NanotechJapan Bulletin

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<第38回>
非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発 ~石油涸渇に備え,草木からプラスチックをつくる一貫プロセス開発で新産業創設へ~
NEDOプロジェクトリーダー 前 一廣 京都大学教授に聞く

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 プラスチックなどのわが国の化学品の多くは石油由来の原料から製造されているため,化学産業は石油の価格上昇や枯渇リスクの課題を常に抱えている.一方,石油枯渇に備えて開発され,ガソリンに添加されているバイオマスエタノールは,トウモロコシなどを原料とするため食糧問題を引き起す.日本の化学産業の抱える,環境・資源・エネルギーの課題に応えようと,国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は,平成25年度から7年間のプロジェクト「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」を推進している.このプロジェクトは,nano tech 2015 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議に出展して,その成果と活動内容を紹介し,nano tech大賞2015 プロジェクト賞(グリーンナノテクノロジー部門)を受賞した.受賞理由には,「従来は使わなかった間伐材などの非可食成分を有機材料の原料として有効利用する技術を開発した.企業・大学・公共機関が連携して早期の事業化を目指した取り組みを賞す.」とある.20を超える産学官公の機関が参画するプロジェクトのプロジェクトリーダー(PL)である,京都大学教授 前 一廣(まえ かずひろ)氏に,プロジェクトの狙い,開発体制,開発成果等を伺った.

 

 

1.プロジェクトの狙い―日本の化学産業の課題に応える産業構造の改革

1.1 日本の化学産業の抱える資源・環境問題等に応え,技術開発から産業構造改革へ

 日本の化学産業にとって環境・資源・エネルギーが由々しき問題となっている.図1に示すように,わが国の二酸化炭素(CO2)排出量の35.5%は産業部門が排出し,その中で化学産業の排出量は鉄鋼産業の14.3%に次ぐ4.5%で,産業部門の13%を占める.化学産業が生産する化学品の1/4は石油製品を原料とし,この化学品を始め化石燃料由来の製品の廃棄物燃焼からは大量のCO2が排出され,廃棄物分野の温室効果ガス排出量の約60%を占めている.資源面では,石油製品の用途別消費量において,化学産業は,第1位の自動車の44.7%に次ぐ23.3%を消費している.石油価格は2000年頃までの20$/kℓから21世紀に入って高騰し,2011年頃までは100$/kℓ近くで高値安定していた.最近は30$/kℓ近くまで下がったが,価格が不安定な状態は続いている.このように原料の多くを石油製品に頼る化学産業は原料価格にもリスクを抱えている.石油枯渇の恐れがある中,資源確保(security)に向け,資源の多様化が求められる.さらに,CO2排出量を抑制するため,化学品の廃棄物を有効活用することが望まれる.

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図1 環境・資源問題における日本の化学産業

 日本の国内化学産業は,上記の石油資源確保へのリスク,地球環境問題への対応に加え,シェールガス導入によりエチレン価格が1/2になるという課題にも遭遇した.このため,国内化学産業は,石油化学の一次製品であるエチレンについては,国際的な価格競争力を失う恐れがある.その一方,欧州中心に化学物質規制が強まっている.また,長く続いた円高に対処しようと,工場の海外移転は進んでいる.企業経営の立場からは,どこで生産しても同じだが,国内に生産現場がなくなって10年も経つと技術が低下してしまう.国内生産があるから新技術も生まれる.今後のわが国の化学産業は,国内立地を担保しつつ,原料多様化を促進する必要がある.このような事情に鑑み,インフラを整備し,原料多様化を図る道の一つとして,製紙業の持つ非可食性バイオマス利用技術を取り入れ,バイオマスから化学品への一貫生産による化学産業の変革を考えた.これまでお互いに独立の産業として歩んで来た“製紙業と化学産業を融合させて国内産業の変革を図る.”これが,「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」プロジェクト(以下本プロジェクト)による技術開発の先にあるプロジェクトの狙いである.

