NanotechJapan Bulletin

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<第75回>
ベンチャー創業75年,光学技術を磨いて独自の材料分析評価装置開発
~粒子径分布測定に画像解析導入,蛍光分光の吸光度同時測定~

株式会社堀場製作所 立脇 康弘,林 絹美,三村 享,森 哲也の各氏に聞く

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(左から)京都本社の三村氏,林氏,立脇氏,東京拠点の森氏

 

 ナノ領域の計測・観察が可能になったことで,イノベーションの創出にナノテクノロジーが認識されるようになった.今世紀初頭に始まった,国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech展)は,2020年に第19回(nano tech 2020)を数えた.展示が広範囲に展開してきたため,5ゾーンに分けて展示が行われ,その一つにナノアナリティクスゾーンが設けられた[1].これに応じて,優れた展示に贈られるナノテク大賞部門賞にナノアナリティクス賞が設けられ,株式会社堀場製作所がこれを受賞した.受賞理由は「画像解析ユニットを加えたレーザー回折粒子分布測定装置,吸光度も測定できる新しい蛍光分光測定装置などを紹介,最先端材料の研究開発から品質管理までカバーする分析・評価装置のラインアップを賞す」であった[2].この展示について,NanotechJapan Bulletinのnano tech展 開催報告[1]は,「堀場制作所は光学を駆使する分析・評価装置を得意とし,ニッチの分野を広くカバーしている.特に半導体分野及び電池関係の研究開発から製造工程に至る分野の様々な分析・評価装置類を揃えている.」と記した.そこで,これらの特色ある分析・評価装置が,どのように開発されて来たか,株式会社堀場製作所 開発本部の立脇 康弘(たてわき やすひろ),森 哲也(もり てつや),マーケティングコミュニケーション部の林 絹美(はやし きぬみ),三村 享(みむら すすむ)の4氏(五十音順に記載)にお話を伺った.nano tech 2020の直後からのウイルス感染拡大のため,お話はWeb会議形式で伺った.立脇,林,三村の3氏は京都本社から,森氏は東京の開発拠点からの会議参加であった.

 

1. ベンチャー創業,「はかる」技術で価値を築く

1.1 創業から計測・光学技術を基に事業展開

 堀場製作所の創業者,堀場 雅夫氏は1945年,京都大学で原子核物理を学ぶ学生の時に,太平洋戦争終戦の日を迎えた.駐留軍は,大学における航空機,原子核物理など軍事用途につながる研究を禁止した.堀場氏は研究を続けるため,すぐさま10月に「堀場無線研究所」を創業する.高速演算のためにコンデンサを作り,その電解液評価のためにpHメーターを作った.このpHメーターを商品化し,株式会社堀場製作所が1953年に設立されて,計測機器メーカとして歩み出した[3].

 pHメーターは溶液の電位を測る液体計測である.これに続き,1957年に赤外線ガス分析計を開発し,その販売を開始した.光計測機器の興りである.これには干渉膜フィルタで選択した波長の赤外光のガス分子による吸収を用いる[4].このガス分析手法は1964年に,世界ブランドとなる自動車排ガス測定装置を生み出し,事業分野拡大のきっかけにもなった.1970年に米国に合弁会社を設立して,海外展開をスタートし,1997年9月には分光器など光計測機器分野で世界トップ企業のJobin Yvon社を買収し,光学技術の強化を図った.

 その後も新しい「はかる」技術に挑戦し,M&Aも利用して技術の高度化,製品分野の拡大,事業の展開に努めている.その一方,計測技術発展のため,創業50周年(1995年)を期に,社外対象の研究奨励賞:「堀場雅夫賞」を創設した.2019年の選考テーマは「電力および電池を最大限に活用する効率的な制御のための先端分析・計測技術」とし,2019年10月17日に表彰式を行ったが,その直前の10月8日に堀場雅夫賞審査委員長の吉野 彰氏の「リチウムイオン電池発明」によるノーベル化学賞受賞が決まった.

