NanotechJapan Bulletin

 メニュー
      


<第47回>
バイクの耐食性・耐熱性を高める独自の表面処理技術を開発 ~ナノ膜コーティング技術“SixONy(TM)”(シクソニィ)の展開~
ヤマハ発動機株式会社 材料技術部 高橋 尚久氏に聞く

LifeAndGreen.jpg

portrait-caption.jpg

 風を切って快走するオートバイ.むき出しのエンジンから大きな曲線を描いて車体後部の排気口につながる排気管.これは,オートバイの機能およびデザイン上重要な部品であり,特にオートバイのワクワクするカッコよさを引き出すものである.しかし,オートバイ業界に於いては,この排気管が走行距離に伴って変色し,やがては赤く錆びて汚れることが悩みであった.ヤマハ発動機株式会社は,Si-O-Nから成るナノスケールのセラミックコーティング膜技術“SixXONy™”(シクソニィ)を開発し,この問題を解決した.4万キロ走行後も,新品の輝きを保つ効果を発揮している.この技術を,二輪車・四輪車業界以外のナノテクノロジー分野の方々にも広く紹介し関心を持ってもらい応用展開を図ろうと,2016年1月27日~29日に東京ビッグサイトで開催された国際ナノテクノロジー総合展・技術会議に出展したところ,注目を浴びると共に,nano tech大賞 2016の独創賞を受賞した[1].受賞理由は「バイクの耐食性・耐熱性を高める独自の表面処理技術を開発,自社製品に適用した技術を広く普及させようとしている点を賞す」である.

 そこで,SixONy™の開発者であるヤマハ発動機株式会社 エンジンユニットコンポーネント統括部 材料技術部 材料評価解析グループ主査注) 高橋 尚久(たかはし なおひさ)氏を,静岡県磐田市のヤマハ発動機コミュニケーションプラザに訪問し,開発の動機と経緯,技術内容,本技術を中心とした今後の展開などをお伺いした.また,ヤマハ発動機株式会社全般に関しては,同席された企画・財務本部 コーポレートコミュニケーション部 広報グループ 技術広報担当主査 辻井 栄一郎(つじい えいいちろう)氏から伺った.

注)所属は取材時のもの(現:技術本部 研究開発統括部 イノベーション推進グループ)

 

1.感動創造企業 ヤマハ発動機株式会社

 ヤマハ発動機株式会社(以下ヤマハ発動機)は,日本楽器製造株式会社(1897年設立,現在 ヤマハ株式会社)の第四代社長 川上 源一氏によって,二輪車の製造・販売を目的に1955年に設立された.現在は,ブランドを共有し株式を互いに保有しあうが独立した企業である(図1).

Fig01.jpg

図1 ヤマハ発動機株式会社の社章およびヤマハ株式会社との関係
マーク(社章)は両社とも3つの音又(チューニングフォーク)で技術・製造・販売を示すが,
ヤマハ発動機では,音又にオートバイのホイールの意味を込めており
音叉が外側の円に接触しているところに独自性を出している.

 

 ヤマハ発動機は「感動しなきゃ商品じゃない」と唱え,「感動創造企業」を標榜する.世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供することを目指し,人々の夢を知恵と情熱で実現し,常に「次の感動」を期待される企業であり続けてきたし,これからもあり続けていくとしている.そしてグランドスローガン「Revs Your Heart」には,人々に「心躍る豊かな瞬間と最高の感動体験を.イノベーションへの情熱を胸に,ヤマハ発動機は挑戦を続けます」の意を込めている[2].

 ヤマハ発動機の製品開発には,3つの方針がある. 第1は,独創的なコンセプト である.世にないもの,新しいものを産み出す.新しい乗り物として,電動アシスト自転車を開発したのはその例である. 第2は卓越した技術 である.小型エンジン技術は二輪車からマリンスポーツに展開した.また,空に展開して無人ヘリコプターの開発で農作業の近代化に貢献している.製造技術は高い精度のものづくりを実現する.プラスチック加工技術をボートに適用するのに加えて,プールにも適用した. 第3は,洗練された躍動感 である.造形美と構造美の融合を図る.クールで実用的,両方の特徴を備えた次世代の電動車椅子はその一例である.水上バイクのデザインは「わくわく」を形にした.心の動きをデザインにする.

