NanotechJapan Bulletin

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<第73回>
クスリを使わずナノデバイスでがんをやっつける新低侵襲療法
メディギア・インターナショナル株式会社 田中 武雄氏に聞く

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MGI社 代表取締役 田中 武雄氏(東工大横浜ベンチャープラザ会議室にて)

 

 がんの安全,簡便,かつ効果的治療法の実現は人類の悲願である.その実現を目指して多くの研究開発が行われてきた.そうした流れに一石を投ずる革新的治療法がnano tech 2019国際ナノテクノロジー総合展に出展された.NEDOプロジェクト展示ブースの材料・素材分野にメディギア・インターナショナル株式会社が出展した「クスリを使わずナノデバイスでがんをやっつける新低侵襲療法」である[1].この展示は,nano tech 2019の最終日に行われるnano tech大賞表彰式においてプロジェクト賞を受賞した.受賞理由は「腫瘍組織にだけ作用する生体適合物質からなるナノデバイスを開発し,酸素と栄養を遮断し兵糧攻めにしてがん組織のみを死滅させる,患者に優しい新療法として期待される点を賞す.」であった.

 この革新性に満ちた展示技術の技術内容と,研究開発の状況,及び将来展望を伺うべく,横浜市緑区長津田町にある東京工業大学横浜ベンチャープラザに,メディギア・インターナショナル株式会社(MGI社)の代表取締役 田中 武雄(たなか たけお)氏を訪ね,お話を伺った.

 

1.革新的がん療法の開発を推進するベンチャー企業
メディギア・インターナショナル株式会社

 メディギア・インターナショナル株式会社は田中 武雄氏が発案した「腫瘍標的型低侵襲ドラッグフリー兵糧攻め療法」の研究開発・事業化を目的として2013年4月2日に設立されたベンチャー企業で[2],2017年9月東京工業工大学(以下,東工大)発ベンチャーに認定された.東工大の生命理工学分野で初めての認定とのことである.

 

1.1 新しいがん治療法の着想およびベンチャー立ち上げに至る経緯

 田中氏は東工大大学院 理工学研究科 修士過程を終了後民間企業に就職し,鉄鋼プロセス計装技術開発等に従事し,海外事業や新規事業にも数多く携わる経験を経た後,半導体検査サービスに関わる合弁会社を設立し,東証2部上場を達成した.その後独立して,IT関係のベンチャーの設立・経営に携わってきた.ここでは,IT分野でデーターベース,暗号化のコーディングなどを専門分野としてきた.

 

(1)医療分野への転向の切掛けと動機

 このように医学や薬学と無関係であった田中氏が,医療の分野に入る切掛けは,ビッグデータの処理に必要な超高速検索エンジンの開発をしている時に,これの応用分野として医療分野を取り上げその膨大な画像データの処理に適用することとし,IGT(Image Guided Therapy)クリニックの堀信一院長を訪問したことに始まった.堀氏は「動脈塞栓術」治療の世界的第一人者であった.これは,がん細胞に栄養を送る動脈を塞栓して腫瘍を死滅させる画期的療法である.図1の左図に示すように,塞栓する材料をマイクロカテーテルで(血管造形装置とCT装置を組み合わせた装置のガイドを利用して)動脈の腫瘍に近い栄養動脈に挿入し,血流を断つことにより腫瘍への酸素と栄養の供給を断ち,腫瘍を兵糧攻めにして壊死させる療法である.田中氏は2010年に,堀氏のこの療法に出会い,その患者に優しく,的確に腫瘍に対処するこの療法を普及させるべきであると考えた.

 

図1 動脈塞栓療法から生まれた腫瘍封止療法

 

 転向の動機は,次のような社会的背景への対応である.

・治療オプションのない“がん難民”(標準治療で見放された患者達:国内で数万人)の救済,
・高騰するがん医薬費(免疫療法,遺伝子療法,粒子線療法)の抑制,
・医療業界の動向に変化---新薬の発見も限界があり,米国では薬依存から脱却の議論が始まっている.

 

(2)新療法の着想とベンチャー企業の立ち上げ

 動脈塞栓療法の問題点は,治療の成否が医師の技量に大きく依存すること,図にも示すように正常組織にダメージが及ぶリスクがあることなどの問題があり,また,高価な装置を使う必要があった.これを改善する議論の中から図1の右図に示す新しい腫瘍封止療法が生まれた.

