NanotechJapan Bulletin

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<第34回>
カーボンナノチューブ(CNT)を添加した炭素繊維(CF)および機能性樹脂薄膜技術 ~ナノ分散CNTの微量添加で樹脂を高機能化するグリーンテクノロジー~
ニッタ株式会社 テクニカルセンター 開発研究グループ 小向 拓治氏,輝平 広美氏に聞く

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 航空機B787が,2011年9月1日,羽田空港から岡山空港への初飛行を果たした.この航空機には数々のハイテク機能が盛り込まれていることが話題となった.その一つがB787の機体構造物の50%(35トン)には東レ開発の炭素繊維(CF 付録1),正確には炭素繊維強化プラスチックCFRP 付録2))が用いられていることである.金属を減らし,軽量化したことによる燃費30%向上という経済性のみならず,窓面積を65%拡大さらに気圧および湿度の最適化というサービス面の向上がなされている.これは,軽くて強くかつ錆ない炭素繊維の大量使用により実現したものである.軽くて強くかつ錆ないCFRPは,その後自動車への適用が検討されていると同時にそれ自体をさらによりよいものにする技術開発が続けられている.

 CFRP応用展開に向けての技術開発の一つがCFRPの厚み方向の“剥離強度の向上”と“導電性向上”の技術開発 付録3)である.これらを実現するポテンシャルを持つ技術として「カーボンナノチューブ(CNT 付録4))を1本1本までバラバラにするナノ分散技術,ナノ分散されたCNTをCF表面に付着する技術,CNTを表面に付着したCFと樹脂を複合化する技術」が,2015年1月28~30日に東京ビッグサイトで開催された「nano tech 2015 第14回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」にニッタ株式会社から出展され,nano tech大賞グリーンナノテクノロジー賞を受賞した.受賞理由は「微量のカーボンナノチューブを添加した高機能の樹脂や炭素繊維の合成技術を開発した.航空機や自動車に使う強化プラスチックなどのさらなる軽量化や信頼性向上に貢献する成果を賞す」である.

 この研究開発を推進されたニッタ株式会社 テクニカルセンター 開発研究グループ 高知工場長 兼 課長 小向 拓治(こむかい たくじ)氏と,今回の国際ナノテクノロジー総合展示会担当者である 開発研究グループ 輝平 広美(てるひら ひろみ)氏ならびに経営戦略室の木下 一成(きのした かずしげ)氏を東京・銀座のニッタ東京支店に訪ね,技術内容およびそのものが持つポテンシャルおよび今後の展開等についてお伺いした.

1.CNTナノ分散技術開発のきっかけ

1.1 ニッタ株式会社:社是「発明・改良・円満」のもと130年の歴史を持つシーズ提案型企業

 ニッタ株式会社(以下,ニッタ)は,1885年,新田 長次郎氏によって当時の繊維機械動力伝達用革ベルトの事業化を目的に創業され,以来130年の歴史を誇る企業である.世界の3大ベルト企業の一つに数えられる“ベルトの新田”に成長し,その後,今も脈々と引き継がれている創業者の企業理念「発明・改良・円満」のもと,ゴムベルト,コンベアシステム,工業用高付加価値樹脂製ホース・チューブ,空調用フィルタ,建築・土木用ゴム製品,メカトロ機器,タクタイルセンサ,感温性粘着テープ,電波吸収体などの製品,関係会社のニッタ・ハースでの半導体用超精密研磨システムやゲイツ・ユニッタ・アジアでの自動車用ベルト製品へと事業展開し,今日(2014年3月期,連結)では,資本金8,060百万円,売上高56,489百万円,経常利益7,736百万円(売上高利益率13.7% 図1),従業員2,127名の企業になっている[1].

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図1 売上高(左)と経常利益(右)の推移

 社是の「発明・改良・円満」は,現在の言葉でいえば,発明・改良はInvention & Innovation,円満はCSR(Corporate Social Responsibility,企業の社会的責任)で単にニーズに応えるだけではなく顧客に喜んでもらえる製品・サービスを提供することである.円満が130年の歴史の中で大きな役割を果たし,他の事業者との協調を重視している.

