NanotechJapan Bulletin

      


<第49回>
次世代素材のセルロースナノファイバーの製造技術を開発 ~酵素処理を用い,食用にもなる素材を杉や竹の生育地で製造可能~
森林総合研究所 新素材研究拠点 林 徳子氏,下川 知子氏に聞く

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 木材は,鉱物資源の乏しい日本にとって,豊富に存在し,再生可能な重要資源である.建築資材,紙・パルプに加え,より広い用途に展開できれば,資源枯渇・資源不足の問題解消に役立とう.2016年1月27日~29日に東京ビッグサイトで開催された第15回 国際ナノテクノロジー総合展(nano tech 2016)は,今回初めて出展した国立研究開発法人 森林総合研究所をnano tech大賞 2016 新人賞に選んだ.受賞理由は,「次世代素材のセルロースナノファイバーの製造技術を開発,日本に豊富にある木材の有効活用に貢献する点を賞す.」である[1].農業からの視点でナノテクノロジーを活用する点で,工業を対象とする研究所とは異なる研究開発が行われていると考えられ,研究の進め方も含めて受賞対象となった技術には興味深い内容が含まれていると推察された.

 今回,茨城県つくば市にある森林総合研究所を訪問し,nano tech大賞 新人賞を受賞した研究を主導されている同研究所 新素材研究拠点 拠点長 林 徳子(はやし のりこ)氏と同拠点の糖質資源担当チーム長で,森林資源科学研究領域 微生物工学研究室の下川 知子(しもかわ ともこ)氏にお話を伺った.

 

 

 

 

1.森林総合研究所の概要 [2]

 国立研究開発法人 森林総合研究所(以下「森林総研」)は,農林水産省林野庁が所管する研究所で,森林及び林業に関する総合的な試験及び研究,林木の優良な種苗の生産及び配布等を行うことにより,森林の保続培養を図るとともに,林業に関する技術の向上に寄与することを目的としている.1905年(明治38年)に農商務省山林局の林業試験所として東京府目黒村に発足し,1978年筑波研究学園都市に移転,1988年に森林総合研究所に名称変更された.

 図1は森林総研の組織図で,本所は茨城県つくば市にあり,その他に北海道などに5つの支所,整備局,育種場などが,全国各地に跨がって設置されている.本所には,4つの研究部門(林業,森林,木材,戦略)がある.セルロースナノファーバーの研究は,戦略研究部門にある新素材研究拠点を中心に行われている.研究関係(育種を含む)の役職員は730名とのこと.

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図1 森林総合研究所の組織 [2]

 森林総研では,森林・林業,木材産業に関する以下の4つの研究開発業務が行われている.

①森林の多面的機能の高度発揮に向けた森林管理技術の開発
②国産材の安定供給に向けた持続的林業システムの開発
③木材及び木質資源の利用技術の開発
④森林生物の利用技術の高度化と材木育種による多様な品種開発及び育種基盤技術の強化

 ③は,木材の新しい使い方,木質成分の高付加価値利用を研究開発するもので,セルロースナノファイバーや,板の木目方向を層毎に直交して重ねて接着した高強度木質材料CLT(Cross Laminated Timber)が主なテーマになっている.

2.セルロースナノファイバーと酵素

2.1 セルロースナノファイバーとは

 木材の細胞壁は,図2に示すようにセルロース,ヘミセルロース,リグニンという3種の化学物質が精緻に組み合わさって構成されている.セルロース分子はグルコース(ブドウ糖)が直鎖状に繋がった高分子で,セルロースミクロフィブリルという繊維状の形態で細胞壁中に存在し,樹木を支える主成分となっている[3][4].セルロース繊維を分離抽出したものが紙パルプで,それをシート状に加工して紙が作られる.

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図2 植物細胞壁の構成成分(左:模式図,右:分子構造)

 セルロースナノファイバー(あるいはナノセルロースとも呼ぶ)は,セルロース繊維をnmオーダの幅まで細くファイバー化したもので,セルロースミクロフィブリル1本~数十本の繊維の単位にまでほぐしたものである.鋼鉄の1/5の軽さで,鋼鉄の5倍の強度を持つことから,次世代の素材として様々な分野での応用が期待されており,NanotechJapan Bulletinの本企画特集でも関連する記事を掲載してきた[5][6][7][8].