 新たに考案した封止方法は,マイクロカテーテルで運ぶ封止用材料を直径100~300nmと前者の100分の1以下にナノ粒子化し,また,兵糧攻めの手法が前者の動脈血管の中(マイクロカテーテルの操作で決まる)での塞栓に対して,新療法では腫瘍の周辺で腫瘍につながる血管の粗雑な壁面を通してナノ粒子が血管の外に出て蓄積し膨潤して血管を封止する.すなわち自動的に選択封止が行われ,医師の技量によらず,正常組織のダメージもない.

 がん治療法の開拓の分野に転向した田中氏は,東工大大学院生命理工学研究科 生体分子機能工学専攻 教授 近藤 科江氏の研究室に籍を置き,腫瘍標的型低侵襲ドラッグフリー兵糧攻め療法の研究開発を進め,実用化の見通しができた2013年にメディギア・インターナショナル株式会社(MGI社)を立ち上げた.その後も近藤研究室との共同研究開発を続けている[3].

 

1.2 がん微小環境で勝負する新療法

(1)がん微小領域におけるがんの活動と新療法の機能

 2019年のノーベル賞生理学・医学賞は「低酸素状態における細胞の応答」のテーマで米国,英国の3名の博士が受賞したが,その中の一人米国のグレッグ・セメンザ(Gregg L. Semenza)氏は近藤氏の米国留学時代の友人である.がん細胞の周辺はがんの成長に必要とする酸素と周囲の血管から供給される酸素の量のアンバランスから低酸素状態であり,この周辺に向けてがん細胞から低酸素誘導因子(HIF:Hypoxia Inducible Factor)が放出される.近藤氏は,こうしたがん微小環境とHIFの研究に関する国内での第一人者である.HIFの一種であるVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor:血管内皮増殖因子)は図2に示すように,腫瘍から放出されて腫瘍に酸素や栄養を供給する血管を新生させ,これにより腫瘍が増殖し転移を起こさせることになる.この新生血管は,がん細胞が3mm位になると構築される.

 

図2 腫瘍によるVEGF放出,血管新生,腫瘍増大,転移の発生の経緯

 

(2)EPR効果の活用によるがんを標的とするナノ粒子の選択的集結

 上記がん細胞周辺に構築される新生血管は血管壁面が粗雑であり,正常な血管の壁は通過しないナノレベルの微細粒子が通過してしまう.この現象は前田 浩氏(現・熊本大学名誉教授)と松村 保広氏(現・国立がん研究センター)により発見され,1986年に高分子薬剤が選択的にがん近傍に集中する現象「EPR効果(Enhanced Permeability and Retention effect)」として提唱された[4].以来,EPR効果はがんを標的としたDDS(Drug Delivery System)などにしばしば適用されている.

 新療法もこのEPR効果を利用する.そのため,がんを兵糧攻めする本新療法の主役となる腫瘍封止剤として高吸水性樹脂SAP(Super Absorbent Polymers)をナノサイズ粒子に加工してnanoSAPP(SAPPはSAP Particle)を実現した(これについては(3)で説明する.).図3に,正常血管とがんに酸素や栄養を供給する新生血管での,nanoSAPPの振舞の違いを血管断面図で示す.新生血管の場合,nanoSAPPは血管の壁の隙間から次々と血管の外へ出て,血管の周囲に堆積する.この後,nanoSAPPは膨潤し,血管を圧し潰すことになる.

 

図3 ナノ微粒子(nanoSAPP)が注入された場合の血管の断面図.がん近傍の新生血管(図右)ではナノ微粒子の血管外部への流出・堆積況状が見られ,正常血管(図左)では血管内を流れている.

 

 また,膨潤したSAPはがん細胞が発するVEGFを血管に寄せさせず,がん細胞の増殖・転移を防ぐ効果もある.

 

(3)腫瘍封止剤nanoSAPPを開発

 腫瘍封止剤の材料としては高吸水性樹脂(SAP)を採用した.おむつなどにも使用されている生体適合性の実績のある素材である.ただし,これをナノサイズ化する技術はMGI社独自開発技術であり,その開発に苦労があったと田中氏は語った.また,この腫瘍封止剤が機能を果たした後,いつまでも体内に残らないように分解する性質を持たせる改良も行っている.

 nanoSAPPの粒形は100~400nmの値であり,EPR効果を活用できる範囲である.EPR効果については,透過したナノ粒子のうち,比較的大きな(80nm~)が血管周囲に留まり,より小さな粒子は遠くまで拡散しているデータの報告があり[5],nanoSAPPのサイズは図3に示すように血管の周辺に堆積して,膨潤により血管を押し潰すことになる.図5はnanoSAPPが時間と共に水分を吸収して膨潤する様子を示す実験データで,1分以内に50倍に膨潤している.

