図1に示すようにナフサを原料とした製品群を展開している.即ち,ナフサのC4留分からブタジエンを抽出する日本ゼオン独自の技術GPB(ゼオン・プロセス・オブ・ブタジエン)を1965年に開発し,合成ゴムや合成ラテックスを製造している.このようにナフサのC4留分からはゴムやラテックスが造れるが,更なる新しい事業を展開するために,C5留分を総合活用する日本ゼオン独自の総合プロセスGPI(ゼオン・プロセス・オブ・イソプレン)を開発した(1971年).この総合プロセスは日本ゼオン固有のものであり,これを基に合成天然ゴム,熱可塑性エラストマー,石油樹脂,反応射出成形樹脂,高機能樹脂,合成香料等を開発し事業化している.これら製品は,たとえそれがニッチな市場製品であっても,世界一を目指す日本ゼオンのコアコンピタンシーが発揮され圧倒的な強みを発揮している.

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図1 日本ゼオン発の世界に誇れる技術と製品 (提供:日本ゼオン)

 

 例えば,1991年に開発されたシクロオレフィンポリマー(COP)は,水を吸わないため屈折率が変化しない透明で低比重のポリマーで,世界初のガラス代替ポリマーである.携帯電話・デジタルカメラのレンズ,液晶ディスプレイ用の光学フィルムとして使われている.また,C5の中にはブチン2という成分があって,これを原料にして天然の青葉の香りを持つリーフアルコールを合成し香料・洗剤等に添加されて使用されている.ブチン2からスタートすると合成プロセスが短く競争力に優れ,そのシェアは70%に達している.さらに,ゴムでも耐熱性,耐寒性等の高い付加価値を有する特殊ゴム製品は世界シェア40%であり,中でも水素化NBR(商品名Zetpol)は,高温でしかも油分の多い環境の自動車エンジンのタイミングベルト等に利用され,そのシェアは70%に達している.また,ラテックスから化粧用の高級パフやゴム手袋が作られている.石油樹脂からは道路の中央白線などを描くトラフィックペイントも製造されている(シエア90%).このように各製品は独特の性質を持ち,ニッチ市場で高いシェアを獲得している.

1.3 専門を極める研究所群が協力してオンリーワン製品を生み出す研究開発

1)各研究所を総合開発センターに集約し相互協力する体制

 上記のように,日本ゼオンは独自の優れた“テクノロジープラットフォーム”である「GPB」と「GPI」を基に多くの競合優位性のある製品とその用途を展開しているが,これ等の技術開発は図2に示す総合開発センター内の各研究所で行われている.事業部研究部門では事業戦略に沿った研究開発を行っており,ゼオンの基盤事業である合成ゴム,ラテックス,C5ケミカル等の新製品開発や,市場の成長・発展が見込まれるエナジー材料,電子材料,高機能樹脂等の高付加価値分野への研究開発に注力している.また,コーポレート研究部門では新材料開発研究所において,基盤技術をベースに新規の機能化学品の探索を積極的に行っている.さらに,新規の生産技術開発や工場の生産技術をサポートする生産技術研究所,分析や材料解析を担当する基盤技術研究所がある.

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図2 日本ゼオンの研究開発体制 (提供:日本ゼオン)

 

2)コアコンピタンスを活かした研究開発戦略とCNT量産技術の結びつき

 日本ゼオンの研究開発の特徴は「経営戦略と研究開発の一致」にある.研究テーマの設定段階から,事業での優位となるコンセプトを明確にすることや,他社が参入できない技術・特許的な参入障壁を築けるかなど,市場での競争優位を重視している.また,社会のパラダイムの変化を読み,長期的に自社の強みをつくり,コアコンピタンスを活かした研究テーマの設定にも力を入れている.

 本稿の主題である「単層CNTの量産技術」と「単層CNTを用いる複合材料技術」の研究開発もこの研究開発戦略に沿ったものである.即ち,単層カーボンナノチューブの量産技術を新規に実現し,生産される単層CNTを日本ゼオンの最大のコアコンピタンスであるゴム技術と融合することによって,競合力のあるオンリーワンの製品と用途開発を目指す戦略である.