1.2 ニッタの研究開発体制とCNT/CFRP開発の背景

 ニッタには,各事業部に研究開発部署があるが,それに加えてコーポレート組織として奈良と高知に“テクニカルセンター”がある.テクニカルセンターは,各事業部の製品に係る研究開発支援を行うと共に次世代製品の研究開発を使命としている.

 ニッタでは,上記したゴム関係商品の強度向上や導電性付与等のためカーボンブラックを添加剤として多用している.CNTが発見され[2],それが鋼鉄の20倍の強度,銅の10倍の熱伝導性,アルミニウムの半分の密度,シリコンの10倍の電子移動度,さらにはしなやかで耐熱性が大きいなどの優れた特性を持つことから,ゴム類への次世代添加材として注目した.現在,CNTは多くの研究機関や企業で電池の電極材や各種樹脂への添加材等としての応用開発が行われているが,CNTの特徴が十二分に活かされているとは言えない.CNTを一本一本にばらばらに分散(以下 ナノ分散)して他の材料に添加する又は複合化することで初めてCNTの持つ特徴が活かされるが,現状では分散が不十分な状況にあるためである.

 ニッタは,上記のように添加材としての炭素に馴染みがあると同時に新しい炭素材への関心もあった.また,ニッタグループのニッタ・ハース製品の半導体用超精密研磨システムでは研磨パッドと研磨材スラリーを用いるが,研磨材スラリーは,研磨材ナノ粒子をナノ分散したものであり,分散技術および分散状態のナノ分析・解析技術,さらに研磨された半導体ウエハーの形状や不純物の観察・分析・解析技術を必要とする.ニッタはこれらをコアコンピタンス技術として保有していた.小向氏らは,これらの技術を用いて,CNTを独立した1本1本になるまでナノ分散して樹脂と複合化する,またこの分散した状態のCNTをCF表面に付着複合化する,さらにCNTを付着したCFと樹脂とを複合化できれば,CNTの持つ優れた特性が活かされた新機能材料を創成できると考え,これに挑戦することにしたとのことである.

2.ニッタのCNTナノ分散技術とCNT樹脂複合材料技術

 着手した当時,CNTを分散してゴムや樹脂に混ぜて複合材を作り,これをベルトやゴム,プラスチック新製品に使おうとしたが,CNTをただ混ぜただけでは効果がなかった.また,他社から購入したCNTを使用していたが,メーカ毎に特性が異なり,安定していなかった.使いこなしかけていた品番のCNTが突然無くなったり,メーカそのものがいつの間にか消えて無くなったりした.そこで,研究開発用のCNTは自社で合成し,CNTの特性や分散複合化も基礎に立ち帰って研究を始めることになった[3][4][5][6][7].現在では,自社製のCNTも他社製のCNTも自在に使いこなせる状態になっている.

2.1 CNTナノ分散技術:分散剤を用いずCNTを1本1本までバラバラにする

 合成された状態のCNTは,強固な凝集体あるいはバンドル(束)を形成している(図2上右上).CNTの優れた特性を活かすには,CNTを1本1本バラバラに分散する必要がある.これまでいろいろな分散法が検討さてきたが,一般にとられているのは分散剤を用いる方法である.この場合,分散剤がCNTの表面を覆っており,CNTの持つ機能の低下をもたらす(図2上右下).ニッタでは,分散剤なし(もし加えても少量)でしかもCNTを切断することなく長いままナノ分散させる手法を開発した(図2上左).分散法に関するニッタの特許[7]に基づいて,さらに改良を加えた技術として確立したものである.このナノ分散技術に加えてもう一つのニッタの技術の特徴は,この分散した状態を保ったまま,ただちに次のプロセスに持ち込むことである(分散液を長く保つと凝集するからである.従って,ニッタでは分散液の商品化を検討していない).樹脂にCNTを分散した場合,従来の分散法ではCNTの凝集物がみられるが(図2下右),ナノ分散では見られない(図2下左).このようにナノ分散している1本1本のCNTが添加効果を発揮するから,少量添加で大きな効果が得られる.