 産業の国内立地には3つの条件がある.第1は,ユーティリティ(生産設備)を持っていること,第2は,原材料が傍にあること,第3は,消費地が近くにあることである.しかし,日本の化学産業は原料の石油を遠くから運んで来る.一方,製紙業は国内各地に分散した約50の工場で木材からパルプ,パルプから紙を作っている.工場は原材料の得られる森林の近くに立地し,消費地も近くにある.消費された紙は古紙として回収され,再生産に回るというサプライチェーンが製紙業には出来ている.化学産業が製紙の廃材をバイオマスとして使えばユーティリティの近くで原料が手に入り,作られた化学製品は製紙業のサプライチェーンを利用して出荷できる.その結果50の製紙工場に隣接して化学工場を設置できよう.これによって,化学産業は拡大するので,製紙と化学の産業連携による非可食性バイオマスからの化学品生産は,化学産業の抱える課題に対する一つのソリューションになる.「異種産業の融合という,産業の変革」がプロジェクトの本当の狙いである.国家プロジェクトでものや技術を産み出しても,技術は10年で陳腐化する.国家プロジェクトは“イノベーションを生み出す産業構造を作るもの”であるべきである.非可食性バイオマスからの化学品製造プロジェクトは産業構造イノベーションを媒介するものとなる,と前氏は語った.

1.2 プロジェクト計画の妥当性-非可食性バイオマスからの化学品製造は産業として成立つ

 生物資源を活用するバイオマスプロジェクトには,農林水産省を中心としたバイオマスタウン構築があった.2002年12月に閣議決定したバイオマス・日本総合戦略に基づき,林地残材,家畜排泄物など,地域のバイオマスをエネルギーや化学品に変換して,その利活用を図るものであった.しかし,当初の構想通りのペースでは進展していない.

 バイオマス利用では,量と速度の関係に注意する必要がある.図2には,資源の生成,活用,廃棄のサイクルを示した.まず速度であるが,大気中の二酸化炭素から光合成でバイオマスを作るのには数十年かかる.これが堆積・変成して化石資源になるには一千万年(107年)以上の長い時間が必要だった.この化石資源から石油化学で化学品を作り,廃棄・焼却するのは10年以下で行われる.化石資源の利用においては資源生成と利用・廃棄の間では速度に6桁以上の差があり,バランスさせることはできない.バイオマスを作るのは平均10年である.樹木は,速いものなら7年で育つが,杉は20年という.バイオマスから化学品を作れば,資源生成と利用・廃棄のタイミングがマッチする.バイオマスも燃やしてしまうと秒オーダーでCO2になってしまうから,バイオマスの燃焼によるエネルギー利用は利用・廃棄の時間が資源生成に比べて短く,好ましくない.化学品にすれば,利用・廃棄・焼却の期間は,樹木生育と同等になる.

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図2 資源の生成・活用・廃棄のサイクル

 次に,バイオマスで量的に必要な原料を賄えるかという問題である.現状の石油化学工業における生成物質の流れを図3に示した.原油100kgからナフサが10kgとれる.これを分解精製してエチレン2.9kg,プロピレン1.9kgが出来る.このプロピレンから含酸素モノマーのアクリロニトリルとプロピレンオキサイドを作ると,その量は各0.2kgに過ぎない.こういった含酸素化合物のとれる量は原油の0.1%,ナフサからでも数%に過ぎない.従って,バイオマスの得意とする含酸素化合物を狙えば,バイオマス原料が量的に少なくても石油に匹敵する量の製品が作れることになる.しかも選択性の点でバイオマスは石油に比べて有利である.ナフサを分解(クラッキング)すると100種類の化合物に分れて混じり合ったものが出来るから,蒸留して分離する.この分離では大きなエネルギーを必要とし選択性がよくない.ところが,バイオマスから分離したセルロースのモノマー変換への選択率は85%にもなり,分離効率は高い.従って,含酸素モノマーの製造は量的に見てバイオマス利用で可能である.ハイブリッドカー導入で原油使用量が半減すれば,図3からわかるように化学産業の原料であるナフサ生産量も減る.一方,紙の消費減に伴い,木質資源の需要は,1990年の3,300万トンから2014年には2,800万トンに減っている.紙の消費減により減少した木質資源需要500万トンは,330万kℓの石油資源に相当する.この石油の量は化学用石油消費量の7%に当る.このようにハイブリッドカー導入で減少したナフサ生産量の減少をバイオマスで埋めることが出来るから,バイオマスからの化学品が化学産業の原料供給を支える可能性がある.