 

図1 創業時のpHメータ(左)と光計測の嚆矢となる赤外線ガス分析計(右)

 

1.2 「おもしろおかしく」,「はかる」技術で事業を展開 [5]

 堀場製作所の社是は,「おもしろおかしく」である.仕事にプライドとチャレンジマインドを持ち,エキサイティングに取り組むことで,人生の満足度を高めようという願いをこめ,科学の進歩へ向けた最先端の技術製品を生み出すという社会的責任に取り組もうというものである.「はかることから すべてがはじまる」の考えで,自動車計測システム,環境プロセスシステム,医用システム,半導体システム,科学システムの5つの事業分野で「はかる」事業を展開する.

 創立50周年頃は,社員1000人余り,売上300億円の会社だったが,約15年の間に人員は8倍,売上は7倍になり,製品分野も多岐に渡るようになった.連結売上高は2,002億4,100万円(2019年12月期),グループ従業員数は8,288名(2019年12月31日現在)である.2019年の営業利益は209億円で利益率は10%を超える.世界20カ国に拠点を置き,8,300人の従業員のうち日本にいるのは38%で,62%は海外にいる.売上高に占める日本国内の比率は31%で,海外比率69%である.地域別に見ると,欧州22%,アジア31%,米州16%である.従業員,売上とも,2/3は海外になった.

 

図2 グローバルに展開する堀場製作所の事業:事業分野と売上(左)・従業員(中)と売上構成(右)

 

1.3 コア技術を磨き独自製品を開発

 上記の事業領域に製品展開を行う上で,堀場製作所の持っているコア技術には,ガス流量制御(マスフローコントローラーなど),赤外線計測(ガス分析など),分光分析(蛍光吸光分析など),粒子計測(粒子径,成分分析など),液体計測(pHなどの電気化学計測など)の5つが挙げられる.これらのコア技術を磨き,組み合わせて,表1のように各事業分野の製品を生み出している.

 

表1 コア技術と事業分野,製品

 

 企業のモットーとして「人のやることはやりたくない.他ではできないことをやろう」としてきたので特徴ある製品が多い.製品は1,000を超えるが,世界トップシェアが多い.エンジン排ガス計測システムの世界市場シェアは80%に及び,マスフローコントローラーは60%,ラマン分光測定装置は30%を占める.国内市場シェアで煙道排ガス分析装置は50%,自動血球計数CRP(C反応性蛋白)計測装置は100%を占める.顧客の声に耳を傾け,顧客の求めるものを開発し,顧客要求に応じて装置のカスタマイズを行っている.世界と交流してニーズを捉えるため,各種展示会に出展する.nano tech展の出展もその一環という.nano tech展は,最先端材料の研究者の来場が多く,今まで出来ていなかったが,これを分析したいという夢を聴く場となっているという.2020年の展示は,関心の高まっている応用分野を考慮しながら,粒子解析など科学システム事業分野の機器を中心に展示した.

 

2.光学技術を基に科学システム分野の分析評価機器を展開

2.1 光学技術を基に分析評価機器開発 [5][6]

 科学システム事業分野の分析・評価機器では,光を使うものが多い.波長はガンマ線からX線,紫外,可視光,赤外に及ぶ.光の発生,分光,集光,検出の技術をもとに数々の計測器を作って販売している.また,顧客要望に応じたカスタマイズ開発も行っている.製品のラインアップを7つの機能(①元素分析,②分光分析[ラマン分析装置,蛍光分光・蛍光寿命分析装置],③粒子計測,④水質分析,⑤表面分析,⑥分光コンポーネント,⑦分子間相互作用解析装置)に分類して図3に示した.

 

図3 科学システム事業分野の製品ラインアップ

 

 堀場製作所 科学システム事業分野(HORIBA Scientific)のモットーは,「Your Partner in Science」で,科学を通して,顧客のニーズに応えることである.4つの強み:【①光学分析装置の世界的リーディングカンパニー,②カスタマイズで「お客様の声」を実現,③多様なマーケット・材料分野への展開,④充実したサービス・メンテナンス体制】を持つという.HORIBA Scientificの主要拠点は日,仏,米の3箇所にあり,それぞれが異なる光学計測機器のリーディングベンダーとなっている.HORIBA Franceは,光学装置,発光分光測定をコアにラマン顕微鏡など,日本の堀場製作所はX線・赤外・粒子径・ガス・水質分析をコアに,粒子径分布測定装置など,米国のHORIBA Instrumentsは蛍光分光分析をコアに,蛍光分光・蛍光寿命測定装置などを提供する.

