NanotechJapan Bulletin

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<第51回>
高品質で安価なカーボンナノチューブの生産 ~「基礎研究」の「工業化」を仲立ちするベンチャー企業~
株式会社名城ナノカーボン 橋本 剛氏に聞く

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 カーボンナノチューブ(CNT)は,発見[1]されてから25年,その画期的製造技術が開発[2]されてから12年が経とうとしているが,本格的応用(産業化)には至っていない.その主たる原因は,CNTの大量生産が難しくかつ高い合成コストにあると考えられてきた.しかし,ここにきてプラスチックとの複合材,リチウムイオン電池電極への添加剤,透明電極材等として,海外では数10トン/年の合成プラントが稼働し[3],日本においても(株)名城ナノカーボンと日本ゼオン(株)がCNTの量産化に乗り出した[4][5].(株)名城ナノカーボンは,ベンチャー企業としての研究開発成果である「高品質で安価なカーボンナノチューブの生産技術と関連する製品」を,2016年1月27日~29日に東京ビッグサイトで開催された国際ナノテクノロジー総合展・技術会議に出展し,nano tech大賞2016のグリーンナノテクノロジー賞を受賞した[6].受賞理由は「高品質で安価なカーボンナノチューブの生産に成功,これを使ったキャパシタも開発するなど,サステナブル社会実現に向けた研究を進めている点を賞す.」である.そこで,名古屋市守山区下志段味・サイエンス交流プラザ内の名城ナノカーボン本社を訪ね,代表取締役 橋本 剛(はしもと たけし)氏に,上記技術内容,ベンチャー企業としてのこれまでの展開,今後の展望などについてお伺いした.

 

1.名城ナノカーボン[7]:CNT合成から分散・分離・インク化の川上技術でCNT市場拡大に貢献するベンチャー企業

 2005年に設立された名城大学発のベンチャー企業である「名城ナノカーボン」[8]は,技術的には同大学終身教授(NEC特別主席研究員,国立研究開発法人産業技術総合研究所名誉フェロー)の飯島澄男氏による1991年のCNT発見[1]につながるサンプル(アーク放電で作製したカーボン堆積物)を提供した同大学名誉教授安藤義則氏[9]の流れをくむ.設立以来蓄積してきた技術・ノウハウを発揮し,高品質のカーボンナノチューブおよびその関連製品を公的機関や民間企業の研究部門に提供することにより,CNT市場の拡大に貢献している.設立以来のアーク放電法[10]に加え,国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)開発の改良直噴熱分解合成法(eDIPS法:enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis method)[11]による単層CNT(以下SWNT)の工業生産プラントが2015年に本格稼働[4],加えて,独自に確立した分散技術で他社との差別化を図っている.

 名城ナノカーボンが現在保有している技術は,①高品質SWNT製造技術,②合成されたSWNTの精製技術,③SWNTを液中に分散させる技術,④金属型と半導体型SWNTとを分離する技術,⑤SWNTを薄く塗布する技術,⑥植物由来原料からMWNTを合成する技術等々と幅広い.そして,これ等修得・開発した技術を駆使して,大学や研究機関等における基礎研究成果を社会が求める製品のプロトタイプに仕上げること,即ち「基礎研究成果を工業化に結びつける仲立ち」をミッションとしている.

 会社の現状は,資本金:4,780万円,従業員:9名(取締役3名,正社員2名,パート4名),売上高:5,000万円/年~1億円/年であり,nano tech 2016 グリーンナノテクノロジー賞の他に,Japan Venture Award 2011 大学発ベンチャー特別賞を受賞している.

2.CNTとその特性および期待される用途

2.1 CNTの構造,CNTの種類

 CNTは,図1上に示すように炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質で,単層のものをシングルウォールナノチューブ(SWNT),二層のものをダブルウォールナノチューブ(DWNT),多層のものをマルチウォールナノチューブ(MWNT)と言う.また,図1下に示すように,SWNTはその巻き方によって,アームチェアー型,ジグザグ型,らせん(カイラル)型の形態をとり性質も異なる.アームチェアー型は金属的性質,ジグザグ型とらせん型は金属的性質と半導体的性質が混在する.

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図1 CNTの代表的な構造:巻き方によって異なるSWNTの構造([12]をもとに作成)

2.2 CNTの特徴とその産業化について

 CNT発見[1]以来の諸研究により,CNTは下記のような優れた特性を持っていることが明らかにされている(表1).