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図3 石油化学における生成物質の流れ

 そこで,バイオマスからの化学品生産を物理化学的見地から検討してみる.化合物組成のO/C(酸素対炭素比)対H/C(水素対炭素比)を示す図4の対角線はH/O=2であり,これはH2O(水)に当り,対角線から右下に向かって還元,左上に向かって酸化となる.バイオマスの生物・化学変換は水和・脱水の線に近い経路と酸化・還元で行われる.すなわち,バイオマスからの変換パスは,オリゴ糖を脱水してHMF(ヒドロキシメチルフルフラール),セルロースを還元して,レブリン酸,さらにエンプラモノマーに変換する.リグニンから還元してフェノール樹脂が出来る.一方,石油化学製品のエチレンは酸素を含まず,水和・脱水の線から離れた位置にあり,エチレンから含酸素エンプラモノマーへは酸化ルートとなるが,その酸化の選択率は極めて低い.これに対し,上記バイオマスからの還元の選択率は90%だから,セルロースを還元してレブリン酸などを高効率に作り出すことが出来る.このように,含酸素モノマー製造に関しては,バイオマスからの変換が有利なので,非可食性バイオマスからの化学品製造は,反応パス面からも合理的である.

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図4 バイオマスからの変換パス

 このような検討結果を踏まえて,プロジェクトの基本計画[1]が作られ,NEDOの事業となった.事業期間は平成25年度~平成31年度で,平成27年度予算は127億円である[2].

 非可食性バイオマスからの化学品製造の技術開発は,日,米,欧とも国家プロジェクトとして推進され,競合状態にあるが,いずれも研究開発段階で実用化した例はない.また,製紙と化学との融合のような動きは日本以外にはない.可食性バイオマスの実用化は世界中で進んでいるが,食糧との競合が大きな課題である.海外の非可食性バイオマスの利用では,例えば,木材からセルロースを分離した際に出来るリグニンを廃棄物として燃やしている.かつては製紙過程で分離されたリグニンを燃やしてエネルギーとして利用するのに,リサイクルで集まったセルロースと一緒に重油で焚いていた.これでは効率が上がらない.これに対し,本プロジェクトは,燃焼利用しているリグニンや余剰のセルロースを,グラム当り数百円,数千円レベルの化学品にして活用することを狙う.燃焼利用にしかしていなかったリグニンを付加価値の付いた製品にすることによって原料の製品利用率が増えるから,セルロースの原料価格を下げることができる.こういったことは化学工業と製紙業が融合しないとできない.

1.3 プロジェクトの戦略-バイオマス由来の分子構造を活用し,高価な化学品を開発

 本プロジェクトの狙いは,石油由来化学品と比較して,性能が同等以上かつコスト競争力のある化学品を開発し,非可食性バイオマスへの原料転換により石油涸渇等のリスク低減に資することである.図5に示すように,化学工業生産量は2010年の統計によると1,250万トンで,ポリエチレン24%,ポリプロピレン22%が大きな割合を占める.本プロジェクトの対象とするのは,高価格の熱硬化性樹脂(6%),熱可塑性樹脂(14%)などで,全化学工業製品の約39%の置換えが対象となる.具体的にはポリアミドフェノール樹脂などが対象例である.木質成分の炭素(C)鎖が長いという構造的な特徴を利用すればC5,C6成分(Cを5個,又は6個含む有機化合物)を容易に作ることが出来る.石油由来のエチレン(C2H4)からC5,C6成分を作るにはCを加えねばならない.バイオマス由来の分子構造を最大限に利用し,高価なものを狙う.また,非可食性バイオマスの主要3成分であるセルロース,ヘミセルロース,リグニンを無駄なく同時活用することを狙う.

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図5 プロジェクトの狙う化学品の領域

 必要な開発技術はまず,非可食性バイオマスからヘミセルロース,リグニン,セルロースへの3成分分離技術である.各成分を無駄なく原料化できる効率的な熱化学成分分離法の研究開発が必要になる.分離した成分については,リグニンの高度利用技術,セルロースの直接部材化,セルロースからモノマー原料への選択的変換技術,各素材の高機能部材化等の開発要素があり,重要なのはこれらの要素技術を合理的に組み合せた一貫プロセスを開発することである.

2.プロジェクトの開発体制と技術開発

2.1 技術水準を考慮したテーマ構成と産学官融合の開発体制

 本プロジェクトは2つの開発項目を異なる事業形態で進める(図6).木質系バイオマスは前処理が難しいので,前処理技術開発の中でも既に先行したものや技術課題が比較的少ない開発項目を4年間の助成事業(平成25年度~平成28年度),前処理をはじめ技術課題の多い開発項目を7年間の委託事業(平成25年度~平成31年度)にする.このため,前処理技術が簡易で,早期実用化が期待できる研究開発項目①「非可食性バイオマスから化学品製造までの実用化技術の開発」は助成事業とした.これに対し,成分分離および有効成分活用など要素技術の難易度が高く,実用化に時間を要する研究開発項目②「木質系バイオマスから化学品までの一貫プロセスの開発」は委託事業とした.プロジェクトリーダー(PL)は前氏が務め,開発項目①に3社,開発項目②には産官学公の延べ22機関が参画する[3].