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図2 分散剤による従来分散およびニッタのナノ分散状態

2.2 CNT複合樹脂薄膜

1)ナノ分散CNT微量添加樹脂複合体:樹脂特性を保持したCNT樹脂複合体

 樹脂成型体に導電性を付与する目的で,よく分散されていないCNTを添加した場合,所定の導電性を得るために多量のCNTを添加する必要がある.そして出来上がったものは,表面の平滑性が失われ,また場所による導電性のバラツキがあり,さらに屈曲させると割れが発生し,その結果摩耗粉が発生する.そして,用途に対して期待されていた樹脂本来の柔軟性などの特性も失われてしまう(図3上).これに対し1本1本までナノ分散したCNTを用いると,添加量は少なくてすみ,前記の問題点は解消される.即ち,樹脂本来の特性は保持されたまま,表面平滑で割れることなく均一な導電性が付与される(図3下).絶縁体樹脂であるポリイミドにナノ分散CNTを3%添加しただけで,カーボンブラックを30%添加したものと同程度の導電性が得られ,しかも均一な導電性であるので導電性高分子のような特徴を持つ.このようにCNTを微量添加して効果を出す樹脂複合体の用途は,CNTでなければできないような分野に限る.その一つが10µm以下の薄膜である.

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図3 フィラーを添加した機能性薄膜の課題とナノ分散CNTによる課題解消

2)ナノ分散CNT複合樹脂薄膜の導電性

 ナノ分散CNTを帯電防止塗料に適用した例を図4に示す.ガラス基板上に,ナノ分散CNT複合樹脂の塗料を塗布・乾燥して作製した薄膜の表面抵抗率を四探針法で測定した結果である.帯電防止に有効な表面抵抗率1×104Ω/sq以下にするのに導電性カーボン添加薄膜では約7vol%の導電性カーボンの添加を必要とするが,ナノ分散CNT添加薄膜ではCNTの添加量は0.1vol%の微量でよい.なお,四探針法で試料表面をまんべんなく測定したが,バラツキは小さく表面抵抗率の均一性は高い.

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図4 ナノ分散CNT複合樹脂薄膜の導電性
(樹脂:ポリイミド,CNT:多層CNT,直径15nm,長さ数十µm)

3)ナノ分散CNT複合樹脂薄膜の強度

 ステンレス(SUS)基板上に形成した薄膜にサファイヤ圧子をあてがい圧力をかけて引っ掻くと,樹脂薄膜そのものは1.5N(ニュートン)の押圧で引裂き傷が発生するが,ナノ分散CNT複合樹脂薄膜では2.5Nではじめて引裂き傷が発生する(図5).

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図5 ナノ分散CNT複合樹脂薄膜の強度
(樹脂:ポリイミド,CNT:多層CNT,直径15nm,長さ数十µm,CNT添加量:0.7vol%)

4)耐摩耗性向上

 カーボンブラック(CB)などを添加して帯電を防止したトレイは図6左のように接触摺動部分で摩耗破片が生じやすいが,ナノ分散CNTを添加したトレイでは図6右に示すように摩耗破片は生じない.CNTが樹脂内でネットワークを形成し樹脂と絡まって存在するからである.

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図6 ナノ分散CNT複合樹脂薄膜の耐摩耗性

5)耐熱性向上

 CNTが樹脂中にナノレベルで分散されると,樹脂分子の熱的動きがCNTにより拘束されるため,耐熱性が向上する.図7では,PVAナノファイバーによって形成されたメッシュ構造を,1時間加熱保持した後の顕微鏡写真を示している.CNTを複合化したPVA(ポリビニルアルコール)の場合,PVAが融けはじめる温度ギリギリまで軟化しないため,180℃加熱でもメッシュ構造を維持していることが確認できる.

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図7 ナノ分散CNT複合樹脂薄膜の耐熱性

3.CFへのCNT付着技術:CNT複合炭素繊維(以下 CNT/CF)の創成

3.1 CNT/CFの作製

 ナノ分散したCNTをCF表面に均一に付着する技術を開発した(図8).12,000本のCFをサイジング剤でバラバラにならないよう幅5mm程度のリボン状に束ねられたものが,図の左端のように直径10cm,高さ40cm程度のボビンに巻かれている.サイジング剤を除去し,数µm径のCF表面に0.1~0.3wt%のナノ分散CNTを網目状に均等に付着させ,次いでサイジング剤で束ねて元のリボン状にし,ボビンに巻く.ナノ分散CNT付着前後の外観はほとんど同じで一見見分けがつけ難い.このプロセスで,12,000本のCFから成るリボン状の束の表面部も中心部も図のように均一にCNTを付着できる.24,000本,40,000本のCFでも同様のことができる.