 

 

 

図4 膨潤率の時間推移

 

 図5にnanoSAPPのSEM写真を示す.小さな球状のつぶがnanoSAPPで,それが多数の塊になっているのは,個々の粒子が小さいので,取り扱う都合で一時的に凝集させているもので,血管に挿入する時はばらばらに分散している.

 

 

図5 nanoSAPPの粒子形態を示すSEM画像.

 

(4)マウス実験による腫瘍封止療法の効果の実証 [1][2]

 試作nanoSAPP(以下,ナノデバイス)について東工大近藤研究室の協力により,マウスの背中に乳がん細胞を皮下移植し,腫瘍封止療法の効果を立証する実験を行った.

 図6は,ルシフェラーゼ発光現象を使った発光イメージングにより,がんの状態を可視化させ,ナノデバイスを投与した場合と生理食塩水のみを投与した場合について,がんの形状変化を比較した.ナノデバイスを投与したものは3時間後には形が半分以下に縮小し,1日後には見えなくなっている.このことは,新療法に即効性があることを示している.

*:酵素ルシフェラーゼによる生物発光(ホタルの光に代表される)で,基質ルシフェリンの酸化に伴う化学反応の光.

 


 

図6 乳がん細胞の皮下腫瘍を用いた腫瘍封止のマウス実験

 

 図7は,上記実験において近赤外線を照射して発生する超音波を用いて生体の内部を観察する光音響イメージングによる観察結果で,観察した場所は左端の写真で断面と記した箇所である.血液中で酸素を運搬する酸化型ヘモグロビン(HbO2)と酸素が無くなった還元型ヘモグロビン(Hb)では異なる色付けをし,前者は赤色,後者は青色で表示している.投与1日後の写真ではナノデバイスを投与した方の腫瘍内では青色が表れており,酸素濃度が低下している様子がうかがえる.

 

図7 がん細胞移植マウスの断面(左図参照)の光音響イメージング,
赤色:酸化型ヘモグロビン(HbO2),青色:還元型ヘモグロビン(Hb)

 

 図8は,上記実験後の腫瘍部を摘出して顕微鏡で観察した写真である.HE染色して得た組織画像では,腫瘍として活性領域は細胞核が青紫に見え,壊死領域では細胞核が見えない.

 以上のマウス実験結果は,ナノデバイスにより腫瘍への血管を封止することによって,腫瘍への酸素供給が断たれ,腫瘍細胞の壊死が短時間のうちに始まることを示している.

*:HE染色は,HematoxylinとEosinの2種類の色素を用いて,細胞核と核以外の組織成分を青紫色といろいろの濃さの赤色とに染め分ける単純な染色法である.

 

 

図8 腫瘍切片の写真:上は外観,下は組織(HE染色して観察)

 

2.腫瘍封止療法の実用化を目指す事業展開

2.1 腫瘍封止療法の特徴とコアコンピタンス

 第1章で説明した腫瘍封止方法を構成する基盤要素を整理すると図9に示すように,4つの要素項目とナノ粒子のnanoSAPPから成り立っている.この4項目はいずれも次の①~④に示すように,実証済みの論理・技術・材料であり,新規開発は兵糧攻めをする材料nanoSAPPだけである.このことは,開発期間の短縮と,開発コストに削減をもたらす大きな特徴と言える.

①HIF低酸素誘導因子はがん細胞から発出されがん細胞に酸素や栄養を供給する血管の新設,細胞の増殖・転移に係り,新腫瘍封止法の対象相手である.この領域の研究は進んでおり,2019年ノーベル生理学・医学賞の対象となった.

②EPR効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)[4]はがん細胞が新設した血管の粗雑性を利用して,血液中の薬剤をがん細胞近くで血管の外に出てがん細胞周囲に集中させる技術で,DDS(ドラッグデリバリーシステム)で利用されている[4][5].

③TAE(trans-catheter embolization)はカテーテルを使ってがん細胞の近くの動脈に動脈塞栓材を送り込んでがん細胞を死滅させる治療法で,1979年和歌山県立医大教授(当時)の山田 龍作氏が世界初の臨床報告を行っている[6][7].今では肝臓がん治療の42%に適用されている.

④SAP(Super Absorbent Polymers)はおむつにつかわれている材料である.