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図6 プロジェクトの体制と最終目標

 多岐にわたる技術開発,多数の参画機関からなるこのプロジェクトは,技術そのものに加え「企業・大学・公共機関が連携して早期の事業化を目指した取り組みを賞す」としてnano tech 2015大賞を受賞した.前氏は,多岐にわたる開発項目を纏め,多数の参画機関の連携を図って,この受賞の基礎を作り上げた.前氏は,「プロジェクトが大きいから推進が難しいということはない.大きなプロジェクトを運営する時の基本は,基本的な1本の筋は通した上での各自の創意に任せる部分的なアナーキー状態で進めることが重要である.そこで注意するのは他人の領域を侵さないようにすることであり,お互いにリスペクトし合うことが大切だ.それが出来れば円滑にプロジェクトは進む.」と語った.

 以下の項では,各開発テーマの内容を紹介する.

2.2 草木から一気通貫の「非可食性バイオマスから化学品製造までの実用化技術の開発」

 プロジェクトの研究開発項目①「非可食性バイオマスから化学品製造までの実用化技術の開発」では,「植物イソプレノイド由来高機能バイオポリマーの開発」,「非可食性バイオマス由来フルフラール法THF製造技術開発」の2テーマが助成される.前者は日立造船,後者は王子ホールディングスと三菱化学が支援を受ける.

 日立造船は非可食性バイオマスである木本性植物の杜仲(トチュウバイオマス)が作り出すバイオトランスイソプレンを産業用途に展開するため,一気通貫したプロセスを開発する.トチュウバイオマスは杜仲茶の種皮で,杜仲茶の栽培によって得られる.バイオトランスイソプレンは分子鎖が長く,分子量が大きくて,石油化学では作り出せない長さの分子になっているのを利用する.ここでは,精製技術と複合技術が必要となり,生物的腐朽で分解,水洗で分離し,造粒,混練,押出で複合する.粗バイオマスを精製して精製バイオトランスイソプレンとし,複合化して高強度・高弾性の機能性ポリマーとなる(図7).生物的腐朽を使うから反応は速くないが,お茶の杜仲の種皮だから,原料は1年単位で供給されるので資源生成と利用の速度はマッチしている.

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図7 植物イソプレノイド由来高機能バイオポリマーの開発

 三菱化学と王子ホールディングスは,木質系バイオマスからフルフラールを経て,ポリウレタン原料を作る.三菱化学にはフルフラールを作った経験があるので助成事業になった.木質バイオマスから,3段階の反応工程でターゲット化学品を作ることに成功し,ベンチテストも行った.木質バイオマスからフルフラール,フルフラールからTHF(テトラヒドロフラン),THFから最終製品の延伸性繊維のスパンデックス,ポリウレタンなどを作る3工程でターゲット化学品が得られので(図8),製造時の排出CO2が大幅に削減できる.

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図8 非可食性バイオマス由来フルフラール法THF製造技術開発

2.3 産学官公連携で開発を推進する「木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発」

 研究開発項目②「木質系バイオマスから化学品までの一貫製造プロセスの開発」は,「高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発」,「木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」の2テーマから成る.

 「高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発」のテーマには,京都大学,王子ホールディングス,日本製紙,星光PMC,京都市産業技術研究所が参加する.木質バイオマスの木材をまず,ゆるいパルプ化で処理する.これによって,リグニンに覆われたセルロースナノファイバー(CNF),即ちリグノCNFが得られ,これを用いてリグノCNF成形体を作る(図9).材料の出口となる企業,トヨタ車体,デンソー,ミサワホーム等のアドバイザー企業からアドバイスを得ながら,自動車や住宅など,具体的な用途を見据えて開発を進めている.

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図9 高機能リグノセルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技術開発

 「木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」のテーマは,4つのグループ(前処理,糖利用,リグニン,セルロース)で要素研究を進めてきた.各グループ内で,競争して開発している技術の中から,今年度末に一貫プロセスに組込むものを選び出す.