2.気づいて見ればCNTの発端から量産まで:荒川氏は世界初のCNT物質特許を取得

 荒川氏は,本稿の主題である「単層CNTの量産技術」と「単層CNTを用いる複合材料技術」の研究開発を推進してきた.荒川氏とCNTの関わりは30年前に遡る.

 荒川氏の研究開発歴は,①1982~1988年:日機装株式会社(以下,日機装)にて多層CNT(当時は気相成長炭素繊維)の研究開発,②1988~2001年:富士フイルム株式会社にて視野角拡大フイルム(WVフイルム)等のLCD用光学材料の研究開発と製品化,③2002年以降:日本ゼオンにて液晶テレビ用視野角拡大フィルム等の光学フィルムの研究開発・製品化や単層CNTの量産技術とその複合材料化技術の開発である.このようにCNTとの関わりは日機装時代に始まる.20才代後半の時で,今から30年前である.飯島澄男氏のCNT発見[1]より前のことになる.

 日機装時代の1982年,信州大学の遠藤守信先生を訪ねて,CNTの合成法の指導を受け,アルミナ等のセラミックス基板に炭素繊維を気相成長させるCVD法(化学気相法)で基板法と呼ばれる技術を短期間に習得した.しかしCVD法による基板法では,成長効率が非常に低く,産業に応用する可能性が極めて低いと判断した.また,その基板法は昭和電工の特許網によって事業化が困難と判断し,全く新規の製法を模索した.それが,反応場を基板法の二次元から三次元空間を利用すると言う発想であり,「気相流動法」の開発につながった(図3).フェロセン(Fe(C5H5)2)とベンゼン(C6H6)と水素(H2)の混合ガスを電気炉の一方の側から注入すると,炉内で生成した多層CNTが他方の側から連続的に出てくると言う世界で初めての連続生産プロセスである.メカニズムは,フェロセンが分解してFe原子が生成・凝集して浮遊する鉄微粒子となり,それがCNTの生成触媒として働くと言うものである.これにより,生成効率は基板法の500倍以上に向上した.この技術は「気相成長炭素繊維の製造方法」として1983年9月に特許を出願した[2].次いで,1984年4月に物質特許「気相法による微細炭素繊維」(直径50nm~2000nm)[3]を,同じく1984年9月に物質特許「流動法気相成長炭素繊維」(直径3.5nm~75nm)[4]を出願し,これ等は共に特許登録になった.日機装は“グラファイトウィスカー”と言う製品名で商品化した.当初は数10nm以上の太さであったが,1997年には,気相流動法で直径7nmの多層CNTが出来ていることを確認し,その後直径を任意に制御できる技術を開発し,500g/1時間の多層CNTを合成出来る研究プラントを開発した.また収率も40%(当時一般的には10%)と高かったが,応用展開が進まず,日機装はこの事業から2008年に撤退した.

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図3 CNTの世界初の連続合成法:気相流動法*2(日機装時代の荒川氏の発明)
(提供:日本ゼオン)

 

*2)この「気相流動法」より約1年5ケ月前に信州大学において,浮遊触媒を用いる特許“気相法による炭素繊維の製造方法”[5]が出願されている.この方法は触媒に金属化合物の超微粒子を電気炉内に直接導入する方法であり,荒川氏の全てガス状で電気炉内に導入する方法と大きく異なる.この方法では,触媒の大きさが数百nmと大きいため,微細なカーボンナノチューブを効率良く生成することは難しく,工業的には使われていない方法である.


 上記は飯島澄男博士の多層カーボンナノチューブの論文[1]が1911年にNatureに掲載される以前の歴史についての簡単な紹介であるが,飯島澄男博士のこの論文は世界的に大きな反響を呼び,CNTが世界から研究対象として大きく注目された.またその夢のような応用の可能性も話題となり,多くの国家プロジェクトの創生に繋がった.このような背景の中で,カーボンナノチューブの特許について調査がなされた.つまり国家プロジェクトを進めるうえで,外国特許で問題となるものが有るかどうかである.特に問題となるのは物質特許である.ハイペリオン・キャタリシス・インターナショナル(アメリカ)から物質特許が出願されていたが,しかしそれより約3ヶ月前に荒川氏の特許が出願され既に登録となっており,これが世界初のCNTの物質特許であることが分かった(表1).この特許が国家プロジェクトを進める上での外国特許の障害を取り除いた.