 ヤマハ発動機は,三つの技術(小型エンジン技術,車体・艇体技術,制御技術)を核にして,図2に示すような二輪車,水上オートバイ,産業用無人ヘリコプター,電動車椅子等々の事業[3]を日本をはじめアセアン諸国,中国・インドなどのアジア地域,欧州,北米・南米,アフリカ等において展開し,その製品は200を超える国と地域で販売されている(図2,図3).

 2015年12月31日現在,会社は,資本金:857億8,200万円,売上高:連結1兆6,154億円 単独6,590億円,従業員数:連結53,306人 単独10,440人,関連会社数約130社を擁している.

Fig02.jpg

図2 核となる3つの技術と製品・事業展開


Fig03.jpg

図3 2015年度の事業別売上高,地域別売上高

2.ヤマハ発動機の二輪車(オートバイ):五感に新たな感動をもたらす創業以来の乗物

2.1 オートバイにおける排気管は感動の一つ

 「感動創造企業」を掲げるヤマハ発動機の製品は,環境と調和することは言うまでもないが,色,音,振動等の感覚を大切にする.創業製品であるオートバイにおいて,排気管はエンジンと同様外側にあって大きく目に付く部品である.見える部品は常にきれいでなければならない.使い込みによって変色したり錆で汚れることは好ましくない.排気管は,消音,排ガス浄化,エンジン出力の調整などの役割を担うだけでなく,二輪車のデザイン上も重要な部分である.

2.2 排気管に求められていることと現状および対策

 図4(a)にヤマハ発動機の40年近くのロングセラーモデルであるSR400の古いタイプの新車を示す.エンジンと共に排気管が大きく見え,オートバイの意匠にとって重要であることがわかる.排気管はエンジンに近い部分(エキゾーストパイプ,略して“エキパイ”と呼ばれる)と後方のマフラー部分(排ガス処理触媒及びサイレンサーが入っており太くなっている)から構成されている.高温の排気ガスに曝されるのはエキパイの部分であり,排ガスの温度は厳しい環境基準に適合するために新型モデルではますます高温になってきた経緯がある.一般のエキパイは,機械構造用炭素鋼(普通鋼管STKM)管の表面に美観を高めるために装飾クロムめっきが施されており,きれいな光沢を放っている.しかし,短期間走行するだけで図の(b)に見られるようにエンジン近くのより高温側に酸化膜の形成による干渉色の金色や青色が出てくる.きれいな変色のうちはまだ良いが,酸化皮膜が厚くなると,その後走行距離が伸びるにつれて図の(c)に見られるように赤錆が発錆しやすくなる.この対策として,SR400ではエキパイ部分を3重管構造にして,見える外側の管の温度を下げ酸化を防止するようにしてきたが完全ではなかった.他のモデルでは,パイプ材質をステンレス鋼にしている場合もあるが,変色,錆の発生を完全に抑えることは出来なかった.

Fig04.jpg

図4 自動二輪車の課題

 そこで,有害な物質を出さず,コストアップを極力抑えたクリーンで新たな製法でこの問題を解決することを検討し,開発されたのが本稿の主題であるナノ膜コーティング技術“SixONy™”(シクソニィ)であり,それを採用した新しいSR400(2010年モデル)を図5に示す.25,000km走行後も色やけ,錆の発生は見られない(図6).また,3重管は不必要となり,2重管にすることによって,曲げ加工がシンプルになりかつ20%の重量軽減ができ,耐熱・耐食のみならずコスト的にもメリットが出ている.

 次章以下,“SixONy™”の開発経過,特性,オートバイ以外への応用展開について紹介する.

Fig05.jpg

図5 ナノ膜コーティングSixONy™の排気管を採用したSR400(2010年モデル)


Fig06.jpg

図6 約25,000km走行後のSixONy™排気管(SR400) 変色・錆の発生なし

3.ナノ膜コーティング技術“SixONy™”(シクソニィ)の開発

 高橋氏の所属する材料技術部は,ある材料では溶接がうまくいかないが何故か,部品が破損するが原因は何か,これを解決するにはどうすべきかといった調査解析を行っている.また海外生産において現地調達する材料や部品の,品質調査・強度評価・解決策の提示などもメインの業務である.その中で,“マフラー焼け(エキパイ部分での焼けが多いが慣用的にこう呼ぶ)”は慢性的な課題であり,“材料面から何とかならないか”との相談を受けたことからこのテーマ(SixONy™開発)は始まった.高橋氏にとっては,現場での調査・評価を行いながらの研究開発であり,中断することが多かったが根気よく継続してやってきた.