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図8 ナノ分散CNTのCFへの付着:CNT複合炭素繊維(CNT/CF)

 このプロセス技術開発にはエピソードがある.ある時CNTを,図に示すようにきれいに付着できたが,それを再現することができなかった.同じ条件でやったつもりでも再現できず,初めから出来ていなかったのではないか,見誤ったのではないか,もう諦めて別の方法にしようとの話が出はじめた.しかし,奈良と高知の技術陣は諦め切れず一丸となって様々な条件で再現実験を続けた結果,考えもしなかったファクターを見落としていたことがやっと分かった.これを取り入れるとうまく出来るようになったが,この再現に1年の時間を費やした.これが今の技術の根幹になっている.現在では,付着量,網目の密度などを制御できる再現性の良い技術に仕上がっているとのことである.

 この技術は,PAN系のCFに限定されることなく,ピッチ系のCFにも適用可能である.条件を整えればガラスファイバー,ケブラー繊維などにも適用できる.

 従来のCNT複合化の方法としては,CNTと接着剤(バインダー)を混ぜてCFに付着させるというようなことをやっているが,ニッタは,何も使わないでCNTを直接CFに,つまりファンデルワールス力によるC-Cの強力な接着を実現している.分散剤,接着剤を使わないニッタの独自技術である.

 ここで用いられるCNTは直線状のアスペクト比の大きい多層CNTである.CFの表面に巻き付く柔軟性があり,表面特性を制御でき,かつ高強度であるからである.

3.2 CNT/ CFの導電性

 図9にCNT付着によるCFの導電率向上を示す.測定は,図右に示すように,シリンダー容器の中にCFまたはCNT/CFを投入し,上から圧縮することで密度を変化させながら行った.体積抵抗率(Ωcm)は,CFおよびCNT/CF共に密度が高くなるに伴って小さくなるが,空隙率30%に当たる密度1.26g/cm3において,CFの0.007Ω・cmに対し,わずか0.3wt%のCNTを付着させたCNT/CFでは0.005Ω・cmと約35%小さくなっている(0.2wt%でもほぼ同じ結果であるという).

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図9 CNT付着によるCFの導電率向上

 これは,CFのみの場合はCF同士が点で接触しているのに対し,CNT/CFでは網目状にCFの表面に付着しているCNTを介してCF-CF間の接触点が増加した結果である(図10).

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図10  CNT付着によるCFの導電率向上のメカニズム

4.CNT/CFを用いたCFRP(以下 CNT/CFRP)

 従来のCF/熱硬化性樹脂で形成されたCFRPは軽くて強い,耐疲労性が大きい,耐腐食性がある,寸法安定性がある等の特徴を持っており,航空機や自動車などの移動機器構造体の軽量化に期待が持たれている.既に航空機B787に採用され顕著な効果を発揮していることは冒頭に述べた通りであるが,課題もある.一つは厚さ方向の機械的強度が小さいこと(樹脂層界面剥離),二つ目は厚さ方向の導電性がほぼ絶縁体に等しい程低いことである(図11).

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図11  CFRPの特徴と課題

 厚さ方向の機械的強度および導電性が低いことの原因は,長手方向には高強度で導電性のあるCFが貫通しているのに対し,厚さ方向はCFを強度弱くかつ導電性の低い樹脂が取り囲んでおり,さらにプリプレグ(図12)を積層した部位は樹脂層のみになっているからである.

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図12 CNT/CFエポキシ樹脂プリプレグ作製プロセス

4.1 CNT/CFRP化による厚さ方向の機械的強度および導電性向上

 機械的強度向上には,CFと樹脂との接着力強化が必要であり,CF表面または樹脂を改質して化学結合力を増大させたり,CF表面に微小凹凸を付与してアンカー効果を発現させることが考えられる.具体的には,①CFの表面を若干酸化させる,②樹脂に添加剤を加える,③CF表面に接着剤を添加する,④CFの表面に凹凸を付ける等が一般的に行われている.

 ニッタではこれまで述べてきたナノ分散CNTをCFの表面にコーティングする独自の方法を採用した.CNT/CFを用いたCFRP即ちCNT/CFRP化である.

