NanotechJapan Bulletin

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<第28回>
超耐熱合金のジェットエンジンへの応用 ~超合金の構造制御による耐熱性向上で燃費低減~
この道30年の物質・材料研究機構 原田 広史氏に聞く

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 世界を飛び回るビジネスマンに航空機は欠かせない.その航空運賃は原油価格に左右され,燃料サーチャージが加算される.運航コストを支配する燃料費の削減,そのためのエンジン効率の改善は航空機の実用において最も重要な問題であり,人が空を飛び始めて以来常に求められ続けてきた.燃焼ガスの温度を高め,効率改善に役立つ超耐熱合金が開発され,これを使ったエンジンを搭載した最新鋭の航空機が日本の空を飛んでいる.一言で言えば「超合金の構造制御による耐熱性向上」と言う成果の実用化である.しかし,これは一朝一夕にできたことではない.独立行政法人 物質・材料研究機構で開発されたこの超耐熱合金は30年に渡る粘り強い研究開発の成果である.その技術の心髄,開発の道のり,今後の展望を伺うべく,茨城県つくば市千現の物質・材料研究機構 (NIMS)に,同機構 環境・エネルギー材料部門 特命研究員 原田 広史(はらだ ひろし)氏を訪ねた.

 

 

 

 

 

1.超耐熱合金開発の背景 ~航空機ジエットエンジンからのニーズと開発経緯~

1.1 航空機からの要請:エンジンの燃料消費効率改善

 最新鋭の中型旅客機ボーイング787(B787)は2011年に就航した.様々な新しい技術を盛り込み,特に燃費効率の良さに特徴がある.全日本空輸(ANA)がB787を採用し,新型機発注者,すなわちローンチカスタマとなって初の商用飛行を行った.この全日空機には,物質・材料研究機構(NIMS)で開発され,世界一の性能を誇る超耐熱合金を使ったジェットエンジンが搭載されていた.

 ボーイング787の開発は2002年頃に始まり,新型のエンジンの開発もスタートした.アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)と英国のロールス・ロイスがエンジンの開発を担当し,就航のあかつきには運用する航空機にどこ製のエンジンを搭載するかは,エンドユーザーである航空会社が指定することとなる.航空会社は整備実績のある,使い馴れたエンジンシステムを選ぶ傾向があるが,一方でそのシステムと両立し,かつ燃費効率の良いエンジンが好まれる.GEとロールス・ロイスは燃費で勝負することになった.

 航空機エンジンの燃料消費効率(Specific Fuel Consumption, SFC)は年を追って改善されている(図1).B747やB767に搭載されていたロールス・ロイスのエンジンRB211のSFCは,1970年代のエンジンに比べ15%くらい向上している.B787はB767の後継機だが,これに搭載するエンジンTrent1000は1970年比で25%向上を狙った.

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図1 航空機の燃料消費効率改善

1.2 高効率ジェットエンジン用超耐熱合金開発へのNIMSの参画

 ジェットエンジンはガスタービンで駆動する.ガスタービンの熱効率ηは,簡単に言えば,カルノーの定理:η=1-T2/T1(T1:高温端温度,T2:低温端温度)で定まり,熱効率を高くするには高温端の燃焼ガスの温度T1を上げるため耐熱材料が必要になる.GEは耐熱材料の研究を長く継続しており,独自開発を進めるに十分の力と実績を持っていた.一方,ロールス・ロイスは1980年代から自社開発をスローダウンさせ,基礎研究をアウトソーシングしつつ,材料の性能アップを進めていた.そのためB787のエンジン設計が始まる時にロールス・ロイスは目標性能に見合う耐熱材料をアウトソーシングすることになった.

 一方,NIMSは2004年の10th International Conference on Superalloysに1100℃級の超合金を発表し,ロールス・ロイスを始め多くの耐熱材料メーカーから注目を集め,その実用化へ踏み出す契機をうかがっていた[1].航空用や発電用などのガスタービンブレード(翼)など,高度な耐熱性が求められる部位に使う合金を“超合金(Superalloy)”という(本稿では取材対象のNIMSで開発された超合金を“超耐熱合金”と記している).NIMSはそれまで日本におけるジエットエンジンのリーダーであるIHI株式会社(当時の社名は石川島播磨重工業株式会社)などと共同研究を展開し,特許も取得していた.しかし,国内メーカーは,海外エンジンメーカーとのRSP(Risk and Revenue Sharing Partnership,利害共有関係)契約にて高温高圧タービンを担当できず,したがってせっかくの世界最強合金が“お蔵入り”してしまう状況にあった.そこで,国内メーカーに限定せず,できる限り大きな可能性に賭けようという気運があり,積極的なアプローチのあったロールス・ロイスとの話がまとまった.2006年6月30日に,ロールス・ロイス航空宇宙材料センターがNIMS千現地区に設立されて共同研究が始まった[2].