3.1 従来技術の評価から新組成Si-O-Nの発見[4]

 まず初めに,エキパイの表面に耐酸化性のある被膜を形成することを検討した.溶射,ゾルゲル,琺瑯等いろいろなものを検討したが,耐熱,耐食,透明性,色調等をすべて満足するものは無かった(表1).溶射は外観が別のものになってしまう.琺瑯はきれいだが,走行中に水がかかって急冷されるとひび割れてしまう.

表1 各種耐熱コーティングの特徴

Table01.jpg

 そこで,耐酸化性がありかつ酸素や水を透過させないバリア性のある薄膜を表面に形成すればよいのではないかと考えた.水蒸気や酸素のバリア膜として食品用ラップフィルムにシリカの膜が被覆されているのをヒントに,ゾルゲル法でSiO2系の膜形成を試みた.テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4),エタノール(C2H5OH),水(H2O),塩酸(HCl)を混合した液を調整し,それに排気管をディップし,引き上げ乾燥することでゲルフィルムを付着させ,その後500℃×10分間の焼成処理を行うことで約1µmのSiO2被膜を形成した[5].400℃程度に加熱しても変色しない良好な膜がたまたまできた.マフラー焼けの無い膜ができることがわかり,この膜組成の周辺に答えがあることを確信したが,再現することは無かった.良好であった膜を詳細に調べたところ,膜組成はSi-Ox-Nyの組成になっていることが分かり(Nは空気中から混入と推定),以後この組成に絞り込んで検討を進めた.

3.2 製法の探索:大型対象物も適用可能な反応性スパッタリング装置の開発[6]

 ゾルゲル法では,大きなしかも曲がった形状の排気管に均一な膜を形成することは難しい.色ムラができてしまう.また,400℃では問題なかったが400℃以上では変色し酸化が進んだ.これは,ゾルゲル法では,焼成中にシリコンと結合していた有機系化合物の気化や分解が生じるため,得られる酸化シリコン膜には微細な空隙が形成されており,ガスに対するバリア性が低下しているためと考えられる.

 そこで,PVD(Physical Vapor Deposition,真空蒸着などの物理的気相堆積)法を検討することにした.従来,スパッタリング法などの蒸着法を用いた薄膜形成は,半導体装置のようなスケールの小さなものに対しては行われていたが,排気管のようなスケールの大きなものに対しては,蒸着装置内の真空度を確保することの困難性などから工業的に行われることはなかった.高橋氏は,このような技術常識にとらわれることなく検討を積み重ねることによって以下の技術を確立した.

 図7に示すような大型のDCマグネトロンスパッタリング装置を設計・製作した(チャンバの内径:1,000mm以上,高さ:1,200mm以上の円柱形状)[6].図の(a)および(b)に示すように,金属管5を上下に2つ懸架して保持するホルダ24を複数備えている.各ホルダ24は,回転軸23を中心に自転しながらチャンバ21内で公転する.ホルダ24が回転する軌道の外側には,複数のSiターゲット22が設けられている.この装置を用い,立体的な形状を有する金属管5の外側全体に均一な厚さのセラミックス膜10を形成することができる.成膜の手順は,例えばクロムめっきが施された金属管(STKM)を,マグネトロンスパッタリング装置のチャンバに配置し,3×10-3Paの真空度に到達するまで排気し,その後100sccm(standard cc/min)の流量でチャンバ内にアルゴンを導入し,3×10-1Paの圧力を保ちながら,800V,5A(4KW)のパワーを投入して10分間逆スパッタを行い,金属管表面の自然酸化膜を除去する.その後,シリコンをターゲットとし,チャンバに窒素および酸素を導入し,3×10-1Paの圧力を保ちながら,800V,5A(4KW)のパワーを投入して5分間スパッタを行い,金属管表面に厚さ50nmの窒化酸化シリコン膜(SixONy™)を形成出来る.以上から分かるようにスパッタされたSiに酸素,窒素を反応させてSixONy™被膜を形成するいわゆる反応性スパッタリングである(図8).

Fig07.jpg

図7 DC反応性スパッタリング装置


Fig08.jpg

図8 DCマグネトロン反応性スパッタリング法によるSixONy™被膜の生成

 装置をこのように大型化し,かつプロセスの最適化を図り,真空に引くのに10分,トータル50分以内に1バッチが完結できるようにした.成膜温度も50℃以下と低いので加熱に時間を要せず又冷却時間も必要なく,すぐにワークを取り出して後工程にかかることができる.加熱時間も冷却時間も不要であり,生産効率は高い.