 分光装置で重要なのはグレーティング(回折格子)である(図4).フレネルレンズを生み出して,光学装置で200年の歴史を持つJobin Yvon社を1997年に買収して光学技術を強化し,グレーティングやそれを搭載した分光器を,設計から製造まで一貫して自社で行っている.Jobin Yvon社は1819年に設立され,創業200年を祝ったが,代表的な製品にラマン分光装置がある.HORIBAの最初の市販ラマン分光装置は1967年に開発されたが,Jobin Yvonの分光技術を加えることで世界をリードする製品となった.ラマン分光装置は,バイオ分野で細胞の分析に用いられ,半導体分野では,シリコンの応力分布測定や化合物半導体の欠陥評価などに用いられている.

 

図4 光学コア技術:グレーティング


 2018年のノーベル物理学賞は,レーザー物理学分野における画期的な発明に対して,「光ピンセットとその生物学的システムへの応用」の業績によりArthur Ashkin博士(アメリカ合衆国),「高強度超短光パルスの生成方法」の業績によりGerard Mourou博士(フランス),Donna Strickland博士(カナダ)の3氏に贈られた.Gerard Mourou博士は,HORIBA Franceのグレーティングを用いたので,そのグレーティングは記念品としてノーベル博物館に展示された.また,NASAは微弱な光の検出にメートル級のグレーティングを必要とし,HORIBAはこれに応えて,JPL賞を受賞した(JPL:NASAの研究所).HORIBAの技術・事業はナノの世界から宇宙にまで広がっている.このグレーティングと検出器をもとに,エリプソメータ,蛍光分光・蛍光寿命,ラマン分光,フォトルミネッセンス,カソードルミネッセンスなどの製品を展開している.標準仕様で開発した製品は顧客のニーズに応じてカスタマイズ,専用化を行っている.また,ノーベル賞の対象になった光ピンセットは,顕微レーザーラマン分光測定装置用アクセサリとしてHORIBA製品系列に加え,機械力を加えることなく,細胞を捕捉しながらのマッピング測定を可能にした.

 HORIBAは,ラマン分光分析装置のメーカーとしてラマン分光分析技術に関する国際シンポジウム「Raman Fest」を主宰しており,2018年は東京大学で開催した.さらに昨年はJobin Yvon社創業200年を記念して「Optical Fest 2019」を開催した.このようなイベントで世界と交流するのに加えて,ニーズをとらえようと,各種展示会に出展している.nano tech展の出展もその一環である.

 

2.2 分析・評価機器のアプリケーション

 nano tech展には先端のナノ材料を扱う研究者などが多数,来場する.堀場製作所は,展示のコンセプトを毎回変えていて,そのときの社会の関心に合わせた展示を行なってきたと,林氏はいう.2020年は電動化の動向に合わせてバッテリーゾーンを設けた.また,ライフサイエンスへの関心の高まりに対応してバイオゾーンを設けた.ナノテクでは粉体が多く使われ,その粒子解析の計測器を数多くラインアップしているので,これをまとめて中央に展示し,総合力を示すようにした.これに対し壁側には,要素技術として,ナノ粒子,2Dマテリアル,光通信,MEMS,有機EL,セラミックスなど次世代技術の要素技術に関する計測のアプリケーションを展示した.バッテリー,バイオ,粒子解析,要素技術,計4つのカテゴリーでの展示となった.受賞した製品の蛍光分光はバイオ,画像解析はバッテリーのゾーンに展示した.バイオ,バッテリーでは,表2,表3のような装置・応用がある[6].

