NanotechJapan Bulletin

 メニュー
      


<第6回>
バイオテンプレートを用いた新微細加工技術
バイオテンプレート研究会 鎌田 香織氏に聞く

LifeAndGreen.jpg

 

portrait-caption.jpg

 2013年1月30日?2月1に開催されたnano tech 2013国際ナノテクノロジー総合展では,Life & Green Nanotechnologyが展示会テーマとして掲げられ,21世紀における世界共通課題である地球環境問題やエネルギー問題へのソリューション,そして人々の生活向上への貢献を目標とするナノテクノロジーが競いあった.その最終日に,総合展を代表する優れた展示の表彰式があり,バイオテンプレート研究会の「バイオテンプレートを用いた新微細加工技術」が,微細加工部門賞を授賞された.授賞理由は「微細で複雑な構造の微生物そのものを鋳型(テンプレート)に用いて電子部品を作る技術を開発している.従来の微細加工技術の一部を新技術と置き換えることで大幅な省エネを実現しょうとしていることを賞す.」とのことであった.

 20世紀の後半,半導体技術は光リソグラフィー技術の進化により微細化を続けてきた.しかし微細化の進展と共に,膨大な設備投資が必要になり,開発の困難性も高まってきており,従来技術の延長的微細化の追求から,新しいアプリケーションに向けて集積化技術の新展開が議論されるようになってきている.こうした動向の中で,バイオテンプレートの発想に基づき,社会ニーズに応える新しい技術領域を創出する可能性を秘めた技術の苗が育ちつつある.

 生物の形態をテンプレートとして微小構造を量産し,新たな物性を発現することを目的として設立されたバイオテンプレート研究会の鎌田 香織(かまた かおり)氏(東京工業大学フロンティア研究機構 ERATO彌田超集積材料プロジェクト バイオテンプレートグループ グループリーダ,特任准教授)を東京工業大学すずかけ台キャンパスに訪ね,研究開発中のバイオテンプレートを用いた新微細加工技術について伺った.

 

1.ERATO彌田超集積材料プロジェクトとバイオテンプレート

 ERATO彌田超集積材料プロジェクトの表記のある入口の扉をあけると実験室の広い空間が開け,その脇にある居室で,鎌田氏の話を伺った.

 バイオテンプレートの研究は独立行政法人 科学技術振興機構(JST)ERATO彌田プロジェクトのなかで進められている.

*:ERATOは1981年 創造科学技術推進事業(ERATO)として発足(当時 新技術開発事業団)し,2002年 戦略的創造研究推進事業 ERATOプログラムとして再編成されており,科学技術イノベーションの創出につながる,社会・産業ニーズに対応した新技術を創出することを目的としており,優れた研究リーダー(研究総括)の下で研究拠点を設け機関・分野を超えた幅広い人材を揃えて課題解決型基礎研究を推進するものである.

 東京工業大学 教授 彌田 智一(いよだ ともかず)氏を研究総括とするERATO彌田超集積材料プロジェクトの狙いは,「テンプレート(鋳型)を利用することで,各構成成分の精密な配置・配列を実現し,各成分同士の相互作用を精密に制御することで,単なる成分の足し合わせ以上の性質をもつ材料(超集積材料)を創出すること」とのことである.これまでの新材料開発手法である既に発見されている材料の周辺探索や最適化による新材料や,ハイブリッド材料のように異なる物質の性質を併せ持つ程度の複合機能材料と異なり,新たな機能・性能を創出する新しい材料科学の分野を創成することを本プロジェクトの目標としている.活動期間は平成23年度から平成28年度末までとなっている.

 このプロジェクトはテンプレートの活用を基盤においており,テンンプレートのサイズはナノメータレベルからミリメータレベルまで様々である.プロジェクトは扱うテンプレートの技術に対応して,当初は2グループであったが,平成24年度から次表の4グループで構成されている.この時からバイオテンプレートグループがプロジェクトの一員となった.

表 ERATO彌田超集積材料プロジェクトを形成する4グループ
Table.jpg

 

 バイオテンプレートの呼び名は,自然界の3次元ナノ・マイクロ構造をそのまま鋳型として拝借して,材料作製に応用することから来ている.植物や微生物は非常に機能的な構造をもち,またバラエティーに富んでおり,未だ人工系では作製困難な3次元的な規則構造が多く見られる.通常,材料科学の研究は,光学的,電気的,磁気的あるいは力学的な機能の発現を目的として,最適な分子・高分子やその組織化構造を設計する.従って,材料科学者が自然界のナノ・マイクロ構造をみると,普段とは逆に,様々な使い道が思い浮かぶ.「バイオテンプレートグループは,目的の構造を作製するまでは自然の力に頼り,そこからの材料開発を目指している」と,鎌田氏は語る.