3.3 膜組成の最適化[6]

 SixONy™膜のO,Nの組成をいろいろ変えてみた.酸素含有率および窒素含有率を特定の範囲内とすることにより,変色を防止する効果を格段に向上できることがわかった.

 図9は,スパッタリング装置内に導入する酸素と窒素の比率を変えた場合の変色防止効果を,また図10は,SixONy™膜中の酸素および窒素の含有率と変色防止効果を示したものである.なお,SixONy™膜はSUS304表面に形成したものである.変色は,試験片を大気中で500℃×24時間加熱放置した場合の色の変化を,Lab表色系における“色差ΔE”で示したものであり,2以下が変色防止効果良好であることを示す.

Fig09.jpg

図9 スパッタリング装置内に導入する酸素と窒素の比率を変えた場合の変色防止効果

 図9に示すように,窒素ガスの濃度が90%を下回ると(つまり酸素ガスの濃度が10%を上回ると),急激にΔEが大きくなって好ましくない.このことは酸素を除くために高真空にすることの必要性がないことを意味し,排気時間の短縮化につながる.

 図10(a)はSixONy™膜中の酸素含有率が25%を超えると,図10(b)は窒素含有率が15%以下になると急激にΔE*が大きくなって好ましくないことを示している.

Fig10.jpg

図10 SUS304上に形成したSixONy™膜の組成と耐熱・変色防止効果

 以上より,SixONy™膜中の酸素含有率を25質量%以下,窒素含有率を15質量%以上とすることによって良好な耐熱・変色防止効果が得られることが分かる.(もっと好ましいのは,酸素含有率を5質量%以下,窒素含有率を40質量%以上).これは,高温加熱の際,窒化酸化シリコン膜中のシリコンが外部の酸素と結合するとともに元々結合していた酸素を金属管側に放出するという現象が起こっており,酸素含有率が低いほど,つまり窒素含有率が高いほどこの現象が起こりにくいということが少なくともその一因であると推測される.

3.4 使用可能な基材材質:SUSから低融点のPETフィルムまで可能

 金属管基材材質としては,機械構造用炭素鋼(STKM)やステンレス鋼(SUS),チタン,チタン合金などを用いることができる.表面の金属光沢や装飾性を高めるために,バフ研磨が行われていたり,表面に装飾クロムめっきが施されている.また,スパッタリング時の基板温度が50℃以下と低いので,PETフィルムやその他の樹脂表面への成膜も可能であり,用途はエキパイ以外にも広い展開が期待できる.

3.5 基材の表面粗さ[6]

 金属管の表面は,図11に示すように,セラミックス(SixONy™)膜10の厚さ(波線の厚さ)に比べて大きな表面粗さを有していることが好ましい.具体的には,コーティング基材である金属管5の表面の平均粗さRaは,0.4µm以上であることが好ましい.平均粗さが0.4µmよりも小さい場合,可視光が金属管の表面で反射する際,隣り合う溝から反射した波面間の光路差が波長の整数倍のときに強め合って回折光が見られるようになり,排気管の美観を損ねる可能性がある.また,平均粗さが小さくなり,金属管5の表面が平滑になると,セラミックス膜10の密着性が低下する可能性がある.金属管5表面の平均粗さRaの値に上限は特にないが,Raが3.2µm以上になると光の反射率が低下し,商品性や美観を損なうので好ましくない.

Fig11.jpg

図11 基材の表面粗さ

 このように,可視光による回折光が生じる表面の粗さの範囲よりも大きな表面粗さを有する金属管の表面に,可視光による干渉縞が生じる厚さの範囲よりも小さな厚さ(30nm以下)を有するセラミックス膜を形成する.それによって,高温の排気ガスが通過しても,表面の酸化,あるいは変色が生じることがなく,また,密着性に優れ,干渉縞の発生のない均一な金属光沢を有する排気管を得ることができる.

4.“SixONy™”(シクソニィ)の諸特性[4]

 “SixONy™”は,700℃までの耐熱性,優れた耐食性,酸素・水分・塩素等に対する優れたバリア効果,無色透明から金/青/桃/紫等多彩な発色,耐熱性の高い無色透明・絶縁膜などの特徴を持っている(表2,図12).以下,これらの代表的なものを紹介する.

