NanotechJapan Bulletin

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<第3回>
フレキシブル熱電変換モジュール ~拡がる期待とインパクト~
富士フイルム株式会社 フェロー 青合 利明氏に聞く

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 富士フイルムは,本年1月30日から2月1日の3日間東京国際展示場で開催された第12回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議 nano tech 2013で「グリーンナノテクノロジー部門賞」を受賞した.受賞理由は「さまざまな場所に取り付けて身近にある排熱を利用できるフレキシブル熱電変換モジュールや,世界最高効率の太陽電池など,省エネルギーや省資源に関する独自技術を数多く展示し,持続可能な社会実現に貢献する技術を開発した」である.

 今回,このフレキシブル熱電変換モジュールについて,研究開発の着想,経緯,現状と今後の展望等についてお伺いしたく,本開発を終始リードしておられる富士フイルム株式会社 フェロー 青合 利明(あおあい としあき)氏を東京六本木の富士フイルム東京ミッドタウン本社に訪ねた.

 

 

 

 

1.nano tech 2013の展示

 富士フイルムにとって本年の受賞は,2009年:材料・素材部門賞,2011年:nano tech大賞,2012年:ライフナノテクノロジー部門賞に続く4度目である.また、今回の展示品は表1に示す15件である.

表1 富士フイルムの展示品(nano tech 2013)
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 まずはじめに,本稿の主題である「フレキシブル熱電変換モジュール」展示品の概要を紹介する.

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図1 展示されたフレキシブル熱電変換モジュールのデモの様子[1]

 特徴は,①有機材料を熱電変換素子に用い,②フレキシブルな基板上に形成したフレキシブル熱電変換モジュールであること,③有機材料を用いているため,素子の形成には印刷技術を活用でき,④大面積化も可能,⑤室温〜100℃程度の低温の熱源を使って発電できるため,ヘルスモニター用電源や工場の配管,さらには太陽光発電パネルの裏面など,幅広いアプリケーションに適用できること,⑥またレアメタルを用いないので資源問題も無くかつ毒性も無いので環境保全にも貢献できること等である.

 熱電変換素子は,p型半導体の高分子と炭素材料(CNT)の混合物で,性能指数ZTは0.3を超えるに至っておりこれは有機系では世界最高値である.

 熱電発電には無機材料が多く用いられ,無機のBi2Te3系はpn接合を使うが,有機材料では良いn型材料がないので今回の展示はp型だけでモジュールを作っている.電球に貼って発電できることを示した(図1).また,曲面に熱電素子を張って,玩具のミニカー"チョロQ"を走らせる展示も行った.手で触れて発電した電気でセンサを動かし,そのセンサの指令でチョロQの電源をONにし走らせる.運転指令情報は無線で飛ばす.見る人の夢を膨らませる工夫がなされている.

 今後,炭素材料やモジュール設計の最適化,および材料の改良を進めるなどして5年以内の商品化を目指すとのことである.

2.フレキシブル熱電変換モジュール研究開発の始まり

 はじめに,富士フイルムで本開発を開始された経緯についてお伺いした.

2.1 社の方針,社の持つコアコンピタンス

 現在,富士フイルムは成長戦略として6大重点事業(ヘルスケア,高機能材料,ドキュメント,グラフィックシステム,光学デバイス,デジタルイメージング)を掲げているが,中でもヘルスケア,高機能材料,ドキュメントの3分野に注力している(図2).フレキシブル熱電材料は高機能材料分野に属する.

 富士フイルムは長年写真フィルムを手掛けてきたが,これはナノテクの走りだったと言える.感光の中心となる銀塩の粒子はナノサイズだし,厚さ20µmの感光層は20層以上の薄層の塗布膜から成り,100種以上の化合物を含んでいる.細かく見て行くと,微粒子化,超薄製膜などがあり,その積み上げで写真フィルムはできている.多種の技術を精緻に組み合せる必要があり,当時写真フィルムを作れるメーカは世界に4社しかなかった.

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図2 富士フイルムの事業分野と売上高および注力事業分野
(富士フイルムホームページより)

 2000年以降,デジタルカメラの普及で写真フィルムの需要は激減し生産を縮小しているが,製品はなくなってもその技術はしっかり残っている.今後の開発方向として,環境エネルギー分野は重点領域であるが,写真フィルムで培ったナノテクがここでも大きな役割を果たすことになると考えられる.