表1 CNT物質特許の出願状況

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 その後,2004年に産総研の畠 賢治氏がスーパーグロース(SG)法と名付けた単層CNT合成法を発明し[6],純度が高くかつ単層で価値の高いCNTを量産できる可能性が生まれた.そして,上に述べたようなCNT製造に関する先駆的研究で実績のある荒川氏が所属する日本ゼオンに,量産技術を一緒に開発しないかとの話が2005年にもちかけられた.これが,今,荒川氏が2005年以来改めてCNTの研究開発に従事している経緯である.

3.NEDOカーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト:スーパーグロース法とその量産化技術開発

3.1 CNTのキャパシタ応用を掲げてプロジェクト発足

 2006年,独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトとして「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」が発足した.カーボンナノチューブは,比表面積が大きくかつ導電性が高いので,キャパシタに適した素材であることが理由である.当時キャパシタは活性炭が使用されており,CNTをキャパシタに利用するためには,“量産低コスト化”の技術を構築する必要があった.

 CNTの製造方法としては,原料となる炭化水素ガスを加熱炉に吹き込んでCNTを合成する化学気相成長法(CVD法),グラファイト電極に電流を印加しCNTを成長させるアーク放電法,炭素源となるグラファイト等をレーザー照射により蒸発させてCNTを合成するレーザー蒸発法等が一般的に知られている.しかし,特に単層CNTに関しては,いずれの方法も結晶性,純度,その他諸特性,および大量生産性において満足するものではなかった.そのため,2009年9月現在,世界の単層CNT価格は,純度90%以上だと250,000円/g,1kgで2億5,000万円にもなっており,大量生産が可能な単層CNT合成法が求められていた.

 このような背景の中,革新的なSG法は単層CNTの中では圧倒的に成長速度が速く,量産化と低コスト化の可能性のある製法である.このプロジェクトでは,キャパシタに使われる程度に,徹底的なコストダウンが必要であった.SG法はキャリアガスと炭化水素原料ガスを流すところに100ppm程度の微量の水を加える.この水が触媒である鉄表面を覆う炭素を除去することで触媒を賦活させている.SG法で作製された単層CNT(以下,SGCNT)は,純度が99.5%で10分間に2.5mm成長し(従来のものはµmオーダ),さらに合成・成長したSGCNTを基板から品質を損なうことなく容易に剥離できるので,SG法による単層CNTの大量合成の期待が高まった.また,SGCNTは,99.5%の高純度に加えて高いアスペクト比,高配向性,CNTの中でも最も大きな比表面積等の特徴を有していることからキャパシタ電極材料としての可能性が示唆され,2006年からNEDOの「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」において,産総研,日本ゼオンと共同でSGCNTの量産技術研究が進められてきた(図4).

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図4 NEDO CNTを用いるキャパシタ開発プロジェクト (提供:日本ゼオン)

 

 プロジェクトには産総研,日本ゼオン,日本ケミコン(株)の三者が参加し,2006~2010の5年間,予算15億円で進められた.産総研と日本ゼオンが低コストでキャパシタに使えるCNT量産化技術を,産総研と日本ケミコンがCNTキャパシタ開発を担当する.当初は飯島氏がプロジェクトリーダーを務め,実用化の段階でプロジェクトリーダーが荒川氏に代った.

 量産技術グループリーダー(GL)は日本ゼオンの上島 貢氏,キャパシタ開発GLには日本ケミコンの玉光 賢次氏が当った.日本ケミコンは,従来の電気二重層キャパシタ(EDLC)の数倍の出力密度を有する高性能のキャパシタ開発に成功した.