 

表2 バイオ分野の応用・適用装置例

 

 表3 バッテリー分野の応用・適用装置例

 

 

3.従来にない機能を備えた分析評価装置の開発

 3.1 粒子径分布評価で画像解析を可能に

 粒子計測装置には,光子相関法(動的光散乱法,DLS)を用いたナノ粒子解析装置,レーザー回折/散乱法(静的光散乱法,SLS)を用いたレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置などがある.後者には粒径10nmから5mmに対応するPartica LA-960V2,100nmから1mmに対応するPartica mini LA-350があり,LA-960V2にオプションとして画像解析ユニットをつけた(図5).

 

 

 図5 レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA-960V2

 

 粒子径は光の散乱パターンから求める[7][8].図6に粒子径測定装置の光学系を示した.粒子は溶媒に分散している液体の状態でフローセルに存在しており,そこにレーザー光を照射すると,粒子が波長の10倍くらいまでは回折パターンを生じる,それ以上小さくなると光は散乱されて,後方にも戻るようになり,全方向で検出される.光の散乱理論により散乱パターンは図7のように計算され,1.0μm(緑),0.5μm(青),0.3μm(赤),0.1μm(黒)と小さくなるに従って散乱が広がる.そこで全方向の散乱光を検出し,その角度依存性から光の散乱理論を用いて,粒子径が求められる.レーザー回折の光源は2種類で,波長655nmの赤色レーザーと.波長405nmの青色LEDを使っており,両方の情報を取って解析する.また,溶液にしないで固体粉末のままで測定できるよう,セルの中を粉末が降下する乾式測定ユニットのオプションセルもある.

 

  図6 レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置の光学系

 

図7 粒子径によって変わる光散乱

 

 しかし,湿式測定の方法は低濃度・希釈溶液で使うのが常識だった.高濃度のままの分析は,インクなどの成分の均一性を,薄めずに,あるがままで知るには欠かせない.そこで,試料を固定して測定する高濃度セルを開発した.この結果,2000倍希釈だと凝集粒子が希釈によって崩れてしまい,共に中央値(D50)が0.25μmと求められて区別できなかったものが,高濃度セルを用いて原液濃度で測ると,0.25μmと6.01μmに区別出来た[9].本体をベースに,オプションセルを開発して機能を広げて可能にした(図8).

 

図8 原液濃度・高濃度セルによる粒子径分布測定

 

 しかしレーザー回折による粒径分布測定はブラックボックスに近い.大きさはわかるが,丸か,細長いかはわからない.リアルタイムで画像を見たいという要求が多い.目でみて確かめられるように,と画像解析ユニットを開発し,Partica LA-960V2本体に内蔵させるようにした.測定原理は動的画像解析である.光源からの光を動いている粒子に当て,粒子流を透過した光をカメラで受ける.動的解析では,流れる粒子をカメラで捉えるので,多数の試料の観察ができる.LEDストロボ光源からの光を平行光にし,湿式循環システムに挿入したガラスセル中に流れる粒子流の像を,レンズを通してカメラに収める(図9左).収めた画像から,粒子サイズを測定し,粒子径のヒストグラムを描く.ヒストグラムはリアルタイムに更新され,粒子径中央値(D50)の測定時間による変化をトレンドグラフとして表示する.

 

 

 図9 画像解析ユニットの光学系(左)とハードウェア(右)

 

 ハードウェア(Imaging Unit LY-9610,図9右,写真中央の黄色く囲った部分)は,本体に内蔵し,湿式循環システム(図の右)に挟み込むので,本体の設置面積は変わらない.最終的な製品は本体内蔵のサイズであるが,最初の開発試作機は本体と同じくらいの大きさであった.ユーザーが多くいる東京の開発拠点で行った原理試作を製品化に長けた京都で改良して小型化して行った.光学系は,強力な循環力により粒子が高速で流れて行くセルにフラッシュで光を当てるが,通常のカメラのシャッターでは開閉に数十μsかかるので,撮影中に粒子が動くために10μmの粒子は1μmくらい像が延びてしまう.そこで,カメラのレンズシャッターは開けたままにし,高速で点滅するLEDの描く画像を.ピクセルサイズ0.73μmで,毎秒4枚取り込むようにした.この光学系は,小型化しても本体への組み込みが問題だった.どうにか通常のフローセルと併用できるようにして,交換の手間を省き,計測時間を長くしたくない.悩んでいたところ,営業担当者からの,3cmくらいしかない筐体内の隙間に納めるという無理とも思えるアイデアをもらい,実現に向けて努力した結果,着脱不要のユニットを開発することができた.