 前処理グループは,日本製紙,東京大学,京都大学,住友ベークライト,宇部興産,日本化学機械製造,森林総合研究所,産業技術総合研究所が参加し,三成分分離技術を開発する(図10).改良蒸解法,水熱反応法,マイクロ波反応法,水熱メカノケミカル法の4つをマッチレースで進め,高効率なプロセスに平成27年度末に絞り込む.

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図10 「木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」-前処理と糖化

 糖利用グループには,東レ,三井化学,新潟バイオリサーチパーク,旭硝子,三菱化学が参加する.セルロース,ヘミセルロースを酵素糖化の後,分離膜を利用して濃縮精製して糖を取出す.糖化には市販酵素を利用するが,酵素糖化した後,膜で酵素を回収し,酵素再利用でコストを下げる.出て来た糖を,機能化学品,ポリアミド,ポリカーボネート樹脂原料などにする.デオキシシロイノソース,3-ヒドロキシプロキオン酸,ジオールなどの化学品を製造する技術を開発し,機能化学品や身近なプラスチックなどに展開する.化学品原料を化学/生物変化で作り出すプロセスの開発である.

 リグニングループには,住友ベークライト,京都大学,日本化学機械製造,日本化薬,大陽日酸,帝人,東京大学,日本製紙が参加し,リグニン低分子化,選択的重合技術の開発を進める.低分子リグニン,モノマーは化学変換,変性によって,フェノール,エポキシ,エンプラモノマー,重水素化合物に変換する(図11).重水素化合物は医薬品に使われるが,リグニンからでないと作れない.石油化学や化学合成では作れないため,少量だが数万円/gの高価な化学品である.本プロジェクトでは,このように木質バイオマス利用の特徴ある化学品を狙う.

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図11 「木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」-リグニンとセルロース

 セルロースグループには,京都大学,宇部興産,ユニチカ,日本製紙が参加する.セルロースから化学変換によって作り出されるコアケミカルズ(基幹化学品)は,レブリン酸とHMF(ヒドロキシメチルフルフラール)の2つに絞る.レブリン酸からエンプラモノマー,C5モノマーを作る.HMFはスペシャリティモノマーとしてアミド系化合物とし,ポリアミド樹脂にする.構造緩和技術,触媒開発,重合技術の開発を行う.触媒開発では,3.4で後述するような技術的に高度なものが生み出されている.

 各グループには多数の技術開発項目が含まれる.その一例を紹介すると,糖利用グループでは,糖からの2-Deoxy-scyllo-inoseose(DOI)製造技術を開発している(図12).このDOIグループには,三井化学,新潟バイオリサーチパーク,東レ,日本製紙,新潟薬科大学,IHIエンジニアリングが参加する.DOIプロセスは,木材チップを糖化し,発酵,精製したDOIを用途開発に使う.糖化して得られたキシロース,マントース,グルコースから,遺伝子組み換え大腸菌[4]を使って糖をDOIに変換する.糖のようなベンゼン環を持たない脂肪族化合物から芳香族化合物への変換をバイオで行う.DOIはユニークな構造を持ち,医薬原料,樹脂原料,カテコールなど様々な化学品に展開できる.THB(1,2,4-トリヒドロキシベンゼン)は石油からは作り難いので高価である.東レと日本製紙が酵素処理で粗糖液を作り,三井化学と新潟薬科大学で大腸菌発酵,東レと新潟薬科大学はイオン交換樹脂で精製,新潟バイオリサーチパーク,三井化学,DICはオートクレーブで用途開発を進める.これらの要素プロセスをつないで一貫製造プロセスにまとめ上げるプロセス設計はIHIエンジニアリングが担当する.

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図12 糖からのDOI製造技術開発

3.プロジェクトの成果例~どんな成果が生まれているか
-高機能バイオポリマー,高耐熱リグノセルロース,レブリン酸エステル合成触媒-

 ここでは,本プロジェクトがどのように進められているか,どのような技術開発を行っているか,その結果,どのような成果が生まれつつあるかについて,4つの例を示す.