 ナノセルロースの製造法としては,

①セルロース繊維懸濁液を高圧に加圧してスリットを通して解繊する高圧ホモジナイザー法やグラインダー処理などの機械的処理,
②繊維に化学的な修飾を施し小さなせん断力でナノ化する化学処理,
③繊維を溶かした溶液をノズルから高圧噴射させ対向する金属板との間に高電圧を加えてナノ化する電気的処理,

等が検討されている.これらの製造法はいずれも,製紙業界あるいは化学業界での大規模設備を使用した大量生産を想定している.

2.2 酵素によるセルロースの加水分解

 森林総研ではセルロースを加水分解する酵素であるセルラーゼを添加することで,セルロースをほぐし易くする技術に取組んできた.酵素とは,生体内化学反応に対する触媒分子であり,ある酵素はある特定の化学構造にのみ触媒機能を発揮する.セルラーゼは,水の存在下でセルロースを分解する加水分解酵素であり,木材を分解するときに重要な役割を担う.複雑な構造のセルロースを単糖類のグルコースにまで分解するには,複数の種類のセルラーゼが夫々異なる触媒機能で作用していると考えられている.

 林氏は2016年の春まで森林総研の「きのこ・微生物研究領域」という部署に属しており,微生物が生合成する加水分解酵素によるセルロースの分解について研究してきた.セルロースは植物,海藻のみならず海産動物であるホヤの殻からも採取でき,これら様々なセルロースにおける酵素加水分解メカニズム,また個々のセルラーゼの作用を解明しようとした.解明方法としては,酵素加水分解されたセルロースミクロフィブリルの透過型電子顕微鏡(TEM)や原子間力顕微鏡(AFM)観察,X線回折スペクトルやフーリエ変換赤外スペクトル等の分光分析,電子線回折による格子像の観察も行った[9][10].その結果,セルラーゼ生産菌であるトリコデルマ菌とアスペルギルス菌や個々のセルラーゼの作用の違い,セルロース結合モジュールと称するセルラーゼの吸着部位がセルロース微結晶表面に吸着し割れを生成したり,より大きな触媒モジュールがくさびのように割れを拡大することで,セルロースの酵素分解が進行することなどを突き止めた.「こうした酵素加水分解のプロセス観察を土台にして,2007年からセルロースナノファイバーの研究を一人で始めたのです.」と林氏は語った.

2.3 酵素処理と機械的処理を組合せたナノセルロース製造法

 森林総研でのナノセルロース製造技術の特徴は,酵素加水分解とビーズミルなどの機械的処理を組合せることで,より細いセルロースナノファイバーを生産する点にある.図3に描いたように,機械的処理でパルプ繊維を叩き潰すだけでは繊維からナノファイバーのほぐれは少ないが,酵素による加水分解でセルロースの凝集をほどく処理と併用することで,ナノファイバーへとスムーズにほぐれていく.この方法は,酸を多用する化学的処理や高圧を使う機械処理と比べて穏和で取り扱いが容易,常温に近い50℃程度で製造可能,廃液処理が簡単,エネルギー節約,等々,地球環境に優しい生産方法といえる.また,小規模な施設でもセルロースナノファイバーが製造可能となる点も,特徴である.

 この技術を基に,パルプ繊維の原材料となる林産物として,竹,あるいは杉を使った二つの開発プロジェクトが進められている.

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図3 酵素処理と機械処理を併用したナノセルロース製造

3.竹を使った食用ナノセルロースの開発

3.1 竹のナノセルロース

 2007年から始めたセルロースナノファイバーの研究は,2012年~2013年の森林総研プロジェクト「バイオリファイナリーによる竹資源活用に向けた技術開発」に展開された[11].このプロジェクトでは,竹のチップ化を行い,セルロース・ヘミセルロース・リグニンの各成分に分離する技術を確立し,それぞれの利用法を新たに開発した.成分分離技術は,森林総研が林業試験場と呼ばれた時代から取組んでおり,伝統的に強い領域であった.そこで,この技術を応用して,セルロースの有効活用法として竹のナノセルロース化に取り組んだ.何故,竹の有効活用に取り組もうとしたか,その背景には竹の利用が減少していることに加え,竹林オーナーの高齢化もあって,竹が野山に野放図に繁茂している現状がある.実際,四国の香川県三豊市が竹の処理に困っていたところから本プロジェクトは始まった.