 開発の過程では,画像解析がどのように使われるか,何が求められているかを掴み,製品コンセプトを決めるのに苦労した.本体のPartica LA-960V2での測定は30〜60秒で行えて速い.品質管理に使うには速いことが必要になる.画像解析を入れると,得られた数千枚のデータをどのように扱うか問題になる.測定時間60秒以内で計測結果の再現性が求められる.レーザー回折で通常時と異なる結果が得られたら,その原因は,時間をかけずに目で確かめて,突き止めたい.画像解析ユニットには,簡単操作と迅速なフィードバック(結果の判断)が求められる.そこで,品質管理の現場利用に役立つよう,ソフトウェアは構造を簡単化して,クリックひとつで解析できるようにした.

 レーザー回折に画像解析を組み合わせることにより,様々な効果が得られる.例えば,画像解析では見たいものだけを簡単操作で見ることができ,不良を見つけるために凝集物だけ捉えて見ることも出来るようになった(図10).レーザー回折ではヒストグラムの裾野としてしか現れない粗大粒子も,画像であれば大きな粒子として画像で捉えられる.粒子画像に含まれるピクセルの数を数えて粒子サイズも求められる.形状解析を行える粒子径測定範囲は9〜1,000μmである.形状を見ているので,長さ,アスペクト比,円形度などが求められる.その他にも,レーザー回折であれば粒子径分布に時折現れる泡が原因のピークの判別も,泡は真円なので画像では容易に区別できる.また,粒子径分布のピークが2つに分かれることがあるが,画像をとると凝集体であることが分かったり,高アスペクト比の粒子の形状解析,アスペクト比測定もできるようになった.

 

図10 レーザー回折/散乱式粒子径分布測定の画像解析

 

3.2 蛍光分析で成分の分析を高度化

 レーザー回折は粒子の形を捉えた.その中身,成分を捉える手段に蛍光分析がある[10].nano tech 2020には蛍光スペクトル測定用で蛍光と吸光の同時測定ができる蛍光分光分析装置Duetta[11]が出展された(図11).

 

 図11 蛍光吸光分光装置Duetta

 

 物質内の電子が,一つのエネルギー状態(準位)からより高い状態に励起光で遷移し,そこからいくつかの状態を経ながら低いエネルギー状態に時定数を持って遷移し(緩和),遷移エネルギーを光として放出する.エネルギー準位や緩和時間は物質固有のものであるため,蛍光分析の応用範囲は非常に広く,発光材料や食品の成分分析などができる.

 蛍光分光分析装置は光源,グレーティング(回折格子)を含む分光器,検出器で構成される(図12).光源(150W Xeランプなど)からの光を分光して試料に照射し,試料の発する蛍光を分光・集光して光電子増倍管(PMT)やCCD検出器などで検出する.分光には明るくて分解能の良いグレーティングを用い,集光には凹面鏡を用いる.レンズだと色収差があるため,照射光の照射位置や集光点が波長によってずれてしまう.こういった部品に堀場製作所の光学技術が活かされている.

 

 

 図12 蛍光分光分析装置の構成

 

 蛍光分析には,蛍光スペクトル,蛍光寿命,絶対量子収率,蛍光イメージングの4種類がある.堀場製作所はそれぞれの分析に適した装置の系列を用意し,何を測るか顧客とのコミュニケーションをとって,顧客の目的に合ったものを提供している.1台で3種類の測定ができるもの,1種類の高性能測定ができるものなどがある.装置によって測定波長範囲,感度などが異なる.