3.2 SGCNTの量産化技術開発(産総研との共同研究成果)

 2004年の発明当初のSG法は,1cm角の高純度シリコン(Si)ウエハを基板として使用し,基板上にスパッタリングにより触媒を形成,次いで小型合成炉でSGCNTを合成(合成プロセス:加熱⇒触媒の還元・活性化⇒SGCNTの合成⇒冷却)するバッチプロセスで(図5上),生産性は低く,実用化するためにはまだまだ多くの課題があった.そこで材料,プロセス両面で低コスト化検討を進めた.具体的には,①高価なSiウエハを安価な薄い金属板に変えることにより材料コストを低減すると共に,②プロセスコストの高いスパッタリングプロセスからウエットプロセスに,③さらに小型合成炉によるバッチプロセスから,生産効率の高い連続合成プロセスにする方針を産総研と共に提案し開発を進めた(図5下).

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図5 SGCNTの量産技術開発方針 (提供:日本ゼオン)
(上:SG開発当初のプロセスと合成されたSGCNT,下:開発方針)

 

3.2.1 触媒基板製造技術:Siウエハから金属板へ,スパッタプロセスから塗布プロセスへ

 まず,基板コスト低減に向け,基板を金属にする検討を行った.その結果ある種のステンレス基板において従来基板と同等の成長が行えることを確認した.また,様々なFeの化合物を溶媒に溶かしてそれを金属フィルムに塗布する触媒微粒子形成法で,スパッタリングによる触媒と同程度の性能の触媒形成を可能とした.

 通常,触媒形成を行った基板は高温になったところで水素ガスを入れて触媒微粒子の還元を行い,その後に原料ガスを送り込んでCNTを合成し,徐冷して取出す.このプロセスで金属基板上に鉄の化合物を溶解した溶液を塗布して触媒形成したもので,品質,収量がシリコンウエハ上に鉄をスパッタリングすることで触媒を形成したものと同等であることを確認した[7].


3.2.2 大面積合成技術:基板面積拡大による低コスト化

 生産効率の高い大面積合成に向け,大面積基板に適したプロセス条件の設定,A4サイズの大面積基板上に均一に触媒層を製膜する方法の確立を行い,さらに大面積合成が可能な合成炉とシステムを設計・製作した.これにより,A4サイズの金属基板の全面に均一にSGCNTを合成することができるようになった.この技術により,NEDOプロジェクト開始時に比べ,生産性は100倍に向上した[8].


3.2.3 連続合成技術:バッチ処理から連続プロセスへ

 連続合成に向け,Fe化合物が塗布された基板をベルトコンベアに乗せて連続的に電気炉に送り込まれるような装置を作った.所定の温度分布を持った炉に基板を送り込み,移動しながら加熱ゾーンで基板を加熱し,水素還元ゾーンで塗布されたFe化合物を還元し触媒を形成し,CNT合成ゾーンで原料ガスを送り込んでSGCNTを成長させ,冷却ゾーンで徐冷し,炉から出てきたコンベア上のSGCNT成長基板を回収する(図5下,図6).基板金属フィルムは再利用する.このプロセスで触媒を還元して作るため,フィルムを連続して移動させるから,水素で充満した800℃の炉室から水素が漏れないようにするという技術課題があった.これらの技術課題を克服して連続合成に成功し,生産性は1,000倍に向上した.この結果,1kgあたり数十万円台の可能性が見えてきた.キャパシタ用にはさらに低価格化することが望ましい.しかし,スマホ用キャパシタのようなコンパクトに収める必要のあるハイエンドのキャパシタに於いては,出力密度もエネルギー密度も大きいことが要求される,即ち充放電が早く,容量の大きいことが求められる.このようなハイエンド用にはこの価格でも受け入れられる可能性がある.日本ケミコンは2015年の上市を予定している.このように特殊なものから用途を広げられる値段になって来た段階である[8].