表1 CNTの特性
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 このような優れた特性から,21世紀におけるナノテクノロジーの中核となる基盤材料として期待されていたが,最近になって日本でもようやく大型プラントが生産を開始するなど産業化の動きがでている.また,これにつれてアプリケーション開発についても積極的な動きが見られ,“CNT市場は第三次成長期に突入した”とも言われている[13].

2.3 用途開拓:名城ナノカーボンが目指すもの

 名城ナノカーボンは,CNT(主としてSWNT)の①製造技術,②精製技術,③分散技術,④金属型,半導体型SWNTを分離技術,⑤塗布技術,等一連のいわゆる“CNTそのものに係る技術”を持っている.これ等は,大学や研究機関から受け継ぎ又は連携して開発したものであるが,このような技術を背景にして,コンサルティングに応じるなどして,顧客のアプリケーション開発に協力している.また,顧客の用途開発に資することを目的に,下記のような“CNTの応用に係る製品”を供給している.1)CNT分散液 ①eDIPS INK ②BlueMetal INK ③RedSemicon INK ④導電性ペースト 2)中間分散体MEIJO eDIPS-L 3)金属型CNT(品名:BlueMetal) 4)半導体型CNT(品名:RedSemicon) 5)CNT Coatdish 6)MEIJO eDIPS-YARN,等々.これらを通じて,『CNTに係る「基礎研究」の「工業化」を仲立ちするベンチャー企業の使命』を果たすことを目指している.

3.名城ナノカーボンのCNT合成技術と名城CNTの特徴

 CNTの合成方法には,アーク放電法,レーザーアブレーション法,CVD法等があるが,名城ナノカーボンはアーク放電法およびCVD法を採用している.以下にその技術内容および特徴を紹介する.

3.1 アーク放電法:ベンチャー設立の礎となった技術,高品質だが量産性なく高価

 採用しているアーク放電法は,安藤義則氏により開発されたFH-arc法と呼ばれる独自のSWNT合成法[10]であり,名城ナノカーボン設立の礎となった技術である註1).図2にアーク放電法の仕組み(図のa)と,SWNTの生成状況(図のb),得られたSWNTの外観(図のc)および電子顕微鏡写真(図のd)を示す.

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図2 SWNTの合成:アーク放電法

 反応容器内に陰極と陽極を上下に2mm程度の間隔で対向させる.陰極はグラファイト,陽極はFe 1mol%を含むグラファイトでできている.反応容器内をH2とArの混合ガスで満たし,減圧にする.このような状況に於いて陰極-陽極間でアーク放電をさせると,陽極が蒸発し,高温のプラズマ中にFeの微粒子とC(カーボン)が昇華し,Feの微粒子を触媒としてその表面にCが単結晶として析出しSWNTが成長する(図2(a)).成長したSWNTは対流で上昇しこれが集まりネット状に析出する(図2(b)).

 このアーク放電法の特徴は,

①径の揃った結晶性の良いSWNTが得られる(アークは急峻な温度勾配を持っており,SWNT合成される温度領域は狭く,陽極から蒸発したCとFe触媒がこの生成領域に止まる時間は短い.従って,SWNT以外に余分なものを生成する時間がなくSWNTのみが優先的に成長すると考えられている.)

②良質の金属型SWNTと半導体型SWNTの混合物が得られる.

③グラファイト中にFe触媒を混入する手法が難しく高価な電極となり従って製造コストが高くかつ製造効率が低く産業化には問題を残している.

④生成したSWNTはアモルファスカーボンおよび触媒を含んでいる(しかし,アモルファスカーボンはSWNTとの酸化・燃焼性の違いを利用して空気中加熱でCO又はCO2に変換して除去できる.また触媒は酸で溶解して比較的簡単に除去できる).