3.1 植物イソプレノイド由来高機能バイオポリマーの開発

 日立造船は,オイルショック後の造船不況の時代に,環境機器,新機能材料などの新事業展開を図った.その一つに,漢方薬として知られた杜仲茶の事業があり,中国に農園を設けている.トチュウの木は,接ぎ木から3年で実がなり始め,1本で毎年8~10kgの実が採れる.この種子はお茶のように食用にはならず,毎年収穫される持続生産可能な非可食性バイオマスとなる.図13に示すように,種子の中にはトランス型-1,4-ポリイソプレン(TPI)が含まれる.TPIはゴムやプラスチックの一つで,主に石油を原料として,C4留分から化学合成法で製造されて来た.しかし,石油由来のTPIは製造時の収率が0.6~1.5wt%に止まり,分子量の分布が広く,高分子量体の製造が難しかった.これに対し,トチュウTPIは植物中で,光合成と二次代謝によってつくられ,図13右半分に見られるように石油由来TPIに比べ高分子量であるだけでなく,分子量の均一度が高い.

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図13 トチュウ種子とTPIの分子量比較

 本プロジェクトでは,図7に示したバイオトランスポリイソプレンの一貫製造プロセスを開発すると共に,これを原料に分子間架橋を施すなどの技術開発を進めた結果,耐衝撃性バイオポリマーの開発に成功した.構造上の特徴としては,ビニル構造やシス型構造を含まない高い立体規則性のポリ(トランス-1,4-イソプレン)であり,分子量は100万を超える.物性における特徴は,常温では結晶性で硬いが低融点,力学的強度に優れている,耐衝撃性,加硫可能などである.さらに,加硫したトチュウエラストマー®は,低融点の結晶性ポリマーであることから,形状記憶性能を有している.耐衝撃試験の結果(図14),バイオ素材の代表であるポリ乳酸の26倍の耐衝撃性が確認された[5][6].

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図14 植物イソプレノイド由来バイオポリマーの耐衝撃特性

 この耐衝撃性を持ったバイオポリマーの用途としては,自動車産業,福祉(介護)用具産業,スポーツ産業など国内成長が期待される化学産業への活用が期待される.既に日立造船の関連企業がゴルフボールに使っている.家のドア,車体塗膜材,合成革,強化手袋,ヘルメット,ゴルフシューズなど,広範囲な製品分野において製品化が進められている.本開発については,日経産業新聞が「トチュウからゴム素材」のタイトルで「技術100選」のシリーズの中で紹介している[7].

3.2 高機能リグノセルロースナノファイバーの開発

 日本製紙は,木材から得られる木材繊維(パルプ)をナノオーダーにまで高度に微細化したセルロースナノファイバー(CNF)を開発し,製品として供給している.数10mmの木材チップをパルプ化して,幅20µm程度の木材繊維を取出す.この木材繊維は20nm程度のナノファイバーが束になっているので,解きほぐして繊維幅約3nmのCNFが出来る.CNFは軽くて強い,比表面積が大きい,熱による寸法変化が小さい,ガスバリア性が高い,水中で特徴的な粘性を示す,などの特徴から,フィルター部材,高ガスバリア包装部材,エレクトロニクスデバイス,食品,医薬,化粧品,ヘルスケアなど様々な分野において利用が期待されている[8].

 本プロジェクトのプロセスの特徴は,図9に示したゆるいパルプ化というパルプの製造工程にある.ゆるいパルプ化は,紙を白くしようとリグニンを極力除去するのではなく,リグニンが残って良いとするので技術的バリアが低く,安くできる.パルプ化で残ったセルロースはナノファイバーとなり,リグニンがナノファイバーに強固に結合したまま残ったリグノCNFを得る.リグノCNFは,CNFを覆っているリグニンの熱可塑性を利用して,ポリマーと混練できる.リグニンを除いて,セルロースにまでするとセルロースが傷んで切れ易くなる.ゆるいパルプ化のため,リグニンが残っているので白くはないが,天然セルロースが持つ強靭な特質を引き出すことが出来る.

 この結果,開発成果の一つとして,高耐熱リグノセルロース(リグノCNF)を,ナイロン6(ポリアミド,PA6)に添加して,高弾性化,低熱膨張率化を達成した.変性CNF10%強化PA6は,単体PA6の2.5倍の弾性率,1.8倍の強度を示した(図15).

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図15 リグノセルロース(リグノCNF)添加によるナイロン6の高弾性化

 また,リグノCNFの熱可塑性を利用して,高植物度の高弾性率,低熱膨張の熱可塑性成形体を開発した.鋼鉄並みの線熱膨張係数で,鋼鉄と比較して58%の軽量化を達成する.同じ曲げ剛性で比較した重量は鉄の1/2以下,アルミと比較して17%の軽量化となる(図16).