2.2 フェロー青合氏の考え方,ミッション,方向性

 青合氏は3年前の2010年にフェローに就任した.フェローとしての役割の一つは若手・中堅の研究に対する目利き役であると共に,事業に直結している研究現場ではやりにくい,将来を見据えた新規研究を取り上げることだと考えた.富士フイルムは上述の6つの事業領域を掲げるが,その中で高機能材料は若干異質である.他の事業分野の場合は課題が明確だが,高機能材料分野は新しい事業を産み出す畠になり,新たな企業活力の創出にもつながる.

 青合氏は高機能材料開発を行うに当り,①富士フイルムの写真材料のコア技術を活かすこと,②世の中でやっていない材料を目指すこと,③会社への貢献は勿論だが,社会にも貢献できることをやろうと考えた.過去に色々引出しに貯め込んでいたアイデアを今一度見直し,種を探して有機熱電材料・素子・モジュールの研究をスタートすることにした.

 モバイルPC(ラップトップPC)は膝に載せて使っていると,発熱で膝の熱さが気になるほどだ.TVや照明も同様に熱を発する.この熱の有効利用に関心を持った.熱電発電である.熱電変換素子には長い歴史があるが,無機熱電材料が中心でまだまだ広まっていない.Bi2Te3系の材料が代表的だが,BiやTeには毒性があり,またレアメタルでもあり,加工性の問題で大面積のものができない等のためである.富士フイルムが得意とする有機材料で熱電発電を実現できれば,毒性の問題はなく,塗布・印刷プロセスが使えるなどコア技術も活用でき,社会貢献にもなると考えた.これがスタートの理由である.

2.3 時代の変化に対応した富士フイルムの研究開発体制の変化も後押し

 富士フイルムは2006年に研究開発体制を見直した.それまでは研究所の名称に,朝霞研究所,足柄研究所といった地域名がついていた.そこには生産工場も隣接しているので,その工場で生産される製品に関わる研究をしてきた.しかし,カメラがデジタルになり,写真フィルムの需要が少なくなると,当然写真フィルムの研究開発も縮小する.工場付属の研究所では世の中の流れに対応できない.そこで2006年に,コーポレートラボと,ディヴィジョナルラボを分けることになった(図3).これにともなって,高機能材料のような富士フイルムのコア技術が活かせる製品開発が新たな課題となった.

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図3 富士フイルムの研究開発体制
(富士フイルムホームページより)

2.4 排熱の実態と熱電素子

 熱は最終・最大の産業廃棄物とも言われる.日本で使う全エネルギーの約80%が化石燃料を元とする.その消費エネルギーの内,有効に使われているのは約1/3で,約2/3は排熱として捨てられている.排熱の温度分布を見ると,200℃以下が約7割を占める(図4).高温の排熱は利用し易いが,低温の多くの排熱は薄く広く排出されているので回収が難しい.しかも低温の排熱の熱源は色々な形状例えば電球のように丸いものからも放出されるから,形状対応も必要になる.排熱を利用する熱電素子はフレキシブルで軽量あることが"must"になる.

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図4 排熱の温度分布:200℃以下が7割を占める
(提供:富士フイルム)

2.5 排熱はアンビエント時代を支える電子機器のエネルギー源

 ところで,機器や技術が広まるとユビキタス性が求められるようになる.一人当たりのPC使用台数で見ると,Windows 95以降一人1台に近づいた.ユビキタスの時代にはこれが一桁上がる.スマートフォンが普及し,情報に「いつでも,どこでも」アクセスできるようになった.ユビキタスの先のアンビエントの時代になると,逆に周囲の環境が人間にアクセスするようになる.例えば個人の過去の消費性向を分析し,買物時の店先でディスプレイに即時に表示し,買物を手助けしてくれる.こういったことになると,PCの使用量はもう1桁増加する.

 アンビエントの時代は種々のセンサネットが張りめぐらされる世界となるが,その電源エネルギーが問題になる.エネルギーハーベスティング(環境発電)で環境に存在するエネルギーを活用しないと成立たない.環境には光,熱,振動などのエネルギーが存在するが,利便性を考えると熱は最も安定している.人の体温も活用できる.排熱はアンビエント時代の有効エネルギー源である.