 図4に,竹のセルロースナノファイバー製造プロセスを示す.左側の前半工程はパルプ製造,右側の後半工程がナノファイバー製造である.竹チップをアルカリ蒸解法で煮込んでパルプ化し,その後漂白して漂白パルプを得る.

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図4 竹のナノファイバー製造プロセス [13]

 パルプ繊維を解(ほぐ)してナノ化する工程には,酵素処理と湿式粉砕による機械的処理を併用した森林総研の独自技術を採用している.酵素処理では,どの加水分解酵素が最適か色々と検討し,アスペルギルス(Aspergillus)のセルラーゼを採用した.この酵素は野菜ジュースや焼酎を作るときに使う酵素用に市販されており,食品に用いる場合の安全性も確立している.湿式粉砕装置としては,アシザワ・ファインテック製のビーズミル装置を使用している[8][12].ビーズミル装置だけではナノファイバーを作製することが困難であり,ビーズミル装置にセルラーゼ酵素を投入して酵素処理を併用することで簡便にナノ化することができる.こうして作製したナノファイバーは,一部含まれているヘミセルロースの効果により,寒天のようなゲル状になる.

3.2 竹ナノセルロースの食品への応用 [13]

 2014年には信州大学の遠藤守信教授がリーダーとなって「工学との連携による農林水産物由来の物質を用いた高機能性素材等の開発」がスタートし,信州大学が代表研究拠点,森林総研は8つの補完研究代表機関の一つとして参加している[14].この事業は豊富に存在する農林水産物の未利用資源のナノ構造体を,ナノテクノロジーにより工学と融合する“ナノアグリ”技術で石油由来材料を超える新機能・高機能なナノバイオマテリアルの創出を目指している.

 この中で森林総研は,「物理処理と酵素処理を併用した木質材料由来ナノファイバーの食品等への応用」を研究開発テーマとして参加し,林氏が研究代表者となって,竹ナノセルロースの食品等への用途開発を推進している[13].

 図5左の電子顕微鏡写真は,図4のプロセスで製造した竹のナノファイバーで,図5右の写真は寒天状凝集物である[11].ゲル化してプリンのように美味しそうに見える竹ナノファイバーを,不溶性食物繊維として食品に添加する.すなわち,食べて栄養になるというものではなく,消化されないで腸の動きを活発化させ,お通じを良くする.最近の研究では,セルロースは全く消化されない訳ではなく,大腸菌が分解して大腸菌叢がバランスよく育つことも分かってきた.また,粘性が高い竹ナノファイバー懸濁液は,介護食向けに粘りやとろみをつける増粘剤としての利用も有望である.

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図5 竹セルロースナノファイバーの電子顕微鏡観察(左)と寒天状凝集物(右)

 食品への応用ということでは,安全性の確認が重要である.タケノコが食用として重用されるから,竹を原料とした材料は食品に馴染み易い.しかし,パルプ化する際に使う助剤のアントラキノンには発がん性の疑いがヨーロッパで指摘された[15].アントラキノンを使わないソーダ蒸解だけで何とかパルプを製造し,ナノファイバー製造できるようにしている.ナノファイバー化していることが食品として安全かどうかについては,マウスやラットに28日間ないしは90日間セルロースナノファイバーを食べさせたり,細胞に対する毒性試験を行ったりして試験している.こうした安全性確認試験は,伊那食品工業・昭和女子大学と共同研究で取組んでいる.

4.杉を使ったナノセルロースの開発

4.1 杉を例とする国産木材需要創出

 2014年に林野庁が「木材需要拡大のための緊急対策事業」を開始した.戦後植林した杉や檜などが本格的な利用期を迎えようとしている一方,住宅着工戸数は減少傾向にあり,新規な木材需要を創出しようとする目的である.具体的には,CLT(Cross Laminated Timber,中高層の集合住宅も可能な直交集成板)等の新たな木質部材・工法の開発,木材製品輸出促進,木造住宅等地域材利用拡大など,幅広い分野におけて木材需要拡大に向けて総合的に取り組んでいる.