4.2 CNT/CFRPの製法

 CNT/CFエポキシ樹脂プリプレグの製法を図12に示す.CNT/CF糸を方向の揃った布状にし,これを熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)/離型紙の樹脂面と離型フィルムで挟みプリプレグを形成し巻き取る.プリプレグの断面は図右上に示すようにCNT/CF糸が未硬化の熱硬化性樹脂の中に埋まっている(樹脂がマトリックス).CNT/CFRP成形体は,このプリプレグの離型フィルムと離型紙を剥がし,(CNT/CF)/樹脂を所望の厚さと所望の繊維方向になるように積層し,加熱して樹脂を硬化することによって仕上げられる(図13).

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図13 プリプレグの積層法とCNT/CFRP成形体

4.3 CNT/CFRPによる強度と導電性の向上

 上記のようにして作製されたCNT/CFRPは,高弾性率のCFと低弾性率の樹脂との間に“CNT-樹脂の網カゴ状分散層”が形成され,弾性率にグラデーションがつき応力集中を避けることができる(弾性率:CF>>“CNT-樹脂の網カゴ状分散層”>マトリックス樹脂)(図14).CF表面に網の目のように付着しているCNTに樹脂が入り込み,CFがCNT樹脂複合体の網カゴの中に入ったようになるのでCF-樹脂間での剥離が起き難くなる.なお,CNTのCFへの付着は図8の通り,ファンデルワールス力で均質的に固着しているが,ここに樹脂が入ると付着しているCNTの一端が浮き上がり“CNT-樹脂の網カゴ状分散層”が形成されると推察している(図14).

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図14 (CNT/CF)RPにおける厚み方向の強度および導電性向上メカニズム

 厚み方向の導電性向上は,この浮き上がったCNTが他のCF表面の浮き上がったCNTと接触することによって向上する.この導電性向上で航空機の機体や風力発電機の羽根の落雷対策に使えないかとの話もあるが,落雷時の大電流には耐えられない.導電性向上は,絶縁体から抵抗体への変化のレベルである.ただ,現在CFRPの上下面に金属ネットを張りかつ適当な間隔で上下のネットを金属棒で連結しているが 付録3),このネットを粗くし,また金属棒の間隔を広くすることができその分軽量化することができると考えられる.また,燃料電池自動車の超高圧水素タンクや一般自動車のガソリンタンクの静電気対策には使え,軽量化に役立てることができるであろう.プリプレグを積層した部分に生じる樹脂層の強度および導電性向上は,依然として今後の大きな課題である.

 図15に屈曲試験を行った試験片の破断面を示す.一般のCFRPでは,応力が集中する樹脂とCFとの界面でスッパリと破断している(図左).一方,CNT/CFRPでは,CFと樹脂は“CNT-樹脂の網カゴ状分散層”を介して付着しているため応力集中が緩和され,また“CNT-樹脂の網カゴ状分散層”が高強度なため,界面剥離の伝播が阻止され破断面は複雑な形になっている(図右).

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図15 屈曲試験片の破断面の状況

4.4 CNT/CFRP化による特性のバラツキ低減:薄肉化・軽量化設計が可能

 従来のCFRPでは強度等の特性のバラツキが大きい.このため設計値には強度の最小値を採用し,しかも安全係数を大きくしている.CNT/CFRPでは,ばらつきが小さくなり,しかも高い値の方に集まる.よって安全係数も小さく出来るので,同じ目的の強度に対し使用量を減らす即ち薄肉化・軽量化設計が可能である.構造体(特に移動構造体)の軽量化は環境保全(グリーン)につながる.この点が評価され,この度の“グリーンナノテクノロジー賞”の受賞理由になっている.

 また,CNTの添加量が少量で良いので,樹脂の持つ特性例えば柔軟性を失うことなく強度,導電性を改善できることは大きな魅力である.

5.新たな展開:CNT/CFと熱可塑性樹脂を用いたCFRP(以下 CNT/CFRTP)

 CNT/CFRPにより,軽量化と薄肉化設計が可能になった.
今まで説明してきたCNT/CFRPは,エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いたものである.これには次の二つの課題がある.