 蛍光スペクトル分析では,励起光の波長を変え,それぞれに対して試料の発する蛍光の強度を求め,蛍光波長をx軸,励起光波長をy軸にとり,蛍光強度をz軸にとった3次元蛍光スペクトル(励起・蛍光マトリックス,EEM)が用いられる.紙の上ではz軸を色表示し,試料の蛍光特性の全貌,成分などの試料の属性を表すものとなる.このため蛍光強度は重要な測定パラメータである.ところが,環境水,下水など汚濁液や,蛍光体・量子ドット・食品のような有色試料の分析では,試料溶液の濃度が高いと,試料が励起光や蛍光を吸収してしまう.このため,別途吸光度を測定して補正していたが,測定に数分〜数十分かかってしまう.堀場製作所は蛍光分析装置にDuettaの先行機種Aqualog[12]から,蛍光と吸光の同時測定,吸光度による自動補正を取り入れ,補正した測定を数十秒で行えるようにした.

 図13に示すように励起光(I0)は試料を励起し,試料室後段の励起光に対して90度方向に検出器をおいて蛍光(F)を測定する.励起光強度は,サンプル室の前段に配置されたリファレンス検出器によって,モニターされる.しかし,蛍光発生点に到達するまでに励起光は試料溶液で吸収される.蛍光も発生点から検出器の間で試料溶液の吸収を受ける(IFE:内部遮蔽効果).そこでサンプル室の後段(励起光進行方向)にサンプルの透過光(I)を測定するために検出器を搭載した.これにより試料の紫外可視吸収スペクトルと3次元蛍光スペクトルの測定を同時に行うことができる.この測定には多量のデータを迅速に取得する必要があり,独自開発の高速CCD検出器を適用した.吸光度測定は蛍光測定と同期させる必要があり,光照射や検出の電気制御系などの設計に配慮したという.さらに,検出器で測られるデータは分光器や検出器感度の波長特性,光路特性等の影響を受ける.内部遮蔽効果やこれらの補正を行なって信頼性ある蛍光・吸光測定データが得られる.

 

図13 蛍光吸光の同時測定

 

 Duettaは,紫外から近赤外の波長1,100nmまでをカバーし,波長範囲の広いことが特徴のひとつである.従来は,可視領域近くの900nmまでの測定装置が多く,近赤外まで測れても装置は高価だった.検出器に高速CCDを用いることで波長範囲が広がった.測定例としてイッテルビウム(Yb)錯体試料の励起・蛍光マトリックス(EEM)測定における,蛍光スペクトル(左),等高線マップ(右,3次元蛍光スペクトル)を示した(図14).等高線マップは,縦軸に励起光波長,横軸に蛍光波長をとり,蛍光強度を色で表している.これまでの分析装置では,この測定に30分くらいかかっていたが,Duettaは数十秒でとることが出来る.

 

図14 イッテルビウム(Yb)錯体試料の励起・蛍光マトリックス測定

 

 励起・蛍光マトリックス(EEM)測定は,指紋分析のように,食品や環境水に含まれる複数蛍光成分の解析に用いられる[13].ワインの味は内容物によって異なる.カリフォルニアワインとチリワインは成分が異なり三次元マップに違いが表れるので,蛍光吸光分析で二つを短時間で識別することが出来る(図15).このマップはいくつかの成分が共存しそれぞれの成分からなる蛍光が重なったものである.この重なったデータを多変量解析することで成分毎のマップを描くことも出来る.それぞれの割合も数値化できる[14].

 

図15 蛍光吸光分析によるワインの識別

 

 Duettaは,紫外線の照射を避けたいサンプルにも有用である.吸光度と蛍光を分けて測定すると紫外線照射が2回になりその間にサンプルが変わってしまう可能性がある.また,反応の過渡状態を見ることも可能になった.生体分子における分子間相互作用,有機合成・無機合成では反応の過渡状態を見たい.しかし従来装置では1回の測定に最短でも数秒かかってしまい,過渡状態は見られなかった.これに対し,DuettaではCCD検出器を使い,約0.1秒毎にスペクトルを測定出来る.過渡反応のアプリケーションとしては,蛍光消光測定があり,ウシ血清アルブミン(BSA)にアニオン界面活性剤(ANS)を添加したときの1秒以内の反応過程を追跡できた(図16).