1.3 ジェットエンジンの仕組みとタービンブレードの耐熱性

 超耐熱合金はジエットエンジンンの中でどのように使われ,どんな特性が求められるのだろうか.

 ジエットエンジンは,燃料の燃焼で生成された高温のガスの運動エネルギーを機械の回転エネルギーに変換するガスタービンを基本要素とし,回転部はタービンディスクとその周辺にはめ込まれたタービンブレード(翼)から成っている(図2).タービンブレードの回転力で圧縮機とファンを回して推力を得ている.ジェットエンジンのタービンに入る燃焼ガスの温度は1600℃を超える高温である.超合金で造るタービンブレードは毎秒200回転の速度で回転し,高温環境で大きな遠心力を受けている.

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図2 ジェットエンジンの仕組み

 

 燃焼に必要な空気は,エンジン前面に置かれたコンプレッサによって圧力を50気圧くらいに上げて送り込まれるが,全部を燃焼に使わず,一部は空冷に回す.タービンブレードの中は空洞で,ブレード表面にはレーザー加工で開けた孔があり,空洞に入った空気がブレードを内部から冷却するとともにその一部が表面に吹き出すので,表面温度は下がる.さらにその表面には遮蔽コーティング材を蒸着して断熱を図る.このような仕組みで,1600℃の燃焼ガスの中で,1350℃の融点の超合金がタービンブレードに使えることになる.タービンブレードには大きな遠心力がかかるから,超合金の耐用温度と寿命は高温・高張力下でのクリープ破断強度で決まる(図3).

 

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図3 超合金で作る高圧タービンブレード

 

 超合金の耐用温度が上がると,エンジンに送り込まれる空気のうち,空冷に使う空気を減らし燃焼に使う空気の割合を増やせるから,燃焼効率を上げられる.超合金の耐用温度が40℃上がると空冷に用いる空気を減らしたことで効率は1%上がる.タービンは複数段で構成されるから,耐用温度の上がった超合金を複数段に使えば,段数分だけ効率が上がる.1%効率が上がると,国際線の場合,航空機1機,1年あたり1億円の燃料費が削減できるという.ANAがB787を60機運航すると,材料効果だけで年間60億円が浮くはずである.適用段数を増やせばそれだけ燃費が改善されるし,材料が良くなって耐用温度を80℃高められれば1段あたり2%の効率改善になる.

1.4 NIMSにおいて半世紀に近いNi基超合金開発の歴史

 NIMSで開発し,B787に使われた超耐熱合金はニッケル(Ni)を主成分(ベース)とするNi基超合金である.その開発から実用化には長い歴史があった.

 超合金の開発は第2次大戦中の1940年に始まった(図4).最初は鍛造(Wrought)だったが,1950年頃からは鋳造(Cast)に変る.1980年頃に,超合金は,多結晶の普通鋳造から,結晶粒を一方向に伸ばした一方向凝固材(DS)になり,さらに単結晶合金(SC)に変った.NIMSはその前身の金属材料研究所(National Research Institute of Metals, NRIM)が東京目黒にあった1975年頃に鋳造合金から開発を始めた.NIMSの開発した超合金は所在地~Tokyo Meguro~の頭文字をとってTMxxxと名付けている.NIMSが開発を始めた頃,鋳造から一方向凝固に進み,1980年に単結晶超合金ができた.単結晶で粒界がないので,粒界に沿って割れることがなくなったが,当時の耐用温度は1000℃だった.NIMSも一方向凝固,単結晶合金の開発に向かう.NIMSの単結晶超合金はS:Singleを加え,TMSxxxと名付けている.

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図4 Ni基超合金の耐用温度向上の歴史

 

 2000年には,海外で,GE,P&W(Pratt & Whitney),NASA(アメリカ航空宇宙局)が共同開発したMX-4という超合金の耐熱温度が1060℃に達し,世界最高といわれた.NIMSでは,単結晶超合金のミクロ組織制御を行い,耐用温度を1120℃にまで向上させた.米国で共同開発されたものに比べてNIMSの超合金の耐用温度は60℃くらい上回っているから,効率は1.5%上がることになる.超合金は技術の進歩に合わせて世代で区別し,MX-4は第4世代だが,GEが現在使っているのは第2世代に当るものである(合金組成と世代の関係は後の表1).これに対し,NIMSの合金を採用すればロールス・ロイスは第4~6世代のものが使える.この結果,ロールス・ロイスは高温部材に弱いという評判を払拭できた.