3.熱電変換材料の開発

3.1 有機熱電素子の先駆的研究— 戸嶋先生の研究

 熱電素子は,p型およびn型半導体の一端を高温に他端を低温に保ち,高温部で活性化されたキャリヤーが低温部に拡散することによって発電する(図5).その性能は,無次元の性能指数ZTで評価される.ZT=σS2T/κ(σ:導電率,S:ゼーベック係数,κ:熱伝導率,T:高温側と低温側の平均温度)と表わされる.よく知られているBi2Te3系の無機材料では,ZT≥1が実用化の目安とされていた.無機材料はフレキシブルの要求に対応しにくいだけでなく,希少金属であるため大量に使うのは難しい.また無機材料は焼結で素子が作られ,加工性に課題がある.これに対し,有機材料は環境に優しく,構成元素は豊富に存在する環境調和型材料であり加工性にも富みフレキシブルにもできる.しかしこれまで有機熱電材料の性能は無機材料の3桁下だった(図6).

 このような事情から,有機熱電材料の研究開発は熱電性能の見直しから始めることになった.富士フイルムが研究に着手した当時,有機熱電材料の先駆者は山口東京理科大学の戸嶋 直樹教授であった.戸嶋先生は,導電性ポリマーを延伸することによって,初めてZT=0.1にすることができることを示した(図7)[2][3].高分子を延伸することによりその方向に配向し,ゼーベック係数を変えることなく,導電率を高められることを示した.これをきっかけに有機熱電材料がにわかに注目されるようになった.

 ちなみに,富士フイルムで研究に着手した時は小数点の後にゼロがいくつも続くような性能指数でしかなかったが,現在は0.3を越えるに至り,有機材料としては最高の熱電性能に達している.0.5が手のとどくところにきている.モジュール化に伴う損失があるから,材料としてはZT≥1が必要で,これが当面の開発目標になる.

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図5 熱電変換の原理:高温側で活性化したキャリアが低温側へ移動する
(提供:富士フイルム)


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図6 有機熱電変換材料の課題:ゼーベック係数と導電率の向上
(提供:富士フイルム)


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図7 戸嶋先生の先駆的研究:フェニレンビニレンを延伸して,ZT=0.1を達成
(提供:富士フイルム)

3.2 スウェーデンの研究グループおよび産総研の研究

 2011年にスウェーデンの研究グループからPEDOT:トルエンスルホン酸塩でZT=0.25を達成したとの報告があり[4](図8),PEDOT系材料が熱電変換材料として大きな注目を浴びた.

 nano tech 2013には産業技術総合研究所から,フレキシブル熱電材料の展示があった.PEDOT:PSS[Poly(3,4-ethylenedioxythiophene): Poly(styrenesulfonate)]にエチレングリコールを混ぜて,基板に滴下,乾燥させると,PEDOT:PSSのナノ結晶が整列し,熱電性能が向上し,ZT=0.27が得られたというものである(図9)[5].

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図8 スウェーデンの研究グループ:「PEDOT:トルエンスルホン酸塩」で,ZT=0.25を達成
(提供:富士フイルム)


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図9 産総研:「PEDOT:PSSのナノ結晶整列」で,ZT=0.27を達成
(提供:富士フイルム)

3.3 海外の研究開発動向

 前述のスウェーデンの研究を始め海外の熱電発電素子研究は大学が多い.アメリカのTexas A&M大学はPEDOT:PSSを取り上げている.カナダの大学からも論文が出ている.中国からの論文も増えている.3年前は1〜2グループしかなかったのが,現在では多数の機関で採り上げるようになっている.アメリカのDOE(エネルギー省)は自動車用で無機熱電材料を開発しているようだ.nano tech 2013の最終日に開かれたナノテクシンポジウムでは米国Purdue大学の研究者が,フレキシブル熱電発電素子の話をしたが,材料は無機系だった.有機熱電材料は有機エレクトロニクス分野に含まれ,有機EL,有機太陽電池の次のターゲットとも言われる期待の大きい材料となっている.

4.富士フイルムのアプローチと成果

 熱電性能指数を決める材料パラメータの中で熱伝導率は有機材料ゆえに低く好都合である.性能指数をさらに大きくするのに,ゼーベック係数と導電率を同時に高められると良いが,両者はトレードオフの関係にある.高分子は導電性があるといってもその値は小さいため,先ず導電率の向上を狙うことにした.それにはキャリア数の増加が必要だから,ドーピングを行うのが一つの方法であるが,従来のドーピングに使うヨウ素や塩化鉄はドーピング時の安定性に欠け,有機材料に添加すると凝縮したり蒸発したりする.そこで,青合氏らは新たに光ドーピング法を開発した.また有機エレクトロニクスで良く使われ,熱電性能も比較的高い先述のPEDOT:PSSは材料自体の安定性が悪く,強酸性のため腐食を起こす懸念があった.この点に関しては有機材料の分子設計で新たに見直しを行った.