2.バイオテンプレートの研究の始まり [1]

 鎌田氏の下でのバイオテンプレートの研究の始まりは,学生がキャンパスの生け垣の葉っぱを裂いて,SEM観察したことがきっかけとのことである.平成16年春のことであった.葉の組織の中で,水を輸送する維管束の管を観察していたところ,その管壁に螺旋構造があることに気付いた(図1a).調べてみると,維管束螺旋紋とよばれる細胞からなる結晶性セルロースの非常にしなやかな繊維であることがわかった(図1b).螺旋の直径は数十µm?100µmである.これを他の組織から単離して,表面にめっき金属を修飾することができたなら,微小なコイルを作製できると考えた(図1c).

Fig01.jpg
図1 植物から抽出した維管束螺旋紋をメタル化して金属コイルに (提供:鎌田氏)

 

 しかし,一般に植物の組織からからこのコイルだけを単離するのが難しく,いろいろ調べていくうちに,蓮根の白い糸が見つかった.蓮根の白い糸は7~8本の繊維が多重化して全体が左巻の螺旋形状をしている(図2)(図3).今まで行っていた単離するために組織を潰して酸やアルカリで処理したりする面倒なプロセスがなくなり,実験を加速することができた.直径は約50µm,ピッチは伸びちぢみするが,50~100µmで,弾性がある.塑性変形するくらい伸ばしても水につけると元の安定した状態に戻る性質があるので,実験ではこの状態にしてピッチを揃えて使った.材質は結晶性のセルロースである.タイなどではこの繊維を紡いで蓮糸という糸として,民芸品の茣蓙とか高級衣服の素材にしている.

 

Fig02.jpg
図2 蓮根の白い糸 (提供:鎌田氏)


Fig03.jpg

図3 蓮根の白い糸の螺旋構造に銀コーティング(700nm厚)したもの
(提供:鎌田氏)

 

 ここでテンプレート素材としてこの白い糸の活用について考えた.電子回路のインダクターとしてのコイルを想定し,白い糸のコイルに無電解メッキで銀をコーティングし,シリコン基板上に両端を銀ペーストで固定したものを作った(図4左).4端子法でプローブ間の長さを変えて測った抵抗は図4右に示す通りで,その勾配から抵抗率は(3.5±1.0)×10-6Ωcmであり,バルクの銀と同等であることが分かる.

 

Fig04.jpg
図4 銀メッキし銀ペーストで固定したサンプル(左)と4端子法で図った抵抗率(右)
(提供:鎌田氏)

 

 一般にコイルのイダクタンスLは次式で表される.

   Formula.jpg

ここで,D:直径,l:長さ,N:巻き数,μ0:真空透磁率,K:長岡係数
この式からバイオテンプレートのコイルのLの値は極めて小さくなると想定され,超微小な磁化率を測定する装置のチャンバーに図4の回路を入れて,コイルに±10mAの電流を流して測定した磁化率の値から求めたコイルのインダクタンスは20?70pHであった.これを電子回路に組み込んだ場合の図5に示す共振周波数は数十THzという極めて高い値となると考えられる.

 この研究内容については特許出願し[3],また研究結果をドイツの科学誌Advanced Materialsで発表している[2].

 

Fig05.jpg
図5 電子回路の共振周波数

3.量産可能なテンプレートの実現に向けて

 鎌田氏らは,蓮根の白い糸により植物由来の電子部品コイルとしての可能性を把握したが,サンプルの糸を取り出す効率が悪く,サイズのコントロールも難しかったので,さらに対象植物を探して,藻の一種であるスピルリナに目を付けた.スピルリナは,古来アフリカや中南米の湖に自生する熱帯性の藻類で,現地の人々の貴重な食料源として利用されてきた.高温で強いアルカリ性の水を好む特徴がある.その名前は,ラテン語の"Spira"(らせん形の:英語のSpiral)に由来する.

 バイオテンプレートの研究は,平成24年度にERATOプロジェクトの一グループとなってからは,主としてスピルリナをテンプレートとして研究を行っている.スピルリナは現在,DIC株式会社(旧大日本インキ化学工業株式会社)の関連会社のDICライフテック株式会社が中国および米国に大量の培養工場を持ち,量産されたスピルリナを乾燥し粉砕して健康食品として販売している.スピルリナの株は国立環境研究所の微生物保存株センターから有料で分けてもらえ,品種も選ぶことができる.現在食品などに用いられているスピルリナはアルスロスピラ属に分類されるもので,4種類ほどあり,形状も大きいものや長いものなどいろいろある.培養も簡単で増殖も活発であるので,バイオテンプレートグループも微生物保存株センターから株を分けてもらい実験室での培養を行っている(図6).図7はスピルリナの顕微鏡写真である.天然のスピルリナは左巻の螺旋形状をしている.しかし,鎌田グループは,突然変異で右巻きになったスピルリナを見つけ出し,ピペットで取出し,半年がかりで培養して,右巻きのスピルリナも使えるようになったとのこと.