表2 SixONy™膜の特徴
Table02.jpg


Fig12.jpg

図12 被膜特性

4.1 耐熱性・耐酸化性[4]

 図13に試験結果の一例を示す.試験片は装飾クロムめっき鋼鈑を用い,SixONy™膜のコーティング有無について,高温加熱試験および発錆試験,防錆油塗布加熱試験を実施して結果である.コーティング無し品は加熱後黄色に変色し,その後の発錆試験では赤錆が発生している.SixONy™膜20nmのコーティング品は熱による変色はなく,錆も発生していない(図13(a)).また,防錆油を塗布後に加熱しても,コーティング品は油の跡は残らない(図13(b)).

Fig13.jpg

図13 基板の高温加熱試験結果

4.2 膜厚と色[7][8]

 SixONy™膜の厚さは,5nm以上300nm以下であることが好ましい.5nmより薄い場合,金属管を均一に覆うようSixONy™膜を形成することが難しくなり,また十分なガスバリア性を確保することができないため,金属管の表面の酸化や変色を完全に防ぐことが難しくなる.一方,300nmよりも厚くなると,SixONy™膜を形成するために要する時間が長くなり,生産性が低下するため,好ましくない.また,300nmよりも厚い場合や,SixONy™膜が完全に均一な厚さを有しない場合,虹色のような干渉色が見られやすく,外観の装飾性が低下する.生産性の観点からは,SixONy™膜の厚さは,50nm以下であることが好ましい.SixONy™膜の厚さが5nmから30nmの範囲であれば,干渉色が発生しない無色透明な膜が得られる.

 また,図14に示すように膜厚を変えることによって様々な色を発色することができる.色は干渉色なので,膜厚を変えて無色透明から金色,青色を量産している.今はもっと濃い目の色を出せる開発も手がけている.

Fig14.jpg

図14 SixONy™の膜厚の違いによる様々な発色

4.3 宝石の輝きを持つSixONy™膜コーティング排気管の耐熱性

 厚さ80nmのSixONy™膜コーティングによって青色の宝石の輝を持つ排気管が得られる(図15(a)).図15(b,c,d)は,この青色に着色したエキゾーストパイプ(エキパイ)の高温加熱試験の様子を示したものである.エンジン全開によりエキパイは赤熱され(図b),冷却途中も赤味が残っているが(図c),冷却後は元の青色に着色したエキパイに戻っている(図d).

 アフターパーツでは,チタンカラーのような装飾部品が多く見られるが,使用中に熱変色してしまい,きれいな商品性を維持することは難しい.しかし,SixONy™膜による着色ではこのように熱変色が生じないため,いつまでもきれいな色を維持できる.

Fig15.jpg

図15 宝石の輝きを持つ青色エキゾーストパイプの高温加熱試験結果

5.社内モニター結果および市場からの反響

 コーティングされたSixONy™膜の長期に渡る性能評価のため,テストコースでの走行耐久試験の他に,通勤車両による社内モニター走行を実施した.5車種14台の車両の排気管に成膜を施し2年間継続した.走行距離は10万kmにおよび良好な結果を得た(図16:途中経過).実感できた効果は、図16に記述したように“①変色しない”から“⑦洗浄で汚れが消える”までの7項目あり,高い満足度のモニター結果であった.

Fig16.jpg

図16 約4万キロ走行車両(TMD-900:変色・錆の発生なし),および実感できた効果

 透明ナノ膜SixONy™を搭載したオートバイは,2007年に実用化・量産を開始した.SixONy™をコーティングしただけで色も形状も変わらないので同じ価格帯での販売となった.積極的な宣伝はしなかったので,お客様にとっても見た目に変わりが無くあまり話題にならなかった.ところが,発売後半年過ぎたころから,ネット上で「ヤマハのエキパイ(エキゾーストパイプ,排気管)は,いつものように変色したり錆びたりしない」「どうもナノ膜コーティングをしているらしい」と話題になり始めた.そして,「僕のエキパイをコーティングしてくれないか」との要求も出てくるようになった.もちろんお断りしている.

 また,2014年のことであるが,名古屋で「人と車のテクノロジー展」が開かれ,公益社団法人 自動車技術会から各社の持っている“オンリーワン技術”を出展するようにとの要請があった.ヤマハ発動機では,このナノ膜コーティング技術を出したところ,二輪業界,四輪業界以外からも多くの問い合わせが来た.そこで,今年はより広い分野に渡る展示会であるナノテクノロジー展に出展(実はこの時点で本技術を“SixONy™”シクソニィと命名)したところ,図らずも独創賞をいただいた.そして,エキパイだけではなくナノテクノロジーという観点から多くの問い合わせが来てうれしい悲鳴を上げているところであるとのことである.また,ヤマハ発動機は2016年の5月31日から6月2日までの3日間,ドイツのシュツットガルトで開催された「O&S国際表面処理&コーティング専門見本市」(主催:ドイツメッセ株式会社)においても,「SixONy™」の技術展示を行ったところ,多くの国々の多くの企業から興味をもたれており,対応を検討している[9].