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図16 リグノCNFの熱可塑性成形体

3.3 植物由来のリグニンから芳香族系熱硬化性樹脂

 住友ベークライトは,非可食性植物資源を原料とする環境に優しいプラスチック材料として植物由来樹脂の開発を進めて来た.食糧と競合しない非可食性バイオマスから創出した新規プラスチック材料を環境調和材料として産業利用を図り,環境負荷低減と化学品素材の調達保証を可能にする石油に依存しない産業構造の構築を目指した.既に,木質バイオマスから抽出したリグニンの熱硬化性樹脂材料への応用の報文を学術誌に掲載している[9].

 植物由来のリグニン成分から,芳香族系熱効果樹脂材料を図17上段の工程で創出する.木質バイオマスを水熱処理により,成分分離,分解・低分子化して低分子量リグニンとし,フェノール変性をへて,フェノール系熱硬化性樹脂(フェノール変性リグニン樹脂)が出来る.

 その樹脂特性,およびガラス繊維強化成形材料に適用した時の材料特性を,纏めて図17下段に示した.リグニン比率の異なる2つの樹脂について示されているが,従来のフェノール樹脂と同等以上の特性を示す.この結果,植物油来芳香族系熱硬化樹脂として環境対応自動車部材等への適用が期待できる.具体的には成形材料,摩擦材用樹脂,鋳物,タイヤ配合剤,エポキシ樹脂硬化剤への応用である.

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図17 リグニン樹脂の製造工程と特性

3.4 高効率なレブリン酸エステル合成触媒の開発

 委託題目のテーマ「木質バイオマスから各種化学品原料の一貫製造プロセスの開発」において,セルロースグループはセルロースから化学変換によって作り出されるコアケミカルズ(基幹化学品)をレブリン酸とHMF(ヒドロキシメチルフルフラール)の2つに絞り,技術としては,構造緩和技術,触媒開発,重合技術の開発が主要課題となっている.

 この中で,セルロースからレブリン酸製造に関して,世界最高レベルの触媒がつくばの産総研と宇部興産によって開発された.図18に示すように,木質バイオマスはリグニン,ヘミセルロース,セルロースから成るが,開発した触媒を添加したメタノール(CH3OH,図中はMeOH)を窒素雰囲気中で180℃に保った中に,スルフォン酸(p-Tolyl-SO3H(PTSA))を添加することによって,レブリン酸が高収率で生成される.杉木粉,ユーカリ木粉を原料としたときのレブリン酸メチルの収率はそれぞれ80,84%であった.この収率は世界トップレベルの高さである.また,開発した触媒はディスポーザブルな安い触媒であることに特徴を有する.

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図18 高効率レブリン酸エステル合成触媒の開発

4.プロジェクトの意義と今後の展開から産業の変革へ

 石油資源の枯渇への対応は化学産業にとって重要な課題である.紙・板紙の需要減少は,余剰木質資源を生むから,木質バイオマスの原料供給が確保され,ナフサ生産量減少による石油由来化学品原料の不足をバイオマスが補う可能性が高いことは1.3節で示した.紙の需要減で余った木質資源に加えて,未利用森林資源を活用すれば,化学用石油の消費をさらに減らせる.バイオマスを処理する装置には紙パルプを作る装置が転用できる.紙パルプ工場には,原材料(集荷力,植林技術,社有林),水(用水設備,廃水処理など),エネルギー設備(エネルギー回収)が備わっている.この紙パルプ工場の現有設備はバイオマスの成分分離に活用できる.例えば,木質バイオマスの前処理に,パルプ製造用の現有の蒸解釜が使える.一方,化学工場はコアケミカルズを持ち,色々な方法でコアケミカルズを多種製品に展開する能力があり,製品の海外販売展開力がある.プロジェクトの成功は,化学産業の国内立地,化学技術の進歩を可能にする.

 プロジェクトで技術開発が達成されれば,製紙工業と化学工業の一体化を推進することが可能となり,図19のバイオコンビナートへの道が開ける.この構想では,製紙工場で木材チップ,バイオマスからセルロース,ヘミセルロース,リグニンの3成分を分離して化学工場に送る.化学工場では3成分から,酸化/発酵,化学変換プロセスによって化学品原料を産み出す.製紙工場,化学工場での製造工程で発生した熱は,ボイラーで回収してエネルギーとして外部に供給する.製紙工場は各地に分散しているから,地域と連携したバイオコンビナート構築は,製紙/化学産業のシナジー効果を生み,日本の産業力強化が期待される.工場を一体化したパッケージにすることができれば,海外展開も図れる.これによって非可食性バイオマスから化学製品一貫製造の拠点が出来るので,農林業からのバイオマス資源である地域で生まれた間伐材,廃材,林地残材などの木質バイオマス,農業バイオマスを使い,農工融合に進むことが出来る.そうなればアジアへの展開は一層容易になる.農業とセットした2次産業を海外に作れるようになる.これまでの日本企業の海外進出は環境問題を生じていた.非可食性バイオマスのプロジェクトは資源,環境,地域活性化に貢献するものとなる.日本が先導して新しい社会システムを作ることになる.