4.1 光ドーピングでキャリア濃度向上

 図10に示すように,π共役ポリマー(P3HT)と光酸発生剤(PAG)の混合物を基板に塗布・乾燥して膜を形成する.その後,この膜にUV照射を行うと図に示すような反応が膜中で起こり酸が発生し,π共役ポリマーのドーピングを起こす.その結果,キャリア濃度は約3桁増加した.

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図10 「光酸発生剤(PAG)」による光ドーピングでキャリア濃度向上
(提供:富士フイルム)

4.2 CNTの活用:CNT分散機能を持つ新規ポリマーを開発し,導電性を飛躍的に向上

 CNT(Carbon Nano Tube)はその特徴ある特性・性能から広い範囲の応用が期待されているが,実用化はあまり進んでいない.これはCNTに期待される性能を引き出せていないためである.市販のCNTは粒径,多重性(単層/多層),キラリティ(チューブの巻き方)などの異なるものの混合物になっている.分散液にして使うことも多いが,分散時にCNTに欠陥を生じる恐れもある.単層CNT(SWCNT)では径が同じでもキラリティなどによって性能が異なる.CNTを使う時はその本来の性能を如何に引き出すかが大切になる.CNTのコンポジット材料の導電率にはCNT同士の接触抵抗が効くが,分散材も影響する.分散材には有機ポリマーが多く使われる.

 青合グループは,市販のCNTが使え,またπ共役ポリマー(P3HT)を用いたCNT分散系でも上述の光ドーピングが可能なことをまず確認し(図11),次いでP3HTに代わるCNTのバンドルをよくほぐし(分散し),CNTの導電パスネットワークを効果的に形成させる新有機分散材ポリマーを開発した.

 新たに合成した3種のポリマーとP3HTの合わせて4種類の導電性高分子のそれぞれにCNTを混合して作った導電性ポリマー/CNTコンポジット膜の導電性を,CNT添加量(wt%)を変えて測定すると,ポリマー1を用いた場合2500S/cm以上の高い導電率を示すことが分った(図12).この時の無次元性能指数ZTは0.3を超える値を示した.

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図11 CNT分散系でも光ドーピング可能
(提供:富士フイルム)


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図12 CNT分散機能を持つ新規ポリマー開発で導電率2500S/cm以上を達成
(提供:富士フイルム)

 4.1〜4.2に記した開発の要点は2013年3月開催の応用物理学会で報告した[6].

4.3 完成したフレキシブル有機熱電変換シート

 これら材料を用いて熱電素子モジュールを作製した.nano tech 2013に展示し,冒頭で触れた「グリーンナノテクノロジー部門賞」受賞につながった.R&D途上で幾つかの飛躍があったが,上述のように光ドーピングおよびCNT新規分散材の開発が大きかった.なお,成膜は,導電性ポリマー,CNT,光酸発生剤からなる分散液を用い,基板上のドロップキャスト法により行った.導電性ポリマーとカーボン材料の組合せは耐久性が高く,大気中に放置しても変化しないからラフな使い方ができる.ただし,力学的強度の検討はまだ十分でない.

 nano tech 2013で展示した素子の厚さは百数十µmで,80〜100µmの汎用品PET(ポリエチレンテレフタレート)を基板に使用した(図13).基板は用途によって選ぶことになる.PETだと使用温度は120℃くらいまでの用途に適用できる.他の基板材料についても写真フィルムで積み上げた技術の蓄積が活かせると考えている.スマホに熱電素子を貼付ければ,使用時に出た熱で発電して,内蔵電池に電気を戻せるかも知れない.展示では使い方が分るように工夫をすることを心がけた.

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図13 完成したフレキシブル有機熱電変換シート
(提供:富士フイルム)

5.開発の裏話からオープンイノベーションへ

 着手当時は3人のグループだったが,ちょうど1年くらい経ったとき,まだ性能も出ていなかった時期に,仮想のカタログを作ったとのことである.どんな熱があるか,どんな熱を使えるか,風呂のお湯の熱,パソコンの発熱,工場の照明などを列挙し,それによって発電した電力をどう使うかを考えた.これを元に,熱源や応用に応じた熱電素子の備えるべき特性をユーザの立場に立って考えた.この過程で,最終の商品イメージが出来上がり,メンバーの気持ちもひとつになって研究が加速されたとのことである.今は,デザインセンターにも加わってもらい,例えば未来ハウスとその中でフレキシブル熱電変換モジュールの使われ方のイメージも描いている.そうすることによって,10年先の製品イメージも描けている.対象によっては富士フイルムのみでは完結できないものも出てくる.これからはユーザや異業種企業との連携も視野に入れ始める段階である.今後はオープンイノベーションで速く成果を挙げることが大事になっている.現に,産総研のフレキシブルエレクトロニクス研究センターとは,共同研究を行い,nano tech 2013の展示は共同で行った.材料に関する考え方は違っていたが,狙いと技術は近い.印刷を使用するという考えは共通していた.自前主義で何もかも囲い込むつもりはない.nano tech展は多くのメーカ,ユーザとの協力関係のきっかけ作りの良い場であると指摘された.