6.商品への適用状況

 2007年に「FZ1/FZ1 FAZER」で実用化して以来,「SR400」(2010年型以降),「MT-09」(図17)などに採用されているナノ膜コーティングであるが,その技術はキッチン用品売り場でも目にすることができる.ある会社がカクテルシェーカー(図18)に応用し話題を呼んでいる[8].金色にコーティングしたカクテルシェーカーを,2015年に百貨店で公開したところ今世界中から引き合いが来ているとのことである.高級感の色もよいが,親水性(接触角<30度)で,高級・高価なお酒を残すことなくきれいに流すことができ具合がよいと評判になっている(ちなみに,ステンレス製のシェーカーは撥水性である).その他,食器・キッチン関係から自動車用外装パーツまで,「SixONy™」ナノ膜コーティング技術はさまざまな発展性を秘めている.マリン部品への展開も考え進めている.

Fig17.jpg

図17 「SixONy™」ナノ膜コーティング技術によるエキゾーストパイプ採用の「MT-09 TRACER」


Fig18.jpg

図18 「SixONy™」ナノ膜コーティング技術による他社製市販カクテルシェーカー

7.おわりに

 SixONy™膜は,今まで述べてきたように耐熱性・耐食性・耐傷性に優れ,かつ基材への密着性がよく基材の伸びちぢみに追従し,外表面からの急冷(サーマルショック)にも耐えるすばらしい特性を持っている(一種の超高耐熱性ゴムのような性質を持ったセラミック薄膜である).さらに,熱伝導性がよくかつ電気絶縁性(抵抗率1011~1014Ωcm)もよいことからヒートシンクへの応用も期待されている.「ナノテクノロジープラットフォーム[10]などの先端的研究支援事業の諸機能・諸設備を活用して,発現メカニズムをより詳細に解明するとともに,新たな特性を明らかにし,既に寄せられている要求およびこれからも寄せられてくるさまざまな高度な要求に応えていけるようにしたい」と高橋氏は話された.

 ヤマハ発動機が,ナノテクプラットフォームとの協力研究等により,基本的なまた新たな諸性質やその発生のメカニズム等が明らかになり,そしてより広く多くのニーズや課題に対し,ヤマハ発動機と顧客とが連携し多くのイノベーティブな“SixONy™”の応用製品が生まれることを期待したい.

参考文献

 本文中の図表は,全てヤマハ発動機株式会社より提供されたものである.

[1] nano tech大賞 2016 独創賞,http://www.nanotechexpo.jp/main/award2016.html
[2] ヤマハ発動機株式会社ホームページ,http://www.yamaha-motor.co.jp/
[3] ヤマハ発動機の商品展開系譜,http://aichihatsumei.oos.jp/wp-content/uploads/2015/09/b02efa98feaf401fe4ecb2f0a0764bdf.pdf
[4] 高橋尚久,村越 功,「耐熱・耐食性に優れたナノ膜コーティング技術開発」,Yamaha Motor Technical Review, No. 46, pp.4-11, (2010)
http://global.yamaha-motor.com/jp/profile/technical/publish/no46/pdf/gs02.pdf
[5] 高橋尚久,金子裕治(ヤマハ発動機株式会社):「内燃機関の排気管」,特開2002-332838,公開日 2002.11.22
[6] 高橋尚久(ヤマハ発動機株式会社):「内燃機関用排気管およびそれを備えた内燃機関並びに輸送機器」,特開2007-100693(特許第4521382号),公開日 2007.04.19
[7] ヤマハ発動機:「宝石の輝きSixONyシクソニィ™」ナノ膜コーティング技術
http://www.yamaha-motor.co.jp/sixony/
[8] 技術の広がり「ナノ膜コーティング」とシャボン玉との関係
http://global.yamaha-motor.com/jp/profile/technology/spread/005/
[9] ドイツで開かれる表面処理&コーティング専門見本市に出展 ナノ膜コーティング技術「SixONy™」について 2016年5月17日発表,http://global.yamaha-motor.com/jp/news/2016/0517/sixony.html
[10] 文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム事業」:https://www.nanonet.go.jp/

(真辺 俊勝)

 

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です. nanotech2014_banner.jpg