 一連の開発で原田氏とそのグループは数々の表彰を受けている.最近では,平成26年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞を受賞し,業績名は「ジェットエンジンタービン翼用次世代単結晶超合金の開発」である.

2.超耐熱合金とはどんなものか ~超耐熱性のヒミツ~

2.1 Ni基超合金の組成 ~2つの結晶相のミクロ組織に多種の元素を固溶~

 超耐熱合金となるNi基超合金は,母相であるNi固溶体のγ相の中に,Ni3Alを基本組成とするγ'相が整合析出したミクロ組織で構成される(図5)[3].

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図5 Ni基超合金の典型的なミクロ組織

 

 Ni基単結晶超合金の組成はNiをベースとし,Co,Cr,Mo,W,Al,Ti,Ta,Re,Ruなどを加えたものである.表1には代表的なNi基単結晶超合金の組成を示す.表にはNi以外の元素の重量%が示され,残りがNiになる.例えば,TMS-238ではNiが58.9wt%,TMS-138Aでは61.8wt%である.第1世代で使ったTiは第2世代あたりから入れなくなった.その一方,Reを第2世代から,Ruを第4世代から入れるようになった.GE,P&WもRe,Ruを入れている.添加される元素は,それぞれ異なる合金特性発現の役割を担う.Cr:耐腐食性,Mo:強度,W:強度・融点,Al:強度・耐酸化性,Ta:強度・靭性,Re:靭性・耐食性,Ru:相安定性といった効果を持ち,ミクロ組織ではMo,W,Re,Ruがγ相の格子定数を拡大させる.第2世代から使われるようになったReはWに似た元素で900℃の中温度域での強度向上に役立ち,固溶強化の機能がある.第4世代からのRuは800℃の強度向上とミクロ組織の高温長時間安定性に役立つ.

 

表1 代表的なNi基単結晶合金の組成

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 超合金の世代が進むに従って比重は大きくなる傾向にある.航空機は燃料タンクを満タンにすると総重量は100tを遥かに超えるが,その1/3は燃料である.離陸時はフルパワーでタービンの回転数は13,000rpm,即ち1秒間に200回転を超える.このためタービンブレードにはそれ自体の遠心力で15tの力が加わる.5tトラック3台をぶら下げた重さに当る.しかも,タービンブレードの温度は1000℃を超える.比重が大きい方が遠心力は大きくなるから,エンジンメーカーからは比重が9を超えないよう求められている.第3世代まではどこの合金も比重が9以下だったが,第4世代でGEなどが共同開発したMX-4は9.20になった.このためもあってこの合金は使われていない.NIMSは9以下を狙って開発し,第4世代,第5世代超合金の比重は9.01,第6世代では8.99である.ロールス・ロイスとの共同研究は2006年6月から2011年3月まで約5年間行い,複数の合金を提供した.

2.2 Ni基超合金の特性 ~タービン動翼の過酷な動作に耐える~

 タービン動翼材には様々な特性が求められる.その第一は高温・高張力環境での長時間使用に耐える高温強度であり,クリープ強度で評価される.タービンには起動・停止の時に大きな力が加わる.このため,高温強度には高温で静的な高張力に対するクリープ強度に加えて離着時の低サイクル疲労強度も求められる.第二は耐環境性である.空気の悪い地域の上空を飛ぶと腐食が起る.大気中の硫黄などによる腐食への耐性などが求められる.第三は製造性である.単結晶になり易い鋳造性,所要の強度を実現するための熱処理条件の許容範囲が広いことが求められる.熱処理条件が厳しいと,製造時に条件をはずし易くなるから,不良品ができ易い.このため,地上に据え付けるベンチテストエンジンを造って,製造条件を確認し,高温,高速回転,起動・停止試験を行って,新しい超合金が高温強度,耐環境性,製造性に耐えることを確かめている.

 クリープ試験ではタービン翼と同じ温度・応力を再現して試験片のクリープ伸びを測定する.1100℃/137MPaで試験したとき,第2世代,第3世代の実用合金はそれぞれ100hr,200hrで伸びが急増し破断する.開発合金は第4世代のTMS-138Aが700hr,第5世代のTMS-196が1000hrで破断するが,第6世代のTMS-238は2000hrまで破断しなかった(図6).

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図6 タービン翼の温度・応力を模擬したクリープ試験結果[4]

 

 耐環境性では,試験片を1100℃において1時間周期で酸化雰囲気に曝し,試料の質量変化を測定した(図7).アメリカで共同開発されたMX-4に比べ,第4世代のTMS-138A,第5世代のTMS-196の質量減少は遅く,第6世代のTMS-238は600サイクルの暴露でも質量減少は少ない[4].合金メーカーCannon Muskegon Corporationの超合金CMSX-4はTMS-238に匹敵する耐酸化性を示すが,第2世代の超合金でクリープ破断寿命はTMS-238の1/10以下にすぎない.