 「研究では最低2回の飛躍があるという.先ず見出した機能(性能)を大きく引き上げる段階,更に性能が目的の90%になっても,100%に到達するにはもう一段の飛躍が必要になる.材料開発では発想の転換が必要になることが多い.仮想カタログは発想をクリアにし,イメージ合わせをしながら進めるのに効果的だった」との感想を青合氏は述べられた.

6.今後の展開

 熱電素子として実用化するに当って,排熱温度や発電容量によって,市場領域,応用対象が異なることを考慮しなければならない.排熱温度はさまざまだし,必要なエネルギーはµWからMWまである.先端デバイスの駆動ならmWのエネルギーで済む.地熱発電ならMWになる.温度によって,無機材料,有機材料で得意分野が異なる.200℃以下なら,基板さえ選べば有機材料が使える.目的に合った設計が大切になる.

 材料特性は基板にスピンコートして調べられるが,モジュールにする時は今回スクリーン印刷を用いた.将来のモジュール製造はインクジェットが使えると考えている.いずれにせよ,大量生産になった時は積み上げてきた富士フイルムのコア技術が生きると思っている.青合グループは,はじめから量産性を考慮したアプローチをとっている.

 CNTや導電性ポリマーについても,まだやるべきことは多い.試作したモジュールも材料の性能を引き出せていないところがある.モジュール化する時には電極材料などの選択も重要になる.

 青合氏は,「ともあれ,世の中に早く出して,市場にもまれて発展させるようにしたい.フレキシブルで,軽量で,有害物質を含まない熱電変換モジュールを提供し,持続可能な社会実現に寄与したい」との抱負を述べられた.

 既に述べた有機熱電変換素子の無次元性能指数ZTの推移は表2に示す通りである.富士フイルムが今後これにどのようなデータを追記していくかが楽しみである.そして,身近にフレキシブル熱電変換素子モジュールがあふれるときの到来を期待したい.

表2 主な有機系材料の熱電変換性能値
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参考文献

[1] "フレキシブルな基板に印刷で形成!富士フイルムがフレキシブル熱電変換モジュールを開発"
  http://www.sangyo-times.jp/kn/photoArticle.aspxindex.htmlID=74

[2] YAN H,戸嶋直樹,"熱と高分子 導電性高分子の熱電変換機能",高分子,51,P.885~888(2002).
[3] Yuji Hiroshige, Makoto Ookawa, Naoki Toshima, "Thermoelectric figure-of-merit of iodine-doped copolymer of phenylenevinylene with dialkoxyphenylenevinylene", Synthetic Metals, Volume 157, Issues 10-12, June 2007, Pages 467-474.
[4] Olga Bubnova, Zia Ullah Khan, Abdellah Malti, Slawomir Braun, Mats Fahlman, Magnus Berggren & Xavier Crispin, "Optimization of the thermoelectric figure of merit in the conducting polymer poly(3,4-ethylenedioxythiophen)", Nature Materials, Vol.10, No.6, pp.429-433(2011).
[5] 産総研,"熱電変換性能の高い導電性高分子膜を開発"
  http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120831/pr20120831.html

[6] 西尾 亮,林 直之,高橋衣里,丸山陽一,青合利明,"導電性ポリマー/CNTコンポジットの熱電変換特性",第60回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 p. 09-107 (2013).
[7] Hu Yan and Naoki Toshima,"Thermoelectric Properties of Alternatively Layered Films of Polyaniline and(±)-10-Camphorsulfonic Acid-Doped Polyaniline", Chemistry Letters, Vol.28, No.11, pp.1217-1218(1999).
[8] 山本 龍登, 末森 浩司,鎌田 俊英,"熱電変換層にCNT 分散ポリマーを用いた印刷作成フィルム状熱電変換素子",2012年春季 第59回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 講演番号16p-E7-6 p. 12-109 (2012).

(真辺 俊勝)

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