 

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図6 SGCNTの連続合成技術 (提供:日本ゼオン)

 

3.2.4 SGCNT量産実証プラント:量産化技術をプラントに

 上述の,NEDOカーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクトで構築したこれら技術を活用し,SGCNT量産実証プラントを産総研内に建設し(2009年度経済産業省補正予算事業),500×500mmの金属基板上に均一にSGCNTを合成することに成功した(図7).A4基板上でのCNT合成時と比較すると約120倍,NEDOプロジェクト開始時と比較すると約17,000倍の生産性向上を達成している[9].1時間に100~150g作れるようになったので,産総研,日本ゼオンからは希望する企業へサンプルを供給し始めている.これにより,企業は独自の商品開発ができるようになってきている.

 

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図7 SGCNT量産実証プラント (提供:日本ゼオン)

3.3 各国の企業・機関のCNT開発・生産・商業化の状況(表2)

 垂直配向多層CNTでは中国精華大学・Foxconnがタッチパネル用に,粉体単層(2-3層)CNTでは台湾のNano Bit Comが同じくタッチパネル用に,粉体多層CNTでは昭和電工,保土ヶ谷化学,GSIクレレス,ナノシル,C-Nano,Arkema等が電池電極導電助材やプラスチックスへの導電付与材として商業化している.

 垂直配向単層CNTに関しては,現在パイロット段階で2015年の商業化を目標とする日本ゼオン・産総研のSGCNTがトップを走っている.後述するが,単層CNTの優れた特性を活かした複合材料で商品展開が早期に進むことが期待される.

表2 各国の企業・機関のCNTベンチマーク (提供:日本ゼオン)

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4.SGCNTの早期実用化を目指して

4.1 技術研究組合「単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)」とその研究開発

 量産が実証されたことにより,2010年に,SGCNTの早期実用化を目指して,技術研究組合「単層CNT融合新材料研究開発機構(Technology Research Association for Single Wall Carbon Nanotubes,以下,TASC)」が設立された(図8).

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図8 技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC) (提供:日本ゼオン)

 

 産総研,日本ゼオン(株),東レ(株),日本電気(株),帝人(株),住友精密工業(株)の6者が組合員として参画し,オープンイノベーションで技術開発を行うものである(理事長は日本ゼオン会長の古河氏であり,荒川氏は理事を務める).CNTの液体やポリマーへの分散技術,評価技術,板や糸の形状にする基盤技術,CNTの安全管理技術等を開発する.そして,得られた特許・技術を組合員は自由に使うことができる.また,TASCはSGCNTのサンプルを,用途開発・商品化を進めようとする一般企業に供給することも重要な使命としており,必要があればサンプルと共にTASCの特許・ノウハウをライセンスし,サンプル供給を受けた企業の開発を支援する仕組みになっている.組合は5年計画で一般会計の中で始まったが,4年で一旦打ち切り,2014年度より特別会計の3年間プロジェクトとしてスタートすることになった.合計7年間のプロジェクトになる.

4.2 TASCの研究開発成果例

 以下,TASCで研究開発された成果を紹介する.これらの諸技術をもとに用途・商品開発をしようとする企業は,TASCからSGCNTが供給されかつ本件に関連する特許・ノウハウがライセンスされる.


4.2.1 SGCNT/ポリマー複合材料

①高い機械耐久性を示す高導電ゴム[10]
 SGCNTの長さを維持したままバンドルをほぐし,SGCNTの集合体を形成した状態(図9右下の左)でマトリックスゴム(フッ素ゴム)中に分散させるSGCNT/樹脂複合化技術により「高機械耐久性をしめす高導電ゴム」が開発された.このSGCNT集合体は変形が容易なため,外部から与えられた応力に対して追従することが可能であり,伸縮に耐えられる(図9右).また,SGCNT集合体はマトリックスの中でネットワークを形成しており伸縮によってもネットワークは維持されるので高い導電性も保たれる.その結果,20S/cmの導電率が得られ,伸度150%で4,000回引っ張っても導電性を保つ(図9左).従来のCNT複合ゴムでは導電性を上げるためには多量のCNTを投入しなければならずそうすると複合体が硬くなり柔軟性がなくなる.このトレードオフを破ったのは,SGCNTの長さである.これまで,高い導電性を発現させる際の課題であった耐久性の低下を解決し,さらに変形時に導電性が低下しないと言う特徴から,今後レーザープリンター用帯電ロールやフレキシブルデバイス(フレキシブル配線)を含む様々な分野において適用されることが期待される.