 

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図7 超合金の1100℃酸化試験[4]

2.3 超耐熱合金でタービン動翼を作る:タービン動翼の形に超合金の単結晶を成長させる

 近年の超合金タービンブレード材料は単結晶である.普通凝固で作ると多結晶になり,大きな遠心力がかかると,結晶粒界に沿って亀裂が発生し,縦・横どちらにも割れる.一方向凝固で作ると縦方向に結晶が揃うのでその縦方向の界面に沿って亀裂が発生し,縦に割れる.離陸時にはトラック3台分の遠心力がかかるが,単結晶であれば亀裂は発生しない(図8).

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図8 大きな遠心力に耐える単結晶超合金タービンブレード

 

 単結晶超合金タービンブレードは鋳型を用い,一方向凝固炉の中で超合金の融液を徐冷し,鋳型に沿って単結晶を成長させる.単結晶超合金を造る鋳型は試験用の丸棒を造るのでも図9のような複雑な形状をしている.右下の写真の下部にある細い数本のらせん状の部分で一つの結晶核が選び出され,鋳型に入った融液が炉の上部の高温側から下部の低温側に向かって引き下げられるに従い,下部の低温側にできた結晶核を種結晶として単結晶が成長する.空冷のための複雑な空洞を造るため,中子が用いられる.それでもタービン翼全体がひと繋がりの単結晶になるが,枝分かれした結晶が合わさった界面には格子面がわずかに傾いた小角粒界(small angle grain boundary)ができる.単結晶超合金の特性を得るには,この傾きの違いは2~3°程度までしか許されない.ここでも製造技術上の知恵が必要だった.

 

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図9 NIMSの一方向凝固炉,製造中,及び鋳型

2.4 単結晶超合金は何故強いか ~耐用温度向上のメカニズム~

 超耐熱合金は単結晶だが,結晶格子の線状の乱れである転位は存在する.転位は高温で増殖し動き回るので,結晶は少しずつ変形して破断に至る(クリープ破断).そこでミクロな組織として転位が動かないようにする.図5のように,Ni基超合金はγ相とγ'相の2つの相の結晶からできている.結晶は繋がり,整合しているが,結晶の寸法を少し変えて相界面に歪みを与えると歪みを解放するために界面転位ができる.つまり,相界面が悪さをする転位を吸い取る.この結果できた転位の網目は,転位の動きを止め,歪みの伝搬を抑える.

 世代ごとに転位網は小さくなっている.耐熱性は界面転位網微細化合金設計よって向上させてきた(図10).添加する元素のいくつかはγ相格子拡大の役割を担い,2つの相の格子定数差が拡大すると転位網は微細化する.第3世代の実用合金は耐用温度1050℃で,電子顕微鏡で見た転位網の大きさは100nmに近い.第4世代開発合金では耐用温度1080℃で転位網は20~30nm,第5世代は1100℃で転位網は10nm近くになった.転位が絡み合い,転位網になるので新たにできて動いて来た転位はそこで止まる.このため転位の運動による変形,破断が起り難くなる.

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図10 界面転位網微細化による耐熱性向上[1]

2.5 経験則の積み上げによる界面転位網微細化合金設計

 転位網を持った組織は成分調整と熱処理で制御する.このため組成と歪みを計算し,クリープ破断寿命まで予測するコンピュータプログラムを作った.組成,温度,応力を入力して,γとγ'の割合,格子定数,ミスフィット(格子定数差)などを計算する.たとえば第4世代単結晶超合金TMS-138では,γ/γ'格子定数差が拡大し,界面に0.3%のミスフィット(1,000格子で3格子のずれ)が生じ,転位網微細化,クリープ強度が大きくなるという計算結果が得られる.

 このようなプログラムを使って条件を絞り込んでから実験で超合金を作り込む.全部実験でやろうとしたら莫大な時間と費用がかかってしまう.NIIMSはこのプログラムを持っていることで他に勝ることができた.用いる式は経験則によるもので実験式や重回帰分析を用いる.常に実験と比較し,合わないところがあれば式を修正する.この積み重ねが合金設計の確度を高め,開発を加速した.

3.タービンブレード超合金技術を活かす関連技術 ~遮熱コーティングとタービンディスク~

 前節までにタービンブレード用単結晶超合金が如何にできたかを述べてきたが,超合金という材料ができただけでは,タービンブレード,タービンはできない.タービンブレードの超合金部材の温度を燃焼ガスより低くする遮熱材と,タービンブレードを取り付けるタービンディスクの開発が必要である.