 森林総研は,上記事業の一環として「セルロースナノファイバー製造技術実証事業」に参画した[16].豊富な森林資源である杉を住宅建材としてだけでなく,新規な有効活用先として杉セルロースナノファイバーを提案するもので,パルプ化からナノ化までを一貫製造する製造技術実証と利用技術の開発に取り組んでいる.図6は,杉セルロースナノファイバーに関する森林総研の取組みの全体像を描いたものである.

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図6 杉セルロースナノファイバーの製造技術・用途開発

 杉セルロースナノファイバーの製造技術の基本的な特徴は,竹の場合と同様,酵素と機械処理による解繊技術である.しかし,パルプ化工程では,食用ではないのでアントラキノンを助剤として使ってアルカリ蒸解している.

4.2 杉セルロースナノファイバーの製造実証プラント

 茨城県つくば市の森林総研敷地内にある倉庫を利用して,杉セルロースナノファイバー製造技術を実証するベンチプラント施設を2015年に建設した.本記事の冒頭の写真は,その施設の入口前にて撮影したものである.小学校の教室一部屋分程の広さの施設は,パルプ化工程とナノ化工程の2区画に分かれており,全部で6台程の装置でセルロースナノファイバーを一貫製造できる.生産能力は1kg/日(乾燥物換算).小規模な設備で,地域の中小の事業者でもやれ,製造コストの削減に取り組んでいる.中山間地(平野の外縁部から山間地,里山)など杉や竹が生育している近くに施設を作り原料の集荷・搬送が軽減される等のメリットが期待できる.

 パルプ化工程では,アントラキノンを助剤とするアルカリ蒸解を用いた.製紙業界では硫黄を使う蒸解法を採用しているので,硫黄の回収に大規模な製造設備が必要になる.これに対し,本実証プラントでは硫黄を使わないので小規模なパルプ化設備で対応できる.「森林総研では,木質バイオエタノール製造試験プラントを北秋田市に建設した実績があり[17],その時に開発した杉のパルプ化前処理技術を応用した.」と下川氏が説明された.パルプ化工程で出てくる黒液(リグニン)はボイラーで燃やして発電し電気エネルギーとして利用することで,エネルギー完全自給の環境に優しい施設になっている.

 セルロース繊維のナノ化工程では,2.3節で紹介したセルラーゼ酵素処理とビーズミル湿式粉砕処理とを併用している.図7は,ナノ化工程の導入部に使われるセルラーゼ酵素による前処理装置である.「木質バイオエタノール製造では,トリコデルマ(Trichoderma)と称する糸状菌が生産するセルラーゼがセルロースをブドウ糖までバラバラに分解する能力が高く,かつ安いということで使ったが,セルロースナノファイバー製造ではパルプを解す能力が高いということで3.1節で紹介したアスペルギルス(Aspergillus)を使っている.」と下川氏が説明された.

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図7 セルラーゼ酵素を投入するナノファイバー化前処理装置

4.3 杉セルロースナノファイバーの利用技術開発

 製造実証プラントを設置して杉セルロースナノファイバーを製造できるようになったので,これをユーザ企業に頒布して様々な用途での応用開発を推進している.主な用途として,

①プラスチックコンパウンド
②塗装材料
③不織布(繊維を撚って糸にして織らずに,繊維を絡み合わせて布にしたもの)

への利用を検討している.

 図8は,杉セルロースナノファイバー(CNF)を1%混合したポリプロピレン(PP)を準備し,汎用の射出成型設備で成型可能なことを確認した例である.プラスチックが加工費用は同等のままで,セルロースナノファイバー1%添加で強度は1.5倍になるものと期待される.

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図8 杉セルロースナノファイバー添加の強化プラスチック成型

 図9は,木材への塗料に杉セルロースナノファイバーを添加することで膜面が硬くなり,塗膜の伸び率が強化された例である.添加量や塗膜の膜厚などを振って,セルロースナノファイバー(CNF)入り塗料の優位性を評価している.