 このように,前氏は,締め括りに,先に述べたプロジェクトの真の狙いを敷衍,拡張して,産業や,社会システムの変革,その海外展開という,大きな期待を語られた.

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図19 バイオコンビナート構築による地域と連携した製紙/化学産業から農工融合へ

おわりに

 石油資源枯渇の恐れが指摘されてから久しい.石油は,ガソリンを分離して自動車を走らせるだけでなく,プラスチックなどの化学製品の原料である.トウモロコシなどのバイオマスから抽出されるエタノールがガソリンに混ぜて使われているが,可食性バイオマスには食糧問題がつきまとう.NEDOの「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」プロジェクトは,草木などの非可食性バイオマスから化学品までの一貫生産プロセスを開発することによって,石油枯渇の懸念に対応しようとするものである.

 しかし,このプロジェクトの狙いは,「石油涸渇に備え,草木からプラスチックをつくる」という技術開発に止まらない.非可食性バイオマスに,製紙に使われる木材チップや間伐材を用いることを想定し,製紙業と,化学産業の参加するプロジェクトを組織し,技術開発を通して製紙業と化学産業の融合を図る.これにより,化学工業の新たな国内立地を可能にし,異業種の融合による産業の変革を目指す.製紙工場は各地に分散し,原料となる草木はその近くに存在するから,地域分散型の産業となる.草木は農地からも供給され,農業生産の廃棄物はバイオマスとなるから,本プロジェクトは農工融合のきっかけにもなり得る.本プロジェクトには,このような産業の変革,イノベーションの創出が期待される.

 このNEDOプロジェクトは委託事業と助成事業から成り,4つの開発テーマに20以上の機関が参画する.前氏は,基本線の上に,各参加機関が自由に独自の創意をこらし,互いにリスペトし合って進めることで大プロジェクトを纏め,推進できるという.大プロジェクトの成功,産業の変革への期待大である.

参考文献

 本文中の図・表は,全て前氏より提供されたものである.

[1] 「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」基本計画 NEDO電子・材料・ナノテクノロジー部,http://www.nedo.go.jp/content/100749257.pdf
[2] 「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」,NEDO事業一覧,http://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100058.html
[3] 「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発」に係る実施体制の決定について NEDO公募情報 平成25年9月12日,http://www.nedo.go.jp/koubo/EF3_100023.html
[4] 和田光史,「非可食資源を利用した化学物質生産に向けて」,生物工学,Vol. 90,No. 10,pp. 638-640 (2012)
[5] 「非可食性バイオマスを利用した耐衝撃性バイオポリマーを開発―従来バイオ素材では困難な耐衝撃性を実現―」NEDO・日立造船プレスリリース 2014年10月7日,http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100319.htmlhttp://www.hitachizosen.co.jp/news/2014/10/001415.html
[6] 武野 真也,利光 謙一,辻本 敬,柚木 功,武野 カノクワン,原田 陽子,宇山 浩,中澤 慶久,「トチュウエラストマー®の組成と物性」,Hitz技報,Vol. 74,No. 1,pp.20-25(2013年5月31日)
[7] 「植物の可能性を引き出す トチュウからゴム材」,日経産業新聞2015年9月10日.
[8] 「TEMPO触媒酸化処理によるセルロースナノファイバーを実用化~消臭,抗菌などの機能性を持つシートとしてヘルスケア事業へ展開~」,日本製紙プレスリリース2015年4月21日,http://www.nipponpapergroup.com/news/year/2015/news150421003054.html
[9] 村田隆一,佐藤健太,郷 義幸,長谷川功,前 一廣,「木質バイオマスの高温高圧処理により得たリグニンの熱硬化性樹脂材料への応用」.ネットワークポリマー,Vol. 35,No. 1,pp. 10-16(2014)

(古寺 博)

 

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