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図9 SGCNTを用いた高導電性・高機械耐久性フッ素ゴム (提供:TASC)

 

②極少量のSGCNTを添加して作った導電性樹脂[11]
 長尺で比表面積の大きいSGCNTを網目構造に分散し(図10右),SGCNTを含む相(図11右青枠部)と含まない相(図11右青枠部以外)を形成させることにより,わずか0.01%のSGCNT添加量で10-3S/cmの体積導電率を示す(図12).カーボンブラックだと50wt%,他のCNTでは0.1%以上添加する必要がある.このSGCNT/樹脂(フッ素ゴム)複合材料は,プレス加工によりマイクロメートルの精度で樹脂表面を加工することが可能である.
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図10 SGCNTの分散前(図6右上を基板から剥がした状態)と分散後 (出典:参考文献[11])


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図11 樹脂中のSGCNTの構造模式図 (出典:参考文献[11])
(左)SGCNTが独立して存在し,材料全体は絶縁体になっている.
(右)SGCNTを含む導電領域(青枠)が連なることによって導電性を示す.
またSGCNTを含まない領域があるため添加量の低減や樹脂の特性の保持が可能になる.


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図12 極少量のSWCNTを添加して作った導電性樹脂の導電性 (提供:TASC)

 

③鉄並みの熱伝導率を持つSGCNT/炭素繊維/フッ素ゴム複合材料[12]
 炭素繊維と少量のSGCNTを添加したフッ素ゴムは,柔軟性を保持したまま,熱伝導率90W/mKという鉄並みの熱伝導率を持つ(図13).高い熱伝導率を示しながら,ゴムらしい柔軟性を兼ね備え,さらに軽量であるといった優れた特徴を有する複合材料である.

 

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図13 チタン並みの熱伝導率を持つSGCNT/炭素繊維/フッ素ゴム複合材料 (提供:TASC)

 

 SGCNTを用いてこれほど高い熱伝導性が発現した原因として,炭素繊維間に嵩高いSGCNTネットワークが入りこむことにより炭素繊維熱伝導を橋渡ししためと推察される(図14).集積化に伴うエレクトロニックデバイスの温度上昇への対応として,金属製放熱材料とデバイス(熱源)の間を埋める柔らかいTIM(Thermal Interface Material)として大きな需要が見込まれる.

 

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図14 炭素繊維だけの場合とSGCNTがある場合との比較 (出典:参考文献[12])
複合材料中に拡がるSGCNTが熱伝導率を向上させる.

 

4.2.2 SGCNT/金属複合材料

①Al/炭素繊維/SGCNT複合化技術
 Al/炭素繊維/SGCNTから成る複合材料を作製し,アルミニウム(Al)の熱伝導率250W/m・Kの3倍以上,銅(Cu)の390W/mKの2倍以上の熱伝導率850W/m・Kを示す複合材料の開発に成功している(図15).得られる複合材料はAlベースであるから密度は2.5g/cm3と軽量で,かつフライスで切削できる加工性にも優れるといった特徴を併せ持っている.将来的には,パワー半導体等の放熱部材としての利用が期待される素材である.

 

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図15 Al/炭素繊維/SGCNT複合材料 (提供:TASC)

 

②SGCNT/Cu複合材電極[13]
 作製法を図16に示す.即ち,
1)垂直配向に生成されているSGCNTを基板より剥ぎ取り,
2)SGCNTを基板に倒伏し,水平配向の板状SGCNT構造体を作製する.
3)次に,SGCNTと馴染みの良い有機溶液中でゆっくり電気めっきすることでSGCNT構造体の内部にCu粒子を形成し,
4)その後,Cuとなじみの良い水溶液中で電気めっきすることで,CuとSGCNTが均一に複合化された複合材を作製することができる.
このようにしてできたSGCNT/Cu複合材料のSGCNT含有率は約45%である.