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図9 杉セルロースナノファイバー添加の塗装材料

 図10は,不織布への応用を検討したものである.(株)ゼタの谷岡博士ら[7]の協力を得て,杉セルロースナノファイバーと繊維化助剤であるポリエチレンオキサイド(PEO)との混合溶液をノズルから吐出させて,不織布を作製した.花粉症対策やPM2.5(大気中に浮遊している2.5µm以下の微小粒子)のようなµmサイズのものが捉えられ,現在のフィルタでは捉えられない大きさの粒子まで捉えることが可能になる.

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図10 杉セルロースナノファイバーの不織布

 上記の3例だけでなく,用途開発を進めるために,森林総研で試験製造した杉セルロースナノファイバーを様々な業界に頒布している.化学工業界・木材業界・製紙業界や,大学・公的研究機関などにサンプル提供している.森林総研で生産された杉セルロースナノファイバーは,繊維幅3nm~100nm,繊維長1µm~で,ヘミセルロースも含んでいるので懸濁液は粘性があることが特徴である.

 杉セルロースナノファイバーは食品用途ではないが,サンプル提供先からは触っても大丈夫か?ほか安全性に関する問い合わせが多く寄せられた.各種の安全性試験を実施済みであり,遺伝子突然変異誘発性・染色体異常誘発性・皮膚一次刺激性や遅延型アレルギーによる感作性等の試験結果はいずれも陰性と判定されている.

5.今後の展望

 セルロースナノファイバーは,プラスチックの強化用途が有望視されていて,大手の製紙企業が大量生産の準備を進めようとしている.今年に入って,日本製紙が酸化触媒を使った化学処理製法でセルロースナノファイバーを製造し,おむつに適用して消臭効果を謳った製品を販売している.完全なナノファイバー化を目指し,大量生産することで価格を下げようと努力している.

 森林総研は,林野庁の「国産杉材などの新規需要創出」の方針に沿って,杉や竹などのナノセルロースの新しい用途開発に取り組み,マスクに使うフィルタや塗装材への添加で製品化の道筋が拓けてきた.小規模なプラントで,純粋なセルロースではなくヘミセルロースも含み,またサイズもnmだけでなくサブµmまで混ざっている不完全なセルロースナノファイバーではあるが,安く使えるような製品用途を目指している.ユーザの中には,nm~µmまで混ざっている方が,ミクロンサイズのものがアンカー効果を生じて強くなるので良い,という要望もある.繊維をほぐすのに化学的処理だけではサイズ調整が難しいが,機械処理だと調整できる.表面は酸化されてないので,酸素に対して強い点も差別化できる要素と考えている.

 中山間地の杉林オーナー,竹林オーナーを始め地方の中小事業者に,小規模な設備でこんな製品ができますよと実際に示すことで,林業の活性化,地方創生に寄与できればと考えている.そのために,青森県や群馬県はじめ地方の工業センターとも交流し,その地域の生産者ネットワークに入り込んで,杉ナノセルロースファイバーの新規事業のビジョンを示す活動もしている.「森林総研として,どこまで足を踏み込むべきか考えてしまう所もあるが,今は何とか地方の中小事業者によるセルロースナノファイバーの新規事業立ち上げまで協力して取り組みたい.」と林氏は意気込みを語った.

6.おわりに

 NanotechJapan Bulletinの「ナノイノベーション企画特集」でもたびたび紹介してきたように,セルロースナノファイバーの研究開発が盛んに行われている.その中には,石油資源枯渇への対策から始まったものもある.これに対し,森林総研でのセルロースナノファイバーの研究開発は林産資源の活用から始まった.技術的には酵素処理という農学分野で培われた技術が活用されている.このため,セルロースナノファイバーの食品応用の道も開けた.林産地でのセルロースナノファイバーの製造も可能な技術として地方創成にも役立てたい.農工連携での開発も進んでいる.特徴ある技術を活かした分野融合が,生活を豊かにするセルロースナノファイバーの研究開発を促進することを期待したい.