註1)橋本氏と(株)名城ナノカーボン設立経緯:橋本氏は文系大学出身で銀行員だが,ナノテクでベンチャーを興す夢を持っていた.「名城大学にCNTで著名な飯島先生と安藤先生が居られることを知り,安藤先生の所に飛び込んだ.小さじ一杯のCNTが喜ばれる当時,アーク放電法で高品質のCNTがやすやすと合成できる状況を見て,このCNTを大学や企業の研究機関に供給し,アプリケーション開拓に役立つ仕事をしたいと思い,その旨を安藤先生に申し出て,ご承諾を頂いた.それから銀行を辞め,昼間は時間の都合のつく別の仕事をし,夜は安藤研究室で勉強・研究することを2年間続け,2005年に名城ナノカーボンを設立した.技術を他人まかせにするのではなく,自分でなんでもやった.やればできるのでのめり込み,土,日,月,火でCNTを造り,残りの日は営業に注力した.」と橋本氏は語った.氏は今やCNTの合成,分散,分離技術などの特許を出願・保有する技術者であり経営者でもある.

 

3.2 eDIPS(enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis method)法

 eDIPS法[11]は,産総研の斎藤毅氏の開発したSWNT合成法であるが,その工業化を目的に,名城ナノカーボンが独自技術を組み合わせ,製造効率を100倍にしている[4].

 eDIPS法は,図3上に示すように2種類の分解温度の異なる炭素源を用いて気相流動法によりSWNT合成する手法である.縦型の電気炉に囲まれた反応管の上部のノズルから有機金属触媒を混入した第一の炭素源(有機溶剤)をキャリアガス水素(H2)で噴霧状にして供給する.同時に,第二の炭素源(炭化水素ガス)を第一の炭素源と混合するように供給する.反応管上部で有機金属触媒が分解し金属微粒子が生成し浮遊しながら沈降する.CNT生成ゾーンに到達すると,触媒である金属微粒子表面に炭化水素が分解して生じたCが析出しSWNTが長さ方向に急速に成長する.その後,太さ方向へ成長しようとするが,1000℃以上の成長領域での浮遊時間を2~3秒の短時間に制御し太さ方向への成長を防ぐ.反応管下部に結晶性の良い,1~2nm径で長さ数10µmのSWNTが綿状に堆積する(図4).SWNTを限られた空間で短時間に成長させ,余分なものが生成しないようにすることは,アーク放電法と共通している.

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図3 SWNTの合成:eDIPS(enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis method)法


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図4 開発した工業生産プラントで合成したSWNTの塊(左,比較はスマートフォン)と
シート状(直径15cm)に加工した高純度(99%以上)の単層カーボンナノチューブ(右)

 量産化対応のeDIPS法への改良点は,触媒の入った第一の炭素源である有機溶剤の噴霧の拡がりと生成する金属微粒子の径や,有機溶剤と炭化水素ガスの密度,および雰囲気圧力等々の最適化である.これにより従来の品質を保ったまま合成速度を100倍化でき,アーク放電法で30万円/gであったものを3万円/gとコストを1/10化できている.現在は図3下に示すようような装置4台が稼働しているが,今後はさらに大型化し生産能率をさらに向上して1万円/g以下を目指しているとのことである.

 現在,このようにしてつくられたSWNTが名城ナノカーボンの主力製品であり“MEIJO eDIPS”と名付けて販売している.以下この製品の特性を紹介する.

 得られたSWNTは,

①高結晶性である(ラマン分光法と透過型電子顕微鏡観察による評価):ラマン分光法による品質評価の基準であるG/D比註2)(数字が高い程,品質の良さを示す)が,市販品が10~20程度であるのに対し,MEIJO eDIPSでは100以上である(図5).これは欠陥が少なく,結晶性が高いことを示している.また,透過型電子顕微鏡による観察からも確認されている.

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図5 ラマン分光(レーザー波長532nm)

②高純度である(熱重量測定による評価として純度99%以上):乾燥空気中で加熱すると500~600℃で燃焼が始まり重量が減少していく.燃え残った不純物の触媒などの残渣が1%未満であり,純度としては99%以上を実現している(図6).

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図6 熱重量測定(乾燥空気中)

③直径(ラマン分光法による評価):ラマン分光法によりRBM註3)を測定したところ,その振動数から直径1.5nm程度(RBM:160~180cm-1)のSWNTであることが確認できる.

註2)G/D比:CNTのラマン分光で観測されるCNTのグラファイト構造における面内の伸縮振動に起因するラマンバンドであるGバンドと,欠陥に由来するDバンドの強度比をG/D比という.CNTの品質を表す客観性の高い指標としてしばしば用いられる.