 



 

図9 腫瘍封止療法を構成する実証済み構成要素と新規開発構成要素

 

 腫瘍封止療法はこれらの既に解明され,使われている理論,技術,材料を基盤として成立しているが,SAPをナノ化してnanoSAPPとする技術だけはMGI社独自開発であり,これが,事業展開のコアコンピタンスとなる.これにより,TAEと同様にカテーテルを使う低侵襲治療でありながら,EPR効果を活用して自動的にがん細胞だけを集中的に兵糧攻めにでき,さらに,HIFががん細胞の成長増殖活動をするのも阻止する機能も発揮する革新的療法が実現することになる.

 本腫瘍封止方法の概要を整理した基本仕様を図10に示す.その特徴を抜き書きすると,

・治療補法は兵糧攻めであるため,がん種を問わない汎用性がある.但し,固形がんのみ.

・ドラッグフリーであり,抗がん剤使用の場合のように副作用がない.また,抗がん剤使用の場合,がんが薬にたいして耐性を持つように変化する問題が発生するが,本療法ではそのようなことは起こらない.特に,人体の安全管理に係る薬機法では,医薬品ではなく医療機器に分類され,手続きが緩和される.

・材料物質は高吸水性ポリマー(SAP)が持つ生体適合性を受け継いでいる一方,SAPが持っていなかった生体代謝性・分解性を付与しており,治療後体内に残って問題をおこすことはない.

・腫瘍標的指向型(EPR効果利用)であり,動脈塞栓療法のように,正常組織にダメージを与えるリスクを回避でき,また,治療の成否が医師の技量に大きく依存することもない.

 

 

図10 新腫瘍封止療法の基本仕様

 

2.2 MGI社の事業展開

(1)経緯

 MGI社は東工大発のベンチャー企業として設立され,東工大近藤研究室との共同研究で新腫瘍封止法の開発を進めてきた.この間,省庁の各種プログラムに係り,支援を受けてきた.

 経済産業省では,新エネルギー・産業技術総合研究機構(NEDO)が進める研究開発型ベンチャー支援事業の3段階の支援,即ちTechnology Commercialization Program (TCP),起業家候補(SUI)支援事業,シード期の研究開発型ベンチャー(STS)支援を順次受け,STSが2019年度で終わる.

 特許庁では,スタートアップの事業を知財で加速させる知財アクセラレーションプログラム「IPAS2019」の第一期支援先企業10社にMGI社が選ばれている.

 厚生労働省関連では,許認可機関である独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のレギュラトリーサイエンス事前相談(RS事前相談)に行った際に,「製薬会社では発想しえない極めて画期的な療法であり,早く市場に導入されることを期待する」とのコメントを貰ったと田中氏は語った.

 なお,これまでの間の資金調達としては,事業会社では,大手製薬企業及びm3グループ,機関投資家ではみらい創造及びフューチャーパートナーズから合計約4億円の出資を受けており,現在,国内外の大手化学企業・医療機器メーカ・医療商社が,出資・共同開発等を検討中である.

 

(2)ビジネスモデル

 MGI社のビジネスモデルは製造・販売に関するランセンスと医療・製剤に関する技術サポートを中心とした事業展開である.

 nanoSAPPの製造は比較的小規模な施設で可能であり,自社でも作ることは可能であるが,医療に係る商品であり,管理された体制を持つ専門製造業者にライセンスする.販売も医療関係の販売ルートを持つ専門販売業者に委託して行うこととしている.

 MGI社としては技術サポートに力を入れる.薬剤との併用などを含む腫瘍封止法の利用方法を検討する医師・医療機関,また,ドラッグデリバリー機能との合体を考えるなどナノ微粒子の応用展開を検討する製薬企業に対して,研修・開発環境等を提供する.それ用のトレーニングセンター,オープンラボを設けていく.

 

(3)腫瘍封止療法の今後の展開

 nanoSAPPによる腫瘍封止法を実用化するためには,治験による安全性と有効性の確認を経て厚生労働省の認可を得る必要がある.臨床試験を行うために臨床アドバイザー,臨床医師と連携する体制も作りつつあり,2023年度には治験が終わって認可を得て,24年度にはnanoSAPPの生産に入ることを目論んでいる.

 これまで,多くのアクセスを医療・製薬分野から受けているが,特にnano tech 2019で賞を受けてからその数が増え,その中でも海外からのアクセスが目立っている.

 nanoSAPPの体内注入方法として,まずはカテーテルで確実に腫瘍の近くまで届ける手法を採用しているが,将来的にはより低侵襲となる点滴で体内に注入できるようにnanoSAPPを改良していくことも考えている.

 

3.nanoSAPPをプラットフォームとする新市場展開の可能性

 MGI社は図11に示すように,ナノ粒子nanoSAPPをプラットフォームとして,ヒトのがん治療以外の広いアプリケーションを考えており,これをMGI社の事業戦略のベースとしている.