 

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図16 SGCNT/Cu複合材料作製法の模式図 (出典:参考文献[13])

 

 図17から分かるように,金属は高い導電率を示すが,大電流では切れてしまう(その時の電流密度が許容電流密度である:Ampacity).金属に流せる電流は106A/cm2が限界とされる.炭素材料はCuの1,000倍の109A/cm2以上の電流を流せるが,導電率はCuの1,000分の1以下である.

 SGCNT/Cu複合材はCu並みの導電率を持ちながら,許容電流密度はCuの100倍になる(図17).

 

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図17 SGCNT/Cu複合材料と従来材料との電気伝導度と許容電流容量比較 (提供:TASC)

 

 さらに図18に示すように,SGCNT/Cu複合材の導電率は温度依存性が少ない.300KにおけるSGCNT/Cu複合材の抵抗率は銅より高いが,Cuの抵抗温度依存性が大きいため,330K付近から上の温度ではCuの方が抵抗率は高く,500KではSGCNT/Cu複合材の2倍近くになる.

 

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図18 SGCNT/Cu複合材料とCuの温度による電気抵抗変化比較 (提供:TASC)

 

 SGCNT/Cu複合材料は,電気配線やモータの軽量・小型化につながり,低炭素社会の実現に向けて貢献できるものと期待される.特に,国際半導体技術ロードマップ(ITRS)によれば2015年にはデバイス内の電流密度はLSIの電極や配線に用いるCuと金(Au)の破断限界を超えると言われており,ここでの活用に期待がかかる.

4.3 CNTの安全性管理

 キャパシタ開発に向けてのNEDOプロジェクトは2006年にスタートしたが,丁度その時期にアスベスト公害“クボタショック”があった.CNTはアスベストに似た形をしているから,中皮腫の発症が危惧された.NEDOでは,産総研の中西 準子氏(当時は産総研安全研究科学部門 部門長,現在は産総研フェロー)をリーダーとして,安全性を評価するプロジェクトを実施した.0.03mg/m3以下の環境なら,1日8時間,週5日で15年労働しても健康影響はないことを示すNOAEL値(最大無毒性量)を決めた.安全面からのCNTの実用化開発はこのNOAEL値だけで判断されるものではなくなお慎重に対応すべきではあるが,リスク管理と言う点に於いて大きな進歩がなされた.実用化の観点では,まず製造に於ける安全性の担保と言う点で,TASCはCNTの濃度を簡便に測定する技術を構築している.これにより製造現場の濃度管理が可能となる.またナノ材料の安全性は製法によって変ると考えられており,その都度大規模なin-vivo(生体内)試験は一般の企業ではなかなか難しいために,in-vitro(生体外)試験の簡便は評価技術に取り組んでいる.これまでの成果は「安全性試験手順書」と「作業環境計測手引」として公開している[14].

5.おわりに:日本ゼオンの戦略

 上述したようにNEDOプロジェクトに於いてSGCNTの連続合成技術が開発され,TASCによってその複合材料化に必要とされる基盤技術が築かれてきた.そして今,用途展開が広がりつつある.製品化はSGCNTのユーザーが考え,ユーザー各社は独自に特許を出願できる仕組みとなっている.

 日本ゼオンは,2006年以来,NEDOプロジェクトでキャパシタ応用を想定してSGCNTの量産技術を開発してきた.産総研と日本ゼオンとの共同開発であるが,日本ゼオンはこれを通して特許・ノウハウを取得できた.そして,SGCNTの製品供給は当面日本ゼオンが受け持つことになっている.また,2010年から,日本ゼオンはTASCの中核メンバーとして,用途展開のための分散や複合化および特性評価などの基盤技術開発を行い,ここでも貴重な特許・ノウハウを取得した.