Fig06.jpg
図6 実験室でのスピルリナの培養 (提供:鎌田氏)


Fig07.jpg

図7 スピルリナの顕微鏡写真 (提供:鎌田氏)

 

 スピルリナは培養液中に浮いているが,これをテンプレートとして使うに当たっては,生きたままでは扱い難いことがわかった.スピルリナの組織の外膜をそのままでメッキをすると外膜がはがれてしまう.そこで外膜のタンパク質を架橋によりポリマー化して固定することで,本体は死んでしまうが形状を維持したまま後の工程が可能となった.架橋はアルデヒド基を官能基とする試薬につけて行う.生物の標本作りでホルマリン漬けにするのと同じ原理である.

 この後,無電解メッキの工程に入り,先ずパラジウム(Pd)イオンの吸着・還元により表面にPdを付けた後に,これを触媒として銅メッキあるいはニッケルメッキを行い,金属化したコイルが出来上がる.メッキの厚さは0.8?1.0µmである.

 図8のA,B,Cの3つの図はあるロットの生きたスピルリナの直径,ピッチ,長さのヒストグラムである.相対標準偏差(%RSD)は10?20%で,特に長さは成長するので分散が大きくなる.メッキしたものもこの傾向はあまり変わらないが,少し分散が大きくなる.「植物であり,ある程度の分散の広がりはやむを得ない.むしろ比較的揃っているというべきであろう.この分散のあることを受け入れる,あるいは活用するアプリケーションを考えるべきかもしれない」と鎌田氏は語る.サイズは株の品種の選定や,生育条件などにより変化させることもできるという.

 なお,実験室でのメッキは20mlを1バッチとして行う.1ml中に105本のスピルリナが入っているので,かなりの量の金属マイクロコイルができる.

 

Fig08.jpg
図8 スピルリナの直径,ピッチ,長さのヒストグラム (提供:鎌田氏)

4.スピルリナを分散した機能化シートについて

4.1 スピルリナ分散シートの試作と評価

 大量のマイクロコイルができるようになったところで,これを分散させたシートを作り,新材料としての機能発現を評価することを考えた.

 まず融解したパラフィンにマイクロコイルを添加し,加熱して融解状態を保ったまま撹拌し,コイルがよく分散したところで型に流し込み,冷却してパラフィンワックスを固化して,スピルリナ分散シートを作った.シート材料としては透明のポリマーも可能であるが,蝋燭の蝋であるパラフィンは電磁波にたいしては透明であり,分散したコイルの評価がやり易い特徴を持っているので,先ずこれでシートの電磁波にたいする特性を評価した.図9はGHzスペクトロスコピーで50GHzから110GHzまでの透過率を測定した例で,分散量3wt%の場合,110GHzで透過率が3%まで減少している.

Fig09.jpg
図9 スピルリナ分散シートの電磁波透過率(50GHz~110GHz領域)
(提供:鎌田氏)

 

 右肩下がりに透過率は下がっているので,更にテラヘルツ分光・イメージング・システム(アドバンテスト社製)によりテラヘルツ領域の電磁波に対する透過率と反射率を観測した.図10に結果の一例を示す.数百GHz付近で電磁波吸収のピークがあり,分散量が3wt%の場合で周波数0.4?1.5GHzの範囲で透過率が0.1%台である.反射率も数百GHzまでに急激に低下し,より高周波側では低い値を保っている.即ちTHz領域の広い周波数帯域でこのシートは透過率と反射率を差し引いた残りの97%程度を吸収していることになる.この結果から,スピルリナを用いたバイオテンプレートフィルムが数百GHzから数THzの超高周波領域で電磁波吸収シートとして応用展開できるという道が開かれた[4][5].

 

Fig10.jpg
図10 分散量3wt%のマイクロコイルシートのテラヘルツ周波数領域(~3THz)における電磁波の透過・反射特性
(提供:鎌田氏)

4.2 アプリケーション展開を目指して

(1)バイオテンプレート研究会の活動

 上記研究結果で議論の種もできたことを契機として,バイオテンプレート研究会が発足した[6].「生き物の微細な構造を金属や半導体など様々な素材に置き換えて,かたちや配置から新機能を創造し,その学術的かつ工業的な応用展開を図ることを目的としている.研究会の活動には目的探索も含まれている.」また,この新しい分野の研究や応用分野発掘に関しては「学術・産業両サイドともにゆっくり思案でき,互いに連携する体制が自然とできあがるプラットホームとしての位置づけを目指す.」とのことである.