 


 

図11 ナノ粒子nanoSAPPをプラットフォームとして広がる応用展開

 

 がん治療では,最近急増しているペットの犬・猫のがんへの適用がある.これまでは東工大との共同研究でマウス実験は行ってきたが,麻布大学の獣医学部との共同研究で大きい動物への適用を進めている.

 用途展開では,nanoSAPPに薬を付加する応用がある.抗がん剤を付加して,DDS製品とすることはユーザーからも期待されている.点眼薬用では液状の通常の目薬と異なり,薬が目に留まってくれることを狙う.

 薬以外の応用展開では,nanoSAPPの優れた保水性を利用する形成外科応用,ナノサイズの浸透性や保水性を利用する化粧品応用,腸内環境を長く留まって整えるなどのサプリメント応用などがあり,大きな市場が期待される.また.nanoSAPPは生体分解性があることから,一時塞栓材としても使用できる.

 診断分野への展開では,がん診断用可視化デバイスを開発し,診断と治療の融合を図る.また同時にスマートカテーテル等,nanoSAPP専用投与治具などの治療機器システムの開拓も行い,IVR(画像下治療)が行えるようにする.

 上述のようなナノ粒子(nanoSAPP)の応用展開の可能性を踏まえて,MGI社が目論む事業の将来展開像を図12に示す.まずは,現在進めている「腫瘍標的型低侵襲兵糧攻め療法」について図中の①,②,③の手順を踏んで,2024年からの生産開始を目指す.次いでナノ粒子投与手段をカテーテルから,一層低侵襲の点滴への進化を図ることで,手軽に誰でも受けられるがん治癒を世の中に普及させる.将来的には,診断デバイスを開発して,診断と治療の融合の実現を目指す.

 

 

図12 将来の事業展開の目論み

 

 並行して,ペットのがん治療,ナノ粒子への薬剤の付加,そして,医薬用以外の,美容整形,化粧品応用等をユーザーとの連携の下展開していく.

 なお,図中に,MGI社がこれら事業を進め発展していくための鍵となる施策が示してある.

 

4.おわりに

 情報システムの専門家が,がん治療の最先端に触れたことから新しい発想が生まれ,革新的治療法の提案に至ったことは大変興味深い.最先端のナノテクノロジーを駆使して,戦国時代の昔の知恵である兵糧攻めを行い,自らの犠牲を最小限に抑える,即ち,低侵襲性で副作用もなく,経済性を発揮する.更に,がん種によらない即効性を発揮する仕組みは見事である.世界中の多くのがん患者が待ち望んでいる画期的な治療法であり,福音が訪れる日が待ち遠しい.

 nanoSAPPの応用分野は,がん治療以外に大きく広がるとのこと.新市場が開拓され,更なる社会貢献がなされることを期待したい.

 

参考文献

[1] メディギア・インターナショナル株式会社「腫瘍封止ナノデバイスMDX」,NEDO,ライブラリ,マッチングスペース,事業成果情報,バイオ・医療
 https://www.nedo.go.jp/content/100877294.pdf
[2] メディギア・インターナショナル株式会社ホームページ
 http://medigear.co.jp/
[3] 近藤研究室ホームページ
 http://www.kondohlab.bio.titech.ac.jp/
[4] Y. Matsumura, H. Maeda, “A new concept for macromolecular therapeutics in cancer chemotherapy: mechanism of tumoritropic accumulation of proteins and the antitumor agent smancs”, Cancer Res. 1986, 46, 6387-92.
[5] H. Cabral, Y. Matsumoto, K. Mizuno, Q. Chen, M. Murakami M, Kimura , Y. Terada, MR. Kano, K. Miyazono,  M. Uesaka, N. Nishiyama, K. Kataoka . “Accumulation of sub-100 nm polymeric micelles in poorly permeable tumours depends on size”, Nat Nanotechnol. 2011 Oct 23;6(12):815-23. doi: 10.1038/nnano.2011.166.
[6] 松田忠和,「カテーテル治療について」,MEDICA(岡山の医療健康ガイド),特集・話題 肝細胞がん治療の進歩(2),2018年9月18日.
 http://medica.sanyonews.jp/article/9621
[7] 山田龍作、中塚春樹、中村健治、他 「肝細胞癌に対する Transcatheter arterial embolization therapy-15例の経験-」、肝臓、1970;20: 595-602

図面はすべてメディギア・インターナショナル株式会社から提供された.

 

 

(向井 久和)

 

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です.