註3)RBM:ラディアルブリージングモード(radial breathing mode:RBM)と呼ばれるカーボンナノチューブ固有の振動で,ラマン分光法で測定できる.カーボンナノチューブが直径方向に伸縮する振動である.この振動数はカーボンナノチューブの直径の逆数に比例するため直径の見積もりにしばしば用いられる.

 

3.3 CVD法: 原料は植物由来の樟脳,サステナブル社会実現に貢献

 NEDOの事業(H22~H24年度)で,CNTを利用した積層型キャパシタが開発された[14].CNTに係る部分は名城ナノカーボンが,キャパシタに係る部分はスペースリンク株式会社が担当する共同開発である.名城ナノカーボンは,直径100mmの管状炉内に水素ガスで植物由来の樟脳を原料とするナフタレン系溶液をミスト状に噴霧供給し,SWNTを連続的に回収する技術を開発した.純度は90%以上,ラマン分光によるG/D比70以上の高品質なSWNTが得られた.

 このSWNTを用いて,キャパシタ1層(電極2枚,セパレータ1枚の単一セル)当たり5Vの動作電圧を可能とし,12層に積層することで60Vの耐圧を実現した.また,5セル直列モデルで1万回サイクルで,充放電損失2%以下を達成している.さらに,家庭用・事業用蓄電システムへの応用として,耐圧300V以上,静電容量1,200F以上のものを実現できる見通しを得ている.

 これまで石油由来であったCNTの製造を,植物由来原料(樟脳,Camphor)を活用することで,地球に優しいCNTを産み出せるところに期待が持てる.

4.商品展開

4.1 高品質SWNT:MEIJO eDIPS

 eDIPS法で作製されたSWNT“MEIJO eDIPS”は結晶性が良く長さ数10µmで,径も触媒の析出の仕方をコントロールすることにより1~2nmの間に制御可能である.製品としては,図4に示す綿状又はシート状のもので,炭素純度>90%で直径が1±0.8nm,1.5±0.8nm,2±0.8nmのものを品揃えしている.名城ナノカーボンの現在のメインの商品である.結晶性が良くかつ長いことは電導度の向上をもたらす.図7は,このことを示したものである.図7左は,バインダー20%を含む塗布膜でのSWNT(MEIJO-eDIPS)の体積抵抗率を,グラフェン,カーボンブラック,MWNTのそれと比較したものである.SWNT(MEIJO-eDIPS)の導電率は他のもの比べて100~1000倍良好である.図7右は,バインダーを用いないSWNT100%でできたSWNT(MEIJO-eDIPS)シートの堆積抵抗率を他社のSWNTのそれと比べたもので,SWNT(MEIJO-eDIPS)の導電率が10~100倍良いことを示している.

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図7 SWNT(MEIJO eDIPS)塗布膜およびシートの導電率

4.2 SWNT分散中間体,導電ペースト,分散液:ユーザーの使い勝手を向上

 SWNTは結晶性が良いほど強力なバンドルを形成して分散が難しい.また,アスペクト比が大きくなればなるほど立体的な絡みは多くなり分散しにくい.これが,SWNTのユーザーにとって大きな問題である.名城ナノカーボンは独自の分散剤や分散手法を開発し[15],分散し易いSWNTやSWNT分散液を顧客に供給している.

 “MEIJO eDIPS-L”は,専用の分散機を用いず,既存の撹拌機で分散できる分散性に優れたSWNTである(分散の中間体である.綿っぽいものを粉っぽいもの(図8左)にしたもの).例えば,電池メーカは,これを水又はNMP(ノルマルメチルピロリドン)に加え通常の撹拌機で分散することによって導電ペースト(図8右)をつくることができる.さらにこれを,通常のレシピで造った電極材スラリーに,SWNTが0.1~0.3%加わるように添加することによって電池特性(容量,レート特性,サイクル寿命)を大幅に向上することができる.SWNTが,優れた導電助材として作用し,さらに充放電に伴う電極活物質の膨張収縮を吸収するからである.また,SWNTは膜保持力が強いため,既存のバインダーを減らすことができる.今,中国や韓国の電池メーカはリチウムイオン電池の導電助材として大量のMWNTを使用している.名城ナノカーボンのSWNTは,MWNTより導電性が良くかつアスペクト比が大きく,膜保持力が強いので,この用途には適しており,日本の電池メーカが積極的に採用し,電池の国際競争力を高めることが期待される.