 代表は東工大教授 彌田 智一氏,理事として大学等学術分野から5名,企業から4名が参画しており,隔月で研究懇談会と称し,30?50名程度の小規模な講演会を行っている.毎回2?3名の講師を大学や産業界から招いて,バイオ,電波,表面加工,メッキなどいろいろな専門分野の話をいただき,分野横断型の研究会として,これまでにはない発想から展開する新しい研究の創出に役立てたいと考えている.

 電波吸収体のアプリケーションについては,理事の一人(株)新日本電波吸収体の萩野 哲氏から,大豆の莢を炭化したものを分散させた電波吸収体で,高速道路のETCの料金所で電波(5.8GHz)の混信を防ぐ防護壁が作られている,という情報もあり,「スピルリナ分散シートについても同様のアプリケーションとのマッチングのために,更に膜の特性評価のレベルを高めたい」と鎌田氏が語る.

 学術的議論については,スピルリナを利用したバイオテンプレートのグループと理事の理化学研究所の田中拓男氏が行っているDNAをテンプレートにする研究グループとの二つが中心となっている.DNAを用いた研究では,その鎖形成を利用し金微粒子による円形や線形などの連結構造を形成し,プラズモン共鳴とメタマテリアルへの応用を狙っている.


(2)金属マイクロコイル分散シートの特性の設計

 スピルリナ分散シートの特性を決める要因としてはマイクロコイルの構造・寸法,シート内への分散量,マイクロコイルの配向,シート材料の誘電率や抵抗率などがある.

a)スピルリナの構造・寸法について:
 スピルリナは光合成細菌であり,光とCO2存在下で増殖する.光の照度や培養温度によって,螺旋形状の制御も可能になってきている.1週間程度でスピルリナは倍増するので,テンプレートの生産ができる.前述の通りホルマリン処理と同じ要領で固定化することにより,構造を維持したまま保存することが可能である.研究グループは現在では形状の異なる固定サンプルを200種類以上保有しているとのこと.図11にスピルリナのマイクロ構造の例を示す.

Fig11.jpg
図11 スピルリナの各種形状 (提供:鎌田氏)

 

b)シート内への金属マイクロコイル分散量と特性:
 分散量を変化させた場合の透過特性の変化については,分散密度が高まると,コイル間の距離が接近し,相互干渉が大きくなるためか,周波数変化に敏感に特性が変動するようになり,同時に吸収率が高まる特性を示す.

c)金属マイクロコイルの配向制御について:
 金属マイクロコイルの分散シート内の配向制御については,磁場配向や流体場などの手法を駆使して,検討を進めている.配向に応じた電波応答依存性などの学術的な検証を行い,より高感度な(あるいは感度調整可能な)電波吸収体としての応用を視野に入れた研究を進めているとのことである.

*:初期段階の研究成果を第59回応用物理学関連連合講演会に発表している[7].この実験では,コイル分散液を型に流し込んだ後,ステンレス板で分散液を掻いてコイルを基板にたいして水平に配向させている.この水平配向シートを配向方向に対して垂直に切断し,切断したシートを基板に対して垂直に立てて接着して,垂直配向コイル分散パラフィンシートを作製した.この水平および垂直配向シートを用いて,電磁波の電場の方向に対して水平(E配置と呼ぶ),垂直(H配置),進行方向に平行(Z配置)に配向されている場合の左右円偏波の透過特性を測定した(図12).この結果は無配向シートにおける左右円偏波の透過挙動の違いなども説明するもので,これにより金属マイクロコイル分散シートがTHz帯の電磁波吸収材料となるだけでなく,光学材料としても使用可能であることが示唆されたとしている.

 

Fig12.jpg
図12 (a)E,H,kは電界,磁界,電磁波のベクトルを表す.
(b)Cuマイクロコイル分散パラフィンシートの透過率.
点線は右円偏波に対する透過率,実線は左円偏波にたいする透過率
(出典:参考文献[7])

 

(3)スピルリナ由来マイクロコイル分散シートのアプリケーションの広がり

 スピルリナ由来マイクロコイル分散シートのアプリケーション分野については,上述のように先ず電磁波の透過・反射特性を主とした電気的特性を中心に検討を進めており,より広い周波数領域での評価を行うと共に,コイルの形状・サイズ,マトリックス材料,分散条件がシートの機能・特性に及ぼす影響を,スピルリナの培養条件を含む製造プロセスとの関係を含めて総合的に評価することを行いつつある.その結果は新しいアプリケーションへの展開に結びつくことを期待しているとのことである.