3.1 タービンブレード遮熱コーティング

 タービンが回っているとき,タービンブレード基材超合金の内側は冷却空気で冷やされているが,燃焼ガスに触れる側は高温ガスに曝される.このためタービンブレードでは,燃焼ガス側の温度を下げる遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating, TBC)が重要になる.TBCなしだと,翼基材超合金の燃焼ガスに触れる外表面温度と反対側の冷却空気に触れる内表面温度との差が少ないので燃焼温度を上げられない.TBCは,翼基材超合金の上にボンドコート層とトップコート層を重ねる.ボンドコート層は金属で翼基材の高温酸化を防止し,セラミックのトップコート層は燃焼ガスから翼への熱流速を低減する.この二つで,燃焼ガスの温度を高められる(図11).

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図11 遮熱コーティングの基本構成

 

 トップコート層には熱伝導率の低いイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を使う.YSZには添加物を加えて熱伝導率をさらに下げる.コーティングに使う電子ビーム物理蒸着(EB-PVD)装置は自作したもので日本には3台しかない.セラミック層はボンドコート層と呼ばれる金属コーティング層の上に成長させる.ボンドコート層は超合金と熱力学平衡するように成分調整されている.このため,EQ(Equilibrium)コーティングと呼ぶ.できた組織を見るとセラミックスが歯ブラシのように成長している(図12).このブラシの空隙のためタービン翼の表面温度が変化した時に横方向の熱応力が緩和されるのでセラミックが割れにくく,コーティングの寿命が大幅に増加する.

 

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図12 遮熱EQコーティング材の組織

3.2 タービンディスク部材の開発

 超合金を使ったタービンブレードはタービンディスクにはめ込む.円盤状のタービンディスクには直接燃焼ガスが当らないので,その使用温度は700℃に止まるが,高い応力が加わる.自身の重さとブレード1枚に15tの遠心力が加わるためである.このため,700℃,600MPaに耐える必要があり,形状が複雑なため,世界では鋳造・鍛造法から,粉末冶金法に進化したが,国内に粉末冶金によるタービンディスク製造技術がない.国内で製造可能な鋳造・鍛造合金のタービンディスク部材開発が望まれ,NIMSは鋳造・鍛造合金の耐用温度を750℃に上げることを目標に開発を進めた(図13).

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図13 高温タービンディスク部材の開発

 

 超合金にはNi基とCo基があり,その中間は未開拓であった.そこで,Ni基超合金とCo基超合金を混合し,Tiを加えてγ/γ' 2相のNi-Co基超合金を開発した.Ni基超合金にCo基超合金を混合すると鋳造性が高まり,Tiは強度を高める.TMW(Tokyo Meguro Wrought)Alloysと名付けた.材料は,真空誘導溶解,エレクトロスラグ再溶解,真空アーク再溶解の3回の溶解工程(トリプルメルト)を経てインゴットにする.大きなものを作るのには三菱マテリアルに協力を求め,実際のプロセスでトン級トリプルメルト材を作った.これで従来に比べて2倍の力に耐えるものができ,ディスクの耐用温度を60~70℃高められるようになった.

 タービンディスクの特性では亀裂伝搬速度が問題になる.亀裂がゆっくり進めば次の定期検査で見つけて修理すれば済む.進行が早いと定期検査の間に破断してしまう.開発・試作したタービンディスクの特性を評価したところ,低サイクル疲労試験,疲労亀裂伝搬試験とも従来合金と同等以上で,クリープ試験で高温・高張力に耐えることを確かめた.

 このような材料の部品化には大型のプレスが必要になる.暫く前までは,日本製鋼所・室蘭の1万4千トンプレスが日本最大だった.海外諸国には大きいプレスが多数ある.アメリカには3万トン以上が7台,ロシアは5万トン以上2台,中国は5万トン以上3台(製造中のものを含む)などである.日本では2013年になって,日本エアロフォージ株式会社が岡山県倉敷市水島に5万トンプレスを作った(竣工2013年4月).鍛造技術は航空機製造などに伴って進むから,航空機製造を禁じられた敗戦国の日本では進歩が遅く,戦勝国優位の技術になっている.日本エアロフォージ社の5万トンプレスでNIMSの開発中の合金を処理することも始まり,これが日本の産業技術の展開に繋がることを原田氏は期待している[5].

 日本のタービンブレードは海外をリードしている.耐用温度が25℃上がったら,以前の材料を新しい材料で置換えるという.NIMSで開発した耐熱合金は耐用温度が60℃上がったから,水泳でいえば水を空けたことになる.これに加えて,コーティング材,タービンディスク材を開発し,ブレード,コーティング,ディスクの3点セットを,NIMSという独立行政法人で準備することができたことになる[6].