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図8 “MEIJO eDIPS-L”(左:分散の中間体.粉っぽい)および導電ペースト(右:塗布膜は10-3Ω・cm)

4.3 金属型SWNT,半導体型SWNT

 半導体としての応用は最も期待されるところであるが,金属型SWNTと半導体型SWNTを簡単に造り分ける技術はまだ開発されていない.これができるとマーケットも一気に広がると期待されるが,現状は,両者の密度や吸着特性の僅かな違いを利用して,両者の混合物を分離することが行われている.具体的には,ゲル分離と密度勾配遠心分離法がある.名城ナノカーボンは首都大学東京准教授の柳和宏氏との共同研究によって密度勾配遠心法を活用した事業化を進め[16]註4),高品質の金属型SWNT,半導体型SWNTの分散液,およびこれらを抄いて紙状にしたものを商品化している(図9).(商品化しているのは,名城ナノカーボンと米国ベンチャー企業の2社のみ.)

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図9 金属型および半導体型SWNTの分散液とこれを抄いて紙状にしたもの
(左)金属型SWNT,(右)半導体型SWNT
(SWNTはそれぞれ直径1.4nm,炭素純度>99%,分散液の溶媒は水,SWNT濃度1mg/10ml)

註4)金属型SWNTと半導体SWNTの混ざったものを,金属型と半導体型では異なる凝集形態を形成する界面活性剤の液に分散させ,そこで生じる密度差を利用して両者を遠心分離する手法.

 

4.4 CNTコートディッシュ:低血清培地において効果的な細胞培養ディッシュを実現

 CNTコートディッシュは,ポリスチレンディッシュにSWNTをバインダーを用いることなくコートしたものである(図10).カーボンとタンパク質とのなじみが良く,細胞培養の良い足場材になると考え,北海道大学准教授の赤坂司氏と共同開発した[17].

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図10 SWNTコートディッシュ(左)とディッシュ底面のSEM像(×3万倍)

 SWNTをエタノールに分散し,それを直径60mmのポリスチレン製ペトリディッシュ(以下PSディッシュ)に滴下し底全面に行き渡らせた後乾燥する.滴下,乾燥を必要回数繰り返すと言った単純な製法であるが,バインダーを用いることなく行うにはそれなりのノウハウを要するとのことである.

 このディッシュに,低血清の培養液を加え,次いでSaOs-2(ヒト骨肉種由来の骨芽細胞様細胞)を1×104セル/ディッシュとなるように播種し,37℃,5%CO2条件下で2週間培養する(培養液は2日毎に交換).細胞培養容器としては,上記の方法で作製したSWNT10ディッシュ(滴下,乾燥を10回繰り返したもの),SWNT100ディッシュの他,比較のためにPSディッシュ(SWNT膜を形成していないもの)およびCulture PSディッシュの他,高細胞接着性PSディッシュ(Cell-Bind),コラーゲンコートPSディッシュおよびポリリジンコートPSディッシュを使用した.培養試験終了後,培養面積1cm2当たりのセル数を算出した.その結果を,図11に示す.SWNT10ディッシュ,SWNT100ディッシュが他に比べて優れていることが分かる.また,このSWNTを用いたディッシュでは,SWNTが足場材として優れた性能を示すと共に,他と違って導電性であり,この機能を活用する新しい応用展開が期待される.

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図11 SWNTコートディッシュと従来ディッシュとの性能比較

5.今後の課題と将来展望

 インタビューの最後に橋本氏は,「産総研と共に開発したeDIPS法で,需要先にある程度の量をタイムリーに供給できるようになった.しかし,これから立ち上がるであろう本格的市場要求に応えるためには,高品質のSWNTをもっと安価(数100円/g)に供給可能にすることが課題である.そこで,多量のSWNTが要求される本格的産業化に備えては,資本力のある企業と協業することによって対処したい.一方,名城ナノカーボンは,これまで同様,カーボンナノチューブの販売を進めていく中で,ユーザの求めるCNTそのものの先端技術および高付加価値応用製品の開発に,ベンチャーとして身軽にこれからも注力したい.カーボンナノチューブを利用した革新的アプリケーション創出のお手伝いが,名城ナノカーボンの使命だと考えている.」と述べられた.