①熱硬化性樹脂の場合,所望の成形品にする前までのプリプレグの保存は樹脂の硬化を防ぐために冷蔵する必要がある(ものによっては大きな冷蔵設備を必要とする),
②硬化プロセスに長い時間を要する(硬化~離型までに約1時間),

である.

 自動車の車体,パーツのような量産品においては,成形を1分以内の短時間で行いたいという業界ニーズに対し,熱硬化性樹脂を熱可塑性樹脂(ThermoPlastics)に換える検討がなされている.リサイクル性も良くなり魅力がある.

 この場合に起こる問題は図16右に示すように応力がかかるとCFと例えばポリプロピレン樹脂(PP)との界面に応力が集中し剥がれが生じることである.この問題に対し,CNT/CFを用いるとCF表面とPP樹脂との間にCNT/樹脂層が形成されるため応力集中を緩和することができ(図16左),期待が持たれている.さらにPPのような非極性樹脂とCFの接着性向上をもたらす効果もある.このようにCNT/CFRTPには,①樹脂の改質が不要で,②界面の接着性が向上し,③しかも非極性樹脂の接着が可能となるので,機械的物性向上のポテンシャルは大きい.

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図16 CNT/CFRTP化による応力集中の緩和

 熱可塑性樹脂を用いて作製したプリプレグやペレットを図17に示している.熱可塑性樹脂として,離型性の良いポリプロピレン(PP)が使えるので成形が楽になり用途は広い.また一般に,PPは非極性物質であるため接着性が悪いので,この対策として樹脂の変成がなされようとしているが,変成で樹脂の特性が劣るようになる.また特殊なものにするのでコストアップにもつながる.ニッタのCNT/CFRTPにはこのような問題はなく,しかも大量生産可能な方法である.効果発現のメカニズムはCNT/CFRPの場合と同じである.

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図17 熱可塑性樹脂を用いたプリプレグおよびペレット

6.今後の展望:CNT/CF,CNT/CF樹脂プリプレグ,CNT/CFRP・CNT/CFRTPテストピース等々の供給で顧客との技術的連携強化

 今後の研究としては,現状の技術をブラッシュアップしてよりよい特性・より生産性の高いプロセスに改善する.と同時に,社会ニーズの動向をしっかりと捉えそれに応えるブレークスルーを求めてさらに新しいシーズを探求するという.

 一方,顧客ニーズ・要求仕様に応える開発に注力し早期実用化を推進したいとも考えている.そのために,顧客との連携を今まで以上により緊密にして問題意識を共有し,協業に進められるよう以下のような取り組みを行っている.

 現在のCNT/CFRPの作製は,実験・試験設備の範囲内で試験サンプルを作っている段階である.30cm幅で数十mの長さのフィルムを作りこれを重ねて数十cm大の成型サンプルを作れる能力である.共同研究ベースのユーザ要求により,CNT/CF複合体,プリプレグ,CNT/CFRP,CNT/CFRTP,ペレット,板材,パイプ等の提供が可能である.

 また,エポキシ・PA6(ナイロン6)・PPを用いたCNT/CFRP,CNT/CFRTPの各種物性評価用テストピースを作製し(図18),自社内での研究開発に使用すると共に,顧客にも提供して用途開発・拡大に努めている.

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図18 CNT/CFRPおよびCNT/CFRTPテストピース

 航空機用,自動車用,ガスボンベ用,タンク用等に関し多くのユーザから強い関心が寄せられている.これらユーザおよびCNTメーカ,樹脂メーカと連携することにより,ニッタが持つCNTナノ分散技術,CNTのCFへの付着技術,CNT/樹脂複合化技術,CNT/CFRP技術,CNT/CFRTP技術を評価してもらう.CF,CNT,CFRPの生産過程の全てを一社で行うことは困難である.他社と協力してWin-Winの関係になるよう進める.今後も社是「発明・改良・円満」を基本に着実に進めていく.

おわりに

 ニッタのCNTナノ分散技術,ナノ分散されたCNTをCF表面へ均一に付着するCNT/CF複合化技術,これを用いてCNT/CFRP,CNT/CFRTP化する技術,そしてこれらによって発現されるCFRP厚み方向の強度・導電性の向上,さらには熱可塑性樹脂への展開による生産性の向上等々,奥深いノウハウを含む魅力ある多くの技術をお伺いし感銘を受けた.これらの技術とそのポテンシャルを紹介する本稿が,ニーズまたは応用アイディア持つ読者との橋渡しになり,両者の連携・協業に発展しWin-Winの関係で実用化される,このような展開を期待している.