4.超耐熱合金の実用化から国内航空機産業の再生へ

4.1 超耐熱合金は海外エンジンメーカーで実用化

 NIMSとロールス・ロイスとの共同研究により,NIMS開発の超耐熱合金を用いたロールス・ロイスのエンジン(Trent1000)が開発され,これを搭載してANAのB787機が飛んだので,長年の研究の成果を実用化することができた(図14).しかし実用化は平坦な道のりではなかった.

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図14 高効率中型機ボーイング787機開発

 

 日本のエンジンメーカーはRSPという名の国際共同開発に参加しているが,下請けに止まる.ボーイング機のエンジンのOEM(委託製造先)はGE,P&W,ロールス・ロイスの3社で70%を占め,特に大型機のエンジンはこの3社に限られる.タービンブレードが消耗品で,エンジンを安く売っても,4~5年ごとのブレード定期交換で稼げるから,海外メーカーは高圧,中圧タービンを握って離さない.三菱航空機のリージョナルジェット機(MRJ)もP&Wのエンジンを使う.海外よりも良い材料ができても,国内での実用化,航空機エンジンへの適用は,可能性はあっても願望に近い.

 そこで,海外であっても使いたいというところがあれば,一緒にやる.材料だけでも日本のものが使われれば,そこから実機適用に関して多くの知見が得られると考え,ロールス・ロイスと組んだ.そうしなければ,開発した材料はいつまでも実用化できなかっただろう.ロールス・ロイスとの共同研究に当っては,文部科学省,経済産業省に説明して了解を求め,国会議員にも説明した.

 こうした経緯で実用化した超耐熱合金は現在,ANA,BA(英国航空)やポーランド航空の航空機に搭載するエンジンに使われている.B787ではGEのエンジンを載せた機体もあるが,B787に載ったロールス・ロイスのエンジンにはほぼ全てNIMSの超耐熱合金が使われているとみられる.B787は2011年に就航したが,行く行くはエアバスにもロールス・ロイスのエンジンが使われる可能性がある.

4.2 国産エンジンの開発・国内航空産業の再生に向けて

 NIMSで開発した超耐熱合金は海外のエンジンメーカー,航空産業で実用化に漕ぎ着けた.優れた材料が国産エンジンの開発に繋がり,国内航空産業が活性化すれば,日本の新産業構造への転換,未来につながる新しい日本の構築に役立つと原田氏は考える.

 国内航空機エンジン開発の経緯を見ると,太平洋戦争の時代に名機と言われた零戦のエンジンは1000馬力だったが,当時,アメリカのグラマン機は2000馬力で,エンジン技術に大きな差があった.戦後,日本の航空技術開発は一旦凍結され,7年の空白の後に生まれた戦後初の国産機YS-11のエンジンはロールス・ロイス製だった.航空自衛隊のFSX戦闘機はエンジン技術が貰えなかったので国産化を諦めた.国際共同開発に参画していても日本は高温高圧エンジンを担当できない.それでも,P1哨戒機はIHIのF7エンジンを使い,エンジンまで国産になり始めた(図15左).国産エンジンを載せたステルス機「心神」が今年度中に飛ぶらしい(図15右).徐々に適用され始めたが,国産エンジンは20年以上遅れている.F7エンジンの推力は13000ポンド,5~6tである.これに対し海外のエンジンは18t,出力で3倍違う.燃焼温度でも国産のF5エンジンは1600℃だが,海外は1900℃から2000℃を越えている.

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図15 戦後のエンジン開発の経緯

 

 三菱リージョナルジェット機(MRJ)は当初の30~50席の機体から70~80席に変更したため,国産エンジンの双発では十分な推力を得ることができず,エンジンはP&W製である.新興国とされるブラジルは,航空産業で日本より先行し,エンブラエル機の機体を自国で作るが,ジェットエンジンには米国のGE製を使う.ホンダビジネスジェットは本田宗一郎氏の遺志のもとに機体もエンジンも独自開発したが,エンジンの事業化はアメリカのGEホンダ社になった.航空産業は機械技術の粋を集めて成立する.エンジンも日本がOEMとなり,NIMSの超耐熱合金が使われることを原田氏は期待している.

 概ね50年刻みに日本の歴史を振り返ると,1858年に開国し富国強兵で日清・日露戦争に勝利する1905年までが始めの50年,その後,軍拡,太平洋戦争敗戦(1945)までが次の50年,戦後の復興・繁栄を経て1992年にバブルが崩壊するまでが第3の50年にあたる.その後の「失われた20年」に続き東日本大震災・原発事故が2011年にあって,電源確保,新しいエネルギー政策,航空産業を含めた新産業構造への転換を進めているのが未来に向かう現在の50年である.その中で,NIMSは耐熱材料の開発を進めて来た.エンジンの材料開発が,エンジン国産化,国産航空機の誕生と,太平洋戦争の終戦で解体され未だにその影響を色濃く残す航空産業の再生,日本の産業構造転換,明るい未来の日本に役立つことを原田氏は期待している.