6.おわりに

 2005年の名城ナノカーボン設立から今日までの数々の特徴ある技術・製品開発をお聞きし,ベンチャーならではの醍醐味に共感すると共に,ベンチャーであるがための数々の困難に遭遇しそれを一つ一つ克服されてきた言外のご苦労を推察できたインタビューであった.SWNTならではの画期的応用先の開発にこれからも力点を置かれる方針であるが,橋本氏がそうであったような青雲の志を持った若者が現れ,最先端技術・商品開発においても新たなパートナを組み,共にこれからも最先端を走って下さることを祈念する.

参考文献

 本文中の図表は,橋本 剛氏より提供されたものである.

[1] S. Iijima, "Helical microtubules of graphitic carbon", Nature, Vol. 354, No. 6348, pp. 56-58 (1991)
[2] 畠賢治,飯島澄男,湯村守雄,ドン フタバ エヌ(産業技術総合研究所):「単層カーボンナノチューブおよび配向単層カーボンナノチューブ・バルク構造体ならびにそれらの製造方法・装置および用途」,特許4621896(国際公開日2006.2.2)
産業技術総合研究所プレスリリース:「単層カーボンナノチューブの安価な大量合成法を開発-高純度の単層カーボンナノチューブの量産に弾み-」
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20070207/pr20070207.html
[3] 例えば OCSiAl:http://ocsial.com/ja/
[4] 産業技術総合研究所プレスリリース:「単層カーボンナノチューブの量産技術を開発 -産総研発ナノテクノロジーの研究成果を社会に還元 -」
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2013/pr20131224/pr20131224.html
[5] 産業技術総合研究所プレスリリース:「世界初 スーパーグロース・カーボンナノチューブの量産工場が稼働-日本ゼオン(株)が量産開始へ-」
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20151104/pr20151104.html
ゼオンナノテクノロジー HP:http://www.zeonnanotech.jp/index.html
[6] nano tech大賞2016,グリーンナノテクノロジー賞:
http://www.nanotechexpo.jp/main/award2016.html
[7] 名城ナノカーボン HP:http://www.meijo-nano.com/
[8] 文部科学省プレスリリース 地域科学技術振興施策 「カーボンナノチューブ発祥の地からベンチャー企業が誕生」
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/chiiki/press/nagoya/2005042501.htm
[9] ネットあいち産業情報「科学技術は今(20)」
http://www.aibsc.jp/sj/200510/business/kagaku/index.shtml
[10] 安藤義則,趙新洛,井上栄, 鈴木智子(科学技術振興機構),「単層カーボンナノチューブの製造法」,特許 3650076(公開日2003.10.2)
[11] 産業技術総合研究所プレスリリース:「単層カーボンナノチューブで高強度繊維の紡糸に成功」
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2006/pr20060511/pr20060511.html
[12]「カーボンナノチューブ技術の発掘と応用機能開拓への挑戦 地球・エネルギー問題への貢献」,NanotechJapan Bulletin Vol.2, No.2(2009)
https://www.nanonet.go.jp/ntjb_pdf/GN-09.pdf
[13] 矢野経済調査報告,「2015年版 カーボンナノチューブ市場の現状と将来展望」
http://www.yano.co.jp/market_reports/printMr.phpindex.htmlmr_code=C57103400
[14] NEDO成果報告:「CNTを利用した積層型キャパシタの開発」
http://www.nedo.go.jp/library/seika/shosai_201504/20150000000020.html
[15] 橋本剛(名城ナノカーボン),「カーボンナノチューブ分散液,及びその利用」,特許4635103 (国際公開日2009.8.13),US 20100330358 A1
[16] 柳和宏(公立大学法人首都大学東京),橋本剛(株式会社名城ナノカーボン),「金属型および半導体型単層カーボンナノチューブの分離法」,特許5498195(公開日:2011.8.25)
柳和宏(公立大学法人首都大学東京),橋本剛(株式会社名城ナノカーボン),「カーボンナノチューブ直径分離法」,特許5481175(公開日:2011.6.9)
[17] 橋本剛(名城ナノカーボン),赤坂司(北海道大学),横山敦郎(北海道大学),亘理文夫(北海道大学),「細胞培養容器およびその製造方法」,特許5327936(国際公開日:2009.7.2),US9217130B2

(真辺 俊勝)

 

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