 これらを基に,日本ゼオンは事業展開を進める計画である.荒川氏は「オンリーワンでないと魅力的な事業にならない.どんなに優れた製品も競合が現れた途端にコスト競争になり,薄利になる.従ってあくまで競合の追随を許さない日本ゼオンならではのオンリーワン製品の展開を目指す.SGCNT量産プロセス技術は,単層CNTの特徴を保持しながら低コストを達成しており,且つプロセスは特許の独占とノウハウのブラックボックス化で当面オンリーワンを維持できると考えている.また,SGCNTはゴムとの相性が良い.この点においても,日本ゼオンは特殊ゴムで世界No.1の会社であり,多くの技術・ノウハウを有している.そのSGCNTとゴムの強みを複合し,日本ゼオン独自のオンリーワン製品を目指す.具体的には,SGCNTとゴムのコンパウンドやマスターバッチを製造し,これ等を用いて製品開発を目指すユーザーに提供していくことでSGCNTの用途開発に貢献したい」と,2006年以来のいや更には1980年代からの研究開発を事業に結びつけようとする企業人としての熱い思いを語られた.

 日本で生まれたカーボンナノチューブおよびその複合材料,それらを用いた商品が,私たちの日々の生活で多く使われる日が一日も早く来ることを期待したい.

参考文献

[1] S. Iijima, "Helical microtubules of graphitic carbon", Nature, Vol. 354, No. 6348, pp. 56-58 (1991)
[2] 荒川公平,"気相成長炭素繊維の製造方法",特許公報 昭62-49363(出願日:1983.9.6)
[3] 荒川公平,"気相法による微細炭素繊維",特許公報 平3-61768(出願日:1984.4.12)
[4] 荒川公平,"流動法気相成長炭素繊維",特許公報 平5-36521(出願日:1984.9.14)
[5] 遠藤守信,小山恒夫,"気相法による炭素繊維の製造方法",特許公報 昭62-00242(出願日:1982.4.10)
[6] K.Hata, D.N.Futaba, K.Mizuno, T.Namai, M.Yumura, and S.Iijima," Water-Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity-Free Single-Walled Carbon Nanotubes", Science, Vol. 306, No. 5700, pp. 1362-1364 (2004)
[7] T.Hiraoka, T.Yamada, K.Hata, D.N.Futaba, H.Kurachi, S Uemura, M.Yumura, and S.Iijima, " Synthesis of Single- and Double-Walled Carbon Nanotube Forests on Conducting Metal Foils", Journal of American Chemical Society, Vol. 128, No. 41, pp. 13338-13339 (2006)
[8] 平成18年度~平成22年度成果報告書 カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト,NEDO成果報告書 管理番号20110000001753 公開日2012年3月13日
[9] 「大量生産で単層カーボンナノチューブの研究開発を加速」,
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20110214/pr20110214.html
[10] 「単層カーボンナノチューブを用いた導電性ゴムを開発」,
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100047.html
http://www.tasc-nt.or.jp/pdf/news/press110907.pdf
[11] 「極少量の単層カーボンナノチューブを添加して作った導電性樹脂」,
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20111012_3/pr20111012_3.html
http://www.tasc-nt.or.jp/pdf/news/press111012.pdf
[12] 「チタン並みの熱伝導率をもつ単層カーボンナノチューブ/炭素繊維/ゴム複合材料」,
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20111006/pr20111006.html
http://www.tasc-nt.or.jp/pdf/news/press111006.pdf
[13] Chandramouli Subramaniam, Takeo Yamada, Kazufumi Kobashi, Atsuko Sekiguchi, Don N.Futaba, Motoo Yumura, and Kenji Hata, " One hundred fold increase in current carrying capacity in a carbon nanotube-copper composite ", Nature Communications, Vol. 4, Article number: 2202 doi:10.1038/ncomms3202 ; Published 23 July 2013
http://www.tasc-nt.or.jp/pdf/news/press130724.pdf
[14] 平成18年度~平成22年度成果報告書 ナノ粒子特性評価手法の研究開発/吸入暴露試験法の開発,NEDO成果報告書 管理番号20110000001558 公開日2011年9月28日.
http://www.tasc-nt.or.jp/pdf/news/press131029.pdf

(真辺 俊勝)

 

 

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