5.超耐熱合金の普及拡大 ~コスト削減と発電用への展開~

5.1 NIMSベンチャーを通じて普及拡大

 NIMSが開発した超耐熱合金の広範な普及促進に向け,NIMSベンチャー「株式会社超合金」を5年前に創った(2009年9月設立).NIMSとは別法人の独立経営だが,契約により2014年10月までNIMSの装置等を使用した.原田氏は,NIMSから兼業許可を貰い,経営に参加している.業務は超合金などの試験用素材販売,真空鋳造炉やコーティング装置などの製造斡旋,耐熱材料等のコンサルティングである.テストピースを作って売るのが会社の収益になる.テストしてよいとなったらNIMSの特許を使ってもらうという媒介ビジネスである.

5.2 リサイクルによる材料コスト削減

 超耐熱合金を広く使って貰おうとALCA(Advanced Low Carbon Technology Research and Development Program,先端的低炭素化技術開発)プロジェクトが動いている.超耐熱合金にはRe,Ruを使っているが,Re添加量は第2世代の3wt%から第5/第6世代では6wt%になった.第4世代から使われ始めたRuは,第4世代の3wt%から第5/第6世代では5wt%になった.Reは35万円/kg,Ruは40万円/kgと高い.プロジェクトは,まだ行われていないタービン翼の直接リサイクルによって実質材料コストを1/4に下げ,各種ジェットエンジンや発電ガスタービンへの普及を大幅に促進させ,化石燃料消費削減,低炭素社会実現に寄与することを目標とする.プロジェクト期間は,2013~2015年である.

5.3 高温ガスタービンの発電応用

 東日本大震災後,日本の電力構成における火力発電の比率が高まった.震災前の2010年だと原子力が日本の電力の28.6%を占め,火力発電は61.8%だった.残りが水力発電と新エネルギーになる.震災後の2012年には原子力が激減し,その減少分を埋めた火力発電は全電力の88.3%を占めるようになった.88.3%の燃料内訳は石炭:27.6%,LNG:42.5%,石油:18.3%である.火力発電の半分はガスタービンを使っている.特に,ガスタービンと蒸気タービンを組み合せたコンバインドサイクル発電(複合発電)が期待され,ガスタービンの高温側の温度を上げれば効率が上がる.最新型の燃焼ガス温度1600℃のタービンはタービン動翼の耐用温度が980℃で,複合発電総合熱効率は54%である.タービン翼は空冷して用いられている.1100℃の超耐熱合金を使い,燃焼ガス温度を1700℃に上げられれば56-60%の発電効率が期待される(図16).

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図16 タービン翼材の耐用温度上昇による発電熱効率向上

 

 発電用ガスタービンのタービンブレードは30cmの長さで10kgの重さがあり,材料の鋳造性が重要になる.文部科学省と資源エネルギー庁が連携し,これに三菱重工業とNIMSが研究協力して,発電用大型ガスタービンへの適用の可能性を確かめるプロジェクトが2004年から進められている.

 今後,再生エネルギーの利用拡大が期待されるが,気象条件等の影響を受けるので出力が不安定である.火力発電を再生エネルギーのバックアップに使おうとすると,急速立ち上げ,停止が必要となり,定格の半分の出力でも効率の確保が求められる.柔軟な動作が可能なフレキシブルガスタービンが必要になる.蒸気タービンに比べガスタービンはスイッチングのオン/オフをやり易い.たとえば,これまで10分だった立ち上げを1分にする必要がある.しかし急熱になるから材料にしわ寄せが来て,熱疲労への対応が求められる.これに対しても,プロジェクトが準備されつつある.

6.今後の展開:超耐熱新材料の開発で無冷却エンジンの夢に向かう

6.1 高融点Ir基超合金の開発

 これまでのガスタービンには空冷が必要だった.これに対し,冷却なしで使えるタービン材料に向けて,NIMSも研究に着手した.冷却なしで使えるタービン材料の候補の一つがIr基超合金である.IrはNiと同じ働きをし,Ni基超合金はAlを加えてγ/γ'構造を作るのに対し,Ir基超合金はNbを加えるとNi基超合金同様,γ/γ'構造ができる.融点はNi基超合金の1385℃から1015℃高い2400℃になる(図17).