参考文献

[1] nano tech大賞 2016:http://www.nanotechexpo.jp/main/award2016.html
[2] 森林総合研究所ホームページ:http://www.ffpri.affrc.go.jp/
[3] 林徳子,“セルロースを解(ほぐ)して利用するナノセルロース”,季刊森林総研,Vol.25, pp.7-9 (2014)
[4] 林徳子,下川知子,渋谷源,野尻昌信,真柄謙吾,池田努,戸川英二,久保智史,“環境にやさしいセルロースナノファイバー製造技術 -叩き潰さずにほぐします-”,森林総合研究所 平成27年版 研究成果選集,pp.34-35 (2015)
[5] “竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術を開発 ~セルロースナノファイバーが拓く新素材の可能性~ 中越パルプ工業株式会社 開発本部開発部 上級技師 田中裕之氏に聞く”,Nanotech Japan Bulletin Vol.8, No.4 (2015) https://www.nanonet.go.jp/ntjb_pdf/nanoInnov-36.pdf
[6] “非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発 ~石油涸渇に備え,草木からプラスチックをつくる一貫プロセス開発で新産業創設へ~ NEDO プロジェクトリーダー 前一廣 京都大学教授に聞く”,Nanotech Japan Bulletin Vol.8, No.5 (2015) https://www.nanonet.go.jp/ntjb_pdf/nanoInnov-38.pdf
[7] “ナノファイバーの量産技術 株式会社ゼタ 副社長 谷岡明彦氏に聞く”, Nanotech Japan Bulletin Vol.8, No.6 (2015) https://www.nanonet.go.jp/ntjb_pdf/nanoInnov-39.pdf
[8] “ナノメートルサイズの微粉末を作る粉砕・分散技術 ~高分散性ナノ粒子の実現による新産業創出への貢献~ アシザワ・ファインテック株式会社 代表取締役社長 芦澤直太郎氏,開発担当 小貫次郎氏,企画室 原田香氏に聞く”,Nanotech Japan Bulletin Vol.8, No.1 (2015)
https://www.nanonet.go.jp/ntjb_pdf/nanoInnov-29.pdf
[9] Noriko Hayashi, Tetsuo Kondo and Mitsuro Ishihara, “Enzymatically produced nano-ordered short elements containing cellulose Iβ crystalline domains”, Carbohydrate Polymers, Vol.61, pp.191-197 (2005)
[10] 林徳子,渋谷源,野尻昌信,“酵素加水分解時の微結晶セルロースの表面変化”,木材学会誌,Vol.56, No.6, pp.374-381 (2010)
[11] “バイオリファイナリーによる竹資源活用に向けた技術開発”,森林総合研究所(2014)
http://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/koufu-pro/documents/seikasyu57.pdf
[12] 下川知子,池田努,真柄謙吾,大塚祐一郎,中村雅哉,戸川英二,菱川裕香子,林徳子,小川睦美,高尾哲也,中山榮子,“タケパルプからの酵素反応とビーズミルを用いたセルロースナノファイバー製造”第11回バイオマス科学会議,P-41 (2016)
[13] “物理処理と酵素処理を併用した木質材料由来ナノファイバーの食品等への応用”森林総合研究所
http://www.shinshu-u.ac.jp/institution/icst/nanoagri/research/research12.html
[14] “工学との連携による農林水産物由来の物質を用いた高機能性素材等の開発”,信州大学,ナノアグリ研究拠点
http://www.shinshu-u.ac.jp/institution/icst/nanoagri/
[15] European Food Safety Authority, “Reasoned opinion on the review of the existing maximum residue levels (MRLs) for anthraquinone according to Article 12 of Regulation (EC) No 396/2005”, EFSA Journal, 10(6):2761(2012)
[16] “「新規木材需要創出事業のうちセルロースナノファイバー製造技術実証事業」について”,林野庁(2015年)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/supply/hojyo/27koubo_1/cnf.html
[17]野尻昌信,“スギ林地残材の有効活用に向けて-木質バイオエタノール製造実証試験報告-”,山林,第1555号,pp.26-35 (2013)

 本文中の図は,全て森林総研より提供されたものである.

(尾島 正啓)

 

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