付録:用語説明

付録1)  CF :Carbon Fiberの略.下図のようにポリアクリロニトリル(PAN)の繊維を黒鉛まで炭化した炭素繊維.紡糸によりPANからPAN原糸を紡ぎ,それを200~300℃の耐炎化炉を通し耐炎化糸にし,次いで炭化炉(1,000~2,000℃),黒鉛化炉(2,000~3,000℃)と段々高温の炉に通され炭化糸,黒鉛化糸に仕上げられ強靭な炭素繊維となり,ボビンに巻き取られる.[8]

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付録2)  CFRP :Carbon Fiber Reinforced Plasticsの略.炭素繊維強化プラスチックの意.炭素繊維と樹脂による複合材料.下図のようにして造られる.目的に応じて,炭素繊維を所望の形に織り,樹脂を浸み込ませた“プリプレグ”にし,更に目的に応じ所望の厚さに積層し,所望の形に成形し,樹脂硬化炉(~180℃)中で硬化し所望の形のCFRPに仕上げる[9].

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付録3)  CFRPの厚み方向の“剥離強度の向上”と“導電性向上” :CFRPは,付録2)のようにして作られるため,下図のような断面構造を持つ.長手方向の強度および電気伝導度は大きい.厚み方向の伝導度は樹脂層を介するために悪い.また厚み方向は低い強度の樹脂層から亀裂が発生し進展する.(この対策として,上下面に金属網を貼り付け,適当な間隔で上下の金属網を金属棒で接続することが行われている.重量増大をもたらしている)

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付録4)  CNT :Carbon Nanotubeの略.カーボンの6員環で構成されるグラフェンが筒状に丸められたものである(下図左).直径は0.4~50nm,下図右に示すように,単層CNT(SWCNT),二層CNT(WWCNT),多層CNT(MWCNT)があり,それぞれ異なった性質を持つ[10].本稿で紹介されるナノ分散技術では,主に多層CNTが用いられている.

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参考文献

 本文中掲載の図1~18は,ニッタ株式会社 小向拓治氏および輝平広美氏よりご提供頂いたものである.

[1] ニッタ株式会社ホームページ:http://www.nitta.co.jp/
[2] S. Iijima, "Helical microtubules of graphitic carbon", Nature, Vol. 354, No. 6348, pp.56-58 (1991)
[3] Takuji Komukai, "Density Control of Carbon Nanotubes through the Thickness of Fe/Al Multilayer Catalyst", Japanese Journal Applied Physics, Vol.45, No.7, pp.6043-6045(2006)
[4] Takuji Komukai, Katsunori Aoki, Hiroshi Furuta, Mamoru Furuta, Kenjirou Oura and Takashi Hirao, "Structural Analysis of High-Density Vertically Aligned Carbon Nanotubes Groun by Thermal Chemical Vapor Deposition with Fe/Al Multilayer Catalyst", Japanese Journal Applied Physics, Vol.45, No.11, pp.8988-8990(2006)
[5] 小向拓治,高梨久美子,「カーボンファイバの製造方法および触媒基板」,特開2007-126311(出願日:2005.11.01)
[6] 小向拓治,下元温,吉原久美子,「Fe微粒子保持構造,CNT生成用触媒およびCNT製造方法」,特開2012-90082(出願日:2010.10.25)
[7] 吉原久美子,小向拓治,中井勉之,「CNT/炭素繊維複合素材,この複合素材を用いた繊維強化成形品,および複合素材の製造方法」,特開2013-76198(出願日:2012.02.13)
[8] http://www.torayca.com/aboutus/abo_001.html
[9] http://www.fbi-award.jp/sentan/jusyou/2012/10.pdf
[10] 「カーボンナノチューブ技術の発掘と応用機能開拓への挑戦 地球・エネルギー問題への貢献」,NanotechJapan Bulletin Vol.2, No.2(2009):https://www.nanonet.go.jp/ntjb_pdf/GN-09.pdf

(真辺 俊勝)

 

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です. nanotech2014_banner.jpg