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図17 Ir基超合金の融点と組織[7]

 

 NIMSでは,Ni基超合金より600℃高い1,700~1,800℃で使えるIr基超合金が小片でできた.問題は資源とコストである.Irは白金族元素で,IrもPtも地球上では希少だが宇宙には多く存在し,Irの宇宙存在度は地殻存在度の1000倍である.そこで,宇宙の小天体を捉えようというベンチャーのプロジェクトがアメリカにある.小天体を一つ捉えて地上に持って来たら,有史以来,人類が使って来ただけの貴金属が得られるという触れ込みだった.これはインターネット情報だが,宇宙開発が進み宇宙の資源が活用できるようになったら,Ir基超合金の実用化が現実のものになるかも知れない.

6.2 酸化物新複合材料への期待

 セラミックスの利用も検討している.セラミックスは割れ易いが,セラミックスマトリックスコンポジット(Ceramics Matrix Composite, CMC)にすると割れが抑えられる.セラミックスマトリックスにセラミックス繊維を複合化したもので,割れが繊維に沿って横に逸れるので,割れは進行しににくくなる.F-22のエンジンでは比較的温度の低い低圧タービンベーンに使われているらしい.しかし,SiCは1300℃以上で酸化,蒸発してなくなってしまう.これに対し,NIMSは酸化物でできないか検討し,酸化物マトリックスの基材に酸化物繊維を複合させたセラミック材を作った.1750℃で24hr加熱しても,SiCのようになくなることはなく,既存材料に比べ高い耐酸化性を示した.

 さらに,ジルコニア系長繊維を小企業と協力して作った.編める長さのものができたので,先ず回転しないところに使えないか検討している.これができたら無冷却で動かせるのでタービンの効率は一気に上がる.もし,1800℃の燃焼ガスを用いて無冷却で運転するガスタービンが可能になれば熱効率は現行54%から65%(総発熱量のHHV規準)まで一気に約10%上がる.若い人には.無冷却でNi基超合金を置換えるような材料を開発したら,材料でノーベル賞をもらえるかも知れないといっている.難しいが,チャレンジングなテーマであると原田氏は語った.

おわりに

 日本発世界一の超耐熱合金を使ったエンジンを搭載した全日空のボーイング787が日本の空を飛んだ.ガスタービン翼の耐用温度が上がったので,エンジン効率が上がり,大きな省エネ効果があるという.この効果を生んだ超耐熱合金は30年以上の粘り強い開発によって生まれ,高温・高圧での強度は合金のミクロ構造,微細転位網によっている.この技術は,東日本大震災後日本の電力の90%を供給する火力発電のガスタービンにも応用されよう.原田氏は,優れた材料の開発が,太平洋戦争終結後に遅れをとった航空産業の活性化,日本の産業構造の変化,明るい日本の未来に繋がることを期待する.材料面では無冷却エンジンを可能にする材料の開発を夢見て,開発に着手している.粘り強い開発から生まれた材料技術が明るい日本の未来を切り拓くことを期待させるインタビューであった.

参考文献

[1] Yutaka Kizumi, Toshiharu Kobayashi, Tadaharu Yookawa, Zhang Jianxin, Makoto Osawa, Hi roshi Harada, Yasuhiro Aoki, and Mikiya Arai, "Development of Next-Generation Ni-Base Single Crystal Superalloys", Superalloys 2004: 10th International Symposium on Superalloys, TMS (The Minerals, Metals & Materials Society), 2004, pp.35-43.
[2] "ロールス・ロイス,超耐熱合金を物質・材料研究機構と共同研究" プレスリリース 2006年6月30日.
http://www.nims.go.jp/news/press/2006/06/p200606300.html
http://www.rolls-royce.com/japan/jp/Images/300606nims_tcm220-16173.pdf
[3] 原田広史,"特集 超合金開発と実用化戦略 ジェットエンジンおよびガスタービン用超合金の開発",金属Vol. 82, No. 4, pp. 5-13 (2012).
[4] Kyoko Kawagishi, An-Chou Yeh, Tadaharu Yokokawa, Toshiharu Kobayashi, Yutaka Koizumi, and Hiroshi Harada, "Development of an Oxidation-Resistant High-Strength Sixth Generation Single-Crystal Superalloy TMS-238", Superalloys 2012: 12th International Symposium on Superalloys, TMS (The Minerals, Metals, and Materials Society) 2012, pp. 189-195.
[5] 原田広史,"巻頭言「日本の新しい航空元年に向けて」",日立金属技報 Vol. 30 (2014) pp. 6-7.
[6] 特集「CO2削減に貢献するNIMS超合金」,NIMS NOW 2009年10月号,NIMS NOW, Vol. 9, No. 8, pp. 02-09 (2009).
[7] 原田広史,"白金族金属の超耐熱合金への適用",材料の科学と工学 Vol.41, No.6, pp.14-18 (2004)

※本文中の図・表は全てNIMS原田氏より提供されたものである.

(古寺 博)

 

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