 前述の実験[7]でマイクロコイル分散シートが電磁波の偏光に対応した機能を示し,電磁波に対する光学的材料になる可能性が示された.例えば図13に模式的に示すように,直線偏波を左巻コイル分散シートに照射した場合に左巻成分が吸収されて透過波は右巻の円偏波(あるいは楕円偏波)に,右巻コイルのコイル分散シートに照射した場合は対照的に透過波は左巻の円偏波(あるいは楕円偏波)になるなどの光学的機能を持つことを確認している.

 

Fig13.jpg
図13 左巻および右巻コイル分散シートに直線偏波を照射した場合に
透過波はそれぞれ右巻きおよび左巻の円偏波(あるいは楕円偏波)になる.
(提供:鎌田氏)

 

 その他に,コイルのバネとしての力学特性の計測や,金属だけではなく高分子材料によるコーティングプロセスの開発も計画している.ポリマーマイクロコイルには,ゲルに見られる膨潤伸縮に伴う可逆なサイズ変調の機能を付与することができ,また金属だけでは脆くてすぐに形状が壊れるという欠点も補うことができると考えている.

5.むすび

 バイオテンプレートテクノロジーはシーズの研究から始まった,新しい概念に基づき新しい機能材料創出を狙った新しい技術領域である.鎌田氏は今後の目標について「プロセスを一般化すること.これまで蓮根,スピルリナをテンプレートとする材料作成プロセスについて研究してきたが,これはケーススタディである.バイオテンプレートについて学術的な体系化を行うことができればと思っている.ターゲットとするテンプレートの発想や実際のプロセス,さらには応用分野が,必然性をもった研究目的とそれを達成する手法として確立できればと思う.」と語っている.

 スピルリナをテンプレートとするマイクロコイル分散シートは,あらかじめ電子部品の基礎的機能を備えた3次元構造物がシート内に分散しているものであり,一般的な単なる材料素材を分散させた材料としてのシートとは概念が異なり部品としての機能を備えたシートと云える.3次元構造物の設計,分散状態の設計・制御によって,シートの機能・特性は様々に変化し,多くの市場ニーズに対応する技術になる能力を秘めていると考えられる.

 その素材は自然の生物の成長力を活用しており,地球環境に優しくかつ極めて経済的な生産工程の構築が可能と想定されている.そうした新しい技術領域の展開の基盤となるプロセス技術の体系化とアプリケーション展開への道筋を開拓されつつあるバイオテンプレートグループの活動が,新しい産業創出に結びつくことを期待したい.

参考文献

[1] Kaori Kamata, Yuka Akimoto, and Tomokazu Iyoda, "Fabrication of Metal Microcoil from Plant Tissue", Cellulose Commun. 20, 69-73 (2013).
[2] Kaori Kamata, Soichiro Suzuki, Masayuki Ohtsuka, Masaru Nakagawa, Tomokazu Iyoda, Atsushi Yamada, "Fabrication of Left-Handed Metal Microcoil from Spiral Vessel of Vascular Plant", Advanced Materials, 23, 5509-5513, (2011).
[3] 彌田智一, 鎌田香織, 山田厚, 鵜澤幸一, "微小構造体並びに微小螺旋構造体の製造方法", 特許公開2009-221149.
[4] 鈴木壮一郎,藤岡貴大,長井圭治,鎌田香織,彌田智一,高野恵介,萩行正憲,"バイオテンプレート法による藻類由来金属マイクロコイルの作製とテラヘルツ領域光学活性",第55回応用物理学会連合講演会 講演予稿集 04-215 (2012).
[5] 鈴木壮一郎,藤岡貴大,鎌田香織,長井圭治,彌田智一,高野恵介,萩行正憲,"らせん藻類を鋳型とする金属マイクロコイルの作製とテラヘルツ電磁波応答特性",20123年電子情報通信学会総合大会 講演番号C-6-1 (2012).
[6] バイオテンプレート研究会ホームページ
  http://biotemplate.org/

[7] 藤岡貴大,鈴木壮一郎,鎌田香織,長井圭治,彌田智一,高野恵介,萩行正憲,"藻類由来金属マイクロコイル分散材料の作製とテラヘルツ電磁波応答特性", 第55回応用物理学会連合講演会 講演予稿集 04-216 (2012).

(向井 久和)

  

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です. nanotech2014_banner.jpg