 

 図16 蛍光分析による反応過程追跡

 

4.おわりに

 20年続くnano tech展で,堀場製作所は常連の展示者である.派手な看板を出すことはないが,ナノテクノロジーの世界で求められる数々の計測器をユーザーに提示してきた.その中には今回のナノテク大賞で取り上げられたような独自の製品も常に含まれていた.これらの製品は,「おもしろおかしく」の社是のもと,ユーザーの声を聴き,その求めに応じ,M&Aも含めて高度化を続けるコア技術を活用して,難しいことに挑戦する社風から生み出された.粒子計測における画像解析は,レーザー回折の手軽さで粒子の姿をあるがままにみたいという要求に応えた.蛍光分析の高信頼化をもたらした蛍光吸光同時測定は,ワインなどの食品分析にも応用される.かつて,堀場製作所は,自動車排ガス分析装置を開発して,環境問題対応に貢献した.SDGs(持続可能な開発目標)達成に向け,様々な分野で計測器の活用が求められる.ニーズに応え,楽しく,困難を乗り越えて,独自の優れた機器を生み出し続けることを期待したい.

 

参考文献

[1] 「第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2020)開催報告」NanotechJapan Bulletin Vol.14, No.2, 2020年4月24日発行 https://www.nanonet.go.jp/magazine/Reports/nanotech2020.html
[2] 「nanotech大賞2020」 https://www.nanotechexpo.jp/2020/main/award2020.html
[3] 堀場製作所 沿革・歴史 https://www.horiba.com/jp/about-horiba/history/2000/
[4] 石田 耕三,「赤外線ガス分析計の開発」,Readout No.32 May 2006 pp.60-65 https://www.horiba.com/uploads/media/R032_11_060_01.pdf
[5] 「HORIBAについて」 https://www.horiba.com/jp/
「HORIBA Report 2019-2020」 https://www.horiba.com/uploads/media/20200521_HR_jp_08.pdf
[6] HORIBA 科学 https://www.horiba.com/jp/scientific/
[7] 山口 哲司,「レーザー回折/散乱式の粒子径分布測定装置の最新応用と装置の開発」,Readout, No.45 September 2015, pp.35-39 https://www.horiba.com/uploads/media/R45_08_035_01.pdf
(Readoutは堀場製作所が発行する技術情報誌)
[8] 立脇 康弘,「粒子径とその分布測定法 2-1.レーザー回折・散乱法」,化学装置61巻 10号
30-31ページ 発行年: 2019年10月1日
[9] 森 哲也, 櫻本 啓二郎, 田中 悟, 山口 哲司, 中庸行, 保田 芳輝,「粒子径分布計測による高濃度試料の凝集性評価」,粉体工学会・日本粉体工業技術協会技術討論会・テキスト2016,51巻 48-49ページ 発行年:2016年6月14日
[10] Ray Kaminsky, Stephen M. Cohen,「世界レベル最高感度を有する蛍光分光測定装置」,Readout, No.34 January 2009, pp. 78-810 https://www.horiba.com/uploads/media/R34_17_01.pdf
[11] 小口 真弘,ケリー ジョセフ デーヴィス,「蛍光吸光分光装置「Duetta」の紹介」,Readout, No.53, October 2019, pp. 117-121 https://www.horiba.com/uploads/media/R53J_24_117.pdf
[12] Adam M. GILMORE,濱上 郁子,「蛍光分光装置Aqualogと3次元蛍光法による水中の溶存有機物の評価」,Readout, No.41 September 2013, pp.19-26 https://www.horiba.com/jp/publications/readout/article/aqualog-3-28435/
[13] 森山 匠, 北川 雄一, 柏木 伸介, 赤路 佐希子, 川口 佳彦, 小島 礼慈, 中田 靖, 三宅 司郎,「励起・蛍光マトリクスを用いた食品や環境水に含まれる複数蛍光成分の解析」,分析化学討論会講演要旨集 77巻 118ページ 発行年:2017年5月13日
[14] 赤路 佐希子,「A-TEEM分子指紋を用いた赤ワインの分光学的解析」,Readout No.49 August 2018, pp.36-43 https://www.horiba.com/uploads/media/R49J_07_036-c.pdf

 

(図は全て株式会社堀場製作所から提供された)

 


 (古寺 博)


 

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です.